つくば市の竹園ショッピングセンターに1日、カフェ&豆販売の店「つくば焙煎シルクハット」がオープンした。店主は牛久で生まれ育った大河原淳さん(46)。子ども連れや車いすユーザーが心置きなく過ごせるカフェづくりを目指している。
今年7月、惜しまれつつ閉店した自家焙煎珈琲屋「竹園珈琲」の跡に出店した。同店は車いすユーザーが経営していた店で、段差のない入り口やフラットな床、入り口が引き戸で広々としたトイレなど随所にバリアフリーが施されている。客席は、店主がコーヒーをサービスするバーカウンターを囲むように置かれた椅子10脚のみで、一つの場所にみんなが集まっているという一体感がある。
子連れや障害者優先に驚き
大河原さんは20年ほど前、親族の結婚式に参列するため幼い子どもを連れてハワイに行き、公共、民間を問わず子ども連れや障害のある人への対応が優先されていることに驚いた。翻って日本では、周囲の目線を気にしながら子供を連れて外出している親が多く、車いすユーザーは入り口の段差などがバリアとなって利用できる店は限られるー。こうした現状を気にかけてきた。
大河原さんは「店内はベビーカーや車いすがスムーズに入店でき、車いすユーザーはそのままカウンターに向き合える」とし「ベビーカーに乗ってきた乳幼児向けにシートベルト付きのハイチェアを用意した。心のバリアフリーを店の基本姿勢にして、子ども連れや車いすユーザーも気兼ねなく過ごせるカフェにしていく」という。
全国のカフェ 数千軒を訪ねる
大河原さんは6歳の頃、コーヒー党だった祖父に連れられて行った喫茶店で飲んだミルクコーヒーが好きになった。つくば市内の高校に進むと自転車で周辺地域のカフェを巡った。高校卒業後は県南の大手乳製品加工メーカーの工場に勤務し、まとまった休みが取れると車で日本全国のカフェを訪ねて回った。1日に2、3軒はしごしたこともあり、訪ねたカフェは数千軒に上るという。コーヒーは焙煎度合いによって風味が変わり、店ごとに味が違うからだ。さまざまな店を訪ねるうちに、いつか自分の店を持とうと決めていた。
一方、工場の品質管理課に配属されたことで風味感度が秀でていることが分かった。会社には品質管理のための独自の風味パネル制度があり、同課の社員を対象に年に数回風味識別能力テストが実施される。人間の舌が感じられる限界に近い薄さの5味(甘味、塩味、酸味、苦味、うま味)を判断できる人が1級パネラーに認定され、大河原さんはいつも1級パネラーだった。
焙煎の教え書き留め
10年前、コーヒー愛好者から「看板はないが、千葉県柏市の駅近くにある焙煎所のコーヒーがうまい」と教えられた。焙煎した豆をレストランやホテルなどに卸す店で、生豆が入った麻袋が積まれた店内に椅子はなかった。店主に「一般客には売れない」と断られたが毎週通い詰めて打ち解けると、一杯のコーヒーを出してくれて立ったまま飲み干した。口に含んで「求めてきたコーヒーだ」と直感したという。
その後も足を運び、店主が語る焙煎のノウハウを漏らさず手帳に記した。しかし2年前に店主は急逝し、教えを書きためた手帳が残った。焙煎所の後継者の好意で、亡くなった店主が使っていた焙煎機で焙煎に挑戦することができた。後継者の指導を受けつつ持ち前の味覚を研ぎ澄まし、生前、店主に教えられた「収穫される地域によって違う豆の特徴を理解し、香り高く味が引き立つ」焙煎の域に達することができた。そして昨年、長年温めてきた自分の店を持つ夢を実現するなら今しかないと、会社を辞めた。
まず県内でカフェ物件を探したが、焙煎した時に店外に排出される煙とにおいが迷惑になると、相次ぎ断られた。県外に範囲を広げるしかないと思った矢先、SNSで竹園珈琲が居抜きで売りに出されていることを知った。ショッピングセンター内の店で近隣住民から苦情が出ることはないし、なじみのあるつくばで開業しようと心が定まったという。
豆は、栽培から品質管理まで適正に行われているスペシャルティコーヒーを使い、焙煎した豆は100グラムから販売する。「茨城のおいしいコーヒー店として茨城を盛り上げて行きたい」と大河原さんは抱負を語る。
プレオーブン時から、散歩を兼ねて毎日通っている近隣に住む倉掛在住の40代の主婦は「濁りがなくて飲みやすい。これまでブラックコーヒーを頼むとお腹を壊したが、ここのコーヒーは大丈夫」と笑顔で話した。(橋立多美)
◆同店はつくば市竹園3-18-2、竹園ショッピングセンター1階。営業は午前10時~午後5時。不定休のためフェイスブックで確認を。詳しくは同店フェイスブックへ。