月曜日, 3月 2, 2026
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新しい年のために《ことばのおはなし》65

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写真は筆者

【コラム・山口絹記】さて、新年である。

新年と言っても、一般的に何か新しいことが自然と起こるわけではない。いつも通りに過ごせばいつも通りの日常がやってくる。それでも、ごく一般的な感覚として、日々の生活には何かしらの区切り、のようなものが欲しいものだ。

だから私たちは、新年のあいさつをしたり、特別な料理を食べたりして、その区切りを改めて意識するのだろう。

私は年をまたぐにあたって、いつもやっていることがある。新しい手帳に行く年の総括と、来る年の展望を書くのだ。そこまで特殊な行為ではないと思う。同じようなことをしている人も多いだろう。それでもことばにして書き留めておくのは大切なことだと思っている。

小さい頃から、新しいノートや手帳の使い始めが苦手だ。なんとなく、きれいに使おうとしてしまって、本当に書きたいことが書けなかったりする。放っておくといつまでもきれいなままなので、新年が来る前に“汚して”おくのだ。

書き始めにはずいぶん時間がかかる。誰に見せるわけでもないのに、何か、いいことを書こうとしている。そのたびにあることを思い出す。

新しい手帳を汚す

高校生の頃、何のためらいもなく絵を描く同級生がいた。実際のところはわからないけれど、少なくとも私にはそう見えた。特別大きく息を吸ったりするわけでも、力むわけでもなく、自然体のままで、迷いのない勢いのある線をひいていく。今もあの人は、迷いなく絵を描くことができるのだろうか。

私はといえば、いまだに違う紙に下書きを書いてみたり、ぐるぐると意味もなく丸を書いてみたりしてはうじうじするところから始まる。人の前では迷いのないフリをできるようになったが、自分にはウソをつけない。

そんなうじうじしている自分を、行く年に置いていきたい一心で、新しい手帳を汚す。一度汚しておけば使いやすい。後はどうにでもなれという気持ちになれる。情けないけれど、こればかりは一生克服できない気がしている。

だからこその準備だ。苦手でも自分でやるしかないことは、無理せず万全の準備でカバーすればいい。

今年もすがすがしくいこう。(言語研究者)

理解を増進する必要施策は【LGBT法、つくば市議アンケート】上

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市議から回答があったLGBT理解増進法に関するアンケート調査

性的マイノリティーに関する理解を広める「LGBT理解増進法」が昨年6月施行され、市町村は、地域の実情を踏まえ、性の多様性に関する国民の理解を増進する施策を実施するよう努めるとされた。NEWSつくばでは、つくば市議のLGBTに対する考えを知るべく、昨年、市議26人を対象にアンケート調査を実施した。回答があったのは16人。結果と当事者の声を3回に分けてお伝えする。

「胡散臭い」投稿きっかけ

同市議会の五頭泰誠議長が昨年2月、自身のツイッターに「やはり、LGBTを声高に主張する人。胡散(うさん)臭い」と投稿したことが、記者が調査を実施する契機になった。五頭議長は数日後に自身の投稿を削除。同年4月には、県内のLGBT当事者団体「にじっぺ茨城」(永瀬大紀代表)と懇談し、翌月、投稿に関する釈明文をフェイスブックで公開した。だが、釈明文の中で、トランスジェンダーと「女性」「子ども」の権利が対立するかのように書くなど、特にトランス女性に対する発言に記者は違和感をもった。

その直後、記者は、何人かのLGBT当事者に五頭議長の発言に対する思いを聞き、依然としてLGBTに対する差別が根強い社会だからこそ、公人の差別発言でさえ黙認されてしまうのではないかと問題意識を持った。

研修、事例集、相談窓口

まず「LGBT理解増進法に関連して、つくば市では、どのような施策が必要だと思いますか?」と質問し、50字程度で書いてもらった。

各議員の回答は「市職員への研修の実施」「性的少数者に配慮した対応事例集の作成」「相談窓口の設置」などを挙げる議員が多かった。

市男女共同参画室によると、つくば市では、申請書類の性別記入欄をなくす、または男・女どちらかを選択するのでなく記述式にする取り組みや、LGBT当事者を講師とする理解啓発のための市民向けセミナーを行っているという。市にはLGBTに特化した相談窓口はないが、各行政窓口で性の多様性に配慮した対応をするためのハンドブック作成を検討中だとしている。

市人事課によると、市の全職員を対象に、LGBTの基礎知識や当事者への対応事例を、専門の大学教授から学ぶ研修を22年度から数年かけて実施予定だとしている。22年度からは、市職員が取得できる看護休暇や結婚休暇の対象範囲を、配偶者だけでなく同性パートナーにも広げた。

各議員の回答は以下の通り(敬称略、議席番号順)。

小村政文 当事者の声を反映させた形で、市民全体に対し、多様性の理解を深め、「平等が当たり前」な社会に近づくような施策。具体的なやり方は、当事者と慎重に話し合って決めたい。

川久保皆実 LGBT理解増進法第 5条及び第10条第1項に基づき、学校教育や市民への講座・広報等において性的少数者への理解増進のための取組を実施。性的少数者に寄り添う相談体制の整備。

川村直子 市職員、教職員がLGBTQへの理解を深める研修を受講すること(実際に現在進行中)。非正規職員や、市の業務委託先等である、保健、高齢、障害分野等に関わる施設の方への研修も必要。

中村重雄 性的少数者に配慮した対応事例集を作成する事。

あさのえくこ キレッキレのチラシを作り、全戸配布(「生活保護は権利」のチラシを全戸配布して認知度をあげている自治体を参考に回答)。相談先明記パンフレットを、つくスマアプリで配布。

山中真弓 世田谷区のようなパートナーシップ制度を導入する。東京都もやっている。

小森谷さやか つくば市では、全ての職員・教職員への研修が始まり、「まずは知ること」の第一歩は踏めていると思う。今後は申請書類等の男女別記載の工夫や、学校等公共施設での誰でもトイレ・更衣室設置等でしょうか。当事者の声を聞きながら一緒に考えていきたい。

高野文男 つくば市議会では昨年7月、市民経済委員会が世田谷区の「男女共同参画と多文化共生を推進する取組」を学んだ。市が、LGBTの支援団体と連携し、多様性の理解を深める活動を学びながら、啓発することから始めるべきだ。市が中心市街地等に相談窓口を設置し、運営やイベント企画を当該団体に委託することも必要だろう。

黒田健祐 まずは職員、市民への啓発を促進する事が大切。

皆川幸枝 設問に例示された、埼玉県などの「性の多様性に配慮した地域の企業を評価、公表する」取り組みは、多くの人がLGBTQへの理解を進めていく上で有効だと考える。

五頭泰誠 回答無し

木村清隆 LGBTを知りサポートするためのガイドラインを創り、誰もが自分らしく生きることを認め合う社会をめざし研究して、「性の多様性の尊重に関する条例」法整備に取り組む。

浜中勝美 理解増進の意識調査やアンケートの実施。

橋本佳子 パートナーの方々も利用できる行政サービスを見直し、利用できる施策の一覧を公表する。行政窓口等において、性的少数者に配慮した対応事例集を作成する。相談窓口を開設する。パートナーシップ制度の導入。

小野泰宏 自治体職員向けガイドラインの制定と公開。相談窓口の設置と住民に正しい理解を促すための取り組み。

金子和雄 法律が施行され、多様性に関する国民の理解と増進が求められる。特に一人ひとりの人権を守る取り組みの推進です。つくば市の男女共同参画推進基本計画でも多く触れられているが、協働して活動を進めたい。

ほかの法整備「必要」は13人

次に「LGBT理解増進法のほかに、LGBTなどの性的少数者に関する法整備は必要だと思いますか」と質問した。「必要、どちらかといえば必要、どちらかといえば必要でない、必要でない」のいずれかを選んでもらい、その理由と、必要だと思う場合は、その具体的な法整備の内容を、それぞれ50字程度で書いてもらった。

回答のあった16人のうち、13人が「必要」または「どちらかといえば必要」と回答した。具体的な法整備としては、差別を禁止する法律や条例の制定、同性婚を認める民法改正などが挙げられた。一方、3人が「どちらかといえば必要でない」と回答した。理由としては「まずは既存の法律を活用していくべき」などがあった。「必要でない」と回答した議員はいなかった。

小村政文 必要 (理由)同性婚が可能な国にしたいから! (具体策)戸籍法74条における異性婚を前提とした「夫婦」という単語から「両者」などの表記に改める整備。

川久保皆実 必要 (理由)LGBT 理解増進法は、あくまで理解増進のための取組を努力義務とするもので、性的少数者に対する差別解消のための直接的な法的根拠とはならないため。 (具体策)性的少数者のみならず、人種差別、性差別、障がい者差別などを包括的 に禁止する法律の整備。

川村直子 必要 (理由)LGBT理解増進法はマジョリティの視点に立つ内容。少数者であるLGBTQの人権を守り、差別を明確に禁止し、少しでも不利益を解消する法律が必要なため。 (具体策)アウティングの禁止等、個別具体的な取り決めをする「差別禁止法」。希望するすべての人が結婚出来るように、同性婚を認める「民法」などの法改正。性別適合の要件を定める「性同一性障害者特例法」は非人道的な内容であるため、法改正が必要。

中村重雄 どちらかといえば必要 (理由)前提としてLGBTについて広く認知されているのでは? (具体策)差別禁止条例・パートナーシップ条例

あさのえくこ 必要 (理由)これは「理念法」であるので、「正法」を定め、差別解消実施計画等について縛りのある取り決めができるようにすべき。(具体策)権利擁護という点でさまざまあると思うが勉強不足のため今後勉強します。

山中真弓 必要 (理由)法的に認められていなければ、家族と同様の権限が与えられないため。(具体策)同性婚・登録パートナーシップなど同性カップルの権利を保障する制度を整えている国と同様な、法整備を行う。差別的な扱いをした人、会社等への罰則制度も作る。

小森谷さやか 必要 (理由)差別禁止法に向けて継続的に働きかけていくことが必要。問題となった「~不当な差別はあってはならない」という表現を一刻も早く削除してもらいたいです。(具体策)「LGBT差別禁止法」をつくること

高野文男   必要 (理由)LGBTの方、そうでない方、双方が不安を感じずに生活や仕事が出来るようにする為 (具体策)LGBTの方、そうでない方、双方が不安を感じずに生活や仕事が出来る社会にする為の法整備

黒田健祐 どちらかといえば必要でない (理由)様々な議論を経て出来た現行法の運用をまずは進めるべきと考える。 

皆川幸枝 必要 (理由)LGBTQカップルでも婚姻と同等の権利が認められるような法整備をしていくべき。(具体策)今後、調査・研究して参ります。

五頭泰誠   どちらかといえば必要でない (理由)私のSNSにて、表記しています。ご一読ください。 

木村清隆 必要 (理由)LGBTに関して様々な立場で、自由でありつつも、理解し合う、守り合う仕組み(法整備)が必要。(具体策)詳細な法整備に至る前に、LGBTを理解しあえる社会を創る事が大切。LGBTを思い込みや一部の報道・噂などで得た情報・知識で、法整備に対して良し悪しを判断するのは問題が起きる。

浜中勝美 どちらかといえば必要でない (理由)まずは、この法や既存の取り組みを活用して様々な運用をしていくことが必要。

橋本佳子 必要 (理由)同法は差別禁止ではなく、あくまでも国民に知らせ基礎的な知識を広げるという目的だから。(具体策)同性婚を認める民法改正。LGBT平等法を制定し、社会のあらゆる場面で性的少数者の権利保障と理解促進を図る。

小野泰宏 必要 (理由)誰もが暮らしやすく差別を受けない社会を作るため、特につくば市は多くの海外出身者の方が住んでいるため。(具体策)性的少数者の方々への差別を禁止する条例、パートナーシップやファミリーシップ制度等の施策導入を柱とする計画の策定。

金子和雄 必要 (理由)多くの国民が同じ待遇を受けられない限り、その人に合った利益が地域から活動報告で知ることができる。不便を感じるし、生活にも苦労する。(具体策)提案者と協働で学びながら努めたい。

10人が回答なし

なお宮本達也、長塚俊宏、神谷大蔵、小久保貴史、木村修寿、塚本洋二、飯岡宏之、鈴木富士雄、塩田尚、久保谷孝夫議員の10人からは回答が無かった。(川端舞)

続く

運か実力か《続・気軽にSOS》145

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【コラム・浅井和幸】明けましておめでとうございます。昨年は、運の良い年だったでしょうか。今年は、さらに良い運に恵まれるようになりたいですね。昨年は、実力が伸びた年だったでしょうか。今年は、より実力をつけて可能性を広げたいものです。

私は、「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し」と「人事を尽くして天命を待つ」という言葉が好きです。ですが、好きと出来るは別問題。何かにつけて、この言葉を思い出してはバランスと努力の積み重ねを考えて、後悔と反省を繰り返しています。

私は怠け者なので、周りの人への文句ばっかり言っては周りの人が変わるのを待ち、自分が動くことを怠ってしまいがちな人間です。時には、人が私の思い通りに動くことが正しいことで当然だという考えに支配されたりします。

それは、人や環境の良くないところに苛(いら)立つことに時間を費やし、心身を消耗する結果になります。良い結果が得られない理由を外にばかり求め、自分が変わったり、環境を変えるような関わり方をしたりすることから、意識をそらし続けてしまうのです。そして、環境に恵まれない自分は運が悪い、の一言で済ませてしまうのです。

ポジティブもネガティブも大切な感覚

「自分は運が良い」と感じている人が、良い運に接すると良い運を感じやすい。「自分は運が良い」と捉える人が、良い運に巡り合うと良い運を捉えやすい。「自分は運が悪い」と感じている人が、悪い運に接すると悪い運を感じやすい。「自分は運が悪い」と捉える人が、悪い運に巡り合うと悪い運を捉えやすい。

ということは、「自分は運が良い」と感じている人が、悪い運に引っ張られにくくなり、さらに運が良くなる。「自分は運が悪い」と感じている人が、良い運に影響されにくくなりさらに運が悪くなる。

運が良いと思う人がより敏感に良い運を感じやすく、運が悪いと感じている人がより敏感に悪い運を感じやすいのですから、当たり前だと言えば当たり前の結果ですね。それは、歯が痛いときに歯医者の看板が目につきやすいのと同じ理屈です。

ポジティブもネガティブも、どちらも大切な感覚です。どちらかに偏ることは大きなリスクを伴います。ですが、過去や今起こっていること、自分や周りの環境を良い材料として良い結果を起こせることに越したことはないのです。

良い運を呼び込めることも、大きな要因ですよね。今年一年も楽しく過ごし、より良い人生に向かっていきましょう。(精神保健福祉士)

防災と組み合わせ4年ぶり「どんど焼き」 つくば 田中青年会

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4年前、つくば市田中で開かれたどんど焼き(松崎さん提供)

地元青年会が中心になり、つくば市田中で7日、4年ぶりに開かれる「どんど焼き」が、今年は防災と組み合わせた形で開催される。地域住民が大勢集まる行事を防災意識向上に結び付けたいと、防災士の民間資格を持つ田中青年会会長で会社員の松崎貴志さん(43)が呼び掛けた。

田中地区では例年、どんど焼きに地域住民が200人くらい集まる。当日は青年会が豚汁、もつ煮込み、餅などを200人分用意して無料でふるまう。今年は地元の田中子ども育成会に協力してもらい、アルファ米の防災炊き出しセット200食を用意し、ご飯を炊いて食べてもらう。「年配の人の中にはレトルト食品を食べたことがない人がおり、防災食は慣れていないと非常時に食べられないことがあるため、普段から食べておこうということ」と松崎さんは狙いを話す。

田中青年会会長で防災士の松崎貴志さん

田中地区は桜川に隣接する。2019年の台風19号で川の水が増水し道路や水田が浸水、集落まで迫った教訓から、松崎さんは昨年2月にも地域の子供会と防災キャンプを実施した(23年1月5日付)。

防災キャンプは子供中心の企画で、高齢者まで巻き込むことが出来なかったため、松崎さんは新たな取り組みが必要だと考えていた。コロナ禍で実施できなかった「どんと焼き」が今年再開され地域住民が大勢集まることから、防災と関連付けて開催できないかと考えた。

昨年4月に企画を青年会のメンバーに話すと「なぜそんなことをやらなければいけないのか。予算はどうするのか」という疑問の声も出たが、イベントの手順を考えるなど工夫をして、賛同を得た。

子ども食堂通じ「フェースフリー」に出合う

松崎さんは全国の子ども食堂を支援している認定NPO「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(湯浅誠理事長)のスタッフの一員でもある。むすびえを通して昨年、愛媛県宇和島市で開かれた子ども食堂の炊き出し体験イベント「ぱくパーク」に出掛け、「フェーズフリー」という言葉に出会った。

イベントは、子ども食堂を非常時にも安心して食事がとれる防災拠点にしようという取り組みの一環で、フェーズフリー協会(東京都文京区)が主催するフェーズフリーアワード2023の金賞を受賞している。

フェーズフリーとは、いつも行っていることを非常時にも役立つようにデザインしようという考え方で、日常時と非常時という2つのフェーズをフリーにするという意味。松崎さんは宇和島でイベントを手伝い、地元つくばでも出来ないかと考えた。毎年地域で行っている行事を、もしもの時に役立つようにしたいと、どんど焼きの際に防災訓練を兼ねた炊き出しセットを提供しようと思い立ったという。

松崎さんは「日常から防災意識をしっかり持っていれば、非常時に役に立つ。『いつも』が『もしも』に役に立つというフェーズフリーの意味を浸透させるきっかけにしたい。地区としては年に1、2回、防災訓練を開催できれば」と話す。(榎田智司)

年頭の世界展望 台湾有事について《雑記録》55

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シンビジウム(写真は筆者)

【コラム・瀧田薫】2024年は、「米中新冷戦」が本格化する1年となるでしょう。第2次世界大戦後の世界は、約80年間、米英欧が主導する戦後システム(国連、自由貿易体制など)に支えられてきました。しかし、22年2月、ロシアによるウクライナ侵攻を契機として、世界は新たな戦前(第3次世界大戦の可能性をはらむ)に突入したと思われます。本稿では台湾有事が起こる可能性を探り、併せてこれからの時代と世界を考えます。

23年6月の台湾国民世論調査では、対中関係について「現状維持」を求める人が60%を超え、独立志向の25%や統一志向の7%を上回りました(毎日新聞23年12月17日付)。台湾国民の対中意識は割れましたが、回答者全員に「台湾有事」に対する強い危機感があることは確かです。

軍事専門家や国際政治学者の間でも、台湾有事に関する判断は分かれています。起こらないとする根拠としては①中国軍の近代化が不十分、米軍と台湾軍の反撃は甘くない②中国軍兵士の大半が「一人っ子」であり、膨大な戦死者が出れば政府批判に火がつく③侵攻よりも台湾国内の親中派による傀儡(かいらい)政権を樹立する方が良策―といった考えです。

他方、起こるとする根拠としては①「民主制をとる自由な台湾」は中国政府の一党独裁支配を脅かす危険な存在②経済政策の失敗、その他に対する国民の不満を外に逸らす必要がある③米軍はロシア軍のウクライナ侵攻、その他への対応で手一杯、この機会を見逃すな④習近平氏は高齢だけに持ち時間に対する焦りがある―といったところです。

国家と党の安全を優先する中国

ちなみに、23年12月23日、北京で毛沢東(1893~1976年)の生誕130年祭が開かれ、習氏は毛の事業を引き継ぐと宣言し、悲願である台湾統一の重要性を強調しました。識者は、習氏の演説に政権の正統性に対する自信のなさを見ています。

毛の死後、党と政府は改革・開放路線を採ってきましたが、習氏はこの路線の行き過ぎが共産党一党支配を掘り崩すとして警戒し、国家と党の安全を優先する政策(経済における国家の役割拡大、中国民間資本に対する圧力、外資に対する制限)を打ち出してきました。最近の中国経済の変調については、こうした習政権の政治姿勢による影響が大きいと思います。

最近、中国経済のピークアウトを指摘する西側の経済専門家も増えていますし、中国政府内にも経済の先行きを懸念する声は高まっているようです。

ともあれ、中国では「絶対権力者習近平氏が不合理な命令を下しても従う」という、権威主義国家ならではの慣性が働くことは確かです。そこから、「台湾有事」は習近平氏の決断一つにかかっているという見方が出てきますが、もう毛沢東の時代ではありません。習政権は中国経済ひいては世界経済から自由な存在ではありません。

したがって、米国や日本の対中国政策の眼目は軍事と経済のバランスに腐心することです。中国に塩を送る必要はありませんが、台湾有事を回避するために、中国とのデカップリングは避けるべきでしょう。(茨城キリスト教大学名誉教授)

バージョンアップの「Belle Ⅱ」1月再起動 KEKの加速器衝突実験

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2枚の扉(エンドヨーク)が閉じる直前のBelleⅡ。右から延びるエンジ色の2本の装置が加速器のビームライン=KEK筑波実験棟

中心に丸い孔(あな)の開いた正八角形の扉は鉄製で、真ん中で2つに断ち切った形状をしている。1枚の重さは約150トン、2枚合わさると高さ、幅ともに約8メートルになる。扉は「エンドヨーク」と呼ばれ、前方と後方に一対ずつある。それぞれの下部4カ所にはハンドルが取り付けられ、手動で勢いよく回すと扉はミリ単位で動き、1000回以上回してようやく八角形の片方が閉じる。そんな作業が昨年末、高エネルギー加速器研究機構(KEK、つくば市大穂)の実験装置「Belle Ⅱ(ベル・ツー)」で行われた。

扉でサンドイッチするように閉じられた装置の内部は、検出器と電磁石が同心円状に折り重なった構造をしている。光速近くまで加速された電子と陽電子が、大型加速器「SuperKEKB(スーパー・ケック・ビー)」の2本のビームラインを互い違いに走り、装置の孔に向かって突入すると、強力な磁場によって収束し、衝突する。衝突点で生成し、崩壊する素粒子の性質を調べて、宇宙創成の未解明な謎に迫る。新しい物理現象を探す実験は1月末、バージョンアップして再スタートする。

「物質」しかない宇宙の謎に迫る

周長約3キロの円型加速器SuperKEKBは、メーンリング上に4つの実験棟が配置されているが、衝突点として機能しているのは筑波実験棟だけ。背後に筑波山の控える実験棟屋内に、重さ約1400トンの観測装置のBelle Ⅱが設置されている。22年7月からロングシャットダウンと呼ばれる運転停止期間中で、加速器や検出器の改良ののち、1月末の運転再開を目指していた。Belle ⅡのB、KEKBのBは、素粒子の一種「B中間子」にちなむ。

マイナスの電荷をもつ電子とプラス電荷の陽電子は、前段の線形加速器でそれぞれ70億電子ボルト(7GeV)、40億電子ボルト(4GeV)に加速され、メーンリングに射出される。2本のビームラインの交点で衝突するとB中間子が大量に生成され、崩壊(より軽い素粒子に変化する)までに100ミクロン程度の距離を移動する。その崩壊過程を詳しく調べる装置というわけだ。

常設展示ホール「KEKコミュニケーションプラザ」に展示されている小林誠KEK名誉教授のノーベル賞メダル(複製)

前身の衝突型加速器KEKB(ケック・ビー)は1999年から2010年まで運転され、Belle実験が行われた。B中間子におけるCP対称性の破れを検証し、小林誠、益川敏英(故人)両氏のノーベル物理学賞(2008年)受賞につなげている。「CP対称性の破れ」は難解な物理学の理論だが、ほぼ「物質」だけで満たされている私たちの宇宙の成り立ちを説明するのに有効だ。宇宙の始まりのビッグバンでは「物質」と「反物質」が同じ量だけ作られたと考えられているが、なぜか「反物質」は消えてしまった。この仕組みを説明する理論とされる。

Belle Ⅱでの衝突実験は2018年に開始された。前身のBelle実験で蓄積されたデータの50倍のデータを収集・解析する目標が立てられ、昨年末の時点で28カ国、1100人の研究者が参加している国際共同実験となっている。

稀有な現象を大量のデータから探す

B中間子は、陽子の5倍程度の質量をもつが、崩壊までの寿命は1.5ピコ秒(0.0000000000015秒)しかない。光速に近い加速器での衝突実験では、この寿命を延ばすことができ、飛行距離は100ミクロン程度になる。今日の科学の測定限界に達し、いろいろな崩壊現象が見えてくる。しかし電子と陽電子が測定器内で数億回交差しても衝突に至るのは数千回、ほとんどがすり抜けていく。1秒間に3万回の記録をとっても興味ある事象は数例にとどまるという。そこで、より多くのデータをためて現象を調べるために「ルミノシティ―」(衝突頻度)というパラメーターが重要になる。今回の改良ではこの向上が最大の眼目になった。

装置の最深部には崩壊点検出器(VXD)がある。ビームパイプの中心から数センチのところにピクセル型検出器を2層構造で設置した。一種のデジタルカメラで、2層目のモジュールを12枚の完成形にしたドイツ製の装置が運びこまれた。この装置を組み込むために、扉が開けられ、測定器の外周部が取り外され、オーバーホール的なシャットダウンが行われた格好だ。

検出装置の説明をする中尾幹彦KEK素粒子原子核研究所教授

加速器側もビーム入射を細く絞る形でルミノシティ―の向上を図った。計量上の言い方は難しいが、これまでの記録はKEKが持っていた1平方センチ1秒当たり2.1×10の34乗だった。改良後のルミノシティ―は同4.7×10の34乗という「世界最高性能」(松岡広大KEK素粒子原子核研究所准教授)の値になる。加速器性能をあげるのは、は莫大な電力を消費する加速器運転の省エネにもつながるということだった。

物理学では、「標準理論」を構成する17種類の素粒子すべてが発見されたものの、なおも生じる「ずれ」が無視できないでいる。宇宙に物質しかないことの説明には、「超対称性粒子」の存在が示唆されてもいる。中間子のまれな崩壊を精密に調べることで、標準理論の「ずれ」が説明できるかもしれない。

中尾幹彦KEK素粒子原子核研究所教授(Belleグループリーダー)によれば、これまでのBelle Ⅱの運転により、非常にまれな物理現象の1つであるB中間子がK中間子と2つのニュートリノに崩壊する現象が認められたという。ニュートリノは検出できないが、精度をあげていけば統計的に有意な物理現象が見えてくるので、大量のデータを集めて「説明」を確かなものにしていきたいとしている。

リスタートの実験は1月29日に始まり、まずは6月末まで行われる。(相澤冬樹)

◆Belle Ⅱ実験の詳細はKEKのホームページへ。

あけましておめでとうございます 《吾妻カガミ》174

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湖の日の出。霞ケ浦総合公園から

【コラム・坂本栄】今年もよろしくお願い申し上げます。

ロシアのウクライナ侵攻とハマスのイスラエル攻撃には共通点があります。自分たちが軽く見られるようになり、その存在を周りに再確認させたいとの焦りです。日本の周辺にもそういった思考癖がある国があります。用心しなければなりません。

昨秋、ネット媒体「NEWSつくば」が日本メディア学会で取り上げられました。研究者は「非プロフィット(非営利)・脱ペーパー・超ローカル」に強い関心を持ったようです。グーグルやヤフーなどが運営する「ニュース・プラットフォーム」との関係も話題になり、先生方との意見交換は有益でした。

以上は私の年賀状の全文です。今年最初の本欄は上の2パラグラフの補足になります。

問題の解決を武力に頼る時代

国際秩序のタガが緩んでいます。問題を暴力で解決することが目立つようになったからです。NATO(北大西洋条約機構)の拡大をロシアが恐れ、イスラエルと回教大国の仲直りがハマスを焦らせ、そういった恐怖や焦燥が彼らを武力行使に走らせました。米国の力が相対的に弱くなったことも、軍事が幅を利かせるようになった一因です。

日本の近隣にも、核弾頭やその運搬手段の開発で威嚇しようと考える小国、内外の問題を軍事力の誇示で解決しようとする大国があります。欧州や中東だけでなく、日本の周辺も厄介なことになってきました。

一番厄介なのは、米国が20世紀にそうであったような大国ではなく、内向きの国になったことです。前大統領の「米国第一」が、国民の気分を汲み取ったスローガンであることを考えると、対米関係もこれまでとは違ったものになります。大統領選がある今年、新たな米国との枠組みが必要になるかもしれません。

戦後の経済を律してきた自由貿易や市場原理も過去のものになりつつあります。軍事をコアとする安全保障が国際貿易や企業活動に介入するようになったからです。こういった国際構造の変化をきちんと受け止め、機敏に対応する必要があるでしょう。

ニュース砂漠と地域ジャーナリズム

昨年11月4日、日本メディア学会のワークショップ(ウェブ会議ツールZOOMを使った研究集会)で当サイトが取り上げられました。タイトルは「ニュース砂漠と地域ジャーナリズム―非営利法人『NEWSつくば』を事例として」です。私、編集担当者、システム担当者が参加し、約2時間、全国の研究者と議論しました。

年賀状に書いたように、大学などの研究者は「NEWSつくば」の試み=非プロフィット(営利)、脱ペーパー(新聞)、超ローカル(つくば・土浦中心)=が面白いと思ったようです。

ここで私は、①税金で仕事をしている組織の監視が編集方針の一つ②記者は元記者(プロ)と市民記者(アマチュア)で構成③新聞社などを退職した元記者の参加を歓迎④地域に住まう識者のコラム寄稿も歓迎⑤運営費は大口小口の寄付に多くを依存⑥寄付文化が根付く米国と違い経費の捻出に苦労⑦ニュース・プラットフォームは地域メディアの発信力にプラス―などと報告しました。

研究者の方々は、非プロフィットに強い関心を示しました。広告収入に頼る民間放送、購読料+広告料に頼る新聞がメディア運営の常識ですから、当然といえます。当サイトは今年でスタート(2017年10月)から7年。先に挙げた特性を踏まえながら、新基軸を取り入れていきます。(NEWSつくば理事長、経済ジャーナリスト)

まるで結晶、ガラスアートで「空想鉱物」 つくばの会社員が作出

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バーナーワークで制作する田中健さん=つくば市倉掛、空想鉱物工作所のアトリエ(田中さん提供)

つくば市の会社員、田中健さん(54)が制作した鉱物の結晶のようなガラスアート作品「空想鉱物」が東京都台東区の標本・工芸品販売店、ウサギノネドコ東京店で開催中の「石と光展」で展示されている。田中さんなど7人の作家が石と光にちなんだ作品を出品した作品展だ。

田中さんはつくば市倉掛在住。4年半ほど前から土日や平日夜の時間を使って、まるで鉱物の結晶のような美しい色合いのガラス作品を作っている。「黄昏(たそがれ)空」や「星月夜」などの名前が付けられた作品は手のひらに乗るサイズで、重さは50~100グラム程度。光が透過すると色が反射して輝き、様々に表情を変える。ガラスの成型技法の一つであるバーナーワークという技法を使って制作したもので、作品の写真をSNSで発信している。作品を見て欲しいと思った人の手に渡ればと考え、3年前にオンラインショップ「空想鉱物工作所」を開設した。女性を中心に全国から注文があるという。

田中さんの近作の「石ノ礫 星月夜」(上段)、「菱形十二面体 黄昏空」(下段左)、「十二面体 渦雲空」(下段右)=田中さん提供写真を加工

芸術系の大学出身で、大学生のころから作品の制作に興味を持っていた。現在はデザイン関係の会社で働いている。元々ガラスの素材が好きで、北欧ガラスのオブジェを見るなどしていた。「透明な中に色があり、置いて眺めたり、手に取って日に透かしたりできるガラス作品を作りたいと制作を始めた」と話す。

工芸用のガラスロッドと呼ばれる材料を1200度ほどのバーナーの火で溶かし、色を混ぜてだんご大の大きさの塊にする。だんごをコテで長細い形に成形した後、割れないように5、6時間かけてゆっくりと冷ます。冷ましたものをやすりで磨き、天然鉱物の結晶のような形に仕上げる。冷ますのに時間がかかるため、土日に色を混ぜた塊を作り、平日夜にやすりをかけるなど工程を分け、週に2、3個を制作するという。

作品の色合いはつくばの空の色にインスピレーションを得ていると話す。「つくばの空は開けていて、田んぼの中を通る時など会社の行き帰りに見ている。夕焼けのグラデーションなど、時々車を停めて写真を撮ってそれをアレンジする」。つくばの色を田中さんの感性で切り取り、空想鉱物の結晶の中に閉じ込めている。

価格は大きさによって異なり、小さいものは4000円、大きいものは6000円で販売している。北海道から九州まで全国から注文があり、田中さんの作品をコレクションしたいというリピーターがほとんど。空想鉱物を机に置くだけではなく、額を使って空間的に飾れないかと額装の構想もある。「試行錯誤中だが、来年の春くらいに額装の新作の発表ができれば」と夢を語る。(田中めぐみ)

◆「石と光展」は東京都台東区中2-3-3、ウサギノネドコ東京店で開催。会期は2024年1月23日(火)まで。営業時間は、平日は正午~午後7時、土日祝は午前11時から午後7時。

著名人の生き様垣間見える180枚 つくばの古書店で「年賀状展」

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日本で初めて長編SF小説を書いた今日泊 亜蘭さんの年賀状と、署名な文化人らの年賀状が展示されている店内ショーケース=つくば市吾妻、ブックセンター・キャンパス

新年を前に、つくば市吾妻の古書店ブックセンター・キャンパス(岡田富朗店主)店内のショーケースで「年賀状展」が開催され、主に明治、大正、昭和に活躍した著名な詩人、作家、画家、政治家などの年賀状180枚が展示されている。

「赤堂鈴之助」で知られる漫画家、武内つなよし(1922-1987)は、愛嬌(あいきょう)のあるイラストを添えてある。牛久沼のほとりに居住し「橋のない川」で知られる小説家、住井すゑ(1902-1997)は、年賀状の名前が住井すゑ子となっている。日本で初めて長編SF小説を書いた今日泊亜蘭(きょうどまり・あらん、1910-2008)は干支のネズミの絵と独特の文体で書いている。

年賀状が展示されている店内ショーケース

ほかに小説家の志賀直哉や田辺聖子、詩人の石垣りん、芸術家岡本太郎の父親で漫画家の岡本一平、落語家の3代目桂米朝、政治家の福田赳夫などの年賀状が展示されている。

店主の岡田さん(87)が古書の市場などで収集したもので、「筆体、文体などから、その人の生き様が垣間見える」という。

同店では店内での企画展を2019年に開始、今回で18回目の開催となる。前回17回目の「蔵書票展」には県内のほか神奈川県などからも愛好家が訪れている。

店主の岡田富朗さん

岡田さんは18歳の1954年に東京都北区赤羽で古書店を開業、つくば科学万博開催1年前の1984年につくば市天久保の天久保ショッピングセンターに移った。その後同ショッピングセンターには計5店が軒を並べ、古書店街としてにぎわった。しかし30年以上続いた岡田さんの店が閉店、2018年に最後の1店が閉店して古書店街はつくばから姿を消した。岡田さんをよく知る古書店ファンの要望もあり、2003年に同吾妻に移転し再開。現在は娘と2人で営業し、広さ約160平方メートルの店内に江戸時代や明治、大正、昭和の郷土史や軍事本など数万冊の古書を販売している。

岡田さんは70年近く古書店業界に関わってきたが「今は本が一番売れない時代。良い本を100円にしても売れ残る。つくばは学者肌の人が多いので専門書も扱うが、改訂版が出ると元の本の価値が激減し経営はなかなか難しい」とも言う。

次の企画展については「新聞の創刊号のコピーを多数持っているので(日本新聞協会が制定した)『新聞を読む日』にあたる4月6日に開催できれば良いかなと考えている」と話す。(榎田智司)

◆同店はつくば市吾妻3-10-2、「年賀状展」は2024年1月31日まで開催、入場無料。年内の30日(土)と31日(日)は午前9時~午後5時まで営業。同店は不定休だが急に変更になることもあるので、ご来店の際は電話029-851-8100に連絡を。同店のホームページはこちら

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子宮体がん 閉経後出血を放置していませんか?《メディカル知恵袋》2

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筑波メディカルセンター病院提供

【コラム・野末彰子】

閉経とは?

卵巣からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌がなくなり、月経が永久的に止まった状態のことを閉経と言います。日本人では、平均すると50~51歳くらいで閉経すると言われています。実際には、月経が止まった時点で、閉経かどうか判断するのは難しく、医学的には「1年間以上、月経が来ない状態」と定義されています。

閉経後出血

閉経したはずなのに、また月経が再開することはあるのでしょうか?

完全に閉経するまでの数年間は、月経はかなり不規則になります。そのため、この時期は不正出血(異状な出血)と、不規則にきた月経とを区別することはとても難しくなります。しかし、1年以上無月経だったのに、再び性器出血が始まる場合(閉経後出血)は、何らかの病気が隠れていることが多く、注意が必要です。

子宮体がん

子宮がんには、子宮頸(けい)がんと子宮体がんの2つがあることをご存じでしょうか?

子宮には頸部という膣に近い部分と、体部という妊娠すると膨らむ部分の2つの部位があり、それらの2つの部位にできるがんは、別の種類であり、その性質は全く異なります。子宮頸がんは30~40代に好発しますが、子宮体がんの好発年齢は50歳代で、約70%は閉経後女性に発症します。

子宮頸がんはそのほとんどがヒトパピローマウイルスの感染によって発症しますが、子宮体がんとウイルスは無関係です。また子宮体がんになりやすい人の特徴は、未婚、不妊、若い頃からの月経不順、糖尿病、高血圧、肥満などがあげられます。主な症状は不正出血で、約9割で性器出血を認めます。

近年、子宮体がんはとても増えてきており、ここ20年で3~4倍になっていると言われています。この原因は食事の欧米化、少子高齢化などいろいろなことが言われています。

国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計」(全国がん罹患モニタリング集計)

その診断方法

子宮がん健診は、市町村での集団健診やドックのような個人健診など、いろいろな実施の機会があります。しかし、集団検診などの一般的な健診で実施されているのは、子宮頸がんの検査のみであることを皆さんはご存じでしょうか?

不正出血がある、月経が不規則であるなどの一定の条件を満たした場合や、本人が希望した場合などを除き、子宮体がんの検査までは実施されていません。そして、子宮頸がん健診では、子宮体がんを見つけることはできないのです。

子宮体がんの診断は、子宮体部から細胞を採取してくることが必要です。頸部の検査より、子宮の奥から細胞をとるので、場合によっては痛みや出血を伴います。ですから集団検診では実施できず、人間ドック施設や医療機関で行われます。

その治療方法

子宮体がんは不正出血が主な症状であり、これを見逃さなければ、早期がんで見つかることが多い疾患です。早期であれば、手術だけできちんと治すことができます。手術では子宮や卵巣、卵管などを摘出します。卵巣・卵管は子宮体がんが転移しやすい場所です。また子宮に近いリンパ節も摘出して、転移がないかどうかを確認していきます。

早期がんであれば、今は腹腔(ふくくう)鏡下手術も可能で、小さいキズで身体への負担も少なく治療することができます。しかし、進行してしまうと、手術だけで治すことができず、抗がん薬治療や放射線治療などが必要になります。症状を見逃さず、早期に受診して診断を受けることが大切です。

ドクターから一言

子宮体がんは早期に見つけることができる疾患です。早期であれば、例えがんになっても完治が可能です。健診を受けることはもちろん大切ですが、閉経後不正出血など、些細(ささい)と思われる症状を見逃さず、心当たりの症状があった場合は医療機関に相談しましょう。(筑波メディカルセンター病院 婦人科診療科長)

電動自転車に補助金 免許返納後の「足」になるのか【公共交通を考える】5

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つくば市の購入費補助を活用して電動アシスト自転車を購入した森の里自治会長の倉本茂樹さん(81)。「団地内の自警団パトロールが楽になった」という

つくば市は今年度、70才以上の市民を対象に、電動アシスト自転車購入費用の4分の3を補助する事業を行った。自家用車に代わる移動手段の確保と社会参加の促進、健康増進が目的で、高齢者500人の申し込みを見込んで3675万円の予算が割り当てられた。12月6日現在で補助金申請は約300人、概算で約1630万円分になった。

運転免許を返納した後の新たな交通手段として、電気がアシスト(手助け)してくれる電動自転車を購入する人がいる。こぐのに疲れると電動アシスト自転車を購入したり、「これは楽だよ」と勧められて乗り始める。だが自転車は体をガードしてくれるものはなく、高齢者が自転車事故に巻きこまれる心配もある。

交通安全講習受講が条件

補助を始めた市高齢福祉課によると、市が実施する交通安全講習を受講することを条件に、2輪車購入の場合、上限5万円、3輪車には上限12万円を補助している。2022~23年度に運転免許証を自主返納した人が2輪車を購入するとさらに1万5000円、3輪車購入の場合は3万円を上乗せする。加えて自転車用ヘルメットを同時に購入すると上限2000円が補助される。

市庁舎で行われた交通安全講習会は560人の参加を見込み、5月から11月までの14日間で合計28回(午前と午後の開講で1回20人まで)開催された。自転車メーカーによる座学と、市役所敷地内で電動アシスト自転車5台を使った試乗と実技講習が実施された。講習会を受講したのはこれまで計364人で平均年齢75.7歳、最高年齢は94歳の男性だった。

講習会を受けた364人中、実際に電動アシスト自転車を購入したのは今月6日現在、8割を超える約300人(2輪車250台、3輪車50台)。このうち約40人が運転免許証返納の補助申請を行った。ヘルメット購入の補助を併せて計約1630万円の支出になるという。

市防災交通安全課の非常勤職員で交通安全教育指導員3人が実技講習を担当した。指導員の廣瀬明子さんは「電動アシスト自転車は一般の自転車と比べて重く、バランスを崩すと車体を戻しにくい。両足がきちんと地面に着くのか試乗してもらったり、ペダルの踏み加減など安全な乗り方を体験してもらった。また、70歳以上の人が乗る自転車は歩道を走っても良いが、歩道は基本的に歩行者のもので自転車は車道寄りを走ること、道路の斜め横断は違反になること、交差点を右折する場合は原則、交差点をいったん直進して止まり右側に向きを変えて進む『2段階右折』とするなどの交通ルールを説明した」と話した。

市高齢福祉課によると、参加者からは「受講して自分に合う自転車のサイズが分かった」、「自転車の運転を見直す機会になった」とする高齢者がいた一方、「(身体が思うように動かず自転車の)運転は無理」と諦めた人もいたという。同課の日下永一課長は「試乗体験は大事で、安全を確認した上で申請してもらうために講習会を実施している」とした。購入費補助事業は来年度も実施する方針だ。

小さい乗り物にシフト

同市あしび野在住の稲川誠一さん(79)は、小学生の登校を見守る立哨(りっしょう)活動や自主防犯ボランティアとして活躍している。6月の講習会を受講した後に体調を崩して電動アシスト自転車の購入はかなわなかった。運転免許証は返納していない。

稲川さんは「交通安全教室が保育園や小学校などでしか開催されてない現状では、自転車が軽車両であり、道路交通法でルールが決められていることがあまり知られていない。それだけに講習会は有意義だと思う」とした上で「以前は、高齢者が乗る自転車はフラフラして危ないし、どんな動きをするか、最悪を考えて自家用車を運転していた。今は高齢になると行動範囲が狭くなって小さい乗り物にシフトしていくものだと分かった。自転車と自動車がお互いに譲り合うことが大切だと思う」と話した。

サドルの下にバッテリーがついた電動アシスト自転車=つくば市松代の自転車店

転倒の心配ない三輪自転車に補助

土浦市では高齢者に限らず、市民や子育て家庭の日常の移動手段を確保するため、転倒の心配が少ない三輪自転車と、幼児2人同乗用自転車購入費用の一部を補助している。いずれも自転車購入金額の半分を補助するもので、三輪自転車は2万5千円が上限。幼児2人同乗用自転車は3万円が上限だ。

三輪自転車の購入費補助は今年度から始まった。電動自転車だけではない三輪自転車も補助の対象となっている。土浦市都市計画課によると、今年度の予算額は25万円。11月末の時点で8人の申し込みがあり、今月12月の時点で残り約2台分の予算が残っている。募集開始直後は多くの問い合わせがあり、現在も数件の問い合わせを受けている。来年度の三輪自転車の補助は未定。安全走行のための講習会は実施していないが、購入前に必ず試乗することを呼び掛けている。(橋立多美、田中めぐみ)

終わり

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新しいまちでテーマ型コミュニティーをつなぐ《けんがくひろば》1

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「けんがくハロウィン」表彰式(筆者提供)
島田由美子さん

【コラム・島田由美子】10月最終日曜日の夕暮れ時、子供たちが作ったパンプキンランタンがほのかに輝く下、仮装コンテストのグランプリが発表された。ピザに扮(ふん)した少女がディズニーペアチケットを満面の笑みで受け取り、TX研究学園駅周辺地区(私たちは「けんがく地区」と言っている)の活動団体が連携して実施した「けんがくハロウィン2023」が終了した。

地縁的コミュニティーの代わりの存在

けんがく地区はTX開通後18年で人口が2万人以上となった。その間、つくば市新庁舎の開庁、義務教育学校・小中学校の開校、多くの商業施設の開業などを経て、まちとして順調に成長している。しかし急激なまちの発展には課題も多い。

市内TX沿線では、居住年数5年未満の住民が全体の3分の1以上を占め、働き盛り世代が多いこともあって、地縁型コミュニティーである区会の加入率は38%と低く、人口20万~30万人都市の平均65%(2021年総務省調査)の半分程度である。

地縁的コミュニティーの代わりとなる存在として、テーマ型コミュニティーがあり、けんがく地区では駅前花壇づくり、シニアサロン、子供の遊び場づくり、ごみ拾い、ウォーキング、桜の植樹・維持を行う団体などが誕生し、活動を行っている。地縁的なつながりが希薄なけんがく地区で、地域の課題を解決していくには、これらテーマ型団体やそのメンバーが連携し、地域の当事者となって地域全体を考えた活動をすることが求められている。

2回目の「けんがくハロウィン」

けんがく地区で活動する団体の多くは歴史が浅い上、団体同士のつながりがほとんど見られず、多様で多世代に及ぶ交流が少なかったが、この数年、団体間の連携・交流を育む動きが活発になってきている。ワークショップや交流会などを経て、連携づくりのツールとしての「けんがくさくらまつり」「けんがくハロウィン」が開催され、その試みは第1回つくばSDGs大賞を受賞した。

第2回となった今年のハロウィンでは5つの企画が実施された。子供たちや親子連れに商店を訪れてもらい地域にどのような店があるかを知ってもらうトリックオアトリート、交通安全クイズラリーやパンプキン色のゴミ袋を使ったごみ拾いやクラフト、そして商店や企業から賞品を提供してもらった仮装コンテストである。

その運営の特徴は、活動団体や商店、企業、公的機関など多様な主体の連携と、活動団体の負担の極小化である。団体のリソース(人材、知識、情報、ノウハウ、人的つながり、物品など)を共有・活用して、負担を軽くした。例えば、ごみ拾い団体がごみ拾いやごみ袋クラフトを担当したり、交通安全母の会が警備を行ったりするなど、各団体が普段行っていること、得意としていることを生かすようにした。

多様な団体が強みを生かし連携

当日は天候にも恵まれ、1000人を超す来場者があり、参加者も実施者も協力店舗も楽しめるイベントとなった。「けんがくハロウィン」の実施を通じて、各団体の実態や得意不得意を互いに認識し、顔なじみの関係を構築して、緩い組織化を達成することができた。

新しくできたまちでは地縁型コミュニティーが醸成されるまで時間が必要とされるが、それまでのつなぎとしてテーマ型コミュニティーが連携することで代替できるのではないかと考えられる。多様な団体が連携し、それぞれの強み・得意を生かすことで各々が成長し、それがまちの成長につながっていくと確信している。

この欄「けんがくひろば」では、けんがく地区で活動する団体や連携して開催するイベントを紹介していく。(けんがくまちづくり実行委員会代表)

【しまだ・ゆみこ】けんがくまちづくり実行委員会代表、研究学園グリーンネックレス タウンの会代表。本業は海外映画・ドラマの字幕翻訳。TX研究学園駅地区に移り住んだことをきっかけに、まちづくりに興味を持つ。まちづくり活動を行いながら、現在、筑波大学大学院システム情報系非常勤研究員として、都市計画の研究に携わっている。

子どもたちに科学の楽しさを 筑波大でサイエンスキャンプ

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日下博幸教授による気象学の講義を受ける小中学生=筑波大

筑波大学(つくば市天王台)で27日、科学に興味を持つ38人の小中学生を対象に「冬のサイエンスキャンプ」が開催された。今年8月の夏のサイエンスキャンプに続き2度目となる。今回は、同大教員らによる気象学と化学の授業が催され、受講生は実験を通して科学を身近に体感しながら理解を深めた。

サイエンスキャンプは、未来の理系人材を育成するためのプログラム「つくばSKIP(スキップ)アカデミー」の一環として、同大社会連携課SKIP(スキップ)事務局が中心となり開催された。同大を含め全国の約20機関で同様のプログラムが開催されており、理科離れを引き止める狙いがある。

同アカデミーは2017年から始まり、今年で7年目。コロナ禍を乗り越え、昨年度から対面での実施が再開された。今年6月の筆記試験を経て、小学5、6年生と中学生の男女40人が受講生として選抜され、理科が好きな生徒や、将来科学技術の分野で活躍したい生徒などが集まった。半数以上が県内から参加し、県外の関東圏からの参加者も目立った。

受講生は9カ月の間、社会問題と関連した科学に関する幅広い分野を学習する。これまで、同大構内の生態系調査、プログラミング、化石発掘実習、画像制作などを体験し、今年9月の「個人研究発表会」では、受講生各自が興味を持った内容をもとにテーマを設定し、研究成果を発表した。

スーパーコンピューターを見学する小中学生=同大計算科学研究センター

27日の気象学の授業では、日下博幸同大教授による講義と実験が行われた。受講生は、スーパーコンピューターの計算により、日々の気象予測がなされることを学習し、同大計算科学研究センターに設置されているスーパーコンピューター「シグナス」を見学したほか、水と入浴剤、スマートフォンのライトを使い、夕陽のメカニズムを研究する実験や、真空容器に入ったマシュマロが空気圧により膨らむ様子を実験した。

屋外では、受講生は同大院生らと協力し、風速計を使って風の大きさを数値化し、サーモグラフィーカメラで光と陰、アスファルトと芝生というように条件によって変化する温度分布を観察した。また風の流れに乗って風船が動く様子を望遠鏡で観察し、風の向きや風速など目には見えない大気の様子を観察した。

大学院生と協力し屋外で温度分布や風の動きなどを観察する受講生

神奈川県から参加した中学2年の女子生徒は、日下教授によるマシュマロと気圧の実験について「空気圧によって、マシュマロが膨らむ様子が面白かった」と話した。東京から参加した小学5年の男子児童は、夕陽のメカニズムを研究する実験が成功した様子を振り返り「夕陽をきれいに再現できたのがよかった」とし、将来については「科学が好きなので参加した。学びの中で興味を持った海洋生物学者を目指したい」と話した。

プログラムは修了式が行われる3月まで実施される。(上田侑子)

高齢者がスマホ予約に挑戦 AIで乗合タクシーを便利に【公共交通を考える】4

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スマホ操作を学ぶ説明会に参加した高齢者と、操作方法を教える市職員ら=つくば市小茎の茎崎交流センター

高齢化が進むつくば市茎崎地区を対象に12月1日から、同市が運行する乗合タクシー「つくタク」のスマホ予約実証実験が行われている。スマートフォンで専用アプリを開き、乗車時間と場所、目的地を入力して予約すると、AIが自動生成したルートで複数の客を乗せながら効率良く目的地まで運行するという実験で、AIオンデマンドシステムと呼ばれる。来年2月29日まで3カ月間実施される。

「分からない」手を挙げる人続出

実証実験に先立ち11月21日、茎崎交流センターで、自分のスマートフォンからネット予約するための説明会が開かれ、60代から80代の高齢者56人が市職員らのサボートを受けながらネット予約に挑戦した。

つくタク利用者の8割を高齢者が占める。アプリを用いた予約に慣れてない高齢者が説明会に集まった。説明会は、高齢者が自分のスマートフォンに、QRコードからアプリをダウンロードすることから始まった。会場から「分からない」と手を上げる人が続出し、サボートにあたった市職員ら8人が1人ひとりに向き合って操作を支援した。

参加した同市自由ケ丘の民生委員で70代の男性は「みんなに教えないといけないから」と、前かがみになりながらスマートフォンの画面に目を凝らした。森の里の谷中絹代さん(80)は「外出にはつくタクを利用している。予約は当日利用が朝8時半から、当日以外は正午からと決められていて時計を見ながら予約している。操作ができると予約が便利になると聞いて来たが、インストールとかタップとか用語が分からないし難しい」と話した。

実証実験を推進する市科学技術戦略課は来年1月10日まで、同センターのほか茎崎地区の各所でスマホ相談会を開いて普及に努めている。森の里の自治会長、倉本茂樹さん(81)は「つくタクを利用するのは75歳以上の後期高齢者が多くを占めると思う。スマホ操作に不慣れな状況を踏まえて、高齢者でも使いやすいシステムにしてほしい」と、操作に不安な高齢者をおもんばかった。

25年度にネット予約導入

茎崎地区を運行する8人乗りのつくタク車両

国交省の「スマートシティモデル事業」に選定された同市は、筑波大学、KDDIをはじめとする47機関で構成する「つくばスマートシティ協議会」(会長・大井川和彦知事、五十嵐立青市長)を設立。先端技術を取り入れて都市が抱える問題を解決する事業に取り組んでいる。つくタクの実証実験は、市と同協議会、AIを活用した効率的な配車システムのノウハウを持つ民間企業との連携事業で実施されており、同地区で使用されている8人乗りジャンボタクシー3台のうち1台が実証実験に使われている。

つくタクは現在、市内5つの地区(筑波、大穂・豊里、桜、谷田部、茎崎)ごとにオペレーターが電話予約を受け、2011年の運行開始以来、人手作業による配車を実施している。運行は1時間に1便で平日の午前9時台から午後5時台まで。年約4万4000人が利用し、そのうちの8割が高齢者で買い物や通院目的での利用が主体となっている。

同課がまとめた今年4~8月のつくタク利用実績によると、利用者数は5カ月間で2万590人で、前年度同期と比較して158人(0.7%)増えている。月別利用者数や地区別の1時間毎の利用者数などは地区によって増減が見られる。乗合率は全地区平均で52%(昨年は51%)と、ほぼ半数が1人での利用となっている。

一方、全ての地区で予約のお断り数が増加してキャンセル待ちが生じており、利用者からは「予約をとるのが面倒」「予約センターが混み合い、予約できない」など改善を求める声が挙がっている。

茎崎地区では3カ月間にわたる実証実験の後、利用者数や運行距離などのデータ、利用者とつくタクを受託している事業者の感想や要望などを元に検証が行われる。つくタクの運行を担当する市総合交通政策課は、現状の人手による電話予約に加えて2025年度から、24時間いつでもネットで予約受け付け可能なAIオンデマンドシステムを導入することを検討している。(橋立多美)

続く

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ヤキモチ焼の女房《短いおはなし》22

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イラストは筆者

【ノベル・伊東葎花】

むかしむかし、たいそうヤキモチ焼きの女房がいた。

亭主は団子屋を営んでいたが、女の客が来るたびに女房が目を光らせるものだから、やりにくくて仕方ない。

「多少のヤキモチならかわいいけど、うちの女房は度を越している。何とかならないでしょうか」

亭主は、村の長老に相談をした。

「若い女に道を聞かれただけで、すごい剣幕で怒るんです。商売にも差し支えるし、何かヤキモチを抑える薬はありませんか?」

長老は、「そういえば」と棚の奥から何やら茶色の瓶を出してきた。

「これは、都の商人から買ったものだ。確か、ヤキモチ焼きが治る薬だ」

「ほう。そんな薬が本当にあるんですか」

「試したことはないが、おまえさん、ひとつ使ってみなさい」

亭主は、長老から二回分の薬を分けてもらった。

さっそくその夜、女房と差し向って酒を酌み交わした。

もちろん女房の酒には、長老からもらった薬が入っている。

「一緒に飲もうだなんて珍しい。やましいことでもあるんですか?」

「いいから早く飲め。なかなかうまい酒だぞ」

女房は「ふん」と鼻を鳴らして酒を飲み干した。あとは効き目を待つだけだ。

翌朝、店の準備をしていると、通りかかった若い女が石につまずいて転びそうになった。

亭主はさっと手を差し伸べて女をかばい、一瞬だが抱き合うような格好になった。

「まずい。女房に怒られる」

振り返ったが、女房は店の奥で何事もないように団子を並べている。

亭主は店に戻り、「おい、今の見てなかったのかい?」と聞いた。

「見てましたけど、それが何か?」

あんな美人に女房がヤキモチを焼かないわけがない。

なるほど、薬が効いたんだな。亭主は、心の中で万歳と叫んだ。

そのあとも、女房はさっぱりヤキモチを焼かない。

団子を買いに来た女と手が触れても、近所の若奥さんと話し込んでも、見ているだけ。

あんまりヤキモチを焼かれないのも、何だか物足りない。

亭主は昔なじみの芸者を家に呼んだ。

女房の目の前でいちゃつきながら酒を飲んだが、女房はさっぱりヤキモチを焼かない。

あきれたような顔で見ているだけだ。

そっけなくされると、今度はやけに女房のことが気になるものだ。

亭主は、女房が若い男と話したり、男の客に笑いかけるのが何とも許せなくなった。

「いかん、いかん。俺がヤキモチ焼きになっちまう。そうだ。あの薬が一回分残ってたぞ」

その夜、女房と酒を飲んだ亭主は、自分の酒にあの薬を一滴たらした。

「しかしおまえは、ヤキモチを焼かなくなったね」

「そうですか?」

「そうさ。この前も、女を家に連れてきても何にも言わなかったじゃないか」

「女って…いくら私でも、メス猫にヤキモチは焼きませんよ」

「メス猫?」

「ええ、まったくあなたの動物好きにはあきれますよ」

その時、長老が訪ねて来た。

「おい、この前、渡した薬、間違えた。あれは女が人間以外の動物に見えちまう薬だった」

「何だって?」

亭主が振り向くと、そこには酒をうまそうに飲むメスのタヌキがいた。(作家)

学級増「志願状況みて個別対応」 つくばの県立高校不足問題 

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県教育庁に要望書を提出し、担当職員(左側)につくばの高校進学の実情を訴える「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」の片岡英明代表(右から3人目)ら=県庁

市民団体要望に県教育庁 9校でシミュレーションも

人口増が続くつくば市に県立高校が少ない問題で、県教育庁高校教育改革推進室の増子靖啓室長は27日、2025年度以降のつくばエリア(つくば、つくばみらい、守谷、常総、牛久市の一部)の県立高校の学級数をどうするかについては、現在県が策定を進めている県立高校改革プラン実施プランⅡ期(24~26年度までの3年間)に反映させ位置付けるのではなく、「直近の志願状況などを見極めた上で(学級増を検討するなど)個別に対応したい」と述べるにとどまった。

一方、県は今年度、つくばエリアにある全日制県立高校9校(牛久栄進、筑波、竹園、つくばサイエンス、石下紫峰、水海道一、水海道二、守谷、伊奈高校)を対象に、①学級増をするとしたら現状で教室が足りるのか②教室がない場合、敷地内に増築するスペースはあるのか➂増築するとしたら概算でいくらかかるのかなどのシミュレーションを実施したことを明らかにした。結果については内部調査であることから公表する予定はないとしている。

つくばエリアや周辺では2023年度につくばサイエンス高の定員が2学級(80人)増、24年度は牛久栄進高が1学級(40人)増、筑波高に進学対応コースが新設されるなど、対応が始まっている。一方で土浦一高や水海道一高に中高一貫クラスが導入されたことから、つくば市の市立中学卒業者の県立高校受験は事実上、より厳しくなっている。

エリア間の入試格差解消を

市民団体「つくば市の小中学校の高校進学を考える会」(片岡英明代表)が同日、森作宜民県教育長宛てに要望書を提出したのに対し、増子室長が回答した。要望書は、11月に同会が開いた教育フォーラム(11月12日付)で協議された意見などをもとに提出された。

要望書は、現在県が策定を進めている県立高校改革プラン実施プランⅡ期につくばエリアの実情を反映させ、つくばエリアの募集枠に対する全日制県立高校の定員(現在は47.5%)を県平均レベル(69.3%)まで引き上げることなど、県内エリア間の高校入試の募集枠の格差解消を求めた。具体的には県平均と同レベルにするには現状で15学級、7年後の2030年にはさらに10学級増が必要だと指摘し、竹園高校を2学級増やす、牛久栄進、土浦一、土浦二高の10学級化を目指す、つくばサイエンスに普通科を設置する、土浦一や水海道一など伝統校の県立中学の設置に伴う高校定員削減を止めることなどを要望した。

ほかに、学科を新設する場合は生徒や保護者にアンケートをとること、遠距離通学者への補助やスクールバス費用の軽減などを要望した。

要望書を受け取った県教育庁の増子室長は、県立高校改革プラン実施プランⅡ期について「つくば地域以外は中学校卒業者の数がどんどん減っており、実施プランⅡ期のメーンは(県北地域などの)小規模校への対応の検討になる」などと答えた。

同考える会の県要望は5回目、今年度は3回目の要望活動になる。(鈴木宏子)

バス廃線後利用者3倍 住民主体で送迎サービス【公共交通を考える】3

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イオンモール土浦に向かう「買い物乗合」に乗車する利用者(左)と運転者=つくば市下広岡の桜ニュータウン内、広岡交流センター駐車場

水曜日の午前10時50分、つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンのほぼ中心にある市広岡交流センターの駐車場に、買い物バッグを手にした高齢の女性たちが集まってくる。ショッピングカートを押してくる人もいる。

桜ニュータウン高齢者等送迎システム「さくら」(中澤哲夫代表)が運行している「土浦イオン買い物乗合」で、毎週水曜日にワゴン車や乗用車に同乗して4キロ離れた大型商業施設、イオンモール土浦に向かう。利用者は思い思いに買い物やランチを楽しんで車に戻り、午後1時に桜ニュータウンに帰る。運転者は重い荷物と一緒に利用者を自宅まで送り届けている。

時々利用しているという87歳の女性は「山口県から娘の家に引っ越してきたので知った人がいなくて寂しかったが、買い物乗合を使うようになって顔なじみの人ができた。車内でのおしゃべりが楽しくて‥」。「夫と買い物に行くと急かされて落ち着かない。買い物乗合はゆっくり買い物できてストレス解消にもなる」という人も。

予約の必要はなく、料金は1回100円。乗車する時に運転者に支払う。毎週3~5人が利用し、そのうちの9割が女性だという。

キロ20円、土日祝日問わず朝8時から夕6時

高齢者等送迎システム「さくら」は、バス廃線問題に立ち上がった自治会の下部組織「桜ニュータウンのこれからを考える会」が、廃線問題が持ち上がる前の2020年に、高齢化が著しい桜ニュータウンには共助によるサボート体制が必要とスタートさせた。

65歳以上の高齢者と障害者、運転免許を返納した人が対象で、自家用車で利用者の自宅と目的地の間を往復する。第2種免許がなくても送迎できる国の制度を活用している。会員制の組織で、桜ニュータウンに住んでいる利用会員と協力会員(運転者)、賛助会員で構成されている。運行を開始した20年4月は新型コロナの流行が拡大した時期だったが、20人が利用会員となり、コロナ禍でも送迎は休みなく続けられてきた。

同団地とつくば駅を結ぶ路線バス「桜ニュータウン線」が廃止されると、外出が不便になった住民が送迎システムに関心を寄せ、利用会員は3倍の63人に増えた。運行開始から今年11月29日までの利用者は延べ507人を数える。行き先で多いのが病院または診療所だという。運転者は10人。すべて住民が担当している。

運転者のスケジュール表

土日祝日を問わず午前8時から午後6時まで運行し、片道15キロの範囲で利用できる。予約方法は、利用会員が、自宅に届いた1カ月間の運転者10人のスケジュール表を見て、希望する時間帯が空いている運転者に電話する。利用者が増えたことで申し込みが重なり、予約が取れないなどのトラブルは今のところない。

料金はガソリン代としてキロ20円に設定され、例えば片道7キロの場合は往復で280円という低料金で運行されている。月初めに前月分を事務局が集金し、送迎実績に応じて運転者に支払う仕組み。予約不要で乗り合いの「土浦イオン買い物乗合」は、利用するたびに運転者に支払う。賛助会員からの会費や寄付金を活用し、送迎中の事故を補償する保険に加入している。

バスが消えるなんて想像してなかった

利用会員の男性(80)は「桜ニュータウンの欠点は交通の不便さで、高齢者にとってますます増える病院通いは、診療費よりも交通費の方が高くなることがしばしば。これを救ってくれたのが『送迎システムさくら』で助かっている」という。

代表の金子和雄さんは「長年この地域に住んできて路線バスが消えるなんて想像もしていなかった。公共交通の利用者は減少傾向で、いまはバスがある地域の人も『自分の身に降り掛かるかもしれない』と考えてほしい。だれもが他人任せにせず、地域の交通について考えるとき」だと話した。(橋立多美)

続く

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「かかし送り」火と子どもたち《宍塚の里山》108

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写真は筆者提供

【コラム・阿部きよ子&江原栄治】私たちの「田んぼの学校」では、夏に田んぼの周りに立てたかかしを燃やす行事を「かかし送り」と名づけて、毎年実施してきました。12月9日、担当係の子どもたちが「かかしさんありがとう」「かかしさんさようなら」の垂れ幕を作って、エノキの大木に登って下げました。

昼過ぎ、集まってきた親子は、自分が作ったかかしを田んぼから運んで解体し、可燃物と不燃物を分けました。第1部:垂れ幕の前の広場で「かかし」の歌、踊り、言葉。第2部:子どもたちは学生さんたちと鬼ごっこなどで遊び、大人はたき火と食材の管理。第3部:食べる時間です。

焼きリンゴは「アップルパイみたい」。「えっ、ミカン焼くの?」の声もあった焼きミカンも好評。焼きサトイモ、焼き大根には会特製のみそをつけ、畑で育てたサツマイモの焼き芋は甘くねっとり。途中で子どもたちは、栗のイガを集めてきて、線香花火のような美しい火も楽しみました。

火に近づけるようになってから、各自が笹の串にさしたソーセージ、最後にマシュマロをあぶって食べました。

幼児から中学生までが協力する姿、力いっぱい遊ぶ姿、おいしい食べ物にニッコニコの子どもたちに出会える喜びは、私たちスタッフのエネルギー源です。ただ、燃えている炭を踏みそうになったり、煙の方向を読めないなど、子どもたちが火、炎、煙に未経験なことが気になります。

「良い火」ってどんな火だろう?

以下、たき火担当の江原さんから届いた文の一部です。

冬の寒い朝、田んぼの学校の広場で1人たき火をしながら待っている。予定の時間より早くやって来る幼いお客さんたちの体を、静かにこう温めてやりたいのだ。「ワーイ、火が燃えている」と走り寄ってくる。

パチパチと音を立てながら美しく燃える火を、しばらく一緒に見詰める。その幸せを破って「君たち、火に悪い火と良い火があるのを知っているかい? オレ様は燃えてるぜ!と周囲の迷惑に気づかずに得意になって燃えているヤンチャな火を何と呼ぶか?」「それは火事だ」と子どもたち。

「良い火」ってどんな火だろう? おいしい料理を作るとき助けてくれる火、お風呂を温めてくれる火、エンジンや溶鉱炉の中で燃えている火や、寒い日、私たちを温めてくれる大空の日(太陽の火)。火に感謝しよう。

着火し、火を育て、火の世話をする、そんな体験をしてほしいと、孫にマッチを渡したら、地面にベタにまきを置き、その上にこっぱや杉の落ち葉、一番上に新聞紙を置いて上から火をつけようとした。

「ああ、お前もか!」。若い親ごさんたち、気を付けてください。便利になればなるほど、基礎能力が低下・劣化してきている面があることを。アブナイね、アブナイです。火に親しみ、敬意を払い、感謝し、コントロールする技術を子供のころから身につけてほしい。(宍塚の自然と歴史の会 会員)

<注意> 野焼きは原則禁止です。会では消防署に事前に届けを出して「かかし送り」を実施しています。

バス路線が突然廃止 その時住民は【公共交通を考える】2

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バス路線廃止問題に取り組む「桜ニュータウンのこれからを考える会」の(左から)阿部眞庭さん、金子和雄さん、伹野恭一さん=つくば市下広岡、桜ニュータウンバス停

つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンで今年1月31日、同団地とつくばセンター(つくば駅前)を結ぶ「桜ニュータウン線」が廃止となった。関東鉄道が運行する路線バスで、売り上げの減少が廃止の理由だ。

廃止の方針を聞き、2017年から同団地自治会の下部組織として活動しているまちづくり団体「桜ニュータウンのこれからを考える会」(金子和雄、阿部眞庭共同代表)が立ち上がった。

コロナ禍で利用減、年561万円の赤字

同団地は土浦市に隣接し、今年4月現在1244人が暮らしている。1979年に分譲が開始され、働き盛りの世帯がこぞって入居した。入居から約40年を経て団地全体が同時に老いることになり、高齢化率は市平均の19.2%を大きく超え51.7%に上る(5月1日現在)。

団地のほぼ中央にバスの回転場を備えた起終点の停留所があり、第1期の入居者が住み始めた時から現在に至るまで、土浦駅までの路線バスの起点及び終点となっている。入居当時、都心への通勤手段は常磐線で生活全般が土浦に向いていた。05年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業すると生活圏がつくばに向かい、つくば駅と接続するバスターミナル、つくばセンターへのバス路線を望む声が上がるようになった。

06年4月につくば市のコミュニティーバス「つくバス」の運行がスタートしたが、地域循環ルートでつくばセンターまで時間がかかる上に便数も少なかった。5年後にルートを見直し、関東鉄道が運行する路線バス、桜ニュータウン線になった。廃止直前は平日9本、土日祝日は2本が運行していた。

桜ニュータウン線の廃止は、21年11月に市総合交通政策課と市議でもある同会代表の金子さんが、当時の関東鉄道自動車部長の訪問を受けたことから始まった。同年12月20日、関東鉄道は県バス対策地域協議会に22年6月30日をもって廃止を申請。新型コロナの影響で利用客が大幅に落ち込み、22年度以降に運行する場合の経常収支は年間561万円の赤字になるとし、路線の維持は厳しいというのが理由だった。年が変わって22年2月1日の同協議会で廃止申請案が審議され、路線沿線住民の意見を確認できていないことを理由に廃止決定はいったん保留となった。

桜ニュータウンのバス通り。現在は土浦駅行きの路線バスのみが運行する

2060戸にアンケート、廃止なら交通難民

同会は、沿線住民の利用実態と意見を聞き取るアンケートに乗り出した。104の区会を束ねる桜地区区会連合会にバス路線廃止の動きを説明し、アンケートへの協力を依頼。桜ニュータウンの3区会を含む路線沿線の21区会2060戸を対象に4月3日から5月8日までの期間でアンケートを実施した。回収枚数は724枚で回収率35.1%だった。

集計した結果、外出時の移動手段に桜ニュータウン線のバスを利用していたのは146人で、このうちの半数を桜ニュータウンが占めていた。また、廃線後の移動手段を聞いた項目では「廃線されると目的地まで移動できない」を選択した人は11人いて、7人が桜ニュータウンの住民だった。同団地の住民にとって、つくばセンターに向かうバスは重要な公共交通で、廃止されると「交通難民」になりかねない状況が浮かび上がった。

自由記載欄には▽今は運転しているが、この先が心配で免許返納に踏み切れない▽通院できないので困る▽老人は家に閉じこもるか、便利な地域に引っ越すしかない▽減便になってもいいのでなくならないでほしい▽通勤通学の時間だけでも運行してほしいーなど、廃止への困惑と不安、存続の訴えが書き込まれていた。アンケートの報告書はつくば市を通して同協議会に提出された。

22年8月26日に開かれた協議会で、保留となっていた桜ニュータウン線の廃止申請案が審議された。アンケート報告書によって沿線住民が存続を切望していることが認知されたが、廃止が決まり、翌23年の1月31日で運行を終えることになった。

代替交通を提案「市に希望託すしか」

同会のメンバー伹野恭一さんは「ここだけの話ではなく、売り上げの減少や乗務員の人手不足を理由にした廃線や減便が全国で問題になっている。関東鉄道の採算を考えると受け入れるしかないと思った」と当時を振り返る。

通勤や通学に桜ニュータウン線を利用していた人は、廃止になる前は、つくばセンターまで1本のバスで行くことができた。今は最寄りのバス停まで1キロの距離を歩いて2本のバスを乗り継ぐか、土浦駅行きのバスに乗車して乗り換えるルートを使うしかない。いずれも大幅にう回するルートで、25分だった所要時間が倍以上になって運賃も高くなった。

廃止が決まるまで、同会は市や桜地区区会連合会と何度も話し合うなど、粘り強く桜ニュータウン住民の意識を伝える努力をしてきた。廃止を受け入れた後も、活動の手を緩めずに代替交通の確保に取り組んでいる。

会が提案する代替案は、通勤通学客を輸送する朝晩の定時マイクロバスの運行と、商業施設を経由してつくばセンターに至る新たなバス路線だ。市と協議を進めており、代表の阿部眞庭さんは「市に希望を託すしかない」と話す。(橋立多美)

(続く)

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私の定番、あれこれ《続・平熱日記》148

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絵は筆者

【コラム・斉藤裕之】セーターというものを着なくなった。代わりに着るようになったのはフリース。今や冬の定番。私にとっては動物の冬毛のようなもので、春までずっと着っぱなし。しかも何年も同じものを着ているので、肘の辺りがすり減ってみすぼらしい。というわけで近くのリサイクル店に探しに行ったら、運よく同じようなものを見つけた。

若いころ古着屋でバイトをしていたこともあって、セカンドハンドには何の抵抗もないのだが、持って帰って着てみたら結構いい香りがする。色や形、着心地は申し分ないのに…。古着を買うときの基本中の基本、なぜ匂いをチェックしなかったか。体臭というよりも何だろう? 満員電車で嗅いだことのある…、整髪料? 香水?

とにかく激しいおじさんの香り。おじさんが着るのだからいいようなものだが、生理的に無理な匂いだ。まずは重曹に漬けてみたが、頑固なおじさんの匂いは全く取れない。

定番といえば、いつも買っていた靴下がホームセンターから消えた。ネットで検索しても出てこないところをみると、製造中止になったのだろう。綿と化繊の割合とか厚さとかが絶妙で、履き心地が良くて好きだったのに。

それからTシャツも。老舗メーカーの3枚組のものだが、最近見かけなくなった。肌着だからこそのこだわりがあって、例えばちょっとした丈の長さとか。しかし、こちらの定番はネットで見つけてポチっと注文できた。

おじさん臭は残るが許容範囲

冷凍庫の定番だったお気に入りのアイスクリーム。いつものスーパーにない。フルーツと小豆のツブツブ入りで一箱6本入り。系列の別の店舗にも売っていない。店員さんに聞いてみようかと思ったのだけれども、それが聞けないのがおじさん。

さらにここにきて、いつも使っていた一番安価な定番の子供用の紙粘土が見当たらない。フワフワしたソフトなものに代わっている。手は汚れないが、マシュマロみたいで腑(ふ)抜けた形になってしまう。あの素朴なずっしり重い紙粘土が好きだったのに。

さて、件(くだん)のフリースはどうなったかな。少し長めに酸素系の漂白剤に漬けて、洗濯して干しておいたんだけど…。恐る恐る鼻を近づけてみた…かすかにおじさん臭は残るが、許容範囲。

ちなみに気になってフリースの語源を調べてみたら、「羊一頭から刈り取られた、ひとつながりの羊毛」だそうだ。頭の中には、毛を刈り取られて丸裸になった羊とそれを羽織る私。スマホで語源や由来を調べて、「フーン」というのが昨今の私の定番。

私の定番はさておき、どうやら世の中で定番と言われていた物事もそうではなくなってきている? 万博やオリンピック、紅白に正月、さんま、制服、学校、働き方…ちなみに、最近よく聞く「てっぱん」という言い方は私の中では定番になっていない。(画家)