水曜日, 11月 12, 2025
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ぬか床に山椒 《続・平熱日記》87

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【コラム・斉藤裕之】天気のいい日は八郷(やさと)に出向いて薪(まき)を作る。昼は強い日差しを避け、細い林道に止めた軽トラの中でコンビニのおにぎりを食べる。ふと外を見ると山椒(さんしょう)の実がなっているのを見つけた。そういえば、去年もここの山椒を取って帰ったことを思い出した。

山椒の実はぬか床に入れる。季節柄か、先日もSNS上で「ぬか漬けを始めた」「実家から150年物のぬかを分けてもらった」という投稿を見かけた。無精者としては、ご多分に漏れず何度もぬか床をダメにしている。

最近の失敗から学んだことは「オフシーズンに気をつけろ!」。夏場に悪くなりそうなぬか床だが、最近は冷蔵庫に保管することで管理がしやすい。それに、夏は頻繁に野菜を漬け込むから、ぬか床は元気。ところが、冬に向かってしばらくして油断していると、ダメになっていることが多い。

サステイナブルという言葉を初めて聞いたのは、確か建築関係の用語としてだった。世にはやる随分前だが…。ちなみに、大工の弟は建てる時よりも壊す時のことを考えて人力解体のできる、そして、できる限り土に還る材料や工法で家を建てることを信条とする「持続可能的大工」である。

サステインという言葉にも持続という字にも「手」という意味が入っている。要はヒトの手で持ち続けることができるもの、支えていけること。そして自然の中で循環できること。例えば土に還るということは「腐る」ということだ。手のかからない、腐らないものは一見便利そうだが、それが厄介なのだ。

「ワット・ア・ワンダフルワールド」

そこへいくと、ぬか床はなんとステイナブルなことか。野菜を放り込むだけで微生物が調理をしてくれる。「腐敗」は人間に都合のいい場合は「発酵」と呼ぶらしいが、日本の発酵文化は実にサステイナブルである。例えばプラスチックの鉢で朝顔を育てるのもいいが、小学校でぜひともぬか床を作って、夏休み前に持ち帰らせてほしいぐらいだ。

「伝統とは…した者だけが醸し出す気品であり…」。高校の柔道場の壁に貼ってあった一文。「…」のところははっきりと思い出せないが、「醸し出す」という言葉がカッコイイと思っていた。ぬか漬けの場合、「…」は「毎日かき回した」が適切か。

さてさて、早速、山椒の実をぬか床に混ぜ込んだが、旨味を醸し出すのにはしばらくかかりそうだ。ちなみに、ぬか床をかき混ぜる時は、サッチモ風に「ワット・ア・ワンダフルワールド」を口ずさむ。

人の記憶とは面白いもので、結婚した時すでにカミさんがぬか床を作っていたことを覚えていて、お会いするたびにその逸話を今もってご披露してくれる方がいる。今やそのカミさんも、名実ともに「糟糠(そうこう)の妻」という歳になった。そのカミさんが、今日は青い実を大量に抱えて帰って来た。次女も好きな梅ジュースを仕込むそうだ。梅雨入りが近い。(画家)

自治会が高齢者のワクチン予約をサポート つくば市森の里団地

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インターネットで集団接種の予約の手伝いをする森の里自治会役員=7日午前9時ごろ、つくば市森の里、自治会公会堂

高齢化が進むつくば市森の里の住宅団地で7日、自治会役員らが、一人暮らし高齢者などの新型コロナウイルスワクチンの予約作業を手伝った。同市で高齢者を対象にした集団接種の予約受け付けが同日始まったのを機に、森の里自治会(倉本茂樹会長)が、まだ予約がとれていない高齢者の接種予約をインターネットでお手伝いした。

同市は5月17日から予約が始まり、同24日から市内約100カ所の診療所などで接種がスタートした。一方、電話かインターネットでしか予約をとることができないため、電話がつながりにくかったり、インターネットを利用できず予約がとれないという一人暮らし高齢者の声を、自治会役員らが耳にしていた。

同団地に暮らす住民のうち、65歳以上の高齢者はほぼ半数の約1400人。一人では予約をとることができず、不安を感じていた一人暮らし高齢者が少なくなかったという。

自治会役員らは、市広報誌で6月から新たに、筑波学園病院、いちはら病院、筑波記念病院の3カ所で集団接種が行われることを知り、インターネットで予約をとる作業をサポートすることを決めた。

今月2日、自治会が接種予約のお手伝いをするというお知らせを団地内に回覧。6日午後、団地内の自治会公会堂で申し込みを受け付けたところ、回覧を見て約60人が来所した。役員らは対面で丁寧に話を聞きながら、接種希望場所や希望日時のほか、生年月日や接種券番号などを聞きとるなどして翌朝からの集団接種予約開始に備えた。

自治会にワクチン予約のサポートを申し込む高齢者ら(左側)=6日(倉本茂樹会長提供)

予約開始日の7日は、パソコン計7台を用意して役員10人が自治会公会堂に集まり、午前8時30分の予約受付開始と同時に、インターネットで計60人分の予約を次々にとっていった。午前中までに約60人全員の予約を終えた。

一方、聞き取った生年月日が間違っていたなどハプニングもあり、役員が高齢者の自宅に電話を掛けたり、自宅に赴いたりして生年月日を確認するなどのケースもあった。

予約を申し込んだ高齢者には、その日のうちに電話して接種の日時や場所を知らせると共に、市のコミュニティバス「つくバス」を利用した接種会場への行き方やバスの発着時間などを案内した。

バスに乗って会場に行くことができない高齢者に対しては、近所の人同士が自家用車に乗り合わせて接種会場に行けるようにするなど、さらに手はずを整える。

倉本会長は「なかなかワクチンの予約がとれず不安に思っている高齢者が多かった。予約がとれたのでとりあえず安心すると思う。接種日が決まったので、次のステップとして、近所の元気な人が送迎する環境を整えるなどサポートをしたい」と話す。(鈴木宏子)

バイデン大統領から手紙が来た 《吾妻カガミ》108

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米財務省から送られてきた小切手

【コラム・坂本栄】今回は米国の笑える話です。5月連休に入る前に、米国の財務省から私と妻宛てに封筒が届きました。毎年郵送されてくる年金関係の書類だろうと、封を切ってびっくり。1400ドルの小切手が1枚入っていたのです。妻宛ても同じものでしたから、計2800ドル。米政府からのビッグなプレゼントでした。

よく見ると、小切手の左下に「ECONOMIC IMPACT PAYMENT」と記されています。米バイデン新政権の超大型経済対策の一つ、コロナ禍で経済的打撃を受けた人への給付金だと、ピンときました。1年前に1人10万円ずつ配られたコロナ給付金の米国版です。でも私たちは米市民でないし、今は米国に住んでいないのに、30万円ものおカネをどうしてもらえるのか不思議でした。

米のかなり大ざっぱな給付金配り

1979~83年にかけて私は通信社の記者として米国に住んでいました。同社は在米企業にニュースサービスをしていたこともあり、米政府に法人税を納め、駐在員の社会保険料も払うという現地法人。このため、10数年前に結ばれた日米協定のおかげで、米国で徴収された保険料に見合う年金(毎月数百ドル)を日本で受け取っていました。

どうやら米政府は、この年金支給者データに基づいて、かなり大ざっぱに(米市民か否か在米か否かに関係なく)給付金を配ったようです。その区分までは知りませんでしたから、米政府は太っ腹だな、今夏はこれで山荘でも借りるか、上京したときにドル口座に入れておこう―と思っていたら、この大盤振る舞いはミスらしいということが分かってきました。

「米現金給付の小切手、日本にも誤配 元駐在員らに届く」(5月16日、日経)、「突然、米から1400ドルの小切手 銀行に高齢者から確認相次ぐ 永住権なく換金なら違法」(5月17日、朝日)といった記事が出始めたのです。

米政府のサイトで受給資格を確認

銀行は小切手の受け取りを拒否できないはず、でも入金した後で返せと言われても面倒だな、米財務省の内国歳入庁(IRS)に聞いてみるか、と迷っていたら、米大統領からの手紙が郵便箱に。そこには、米国救済計画に基づいて1400ドルの小切手を送ったので、もし受け取っていなければ、IRSのウェブサイトであなたの資格(status)をチェックしてほしい、と書かれていました。

小切手を受け取ったか確認してほしいということですが、受給資格は自分で確認してほしいとも言っていますから、巧みな文面です。給付区分をよく調べずに送ってしまったかもしれないので、米市民でなかったら返してください―とも読めます。渋々、無効(void)と書き入れ、IRSに送り返しました。今年の夏も、孫たちと市民プールで遊び、アイスを食べ、庭でバーベキュー。そんな過ごし方になりそうです。(経済ジャーナリスト)

宗教法人の社会福祉活動 《介護教育の現場から》7

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専門学校の授業風景

【コラム・岩松珠美】梅雨の季節を迎え、一雨ごとに緑が色濃くなってきた。学校では2年生が、在宅療養する方々の日常生活を援助する訪問介護の実習に行っている。施設実習、在宅実習のどちらについても、1年前から、施設や機関と打ち合わせて準備してきた。

社会福祉の分野では、先の大戦が終わるまで宗教法人が大きな役割を果たしてきた。大戦後、社会福祉は国の責任となり、社会福祉法人が中心となり事業を展開してきた。しかし、ホームレス問題など新しい社会問題が起こってくるなか、宗教法人の「救護思想」が再び存在感を持つようになっている。

日本ソーシャルワーカー倫理綱領にあるように、社会福祉の対象は、あらゆる人間をすべてかけがえのない存在として尊重する―と考えられてきた。重症心身障害児であろうと認知症の高齢者であろうと、オンリーワンであるのと同時にオールであるという考え方である。

私は、社会福祉事業の実践には理念や価値観がなければならないと思っている。その価値観を生み出す源のひとつに、宗教が存在すると感じている。

「尚恵学園」と「土浦めぐみ教会」

土浦市内には、高齢分野・障害分野で、仏教系とキリスト教系の組織がある。ひとつは、仏教系の社会福祉法人尚恵学園さん(土浦市神立町)である。

この組織は、知的障害者を対象に幅広い社会福祉サービスを提供している。故・住田恵孝僧正が1956年に神宮寺境内に開設。現在では、知的障害者支援施設、多機能型事業所、グループホーム、パン工房などを展開している。工房のパンや菓子類は、JAの直売所や市役所内のショップで販売されている。

もうひとつは、キリスト教(プロテスタント)系の宗教法人土浦めぐみ教会さん(土浦市上高津)である。1980年代に会堂し、2003年に高齢者福祉事業、2015年に障害者福祉事業を始め、地域のニーズに応えている。

学生の実習では、急な事情で他所の受け入れが難しくなったとき、両施設が学生を引き受けてくれ、おいしいパンと気持ちも届けてくれた。学生ともども、心が満たされたことを深く感謝している。(つくばアジア福祉専門学校校長)

逃げ切り失敗、9回に逆転負け BCリーグ茨城

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4回裏2死三塁、妹尾の適時打でリードを4点に広げる(撮影/池田充雄)

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは5日、つくば市流星台のさくら運動公園野球場で埼玉武蔵ヒートベアーズと対戦し、4-5で逆転負けを喫した。始球式に訪れた人気アイドル石田桃香さんの応援も届かなかった。これで茨城は10勝12敗2分、3位に落ち首位埼玉とのゲーム差は5.5に開いた。

茨城は最終回、勝利まであと1球に迫りながら埼玉の粘りに屈した。「逆転されてしまったが、これも野球。明日また頑張ってほしい」とジョニー・セリス監督の弁。

9回表2死三塁、逆転打を浴びた瞬間の矢萩(撮影/高橋浩一)

9回表、無死2塁の場面で救援に向かったのは土浦湖北高卒3年目の矢萩陽一朗。犠打と一邪飛で2死三塁。3人目も2球でツーストライクに追い込んだがボールとファウルで粘られ、8球目は右中間を破る三塁打。次打者にも右翼フェンス直撃の二塁打で逆転を許した。普段の気迫に満ちた強気のピッチングは見られず仕舞いだった。

優位に進めていたゲームにほころびが出たのは7回。2安打に2四死球と1失策がからみ3点を献上した。2人目の薄井章太郎をマウンドへ送るとともに、二塁手と三塁手の守備位置を入れ替えた。セリス監督には守備固めの意図があったそうだが裏目に出た。この回4つの盗塁を許し、そのうち一つは重盗。二塁ベースカバーの意思疎通が図られてなかった。

前半は茨城のペース。初回2死一・三塁から瀧上晶太の左前打で1点を先制、4回には妹尾克哉の左前打などで3点を追加。だが5回以降は打線が沈黙。3・4番が全打席ノーヒットに抑えられのも痛かった。

特に3番の山中堯之はつくば秀英高出身、実家のある結城市からは家族や近所の人たちも応援に駆け付けていた。お膳立ては万全だったが、意気込みが空回りしてしまったという。「初回のチャンスは外のスライダーを引っかけてダブルプレー。もったいなかった。打つ気持ちで負けないことが大事なので、そこに重点を置いていきたい」と反省する。

6回を好投した茨城の先発市毛(撮影/高橋浩一)

そんな中で先発投手、霞ケ浦高出身の市毛孝宗の好投は、この日一番の収穫となった。6回を投げて5安打4三振無失点。ストレートに伸びがありポップフライを量産、ツーシームやカットボールといった速球系の変化球も効果的だった。「今日はチェンジアップやスライダーが入っていなかったので直球を主体にしたが、それらが使えていればもっと抑えられた。次は最低限でも今日以上のピッチングにしたい。無駄なボールをなくして球数を減らせれば、もっと長いイニングを投げられると思う」と今後も期待十分だ。(池田充雄)

地図と写真でたどる「戦争の記憶」 土浦市立博物館がマップ発行

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「戦争の記憶マップ」を持つ野田礼子学芸員=土浦市立博物館

土浦市立博物館(同市中央、糸賀茂男館長)が「戦争の記憶マップ」を発行、販売を開始した。携行しやすいB5判冊子で、両面カラーB2判のマップを八つ折りしている。一部150円。

同館では、戦後70年にあたる2015年「戦争の記憶―土浦ゆかりの人・もの・語り」を開催した。さらに2017年にかけて「市民の記憶」収集事業として、戦中、戦後の市民らの体験談や聞き取り調査を行い、報告書『土浦の人と暮らしの戦中・戦後』を刊行した。マップはこれらの収集事業の一環として作成したものだ。

表紙は川口にあった3階建ての「土浦館」、昭和19年(1944)「土浦学寮」となって疎開児童を受け入れた

学芸員の野田礼子さんは「報告書を読んでも史跡がどこにあるのか分からないこともある。展覧会で紹介しづらかった施設もあった」とし「分かりやすく学校の授業などでも活用できるマップを作りたいと思った」と話す。記憶を伝える人と場所がともに失われつつあるなかでの作業となった。

片面には、土浦を中心に現在の阿見町に広がる地図に、霞ケ浦海軍航空隊、土浦海軍航空隊など戦争にまつわるさまざまな史跡の位置を記している。裏面には、地図上に記した史跡の写真と解説が記載されている。地図と写真を照らしあわせながら、戦争の跡が残る場所を確認したり尋ねたりすることが可能だ。

特に、予科練指定食堂や海軍住宅跡が今も残る駅周辺と、第一海軍航空廠(しょう)跡や海軍工員住宅、砲台などがあり、戦後は海外からの引揚者が多かった中村、右籾地区については別途くわしい地図を掲載している。

史跡が記された土浦駅周辺の地図

マップの写真は、同館や市教育委員会などの出版物から引用したほか、市文化財愛護の会写真部会のメンバーが撮影した。野田さん自身が新たに撮影したものもあるという。解説文を書いたり、施設の所有者、史跡の関係者などに新たに掲載許可を取るなどして1年をかけて作成した。

野田さんは、「いろいろな方にマップを手に取ってもらいたい。そして土浦に残る戦争の跡を確認してみてほしい。市に住んでいても、知らなかったことがたくさんあると思う」と語った。

◇問い合わせは土浦市立博物館(電話029-829-2928)

間違いを恐れる 《続・気軽にSOS》86

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【コラム・浅井和幸】私たちは、「…しなければいけない」「…してはいけない」という、たくさんのルールに縛られています。それは、ある地域や集団であったり、あるイベントであったり、2者間や個人的なものであったり、さまざまです。本当にしなければならないことは少なく、むしろ「…するに越したことはない」とか「…ができたほうがよい」ぐらいに、言葉を直してみるとかなり楽になるものです。

生活の中で多くの場合、何となくの「常識」や「普通」と一般化して、正当性が自分の考えにあると感じてしまいやすいものです。その一般化をしているルールが独りよがりであり、誰もそのルールを押し付けてられていないのに、苦しんでいることもよくあることです。

周りのみんなが自分をバカにしている気がする。それは、自分は勉強ができなかったからだ、稼ぎが悪いから人間的な価値がない、容姿が悪いと人に嫌われる―などなど、挙げたらきりがありません。

また、自分の価値観に自信が持てないため、世間一般を持ち出して自分の意見が正しいと、相手をやり込めようとすることもよくあります。そんな考えは世間じゃ通用しない、普通は私のように考えるのにあなたは普通じゃない―と。ケンカになったときに出やすい言葉ですね。私の意見の方が「常識」「普通」だし、「みんなもそう言っている」という理屈です。

多数派であれば間違いがないのか?

このようなやり取りの中で負け続けると、コンプレックスが生まれます。それで、自分を責め続けたり、相手に対して攻撃的になったりします。間違えることに対して、極端に怖さを感じてしまい、間違いを避けるようになります。だから、「常識」「普通」を味方につけたくなるのです。多数派であれば間違いがないという、安心感を持ちたいわけです。

ただ、多数派であれば間違いがないのか? 間違いは次に生かせないのか? 間違いがないところに成長はあるのか? そもそも間違いとは何に照らし合わせてなのか? 「普通」「常識」をいつも味方につけている人、いつも敵にしている人で、何かうまくいかないなという場合は、もう少し具体的な言葉で考え直してみてください。

意識をするところから人は変わっていくものです。どうして、こんなに間違いを恐れているのだろうか? その間違いはどのようなことが実際に起こるのだろうか? ちょっとした間違い(ミス)を意識することで、きっと新しい気付きをもたらしてくれるはずです。(精神保健福祉士)

5日から「絵画の筑波賞」展 地元民間が支援する若手の創作活動

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「絵画の筑波賞展」展示の一部=つくば市二の宮のスタジオ'S

「絵画の筑波賞」展が5日、つくば展で幕をあげる。20日まで、つくば市二の宮のスタジオ’Sで開催。筑波大学と東京藝術大学の日本画・洋画出身者から出品者を募り、優れた作品に賞を授与し、広く発信する美術賞で、同展実行委員会(野堀喜作代表)が主催する。昨年創設され、今年2回目を迎える。

大賞の城野紗貴さんはじめ作品26点展示

筑波大学(洋画研究室・日本画研究室)と東京藝術大学(油画研究室・日本画研究室)の在学生、卒業生・修了生で、35歳以下の者を対象にしている。今回は、両大学の各研究室からの推薦で計20人の出品が決まり、選考で大賞に城野紗貴さん(筑波大学大学院修了)の作品「Fence」を選ぶなどした。

城野紗貴「Fence」2021年 アクリル 65.2cm×65.2cm=ホームページから転載

つくば展の後、6月23日から29日まで池袋展(東京・西武池袋本店6階アート・ギャラリー)を開く。展示総数は26点。各作家の応募作品20点のほか、受賞者には新作の追加出品も認め、6人がこれに応じた。このためホームページには載っていない作品も会場では見ることができる。

同賞は若手作家の優れた作品に賞を授与し、買い上げて支援するとともに、展覧会を開くことで発信もサポートしようというもの。筑波銀行や関彰商事など、主につくば市内の民間企業や個人からの協賛金を基に運営されている。

溝口絢斗「AMAGUMO」2021年 日本画 50cm×65.2cm=同

実行委員の一人、筑波大学芸術系教授の仏山輝美さんによれば、「国や公共団体の主催ではなく、ツクバ計画の野堀喜作代表ら地域企業の方々が予算を出し創設してくださった、かつてない貴重な機会。若い人の努力が報われ、創作活動の大きな励みになる。未来へ向けて根付かせていきたい」という。

大賞に選ばれた城野紗貴さんの作品「Fence」は、半開きのフェンスへの眼差しとその向こうに見える景色に、こぼれ出す水のようなイメージや草花の線描などが重なり、複数の視点を統合・圧縮したような複雑な画面構成が魅力。仏山さんは「絵というものは基本的に、一瞬を描いたように見えても、そこにいろんな時間や空間が含まれている。特にこの作品は、異なる要素をそのままの形で重ね合わせ、視覚的な面白さと、絵画とはどういうものかという根本的な問いかけがある」と評した。(池田充雄)

受賞者と作品は次の通り。(敬称略)公開中の「絵画の筑波賞」展2021のサイトで作品が紹介されている。

▽大賞 城野紗貴「Fence」▽準大賞 溝口絢斗「AMAGUMO」▽優秀賞 艾尼瓦江 阿西木「少女とぬいぐるみ」、鈴木初音「火をふいていわう」▽奨励賞 伊東春香「空の街」、川端健太「tone13」、重政周平「組立」、藤森哲「tableau2021-s02(Kushan)」、八木恵子「春風のストローク」▽主催者特別賞 吉田侑加「時のおもかげ」

コロナ禍の学生に公的支援を 1万2674人の署名添えつくば市に要望

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1万2674人の署名を添えてつくば市に公的支援を求める要望書を提出した学生応援プロジェクト@つくばPEACEの冨山香織代表(左から3人目)と筑波大生ら

つくば市松見公園で毎月、大学生らに食材無料提供を実施している市民団体「学生応援プロジェクト@つくばPEACE」(冨山香織代表)=5月22日付 =が4日、計1万2674人分の署名を添えて、五十嵐立青つくば市長に公的支援を求める要望書を手渡した。

団体はコロナ禍、アルバイトが減り生活に困窮する学生を支援しようと、昨年12月から毎月欠かさず、学生らに無料でコメや野菜、日用品を無料提供している。5月まで計7回実施し、延べ約1600人の学生らが利用してきた。

「共助には限界があり公的支援が必要」だとして、3月下旬から食材提供会場やインターネットで署名集めを開始した。会場の松見公園で学生らの直筆署名577人分と、インターネットで全国から1万2097人分の署名を集め、4日、冨山代表と筑波大生らが五十嵐市長に手渡した。

要望書はつくば市に対し、大学生への現金または商品券の配布と、県に対し経済的に困難な学生に対する独自の支援の実施などを求めている。

提出は関係者のみで行われた。冨山代表(40)によると五十嵐市長からは「皆さんの気持ちは理解した。いろいろなところから声を聞いており、市として危機感をもっている」などの話があった。一方、具体的な支援などの回答はなかったという。

冨山代表は「未来ある学生がお金のことを心配せずに学べる環境になってほしい」と話す。市の回答次第で、9月議会に公的支援を求める請願を出すことも検討しているという。

活動継続の危機、支援を

冨山代表はさらに、生活に困窮する学生に月1回、食材無料提供を続けるための資金が枯渇していることを明らかにした。

提供する食材はこれまで、農民運動茨城県連合会やいばらきコープなど協力団体からコメや野菜、日用品の寄付を受けて提供してきた。ほかに、市民からの寄付金で日用品や加工食品などを200~300人分購入しまかなってきた。

これまで寄せられた寄付金は総額約115万円になるが、回を重ねるごとに残金が減り、現在約7万8000円しか残ってないという。

活動を継続するためには毎回、日用品などの購入資金が約20万円分必要だという。特に、生理用品を十分に購入することができない「生理の貧困」が社会問題になる中、生理用品などは欠かさず提供してきた。

一方で、参加する学生は回を追うごとに増え、5月23日は過去最高の305人の参加があった。参加者の9割は学生だが、子供連れの一人親世帯や社会人、留学生らの参加もあるという。

冨山さんは「コロナ禍が長期化し、学生の経済状況は日に日に悪化している様子が見られる。支援を必要とする学生が多い中、今後の継続的な支援が非常に困難な状況にある」として支援を呼び掛ける。(鈴木宏子)

◆カンパの送り先や利用などの問い合わせはメールpeaceoftsukuba@gmail.com。

委託先の最終処分場、来年3月で満杯に つくば市 処理費膨らむ恐れ

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ごみ焼却施設「つくばサステナスクエア」=つくば市水守

つくば市が焼却灰などの最終処分を委託している、下妻市にある民間の最終処分場が、来年3月末で満杯になり、同4月から受け入れができなくなることが分かった。3日開会した6月議会冒頭、五十嵐立青市長が明らかにした。新たな処分先を早急に探すことが求められるが、遠方になり運搬距離が増えると、処理費用がさらに膨らむ恐れがある。

市は現在、年間約1万トンの焼却灰や破砕ごみなどを、下妻市と山形県米沢市内の民間最終処分場2カ所に委託処理している。運搬費用も含めた最終処分費用は年間約3億1000万円になる。

処分量のうち、94%の約1万トンを下妻市、6%の約600トンを米沢市内に埋め立てており、仮にすべてを米沢市で最終処理した場合、処理費が年間約8000万円増える計算になるという。

市環境衛生課によると、下妻市には25年3月末まであと4年間、埋め立てできる容量が残っているはずだった。市は23年3月末まで下妻の民間業者と埋め立て契約を締結していた。

業者が残余容量を測量し直した結果、来年4月から受け入れができないことが分かった。同処分場に埋め立て処理している自治体は県内にほかに6市町あるという。

今月7日、委託先の民間業者から市に、来年3月で処分場が満杯になるなどの報告があった。五十嵐市長は契約不履行に対し、ペナルティーも検討しているとした。

新たな処分先について市は、少しでも経費が圧縮できるよう関東周辺を探したいとしている。受け入れてもらうためには民間業者のほか、最終処分場が立地する自治体の承認を得ることも必要になるとして、早急に調査、検討し、話し合いをしたいとしている。

同市は、下妻市内に民間の最終処分場が稼働した当初の1991年4月から最終処分を委託している。19年からは米沢市を加えた。

ごみ処理は、ごみが発生した地区内で処理するという「自区内処理の原則」がある。しかし迷惑施設であるため、実際は最終処分場を保有していない自治体が多い。つくば市でも現時点で、市が市内に最終処分場をつくる計画はない。(鈴木宏子)

民間企業など12社から17件の活用意向 つくば市旧総合運動公園用地調査

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旧総合運動公園用地=つくば市大穂

住民投票で計画が白紙撤回となった旧総合運動公園用地(つくば市大穂、約45ヘクタール)の利活用意向調査について、つくば市は3日開かれた市議会特別委員会(浜中勝美委員長)に、民間企業などを対象に4、5月に実施した意向調査(サウンディング型市場調査)結果を報告した。12社(団体)から計17件の利活用申し込みや提案があったという。

同調査は2017年度に実施したの続いて2回目。2017年度も今回とほぼ同じ13社から申し込みが出された。

市公有地利活用推進室によると、12社の内訳は、ゼネコン、物流不動産開発・管理会社が各2社、不動産デベロッパー、倉庫業、物販、スポーツクラブ、用地開発・分譲、金融業が各1社、ほかに不動産会社などの共同企業体が2社。

活用方法17件は、物流・倉庫施設が3件、市が利用する防災倉庫をつくるなどの防災拠点が3件、産業団地・工業団地が各2件、各企業のデジタル情報を処理・保存するサーバーなどを置くデータセンターが2件、太陽光発電施設が2件、日用品などの複合型商業施設が1件、スポーツツーリズム推進拠点1件、電気自動車の開発研究・実験などの複合施設が1件。

同用地の購入を希望する企業と、借地を希望する企業とでほぼ半々。利用面積は、45ヘクタール全部を利用したい意向もあったほか、4分の1以下の利用などさまざまという。

購入や賃借の場合の金額については、特別委でも質問が出されたが、市は「購入価格等は差し控えたい」とした。

特別委は、今回の意向調査結果を参考資料の一つにして、今後、提言をまとめる。市は議会の提言を踏まえ、利活用策を決めるという。提言をまとめる時期は未定という。

旧総合運動公園用地をめぐっては、2019年3月、五十嵐立青市長が、用地を一括売却する方針を出し、66億円で購入された用地を、事業者1社が40億円以上で一括購入し物流倉庫などを建設する案が出された。しかし、住民説明会で異論が噴出、市議会が調査特別委員会を設置し、民間売却案はいったん凍結となった。その後五十嵐市長は、改選直後の20年12月、一部を防災倉庫にして残りを民間売却したいと発言、翌年2月、3分の1を防災拠点として公共利用し、残り3分の2を民間活用したい意向を市議会に示し、4、5月に2回目の民間企業意向調査が実施された。

「1基は無くてもよい」で一致 エスカレーター計画で市議会 つくばセンタービル

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3日開かれたつくば市議会中心市街地まちづくり調査特別委員会

つくばセンタービル(つくば市吾妻)のリニューアルで、市がセンター広場にエスカレーターを2基建設する計画を立てている問題(4月27日付)を扱う市議会中心市街地まちづくり調査特別委員会(ヘイズ・ジョン委員長)が3日開かれた。エスカレーターを計画通り2基設置すべきかなどについて各会派が意見を出し合った結果、議会として、北側(ホテル日航つくば側)の1基は無くてもよいとする意見で一致した。

市は、今回の議会の意向を踏まえて改めて検討し直し、結果を議会に示す。3月時点では、エスカレーターを2基設置する内容の実施設計を6月にも発注する予定だったが、ずれ込む見通しだという。

一方、今回は「西側(クレオ側)のエスカレーター1基をつくって(2基目は)改めて検討する方がよい」などとする意見と、「つくばセンタービルは文化財的価値が高い建造物なのだから2基とも設置する必要がない」などの意見に分かれたほか、新たに「北側(ホテル側に)にエスカレーターではなくエレベーターを設置してはどうか」などの意見が出された。特別委では、市民活動拠点の配置なども含めて今後さらに検討する。

各会派の主な意見は次の通り。(鈴木宏子)

2基が妥当、妥協点として1基でもよい

つくば自民党・新しい風(発言者は黒田健祐市議)エスカレーターを2基つくるのが妥当だが、妥協点として1基でもよい。視認性、回遊性をみても2カ所が妥当。ソフト面とハード面、両輪で推進することを考えた場合、中心市街地まちづくり戦略全体の中で、ハード面が先行し、議論の的になっている。2基が妥当な考えだが、活性化した姿を前提に、まちづくり戦略を進めていく中で、1基造って様子を見て、もう1基つくるという考え方もある。市民活動拠点は原案通り。

2基ともいらない

自民党政清クラブ(飯岡宏之市議)2基ともいらない。市民への説明が足りない。市の顔である建造物をいじるのはいかがなものか。景観と費用対効果の観点から2基ともいらない。2階から1階に行く動線を考えても、市民がエスカレーターで1階に降りるということではない。エスカレーターを設置したから人が行き来するようになるかどうか分からないところに設置するのはいかがなものか。

ホテル側はエレベーターに

つくば・市民ネットワーク(皆川幸枝市議)北側(ホテル側のエスカレーター)は無し、西側(クレオ側)のみ1基だけつくる。障害当事者と現地を確認した。北側エレベーターはセンター広場の手前で止まってしまい(広場までは)スロープか階段で移動することになる。スロープは角度が急で、車いすの一人での上り下りは危険。その部分にエレベーターを設置する方が重要。(改修計画では既存のV字型の)階段をL字型にするが、手すりが設置できない。(既存の)階段に手すりを設置することを提案したい。▽市民活動拠点は、つくば駅周辺で住宅の建築が進むので、行政の案内をするコンシェルジュを置くことを提案したい。(市民活動拠点の)公共スペースは狭いという指摘があるので、(市役所の)窓口事務室をBiViつくば2階に移動させ、その分、キッズスペースを設け、子供連れの親子が集える場所をつくったり、授乳室を設けてはどうか。市民活動を増やしていく機能も求められる。吾妻交流センターの各部屋の利用状況を調査し、畳の部屋が必要か、調理室の使用頻度が高くないなら調理以外も利用できないか、ダンスも盛んなので音楽室の壁の1面全部に鏡を付けたりなどを検討すべき。

外観の改修行うべきでない

公明党つくば(小野泰宏市議)つくばセンタービルには(設計者の)磯崎新氏の深い哲学や理念があり、こうした下地があって、重要な文化財的価値がある。2階(ペデストリアンデッキ)から見る劇場型広場(センター広場)など、価値を市民に周知すべき。つくばならではの財産だ。動線は、既存のエレベーターの利便性を高めるなどするのが適切。外観に関わる大規模改修は行うべきではない。市民活動拠点は、概ね市執行部提案に同意する。

西側の1基のみでよい

創生クラブ(中村重雄市議)エスカレーターは西側(クレオ側)の1基のみでよい。北側はV字型の階段を残し、デザインや費用の面から、エスカレーターがよいか、エレベーターの方がよいか、数年後に検討すればよい。液晶パネルなどを使って、誘導・案内看板を増やし、動線を表示したらよい。市民活動拠点は市執行部提案に賛成。

西側の1基で足りる

つくばチェンジチャレンジ(川久保皆実市議)エスカレーターは西側の1基で足りる。費用対効果を考えると、エスカレーター1基のひと月当たりの経費は46万円。市民活動拠点1日当たりの利用人数は平均200人、働く人を支援する場は2000平方メートルなので1日当たりの利用者は多く見積もっても400人。計600人の利用人数のために2基設置するのは費用対効果から適切ではない。(エスカレーター設置の目的は)視認性や回遊性を高めるためということだが、市民活動拠点も、働く人を支援する場も、明らかな目的をもった人が行く場であり、雑貨店やカフェのような、目に付いたからふらっと行くというのは低い。エスカレーターで人を誘導するというのは低い。▽市民活動拠点は乳幼児の授乳室などはあるが、靴を脱いで上がれるキッズスペースがあったらいい。窓口センターの待ち時間に利用できるように設置してほしい。

シンボル壊す2基ともいらない

日本共産党つくば市議団(山中真弓市議)エスカレーターは2基ともいらない。つくばセンタービルは歴史的な価値の高い建造物であり、つくばのシンボルを壊してエスカレーターを設置するのは反対。センター広場には筑波山ジオパークを凝縮したような造形部分もある。エスカレーターを設置してほしいという要望が市民から多く寄せられているわけでもない。バリアフリーのためには案内板を設置して動線を行き来しやすいようにしたり、既存のエスカレーターを改修することで解決すべき。▽公共エリア(市民活動拠点)は面積が十分でない。市民の声が生かされている改修計画になっていない。市民の声を生かして、1階の(市民活動拠点の)面積を広げるべき。オフィスありきで考えるのであれば、吾妻交流センターや消費生活センターを生かすなど、いろいろ検討すべき。議会としても執行部も、市民の声を聞く場を設けるべき。

西側設置し様子見て

清郷会(木村清隆市議)エスカレーターの需要がどの程度あるか、西側(クレオ側)の1基を設置して、その後、様子を見て、検討すればいい。▽青少年や若者が集える場をより多くしてほしい。(つくばセンター研究会から出された要望書=6月1日付=に)「市民の意見を十分聞いてない」とある。市は、時間を掛けて市民の声に耳を傾けてきたと思うが、そういう声があることを真摯に受け止め、説明の仕方を工夫し、新たな周知の仕方をお願いしたい。

丁寧にやるべき

新社会党つくば(金子和雄市議)つくばセンタービルは今日まで40年くらい、つくばの中心的役割だったが、店舗が撤退したり、民間が出て行ったことは事実。そういうときにどうしたらいいか。歴史的建造物なので、どう改修するか、丁寧にやるべき。エスカレーターが必要か、必要でないかだけでは解決できない。今あるものをどうやって利用して(現状を)乗り越えていくかに力を注ぐべき。

【7日訂正】つくばチェンジチャレンジの川久保皆実市議の発言で「エスカレーター1基の1日当たりの経費は46万円」とあるのは「ひと月当たり」の誤りです。お詫びして訂正します。

イオンモールにツェ伯号飛来! 4日から「飛行船と土浦の物語」

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ツェッペリン伯号イメージ=イオンモール土浦提供

展示「飛行船と土浦の物語」が4日から、土浦市上高津のイオンモール土浦で始まる。6日まで。5月に迎えた同モール開業12周年記念祭の一環で、かつて土浦に巨大飛行船ツェッペリン伯号が飛来した事跡を、資料パネルや映像などでに伝え、地域振興につなげようというもの。協力は土浦ツェッペリン倶楽部、土浦商工会議所、土浦市観光協会。

会場はモール1階東端にある「花火ひろば」。大型ビジョンで飛来時の様子を紹介したニュース映像や、うるの拓也さんのコミック「ツェッペリンが舞い降りた日」などを上映する。パネル展示では土浦ツェッペリン伯号展示館(土浦市中央1丁目)に保管されている史料写真などを紹介、時間によっては土浦ツェッペリン倶楽部のメンバーも来場し、展示解説などしてくれるという。

また個人コレクターの協力により、実際にツェッペリン伯号で運ばれた航空郵便や、飛行船が図案となった当時の記念切手、世界中を飛んださまざまな飛行船の写真など、数々の資料を複写で紹介する。フォトスポットでは全長4メートルのツェッペリン伯号の大型模型や、2005年に再び土浦の空を飛んだツェッペリンNT号のノーズコーン(機首部分)の実物を置き、一緒に写真を撮ることができる。

イオンモール土浦外観(土浦市上高津)=同

ドイツの飛行船ツェッペリン伯号が人類初世界一周飛行に成功したのは1929(昭和4)年。その数少ない停泊地に選ばれたのが、阿見町の霞ケ浦海軍航空隊飛行場(現陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地)だった。当時の最先端技術で造られた全長236.6メートルの巨大飛行船を一目見ようと、5日間の停泊期間中に押し寄せた人の数は30万人とも40万人とも言われている。

企画を担当したイオンモール土浦の色川晃代さんは「こんなにすごいものが本当に土浦へ来たんだと、皆さんに実感していただけるようにしたいと考えた」と話す。同モールでは毎年、土浦の成り立ちや歴史を紹介する展示を行っており、今回は特にツェッペリン伯号にスポットを当てた。(池田充雄)

「飛行船と土浦の物語」関連イベント

石原之壽さんの街頭自転車紙芝居=同

・石原之壽さんの街頭紙芝居「ツェッペリン号物語2」=5日・6日、各日とも午後1時30分、2時30分、4時から
・日本ツェッペリン協会会長で、飛行船の歴史・文化史の第一人者として知られる天沼春樹さんの講演=6日。午後1時から「土浦とツェッペリン飛行船」、3時から「ツェッペリン飛行船、土浦をめざす」
・ワークショップ「飛び出す飛行船ツェッペリン伯号」=5日・6日。子ども向けのペーパークラフト教室

関連記事はこちら《霞月楼コレクション》12 ツェッペリン伯号霞ケ浦飛来と熱烈歓迎

コロナワクチン接種 《くずかごの唄》87

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イラストは筆者

【コラム・奥井登美子】新聞を見てもテレビを見ても、コロナワクチンの話題ばかり。コロナ禍で行事が全部ストップされてしまっているので、マスコミも取材のタネがない。新聞やテレビにはスペースがあって、埋めなければならない。話題がコロナばかりになってしまうのも、やむをえないのかもしれない。

土浦市の65歳以上の人に「コロナワクチン接種のお知らせ」が届いた。予約開始日が80歳以上、75歳以上、70歳以上、65歳以上―と、年齢によって違う。接種可能日も年齢別で、医療機関と集団接種所に分かれている。

ワクチン供給の見込みの日までが書いてあるので、印刷物4~5枚の活字の全体を読んで、頭の中で整理し、さて、自分は予約をどこへ申し込んで、どこへ、いつ行けばいいのか―具体的な行動を順序立て、行動を起こすまでには、かなりの時間と理解力が必要だ。

市役所から届いた「難解至極な書類」

基礎疾患13項目の分類は抽象的なので、判断できない人も多いのではないかと思う。うちの薬局のお客様はご近所のご老人ばかりだ。こういう「難解至極(しごく)な書類」が配布されると、私は質問責めに会うことを覚悟しなければならない。

「いつも、かかっている医院へ、電話しても、お話し中なの、困ったわ」

「読んでもよく解らないわ、ステロイドって、私、飲んだことありますか?」

「基礎疾患がいっぱい書いてあるの、染色体異常って、何ですか、私の処方箋の薬の中でこの病名に該当するものがあるかないか、教えてください」

「鉄欠乏性(てつけつぼうせい)貧血を除く血液の病気って、何の病気?」

この文書を作った人物は、何か、後で、文句を言われないように、完璧を期して苦心して作ったに違いない。ワクチン供給の見込みの日など、一般の人にとって関係のないようものまでが、ていねいに入っているので余計ゴチャゴチャになっている。

コロナをきっかけにして、お役所も介護医療関係者も「医学的にややこしい事実を一般のお年寄りにも解りやすい理解できる用語で表現する」という難題に、本気になって取り組んでもらいたいと思う。(随筆家、薬剤師)

東京五輪スイス選手団 7月中旬から筑波大で事前合宿

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スイスの国旗や「つくばはスイスのホストタウン」と書かれたバナーが掲示されたつくば駅前

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京オリンピック・パラリンピックに出場する海外選手団の事前合宿を取り止める自治体が全国で出ている中、筑波大学で予定されているスイス選手団の事前合宿について、つくば市は2日の定例会見で、陸上と柔道の選手団計約70人が7月中旬から8月上旬にかけて、同大学で事前合宿を実施することを明らかにした。

新型コロナ対策として、スイス選手団は事前合宿中、毎日、PCR検査を実施するほか、選手団と直接接触する筑波大やつくば市担当者なども毎日、PCR検査を実施する。

選手団の練習中は、大学の施設を貸し切りにして、一般の筑波大生らと接触しないようにするほか、宿泊施設は市内のホテルのワンフロアを貸し切り、一般の宿泊者と接触しないようにする。選手団は練習会場とホテルを往復するだけにする。

選手団の食事は、スイスから随行する専用の料理人がホテルの調理室の一部を借りて調理する。食事は、専用の部屋でとるという。

市オリンピック・パラリンピック推進室によると、スイス選手の第1陣が7月13日夕方来日し、同日夜からつくば市内に滞在する予定だという。

競技種目ごとに順次、来日するため、市内に滞在する人数は最大で30人程度という。

当初予定では、陸上、柔道のほか、フェンシング、体操、トライアスロンの計5競技の選手団が、競技の2~3週間前に来日し、大学の陸上競技場や武道館、体育館などでトレーニングする計画だった。

5競技のうち、フェンシングと体操の事前合宿は取り止めになり、トライアスロンは未定される。

市民との交流イベントは中止

市によると、フェンシング選手団が取り止めとなった理由は、競技日程の都合だとし、来日後は直接、選手村に入る。未定のトライアスロン選手団が筑波大で事前合宿をする場合は10人程度になる見込み。

市民との交流は当初、ウエルカムイベントや小中学生との文化交流、事前合宿の見学会などが予定されていたが、選手と直接接触するイベントはすべて中止となる。一方6月中に市は、市内の市立幼稚園と小中学校などの給食にスイスの家庭料理メニューを出すことを計画している。

筑波大と県、つくば市は2018年4月、スイスオリンピック協会と基本合意書を締結し、事前合宿の受け入れを決めた。19年2月に同市はスイスのホストタウンとなった。

19年5月、スイスの女子リレーチームが、7~8月にはトライアスロン選手団がそれぞれ筑波大で事前合宿を実施し、小中学生が選手の食事を配膳したり、中学生が練習の様子を取材して記事を書くなどの交流イベントを実施してきた。

霞ケ浦の全魚種で出荷制限解除 原発事故から10年、アメリカナマズも

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7月解禁となる霞ケ浦のワカサギ漁で大量に獲れるアメリカナマズは廃棄されていた=土浦市沖宿

東京電力福島第1原発事故による放射能汚染で、茨城県が出荷制限を受けていた霞ケ浦のアメリカナマズが、基準値(1キロ当たり100ベクレル以下)を超えたものがなかったとして、5月19日付で出荷制限を解除された。

アメリカナマズは東日本大震災翌年の2012年4月に出荷制限を指示されて以来、霞ケ浦で唯一、出荷制限が続いていた。9年ぶりの解除となる。今回の解除により、霞ケ浦のすべての魚介類が制限解除となった。

4月22日、県が出荷制限解除申請を国に提出した。解除の範囲は、霞ケ浦、北浦、外浪逆浦と、これらの湖沼に流入する河川、常陸利根川で採捕されたアメリカナマズ(養殖を除く)。

解除の理由は、13年5月29日から20年10月29日までの間、放射性セシウム濃度を検査した結果、合計146検体の平均値は1キロ当たり37ベクレルで、基準値を超える値は検出されず、安定して基準値を下回っていたためという。

解除後も県は、出荷管理計画に基づいて月1回、サンプリングを行い、土浦、龍ケ崎、鹿嶋市や利根町など19市町で検査を続ける。万が一、基準値を超える結果が判明した場合は、県が関係各漁協に対し、解除された全範囲のアメリカナマズの出荷自粛を求める。

県内では、2011年3月の福島原発事故発生後、茨城沖のコウナゴから暫定規制値を超える放射性セシウムが検出され、市場での取引拒否や、出荷、販売の自粛があった。

翌12年4月、1キロ当たり100ベクレル以下という新基準値が設定されたが、海の魚28種の出荷制限が解除されたのはさらに5年後の17年3月だった。

しかし湖沼の霞ケ浦のアメリカナマズと、河川の利根川・境大橋(境町)下流のウナギは出荷制限が続いてきた。

一方、利根川下流のウナギはまだ出荷制限が続いている。調査地点には千葉県側もあるなど、足並みをそろえて検査を行っていく必要があることから、県漁政課は「引き続きウナギについても検査を推進していきたい」と話している。(山崎実)

あなたの趣味は何ですか? 《ことばのおはなし》34

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【コラム・山口絹記】このようなご時世だからだろうか。“趣味”というものの需要が高まっているようだ。

と言うのも、私自身が時間ができたら買おうと思っていた趣味的ニッチな商品が、ネット上で続々と売り切れているのだ。例えば、写真のフィルムをデジカメで撮影して、デジタル化する商品とか(かなりニッチな商品だと思う)。

ようは、日々の生活が今までと少し変わった結果として、お金をかけただけでは解決しないもの、時間を必要とするものの需要が伸びているらしい。きちんと調べていないので、真偽の程は定かではないが、言われてみればなるほど。納得できるおはなしである。

同時に、生活の変化をきっかけに新しい趣味をはじめてみよう、という人も多いようだ。

これも、どの程度の規模のおはなしなのかはわからないが、事実なのだろう。私自身、17歳の頃、浪人生活の開始とともに住み慣れた地を離れ、祖母と2人暮らしを始めたときから、いわゆる“趣味”というものが増えたからだ。外的要因で集団から切り離され、ひとりの時間が増えると、人間、何かを始めてみたくなるのではなかろうか。

定年退職した人が、仕事以外にやることが見つからなくて趣味を探し始めるといった、ありふれたおはなしが、世代関係なくいたるところで発生しているとすると、なかなか興味深い。

あなたはどんなとき幸せですか?

さて、本題だ。そもそも趣味とは何なのだろうか。ここまで曖昧な単語もなかなか珍しいように思う。すでに趣味がある人にとってはたいした問題ではないのだろうが、自覚的には趣味が無く、かつ趣味を持ちたい、でも見つからない、という人には深刻な問題だ。

仕事や職業ではなく、人が個人の楽しみのためにやっている事柄、といった定義が一般的なのだろうが、この定義は意外とくせ者だと、私は感じる。

「あなたの趣味は、何ですか?」

誰もが、うんざりするほど訊(き)かれたことのある質問だろう。話題がなくなってきたサインでもある。ここで気の利いた返しができないと、その会話はたいてい、ゆるやかな死を迎えることとなる。“楽しみにやっている事柄”と問われると、どうしても単純な名詞で答えたくなるのが人の性だ。加えて、趣味を訊かれるたびにくどくど説明するのも、実際はばかられる。

言霊(ことだま)信仰とは違うのだが、ことばの持っている力というのを、あまり馬鹿にするものではない。名詞を問われているという思い込みは拭い難い。答えが見つからないと、自分には趣味が無いように思えてくる。

だから、質問を変えてみよう。「あなたの趣味は何ですか?」ではなく、「あなたはどんなときに楽しいですか?幸せですか?」

問うているのは、事柄ではなく、時間である。もしも何か思い浮かぶものがあれば、それはきっと大きなヒントになるに違いない。(言語研究者)

2年ぶりのアトリエ・ハートタイム展 県つくば美術館に190点

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県つくば美術館で始まったアトリエ・ハートタイム展=つくば市吾妻

アトリエ・ハートタイム展が1日、県つくば美術館(つくば市吾妻)で始まった。田中己永(みのり)さん主宰の絵画教室によるグループ展。土浦、石岡、東京に教室がある。

イタリア・ドロミテ山脈を「ランプブラック」という黒色顔料で描いた田中さんの作品をはじめ、色鉛筆画講師の三上詩絵さん、教室の生徒56人の水彩画や色鉛筆画190点を展示している。

透明水彩で描いた土浦の街並み、アクリルガッシュで描いた紅葉、色鉛筆でリアルなタッチに描いたスプーンとフォークなど力作が並ぶ。中には2年以上かけて完成させた作品も展示されている。

下妻市の女性(66)は「どの絵も光と影のコントラストが素晴らしい。最初は写真と思ったほどリアルな絵もあって驚いた。見に来てよかった」と熱心に見入っていた。

絵に見入る来場者たち=同

コロナ禍も絵を描けば気がまぎれた

グループは2007年から毎年、展覧会を開催していたが、新型コロナの影響で昨年は中止を余儀なくされた。準備のため前日に集まった生徒30人は、「2年ぶりということで、みんなうれしそうに作業していた」と田中さん。

三上さんは「展覧会は自分が描いた絵が額装されて、人に見てもらえる貴重な機会。次の作品へのイメージもわきやすくなる」とし「生徒同士も互いの絵を見ることで刺激になる」と話す。

各教室では、コロナ感染対策を行いレッスンは続けていたが、「感染が怖くて教室に行けない」と辞める人も多く、70人いた生徒が一時は40人にまで減ったという。残った生徒らは「家にこもりがちになっても、絵を描くことで気がまぎれた、いい趣味を持ってよかった」と話しているという。

現在は、三上さんが人気テレビ番組に出演していることから色鉛筆画の生徒が増え、56人になっている。生徒の水野敏幸さん(62)は、展覧会に絵を出すのは今回が初めて。2018年の同展を見て「自分も描いてみたい」と入会したという。「自分の絵が飾られることはすごい。最高」と話す。

田中さんは「教室では、1年で誰でも描けるように指導している。生徒たちは描きたいように描いているので、見る人も好きなように見てほしい」と話していた。(伊藤悦子)

◇会期は6日(日)まで。入場無料。午前9時30分~午後5時。問い合わせは田中己永さん(090 -1203-2439)

エスカレーター設置見直しを つくばセンタービル改修で市民ら要望

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小久保貴史市議会議長に要望書を提出するつくばセンター研究会の冠木新市代表(右)=つくば市役所

「つくば市が進めようとしているつくばセンタービルのリニューアル計画は、文化財としての価値を失わせることになる」などとして、市民団体「つくばセンター研究会」(冠木新市代表)は1日、五十嵐立青市長と小久保貴史市議会議長宛てにそれぞれ、センター広場へのエスカレーター2基の設置計画(4月27日付)を見直すよう求める要望書を出した。

同研究会は、センタービルでこれまで20年間、さまざまな活動を展開してきた市民らでつくる。

要望書によると、同センタービルは建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した磯崎新氏のポストモダン建築の代表作で、市民の誇りであるとし、エスカレーターを2基設置し外観を改変してしまったら、後戻りはできない、などとしている。

さらに、築50年の2033年に登録文化財として申請すれば、将来のつくばの文化遺産及び観光資源になるのに、つくば市が改変を進めれば、市の貴重な文化資源の喪失になり、次世代の市民に引き継ぐ道を絶つことになる、などと指摘した。

つくばセンタービル。ノバホール3階から松見公園方向

センタービル1階に貸しオフィスと市民活動拠点を整備するのに伴うビル内部の改修についても言及し、東西南北どの方向からも広場に行き来できるよう設計されているのに、市の計画は、通路の一部を閉ざしてしまい、動線を減らすことになり、にぎわい創出とは逆方向だ、などとしている。

その上で、エスカレーター2基の設置見直しのほか、専門家の意見を聞いた上でセンタービルを文化財として保持すること、センター広場の活性化は、広く市民の意見を聞いて検討するよう求めている。

要望書を提出した冠木さんは「(市のリニューアル計画は)中心市街地が活性化していないことを、つくばセンタービルの設備のせいにしている。壊してしまったらもったいない。市にとって財産なのだから大事にしてもらいたい」などと話している。

同市議会の小久保議長は「要望書をお受けし、議員間で周知していきたい。(特別委員会の)勉強の機会もあるので、今後の取り扱いを協議したい」とした。

五十嵐市長宛ての要望書は飯野哲雄副市長に手渡され、関係者のみでやりとりが行われた。

「貴重な文化財に対する無謀な挑戦」

要望書は、著名な建築の専門家、筑波大学の鵜沢隆名誉教授の見解を紹介し、同センタービルは10数年後に登録有形文化財として認められ得る建造物であると断定している。

加えて、つくばセンタービルと筑波研究学園都市は、国の主要な科学研究機関を集約的に建設するという都市機能のユニークさと、都市建設の規模からも世界的に類を見ない新都市で、センタービルは研究学園都市の最も象徴的な文化施設だとして、将来の世界遺産登録の可能性すらある建造物群としてとらえるものだと指摘している。

エスカレーターの設置計画に対しては、磯崎新氏のプリツカー賞受賞に際して、改めて評価された中央広場に2基のエスカレーターを新設すること、市の改修計画が、磯崎氏のプリツカー賞受賞直後に作成されたことは「貴重な文化財に対する無謀な挑戦」で「将来に禍根を残すことにもなりかねない」と強調している。

さらに雨天への配慮から屋外のエスカレーターは屋根の設置が不可欠だが、エスカレーターの屋根は、「特筆すべき中央広場(センター広場)の空間意匠を決定的に損ねる」とし、動線を補強するなら既存のエレベーターの改修、拡充で対応すべきだとしている。

その上で、中央広場を活性化するためには、広場への関心や注目を常に新たに呼び起こすために広く市民からのアイデアや企画を絶えず求め、それらを空間利用の専門家たちが検討・実践していくという方法やプロセスを定着させることが最も着実な活性化である、などとする専門家の意見を紹介している。(鈴木宏子)

➡つくばセンター研究会の要望書はこちら

タマネギの「ケルセチン」で前向きに 農研機構など研究グループが機能性確認

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ケルセチンを多く含むタマネギ「さらさらゴールド」=植物育種研究所提供

タマネギに多く含まれる「ケルセチン」が、認知機能の維持や前向きな気分の維持に役立つことを、農研機構食品研究部門(つくば市観音台)の小堀真珠子食品健康機能研究領域長らの研究グループが明らかにし、5月の学会誌オンライン版で公表した。成果を元に、ケルセチンを関与成分とする、タマネギの機能性表示食品の届出を目指すという。

ケルセチンに着目して研究を進めてきたのは、農研機構と北海道情報大学、岐阜大学の研究グループ。農研機構が試験食品の設計などを行い、岐阜大学が認知機能維持・改善に関わる作用を見出してメカニズムの検討を進め、北海道情報大学では健康な人を対象とした試験を実施した。

ケルセチンは黄色くやや苦みがある物質で、黄タマネギと呼ばれる一般的なタマネギには可食部100グラムあたり約10~50入りグラム含まれる。今回のヒト介入試験は、60~80歳の健康な男女計70人を2群に分け、約5か月間摂取してもらい、一般的な認知機能検査を行った。2群の一方は黄タマネギ粉末を1日1回11グラム(ケルセチン50ミリグラム)、他方はケルセチンを全く含まない白タマネギ粉末を食べてもらった。

その結果、認知機能については、ケルセチンを含むタマネギを食べた人は、一般的な認知機能検査(ミニメンタルステート検査)の点数が、対照群のケルセチンを含まないタマネギを食べた人に比べて、摂取24週間後により大きく増加し、タマネギのケルセチンが認知機能の維持に役立つことが示された。

また、抑うつ状態については、ケルセチン高含有タマネギを食べた人の脳機能評価点数が、対照群に比べて、摂取24週間後により大きく低下した。タマネギのケルセチンが前向きな気分の維持にも役立つことが示された。

ミニメンタルステート検査(MMSE)による認知機能評価の変化量(左)と気分を評価する抑うつ状態に関するスコア点数(高いほど抑鬱状態が高い)の変化量(右)の結果=農研機構提供

これらの結果から、日常の食事の中で摂取するタマネギが、加齢に伴い低下する認知機能の維持や前向きな気持ちの維持に役立つ可能性が示されたという。

厚生労働省が策定した「健康日本21」では、野菜はカリウム、食物繊維、抗酸化ビタミンなど、循環器疾患やがんの予防に効果的な成分を多く含んでいるので、通常の食事として1日当たり350グラム以上の摂取を目標とするとしている。しかし国民健康・栄養調査の結果では野菜摂取量の平均値は280グラムで、目標に届いていない状態が続いている。

タマネギ研究10年以上の小堀研究領域長によれば、ケルセチンは加熱しても構造が壊れにくく調理してもほとんど壊れない。タマネギはケルセチンの摂取に適しているだけでなく、炒め物や煮物などで他の野菜とともに調理されることが多い。その成分が機能性表示されれば、野菜全体の摂取量増加も期待できると考えた。研究成果は、ケルセチン高含有タマネギを使った食品の機能性表示に根拠を与える。

農研機構ではケルセチンを高濃度に含むタマネギを開発するとともに、野菜消費増加に向けて、生産者による機能性表示の届け出を支援するサイトも運営している(農水水産物の研究レビュー

ケルセチン高含有たまねぎ「クエルゴールド」。農研機構で開発した=同

小堀領域長は、「これまでは個々の野菜の健康機能に着目してきたが、今後は普段食べている食事で健康を維持できる食生活とはどういうものかを探求したい。ひとりひとりの体質や、その時々の体調に合った食事やレシピを提案するシステムの開発を目指します」と話す。タマネギについては既にレシピ本「The たまねぎ料理」がネットで公開されている。(如月啓)