月曜日, 11月 10, 2025
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50年の味、Aセットが出迎える【クルマのある風景】2

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2代目店主の平田貴夫さんとスカイライン。20代から乗り続けるスカイラインは店の看板

和風レストラン キャニオン 平田貴夫さん つくば

「表筑波スカイラインをドライブして、下大島の古いレストランで食事をした後、うちにやってくるお客さんがいます。そういったミーティングとドライブコースがあるそうですよ」と、前回取材したノスタルヂ屋の松浦正弘店主が教えてくれた。

つくば市下大島の古いレストランといえば、「和風レストランキャニオン」に違いない。創業して50年を過ぎている。昔から国道沿いのにぎわう店舗として地元の常連客やクルマ好きがやってくる。創業者である平田和夫さんが、無類のクルマ好きだったこともあり、当時の言葉で言えばドライブインとして成功した店だ。

創業50年を超える老舗レストラン

平田さんは2018年に亡くなり、助手として厨房に入っていた息子の貴夫さん(51)が2代目となって切り盛りしている。メニューは50年の間に増えているが、ほとんど変わらない和風の洋食が出迎える。

「1970年の秋、翌年の冬に私が生まれる直前、開店させたんです。親父はもともと県職員で土地改良区の仕事をしていたんですが、突然それを辞して、土浦駅前で料理人の修業を始めたそうです。亡くなる直前まで現役のシェフでした」

先代から受け継いだメニューのうち、定番となっているのがAセット。ハンバーグ、エビフライ、カキフライの3種を4通りに組み合わせ、ひとつを選ぶ趣向は、同店の有名な料理だ。多くのクルマ好きがAセットを求めて、ときには広島県や北海道からの来店もある。

Aセットのすべて。タルタルソースも絶品

「親父はモータリゼーションを目の当たりにして、やりたいことを見出したんだと思います。かっこいいクルマ、家族連れのクルマ、陸送のドライバーに美味しい料理を提供して、自分も車談義をしたい。そういう背中を見てきたせいか、私も車が好きで…」

貴夫さんは会社勤めを経て42歳の時に実家へ戻り、厨房に立った。20代の頃手に入れた、R31、7代目の日産スカイラインが、店の前に看板のように置かれることとなった。スカイラインに乗ったのは、少年時代に見ていたテレビドラマの影響だという。「本当は6代目のR30が欲しかったんですが、今ではこのR31スカイライン一筋です。お客様が聞きつけて、同じ車種同士で訪ねてきてくれるようになり、そうなると親父はもう厨房を飛び出して話をしたくて仕方がなかったようです」

クルマ好きの来るお店という成り立ちをきっかけに、貴夫さんと仲間とで「筑波山ミーティング」を企画することとなった。これがどうやら、ノスタルヂ屋の松浦店主が話していたドライブコースの誕生らしい。

筑波山ミーティングをけん引する高槇さんと

キャニオンを訪ねた日、偶然にもミーティング立ち上げに関わった高槇健太郎さんも居合わせ、車談義が始まる。

「最初は3人で企画を立てて、6台の車が集まりました。朝日峠の駐車場を使わせていただくので、まずごみ拾い活動。そのあと互いのクルマの品評会をやって、筑波スカイラインを風返峠まで走り、八郷(石岡市)に降りて朝日トンネルをくぐって、昼過ぎにここで食事をするんです。今は30台ほどの規模になっています」

高槇さんはミーティングの様子を説明しながら、「いわゆる走り屋、暴走族と勘違いされたくない。だからクラブやチームのような型にははめず、車種も限定せず、ちょっと古い世代のクルマを好きな人たちが、来られたら来るというスタイルで年3回開いています」と付け加える。そのスタンスはとても大事なことだ。

貴夫さんは店を経営する立場上、今はミーティング現場に出かけられない。その代わりに空腹でやってくる仲間たちに温かい料理を作る。昨年はコロナ禍の影響で中止となったが、9年目の今年は、12月に開けるかどうか検討中だ。

「会えて良かった! これが当店のキャッチフレーズです。親父の口癖でした。立ち寄ってくださる人、常連になってくれた人、皆さん共通する何かがあるのだと思います。そのご厚意に支えられての51年目です」貴夫さんは目を細めながら、うれしそうに語る。来客からのオーダーが入る。やはりAセットだった。(鴨志田隆之)

和風レストラン キャニオン つくば市下大島422-1 午前11時開店 月曜定休

グローバリゼーションに新ルール 《雑記録》30

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【コラム・瀧田薫】ダニ・ロドリック氏が「グローバリゼーション・バラドクス(The Globalization Paradox)」(2011年)を出版してから、今年でちょうど10年になります。この間、「グローバリゼーション」に関する論文・著作が数多く発表・発行される中で、この本の存在感はまだ失われていません。

この書物が発行された当時、著者は世界経済の「政治的トリレンマ」(民主主義、国家主権、グローバリゼーション)を同時にバランスよく追求することは不可能で、旗色の悪くなった国家主権と民主主義を守るために、グローバリゼーションをある程度制限することもやむを得ないと主張しました。

この主張を経済学の観点から見れば、いわゆる新自由主義的論理が市場と政府は対立関係にあると考えるのに対して、金融、労働、社会保障など、国家がコントロールする諸制度が補完しない限り、あるいは政府による再分配やマクロ経済管理が機能しない限り、市場はうまく回らず、秩序あるいは社会的安定も確保できないとする考え方と言えるでしょう。

政治学においても、国家の統治能力の向上なしに持続的な経済発展は望めないとの見方が有力ですし、ロドリック氏の考えは正鵠(せいこく)を射たものと思われます。

主権国家が新たな規制枠を用意

ちなみに、10月13日、主要20カ国・地域(G20)が、先に経済開発協力機構(OECD)がまとめた新しい国際課税ルールについて支持を表明しました。

内容は、法人税の国際的な課税最低税率を15パーセントとするほか、巨大IT多国籍企業を対象にした「デジタル課税」を導入することです。なお、G20は2023年の新ルール導入に向け各国それぞれに努力するよう求めています。

この新ルールは歴史的と評されていますが、その理由は2つあります。1つは、1980年代から続いてきた法人税率引き下げ競争の方向性を逆転させようとしていること、もう1つはGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)に代表される巨大多国籍企業への課税強化の機運を高めたことです。

これらの企業は、これまで国際的な租税回避策により利益をためこんできました。今回のルールが導入されれば、主権国家の公的サービスが財源確保に向けて大きく前進します。つまり、主権国家の側がグローバル化に対する新たな規制枠を用意することで、大きくなりすぎた富の格差を是正する分配政策への道を開いたということです。

ただし、2023年に新ルールが導入できるかどうか、懸念材料もあります。たとえば、来年のアメリカ中間選挙で、バイデン与党が大敗するとの予想があります。そうなると、アメリカにおいて新ルールの導入はまず実現しません。トランプ前大統領の「アメリカ第一主義」の復活です。

現在、バイデン政権の支持率は低迷し、与党民主党のコントロールさえままならないとの報道もあります。結局、グローバル化とアメリカの国家主権、それにアメリカの民主主義、この3要素が織りなすトリレンマに、まだしばらく付き合うしかなさそうです。(茨城キリスト教大学名誉教授)

商品はカタログや自動車雑誌【クルマのある風景】1

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レコード店のように見えるがクルマとオートバイのカタログ専門店。外観(左)と店内

サーキットのモータースポーツでもオフロードのクロスカントリーでもなく、日常にある自動車と向き合う人々は数多く存在する。ニッチ(すきま市場)とも、趣味の世界ともいえる、つくば、土浦のクルマのある風景をたずねた。

ノスタルヂ屋 松浦正弘さん つくば

つくば市花畑に所在する「ノスタルヂ屋」は、一見すると昔ながらのレコード店のように見える店内だが、ここで取り扱われているのは音盤ではない。ジャンル別、メーカー別、車種別に分類された、1950年代くらいから現代に至る、内外各自動車メーカーが販売した自動車、オートバイのカタログや自動車雑誌が商品、まさしく趣味の世界だ。

そんな品物に商品価値があるのかと言えば、興味のない人には古本以下だが、かつて乗ったことのあるクルマ、昔からほしかったクルマを手に入れた、そのような人々には至高の宝物がカタログなのだ。

店主の松浦正弘さん(69)は、20代の頃に東京・中野区で「ブックガレージ」という名の店を起こし、40年を超えてこの商売を続けている。自動車雑誌がオールドカーの特集を組み、特定車種のヒストリー記事をまとめる際、自動車会社にさえ現存しないカタログなら編集者は松浦さんのもとを訪ねる。

店主の松浦さん

「つくば市に移転してきたのは1996年のことです。僕は静岡県の浜育ちだったので、年をとったら山が近くにあって、そこへドライブできるところに住みたいなと思って」

つくば市にはかつて日本自動車研究所の谷田部テストコースがあった。近隣には筑波サーキットがあり、筑波山にはツーリングのメッカとも言うべき筑波スカイラインがある。筑波研究学園都市の成熟も見据えると、松浦さんにとって東京に次いで居を構える理想の地だった。

松浦さんはインターネットもSNSも利用しない。カタログの問い合わせは電話対応のみだ。さもなければ直接来店するしかないという、売り手市場にも見える商売を続けている。「掘り出し物という言葉があるでしょう。それは、自ら見つけ出してこその価値なんですよ。お暇なときに何度か来店していただいて、目当てのカタログを見つけ出せたら、きっとうれしいはずです」

お客を突き放しているわけではない。かかってくる電話には時間をかけて丁寧に要望を聞き、在庫の有無を伝え、取り置きする。開店休業のように見えてもそこそこの来客がある。そうなると店舗を離れるわけにも行かず、ずっと執務デスクで店番をするしかない。

「最近、寂しいと感じるのは、大量のカタログを売りに来るお客さんの傾向が変わったこと。聞けば断捨離なんです。あれほど焦がれてコレクションしていたものと離別する思いを聞くと、僕もつらいですね」

それでも人から人へ、1冊のカタログが品質を保持された状態で渡り歩いていく。それが松浦さんの密かな楽しみでもある。

貴重なカタログ起こしのポストカード(左)と松浦さんの著書

ノスタルヂ屋には、もうひとつの貴重な商品がある。70年代以前のカタログから起こされたクルマやオートバイのポストカードだ。著作権や版権に縛られた現在では、このような企画を立てることは困難だ。商品と言いながら、一定額以上の買い物をしてくれたお客にはサービスで提供してしまう。「各メーカーともおおらかな時代があったんです。私のような個人経営者でも信頼を得られて、二つ返事で使用許諾がとれましたから」

いま、店内には何冊くらいのカタログ在庫があるのかを聞いてみた。松浦さんはにこにこしながら「さて、全車種合わせて1000冊ほどはあるんじゃないでしょうか。私にも分かりません」と話す。掘り出し物を見つけるコツは、毎月企画している、特定車種や年代に限定したフェアだそうだ。普段は倉庫入りしているとっておきのカタログが、そのときだけ並んでいる。(鴨志田隆之 4回シリーズ)

ノスタルヂ屋 つくば市花畑1-12-17 営業時間:正午~午後8時  定休日:毎週木曜

市民グループがつくば市長を追撃 《吾妻カガミ》121

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つくば市役所正面玄関サイド

【コラム・坂本栄】今年5月に市民グループから「センタービル再生事業」の進め方がおかしいと指摘された五十嵐つくば市長。今度は「1期目退職金22円」はおかしいとその政治スタンスが追及されています。センタービル問題(監査請求→住民訴訟)に続く退職金問題(監査請求)。五十嵐さんの周辺がまた騒々しくなってきました。

22円市長は624万円を賠償せよ!

市に対する新たな監査請求は、五十嵐さんが2016年の市長選挙で掲げた公約「市長特権の退職金廃止」をめぐるものです。実際は、退職金ゼロは制度上無理と分かり、議会で特例条例を通してもらい(2020年9月18日)、最少額の22円を受け取りました。市民グループ(代表=酒井泉さん)は「自分を犠牲にして市民のために尽くす市長」像を市民の間に広げることを狙った選挙戦術と批判。公職選挙法上も問題があると主張しています。

退職金問題の監査を求めて、市に出された文書(11月16日付)のポイントはいくつかあります。その内容を紹介する前に、議論になっている数字を押さえておきます。退職金受け取りに備えて市が自治体職員退職金プール組合に払い込んだ金額=624万円、規定による1期分の市長退職金=2040万円―です。

ポイント1は、市長は22円しか受け取らず、市が払い込んだ624万円はムダになったのだから、市は市長に624万円の損害賠償を求めよ―。その2は、退職金制度では2040万円もらえることになっていたのに、受け取らなかったのだから、市は退職金プール組合に払い込んだ624万円を返してもらえ―。その3は、そもそも22円条例が問題なのだから、市は同条例が違法であることを認めよ―。いずれも面白い視点です。

順番が逆になりましたが、ポイント3の違法性は、公職の候補者は寄付行為をしてはいけないとしている公選法199条3に照らして、22円退職金は市に対する寄付(金額は624万円マイナス22円)に当たるから違法だ、という主張です。監査結果はどうなるでしょう? センタービル問題の方は、コラム113「五十嵐つくば市長 今度は被告席に」(8月16日掲載)をご覧ください。

つくば市民は市長に軽く見られた?

この問題についてはコラム91「つくば市長の退職金辞退に違和感」(2020年10月5日掲載)でも取り上げ、「五十嵐さんは選挙での『受け』を意識して、2016年の市長選で市長退職金廃止を公約、20年の市長選を前に公約を実行に移したのでしょう。廃止公約が市長選ではプラスに働き、公約を守らないとマイナスに作用すると判断したようです」と指摘しました。言い方は違いますが、市民グループの先の受け止め方と同じです。

退職金辞退は一種のポピュリズム(大衆迎合的な政治スタンス)であり、つくば市民は五十嵐さんから軽く見られたのではないでしょうか?

ある市長からこんな話を聞きました。五十嵐さんが22円退職金について記者発表(2020年6月5日)する直前、SNSの県南市長情報交換欄にその旨通告があったが、他の市長からは「賛」はもちろん「否」のコメントも出ず、白けムードが漂ったというのです。皆さん、対抗馬にこんな公約を出されたら、施策を競うべき選挙が歪(ゆが)んでしまうと思ったようです。(経済ジャーナリスト)

つくばの市街地にイノシシ出没

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つくば市学園の森に11月下旬に設置された注意喚起と情報提供を呼び掛ける看板

つくば市の市街地にイノシシが出没している。11月初旬から12月初めに天久保4丁目、学園の森、天王台付近で相次いで目撃された。農村部ではイノシシによる農作物被害が大きな問題になっているが、街中でイノシシが目撃されるのは同市で初めてだ。市や警察は連日パトロールを実施している。現時点で被害の報告はない。

市鳥獣対策・森林保全室によると、11月4日、松塚と古来で目撃された。その後、7日に筑波大学近くの天久保4丁目の住宅地で目撃され、20日と21日には学園の森の商業施設周辺で目撃された。11月25日から12月4日には天王台で目撃された。

大きさなどは不明だ。これまで市内各所で目撃されたイノシシが同じ個体なのか、別の個体なのかなども分かっていない。

目撃場所付近では、市と警察などが巡回を続けているほか、学園の森付近では目撃場所近くにわなを設置している。3日までにまだ捕獲されていない。

「初期段階の対策重要」

農研機構畜産研究部門 動物行動管理研究領域の平田滋樹上級研究員。右の画像はイノシシの頭とあごの骨

つくばの街中にどうしてイノシシがいるのか。農研機構畜産研究部門 動物行動管理研究領域の平田滋樹上級研究員は「いつ、どこから来たのかは分からないが、イノシシは平地の休耕地や平地林、やぶなどが好適地。つくばは市街地でも豊かな自然が広がっているので、市街地でイノシシが目撃されても不思議ではない」と話す。平地林ややぶなどで、ススキやクズの根っこ、ドングリなどを食べているという。

目撃した場合の対応については「イノシシは警戒心が強い。石を投げたり、犬をけしかけたりなどは絶対せず、その場からそっと立ち去ってほしい」と話す。

一方「初期段階でどれだけ早く対策をとれるかで、その後の増え方が変わってくる」とし、住民ができることとして「目撃したら、日付けと時間、どっちに行ったかをメモし、行政に通報してほしい」とする。情報がたくさん集まれば集まるほど、居場所を絞り込むことができる。

さらに、えさを置いたり、飲食容器のごみを捨てると知らず知らずのうちに餌付けになってしまったり、人を恐れなくなってしまうので、餌付けやポイ捨てをしないことが重要だと強調する。

イノシシはどこに食べ物があったか覚えていて、目撃場所周辺に再びやって来ることがあるという。草が茂っていると茂みに隠れて、急にとび出してくる恐れがあるので、目撃場所付近では草を刈って茂みを減らすことなども対策の一つになるという。

市内では2018年1月、同市沼田のつくば霞ケ浦りんりんロードで住民2人が相次いでイノシシに襲われ、けがをする事故が発生している。

つくば市内の市街地でイノシシを目撃した場合の連絡先は以下の通り。
市役所鳥獣対策・森林保全室 電話 029-883-1111
つくば警察署  電話 029-851-0110

やっかいな「完璧主義」《続・気軽にSOS》98

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【コラム・浅井和幸】心理相談をしていて、頻繁に出てくる自己評価に「完璧主義」というものがあります。「自分が苦しいのは完璧主義だからです。それが悪いのは分かっているのですが、やめられないんです」という感じですね。

きっと元気なころは、完璧に仕上がるようにやり抜こうという強い意志で、様々な物事に対処してきたのでしょう。そして、それがうまく機能していた。しかし、そうそう完璧に物事をやり遂げられることが続くとは限りません。

そのうち、完璧じゃなくても物事を先に進めなければいけない場面に出くわすでしょう。それは、締め切りなのか、体力なのか、技術なのか、認識なのか―何かしら有限の壁にぶつかります。

何とかできる範囲で仕上げようと、適当なところで切り上げられればよいのですが、できないと心身ともに疲労が蓄積されていきます。その疲労のため、完璧にやり遂げようではなく、完璧にできないのであればやらないという考えや行動につながります。心身のストッパーが効いて、考えや行動ができなくなる状態です。

「なんとかなるさ」「適当に行こう」

それを、さらに無理して動いたり考えたり、完璧を目指すと、疲労は限界を超えます。過ぎた完璧主義は、オーバーワークになりやすいといえるでしょう。そうすると、心身にダメージを負い、適応障害やうつ病などの病を発症するかもしれません。

オーバーワークを一要因としてパニック障害となり、パニック発作を起こすかもしれません。パニック発作には、動悸(どうき)、手足の震え、発汗、息苦しさ、吐き気などが生じ、時には死んでしまうかもしれないという恐怖に襲われることもあります。

これらはある特定の場面で起こることがあり、人によって、飛行機に乗ること、車の運転をすること、テスト、舞台やプレゼンなどで緊張する場面で起こります。

それが繰り返されると、その場面を思い起こすことで発作が出ることもあります。明日仕事で飛行機に乗らなければいけないと考えるだけで、動悸が激しくなり、過呼吸を起こし、死んでしまうのではないかという恐怖に包まれるという状態です。

これらは自分1人で直そうと思えば思うほど、症状が悪化しやすいものです。適切な薬物療法と精神療法を受けるようにしてください。1000人に6~9人の人がパニック障害になるともいわれていますので、珍しい病気ではありません。

恥ずかしがらず、そして怖がり過ぎずに、病院や保健所、精神保健福祉センターなどに相談してみてください。茨城県には無料相談所があります。パニック障害は厚労省のページが分かりやすいと思います。

そして、次の呪文を唱えてみてください。「大丈夫、なんとかなるさ」「大したことない、適当に行こう」。(精神保健福祉士)

電子顕微鏡でミクロの世界体験 土浦一高で科学実験講座

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熱心に電子顕微鏡の走査画像に見入る生徒たち=土浦一高科学実験室

県立土浦一高(中澤斉校長 生徒数911人)の産学連携科学実験講座が3日、土浦市真鍋の同高科学実験室で行われた。電子顕微鏡の日本電子(本社・東京都昭島市)の理科支援チームが走査型電子顕微鏡(SEM)を持ち込んで指導。生徒たちは3時間にわたる講義と実習で「ミクロの世界」に没頭した。

日本電子CEOの栗原権右衛門会長が同高OBという縁で、実現した電子顕微鏡体験の機会。昨年予定されていたがコロナ禍で中止となり、2年越しの開催となった。定期テストの最終日午後に組まれた日程で希望者を募り、付属中学校の生徒13人と高校1年生19人、2年生1人が参加した。

栗原会長自ら来校し、「岸田内閣は科学技術立国をいうが、それを支えるのは、人材と電子顕微鏡などの観測装置だ。こうした機会を増やし、若い人たちの間で進んでいるという理科離れに待ったをかけたい」と後輩たちの授業を見守った。

後輩たちに科学の志を説く栗原日本電子会長(右)=同

電子顕微鏡の構造や見え方についての講義を受けた後、生徒たちは顕微鏡写真を見比べるグループ、教室に持ち込まれた卓上型のSEMを操作して実地に観察するグループなどに分かれて、ミクロの世界を体験した。短い波長の電磁波で物体を観察する電子顕微鏡は単色の画像となるが、拡大・縮小したり、焦点深度を変えるだけで多彩な驚異の世界が展開する。

同高では生徒たちがチームを組んで行う探究学習活動があり、「マイクロプラスチック」を研究テーマにした1年生のチームは事前に霞ケ浦で採集した試料を濾紙(ろし)でこしとり、乾燥させて同社に送っていた。試料は検体となって実験室に持ち込まれた。

検体は1000倍に拡大すると様々な物体がクローズアップされるが、プラスチックかどうかは容易に特定できない。SEMは対象を限定すると、瞬時に元素分析まで行ってしまう装置で、生徒たちは表示を見ながら「炭素が多い」「どうも鉄みたいだ」と走査を繰り返し、画像をプリントアウトした。

高校1年の澤出愛美さんは「これがあやしいってところまでしかいけなかったが、とても貴重な体験ができた。今回のデータをもとに専門家の意見を聞いたりして成果をまとめていきたい」と語った。探究学習活動は来年3月に成果発表が予定されている。(相澤冬樹)

つくば駅前にチャレンジショップ2店オープン

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弁当店を出店した宮崎絵美さん(左)と古着店を出店した岡本萌実さん

つくば駅前の商業施設キュート1階とBiViつくば2階に3日、古着店と弁当店がそれぞれオープンした。市内での新規出店や創業を目指す若者を後押しする市のチャレンジショップ事業で、来年2月末まで期間限定で出店する。

自分に合うおしゃれをコーディネート 古着店

古着店は、筑波大学理工学群社会工学類2年の岡本萌実さん(20)が代表を務める「リリー・オブ・ザ・バレイ(Lily of the valley)」で、約90平方メートルの店舗に、ジーンズやジャケット、シャツ、スカート、ワンピースなど1着3000円から6000円の普段着約300点が並ぶ。中高生や大学生など若い世代がターゲットで、アクセサリーやバッグなどもある。

岡本さんは秋田県出身。服が好きで、高校1年の時から、自分が着ている服を写真に撮り、コーディネートのポイントと共にインスタグラムでほぼ毎日紹介してきた。大学に入ってからはアパレル会社から依頼を受け、はやりの服を紹介したり、コーディネートの相談に乗ったり、服を貸し借りする市内の大学生同士のLINEグループを立ち上げるなどしてきた。友人から服のコーディネートを頼まれることも多いという。

ファッションへの愛が高じ、着られてない服を次の持ち主に届けて服を循環させ、さらにファッションの相談に乗りながら、昨日よりちょっぴりおしゃれになれる場所をつくりたいと、市の事業に応募し出店した。

古着店を運営するスタッフは筑波大生17人。古着などを購入する資金は、岡本さんが知人らを集めて事業提案し約100万円を集めた。スタッフが千葉県内などの古着卸業者に買い付けに行く。

店名のLily of the valleyは、すずらんを意味する。花言葉は幸福の再来で、着られなくなった服を次の持ち主に届け再び幸福にするという願いを込めた。

岡本さんは「その人に合う色やコーディネートを提案したい」とし「古着好きだけでなく、自分に合う色や自分に似合うおしゃれが分からない人も気軽に来て、相談してほしい」と話す。来年夏には筑波大近くに古着店を出店する計画もある。

野菜の味を発酵調味料で引き出す 弁当店

弁当店は、今年3月、埼玉県からつくば市に移住してきた発酵料理家の宮崎絵美さん(38)が経営する。店名は「森と海のおべんとう」で、市周辺の農家が栽培した無農薬野菜を、宮崎さんが、みそや麹(こうじ)、酒かすなど発酵調味料で料理した手作りの弁当と惣菜を販売する。

店舗はBiViつくば2階の約25平方メートル。3日の弁当のおかずは、白菜とカリフラワーの鶏ブロス煮込み、切干大根と豚の甘酒アラビアータ、ブロッコリーソースのフワとろ卵焼き、熟成ビーツと有機ニンジンのサラダなど。ごはんは合鴨農法で栽培した白米に黒米を混ぜた。

つくば市と守谷市内3カ所の農家から仕入れた野菜を、栄養素などが逃げないよう、水を使わず野菜に含まれている水分だけで無水調理し、野菜本来の味を引き出しながら発酵調味料で味付けする。

弁当は8種類のおかずが入った1200円(税込み)のものと6種類が入った850円(同)の2種類で、おかずと惣菜は、季節ごとに変わる。水、木、金曜の週3回、弁当は1日限定40食を販売する。

宮崎さんは千葉県出身。大学を卒業後、外資系の広告代理店に勤めた。深夜まで働きづめの日々を10年ほど続けたが、30歳手前で体と心のバランスを崩し、自分は何のために生きているのか、自分の時間の使い方を変えたらもっと人を幸せにできるのではないかと考えるようになった。母親ががんを患った時期とも重なり、大事なのは自分の健康と家族だと、32歳のとき会社を辞めた。

その後、千葉県いすみ市で、自給自足の生活を送りながら暮らすグループに参加し、1年間ほど住み込みで農業をしたり、発酵調味料作りを学んだり、カフェを手伝うなどした。食を一生の仕事にしようと決意し、続いて南アフリカに赴きオーガニックマーケットを学ぶなどした。

帰国後は、子育て中の母親の家などに出向きケータリングや出張料理をした。しかしコロナ禍で仕事のスタイルの変更を迫られ、今年3月、もともと野菜を仕入れるため通っていたつくば市に移住した。9月からは、閉店したレストランの厨房を借りて、市内で弁当の販売をスタート。今日収穫した野菜を、明日のお弁当で出せる農家との距離感が、つくばを選んだ理由という。

これまでの活動を通して「発酵調味料を使った料理方法を教えてほしいとか、みそ作りのワークショップを開いてほしいとか、子どもと一緒に畑に行って皆で料理がしたいとか、いろいろな声をいただいた。ママコミュニティーを盛り上げ、一緒に地域をつくり上げる活動をしていきたい」と話す。

13人が応募

チャレンジショップ事業は、市がセキショウキャリアプラスに委託して実施している事業で、今年度で3年目。出店者の家賃を補助するほか、経営の専門家がアドバイスしたり、顧客や販路開拓を支援する。今年は7、8月に出店者を公募し、13人の応募者の中から、長期出店者として岡本さんの古着店と宮崎さんの弁当店、短期出店者としてほかに3人が選ばれた。今年度の事業費は約1140万円。

小春日和は「小野の里山」散歩 《ポタリング日記》3

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小町の館(左)とそば焼酎「土浦小町」

【コラム・入沢弘子】畑の小道に自転車を止めて山の稜線(りょうせん)を眺めていると、パラグライダーの鮮やかなキャノピーが降りてきました。黄金色に輝くイチョウの大木。枯れ葉色の田畑でひときわ鮮やかな枝に残る柿の朱色。時間の流れがゆっくりと感じられます。土浦市小野地区は、小野小町伝説の残る地域。なだらかな山に囲まれた日本の原風景のような眺めです。

車は観光施設「小町の館」に止め、トランクから愛車「BROMPTOM(ブロンプトン)」を取り出します。館でいただいた周辺案内マップを片手に出発です。まずは先ほど見えた大イチョウを目指しましょう。

大きな水車の横の道をハイキング姿の方々に混ざって進みます。木の下にはたくさんの石碑がありました。文字や仏像が彫られたものが並んでいます。高い石に記されたのは十九夜塔の文字。道に戻り、腰掛石・朝日峠展望公園の看板に沿って進みます。木道で沢を渡ると石が現れました。小野小町が山越えの途中でひと休みしたと言われる腰掛石。三段の階段状の平坦な石は座り心地がよさそうです。

一気に坂を下り集落沿いの道を進むと、また石碑が目につきました。二十三夜塔と記されています。道の奥に見える拝殿に近づくと、日枝(ひえ)神社でした。どうやら裏口から入ってしまったようです。以前に流鏑馬(やぶさめ)を見に来たことを思い出しました。日枝神社の流鏑馬は長い参道で行われます。満開の桜の下、鮮やかな衣装で白馬に跨る射手。走りながらではなく、立ち止まって射る姿も印象的でした。

そば焼酎「土浦小町」を購入

次は坂東三十三観音第26番札所の清瀧寺(きよたきじ)を目指します。県道199号を筑波山方面に渡り、分かれ道を清滝寺の看板方向へ行くと大きな石碑が現れました。大きくカーブする道の右側に石碑群。文字を刻んだものに加え、仏像も見られます。風化して丸みを帯びて優しい表情。薄暗い坂を上っていくと、重厚感のある山門が見えてきました。

自転車を止め石段を上ります。静寂の中で本堂に参拝。大師堂の弘法大師石像は浸食もなく、はっきりとしたお顔立ちです。戻る途中に見つけた、翠巌山向上庵(すいがんさんこうじょうあん)の石碑方向に細い坂道を行くと古い石段が出現。檀家以外の入山は遠慮くださいとの貼り紙があり、引き返します。

小町の館に戻り、そば焼酎「土浦小町」を購入。今年初めて土浦市産の常陸秋そばで醸造され、新そばの時期に発売になったばかりだそうです。石仏が気になったので調べてみたら、「土浦の石仏-新治地区編-」の図録が市立博物館と考古資料館で販売されていることが分かり、帰りがけに入手しました。

2014年発行の図録によると、小野を含む新治地区には682基の石仏が確認されたそうです。石仏の所在がわかる地区別の地図や形状の説明や写真も掲載されています。来年は、新治の里の石仏を訪ねるポタリングもいいかもしれません。

焼酎のお湯割りのグラスからは、ふくよかな香りが立ちのぼっています。仏像の穏やかなお顔が思い出され、ふわっと、温かい気持ちになってきました。(広報コンサルタント)

牛のげっぷから世界を救う 胃内細菌に新種を発見 農研機構

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農研機構畜産研究部門で飼育される乳用牛(研究で使われた牛とは異なります)

丑(うし)年もいよいよ師走。牛のげっぷには温室効果ガスであるメタンが大量に含まれることが知られるが、メタンの生成を抑える効果の期待される新種の細菌が、農研機構畜産研究部門(つくば市池の台、高橋清也所長)の乳牛の胃の中から発見された。乳牛精密管理研究領域、真貝拓三主任研究員らが取り組んだ研究成果だ。

牛などの反すう動物のげっぷには、消化管内での発酵により生じるメタンが含まれている。牛1頭からは1日あたり200~600リットルのメタンが放出されるという。メタンは、1個の炭素原子に4個の水素原子が結合する炭化水素で、地球温暖化の原因のひとつと考えられている。世界中の反すう家畜のげっぷに由来するメタンは、二酸化炭素換算で年間約20億トンと推定され、全世界で発生している温室効果ガスの約4%を占める。

牛には胃が4つあり、そのうちの第一胃と第二胃には内容液1リットルあたり10兆個以上の微生物(細菌など)が生息する。特に第一胃内には古細菌が高密度に生息し、発酵をさかんに行いメタンを生成する。発酵で生じる水素がメタンになり、げっぷとして排出されるのだが、細菌は本来えさを分解し、消化により牛に栄養を与える役割を担う。酢酸など短鎖脂肪酸をつくり、胃壁などから吸収される。

牛の第一胃内発酵の概略図 発酵で生じる水素はメタン産生やプロピオン酸産生等によって消費される=農研機構提供

プロピオン酸前駆物質を多く生成

研究では、第一胃内の代謝産物、プロピオン酸に注目した。第一胃内で生成される短鎖脂肪酸のうち、プロピオン酸の割合は15~20%程度にとどまるが、多くつくられると、メタンの生成が抑制されることが知られていた。

第一胃内の細菌は約2400種あるという。特殊な栄養環境であるため、培養可能なものは2割程度で、機能の分かっていない細菌が未だ多いのが現状というなか、農研機構が保有する牛から、胃液中のプロピオン酸濃度の高い乳用牛を選び、第一胃内微生物の核酸配列を元に、微生物群集構造を網羅的に解析した。

胃液中のプロピオン酸濃度の高い牛に特徴的な細菌を見出し、これをターゲットに分離すると、プレボテラ属細菌の一種と見られる新規の嫌気性細菌が見つかった。この細菌はグルコース(ブドウ糖)などを代謝し、コハク酸、乳酸、リンゴ酸を生成する。コハク酸などは、他の第一胃内微生物によって主にプロピオン酸に変換される。「プロピオン酸前駆物質」と呼ばれるものだ。

プレボテラ属細菌はヒトの口や腸内にも多く存在する嫌気性細菌だが、見つかった細菌は、既知のプレボテラ属とは保有する遺伝子や生理特性が異なる新種だった。既知の細菌よりもプロピオン酸前駆物質を多く生成する特徴があったという。

今後、新種菌による飼料分解や発酵機能、第一胃内での増殖促進条件を明らかにすることで、乳用牛をはじめとした反すう家畜からのメタン削減に活用が期待される。真貝主任研究員によれば、「反すう動物にとってメタンを大気中に放出することは、飼料として摂取したエネルギーの2~15%を失うことになる。そのため、家畜からのメタン産生量の削減は、地球温暖化の緩和ばかりでなく、家畜の生産性向上の面からも期待される」としている。(相澤冬樹)

外国語を学ぶコツ⑥ 《ことばのおはなし》40

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コラム・山口絹記】「ところで、前回予告した通り、今回は発話における言語的な正しさ、なんてものについて話すていくンですが。まずはぢめに、あんた、この記事読んでンじゃん、今。それ、日本語を使用すること、可能ってことっしょ。ま、ネイティブなンだから全然すごいもなーんともないですネ」

コラム記事としては不適切な文章を書いてみたのだが、いかがだろう。国語学や日本語学の知識を動員するまでもない。おかしな日本語だ。文法的におかしい、語彙(ごい)の使い方が誤っている。TPOを考慮すればありえない言葉遣いだ。しかし、大まかな意味と意図は伝わってしまっているのではないだろうか。

さて、前置きが長くなったが本題に入る。

私を含めた多くの言語学習者にとって、正しい文法、正しい発音、というあいまいな概念は、発話する勇気をそぐ大きな要因になっている。しかし、上にも書いた通り、かなりおかしな言葉遣いでも相手に大まかな意味と意図を伝えるのには十分であることが多い。

今回の連載における目標はあくまで英語の上達だ。だからあえて言い切ろう。言語における「正しさ」という基準がもしも存在するとしたら、それは唯一「意図が伝わるかどうか」だけだ。

念のため断っておくが、「意味」が伝われば何でもよい、ということではない。先に書いた「意図」には、表面上の「意味」だけでなく、仲良くなりたい、理解しあいたい、などの意思も含まれるととらえていただきたい。

相手に敬意を示すためには、どうすれば失礼な物言いができるかを知っておいた方がよいし、好意を示したければ、敵意を示す方法を知っておいた方が身のためだ。さらに難解なことに、人間というのは、お互いの理解や親睦を深めるために、あえてナンセンスで誤った情報や常識を、誤ったものとして共有することを求める性質を持つ。いわゆる、冗談、ジョークというものだ。

意図を伝えるために最善を尽くす

こういったことを一番効率よく学ぶ方法こそが、今までの連載でも述べてきた、英単語の多義性や歴史、文化などを学ぶことなのだが、どちらかと言えば、机上でいくら学習しても十分でないと知ることの方がよほど大切だ。

正しいと言われる表現さえしていれば問題が起こらないなら、誰だって苦労はしない。売り言葉に買い言葉をしたことのない者はいないだろう。そのいさかいの原因は、果たして文法上の問題だっただろうか。違うだろう。母語ですらしょせんその程度なのだから、外国語を特別扱いする必要などないことは自明である。

何より大切なのは、「意図を伝えるために、どこまでも最善を尽くす」ということに他ならない。一言で伝わらなければ、時間をかけて、場合によっては一生すら賭して、辛抱強くことばを重ねる。これは母語でも同じである。いかがだろう。私の意図は伝わっているだろうか。

四の五の言わずに話し始めよう。ということだ。(言語研究者)

売却の目安は68億5000万円 つくば市旧総合運動公園用地

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旧総合運動公園用地=つくば市大穂

一括民間売却方針案が示されたつくば市の旧総合運動公園用地(同市大穂)約46ヘクタールについて、五十嵐立青市長は1日の定例記者会見で、売却する場合の価格の目安について約68億5000万円になるとする考えを示した。取得価格約66億円(簿価)に利息約2億5000万円などを合計した金額という。

価格の根拠について市公有地利活用推進課は、公有地拡大推進法の逐条解説と、市土地開発公社の内部規定である業務方法書で、処分価格は原則として、土地の購入価格と借入金の利息、管理経費とされているためだとした。

一方、2019年に市が一括民間売却方針を打ち出した際は40億円以上だったことについて同課は、40億円は当時、提案事業者が示した用地取得予定価格であり、市がそれで(40億円)売ろうとしたということではないとしている。

一方、今回、なぜ一括民間売却とするのかについて五十嵐市長は、今年4、5月のサウンディング型市場調査(民間企業などの意向調査)で具体的な施設が示され事業者から一括購入の意向があったこと、今年2月に市が示した約13ヘクタールに防災拠点を整備する案は約28億円かかることから過大な公共投資を抑えるため、さらに今年6月、市議会高エネ研南側未利用地調査等別委員会(浜中勝美委員長)から提言書が出されたことを挙げ、特に市議会から提言書が出されたことが大きいとした。

2019年に一括売却方針を出した際、五十嵐市長は、利子負担を減らすためと説明し(19年10月10日付)、今年2月に防災拠点の整備を表明した際は、議会から公的利用を求める声が多かった、市財政に大きな負担とならない、市役所内から防災備蓄倉庫などの提案があった(21年2月20日付)とそれぞれ説明し、民間売却の理由や目的が変化していることに対しては「場当たり的ではない」と否定した。(鈴木宏子)

吾妻鑑に見る常陸守護、八田知家 《ひょうたんの眼》43

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庭のモミジ

【コラム・高橋恵一】都道府県魅力度最下位・茨城県の地元ひいきの立場からすると、鎌倉時代から戦国末期まで、筑波地方を支配した小田氏の祖、八田知家(はった・ともいえ)の知名度を上げる必要があると思う。

知家の茨城での評価は、出自不明で旧来の支配者、大掾多気(だいじょうたけ)氏をだまして領地を奪ったなどとする評価がつきまとっている。知家の親は、宇都宮座主(ざす)の八田宗綱(むねつな)で、領域南端の五行川と小貝川が合流する手前(旧下館市)の「八田」に居館(きょかん)を置き本拠の地としていた。

源義朝(みなもとのよしとも)が下野守(しもつけのかみ)であったこともあり、八田宗綱や小山政光(おやま・まさみつ)と源義朝とのつながりは深く、小山政光の妻(寒河尼=さむかわのあま=八田知家の姉)は、頼朝の乳母になっており、知家は、保元の乱で源義朝に従って少年武者として戦闘に参加している。頼朝(よりとも)の挙兵に、小山一族や宇都宮一族がいち早く駆け付け、頼朝から信頼される御家人となった。宇都宮・八田氏一族と小山氏一族は連携して、鎌倉幕府を支える強力な勢力を保った。

頼朝は、富士川の戦いに勝利すると、まず、関東を抑えることを優先した。当時、常陸国は平氏の知行国であり、大掾多気氏を本宗(ほんそう)とする常陸平氏一族と那珂川以北を治める佐竹氏は、平家の家人として頼朝追討の指示を受けており、反頼朝あるいは日和見の立場にあった。

頼朝は、常陸国の国府まで出向いて、佐竹氏を降伏させ、鎌倉への帰途に「八田館」に立ち寄った。吾妻鑑(あずまかがみ)には、「小栗重成(おぐり・しげなり)の小栗御厨(おぐりのみくりや)の八田の館」とあるが、御厨の荘官が小栗氏であり、御厨エリアの中にある八田氏の舘を指していると読むのではないか。小栗氏は小栗に館を持っており、極めて近い八田に別の舘を持たないであろう。源頼朝が立ち寄ったのは信頼度の高い八田氏の居館とするのが自然だろう。

奥州攻めの東海道大将軍に

佐竹攻めの3カ月後に志田義広(しだ・よしひろ)の乱がおこり、小山一族が主体となり、八田知家も戦功を挙げた。志田義広の旧領の内、知家は、信太荘(しだのしょう)、南野荘を与えられ、国府を挟んだ南郡の地は、下河辺氏(小山朝政=おやま・ともまさ=の弟)に与えられた。

南野荘西端に小田があり、知家は、ここに居館を構えた。常陸平氏は、奥州藤原氏とのつながりも深かったので、下河辺(益戸=ますど)氏が国府を望む志築に居館を構えたことと併せ、頼朝政権が常陸国府、鹿島社と下野国府、小山一族の拠点、旧常陸平氏の本拠地をつなぐ交通路の拠点を抑えたということであろう。

知家は、奥州攻めの東海道大将軍となり、大掾多気氏を含む常陸の武士を率いて参戦した。また、知家は常陸の国の守護職にもなっているが、大掾多気氏との関係は、緊張が続いていた。有名な曽我兄弟の仇討の時、頼朝警護の動員がかかり、多気義幹(たけ・よしもと)は、うその動員と思い込んで参陣せず、謀反を疑われて没落した。知家の陰謀とされるが、事態の日数からすると、多気義幹の失態と考えられる。

鎌倉幕府が確立する過程で、知家の京の作法に通じた見識は、頼朝に頼られる存在であり、軍事面だけでなく、大江広元(おおえのひろもと)や三善康信(みよしのやすのぶ)などと共に幕政の中枢に存在した。知家の後も嫡子知重(ともしげ)、養子中條家長(ちゅうじょう・いえなが)、小山政光の子、結城朝光(ゆうき・ともみつ)などが幕政に参画し、主要な御家人が、北条氏などとの確執で滅ぼされた中で、政権の中枢にあり続けたのだ。(地図好きの土浦人)

絶滅危機と観測継続に立ち向かう 国立環境研 寄付金専用サイト立ち上げ

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生物季節モニタリングの寄付金募集ページ=国立環境研提供

国立環境研究所(つくば市小野川)は30日、寄付金受け入れのための専用サイトをリニューアル公開、特に「絶滅の危機にひんする野生生物の遺伝資源保全」と「全国の調査員を募集して行う生物季節モニタリング」の2つのプロジェクトに注力する。研究力強化、社会貢献、環境人材の育成などを目的に、8月に寄付金制度を改正、研究テーマなどから使途をあらかじめ特定し、一般に支援を呼び掛ける募集特定寄付金が設けられたことから、先行する2プロジェクトで活用を図った。

このうち生物季節モニタリングは、日本全国に市民調査員を募集し、気象庁が行ってきた生物季節観測を継承しつつ、現代的な形で発展させるネットワーク構築を目指している。モニタリング調査員の募集は、8月から始まっており、すでに392人が応募している。寄付金は、調査道具や旅費の支給など多くの調査員に参加してもらえるような体制つくりや自動観測技術の開発に役立てる考えでいる。

生物季節観測は、季節の遅れ進み、気候の違い・変化を的確に捉えることを目的に、観測方法を統一して気象庁が1953年に開始し、全国の気象台・測候所58地点で57種の動植物を対象に開花や初鳴きなどを観測してきた。しかし、近年は気象台・測候所周辺の生物の生態環境の変化から、標本木の確保や対象種を見つけることが困難となるなどして、2021年以降、植物6種目9現象だけを残してその他の観測が廃止された。継続しての調査は各方面から望まれたことから、国立環境研究所は気象庁、環境省と連携して、新たな「生物季節モニタリング」を立ち上げた。

環境研気候変動適応センターの辻本翔平特別研究員は「一度は無くなってしまった全国規模での観測体制をぜひ再構築して次の世代につなげたい。気候変動から継続が難しくなったものだが、気候変動だからこそ観測し続ける意義がある」と研究所の動画チャンネルに出演して寄付を呼び掛けている。

「野生生物の遺伝資源保存」寄付金募集のページ=同

もう1つの「野生生物の遺伝資源保存」は絶滅危惧種の細胞(体細胞や生殖細胞)を生きている状態で凍結保存するプロジェクト。これによって絶滅危惧種の生理機能や遺伝情報を安定的な状態で将来に残すことを目指している。

これまでに約120種約4000個体の試料を凍結保存したが、カバーしたい種の3分の1程度の水準に留まっている。凍結保存は液体窒素で冷却したタンク中で行われるが、寄付金はこの液体窒素の補充などに用いたい考えで1000万円以上を目標にしている。(相澤冬樹)

寄付はオンラインで申し込め、オンライン決済、銀行振込のいずれかで行える。寄付者には返礼の特典が用意されている。詳細は寄付金専用サイトまで。

長大など4社グループに決定 つくば・洞峰公園の整備運営事業者

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秋の洞峰公園=つくば市二の宮

パークPFI制度(公募設置管理制度)を活用して洞峰公園(つくば市二の宮、約20ヘクタール)を整備・運営する事業者を公募していた茨城県(8月15日付)は、2022年度からの整備運営事業者を、大手総合建設コンサルタント会社、長大(東京都中央区)を代表法人とする「洞峰わくわく創造グループ」に決定した。

構成法人は▽イベント企画運営会社「TSP太陽」(東京都目黒区)▽会員制総合スポーツクラブ運営会社「東京アスレティッククラブ」(東京都中野区)▽現在、指定管理者として洞峰公園を管理・運営している「筑波都市整備」(つくば市)の計4社。

選定委員会(委員長・町田誠公園財団常務理事)が10月25日、最終決定した。募集のコンセプトである「研究学園都市にふさわしい総合公園として、自然樹林や洞峰沼を生かしつつ、スポーツや様々なレクリエーション活動が楽しめる拠点」にふさわしい提案だと評価された。応募は、わくわく創造グループのみだった。

事業期間は来年4月1日から最長20年間。10年間で更新する。

ドッグラン、BBQ、グランピングも

創造グループの事業コンセプトは「新たな洞峰公園ライフの創出~すべての講演利用者がわくわくできる公園づくり」。これまでの豊かな自然や美しい景観など既存ユーザーに愛され続ける公園づくりに加え、にぎわい創出による新たな利用者層を誘致できる公園づくりに取り組む。

「洞峰わくわく創造グループ」の提案内容イメージ図

愛され続ける公園づくりでは、研究学園都市のシンボル的な公園として「水と緑の広場」「多目的フィールド」「プロムナード」「洞峰沼」など、聖域エリアの維持管理を継続する。

新たな利用者層の誘致では、つくば市周辺では若い子育て世代が増加していることから、ファミリー層など幅広い利用者層が増える公園に変化させる。コロナ禍で見直されている散歩やジョギングのほか、SNS映えするスポットづくり、アウトドアブームに対応した公園づくりなど、新しい過ごし方を積極的に取り入れるとしている。

具体的には、ドッグラン、カフェ、グランピング、BBQガーデン、トレーニングジム、インクルーシブ遊具などを新たに設置する。さらにテニスコートを増設し、スポーツ・カルチャー教室を拡充、レストランをリニューアルし、駐車場を拡張する。

また地元に根差した運営を目指し、隣接する飲食店とも連携するほか、運営スタッフの地元採用、各種備品や消耗品の調達や食材は地元購入を基本とするとしている。

今後のスケジュールは11月下旬に「基本協定」を締結し、来年4月1日から整備運営を開始する。4月以降に新規施設の建設に入る。(山崎実)

黄色いイチョウ、翡翠色のぎんなん 《土着通信部》47

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11月の終わり、銀杏シーズンも終わり。つくば銀杏生産組合石岡圃場で櫻井和伯さん

【コラム・相澤冬樹】銀杏を「いちょう」と読めば街路樹、「ぎんなん」と読めば農作物になる。前者はほぼ雄(オス)の木が並木を作り、後者は雌(メス)の木が畑に植わっている。雌雄異種といい、公園や社寺の古木は雌雄入り乱れる(?)形だ。イチョウ栽培歴30年、農事組合法人、つくば銀杏生産組合(石岡市半田)代表の櫻井和伯さん(66)にウンチクを含め語ってもらった。

組合名にある銀杏は「ぎんなん」。櫻井さんが土浦、石岡の圃(ほ)場で栽培しているのは久寿、喜平などの接種済銀杏樹木(接ぎ木で繁殖した雌木)で、販売もしている。これまでに県内外に1万本近くを植えてきた。かたや自宅わきの加工場で生産しているのは「実」の方、食用の部分は種子の中にあり、厳密に言えば「胚乳」という。9月半ばになると櫻井さんの植えた銀杏畑から、栽培農家が果肉を削いだ銀杏の種子を持ち込んでくるので、蒸して殻を割り「実」を取り出した上で選果する。

加工後の色合いが特徴的。「翡翠銀杏(ひすいぎんなん)」と呼んで商標登録している。最上級ランクの「特選翡翠」は鮮やかなグリーンをしている。黄味が加わるほどに「翡翠(ライトグリーン)」「シャトルルーズイエロー」と並ぶラインアップ。分かりやすいたとえでいうと「枝豆から大豆への色合いの変化に似ている」、味は未熟感に好みが分かれるが「まろやかさ」が身上という。

蒸して冷凍保存で緑色を保つ翡翠銀杏

鮮やかなグリーンや未熟感にはわけがある。ぎんなんは実が青いうちに、落果を待たずに収穫してしまうのだ。機械で一気に実を落とす。今年の場合で9月18日ごろから摘み取りが始まり、特選翡翠は最初の10日間が勝負、次の10日間だとライトグリーンになってしまう。手早く収穫し、蒸す加工で黄化にストップをかけ、冷凍保管して出荷を待つ形だ。

市場出荷はしておらず、スーパーや小売店では購入できない。櫻井さんによれば「固有名称は勘弁してほしいが、高級ホテル、レストランを中心に取り引きしている」そうだ。翡翠銀杏は素揚げや天ぷら料理などで提供されているという。高級食材だ。

時代が昭和から平成に切り替わる1990年頃、櫻井さんは公園の植栽や街路樹用にイチョウの苗木を栽培して販売する事業から始め、農事組合法人は2002年ごろに立ち上げた。雄木から雌木への転換で、2008年いち早くぎんなん生産のJGAP認証を取り付け、総合衛生管理のHACCP(ハサップ)実施施設認定や県の6次産業化(総合化事業計画)認定も取得してきた。

ぎんなんは近年、栽培面積、生産量とも頭打ち(全国の栽培面積662ヘクタール、収穫量835トン、出荷量632トン=2018年特産果樹生産動態等調査)。中国産の輸入量が増えて価格も低迷している。そのなかで生産組合は独自路線を貫く。今季、県内30数件の栽培農家から実が持ち込まれ、約15トンが生産できたそう。「ぎんなんは年ごとの収量の差があまりなく、豊作の年は実が小さく、不作の年は実の大きさがカバーする。今年は前者だった」

櫻井さんは最近、栃木県内にも銀杏の木を植えている。イチョウに黄葉前線があるようにぎんなんも結実時期が北上するから、茨城県産の後に収穫時期を迎える栃木県産が入ってくる形をとれば、翡翠銀杏の生産期間が延びる。「次は新潟県だな」、さらなる生産拡大を狙っている。

農業用ロボットに大賞 県イノベーションアワード 第2回もつくば発

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リンゴなど果樹の収穫に活躍する「メカロン」=岩手県二戸市(Doog提供)

茨城県内の企業などによる先端技術を活かした新製品・新サービスから、特に優れたものを表彰する「第2回いばらきイノベーションアワード」で、県は29日、大賞(賞金 100 万円)にDoog(ドーグ、つくば市吾妻、大島章社長)社の農業用クローラーロボット「メカロン」を選んだと発表した。優秀賞3件もつくば市所在の企業・個人が独占した。

概ね3年以内に発売された先端技術を活用した新製品・新サービスのうち、特に優れたものを表彰する。一層の製品化や地域経済を支える新産業の成長を促すのを目的にしている。県内に本社・工場・研究所などの主な事業所を有する企業と個人の応募から審査して選んでおり、今回は20件の応募があった。

高齢化や人手不足の課題に貢献

大賞に選ばれたのは、Doog社の農業用クローラーロボット「メカロン」。農業現場をターゲットにした運搬ロボットで、自動追従機能やメモリートレース(走行させたいルートを一度走らせるだけでロボットが経路を記憶して自動走行できる機能)を搭載している。他社の自動追従機能は追従対象に電波式のビーコンや位置特定のためのマーカーを設置するが、「メカロン」はビーコンやマーカーを必要とせずに任意の物体を追従できる。自動走行の走行経路の構築は、作業者が歩くだけで構築可能という。

不整地や傾斜地での走行も可能で、噴霧器を載せての消毒作業や草刈り機のバッテリーを運ぶなど、収穫時期だけでなく年間を通して活用できる汎用性・市場性も持っている。

審査では特に、農業従事者の高齢化や人手不足の課題に貢献できる製品であり、革新的な技術であるにも関わらず直感的に使うことができる点が高く評価された。

同社では10月から、マーケティング機の発売を開始。複数のスマート農業プロジェクトや自治体からの引き合いがあり、県内のナシ農家からも関心を寄せられているそうだ。この先、全国の農家への販売体制を準備中という。受賞について「茨城県の取り組みの中で、農業ロボットの開発・実用化を模索してきた。農業県である茨城県において賞をいただけたことを大変うれしく思っている」とコメントしている。

優秀賞には、▽物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点(つくば市並木)電子機能高分子グループリーダー、樋口昌芳さんのメタロ超分子ポリマー「Poly(Fe-btpyb)Purple」(金属イオンと有機モジュールの錯形成により合成されたエレクトロクロミック特性をもつポリマー材料。調光ガラスの材料となる)▽エアメンブレン(つくば市千現、古賀義紀社長)の「2層グラフェン TEM グリッド」(クライオ電子顕微鏡向けに独自開発合成により生産した革新的試料支持膜。高強度、高清浄度、高電気伝導性、高熱伝導性を有している)▽PLIMES(つくば市天王台、鈴木健嗣CEO)のウェアラブル嚥下(えんげ)計/摂食嚥下モニタリング解析サービス「GOKURI」(ウェアラブルデバイスにより、嚥下に関わる医療・福祉をデジタル化し、患者のマネジメントを包括的に支援するサービス)-の3件が選ばれた。

同賞は第1回の昨年、医療相談アプリのLEBER(リーバー、つくば市、伊藤俊一郎社長)社が大賞を受賞した。県科学技術振興課は「つくば市が独占した格好になったが、あくまで結果。県内各地に優れた技術が育っている」としている。表彰式は後日行われる。(相澤冬樹)

つくば市、1億円を損害賠償請求へ 事業ごみ不正積み替え問題

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つくば市のごみ焼施設「サステナスクエア」=つくば市水守

つくば市谷田部の廃棄物運搬業者、江原工業所が、事業系ごみの一部を家庭ごみに不正に積み替えて、市のごみ焼却施設に搬出していた問題で(2020年9月1日付18日付)、つくば市は、同社などを相手取って、本来得られたはずの事業系ごみの処理手数料など約1億円を損害賠償請求する方針だ。30日開会の12月議会に提案し、裁判所に訴えを起こす。

16年4月から20年1月まで3年10カ月間に本来得られたはずの損害金約1億85万円と、弁護士費用約1008万円、遅延賠償金などの支払いを求める。不正の期間や積み替えた量、算定方法などの根拠について市環境衛生課は、これから裁判になることなので「差し控えたい」としている。

市によると、訴えに先立って、9月22日に損害金の支払いを求める通知を出したが、支払い期限の10月22日までに支払いに応じなかった。

不正積み替え問題は2020年3月、元従業員が市に内部告発し発覚した。同年8月には「NHKから国民を守る党」(当時)が、不正積み替えを内部告発動画で配信し、市に抗議などが寄せられた。

江原工業所は当時、飲食店や事務所などから出る事業系ごみを収集・運搬する許可を市から受けていたほか、市の委託を受け、谷田部地区の一部で家庭ごみを収集していた。

事業系ごみは、廃棄物運搬業者が、ごみを出した事業所から収集運搬料を受け取り、市に10キロ190円(19年9月までは185円)の処理手数費を払って、市のごみ焼却施設に搬出する。一方、家庭ごみは無料で市のごみ焼却施設に搬出できる。

江原工業所は、収集した事業系ごみの一部を、処理手数量が無料の家庭ごみ収集車に移し替え、市に処理手数料を支払わす、ごみ焼却施設に搬出していたとされる。

市は2020年9月、不正な積み替えがあったとして、つくば警察署に被害届を出したほか、江原工業所に委託していた家庭ごみ収集委託契約を解除し、違約金約850万円を請求した。違約金は期限までに支払われた。一方、被害届は不起訴になったという。(鈴木宏子)

土浦一高付属中の人材育成 《令和楽学ラボ》16

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土浦一高付属中の学習風景

【コラム・川上美智子】今年度より中高一貫校となった土浦第一高等学校付属中学校を先日、視察しました。土浦一高は、卒業生の皆様であればよくご存知のように、県南の最難関県立高校であり、このほど設立された付属中も同様に、難関受験を突破した生徒が集う学び舎(や)です。

学校案内には、勉学にいそしみ、友と交流し、高い志と社会の規範となる、自負・自尊・矜持(きょうじ)の「ノブレス・オブリージュ(地位の高い人の義務)の精神」をもって学校生活を送ることが掲げられ、付属中の教育にもこの精神と、目の前のことに全力で挑戦する「一高スタイル」の追求、すなわち6年間を通じて日々の授業、部活動、学校行事をとことんやり抜くことを求めています。

さらに、卒業後、これからの社会が今よりも幸せになるため、日本のどこかで、世界のどこかで、自分が「役立っている」「支えている」「貢献している」と、自ら確信を持てる人材に育つことを願うとしています。

中澤斉(ひとし)校長先生からは、次世代で活躍する礎(いしずえ)をつくるGLP[グローバルラーナーズ(広い視野で学ぶ人)プロジェクト ]の特色ある取り組みについてご説明いただきました。GLPは「知とつながる」「人とつながる」「社会とつながる」の3つの構成から成ります。

「知とつながる」の1つは通常より10分長い60分授業とし、生徒相互で授業内容を振り返る「ピア・レビュータイム」を設け、思考力・判断力・表現力の強化を図るものであり、もう1つは「+English(プラスイングリッシュ)」で全ての教科で自分の考えを英語で表現する英語の発信力を磨くものであります。

「人とつながる」は、生徒主体、生徒が主役の交流活動で、グループで企画する修学旅行や水戸一高付属中との『土水交歓会』などが予定されています。「社会とつながる」は、卒業生との『土一ネットワーク』を活用した探究活動で、プレ海外探究のための国内英語キャンプや、探究活動総まとめの卒業研究発表会のプレゼンなどが企画されています。

授業を楽しむ余裕の生徒

4月に入学したばかりの中学1年生の授業を見学させていただきましたが、社会の授業では、生徒も先生も一体となってICT(情報通信技術)を駆使してグループごとの熱気あふれる真剣な取り組みに、そして英語の授業では短期間の間に立派に英語で自分を表現できるようになった生徒たちの姿に、人材育成の神髄を見た思いがしました。

それでいて、授業を楽しんでいる生徒の余裕の姿も見ることができました。多分野への学びのモチベーションを上げ、学びの質改善に取り組む先生方の熱意にも圧倒されました。

校舎は今までの高等学校の教室をそのまま使用しているため、きれいとは言い難いのが残念でしたが、茨城の全ての子どもたちにこのような学びの機会を与えることができたなら、もっともっと子どもたちの未来は明るくなるだろうなと強く感じました。

最後に、国の重要文化財である旧校舎を見学させていただき、創立124年の歴史の重みも実感し、充実した視察の時間となりました。(茨城県教育委員、茨城キリスト教大学名誉教授)

ランニングで快適に認知機能向上 筑波大学 初めて実験で証明

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脳の局所的な⾎流の変化を捉える機能的近⾚外分光分析法(fNIRS)の結果。ランニング後の課題回答時に有意な活動が⾒られた脳の部位がカラーで表現されている=征矢研究室提供

10分間の中強度(ややきつめ)のランニングが快適気分を誘発すると同時に、脳の活動を促進し認知機能を⾼めることが初めて実験で証明された。筑波⼤学体育系ヒューマン・ハイ・パフォーマンス先端研究センター(ARIHHP、つくば市天王台)の征⽮英昭教授らの研究成果として22日、学術誌にオンライン発表された。

ランニングは、⼈類の⽣理的・解剖学的進化に強く関係していると⾔われてきた。しかし実験室の運動負荷試験で得られた知見の大部分は、ペダリング運動(自転車などを漕ぐ動作)によるものだった。このため全⾝をリズミカル、かつダイナミックに使うランニングが、ヒトの脳にどのような影響を与えるのかについての知⾒は不⾜していた。

征⽮英昭教授=同

征矢研究室は今回、トレッドミル(屋内でランニングやウオーキングを行うための健康器具)を⽤いて運動強度を厳密に規定し、中強度に相当するランニングが脳の前頭前野を基盤とした認知機能や快適気分に与える影響と、その背景にある脳内神経機構について、脳の局所的な⾎流の変化を捉える機能的近⾚外分光分析法(fNIRS、※メモ参照)を⽤いて検証した。

実験には26⼈の健常若齢成⼈(⼥性8⼈、男性16⼈)の⼤学⽣・⼤学院⽣が参加した。実験参加者は運動条件か対照条件にランダムに振り分けられ、別の日に残りの条件の実験に参加した。ランニング条件では、最⼤酸素摂取量の50%となるトレッドミルスピード(ややきついと感じる1分当たり心拍数140拍程度)で10分間ランニングしてもらった。対照条件は何もせずに座位安静を維持した。各条件とも実験前後に覚醒度と快適度に関する8項⽬の質問に回答してもらい、またストループ課題を行った。

ストループ課題は、文字の色の情報と文字の意味が持つ情報、それぞれ2つの持つ情報が矛盾している場合、答えを導き出すまでに時間が掛かってしまう現象を利用した課題を設定して行うテスト。課題の回答中には、fNIRSを用いて前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定した。

その結果、ランニングは安静に⽐べて覚醒度と快適度を向上させていた。過去の研究ではペダリング運動によって覚醒度は顕著に増加したが快適度は変化しておらず、ランニングはより快適気分を誘発しやすい運動形態である可能性が示された。またストループ課題の回答にかかった反応時間を安静前後とランニング前後で比較したところ、ランニング前後の方が有意に減少していた。

さらにストループ課題回答中にfNIRSを用いて前頭前野の酸素化ヘモグロビン濃度変化を測定した結果では、安静時と比べランニング条件で脳活動(不一致課題の脳活動と中立の脳活動の差)が有意に増加した脳部位が、ペダリングを用いた先行研究と比べて両側の外側前頭前野で活動していることが分かった。(上図参照)

スローなランニングは海馬を活性化

今回の実験は中強度という「ややきつい」と感じる強度で行われたが、これよりも軽い運動でも効果がある可能性があると征矢教授は話す。「動物(ネズミ)研究では、スローペースのランニングが海馬を活性化させたり、長期的に続けると海馬の一部の神経を新しく生み出したり記憶力が向上することがわかっている」

今回は大学生・大学院生を被験者にした結果だが、中高齢者にも同様の効果が十分に期待できる。一方で若者と中高齢者とでは脳内機構は異なる可能性があり、征矢教授は今後の検証が必要と考えている。(如月啓)

※メモ 機能的近赤外分光分析法(fNIRS)
脳イメージング法の一つ。近赤外光を利用し、血中の酵素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの濃度変化を捉えることで、神経活動によって引き起こされる局所的な脳血流の変化を計測する。