子どもに無料または低料金で食事を提供し、地域交流の場ともなっている「子ども食堂」。2017年から県内の子ども食堂など、食を通じた地域の多様な居場所づくりの設立・運営のサポートに取り組んでいる茨城NPOセンター・コモンズ事務局長で、子ども食堂サポートセンターいばらき(水戸市)の大野覚さん(43)によると、子どもが1人でも安心して利用できる子ども食堂には、子どもの貧困対策と地域の交流拠点の2つの柱がある。
ところが、子ども食堂イコール貧困対策のイメージが広がり、多感な時期の子どもは「周囲から貧困家庭と思われたくない」と利用を控えてしまうことがあるという。支援を必要とする子どもが入店しにくい状況を生まないため店の名称をあえて「子ども食堂」とせず、地域交流を前面に打ち出している食堂が多い。大野さんは「生活が苦しい子どもだけに限定している食堂はわずかで、全体の8~9割の子ども食堂が『地域の誰もが利用できるみんなの居場所』と広く門戸を開いている」と話す。
子ども食堂を開設する方法は、食品衛生責任者の資格が必要など保健所の問題だけで「参入の敷居が低い」と大野さんが言い表すように、開設しようという仲間がいて、調理と食事ができる公的施設などを借りることができれば始めることができる。運営者の7割を市民団体とNPO法人が占め、近年は民間企業が運営する子ども食堂が出現してきた。大野さんはその理由を「社会貢献として消費者に得点が高いからではないか」と分析する。
運営は明確な定義があるわけではなく、運営団体によって開催頻度、スタイル、メニューなどはさまざま。開催頻度は月に1回または2回が多く、土曜の昼食時や平日夜に営業したり、日曜の朝食時間帯に取り組む食堂もある。料金は子どもは無料、有料の場合は100~300円が主流で、大人については子どもより割高に設定されている。年齢を問わず誰でも無料の食堂もある。また、釜でご飯を炊いたり、地域の伝統食の提供や野菜の収穫と料理体験など、食育活動を行っている子ども食堂もある。
県内の子ども食堂の多くが市民ボランティアが主体となって運営されており、課題は「運営費の確保」だ。ボランティアが基本となる経営は必ずしも恵まれたものではなく、寄付や助成金制度などを活用しながら運営を行っているところが多いと大野さんはいう。
食材は農業協同組合からコメや野菜、フードバンクから加工品などの提供を受けているほか、野菜を多く作り過ぎた農家や、地域住民からの寄付で賄われている。
同サポートセンターいばらきコーディネーターの伊東輝実さん(37)によると「運営を担っているのは子育てが一段落した50代から60代の女性たちで、生き生きと活動を続けている」と話す。県内各地の現場を訪ねている伊東さんが、活動が長続きする理由を尋ねたところ「参加自由で義務ではない、無理せず出来る範囲で参加できるから」を挙げた人が多かった。また、地域に貢献しているという自信が生まれ、仲間同士の交流も離れがたい魅力で、「活動の喜びについて、皆さんが『子どもたちの笑顔』と答えてくれた」と話した。
大野さんは「困窮世帯はコロナ禍による収入減と物価高に追い打ちをかけられている。困っている人に無料または低料金で食事を提供する子ども食堂は社会を支える仕組み」だとする一方、県内の小学校区に子ども食堂がいくつあるかを比較した子ども食堂の充足率は、県全域で18・8%と、小学校区5.3校に子ども食堂が一つというのが実情だ、
県全体と比べると比較的多い県南の子ども食堂充足率は20・5%。「5つの小学校区に1カ所という状況にある」とし、「地域を問わず、子どもたちが徒歩で通える小学校区域に1カ所、子ども食堂ができるよう設立と運営をサポートしていく」と意気込みを口にした。また「コロナで交流が遮断されて人と人とのつながりが薄れてしまった。地域コミニティーを深める場としての役割を高めていきたい」と語った。
子ども食堂は2012年に東京で始まり、2年後の14年、厚労省が子どもの貧困率は16・3%で6人に1人の子どもが貧困状態にあると発表したこともあって、貧困対策として全国に普及した。全国に広がる子ども食堂をサポートするNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(湯浅誠理事長)の発表によれば、日本全国に少なくとも7331カ所、県内には149カ所ある(22年11月19日現在)。物価や光熱費の高騰で困窮する世帯の子どもへの支援はもとより、コロナ禍で失われた地域コミュニティーを取り戻す場として必要性が高まる。(橋立多美)
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