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旧茎崎庁舎跡地にドラックストア開店 「ようやくここまでこぎ着けた」

2010年4月に閉庁になったつくば市小茎の旧茎崎庁舎跡地に14日、ドラッグストア「ウエルシアつくば小茎店」(清水竜也店長)がオープンした。 高齢化が進む茎崎地区で旧庁舎跡地の利活用は長年の懸案だった。跡地の活用検討がスタートしてから市に4回要望書を提出してきた茎崎地区区会連合会の小原正彦会長は「ようやくここまでこぎ着けた。かつて小茎は茎崎の中心部だった。店がまちににぎわいをもたらし生活が便利になってくれれば」と話した。 店舗面積は約1100平方メートルで、調剤と医薬品のほか、日用品、精肉、冷凍食品、介護用品、ペット用品など、スーパーマーケットと見間違う充実した品揃え。朝9時の開店に合わせて多くの住民が入店し、飲料水などを箱買いする客で混雑し、レジの順番を待つ長蛇の列ができた。 出入り口に近い一角には無料で利用できるコミュニティスペースが設けられた。休憩したり、隣接するバスターミナルの待合所としても利用できる。 3人連れで買い物を楽しんでいた近くの城山団地に住む70代の女性らは「ここなら歩いても15分で来られて便利。オープンを待ちわびていた」と口をそろえた。ベビーカーを押していた近くに住む40代の女性は「いつでも離乳食が買えるのがうれしいし、子どもはすぐに熱を出すので薬局ができて安心」と語り、高齢男性は「店の立地が良く、バスを利用して買い物できるので助かる。欲を言えばお弁当コーナーが欲しい」と話した。 茎崎地区のスーパーは牛久市に隣接するマスダ茎崎店のみだった。2013年から同市の委託で食品スーパーのカスミが地区内各所で移動販売を行なっている。 誘致計画見直し経て 閉庁した旧茎崎庁舎は2016年に解体され、敷地約2700平方メートルは更地のまま活用方法が検討されてきた。跡地利活用について市は20年8月の住民説明会で、跡地に隣接する茎崎保健センターも同時に解体して一体化し、商業施設を誘致して商業施設内に公共施設を併設する案を示した。住民からは施設誘致に賛成する意見と、茎崎保健センターの存続を希望する声が上がった。 その後、市は方針を見直し、22年6月の住民説明会で茎崎保健センターを存続させ、庁舎跡地に食料品や日用品を販売する小売店を誘致する方向に変更した。同年9月に公募型プロポーザルの候補者選定委員会が開催され、ドラッグストア「ウエルシア」の開業を提案した大和ハウス工業茨城支社と土地賃貸契約を締結した。 一方、行政サービスの継続を求める住民の要望に応えて解体を免れた隣接の茎崎保健センターは、築40年以上経っていることから改修が決まっている。市市民部によると、改修後は会議室や多目的室を備えた地域コミュニティー施設として利活用する方針で設計が進められており、25年度中にリニューアルオープンを目指している。(橋立多美) ◆ウエルシアつくば小茎店はつくば市小茎288。営業時間は午前9時から深夜0時まで。無休。電話029-875-8483。

学校に居づらかった経験生かし フリースクールで子どもと向き合う【ひと】

つくばの佐々木侑紀さん(26) つくば市竹園在住の佐々木侑紀さん(26)は大学卒業後、不登校児童生徒の受け皿となっているフリースクールのスタッフとして充実した毎日を送っている。 教員免許を取得した同期の多くが公立や私立の教員の道を選んだが、収入は低くても子ども一人ひとりと向き合うフリースクールの現場に立とうと、2020年6月、NPOリヴォルヴ学校教育研究所(小野村哲理事長)が運営する「ライズ学園」(現在はむすびつくばライズ学園)に就職した。 佐々木さんには学校で傷ついた経験がある。小学校ではぜんそくやアトピー、アレルギーで休みがちな上に食物アレルギーで給食が食べられず、弁当持参で教室に居づらかった。その上勉強について行けず、自分は頭が悪いと自信が持てずに惨めだった。 中学では成績の良し悪しで発言の機会に差があったり、クラスメートの7、8割が塾通いが当たり前で、授業でいきなり高校レベルの問題が出されたりすることを理不尽に感じていた。「僕も学校に居ると声を出すことができず、机に伏せて寝たふりをしたり、わざと的外れの答えをしたりと反抗した」。 そば店の壁に名言 中学2年のある日、父親と訪れたそば店の壁に、幕末の思想家、吉田松陰の名言が掛かっていた。「過ちがないことではなく、過ちを改めることを重んじよ」という言葉に、間違えてもいいんだと気持ちが楽になった。松陰の言葉との出会いが人生の分岐点となった。「松下村塾」を主催し塾生一人ひとりの得意分野を見抜いて能力を伸ばすことに尽力した松陰に憧れ、憧れは自らの目標になった。 かすみがうら市の東風高校を経て二松学舎大学(東京都千代田区)に進み、高校の公民の免許を取得した。 大学在学中は不登校児童生徒の居場所として、フリースクールの存在感が高まっていた。卒業後、自身の経験もあり、フリースクールの現場に立ちたいとインターネットでフリースクールを検索した。目を引いたのが、当時、同市谷田部でフリースクールを運営していたライズ学園の記事だった(2019年5月29日付)。 「教員を辞めた人がライズ学園を設立し、子ども一人ひとりのつまずきを理解しながら学習支援に取り組んで学ぶ意欲を引き出している。これは、塾生の得意分野を見抜いて能力を伸ばした『松下村塾』と同じ。ここしかないと思った」 みんな花開くからきっと大丈夫 スタッフになって3年半が過ぎた。「通い始めた頃の子どもたちは、学校での嫌な経験から抜け出せずに表情は硬い。徐々に打ち解けて心からの笑顔が見えたときにやりがいを感じる」 現在、同学園は同市吾妻の市産業振興センターで運営され、市内の小中学生が1日20人ほど登園している。スタッフは15人おり、社会科担当の佐々木さんは子どもたちから「ささきん」と呼ばれている。 「社会科の教え方の基礎は、3年間マンツーマンで向き合い信頼関係を築けた男子生徒とのやりとりで養った。資料はどう作ったら見やすいか、どうしたら学ぶことが面白い社会科になるか、たくさんのことを気付かせてくれた。ニックネームの『ささきん』はこの男子生徒がつけてくれたもので、とても気に入っている」 子どもたちとの共通の話題は漫画やアニメ、音楽、お笑いと幅広い。好きなアニメのキャラクターなどの雑談を通して距離が縮まり、本音で話してくれる関係性が出来てきた。 「大人に不信感があって口調の荒い子どもと雑談をしていた時、唐突に『誰からも問題児と言われる僕は本当に問題児ですか』と直球が飛んでくることがあった。大事なものが投げ込まれたら、いつでもその子のこれからを考えてアドバイスしていこうと思う。相談できずにいる子どもはいないか、楽しそうに登園してくる子どもは元気なふりをしていないか。よく見てよく話を聞き、安心して過ごせるようサポートしていきたい」 受験シーズンを迎えた。同園から今春9人が巣立つ。中学3年になると高校入試を控えて迷い、悩み、子どもたちの間で「もう自分の人生は終わる」「高校には行かないと」「中卒ではやばいよね」といった会話が交わされる。近年は進路に通信制高校を選択する子も多い。佐々木さんは「みんな生まれ持った良いところがあって花開くからきっと大丈夫。10年後、20年後にまた会おう」とエールを送る。 (橋立多美)

電動自転車に補助金 免許返納後の「足」になるのか【公共交通を考える】5

つくば市は今年度、70才以上の市民を対象に、電動アシスト自転車購入費用の4分の3を補助する事業を行った。自家用車に代わる移動手段の確保と社会参加の促進、健康増進が目的で、高齢者500人の申し込みを見込んで3675万円の予算が割り当てられた。12月6日現在で補助金申請は約300人、概算で約1630万円分になった。 運転免許を返納した後の新たな交通手段として、電気がアシスト(手助け)してくれる電動自転車を購入する人がいる。こぐのに疲れると電動アシスト自転車を購入したり、「これは楽だよ」と勧められて乗り始める。だが自転車は体をガードしてくれるものはなく、高齢者が自転車事故に巻きこまれる心配もある。 交通安全講習受講が条件 補助を始めた市高齢福祉課によると、市が実施する交通安全講習を受講することを条件に、2輪車購入の場合、上限5万円、3輪車には上限12万円を補助している。2022~23年度に運転免許証を自主返納した人が2輪車を購入するとさらに1万5000円、3輪車購入の場合は3万円を上乗せする。加えて自転車用ヘルメットを同時に購入すると上限2000円が補助される。 市庁舎で行われた交通安全講習会は560人の参加を見込み、5月から11月までの14日間で合計28回(午前と午後の開講で1回20人まで)開催された。自転車メーカーによる座学と、市役所敷地内で電動アシスト自転車5台を使った試乗と実技講習が実施された。講習会を受講したのはこれまで計364人で平均年齢75.7歳、最高年齢は94歳の男性だった。 講習会を受けた364人中、実際に電動アシスト自転車を購入したのは今月6日現在、8割を超える約300人(2輪車250台、3輪車50台)。このうち約40人が運転免許証返納の補助申請を行った。ヘルメット購入の補助を併せて計約1630万円の支出になるという。 市防災交通安全課の非常勤職員で交通安全教育指導員3人が実技講習を担当した。指導員の廣瀬明子さんは「電動アシスト自転車は一般の自転車と比べて重く、バランスを崩すと車体を戻しにくい。両足がきちんと地面に着くのか試乗してもらったり、ペダルの踏み加減など安全な乗り方を体験してもらった。また、70歳以上の人が乗る自転車は歩道を走っても良いが、歩道は基本的に歩行者のもので自転車は車道寄りを走ること、道路の斜め横断は違反になること、交差点を右折する場合は原則、交差点をいったん直進して止まり右側に向きを変えて進む『2段階右折』とするなどの交通ルールを説明した」と話した。 市高齢福祉課によると、参加者からは「受講して自分に合う自転車のサイズが分かった」、「自転車の運転を見直す機会になった」とする高齢者がいた一方、「(身体が思うように動かず自転車の)運転は無理」と諦めた人もいたという。同課の日下永一課長は「試乗体験は大事で、安全を確認した上で申請してもらうために講習会を実施している」とした。購入費補助事業は来年度も実施する方針だ。 小さい乗り物にシフト 同市あしび野在住の稲川誠一さん(79)は、小学生の登校を見守る立哨(りっしょう)活動や自主防犯ボランティアとして活躍している。6月の講習会を受講した後に体調を崩して電動アシスト自転車の購入はかなわなかった。運転免許証は返納していない。 稲川さんは「交通安全教室が保育園や小学校などでしか開催されてない現状では、自転車が軽車両であり、道路交通法でルールが決められていることがあまり知られていない。それだけに講習会は有意義だと思う」とした上で「以前は、高齢者が乗る自転車はフラフラして危ないし、どんな動きをするか、最悪を考えて自家用車を運転していた。今は高齢になると行動範囲が狭くなって小さい乗り物にシフトしていくものだと分かった。自転車と自動車がお互いに譲り合うことが大切だと思う」と話した。 転倒の心配ない三輪自転車に補助 土浦市では高齢者に限らず、市民や子育て家庭の日常の移動手段を確保するため、転倒の心配が少ない三輪自転車と、幼児2人同乗用自転車購入費用の一部を補助している。いずれも自転車購入金額の半分を補助するもので、三輪自転車は2万5千円が上限。幼児2人同乗用自転車は3万円が上限だ。 三輪自転車の購入費補助は今年度から始まった。電動自転車だけではない三輪自転車も補助の対象となっている。土浦市都市計画課によると、今年度の予算額は25万円。11月末の時点で8人の申し込みがあり、今月12月の時点で残り約2台分の予算が残っている。募集開始直後は多くの問い合わせがあり、現在も数件の問い合わせを受けている。来年度の三輪自転車の補助は未定。安全走行のための講習会は実施していないが、購入前に必ず試乗することを呼び掛けている。(橋立多美、田中めぐみ) 終わり ➡「公共交通を考える」の過去記事はこちら

高齢者がスマホ予約に挑戦 AIで乗合タクシーを便利に【公共交通を考える】4

高齢化が進むつくば市茎崎地区を対象に12月1日から、同市が運行する乗合タクシー「つくタク」のスマホ予約実証実験が行われている。スマートフォンで専用アプリを開き、乗車時間と場所、目的地を入力して予約すると、AIが自動生成したルートで複数の客を乗せながら効率良く目的地まで運行するという実験で、AIオンデマンドシステムと呼ばれる。来年2月29日まで3カ月間実施される。 「分からない」手を挙げる人続出 実証実験に先立ち11月21日、茎崎交流センターで、自分のスマートフォンからネット予約するための説明会が開かれ、60代から80代の高齢者56人が市職員らのサボートを受けながらネット予約に挑戦した。 つくタク利用者の8割を高齢者が占める。アプリを用いた予約に慣れてない高齢者が説明会に集まった。説明会は、高齢者が自分のスマートフォンに、QRコードからアプリをダウンロードすることから始まった。会場から「分からない」と手を上げる人が続出し、サボートにあたった市職員ら8人が1人ひとりに向き合って操作を支援した。 参加した同市自由ケ丘の民生委員で70代の男性は「みんなに教えないといけないから」と、前かがみになりながらスマートフォンの画面に目を凝らした。森の里の谷中絹代さん(80)は「外出にはつくタクを利用している。予約は当日利用が朝8時半から、当日以外は正午からと決められていて時計を見ながら予約している。操作ができると予約が便利になると聞いて来たが、インストールとかタップとか用語が分からないし難しい」と話した。 実証実験を推進する市科学技術戦略課は来年1月10日まで、同センターのほか茎崎地区の各所でスマホ相談会を開いて普及に努めている。森の里の自治会長、倉本茂樹さん(81)は「つくタクを利用するのは75歳以上の後期高齢者が多くを占めると思う。スマホ操作に不慣れな状況を踏まえて、高齢者でも使いやすいシステムにしてほしい」と、操作に不安な高齢者をおもんばかった。 25年度にネット予約導入へ 国交省の「スマートシティモデル事業」に選定された同市は、筑波大学、KDDIをはじめとする47機関で構成する「つくばスマートシティ協議会」(会長・大井川和彦知事、五十嵐立青市長)を設立。先端技術を取り入れて都市が抱える問題を解決する事業に取り組んでいる。つくタクの実証実験は、市と同協議会、AIを活用した効率的な配車システムのノウハウを持つ民間企業との連携事業で実施されており、同地区で使用されている8人乗りジャンボタクシー3台のうち1台が実証実験に使われている。 つくタクは現在、市内5つの地区(筑波、大穂・豊里、桜、谷田部、茎崎)ごとにオペレーターが電話予約を受け、2011年の運行開始以来、人手作業による配車を実施している。運行は1時間に1便で平日の午前9時台から午後5時台まで。年約4万4000人が利用し、そのうちの8割が高齢者で買い物や通院目的での利用が主体となっている。 同課がまとめた今年4~8月のつくタク利用実績によると、利用者数は5カ月間で2万590人で、前年度同期と比較して158人(0.7%)増えている。月別利用者数や地区別の1時間毎の利用者数などは地区によって増減が見られる。乗合率は全地区平均で52%(昨年は51%)と、ほぼ半数が1人での利用となっている。 一方、全ての地区で予約のお断り数が増加してキャンセル待ちが生じており、利用者からは「予約をとるのが面倒」「予約センターが混み合い、予約できない」など改善を求める声が挙がっている。 茎崎地区では3カ月間にわたる実証実験の後、利用者数や運行距離などのデータ、利用者とつくタクを受託している事業者の感想や要望などを元に検証が行われる。つくタクの運行を担当する市総合交通政策課は、現状の人手による電話予約に加えて2025年度から、24時間いつでもネットで予約受け付け可能なAIオンデマンドシステムを導入することを検討している。(橋立多美) 続く ➡「公共交通を考える」の過去記事はこちら

バス廃線後利用者3倍 住民主体で送迎サービス【公共交通を考える】3

水曜日の午前10時50分、つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンのほぼ中心にある市広岡交流センターの駐車場に、買い物バッグを手にした高齢の女性たちが集まってくる。ショッピングカートを押してくる人もいる。 桜ニュータウン高齢者等送迎システム「さくら」(中澤哲夫代表)が運行している「土浦イオン買い物乗合」で、毎週水曜日にワゴン車や乗用車に同乗して4キロ離れた大型商業施設、イオンモール土浦に向かう。利用者は思い思いに買い物やランチを楽しんで車に戻り、午後1時に桜ニュータウンに帰る。運転者は重い荷物と一緒に利用者を自宅まで送り届けている。 時々利用しているという87歳の女性は「山口県から娘の家に引っ越してきたので知った人がいなくて寂しかったが、買い物乗合を使うようになって顔なじみの人ができた。車内でのおしゃべりが楽しくて‥」。「夫と買い物に行くと急かされて落ち着かない。買い物乗合はゆっくり買い物できてストレス解消にもなる」という人も。 予約の必要はなく、料金は1回100円。乗車する時に運転者に支払う。毎週3~5人が利用し、そのうちの9割が女性だという。 キロ20円、土日祝日問わず朝8時から夕6時 高齢者等送迎システム「さくら」は、バス廃線問題に立ち上がった自治会の下部組織「桜ニュータウンのこれからを考える会」が、廃線問題が持ち上がる前の2020年に、高齢化が著しい桜ニュータウンには共助によるサボート体制が必要とスタートさせた。 65歳以上の高齢者と障害者、運転免許を返納した人が対象で、自家用車で利用者の自宅と目的地の間を往復する。第2種免許がなくても送迎できる国の制度を活用している。会員制の組織で、桜ニュータウンに住んでいる利用会員と協力会員(運転者)、賛助会員で構成されている。運行を開始した20年4月は新型コロナの流行が拡大した時期だったが、20人が利用会員となり、コロナ禍でも送迎は休みなく続けられてきた。 同団地とつくば駅を結ぶ路線バス「桜ニュータウン線」が廃止されると、外出が不便になった住民が送迎システムに関心を寄せ、利用会員は3倍の63人に増えた。運行開始から今年11月29日までの利用者は延べ507人を数える。行き先で多いのが病院または診療所だという。運転者は10人。すべて住民が担当している。 土日祝日を問わず午前8時から午後6時まで運行し、片道15キロの範囲で利用できる。予約方法は、利用会員が、自宅に届いた1カ月間の運転者10人のスケジュール表を見て、希望する時間帯が空いている運転者に電話する。利用者が増えたことで申し込みが重なり、予約が取れないなどのトラブルは今のところない。 料金はガソリン代としてキロ20円に設定され、例えば片道7キロの場合は往復で280円という低料金で運行されている。月初めに前月分を事務局が集金し、送迎実績に応じて運転者に支払う仕組み。予約不要で乗り合いの「土浦イオン買い物乗合」は、利用するたびに運転者に支払う。賛助会員からの会費や寄付金を活用し、送迎中の事故を補償する保険に加入している。 バスが消えるなんて想像してなかった 利用会員の男性(80)は「桜ニュータウンの欠点は交通の不便さで、高齢者にとってますます増える病院通いは、診療費よりも交通費の方が高くなることがしばしば。これを救ってくれたのが『送迎システムさくら』で助かっている」という。 代表の金子和雄さんは「長年この地域に住んできて路線バスが消えるなんて想像もしていなかった。公共交通の利用者は減少傾向で、いまはバスがある地域の人も『自分の身に降り掛かるかもしれない』と考えてほしい。だれもが他人任せにせず、地域の交通について考えるとき」だと話した。(橋立多美) 続く ➡「公共交通を考える」の過去記事はこちら

バス路線が突然廃止 その時住民は【公共交通を考える】2

つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンで今年1月31日、同団地とつくばセンター(つくば駅前)を結ぶ「桜ニュータウン線」が廃止となった。関東鉄道が運行する路線バスで、売り上げの減少が廃止の理由だ。 廃止の方針を聞き、2017年から同団地自治会の下部組織として活動しているまちづくり団体「桜ニュータウンのこれからを考える会」(金子和雄、阿部眞庭共同代表)が立ち上がった。 コロナ禍で利用減、年561万円の赤字 同団地は土浦市に隣接し、今年4月現在1244人が暮らしている。1979年に分譲が開始され、働き盛りの世帯がこぞって入居した。入居から約40年を経て団地全体が同時に老いることになり、高齢化率は市平均の19.2%を大きく超え51.7%に上る(5月1日現在)。 団地のほぼ中央にバスの回転場を備えた起終点の停留所があり、第1期の入居者が住み始めた時から現在に至るまで、土浦駅までの路線バスの起点及び終点となっている。入居当時、都心への通勤手段は常磐線で生活全般が土浦に向いていた。05年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業すると生活圏がつくばに向かい、つくば駅と接続するバスターミナル、つくばセンターへのバス路線を望む声が上がるようになった。 06年4月につくば市のコミュニティーバス「つくバス」の運行がスタートしたが、地域循環ルートでつくばセンターまで時間がかかる上に便数も少なかった。5年後にルートを見直し、関東鉄道が運行する路線バス、桜ニュータウン線になった。廃止直前は平日9本、土日祝日は2本が運行していた。 桜ニュータウン線の廃止は、21年11月に市総合交通政策課と市議でもある同会代表の金子さんが、当時の関東鉄道自動車部長の訪問を受けたことから始まった。同年12月20日、関東鉄道は県バス対策地域協議会に22年6月30日をもって廃止を申請。新型コロナの影響で利用客が大幅に落ち込み、22年度以降に運行する場合の経常収支は年間561万円の赤字になるとし、路線の維持は厳しいというのが理由だった。年が変わって22年2月1日の同協議会で廃止申請案が審議され、路線沿線住民の意見を確認できていないことを理由に廃止決定はいったん保留となった。 2060戸にアンケート、廃止なら交通難民 同会は、沿線住民の利用実態と意見を聞き取るアンケートに乗り出した。104の区会を束ねる桜地区区会連合会にバス路線廃止の動きを説明し、アンケートへの協力を依頼。桜ニュータウンの3区会を含む路線沿線の21区会2060戸を対象に4月3日から5月8日までの期間でアンケートを実施した。回収枚数は724枚で回収率35.1%だった。 集計した結果、外出時の移動手段に桜ニュータウン線のバスを利用していたのは146人で、このうちの半数を桜ニュータウンが占めていた。また、廃線後の移動手段を聞いた項目では「廃線されると目的地まで移動できない」を選択した人は11人いて、7人が桜ニュータウンの住民だった。同団地の住民にとって、つくばセンターに向かうバスは重要な公共交通で、廃止されると「交通難民」になりかねない状況が浮かび上がった。 自由記載欄には▽今は運転しているが、この先が心配で免許返納に踏み切れない▽通院できないので困る▽老人は家に閉じこもるか、便利な地域に引っ越すしかない▽減便になってもいいのでなくならないでほしい▽通勤通学の時間だけでも運行してほしいーなど、廃止への困惑と不安、存続の訴えが書き込まれていた。アンケートの報告書はつくば市を通して同協議会に提出された。 22年8月26日に開かれた協議会で、保留となっていた桜ニュータウン線の廃止申請案が審議された。アンケート報告書によって沿線住民が存続を切望していることが認知されたが、廃止が決まり、翌23年の1月31日で運行を終えることになった。 代替交通を提案「市に希望託すしか」 同会のメンバー伹野恭一さんは「ここだけの話ではなく、売り上げの減少や乗務員の人手不足を理由にした廃線や減便が全国で問題になっている。関東鉄道の採算を考えると受け入れるしかないと思った」と当時を振り返る。 通勤や通学に桜ニュータウン線を利用していた人は、廃止になる前は、つくばセンターまで1本のバスで行くことができた。今は最寄りのバス停まで1キロの距離を歩いて2本のバスを乗り継ぐか、土浦駅行きのバスに乗車して乗り換えるルートを使うしかない。いずれも大幅にう回するルートで、25分だった所要時間が倍以上になって運賃も高くなった。 廃止が決まるまで、同会は市や桜地区区会連合会と何度も話し合うなど、粘り強く桜ニュータウン住民の意識を伝える努力をしてきた。廃止を受け入れた後も、活動の手を緩めずに代替交通の確保に取り組んでいる。 会が提案する代替案は、通勤通学客を輸送する朝晩の定時マイクロバスの運行と、商業施設を経由してつくばセンターに至る新たなバス路線だ。市と協議を進めており、代表の阿部眞庭さんは「市に希望を託すしかない」と話す。(橋立多美) (続く) ➡「公共交通を考える」の過去記事はこちら

200人がコツコツ作った800点 森の里団地で文化祭 つくば

つくば市茎崎地区の住宅団地、森の里で、自治会(倉本茂樹会長)主催の文化祭が26日始まった。親睦を深めることを目的に、住民自身がコツコツ作った作品計約800点を展示している。2015年に始まり、コロナ禍の20年は中止となったが、今年で8回目となる。 帽子やドレスを着せた西洋人形、タペストリー、切った布で絵を描く裂画(きれが)、再生紙の紙テープで編んだかごやバッグ、絵手紙など手工芸品のほか、近くを流れる谷田川の土手で撮影したユリカモメとオオバンの戦いを捉えた写真など出展者200人による約800点が展示されている。 ビーズアクセサリー約100点を出展した渡部喜美子さん(76)は「細かな作業だけど飽きることはない」と制作を楽しんでいる様子。 目を引くのが70代の女性が趣味で続けているという木彫りの仏像4体で、表情は優しく温かみを感じさせる。身長35センチの大黒天は製作に3年、15センチのわらべ地蔵は半年を費やしたという。 文化祭を主導する吉田敏文化部長(75)は「毎年1カ月前に自治会広報紙『森の里だより』で出展を呼び掛けているが、出展者が途切れることはない。文化祭に出そうとコツコツと制作してくれているではないか」と笑顔で話した。 自治会の夏祭りで毎年会場を盛り上げているサークル「よさこいソーラン」のメンバーたちが、会場の玄関ホールに喫茶コーナーを設置。好みでコーヒー、紅茶、抹茶が選べることもあり、楽しげに交流する女性たちの姿が見られた。 倉本自治会長(81)は「文化祭をスタートさせて2、3年は展示期間を3日にしていた。ところが他の地域から見にきてくれて『えっ、もう終わったの』と言われることが多くなって会期を1週間にした」と話してくれた。(橋立多美) ◆文化祭は12月2日(土)まで。つくば市森の里、森の里自治会公会堂で開催。時間は午前10時から午後3時まで。入場無料。

子連れや車いすも心置きなく 味にこだわる自家焙煎コーヒー店 つくば 竹園にオープン 

つくば市の竹園ショッピングセンターに1日、カフェ&豆販売の店「つくば焙煎シルクハット」がオープンした。店主は牛久で生まれ育った大河原淳さん(46)。子ども連れや車いすユーザーが心置きなく過ごせるカフェづくりを目指している。 今年7月、惜しまれつつ閉店した自家焙煎珈琲屋「竹園珈琲」の跡に出店した。同店は車いすユーザーが経営していた店で、段差のない入り口やフラットな床、入り口が引き戸で広々としたトイレなど随所にバリアフリーが施されている。客席は、店主がコーヒーをサービスするバーカウンターを囲むように置かれた椅子10脚のみで、一つの場所にみんなが集まっているという一体感がある。 子連れや障害者優先に驚き 大河原さんは20年ほど前、親族の結婚式に参列するため幼い子どもを連れてハワイに行き、公共、民間を問わず子ども連れや障害のある人への対応が優先されていることに驚いた。翻って日本では、周囲の目線を気にしながら子供を連れて外出している親が多く、車いすユーザーは入り口の段差などがバリアとなって利用できる店は限られるー。こうした現状を気にかけてきた。 大河原さんは「店内はベビーカーや車いすがスムーズに入店でき、車いすユーザーはそのままカウンターに向き合える」とし「ベビーカーに乗ってきた乳幼児向けにシートベルト付きのハイチェアを用意した。心のバリアフリーを店の基本姿勢にして、子ども連れや車いすユーザーも気兼ねなく過ごせるカフェにしていく」という。 全国のカフェ 数千軒を訪ねる 大河原さんは6歳の頃、コーヒー党だった祖父に連れられて行った喫茶店で飲んだミルクコーヒーが好きになった。つくば市内の高校に進むと自転車で周辺地域のカフェを巡った。高校卒業後は県南の大手乳製品加工メーカーの工場に勤務し、まとまった休みが取れると車で日本全国のカフェを訪ねて回った。1日に2、3軒はしごしたこともあり、訪ねたカフェは数千軒に上るという。コーヒーは焙煎度合いによって風味が変わり、店ごとに味が違うからだ。さまざまな店を訪ねるうちに、いつか自分の店を持とうと決めていた。 一方、工場の品質管理課に配属されたことで風味感度が秀でていることが分かった。会社には品質管理のための独自の風味パネル制度があり、同課の社員を対象に年に数回風味識別能力テストが実施される。人間の舌が感じられる限界に近い薄さの5味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を判断できる人が1級パネラーに認定され、大河原さんはいつも1級パネラーだった。 焙煎の教え書き留め 10年前、コーヒー愛好者から「看板はないが、千葉県柏市の駅近くにある焙煎所のコーヒーがうまい」と教えられた。焙煎した豆をレストランやホテルなどに卸す店で、生豆が入った麻袋が積まれた店内に椅子はなかった。店主に「一般客には売れない」と断られたが毎週通い詰めて打ち解けると、一杯のコーヒーを出してくれて立ったまま飲み干した。口に含んで「求めてきたコーヒーだ」と直感したという。 その後も足を運び、店主が語る焙煎のノウハウを漏らさず手帳に記した。しかし2年前に店主は急逝し、教えを書きためた手帳が残った。焙煎所の後継者の好意で、亡くなった店主が使っていた焙煎機で焙煎に挑戦することができた。後継者の指導を受けつつ持ち前の味覚を研ぎ澄まし、生前、店主に教えられた「収穫される地域によって違う豆の特徴を理解し、香り高く味が引き立つ」焙煎の域に達することができた。そして昨年、長年温めてきた自分の店を持つ夢を実現するなら今しかないと、会社を辞めた。 まず県内でカフェ物件を探したが、焙煎した時に店外に排出される煙とにおいが迷惑になると、相次ぎ断られた。県外に範囲を広げるしかないと思った矢先、SNSで竹園珈琲が居抜きで売りに出されていることを知った。ショッピングセンター内の店で近隣住民から苦情が出ることはないし、なじみのあるつくばで開業しようと心が定まったという。 豆は、栽培から品質管理まで適正に行われているスペシャルティコーヒーを使い、焙煎した豆は100グラムから販売する。「茨城のおいしいコーヒー店として茨城を盛り上げて行きたい」と大河原さんは抱負を語る。 プレオーブン時から、散歩を兼ねて毎日通っている近隣に住む倉掛在住の40代の主婦は「濁りがなくて飲みやすい。これまでブラックコーヒーを頼むとお腹を壊したが、ここのコーヒーは大丈夫」と笑顔で話した。(橋立多美) ◆同店はつくば市竹園3-18-2、竹園ショッピングセンター1階。営業は午前10時~午後5時。不定休のためフェイスブックで確認を。詳しくは同店フェイスブックへ。

本に趣を添える「蔵書票の世界展」 つくばの古書店で11月末まで

つくば市吾妻の古書店、ブックセンター・キャンパス(岡田富朗店主)で、読書週間(27日~11月9日)にちなんだ第17回店内展示「蔵書票の世界展」が開催されている。 蔵書票は、本の持ち主を示すため表紙の裏などの見返しに貼る小紙片。版画の技法で制作された小さな芸術品で、「紙の宝石」として収集の対象になっている。 同店は、会津の木版画家、斎藤清(1907ー1999)や、版画や彫刻など多彩に活躍した池田満寿夫(1934ー1997)など、著名な作家45人による約400点の蔵書票を所蔵している。今展では19人の作家のはがき大の木版と銅版を見ることができる。版画家棟方志功(1903ー1975)による切手大の精巧な蔵書票を収録した豆本なども展示されている。 蔵書票は、製紙技術と活版印刷の発達で本が大量生産されるようになった15世紀中頃のヨーロッパで誕生した。当時、書物は高価であったため、個人の紋章などを印刷したものを貼り付け、所有者を明確にしていた。木版画が主流で黒一色で表現されたものが多かった。日本に広がったのは1900年。当時の文芸雑誌「明星」が蔵書票を紹介したのがきっかけで、それまで一般的だった朱肉の蔵書印に取って代わった。 日本の蔵書票は和紙を用い、多色刷り木版の技法で色がカラフルなことが特徴だ。著名な画家や版画家が手がけた独特の絵柄で人気が高く、現在では書物に貼るという本来の目的よりも、コレクターの間で交換されたりネット販売が行われている。 同店は広さ約160平方メートルの店舗に江戸時代や明治、大正、昭和期の郷土史や軍事本などの古書数万冊を所蔵している。今でも入手した古書の見返りに蔵書票が貼ってあることがあるという。 店主の岡田さん(87)は「愛蔵家の書籍に使われるだけあって、手の平に収まるほどの紙片に発揮される豊かな表現力は見事」とした上で「気にいった蔵書票を額に入れてアートとして楽しむのもお薦め」と話す。(橋立多美) ◆「蔵書票の世界展」は11月30日(木)まで。同店はつくば市吾妻3-10-12(北大通り沿い)、開店時間は午前10時~午後4時。火曜定休、臨時休業があるため事前に問い合わせを。駐車場は店舗裏。電話は029-851-8100(同店)。

住民がつくり手 人と人をつなぐ「たけぞのフェスタ」 4日、つくばで

秋の一日を竹園の広場で遊ぼうという「たけぞのフェスタ」が4日、つくば市竹園の竹園ショッピングセンター広場と隣接の竹園交流センターで開催される。主催する市民グループは「地域コミュニティーを再生して安心して暮らせるまちづくりを目指して活動しており、祭り(フェスタ)が、みんながつながり交流のきっかけになれば」としている。 当日は同広場で、衣料や絵本などのフリーマーケット、落ち葉を用いた落ち葉アート、県立竹園高校吹奏楽部による演奏などを開催。交流センターでは、障害のある子どもたちのバリアフリーダンス、ピアノ演奏、コーラスグループやゴスペルユニットによる合唱、ゲームキャラクターカード対戦大会など、近くの竹園サンパーク公園では、自然を楽しむネイチャーゲームが予定されている。広場では、唐揚げやフランクフルト、駄菓子などの販売もある。 主催は、住民たちがつながる住み良いまちづくりを目的に、竹園交流センターで勉強会などを開催している市民グループ「竹園ぷらっと」。9年前に退職し現在竹園地区に住む代表の三橋俊雄さん(74)が、住民同士のつながりが希薄になったことを痛感して昨年立ち上げた。名称は、誰でも「ぷらっと」立ち寄れるふれあいの場という意味を込めたという。 ぷらっとは、三橋さんのまちづくりの理念に共感した竹園在住の毛利正英さん(73)と古久保みどりさん(69)さんとの3人で運営され、フェスタ実行委員会のリーダー役を兼ねる。毛利さんは、5年前から子ども食堂を運営している「竹園土曜ひろば」の代表、古久保さんは2018年、市民団体「つくば市民による財政白書づくりの会」の会員として市の財政事情を調査・分析した「つくば市財政白書」をまとめた。 フェスタは企画から運営まで住民主体のスタイルを取り入れた。住民が知恵と力を出し合い、誰もが参加できてつくり手になる。竹園地区に隣接する倉掛、千現1丁目など竹園東中学校区の住民を対象に、回覧板などで開催を告知し、同時に出店を呼び掛けた。併せて「おまつり好き集まれ!」と実行委員を募った。 16人から出店の申し込みがあり、実行委員には15人が名乗り出て実行委員会が結成された。10月22日開かれた第4回実行委員会には、子育て世代から80代男性まで多彩な顔ぶれが集まり、開催当日のテントの搬入や設営、警備や見回りなどの役割分担を熱心に話し合った。 実行委員の一人、真下麻里子さん(60)は「近くに住んでいても会うことがない知人や、30年住んでいても知らない人もいる。フェスタで懐かしい人に会ったり、新しい出会いがありそう」と祭りを前にしたワクワク感を話す。7年前に東京から竹園に引っ越してきた東海林康夫さん(76)、隆子さん(74)夫妻は「シニア世代が楽しめる内容が欲しい」としつつも「お役に立てるのは喜び。フェスタが大きく育っていけばいい」と話した。これからもみんなで楽しみながら毎年フェスタを開催し、参加者の意見を次年度に生かして発展させていく予定だ。 三橋さんは「住民が企画した地元の初めての祭りに16人から出店の申し入れがあって手応えを感じた。竹園交流センターを利用しているサークルやショッピングセンターの店舗も加わり、にぎわいに一役買ってくれる。秋を満喫するフェスタを楽しんで」と呼び掛ける。(橋立多美) ◆「たけぞのフェスタ」は11月4日(土)午前10時~午後4時、つくば市竹園3-18-2 竹園ショッピングセンターと隣接の竹園交流センターなどで開催。雨天の場合、フリーマーケットは中止。問い合わせはEメール(竹園ぷらっと)へ。

申請わずか2件 つくば市の民間フリースクール補助事業

つくば市内の民間フリースクールを対象に、市が7月に申請受け付けを開始した補助事業について(7月7日付)、申請があったのは2件だけだったことがわかった。運営経費の2分の1などを補助する事業で、市は市内8カ所程度からの申請を想定して制度設計していた。申請件数が少なかったのはなぜなのか、背景を探った。 制度設計を担当した市教育局学び推進課課長補佐の東泉学さんは、あまりに申請の少ないことに「正直驚いた」と胸の内を明かした。東泉さんによると「昨年、市内にある民間施設10カ所中、市内在住の児童生徒が通所している8カ所の状況調査を行い、その内容を事業者補助制度に生かした」という。利用人数や利用料など、施設の規模に応じて交付額を300万~900万円台までの4段階に分け、8カ所の施設への交付を想定して算出した補助金4850万円を23年度当初予算として計上した。 申請受け付けにあたっては、既存の民間施設10カ所と、同課に相談のあった5カ所に補助金の情報提供をした。しかしふたを開けてみると申請件数は2件。審査を経て、2カ所には交付決定が通知された。そのうちの一つは、認定NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所(小野村哲理事長)が運営する「むすびつくばライズ学園」(4月に改称)だ。 なぜ人気がなかったのか。月20人程度が通所するフリースクール「TSUKUBA学びの杜学園」を運営する中谷稔さん(57)と、月平均7、8人が通所する小規模施設を運営する鈴木恵子さん(仮名、46)に話を聞いた。2カ所とも補助金申請はしなかった。 つくば市内には10カ所の施設があり、このうち半分程度の施設が収容能力10人前後の小規模施設だという。フリースクールは法や制度で定められていないため、規模や運営形態、月謝などの費用は施設によって異なる。小中学生は元の学校に在籍したまま通所することになる。 中谷さんは「多くの事業者が様子見になったのではないか」と推測する。「利益を目的とせず、不登校で困っている親子のために尽くそうというボランティア感覚で運営している小規模施設の事業者にとって、いきなり助成金を受給するのにはハードルが高かった。また、施設規模を問わず、なんとか月謝や寄付などでやり繰りできているし、事業計画を立てて申請しても受給できる保証はないし、受給できても制度が打ち切られたら立ち行かなくなるという思いがあったと思う」。 鈴木さんは「煩雑な事務処理で手を出しづらかった」と話した。事業者と、利用者が在籍する学校との連携が重視され、毎月、利用者の出席状況報告書を学校長に、また施設利用状況報告書を市学び推進課に提出することが義務付けられている。鈴木さんは小中学生2人の子どもを育てながら週4日を施設運営、平日の残り1日を子どもの塾通いの送迎に充てる多忙な毎日を送る。土日に施設のホームページの更新やSNSでの情報発信、保護者への対応、会計処理などをこなしている。「ボランティの手を借りながら、ほぼ1人で運営している。これ以上の事務処理をする手間も時間もない」とした。 中谷さんは「補助対象経費を定めた条項の『(つくば市在住の)利用者が5人未満の月の事業に要する経費は、補助対象経費としない』の規定も申請をためらわせる要因になった」と指摘した。利用者に近隣自治体居住の児童生徒が含まれるのは珍しくない上に、体調が悪くなったり気分が落ち込んで通所しなくなるのはフリースクールにありがちなことだという。「キャパが大きく利用者の多い施設には問題ないだろうが、利用者10人程度の小規模施設にとって5人枠はきつい」とし「5人の根拠が示されないまま申請受け付けがスタートした」と、口惜しそうに話した。 続けて中谷さんは「自分1人が思っていることかもしれないが」と前置きした上で「(2021年12月の事業者選定をめぐり迷走した不登校学習支援施設の)むすびつくばへの市のやり方に不安を覚えた。22年度の不登校の学習支援施設の委託業者の選定で1位はトライだった。市の委託を受けて同施設を運営していたむすびつくばは2位になった。継続を求める陳情があると事業費を追加して1年延ばし、昨年度は市内2カ所で委託事業が実施された。その一方で昨年5月から不登校支援の検討会が開かれ、わずか1年というスピードで補助制度がスタートした。これは何か切迫した事情があったのか、と不信を招きかねない」と語った。そして「4850万もの補助金を継続できるのか、首長が変わったらどうなるかという思いも拭いきれない」とも。 鈴木さんは「複雑な事務処理などないシンプルな制度にしてほしい」と強調した。中谷さんは「施設の状況調査はあったが制度について意見を述べる機会はなかった。地元事業者の現状に合うものではなかった」と締めくくった。 申請を断念したフリースクール運営者の声について市学び推進課の東泉さんは「補助経費に関する規定には、児童生徒5人以上での施設利用が制度活用に必要であるという意味を込めた」とし、数カ所から「3人ではどうか」などの問い合わせがあったと明かした。そして「100点満点の制度はないが、5人枠を含めて見直しを行い、使い勝手の良い制度にしていく。事業者さんたちの話を聞く機会は必要だと思っている」と語った。 一方、申請し交付を受けることが決まったリヴォルヴの小野村理事長は「改善を求めたい点もあるが、公的資金を原資としているから要件が厳しくなるのは仕方がない」とした上で、「補助対象外とされることが多い人件費を経費として認めるなど、比較的使いやすい制度設計だと思う。補助金は、カウンセラーによるサポートやスタッフの研修機会を充実させるなど、子どもたちにとってより良い環境づくりに生かせる」と話す。 利用者補助は74人が申請 同市は民間フリースクールへの補助金と併せて、不登校児童生徒の保護者がフリースクールに支払った利用料を補助する事業をスタートさせた。利用料補助は期限までに74人が申請した。 利用者への交付事業は8月4日に補助金交付要綱を公表した。1年を4カ月ごとに区切って年3回交付が行なわれる形で、9月30日まで申請を受け付けた。特例として4月から7月までの利用料はさかのぼって交付した。 昨年実施した民間施設への調査で小中学生100人弱が施設を利用していることが分かり、100人程度への支援を想定して、23年度当初予算に利用者への交付金2400万円を計上した。所得制限を設けず、1人当たり月額上限2万円を交付する。 申請には施設を利用した際の領収書の写しなど5枚の書類を市学び推進課に郵送又は直接提出することになっているが、初めての申請で不備を心配してか、申請者の9割が同課に持参したという。(橋立多美) ➡つくば市の不登校児童生徒支援施策の迷走問題に関する過去記事はこちら

つくば市役所敷地で初の譲渡会 愛護団体の保護猫約30匹

つくば市の動物愛護団体「Team.ホーリーキャット」(重松聖子代表)が保護した猫の里親になってくれる人を探す譲渡会が10月1日、同市役所敷地内で開催される。 同会は6年前に発足。県南地域を中心に、捨てられたり、野良猫が出産するなど、飼育が困難な猫を保護して譲渡会を催したり、増え続ける野良猫を一時捕獲して不妊・去勢手術後に元の場所に戻す地域猫活動などを7人のメンバーがチームとなって続けている。 これまで、活動拠点のつくばでの譲渡会は借りられる場所が見つからず、牛久などで毎月2、3回の譲渡会を開催してきた。なんとかつくばで譲渡会が開けないかと、動物愛護の啓発や犬猫の不妊・去勢手術の補助事業を行っている、つくば市環境保全課との話し合いを重ねて初の譲渡会開催となる。同課の沼尻輝夫課長は「庁舎敷地内での譲渡会が犬猫の殺処分減少の第一歩になれば」と話す。 猫は春と秋が出産期といわれるが、栄養状態がよい、人工光も含め1日12時間以上明るいーなどの条件がそろえば一年中いつでも出産するといわれる。道端に生後間もない数匹が捨てられている、空き家で野良猫が出産したなどの連絡が入り、保護活動にはいとまがないそうだ。手の平に乗るほどの小さな命は同市栗原に同会が設けた保護部屋に収容し、ミルクボランティアの経験があるメンバー、村上由里子さんが猫用の粉ミルクを用いて人工哺乳で育てている。 保護猫を迎えるには条件がある。①責任と愛情を持って最期まで飼育する②脱走防止を常に心掛ける③災害時など避難の必要がある場合は同伴避難をするーなどだ。 譲渡費用必要 ほかに譲渡費用がかかる。譲渡費用は、譲渡までにかかった食費、避妊・去勢手術やワクチン、健康診断、病気の治療費などで、同会は一律2万5000円、体重が足りず避妊・去勢手術が済んでいない子猫は1万8000円と決めている。 民間の保護団体の多くが寄付金をメーンに運営しているが、寄付は保証のない不安定な収入で、譲渡会の運営や備品購入などの資金はギリギリだという。一方、保護猫に対する認知度は上がってきたものの譲渡数は少なく、里親を待っている猫が絶えないのが現状。保護活動でかかったお金を里親に譲渡費用として負担してもらうことで継続的な運営につなげたい考えだ。 保護猫の里親になるにはトライアル(保護猫と実際に暮らしてみるお試し期間)が必須で、後日ホーリーキャットのメンバーが里親宅まで選んだ猫を届ける。 そのため、譲渡会会場から猫を連れて帰ることはできない。また、飼えなくなった動物の引き取りは行わない。 重松さんは「留守にすることが多いから飼うのをためらうという声があるが、世話をしている私たちは留守番がストレスでない猫を紹介できる。留守番に限らず、ライフスタイルに添った猫を紹介できるのでお気軽にお立ち寄りください」と参加を呼びかける。(橋立多美) ◆譲渡会の日時は10月1日(日)正午から午後3時、会場はつくば市役所敷地内の庁舎西側ビルトインガレージ、案内看板あり。参加無料。駐車場はお客様駐車場1、2を無料で利用できる。譲渡会にお目見えする猫たちがホーリーキャットのブログで紹介されている。ブログはこちら。

ベテラン教員にも新たな気付き【不登校生徒の居場所 校内フリースクール】下

伊東誠一さん(仮名、56歳)は、つくば市の公立中学校に今春設置された不登校生徒の居場所「校内フリースクール」の支援員を務める。県南地域の小中学校の教員として教壇に立ち、教頭も務めた。担当教科は理科。思うところがあって今春で学校教員を退いた。その後は放課後児童クラブの指導員になろうかと考えたが、周囲の勧めがあって校内フリースクールの支援員に就いた。 伊東さんが担当する生徒は5人で、このうち3人が常時通学している。登下校の時間や学習する内容、過ごし方は生徒たちの自由意志に任せている。校内フリースクールができたことで、それまで通所していた民間フリースクールを辞めてきた生徒もいるという。 着任し、子どもたちと過ごして分かったことがある。自分の意見をうまく言語化できない子どもたちだからこそ、その話に耳を傾けることの大切さだ。通常の教室では授業中に教員が学習事項を板書して生徒がそれをノートに書き写す。教員にとってはクラス全員が書き写すことは当たり前だが、書き写すことが苦手な子どもは「何が嫌なのか」を聞いてもらえず、級友からは怠けていると見られて学校が嫌いになることがある。「過去の私は子どもの意見をじっくり聞かず、自分主導で子どもたちに勉強を強制していた」と振り返る。 「待つ」ことの大切さにも気づいた。問題が解けない子どもがいたら、考えるヒントを示して答えを考えだすのをじっと待つ。自分は勉強ができないと思い込んでいる子どもほど、答えを見つけ出せたことで達成感を得て自己肯定感が高まる。同時に「考える力」をつけることになる。忍耐強く待てるようになった伊東さんだが、教えることが当たり前の教員にとって待つより教えたくなってしまう。ベテラン教員になるほど待つのは難しいのではないかと伊東さんはいう。 さらに、人と関わるのが苦手な子どもを孤立させないためにどうしたらいいかと考えたが、取り越し苦労だった。女子生徒2人が意気投合して楽しそうに過ごしている。分かり合える友だちがいて安心できる人間関係があれば、学校は楽しくなる。生きづらさを抱えている子どもたちにとって、校内フリースクールは育ちと学びの選択肢の一つとして必要と伊東さんは言い切る。 中学の教員だったころ、高校受験を控えた中3の2学期から不登校になった生徒の担任をしていたことがある。不登校の理由を聞いたがつかみどころがなく、家庭訪問や保護者を交えて話をしたが良い結果は得られなかった。生徒は卒業証書を校長室で受け取り、私立高校に進んだ。 今、校内フリースクールを担当したことで子どもたちの学校に行けない悩みや苦しさが分かるようになり、あの時、生徒をもっと見てやっていれば悩んでいたことに気が付いたと悔いる。「子どもの気持ちを表面的にしか分かってなかった。今の私なら、子どもの視点に立ってもっと出来ることがあった」と話した。 支援員の役割は、子どもたちがストレスから解放される居心地の良い場所づくりだと思っているという。登校してくる子どもたちを笑顔で迎え、話を聞いたり、分からないところがあれば一緒に勉強する。子どもたちにとって「いつも校内フリースクールにいるおじさんでいい」と話す。そんな伊東さんに生徒が掛けた言葉が「先生、来年も担任でいてくれるよね」。子どもたちが望むなら支援員を続けていきたいと伊東さんはいう。 子どもの第3の居場所として全国に広がってきたフリースクールは全国的にはNPOなど民間団体が運営しているものが多い。民間のフリースクールは所在地が遠かったり、月謝など経済的負担で利用できる児童生徒はごく少数に限られるケースもある。一方、自治体が公立学校の空き教室を活用して整備した校内フリースクールは自宅から通学でき、授業料がかからない上に給食も食べることができる。また専任職員(支援員)が中核となって児童生徒の状況や学習内容を把握し、個々に寄り添った支援も期待できる。(橋立多美) 終わり

教員確保できず 募集条件緩和を検討 つくば市【不登校生徒の居場所 校内フリースクール】上

つくば市は、不登校の小中学生が学校内で自由に過ごす居場所「校内フリースクール」の整備を始めたが、配置する支援員が足りない状況にある。今年度は新たにスタートした22校のうち3校で専任の支援員が確保できていない。来年度は市内全校に校内フリースクールを設置する計画だが、教員不足がいわれる中、支援員を確保できるかが課題になっている。 同市は、2021年12月に実施した不登校児童生徒の学習支援施設運営事業者の選定をめぐって迷走した問題を受けて、22年度に不登校支援のあり方について検討した。学校内の支援策の一つとして、全小中学校に校内フリースクールを整備し、不登校や教室に入れない児童生徒が安心して過ごせる居場所をつくる方針を決めた。 22年度に中学校1校に校内フリースクールを開設。今年度は、中学校16校につくり、全ての中学校17校に校内フリースクールを整備した。小学校は今年度、空き教室の活用ができ不登校児童が比較的多い6校に設置した。来年度は新設される1校を含め全32校に整備する目標を掲げている。 校内フリースクールには児童生徒の相談や学習支援を行う専任の支援員1人が常駐することになっている。ところが、小中学校合わせて22校の校内フリースクールのうち、支援員を配置できたのは19校で、小中3校は今も支援員が不在のままだ。 「数えきれない教員に応募呼び掛けた」 支援員はどのように募集が行われ、支援員のいない校内フリースクールはどう運営されているのか。市教育局学び推進課によると、支援員の公募は市のホームページ(HP)で2月に始まった。主な勤務条件は▽任期は24年3月31日までの1年間▽公立小・中学校に週4日または5日勤務▽時給1281円、通勤費支給▽教員免許保持者―。市教育相談センター所長で校内フリースクール担当の久松和則参事は「数え切れないほど多くの現役教員やOB教員に電話をかけて応援と応募を呼び掛けた」と話した。 HPで募集を開始すると、同課に問い合わせの電話が多くかかってきたが、募集22人に対し、実際の応募者数は20数人だった。書類審査及び面接で19人に絞られ、小中3校が未配置になった。着任した支援員は20代から60代で、結婚や子育てで教職から長期間離れていた女性が全体の4分の3を占める。 応募者が少なかったことについて同課は、民間フリースクールが知られるようになっているのに対し、県内では昨年4月、同市の中学校に設置した校内フリースクールを皮切りに導入の動きがあるものの認知度は低く、支援員の仕事について理解を得られなかったことが原因と考えられるとしている。 支援員のいない小中3校では、利用している児童生徒の担任教員が手の空いた時間に支援に入る。手が空かない時間は校長、教頭、学年主任らが入れ替わり支援に入り、学校全体で運営しているという。久松所長は「支援員不在での運営が、その学校に勤務する教員の負担になっているという話はない」とした。また、学校によっては不登校の対策会議を開くなど全教員が校内フリースクールへの理解を深め、協力態勢が整ってきていると言及した。 支援員を配置する意義については「校内フリースクールは不登校児童生徒たちの居場所づくりだが、場所をつくったら終わりではない。大事なのは常駐の支援員がいること。いつでも温かく迎えてくれる支援員がいることで安心できる居場所になって、学校に行きやすくなる」と久松さんは力を込めた。 任用期間で応募断念 同課は、支援員不足の状況を好転させたいと、次年度の公募要項の再検討に取りかかっている。「校内フリースクールを継続し、推進することが前提」とした上で、募集条件を緩和して人材の確保につなげたい考えだ。時給は条例で決まっていて、条例改正に時間を要することから変更はないとする。今年度と同じように不登校児童生徒を理解し、1人ひとりに寄り添って支援できる人を採用する。検討結果が出る時期は未定だが、来年1月中には市HPで広く応募を呼びかけるという。また、年度末もしくは次年度に不登校児童生徒や支援員に聞き取り調査を行い、校内フリースクールの1年間の成果と課題を検証するとしている。 子育てで教職から離れている40代の女性教員は「復帰して不登校の子どもたちをサポートしたいが、任用期間が1年間で毎年審査と面接を受けることになり、子どもたちに長く伴走するのは難しい」と応募を断念したそうだ。また、時給について「非常勤だから仕方ない」という声がある一方で「経験を積んだ教員に対して良識ある時給とは思えない」という別の教員OBの意見もある。 同市の校内フリースクールの総称はハートフル「Sルーム」と名付けられている。SはSafe(セーフ)、Select(セレクト)、Special(スペシャル)、Support(サポート)、Space(スペース)の頭文字から付けられた。特徴は▽教室復帰ではなく社会的自立を目指す▽時間割はなく自主的な過ごし方と学びができる▽Sルームに登校すればその日は出席扱いとなるなど。 同市の不登校児童生徒数は21年度末で592人。現在、校内フリースクールに通っているのは、不登校や登校しても教室に入れず校門でUターンしたり保健室で過ごしていた児童生徒のほか、発達障害をもっていたり、外国籍で日本語によるコミュニケーションが苦手な児童生徒など。学校規模によって利用する児童生徒数は違うが、夏休みなど長期の休み明けは不登校や登校を渋る子どもたちが増え、利用者が増えることが予想されるという。(橋立多美) 続く

ハンバーガーに寄せる「おいしい絵」 つくばで川浪せつ子さん水彩画展

NEWSつくばにコラム「ご飯は世界を救う」と「ご近所スケッチ」を執筆している川浪せつ子さんの水彩画展が29日まで、つくば市松代のマツシロバーガー&カフェで開かれている。同市在住の水彩画家、イラストレーターによる「おいしい絵 ハンバーガーの水彩画展」で、同店のハンバーガーやスイーツなどを描いた作品17点と、つくばや周辺地域の四季折々の風景画21点が展示されている。 いずれの作品もA4サイズほどの判型に、透明水彩絵の具を用いて細やかなタッチで丁寧に描き込まれている。風景画は2017年に廃刊となった常陽新聞に川浪さんが寄稿していたコラム「花もダンゴも」で掲載された作品。透明感と清涼感に満ちた作品を熱心に鑑賞する入店者の姿が見られた。 会場のマツシロバーガー&カフェは、コラム「ご飯は世界を救う」の54回目に登場したハンバーガー店(2月14日付)。以前は同市小野崎の商業施設でフランチャイズ「フレッシュネスバーガーLALAガーデンつくば店」として営業していた。川浪さんは当時から、施設内の民間のスポーツクラブに通うときに必ず立ち寄る居心地の良い店だったが、22年10月にLALAガーデンつくばが閉店したことで独立し、フランチャイズ店で培ったノウハウを生かし、昨年末松代ショッピングセンター内にオープンした。 独立を果たした同店を応援しようと川浪さんらは3月から準備を進めてきたそうで、おいしそうなハンバーガーが壁面を飾っている。入店した50代から60代の女性たちからは「つい食べ慣れたハンバーガーを注文してしまうが、レパートリーが広がりそう」といった声や「風景画は自然の清々しい空気感が感じられて優しい気持ちにさせてくれる」と話していた。 川浪さんは「ランチスケッチ『ご飯は世界を救う』には食べることは心を豊かにしてくれるという思いと、安全で安定した食への思いを込めている」と話す。イラストを添えながら独自の視点で捉えた店の成り立ちや人間模様が書き添えられ、食べログとは一味違うランチガイドに仕上がっている。昨年から始まった「ご近所スケッチ」は地元再発見散歩で、身近な場所の魅力に触れられる。(橋立多美) ◆おいしい絵 ハンバーガーの水彩画展 会期は29日(火)まで。会場は松代ショッピングセンター谷田部松代郵便局並び。営業時間は午前11時~午後8時。水曜定休。問い合わせは川浪さん(電話080-5524-8678)。

民間フリースクールに補助 つくば市が募集開始 不登校支援

つくば市は、不登校児童生徒の学習を支援したり居場所を提供する市内の民間フリースクールに、運営経費の2分の1などを支援する補助事業をスタートさせる。3日に補助金交付要綱を公表し申請受付を開始した。 家庭の経済的負担を減らし、民間フリースクールの経営を支えることで、不登校児童生徒の社会的自立を支援することが目的。特例として8月3日までに申請すると今年4月にさかのぼって補助金適用とする。 同市は、2021年12月に実施した不登校児童生徒の学習支援施設運営事業者の選定をめぐって迷走した問題を受けて、22年度に不登校支援のあり方について検討し、支援策の一つとして、民間事業者と利用者に支援する方針を決めた。 昨年、市内の小中学生が利用している民間施設8カ所を調査し、小中学生100人弱が利用している実態があったことなどから、今年3月、23年度当初予算として、民間への補助金4850万円と利用者への交付金2400万円の計7250万円を計上した。利用者100人程度への支援を想定している。昨年市内の小中学生の利用がなかった施設も含め、市内にある既存の民間10施設と、市に相談があった5施設に補助金交付について情報提供するとしている。 補助対象となるフリースクールは①月曜から金曜まで週3日以上開所する②午前8時から午後5時までの間に4時間以上開所し学習支援または居場所を提供する③不登校児童生徒の相談や指導に関して深い理解と知識、経験がある④学校との間に連携協力体制を構築できる⑤必要な施設及び設備がある、または準備できる⑥家庭と連携協力関係を構築できるーの6つの要件を満たすことなどが必要。 一方、フリースクール運営の実績や、スタッフの資格の有無や経験年数、施設の広さや設備など明確な基準は示されていない。これについて市教育局学び推進課は「フリースクールは発展途上で経験値はなく数字で推し量れない」とし、「(民間事業者は)手探りで多様な学習の機会を提供しようと活動されており、増加傾向にある不登校の児童生徒たちの居場所を広げていきたい」とする。 補助額には教員免許所有者の配置やカウンセラー配置、研修受講費などが加算される。施設の広さや設備については申請書に十分目を通して、確認の上で判断するとしている。 申請から2、3週間で補助金の交付が決まり、申請者に通知される。ホームページなどで公表はしない。一方、民間フリースクール利用者への補助事業は交付要綱を準備中で、まとまり次第、ホームページで公表するとしている。 21年度末の同市の不登校児童生徒数は592人で増加傾向にある。市内には民間フリースクールが10カ所程度あり、ほとんどが利用者の月謝や寄付金、助成金などで運営されている。昨年、市が8施設を対象に実施した調査によると、利用者が10人未満の施設が多く、利用料は1回1500円~2000円、月額は1万5000円~3万円が多かった。(橋立多美) ◆つくば市の民間フリースクールに対する補助事業の内容は市ホームページへ。

校内フリースクールの可能性考える 21日にトークイベント つくば

不登校の子どもたちのフリースクールを運営する認定NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所(つくば市二の宮、小野村哲理事長)が21日、同市館野、小野川交流センターでトークイベントを開く。地域ぐるみで子どもたちの学びと育ちを支えるために何が大切かを考える「校内サードプレイス(フリースクール)の可能性」がテーマ。 校内フリースクールは、教室に行けない子どもたちが、学校内の別の場所で学んだり過ごしたりする居場所で、つくば市は今年度、全公立中学校と不登校児童が多い6つの小学校に校内フリースクールを設置する。24年度は市内すべての小中学校に整備する方針だ。学習指導要領などに縛られず、子どもたちが主体的に学びに参加することをサポートする立場をとっている。 市の校内フリースクールに今年度から常駐の教員からの申し出で、教員6人が参加し4月下旬、むすびつくばライズ学園で見学説明会が開催された。参加した教員からは「子どもたちにどのように向き合っていけばいいのか、自分たち自身が相談できる場が大切」「同じ立場の先生たちと情報交換できてよかった」などの感想が寄せられたことが、トークイベント開催のきっかけになった。 イベントではゲストトークとして、神奈川県の県立高校2カ所に居場所カフェをつくった横浜市のNPO法人パノラマの石井正宏理事長が「校内居場所カフェの成果と課題」と題して話す。石井さんは14年12月、田奈高校の図書館に「ぴっかりカフェ」、17年6月に大和東高校の多目的ホールに「ボーダーカフェ」をオープンさせた。それぞれ週1日、無料でドリンクを提供し、昼休みや放課後に地域のボランティアが協力して運営している。いずれも毎回平均100人近い生徒が利用し、高校中退、進路未決定を防ぐ効果も期待されている。 続いてパネルディスカッションでは、20年からつくば市茎崎中で始まった別室登校にスタッフを派遣していた認定NPOのLearning For All(ラーニング・フォー・オール、東京都新宿区、李炯植代表)つくばエリアマネージャーの安次富亮伍さん、水戸市を中心に、LD(学習障害)など特性のある子どもたちの環境を整える活動などに取り組むボランティア団体、じゃぁまいいかねっと(池田幸也代表)運営委員で保護者の今井理恵さんらが加わって、「校内サードプレイス(フリースクール)の可能性」をテーマに話す。 小野村理事長は「これまで不登校の主な要因として、子どもたちの無気力や不安が要因だと言われていた。しかしこれらは結果であって、むしろ何が子どもたちを不安にし、気力を奪っているのかをきちんと考えてこなかったことが、問題だったのではないか」と話し、「校内居場所カフェ実践者の話に耳を傾け、子どもたちの学びと育ちを支えるためには何が大切か、一緒に考えたい」とトークイベントへの参加を呼び掛ける。 つくば市の不登校児童生徒数は増加傾向にあり、21度末は小学校 243 人、中学校 349 人の計592人となっている。不登校児童生徒の増加を背景に学校とは別の第三の居場所(サードプレイス)のニーズが高まり、子どもが安心して過ごせて悩みを相談できる居場所をつくる動きが全国の学校に広がっている。(橋立多美) ◆トークイベントは5月21日(日)午後3時から、小野川交流センター(つくば市館野)。来場して参加する方法とYoutube配信視聴があり、来場参加は定員30人、参加費600円(税込み)。申し込みはこちら。問い合わせは電話029-856-8143同研究所。

小学校区に1カ所を【広がる子ども食堂】6

子どもに無料または低料金で食事を提供し、地域交流の場ともなっている「子ども食堂」。2017年から県内の子ども食堂など、食を通じた地域の多様な居場所づくりの設立・運営のサポートに取り組んでいる茨城NPOセンター・コモンズ事務局長で、子ども食堂サポートセンターいばらき(水戸市)の大野覚さん(43)によると、子どもが1人でも安心して利用できる子ども食堂には、子どもの貧困対策と地域の交流拠点の2つの柱がある。 ところが、子ども食堂イコール貧困対策のイメージが広がり、多感な時期の子どもは「周囲から貧困家庭と思われたくない」と利用を控えてしまうことがあるという。支援を必要とする子どもが入店しにくい状況を生まないため店の名称をあえて「子ども食堂」とせず、地域交流を前面に打ち出している食堂が多い。大野さんは「生活が苦しい子どもだけに限定している食堂はわずかで、全体の8~9割の子ども食堂が『地域の誰もが利用できるみんなの居場所』と広く門戸を開いている」と話す。 子ども食堂を開設する方法は、食品衛生責任者の資格が必要など保健所の問題だけで「参入の敷居が低い」と大野さんが言い表すように、開設しようという仲間がいて、調理と食事ができる公的施設などを借りることができれば始めることができる。運営者の7割を市民団体とNPO法人が占め、近年は民間企業が運営する子ども食堂が出現してきた。大野さんはその理由を「社会貢献として消費者に得点が高いからではないか」と分析する。 運営は明確な定義があるわけではなく、運営団体によって開催頻度、スタイル、メニューなどはさまざま。開催頻度は月に1回または2回が多く、土曜の昼食時や平日夜に営業したり、日曜の朝食時間帯に取り組む食堂もある。料金は子どもは無料、有料の場合は100~300円が主流で、大人については子どもより割高に設定されている。年齢を問わず誰でも無料の食堂もある。また、釜でご飯を炊いたり、地域の伝統食の提供や野菜の収穫と料理体験など、食育活動を行っている子ども食堂もある。 県内の子ども食堂の多くが市民ボランティアが主体となって運営されており、課題は「運営費の確保」だ。ボランティアが基本となる経営は必ずしも恵まれたものではなく、寄付や助成金制度などを活用しながら運営を行っているところが多いと大野さんはいう。 食材は農業協同組合からコメや野菜、フードバンクから加工品などの提供を受けているほか、野菜を多く作り過ぎた農家や、地域住民からの寄付で賄われている。 同サポートセンターいばらきコーディネーターの伊東輝実さん(37)によると「運営を担っているのは子育てが一段落した50代から60代の女性たちで、生き生きと活動を続けている」と話す。県内各地の現場を訪ねている伊東さんが、活動が長続きする理由を尋ねたところ「参加自由で義務ではない、無理せず出来る範囲で参加できるから」を挙げた人が多かった。また、地域に貢献しているという自信が生まれ、仲間同士の交流も離れがたい魅力で、「活動の喜びについて、皆さんが『子どもたちの笑顔』と答えてくれた」と話した。 大野さんは「困窮世帯はコロナ禍による収入減と物価高に追い打ちをかけられている。困っている人に無料または低料金で食事を提供する子ども食堂は社会を支える仕組み」だとする一方、県内の小学校区に子ども食堂がいくつあるかを比較した子ども食堂の充足率は、県全域で18・8%と、小学校区5.3校に子ども食堂が一つというのが実情だ、 県全体と比べると比較的多い県南の子ども食堂充足率は20・5%。「5つの小学校区に1カ所という状況にある」とし、「地域を問わず、子どもたちが徒歩で通える小学校区域に1カ所、子ども食堂ができるよう設立と運営をサポートしていく」と意気込みを口にした。また「コロナで交流が遮断されて人と人とのつながりが薄れてしまった。地域コミニティーを深める場としての役割を高めていきたい」と語った。 子ども食堂は2012年に東京で始まり、2年後の14年、厚労省が子どもの貧困率は16・3%で6人に1人の子どもが貧困状態にあると発表したこともあって、貧困対策として全国に普及した。全国に広がる子ども食堂をサポートするNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(湯浅誠理事長)の発表によれば、日本全国に少なくとも7331カ所、県内には149カ所ある(22年11月19日現在)。物価や光熱費の高騰で困窮する世帯の子どもへの支援はもとより、コロナ禍で失われた地域コミュニティーを取り戻す場として必要性が高まる。(橋立多美) 終わり

企業も参加 飲食店やキッチンカーで【広がる子ども食堂】5

飲食店が子ども食堂を開くなど、企業参加型の取り組みも現れ始めている。 つくば市天久保の中国料理店、百香亭筑波大学店は、月2回土曜日の昼間、1日30食限定で無料の弁当を配布する「百香亭みんなの食堂」を実施している。 利用は子どもから現役世代、高齢者まで年齢制限はない。筑波大学が近いことから大学生の利用も多い。2月初め、店頭に「みんなの食堂」の看板が出された同店では、成人の男性が無料弁当を注文していた。店内で数分待ち、スタッフからあたたかい弁当を受け取る。同店がテイクアウトで販売している600円の弁当と同じ大きさの器に中華のおかず3品とごはんが入っている。この日のおかずはにんにくの芽と豚肉の炒め物にたけのこの和え物、シュウマイ。 茨城ロータリーEクラブ会員でもある同店の徐佳鋭さん(41)は「奉仕活動として地元の子どもたちに何かできることをしたいと思い活動を始めた。年齢を問わず、来ていただける方には配布している。温かいものを食べてほしいのでお弁当は注文を受けてから作っている。毎回来る人もいるので、飽きないようにおかずの内容は変えている」と話す。できるだけ長く続け、多くの人に支援を広げるのが目標という。 百香亭みんなの食堂は昨年7月から始めた。つくば市が年間最大10万円を補助する市内8カ所の子ども食堂「みんなの食堂」の一つだ。配布時間中はみんなの食堂の看板を出しているが、最初は3~4個ほどの注文しかなかった。昨年9月に市の情報広報誌「かわら版」にみんなの食堂の情報が掲載されると徐々に来店者が増え、毎回30食が無くなるようになった。活動資金は市の補助金のほか、茨城ロータリーEクラブとロータリー財団が支援している。 「こちらから行けばいい」 つくば市高見原の2丁目会館で2月初め開催された地域の催しに、キッチンカー(移動販売車)を活用した移動式子ども食堂が出店し、ボリューム満点のハンバーグ丼やローストビーフ丼がふるまわれた。 この催しは、高見原を含む市内8つの周辺市街地の地域振興を目的にした市主導の実践型プログラムで、同市香取台在住の岡冨陽子さん(44)のアイデアが採用され、移動式子ども食堂と消防車をメーンに地域住民の交流促進や防災力を高めようという催しが実施された。 出店したキッチンカーは普段、都内のイベントなどで肉料理を販売している。この日は子ども50食、大人約100食分が提供された。子ども向けのハンバーグ丼は無料だ。 イベントを企画した岡冨陽子さんは青森県出身。筑波大を卒業し、10年前から子どもを対象にしたオンラインの料理教室「食育料理教室 ふくふく」を主宰している。 子ども食堂にも興味を抱いていたが「本当に支援を必要とする子どもが来ないのが悩み」という運営者の話にむなしさを感じ、運営する側も利用する子どもも、双方が満足できる仕組みはないのかと思案していた。そして出会ったのが、埼玉県熊谷市のNPO法人あいだの奥野大地副理事長が発案し、同市で2019年にスタートさせた全国初のキッチンカーによる移動式子ども食堂だった。「固定の店舗だと遠すぎたり、貧困家庭と思われるから行きづらいといった子どもが出てしまう。困っている人が時間をかけて来る必要はなく、こちらから行けばいい」。 シンプルな理由で始めた移動式子ども食堂の仕組みは、キッチンカーを所有する飲食店に食事の提供を委託し、プロの味を提供できる。中学生以下の子どもと妊婦は無料で、その食事代は寄付金を充てる。大人は通常の価格で購入することでキッチンカーの収益になるという仕組みだ。徐々に認知度が高まり、千葉や静岡、沖縄など、全国に移動式子ども食堂開催の輪が広がり始めている。 「こちらから行けばいいという考えに共感し、この仕組みならみんなが笑顔になれる」と思った岡冨さん。同法人の茨城支部として活動し、県域に移動式子ども食堂を広げたいと話す。まずは市内での移動式子ども食堂の開催に向けて準備しており、子どもたちには友達と連れ立って気軽に来てほしいと呼びかける。 ふるさと納税を充当 境町はコロナ禍の2020年から、町内の飲食店が参加し、毎週土曜日と日曜日に各店10食分ずつ、町内に住む18歳以下の子どもに弁当を無料配布する「境町こども食堂」を実施している。現在、和食店、洋食店、すし店など14店が参加する。 ふるさと納税や企業からの寄付を原資に、町が1食当たり300円を飲食店に助成し、年間2万食ほどが子どもたちに無料提供されている。配布時間は午前11時から午後4時の間だが、ほとんどの店が午前中に配り終わってしまうという。 同町まちづくり推進課によると、地域全体で子どもたちを見守ろうという橋本正裕町長の発案でスタートした。このやり方だとハードルは高くない、全国の自治体に仕組みを広げたいと同課はいう。(田中めぐみ、橋立多美) 続く

「気がかり」をつなぎ ヤングケアラーを支援【広がる子ども食堂】3

5年前の12月、つくば市内の子ども食堂の運営者から、不登校やいじめなどの教育相談に取り組む同市の穂積妙子さん(73)に相談が持ち掛けられた。穂積さんは民間団体「つくば子どもと教育相談センター」の代表を務める。相談は「いつも来ている姉妹がいて、姉が妹の勉強を見てやっているが他の子どもと交流はなく、どこか違う。不登校の疑いもあるが、他にも事情がありそうで気がかり」というものだった。 同センターの相談員を務める元教員が子ども食堂を訪れ、姉妹と一緒に食事を取った。この時も姉妹の脇には教科書とノートが置かれていた。温かい食事に気持ちがほぐれた姉妹に「勉強熱心でえらいね」と話しかけたことをきっかけに、相談員の問いかけに姉がとつとつと話し始めた。 勉強を見てやっていたのは19歳の姉で、不登校の中学3年の妹の高校受験を案じてのことだった。シングルマザーの母親は入退院を繰り返していて、生活保護を受給していること、ホームヘルパーの生活援助を受けているが頼れる親戚はいないこと、姉は高校に進学しなかったこと、姉妹の下に小学6年の弟がいることが分かった。相談員は、姉の話に耳を傾けながらヤングケアラーだと直感した。 ヤングケアラーは、ケアを必要とする家族がいて、病気や障害の親のケア、きょうだいの世話、祖父母の介護など、大人が担うような家事や家族の世話、介護などを引き受けている子どもをいう。ヤングケアラーとなることで、遅刻や早退、欠席、成績の低下が生じ、進学もあきらめざるを得ない状況になるなど、子ども自身の生き方に影響を及ぼすことが問題視されている。 母と妹弟の暮らし支える 姉は小学校高学年の頃から、家事を一手に引き受けながら妹と弟の世話、母親の看病や見守りまで4人の暮らしを支える役割を担っていた。ホームヘルパーの生活援助は当事者である母親へのサービスのみで、同居家族の食事作りや家族の部屋の掃除や洗濯などは含まれなかった。 やがて姉は、家事や家族の世話に追われて学業に充てる時間が取れなくなって成績は低下、友だちとの交流もなくなって中学2年から不登校となり、高校進学を諦めた。妹と弟もいつしか不登校になっていた。 真剣なまなざしで姉は「妹を私のように中卒にさせたくない。生活保護を受けながら高校に通学できますか」と問いかけてきた。相談員の元教員が「生活保護費には高等学校等就学費という制度があって、認められたら高校に行ける。きっと大丈夫」と答えると、ほっとした様子で表情が明るくなったという。 その後、穂積さんや元教員との相談を繰り返し、姉妹は志望校を定時制の県立高校に絞り、高校進学を諦めた姉と妹2人が共に入学できないかと志望先の校長に相談した。一方、高校進学を希望したことで福祉事務所から高等学校等就学費が給付されることになった。 翌年春、20歳になった姉は成人特例で面接のみで入学が許可され、中学3年の妹は一般受験で合格した。働きながら学ぶことのできる定時制高校は1日の授業時間が短い。姉妹は空いた時間を母親の世話や家事に充てながら勉強し、2人そろって4年後に同校を卒業した。 穂積さんは「姉は頼る人も相談する人もなく、家族を支えることを負わされていた。子ども食堂の運営者からの連絡がなければ彼女たちの存在すら知らなかった。子ども食堂は、運営に携わる大人が子どもが発するSOSに気づくことができる大切な場所だと思う」と振り返る。「定時制高校には知り合いの先生がいてスムーズに連絡がとれた。高校の不登校生徒に対する迅速で丁寧な対応もありがたかった」と話す。(橋立多美) 続く

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