木曜日, 4月 3, 2025
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《宍塚の里山》72 遅い紅葉のときを経た里山

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上段左イイギリ、右シロダモ、下段左からマンリョウ(万両)、カラタチバナ(百両)、ヤブコウジ(十両)

【コラム・及川ひろみ】12月上旬、遅い紅葉のときを経た里山。今ではだいぶ木々の葉が散り(厳しい寒さを迎えてもまだ落ちない葉も結構あります)、林がだいぶ明るくなってきました。木々を飛び交う、シジュウカラ、エナガ、ヒガラ、メジロなど小鳥たちの群れ。寒さで里に降りてきたのか、見られる種類が最近グンと増え、観察が楽しみです。

この時期、雑木林をめぐると、乾いた落ち葉が足元でガサガサ音を立て、12月ならではの里山の音が響きます。この枯れ葉の音、今が最高。しばらくすると木の葉が湿り、今のような軽やかな音は鳴りを潜めます。

さて、里山が冬の装いを迎えるころになると、ガマズミやイイギリ、マンリョウ(万両)、シロダモなどの赤い木の実が目立つようになります。ガマズミは霜にあたると実が柔らかくなり、同時に酸味も熟し柔らかな味に変わります。

林でこの実を見つけると、つい口に含んでしまいます。いつでも、酸味は人を元気づけてくれますが、ガマズミも楽しみの一つです。酢大根を漬けるとき、この時期のガマズミを混ぜ込むと、大根が美しい紅色に染まり、これも初冬のお楽しみです。

鳥は植物にとって種子散布の道具

さまざま見られる赤い実の中で、今の時期の代表格はマンリョウ。雑木林や暗い杉林にも明るい赤が目立ちます。発芽後3年目ごろから実をつけ、年々成長し1メートルほどの高さに育ちますが、ヒョロッとした木の上部に葉と実を付ける独特なスタイル。

門松などの正月飾りによく使われるセンリョウ(千両)は、茨城ではもっぱら庭木。残念ながら自生していません。関東の南部、西日本、九州が自生地です。

カラタチバナ(百両)は、茨城県の宍塚でも見られます。ヤブコウジ(十両)は、林床に群生する高さ10センチほどの植物で、真っ赤な実を1個、ときに数個付けます。これらの植物はどれもサクラソウ科、実はどれも1センチほどの大きさ。

植物が赤い実を付けるのは、鳥に見つけてもらうためです。鳥は植物にとって種子散布の道具。動くことができない植物は、種子を遠くに運ぶために、誰かの力を借りなければなりません。赤い実は鳥をおびき寄せ、歯を持たない鳥は実を丸のみ、消化できない種子をふんと一緒に出します。結果、鳥によって種を遠くに運ばせるのです。

しかも、赤色は昆虫には見ることができない色。昆虫の食害からも逃れ、生き物同士の巧みな、絶妙な関係にある赤い実です。(宍塚の自然と歴史の会 元会長)

《遊民通信》7 土浦のキャラクター「つちまる」をゲット

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東大安田講堂を背景につちまるを撮影

【コラム・田口哲郎】

前略

メリークリスマス。宗教色の薄い日本では、クリスマスはモノと結びついていますね。ケーキにプレゼント。そして、この時期にたくさん出現する、サンタクロースの格好をしたキャラクターたち。カワイイは世界の共通語になりましたが、日本人のキャラ好きは文句なく世界一でしょう。

日本人のキャラ好きは今に始まったことではありません。『のらくろ』を読んでいたら、のらくろグッズに埋もれてご満悦の田河水泡(たがわ・すいほう)先生の白黒写真を発見して、我々キャラ好きはご先祖様からの有り難い遺伝なのだと思った次第です。

大学のとあるフランス語講師の話を思い出しました。このパリジェンヌが来日して間もなく、銀行口座をつくったときのこと。行員に無地の通帳かキャラクターの絵柄つきの通帳か選ぶように言われ、ムッとしたそうです。日本人なら抵抗なく「じゃあミッキーの方」とか言って喜ぶでしょう。

しかし、フランスではキャラ付きのモノは子供用であって、大の大人にキャラ通帳にするか訊くなんて、ワタシはバカにされているのかと思ったそうです。

おじさまもカワイイものがお好き

『おじさまはカワイイものがお好き』という漫画がはやり、ドラマ化されました。五十路のバツイチ小路課長がパグ太郎なる癒し系キャラを愛しているが、世間体を気にしてひた隠しにする苦労が面白く、切なく描かれます。

キャラ愛好はフランスのように子供のすること、とはいかないまでも、日本でさえ最近まで女子の嗜(たしな)み的なところがありました。しかし、ダイバーシティ先進国を目指す日本です。そこにジェンダーバイアスはあってはならぬと、男子も秘密の花園に進出し始めている。

かく言う私も、カワイイものがお好きになってしまいました。小路課長のように躊躇(ちゅうちょ)せず、推しキャラ(愛好しているキャラクター)を公表します。それは「つちまる」です。ご存じ土浦市のイメージキャラクター。永遠の1歳6カ月の男の子。

チャームポイントはつぶらな瞳とよちよち歩きです。J:COMで放送されている「マイシティつちうら」で目撃してから虜(とりこ)になりました。

きっと体重はレンコン3個分なのだろうと想像しています。好きが高じて、おじさま(私)は、商業施設にしか見えないと近ごろ話題になった土浦市役所の1階にある売店に赴き、「つちまる」のぬいぐるみとストラップをゲットしました。

なかなかやり手のデキる奴

ストラップは一緒におでかけして写真を撮り、「つちふぉとコーナー」に応募するため。安田講堂をバックに撮った写真が「マイシティつちうら」で紹介されたときは、つちまると喜びを分かち合いました。

大の大人が情けない、なんて言われたら、寅さんが出てきて言うでしょう。「それを言っちゃあおしめえよ」。カワイイは老若男女を問わず湧き出る自然な感情です。こんな当たり前なことを躊躇せず言う勇気を与えてくれるつちまる。

カワイイだけが取りえじゃない、なかなかやり手のデキる奴だと思うのです。ごきげんよう。 草々(散歩好きの文明批評家)

年の瀬に学生・ひとり親家庭への生活支援 土浦、つくばで配布会

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約140人が訪れた学生プロジェクト=6日、つくば市天久保、松見公園

コロナ時代の歳末助け合いー。生活が困窮している大学生やひとり親家庭の生活支援のため、食料品や日用品の無料配布が26日に土浦市内で、27日につくば市内でそれぞれ行われる。

年越し支援テント27日松見公園に再び つくば

【山口和紀】つくば市では27日午前11時から、松見公園(つくば市天久保)を会場に、学生らに対して野菜やコメ、日用品などの無料提供が行われる。実施するのは市民団体「学生応援プロジェクト@つくばーPEACE(ピース)」(冨山香織代表)。前回の支援は今月6日に行われ、今回で2度目となる。

前回の支援では、口コミやSNSで支援物資を募り、約20人から家庭にある食品や日用品の提供があった。カンパも6万円集まり、食品の購入等に充てた。支援物資を受け取りに訪れたのは、当初の想定だった20人を大きく超えて、実際には学生を中心として140人ほどに上った。

プロジェクトを企画した冨山さん(39)は、つくば市内の飲食店を夫婦で経営している。アルバイトとして働く大学生や、店を利用する学生たちとの会話から「学生たちが大変な状況にある」ことが伝わってきたと話す。

前回、支援物資を受け取った人を対象にアンケートも実施された。回答した69人のうち、19人はアルバイトのシフト勤務が減り収入も減ったという。「親の収入が減っている」「アルバイトの収入が減り、親からの仕送りも減った」という声などもあった。

無料配布を受け取った人間学群の学生(21)は、「自分はとても困っているという状況ではないが、バイト先が短縮営業でシフトに入りづらい状況だから助かった」と話した。正月の帰省については「実家では(感染した際の死亡リスクが特に高い)高齢の祖父や祖母と同居して暮らしているので、今年は帰省できない。正月を一人で過ごすのは初めて。そういう学生も多いのではないか」という。

27日の無料配布は「年越し準備」に向けたもので、今後、月に1回程度の開催を目指している。冨山さんは「野菜や食品など支援物資の提供を募集している。学生たちのため、ぜひ協力していただけたらありがたい」という。募集しているのは、野菜、缶詰・レトルトなどの食品類、日用品のたぐいだ。

支援物資の提供など連絡はpeaceoftsukuba@gmail.com(冨山さん)まで。

シングルマザーにも呼びかけ26日市民会館駐車場 土浦

支援用の米袋と告知チラシを手に支援プロジェクトの長坂法子さん=土浦市港町

【崎山勝功】土浦市では26日午後1時から同市真鍋新町のクラフトシビックホール(土浦市民会館)駐車場で、学生・ひとり親支援の「食料日用品無料配布会」が行われる。主催は「コロナに負けるな!つちうら食料支援プロジェクト」。つくば市で行われた「学生応援プロジェクト」による食料無料配布会を知って、「土浦でもやりたい」と同市在住の長坂法子さん(74)が仲間たちとプロジェクトチームを立ち上げた。

近隣の農家に野菜やコメの提供を呼び掛けたところ「野菜を提供したい」と複数の農家から提供の申し出があったという。また市民有志からレトルト食品や日用品の寄付も相次ぎ、プロジェクトチーム立ち上げから約2週間で多くの支援物資が集まった。

長坂さんは「つくばと違って『学生の街』ではないので、ひとり親も支援しようと思った。桜町のお店で働いている人がどれだけ大変か」と目を配る。

同市桜町は県内有数の歓楽街、キャバクラをはじめ「接待を伴う飲食店」も立地する。こうした店に勤務する若いシングルマザーも少なくなく、コロナ禍に伴う営業時間短縮要請や営業自粛の影響を受け、収入減や失業する例も見られるという。

配布会の会場では、生活に困窮するシングルマザーを支援に、相談窓口の紹介も併せて行う予定だ。「本来は政治の仕事。公助が必要。みんな共助で助け合っているけど、(20代から40代の)女性の自殺率も高くなっている」と長坂さんは行政の積極的な支援を訴えた。

問い合わせは、土浦母親大会連絡会事務局(電話:029-824-8949)まで。

江戸期から昭和のすごろくが集合 新年14日までつくばの古書店

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双六がならんだショーケース=ブックセンター・キャンパス店内(つくば市吾妻)

【伊藤悦子】つくば市吾妻の古書店、ブックセンター・キャンパス(岡田富郎店主)で「双六(すごろく)のいろいろ」が開催されている。ショーケースに展示されているのは、江戸、明治、大正、昭和のすごろくの原本や複製合わせて23点。

すごろく(絵すごろく)は、複数のコマに区切られた紙の上を、さいころを振って出た目の数だけをコマ進めて、上がりを競う遊び。江戸時代の初期から出版されていたといわれている。

すごろくで時代がわかる

展示中の「東海道名所記新板道中双六」は、江戸時代のすごろくで、歌川豊国によって描かれた。日本橋を振り出しに、東海道の名所の絵が描かれたコマを進み、京都が上がりとなっている。

そのほか江戸時代のお伊勢参りの様子がわかる「新板伊勢参宮廻(まわり)双六」や、明治時代の子どもたちの勉強に使われていた「東京小学校教授双六」などが展示されている。

ブックセンター・キャンパスのスタッフは「今まで仕入れて集まってきたすごろくを、お正月のタイミングで皆さんに見ていただきたいと思った。時代ごとの流行りや世相もすごろくから読み取れるので楽しんでほしい」と話した。

展示されているすごろく「東海道名所記 新板道中双六」=同店

すごろくはショーケースに入っているが、申し出れば外に出して間近で見ることもできる。「ショーケースに展示しきれなかったすごろくもあるので、見たいときは気軽に声をかけて」と呼びかけている。

◇「双六のいろいろ」 2021年1月14日までブックセンター・キャンパス(つくば市吾妻3-10-12。営業時間は午前10時~午後4時。火曜日定休。電話:029-851-8100)

《県南の食生活》20 おせち料理あれこれ

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焼きワカサギの昆布巻き

【コラム・古家晴美】今年も残すところわずかとなったが、昨年末には想像だにしなかった「新しい生活様式」に振り回された1年だった。新型コロナウイルスの影響で、日々の生活ばかりか、冠婚葬祭や様々な行事なども中止を余儀なくされ、そのあり方自体が問い直されている。新型ワクチンが開発されたとしても、これまでの日常がそのまま回復されるのかと、漠然とした疑問を抱きつつ、年末を迎えようとしているのは、筆者だけであろうか。

昨年12月にはお雑煮についての記事を書かせていただいたので、今年はおせち料理について触れてみたい。正月用に予約注文を受ける、重箱に美しく詰められた色鮮やかなおせち料理のチラシを目にするようになって久しいが、そもそも重箱に詰めるということ自体が、それほど古くから行われてきたわけではない。元来は、歳神様(としがみさま)との共食(きょうしょく)を目的とした供えものであった。

三方に裏白やゆずり葉を敷いた上に、米・橙(ダイダイ)・搗栗(カチグリ)・串柿・昆布・伊勢エビ・野老・ホンダワラなどを積み、中央に松竹梅を飾った「食積(くいつみ)、関西では蓬莱(ほうらい)飾り」を作り、床の間に置き、家族以外に年始客にも振る舞った。その後、それは食べない飾り物となり、正月料理は膳に盛られた年迎えの膳(御節)と重詰めの組重(食積)へと移行した。

江戸時代後期の江戸では、『諸国風俗問状(しょこくふうぞくといじょう)』(1804~18)の「組重のこと」には、4段重ねの重箱に「数の子・田作り・たたきごぼう」の他に、焼き物・酢の物・煮物などが詰められているようすが記されている。現在のような重詰めのおせち料理の形に変化したのは、これ以降のことだ。

黒豆、数の子、ごまめの他に、口取りのきんとん、伊達巻、かまぼこ、塩鮭の焼き物、紅白なます、酢蓮、昆布巻き、煮しめ(八つ頭、ごぼう、人参、コンニャク)など、それぞれに言祝(ことほ)ぎのメッセージが込められてきた。

ステイホームの年末年始は?

全国的に共通する内容が多いおせち料理だが、県南地域の事例をいくつか挙げてみたい。昆布巻きの芯にする魚については、美浦村や牛久沼から行商で売りに来るフナや霞ケ浦のワカサギを使う(牛久市井岡、牛久市柏田)。

また、おせち料理とともに、大晦日に3カ日分のヌッペ、ヌッピ、ノッペ(けんちん汁と素材は同じだが、野菜はうす切りでなく賽=さい=の目に切り、油を使用しない)を大量に用意しておく(つくば市玉取・猿壁、龍ケ崎市、行方市麻生町)。

自家用のアズキで羊羹(ようかん)を作る(かすみがうら市宍倉、牛久市柏田、つくば市猿壁)。霞ケ浦湖岸では、蓮の煮物や酢の物などは、おせち料理に欠かせない(土浦市)。

Go Toトラベルに待ったがかかり、ステイホームの年末年始。おせち料理に新たな動きが現れるであろうか。(筑波学院大学教授)

つくば市の教員が感染 21日まで臨時休校

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つくば市役所

つくば市は22日、市立学校教員1人が21日、新型コロナウイルスに感染していることが分かったと発表した。

市教育局学び推進課によると、教員は18日に陽性が確認された生徒の濃厚接触者という。教員の症状や、ほかの濃厚接触者に感染者がいるかについては公表しないとしている。

学校は、濃厚接触者のPCR検査などのため、21日まで臨時休校となり、22日再開した。陽性者が確認されたクラスは引き続き学級閉鎖となり、そのまま、25日から冬休みとなる。

「調査する状況にない」TX県内延伸問題で知事 91年合意に言及

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2005年の開業以来TXの終点になっているつくば駅=つくば市吾妻

【山崎実】懸案のつくばエクスプレス(TX)県内延伸問題が県議会第4回定例会(15日閉会)で議論に上り、基本調査の見通しについてただされた大井川和彦知事は「現時点では、基本調査を実施する状況にはないものと考える」との見解を示した。ハードルが高く視界不良といえる。

大井川知事は、延伸の実現が、ポストコロナ時代にふさわしい新たな働き方や、質の高い暮らしが実現できる本県発展の起爆剤になることは認めつつも、「秋葉原から東京への延伸を除く路線の延長の場合は、請願者がその建設に係る費用の全額を負担する、との1991年(平成3)年当時の関係都県間での合意がある」と言明し、仮に全額を茨城県だけで負担するということになれば、事業費を支えるには財政力上、かなり厳しいものがあるとした。

TX県内延伸をめぐっては、前回2017年8月の知事選で橋本昌前知事と大井川和彦現知事が共に公約に掲げ、初当選した大井川知事は、同年12月に策定した「新しい茨城づくり政策ビジョン」に「TXの県内延伸に向け検討を進める」と明記した。

こうした動きを受けて翌18年5月、TXをつくば駅から茨城空港(小美玉市)まで延伸しようと、地元のつくば、土浦、かすみがうら、石岡、小美玉、鉾田、行方7市の市議会議長がTX茨城空港延伸議会期成同盟会を設立した。

その後、18年11月に策定された県総合計画「新しい茨城への挑戦」では、2050年頃の将来像として、TX延伸ルートの一つに〝茨城空港ルート〟が描かれた。

一方、同期成同盟会は設立から1年半後の19年9月、県総合計画に記載されたTXの延伸ルートについて、▽茨城空港への延伸を要望する▽県が主体となって国、関係機関連携による調査・研究の早期着手を要望するーを知事に要望していた。

《続・平熱日記》76 娘がいる東京の美容院に行った

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【コラム・斉藤裕之】今日は次女のいる美容院に行く。次女の休みの日を使ってカミさんがカットしてもらいに行くというので、ノコノコついて行く。実はこれが2度目である。最初は今年の夏。長い間坊主頭でセルフカットしていたために、床屋というところへ行くのも10数年ぶりのことで、恐らく最初で最後だと思っていたのだが、再び訪れることとなった。

このにぎやかな街には思い出がある。故郷から受験のために出てきて、最初に滞在したのがこの街にある先輩のマンションで、次女のいる美容院はそのすぐ目と鼻の先だった。ゼロイチゼロイチ? 駅のそばにあるそのデパートを丸井と読むことを知り、快速や特別快速という電車があることも知った街だ。その後も何度かこの街には来ているが、10数年ぶりに訪れた街の変わりようは私をまごつかせた。

子供に頭を触られるという経験。この私でさえちょっとした幸福感を味わえる。いわんや、母親にしてみるとこれほどの孝行もないだろう。

まあ、私の方は座ったとたんにバリカンで刈り上げられて、それでも1000円カットよりはさすがに丁寧に切ってもらって、30分というところか。カミさんは髪を染めている。あと小1時間かかるというから、懐かしき街を散策することにした。夏に来たときは確かとても暑い日だったが、今日はダウンを着てちょうどいい。店はほとんど変わっているのだが、それでも角を曲がるたびに、少しずつ記憶のピースがはめ込まれていく。

「インチキアーティストカット!」

それからカミさんのカットも終わり、3人で昼飯を食べた。人気のカレー屋さんということで、遅い時間にもかかわらず混んでいた。「私にはサンタさんは来ないのかなあ?」と次女はカミさんに冬のコートをねだったようだ。

夕方に子供たちがアトリエに来るので、私は一足先に帰ることにした。茨城は実に平坦で高い建物もないと思っていたが、車窓から見える東京こそ地平線まで家並みが続く、平らな街であることに改めて驚いた。今日、「私はこの街が好き」と次女が言った言葉を思い出した。いろいろ大変だろうが、その一言で多分幸せに暮らしているのだろうと思った。

ところで、この髪型には名前があるのか? 次女曰く「インチキアーティストカット!」なるほど。髪型がインチキなのか、本人のせいか、それともアーティストそのものがインチキなのか。はたまたそのすべてか。

夕方には子供たちが来て、ボール紙と松ぼっくりでクリスマスリースを作った。お迎えのお母さんに「先生、素敵な頭ですね!」と社交辞令を言われた。冷たい風が刈り上げた後ろ頭を横切った。(画家)

つくば市のLIGHTzなど2社 ジェトロ事業に採択

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「コスモ星丸」復活プロジェクトを立ち上げたLIGHTz社、乙部社長㊨=2月、つくばカピオ(採択事業とは関係ありません)

【山崎実】日本貿易振興機構(ジェトロ)茨城は、海外サプライチェーン(供給連鎖)多元化支援事業に、県内からつくば市のAI企業、LIGHTz(ライツ、乙部信吾社長、つくば研究支援センター内)と、小美玉市のヨコハマモールドの2事業者を採択したと発表した。

この事業は、新型コロナ感染拡大に伴い、国内サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)さが顕在化したことから、アジア地域における生産多元化などにより分断リスクを低減し、持続可能な供給体制を確立すると共に、日本とASEAN(東南アジア諸国連合)の経済産業協力関係を強化するのが目的。

具体的には、ASEANなどの地域で、海外生産拠点の多元化を図るため、設備導入補助、実証事業、事業実施可能性調査の3つの事業に係る経費の一部を補助する。公募により採択事業を決定した。

つくば市のLIGHTzは第2回公募に申請、64件から21件が採択された。タイで、ものづくりに関する熟達者思考AI(人工知能)を活用したサプライチェーン高度化の実施可能性調査を行う。小美玉市のヨコハマモールドは、第3回公募(設備導入補助型)採択30件の1つ。タイでタイヤ生産用金型の整備導入補助を受ける。

新型コロナのASEANサプライチェーン強靭(きょうじん)化プロジェクトに、県内事業者2社が採択されたことは、産業振興だけでなく、企業の海外進出活動の面からも期待されている。

お餅を詰まらせないために 筑波大医学生が26日に啓発イベント

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フリップを使いながら説明する森さん(リハーサル時に撮影)

【車谷郁実】お正月に向け、餅の誤飲による窒息事故を防ぐための啓発イベントが26日、カスミ筑波大学店 (つくば市天久保)で行われる。主催するのは筑波大学医学部5年の森陽愛子さんだ。イベントでは森さんが手作りのフリップや人形を用いて餅を詰まらせたときの対応方法などを伝える。その様子はカスミの公式フェイスブックや同大学店のツイッターなどでライブ配信される予定だ。

SNSを使ったカスミのライブ配信

森さんは昨年から心肺蘇生法を伝えるイベントを開催してきた。森さんとカスミが連携してイベントを行うのは6月のイベント(6月24日付)に続いて2回目になる。

今回は、コロナ禍における医療従事者の負担を少しでも減らしたいと企画した。きっかけは、実習先の病院で「医療従事者は常に大きな感染リスクに晒されている」と実感したことから。発熱のある患者は、感染リスクのために学生の森さんではなく、病院勤務の医療従事者たちが対応した。ある医師は「少しでも咳や鼻水が出ると患者さんに不安を与えてしまう。自分の体調管理も徹底しないといけない」と話した。

森さんは、医療従事者には気を緩める時間は一時もないと感じた。病気や事故の予防法を市民に伝え、病院にかからぬようすることで、医療従事者の負担を少しでも減らしたいと考えた。

そのころ読んだ大学の先輩が書いた論文で、一年で最も誤嚥(ごえん)による窒息死が多いのは元日であることを知った。多くの人がお餅を食べるためだ。その窒息予防について伝えたい、と前回のイベントで交流のあったカスミの担当者に開催を提案した。

同社は現在、月に2回ほど旬の食材の魅力や食育について、生産者や取引先とともにSNSを通してライブ配信している。イベント担当者である営業統括部人事コミュニケーションソーシャルシフトの高倉綾子さんによれば、森さんの提案はその情報発信の在り方を見直す契機にもなった。「どれだけ商品を販売できるかだけではなく、お客さんが購入したあと安全に食を楽しんでもらうことまで考えないといけないと気づかされた」と話す。

カスミのSNSを使ったライブ配信ではおよそ5000人の視聴者が集まる。森さんは「救急の観点だけで言えば『餅は食べないでほしい』と言わなければいけないところ。だけど、そうは言えないので、餅を安全に食べてもらえるよう窒息の予防法について多くの人に伝えたい」と意気込みを語った。

イベントは26日午後1時から。会場は筑波大学構内のカスミ筑波大学店(電話:029-850-5851)。ライブ配信は以下のアカウント。
・カスミ公式Facebook「カスミFanページ」@kasumi.fanpage
・カスミ公式Twitter「カスミ筑波大学店」@kasumi398ut

《吾妻カガミ》96 NEWSつくば 学園記者会に入会

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左は編集室がある筑波学院大の建物、右は1階入口に立て掛けてある案内版

【コラム・坂本栄】NEWSつくばの筑波研究学園記者会への入会がこのほど承認されました。同記者会はつくば市とその周辺地域をカバーする新聞・通信・テレビ・ラジオ記者の取材拠点ですが、ネットメディアが会員になるのは初めてです。地域ニュースを伝える本サイトの実績と役割が認められたと言えるわけで、メンバー各社の理解に感謝しております。

土浦記者会への入会手続きも開始

2017年10月にスタートした本サイトの編集方針は、コラム67(2019年11月4日掲載)でも触れましたように、「比較的若いまち 研究学園都市つくば市の諸相」「商業都市から観光都市に脱皮しつつある 歴史あるまち土浦市の諸相」を、地域ばかりでなく全国にも発信することです。この3年3カ月、地域のいろいろな話題のほか、税金で仕事をする行政の観察にも力を注いできました。

これまで記者クラブの「外」にいたかというと、そうではありません。記者会の会員であったFM放送「ラヂオつくば」の特約記者として、記者会が関わる会見などには出席、ラジオや本サイトで発信してきました。これからはNEWSつくば記者として活動することになります。

非営利のNPO法人NEWSつくばの執筆陣は、旧常陽新聞(1948~2017年)の記者経験者、元専門紙の記者や問題意識の高い市民記者、各分野で活躍してきた(今も活躍している)コラムニストで構成されています。地域紙出身者が記者会のルールに通じていることも、入会に際して考慮されたのだと思います。

学園記者会入りが認められたことから、現在は市長会見への「オブザーバー出席」だけが認められている土浦市政記者クラブへの入会手続きも開始しました。地域の各種情報ソースへの経路を広げ、本サイトの発信力を強めていく考えです。

記者クラブの対外開放では悪役に

記者クラブについては苦い思い出があります。通信社の証券部長時代(1990年代半ば)、ブルームバーグ、APダウジョーンズ、ロイターなどの米英メディアが東京証券取引所の記者クラブに入会したいと言ってきたとき、私は反対の旗を振りました。外国勢が上場会社の業績といった情報に日本勢と同条件でアクセスできるようになると、競争上まずいと判断したからです。

これに怒った米国勢は、「日本の記者クラブは閉鎖的だ」と、日米摩擦の一つに仕立てました。米政府の抗議を受けた日本政府は報道各社の説得に動き、記者クラブが外国勢にも開放されるようになり、今に至っています。金融証券情報を扱う内外メディアの激突を描いた『勝負の分かれ目』(下山進著、講談社、1999年)で、私は時代の流れ(記者クラブの対外開放)に抵抗する悪役として登場しました。

それから四半世紀。伝統メディアを主会員とする在京記者クラブでは、内外差別は解消されたものの、ネット系など新興メディアの扱いをめぐってはギクシャクがみられます。それに比べると、われわれのような弱小ネットの入会にOKを出した学園記者会は開放的です。25年前の私の振る舞いを反省しながら、以上、NEWSつくばの近況をお知らせしました。(NEWSつくば理事長)

土浦市などの自粛要請を21日から解除 知事「全国まれな成功事例」

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茨城県庁(イラストは「いばらきアマビエちゃん」)

県内での新型コロナウイルス感染拡大を受けた自粛要請について、大井川和彦知事は20日記者会見し、1週間延長していた土浦、つくばみらい、利根3市町に対する不要不急の外出自粛要請と営業時間短縮要請を21日から解除すると発表した。11月27日に出され最大12市町村に及んだ要請は3週間ですべて解除となる。

直近1週間(13~19日)の県内の状況について大井川知事は、新規感染者数144人(自粛要請直後の11月29日~12月5日は301人、12月6~12日は165人)、病床稼働率は44.3%(同55.3%、同51.3%)まで改善したとした。人口1万人当たりの直近1週間の新規感染者はつくば市は同1.18人、土浦市は同1.30人。

大井川知事は「全国で新規感染者数が過去最大値を更新し続けている中、対策を講じたタイミングと実行の徹底により、茨城県は新規感染者数の抑え込みに成功した。まれな成功事例」だと強調した。抑え込みができた最大の理由は「大規模な検査の徹底」だとし、政府の12月28日から1月11日までのGoToトラベル全国一斉停止について「全国一律で止めてしまうのではなく、(旅行の)直前にPCR検査をして陰性が分かった人はGoToを利用できるなど第3の道があり得た」などと話した。

飲食店などの営業時間短縮要請に対する協力金については、16日以降、国の協力金が4万円に加算されたため、土浦市など3市については16日から20日まで協力金を当初の2万円から4万円に引き上げるという。

一方、全国的には感染が拡大している状況にあることから、引き続き警戒を怠らないよう改めて呼び掛け、直近1週間の新規感染者数が人口10万人当たり15人を超える都道府県の帰省について注意を呼び掛けた。現時点で同15人を超えているのは北海道、埼玉、東京、神奈川、愛知、京都、大阪、兵庫、広島、高知の10都道府県。

つくばの医師のワイン会「配慮足りない」

一方、土浦市内で病院を開業する男性医師が11月中旬、つくば市内の自宅でワイン会を開き、37人が参加し、17人が感染した問題について大井川知事は「ちょうど土浦で感染が拡大し一斉検査を実施していた時期。医師の立場として配慮が足りなかったと思う」とコメントした。

《霞月楼コレクション》12 ツェッペリン伯号霞ケ浦飛来と熱烈歓迎

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【池田充雄】1929(昭和4)年8月19日、風が止まったような夏の午後、土浦の町が突然薄暗くなり、見上げると巨大な銀色の葉巻のようなものが浮かんでいた。大空の巨鯨と形容されたドイツの飛行船LZ-127、愛称を「グラーフ(伯爵)ツェッペリン号」という。

大空を行くツェッペリン伯号の雄姿

ツェッペリン伯爵と後継者フーゴ・エッケナー博士は、1937年までに130機の飛行船を建造。軍事、旅客、航空郵便・貨物などに活用された。1928年に完成したLZ-127は全長236.6メートル、最大直径30.5メートルの偉容を誇り、マイバッハ社530馬力エンジン5基を搭載。燃料は重量軽減のため主にブラウガス(石油気化ガス)を用い、最高速度は128キロ。巡航速度の117キロでは1万2000キロの航続距離があった。

ツェッペリン伯爵(左)とエッケナー博士ら、1911年ごろ

幹部乗員らを霞月楼に迎える

エッケナー博士はこの最新機による世界一周飛行を計画。1929(昭和4)年8月7日深夜に米国東海岸レイクハーストを出発した飛行船は19日午後4時過ぎに土浦を通過し、東京の北東上空に姿を現した。

合図のサイレンが市内各所から鳴り響く中、千住、上野、日本橋、丸の内と進み、屋上という屋上、窓という窓には黒山の人だかりができたという。品川からは京浜方面へ向かい、横浜上空を一周して霞ケ浦海軍航空隊飛行場には午後6時過ぎに到着。トロッコを使って飛行場の格納庫へ収められた。

着陸後、エッケナー博士ほか幹部乗員11人は、自動車で霞月楼へ移動、霞ケ浦航空隊司令・枝原百合一少将主催の歓迎会に出席した。このときの献立表が残っている。

[霞月楼に残る献立帳]
椀盛 花車海老 火どりきす 三つ葉 椎茸
刺身 梶木 木うり 花山葵 雪おろし
取り肴 玉子吹き寄せ 車海老塩焼 大葉百合うま煮
焼物 鮎塩やき 酢取り生姜
甘煮 新いも 新はす とうがん寿司 鴨くわ煮
小丼 鮑 塩蒸し
茶椀 すっぽん仕立 三つ葉 しぼり生姜
水菓子 まくわうり ぶどう

後にエッケナー博士が「ことに貝がよかった」と話したのはアワビのことか。当時は冷蔵技術が未発達で、土浦で海産物を仕入れるのは難しかった。だがこの日ばかりは海軍の接待とあって、銚子港から軍用船で運び込んだのだそうだ。

一方、下士官以下の乗員には飛行場で海軍伝統のカレーが振る舞われた。当時の土浦町右籾では糖度の高い良質なジャガイモが産出された。ドイツの人には故郷の味だろうと、ジャガイモ入りのカレーを作って喜ばれたという。これが現在の土浦ツェッペリンカレーや土浦カレーフェスティバルの起源となった。

飛行船に乗った少年の物語

ツェ伯号を一目見ようという群衆は引きも切らず、海軍航空隊周辺に詰めかけた。上野-土浦間には何本もの臨時列車が増発され、停泊期間中の合計来訪者数は30万人とも40万人とも言われる。土浦-阿見間を走る常南電車や乗合バスはフル回転で鈴なりの乗客を運んだ。

霞ケ浦に駐機中のLZ-127。キャビン右舷にタラップが下りている

着陸の翌朝から見学が許され、格納庫に殺到した群衆は、10メートルほど開けられた扉の隙間から「空の怪物」の偉容を見上げた。このとき、LZ-127の内部見学を許された子どもが一人だけいた。後の霞月楼4代目会長、故・堀越恒二さんだ。

「私が満7歳で小学校二年生のとき、菊の間でツェッペリン伯号来日の歓迎会があった。夜9時ごろ、士官連中が25人ほど集まっていて覗きに行くと、出てきた顔見知りの副官に『坊主、ツェッペリン飛行船に乗りたいか?』と言われた。それで翌日、店の板前にリヤカーで連れて行ってもらった」

驚きの物語は、「飛行船に乗った少年/堀越恒二氏インタビュー」(2007年、土浦ツェッペリン倶楽部、土浦ツェッペリン協議会)に詳しい。漫画家うるの拓也さんによるコミック「ツェッペリンが舞い降りた日」にもなっている。

乗客でにぎわうラウンジ。ここで恒二少年は写真を撮られた

60年後の1989(平成元)年11月18日、ツェッペリン伯爵の孫イーザ・フォン・ブランデンシュタイン女史と、LZ-127の元乗員ら計5人が来日。土浦市役所や着陸地跡の陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地を訪問後、霞月楼でもてなしを受けた。恒二会長がかつて同機に乗った話をしたところ、「坊主頭で半ズボンをはいた日本人の男の子の写真があった。複写して送ってあげる」と言われた。だがその後イーザさんは亡くなり、写真の所在も分からずじまいとなった。

2000年5月、市民有志が飛行船によるまちづくりを掲げ、霞月楼を事務局として「土浦ツェッペリン倶楽部」を結成。亀城プラザ(土浦市中央2丁目)にある1/20スケールのLZ-127模型を製作したほか、2005年には現代のドイツに蘇った「ツェッペリンNT号」を土浦に招致、翌年には子ども向けの体験飛行も実現させた。

今月、扉を塗り替え新装成った「土浦ツェッペリン伯号展示館」(円内写真は故・堀越恒二会長)

同倶楽部は今もLZ-127飛来の歴史を貴重な地域資産として活用すべく、資料館「土浦ツェッペリン伯号展示館」(土浦市中央、土浦まちかど蔵「野村」文庫蔵)の運営などに当たっている。(シリーズ全12回おわり)

  • 取材協力・参考資料 陸上自衛隊武器学校▽陸上自衛隊霞ケ浦駐屯地▽土浦市立博物館▽圓地與四松「空の驚異ツェッペリン」(1929年、先進社)▽廣岡幽峯「霞空十年史」(1931)▽大谷芳夫「グラーフ・ツェッペリン飛行船訪日資料」(1970年)▽「霞月楼百年」(1988年、霞月楼)▽図録「夢の空へ」(1990年、土浦市立博物館)▽柘植久慶「ツェッペリン飛行船」(1998年、中央公論社)▽天沼春樹「夢みる飛行船」(2000年、時事通信社)▽「阿見と予科練」(2002年、阿見町)▽「阿見原に来た飛行船ツェッペリン伯号」(2004年、阿見町教育委員会生涯学習課)▽「ようこそツェッペリンNT号」(2005年、飛行船ツェッペリン号再来歓迎実行委員会)▽うるのクリエイティブ事務所「ツェッペリンが舞い降りた日」(2010年、土浦ツェッペリン倶楽部)▽東京朝日新聞1929年8月19日~30日付▽東京朝日新聞・大阪朝日新聞・大阪毎日新聞1929年8月19日号外▽常陽新聞1989年11月19日付・2000年10月20日付▽Newsつくば2019年11月21日付▽土浦ツェッペリン倶楽部ウェブサイト

シリーズ協賛 土浦ロータリークラブ 土浦中央ロータリークラブ

《沃野一望》22 正岡子規『水戸紀行』追歩(2)

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【コラム・広田文世】
灯火(ともしび)のもとに夜な夜な来たれ鬼
我(わが)ひめ歌の限りきかせむ  とて

明治22年に東京本郷より水戸まで歩き抜いた正岡子規を見習い、令和版『水戸紀行』を気取り、年末休暇を利用、夜が明けたばかりのJR天王台駅から歩き始めた。

国道に近づくと、右手水戸方面、左手東京方面の道路標識に出会う。さっそく「水戸」の文字を発見し、柄にもなく気負ってしまう。では、水戸へ向かいましょう。

国道を席捲(せっけん)するさまざまな車の轟(ごう)音に追い抜かれながら、味気なく歩をすすめると、すぐに大利根橋にさしかかる。前方に利根川河川敷、利根川本体の流れはうかがえない。さらに先に茨城県は取手市の台地が望める。

子規の『水戸紀行』には、風景描写が意外と少ないが、利根川の景色については「一面の麦畑処々に菜の花さきまじりて無数の白帆は隊をたてゝ音もなく其上を往来す川ありと覚ゆれども川面は少しも見えず実に絶景なり」と賞賛している。

さて令和版は真冬の県境大橋にさしかかる。上流を望む。冬晴の空気の澄み切った朝は、雪をいただいた富士山が平に広がる景色のアクセントとなる橋上だが、今朝は残念、靄(もや)に煙っている。

ゴルフのOBは「場外邪飛」?

それにしても富士山、どこそこから富士山が見えた、見えないの見聞は昔から多い。富士見坂、富士見町などの地名が各所に残る。

子規の大先輩の芭蕉には「霧しぐれ富士を見ぬ日ぞおもしろき」との、ひねった句がある。日本人特有の、富士山展望への憧憬。北斎の富岳三十六景はまさにその世界。菜の花畑に入日薄れるころに利根川を渡った子規は、富士山を眺められなかったことだろう。芭蕉とおなじ興を覚えたか。

子規の時代、はじめて東京へ出た学生が、平野のかなたに鋭角な山容を発見し、「あっ、富士山だ」と喊(かん)声をあげたものの、友人に「あれは、常陸の筑波山だ」とたしなめられた逸話が残っている。富士山みたがり症候群とともに、東京から筑波山が見えた時代の雰囲気が伝わってくる。

さて令和版は大河を渡り、取手へ近づく。足元の河川敷はゴルフ場。冬枯れのコースにOB杭が白く列をなす。野球好きの子規、ベースボールを「野球」と訳したと知られているが、果たしてゴルフを知っていただろうか。知っていれば、OBを「場外邪飛」とでも訳したか。ちなみに子規が水戸へ向かって歩いた明治22年、イギリスではゴルフの全英オープンが、すでに回をかさねている。

「川を渡れば(子規の時代は渡し舟)取手とて今迄にては一番繁華なる町」とほめられた取手市の標識に迎えられる。さあ、ここからが茨城だ。橋を渡りきり6号国道を進むと、JR取手駅入口交差点の歩道橋に、水戸まで70キロ、土浦まで16キロとある。

うーむ、なかなかの距離。なに、まだスタートしたばかり。さらに国道を下ってみる。(作家)

「セルフ防災ラボ」立ち上げ つくばの橘さん 無料の市民講座

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つくば市内のコミュニティマーケットで防災グッズを紹介する橘さん(右)

【川端舞】フリーランスとして活動するつくば市の橘敦子さん(37)が、無料の市民防災講座「つくばセルフ防災ラボ」を始めた。市民や県民の防災意識を高めることで「茨城は防災意識が高くて、頼もしい」と言われる茨城ブランドを作ることが夢だと語る。

被災直後の生き残り術学ぶ

橘さんは、災害時に命を守る技術を伝える活動をする「危機管理リーダー教育協会」(東京千代田区)との出会いをきっかけに、災害対策やサバイバル技術に興味を持った。その後、災害時にとるべき行動や、人に伝える技術を学び、災害対策インストラクターやブッシュクラフトインストラクターの資格を取得。今年6月からオンラインの防災講座を開催し始めた。

どうやって防災教育を広めるか試行錯誤する中で、まずは自分の住んでいるつくば市から防災意識を高めていきたいと思い直し、市民対象の防災講座を無料で開催する同防災ラボを立ち上げ、今月から本格的に活動を開始した。

一般的な防災講座では、段ボールトイレの作り方など、避難所で快適に過ごす方法を紹介することが多い。しかし災害発生後、食料や救援物資の配給など公的な支援が被災地に届くまでには3日~1週間かかると言われており、その間は自分たちの力で生き残る必要がある。そのために、どのような準備をすべきかを一人一人に考えてもらうことが「防災ラボ」の目的だという。 

今回のテーマは「オリジナル防災セットをつくろう」。実際に地震などの災害が起きた直後に取るべき行動の原則や、人間が生き残るために最低限必要な物を解説したあと、災害前に備えておくべきグッズを紹介する。普段、自宅にいることが多いのか、外出していることが多いのかによっても、必要な防災セットや、防災セットを置くべき場所は変わってくる。また、非常食ばかりではなく、チョコレートやレトルト食品など普段から食べているものを少し多めに備蓄しておくと、災害時でも自分がホッとできる瞬間を作れる。講座では、橘さんの説明を聞き、実際に防災グッズを体験しながら、参加者は自分の防災セットに何を入れるべきかを考えていく。

受講者のうち希望者には、各自準備した防災セットを見せ合ったり、より具体的に災害時のリスクを特定して対策を考えたりする研究会も今後開催する予定。また、今回の講座とは別に、野外で災害に遭遇した時に、効率的に助けを呼ぶ方法や、火おこしなど、親子で遊びながらサバイバル技術を身につける「防災×アウトドア講座」も有料で不定期開催する。

防災講座で紹介される防災グッズ

「最初から防災への関心が高い人だけでなく、野外活動が好きな人や、親子でイベントに参加したい人にも、楽しみながら防災に興味を持ってもらうきっかけになれば」と、橘さんは話す。

今回の講座では「人は食べなくても、3~4週間は生きていられる」という情報も提供される。このような知識を地域住民ひとりひとりが持っていれば、災害時も不必要な買い占め等は起こらずに、限られた物資を本当に必要な人や場所に届けられる。「日頃から防災意識を高く持ち、災害時も住民同士で助け合うことができれば、公的支援は被害の大きい場所に迅速に届けられる。そのような地域につくばをしていきたい」と橘さんは語る。

つくばセルフ防災ラボの今回の講座は、12月から毎月1~2回、Biviつくば(つくば市吾妻)内のイベントスペースや、LALAガーデンつくば(つくば市小野崎)内の「つくラボ」、ウエルシアつくば桜店内「ウエルカフェ」で開催する予定。新型コロナ感染状況によってはオンライン開催になる。

《続・気軽にSOS》75 学びか?勉強か?

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【コラム・浅井和幸】今回は、「学びか?勉強か?」ということで考えていきたいと思います。と言っても、国語辞典で正確な概念を知識として蓄えようという趣旨ではありません。何となく日々の生活の中で、私たちが次のように捉えているのではないかというところから考えていきたいと思います。

さて、「学び」と聞いて、どのようなことを思い浮かべるでしょうか? 「勉強」と聞いて、何を思い浮かべますか? きっと、学びとは全ての新しい知識や知恵を得ることで、勉強とは学校のテストや資格試験で他人よりも良い点を取るためのものとイメージするのではないでしょうか。

なんとなく、学びは自発的で、勉強は我慢して社会や親から強いられてするものって気がします。学びは楽しく、勉強は苦しいというニュアンスを感じませんか?

どのような運動能力の人でも、自分にあった身体の動かし方で動くことは楽しいことが多いです。例えば、散歩や指の運動や手遊びなんて楽しいですよね。コンサートを見に行って、みんなでこぶしを振り上げたり、身体を一緒に揺らしたりするのも楽しいですね。しかし、学校での運動会やスポーツテストは嫌いな人も多いでしょう。

「学び」「勉強」「運動」「スポーツ」、一体何かが違うのでしょうか? 学校が関わっているかどうか? それもあるかもしれませんが、それだけでは一つ悪者を見つけたから安心しているだけのような気がします。

ポジティブな感覚を得られるか

私が感じるのは、勝負、競争、合格不合格などがあり、それに勝つことが素晴らしいこと、

良いことという考え方が強すぎるためだと思います。なので、負け、不合格はダメなことですから、自分に合わないところでいつも勝負させられ続ければ、面白くないことを植え付けられてしまうのです。相手を蹴落とすというニュアンスも含まれますよね。

しかし、学ぶことや運動の中には、勝ち負けでない領域があるということです。クイズ番組を見て新しい知識を得ることも、去年まで弾けなかった楽器が弾けるようになることも、少しだけ昨日よりも軽快に歩けることも楽しく感じられた経験はないでしょうか。

「昨日の自分よりもより良く」を意識しすぎると、また自分との勝負になって苦しくなる人もいますから注意が必要です。勝負の楽しみが分かるまでは、負けても次に勝てるという喜びを知るまでは、勝負事は刺激が強すぎるのです。何かの知識を得るとき、何か身体を動かすとき、どのようなことで自分が楽しいとか、うれしいとかのポジティブな感覚を得られるか試してみてください。

ちなみに、楽しいと感じる方が、新しい知識や、新しい身体の動きを覚えるには有利らしいですよ。自分自身でも楽しむ技術を身に着けられるとよいですね。

学びは楽しい。勉強は苦しい。運動は楽しい。スポーツは苦しい。さて、あなたの人生は、楽しいですか? 苦しいですか?(精神保健福祉士)

コロナ禍の大会とは 来年4月開催へ「かすみがうらマラソン」受付開始

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「かすみがうらマラソン」スタート地点=土浦市川口

【鈴木宏子】かすみがうらマラソン大会実行委員会(会長・安藤真理子土浦市長)は、来年4月18日開催予定の「第31回かすみがうらマラソン兼国際ブラインドマラソン」の出場申込受け付けを9日開始した。コロナ禍、1万人を超える大型大会が開かれた例は全国にまだない。どんな大会になるのか。

今年4月19日開催予定だった第30回記念大会は、コロナ禍で中止となった。全国でも4月以降、大型大会は開かれていない。来年の大型大会については、湘南国際マラソンが来年2月28日の開催を目指したが、現在、全国で感染が拡大していることから今月10日、中止を発表したばかり。

1万人超の大型大会で現在、出場申込を受け付けているのは、来年3月14日開催予定の名古屋ウイメンズマラソン(1万1100人規模)と、4月18日のかすみがうらマラソン(1万8000人規模)だ。開催されればコロナ禍で注目の大会となる。

申込、例年よりやや多め

大会事務局の土浦市スポーツ振興課によると、受け付け開始後1週間の現在の申し込み状況は、定員1万8000人に対し約1万1000人。例年より少し多いという。

今年4月の第30回大会は開催1カ月前に中止が決まり参加料を返金できなかった。来年は出場申込と参加料支払いの期日を別にする。開催2カ月前の来年2月5日に開催の可否を決定し、参加料はその後、納入してもらう。ただし開催決定後に中止となる場合もあり、その際は参加料を返金しないという。

来年2月5日、どういう状況なら開催できるのかについて同課は、県内や全国の感染状況が落ち着いていることや県内の医療機関の診療体制が整っていることなどが条件になるとする。

定員5200人減に

大会の感染防止対策についてはまず、出場者の募集定員を前年の2万3500人から1万8300人に5200人減らす。種目別ではフルマラソンは定員1万3000人が来年は1万2000人に、10マイルは5500人が5000人に、5キロは1420人が1000人に減る。チーム対抗レースは来年は実施しない。

人数を減らしたことから、定員を超える申し込みがあった場合の選考は、来年1月15日までの申し込み者全員の中から抽選とする。例年設けている県民枠による県民選考は実施しない。一方、視覚障害者のブラインドマラソン参加申し込みは来年1月18日から同22日まで受け付ける。

さらに例年は旅行会社を通して海外からの出場申込を受け付けていたが、来年は海外居住者の参加は受け付けない。オーストラリアのシドニーマラソンやカンボジアのアンコールワットマラソンの選手相互派遣も来年は取り止める。

1週間前から体調管理シートに記入

出場選手のほか運営スタッフ、ボランティア全員に健康管理を義務付ける。出場選手には大会1週間前から毎日、インターネット上の体調管理チェックシートに記入して体調を管理し報告してもらう。体温や味覚異常のほか、のどの痛み、鼻水など11項目をチェックし、1週間の間に1項目でも該当する症状があったら、出場を辞退してもらう。

大会当日は、スタート時が最も混雑することから、出場選手それぞれが1メートル以上の間隔を開けられるよう、フルマラソンと10マイルはゼッケン番号ごとに3000人ずつ5分おきにスタートするウエーブスタート方式とする。その際、スタート直前までマスクを着用してもらう。走っている時以外はマスク着用が原則だ。

沿道の給水所は紙コップでの提供を減らし、ペットボトルやキャップ付き包装など個別包装で提供する。飲んだ後の容器は、ボランティアが拾わなくてもいいように指定のごみ箱に捨ててもらうか、持ち帰ってもらう。出場選手には飲み物や食べ物の持参を呼び掛けており、同課は「事前に、ペットボトルが収納できるウエストポーチを配布するので、持参してほしい」と呼び掛ける。

声援、ハイタッチは自粛要請

応援は、沿道やゴールの陸上競技場などで応援することはできるが、声援を送ったり、選手とハイタッチするのは止めてもらう。かすみがうらマラソンは沿道の住民が手作りの漬け物を配ったり、お汁粉を配ったりなど私設エイドが評判だが、来年はなくなりそうだ。

さらにゴール会場の陸上競技場隣りの野球場には例年、飲食や物販のテントが並び、市マッサージ協会がボランティアでランナーにマッサージをしていたが、来年はいずれも取り止める。マッサージなどが必要なランナーは自前で用意してもらう。更衣室についても、大型テントを設営するのではなく、小さなテントを複数、設営する方式とするという。

救護所は、新型コロナ感染者の発生に備え、感染防止用の防護服を用意したり、診察スペースに仕切りを設けるなどする。

詳細な感染防止対策はこれからだ。同課は、日本陸上競技連盟の感染防止ガイドラインを基本に作っていくが、来年1月、大会運営者と行政、医師や保健所関係者などで構成する新型コロナ感染症対策部会を設置して、さらに具体的な感染防止対策を検討しマニュアルを作成して大会運営に臨みたいとしている。

《電動車いすから見た景色》13 言語障害のあるライターとして

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【コラム・川端舞】このコラムを書き始めて、丸1年。基本的に三日坊主の私としては、よく継続していると思う。毎回、とりとめのない話をしている気もするが、福祉施設に入所するのでも、家族から介助を受けるのでもなく、毎日ヘルパーから介助を受けながら、つくば市のアパートで1人暮らしをしている重度障害者の日常を、1人でも多くの人に知ってもらえれば幸いである。

今年3月ごろからは、NEWSつくばのライターとしても活動させていただき、つくば市内で様々な活動をしている方々にお話をお聞きした。コロナ禍で人と会う機会が減っている中で、つくば市をよりよくしようと奮闘しているたくさんの人と、対面やオンラインでお話しする機会をいただけて、幸せな1年だった。

私は言語障害もあり、言葉をはっきり発音することができない。特に初対面の人は、私の言葉を聞き取ることが難しいことも多い。相手が自分の言葉を聞き取れていないと感じたときは、私は伝わるまで繰り返し同じ言葉を言い直す。相手から何回も聞き返されることは、私は全く気にしないし、ちゃんと聞き取ろうとしてくれていることが分かって、逆にうれしく感じることもある。

それでも、あまりに会話の流れを中断させてしまうと、申し訳なく思うときもある。できるだけはっきり話そうとして、いつもより体に力が入り、余計に聞き取りづらい言葉になってしまうことも多い。その空気感が嫌で、幼いころの私は人前でほとんど話さなかった。

介助者がもたらす安心感

しかし、今は取材時を含め、外出するときは必ず、私とのコミュニケーションに慣れた介助者がそばにいる。どうしても言いたいことが相手に伝わらないときは、介助者に助けを求めれば、介助者が私の言ったことをすぐに通訳してくれる。だから今の私は初対面の人とでも安心して話せるのだ。

私が安心して話せていると、自然と言葉の発音もはっきりしやすくなるようだ。最初は介助者に通訳してもらわないと、聞き取ってもらえなかった相手でも、次第に通訳なしでコミュニケーションをとれるようになってくる。また、介助者も私の言葉が聞き取れずに、何回か聞き返す様子を見て、「聞き取れないときは聞き返していいんだ」と分かってもらえることもある。

そんなふうに、初対面の人とだんだんコミュニケーションがとれるようになる楽しさをたくさん感じた1年でもあった。(つくば自立生活センターほにゃらメンバー)

県内農家2割減 7割が65歳以上 農業センサス

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茨城県庁

【山崎実】県統計課は、5年に1度の2020年農業センサスの概数値(速報)を発表した。県内の農家数は5年前に比べ18.1%(1万5898戸)減少していることが分かった。

県内の農家数は7万1780戸。うち経営耕地面積が30アール以上で年間販売額が50万円以上あった販売農家数は4万3939戸で、5年前より23.2%減少した。面積が30アール未満で販売額が50万円未満の自給的農家数は2万7841戸で、8.5%減少した。

一方、県内の農林業経営体数は4万4978経営体で、5年前に比べ22.6%減少した。うち農業経営体数は、4万4852経営体で、前回調査に続いて全国1位となったが、22.7%減少した。林業経営体数は396経営体となり、前回から68.7%減少した。

農業経営体のうち、個人経営は4万4010経営体で、前回から23.1%(1万3207経営体)減少したが、団体経営体は842経営体で9.1%(70経営)増加したのが特徴だ。団体のうち、法人経営は769経営体で全国9位(前回調査は12位)となった。

団体経営体数の増加は、農業経営の規模拡大に直結しており、経営耕地面積10万6916ヘクタールの規模別経営体数をみると、前回に比べ10ヘクタール以上の層で増加した。農産物の販売金額規模別でも3000万円以上の層が増加している。

これに比べ、個人経営体の自営農家従事者は5万7430人と、前回から25%(1万9149人)減少した。加えて65歳以上の農業従事者の占める割合は69.8%と全体の約7割に達し、高齢化農業の実態を浮き彫りにしている。

《くずかごの唄》75 私たちが受けた雑然教育

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【コラム・奥井登美子】80歳を過ぎて、私たちが中高校時に受けた目茶目茶(めちゃめちゃ)教育の、雑然とした有り難さが、やっと分かってきた。食べ物も就職もない時代、青年たちは中高校の教師か大学の講師になるしかなかった。私たち生徒は、逆に考えると、個性的で優秀な教師に恵まれていたのかもしれない。

高校時代、後に東京芸大の教授になった石桁真礼生(いしけた・まれお)氏に「発声法」を厳しく鍛えられた。私が後に「NHKのリポーター」になったとき、この発声法が思わぬとところで役に立った。

私は文学部の部長で戯曲作家を目指していたが、京都二条城の御製薬所だった加藤翠松堂(かとうすいしょうどう)出身の父から、親戚の手前もあって、私に薬剤師の免許を取るように強く言われ、あまり気が進まないまま東京薬科大学に入学した。

大学の校舎は上野桜木町。芸大に潜ってデッサンを見たり、音楽会を聴いたり、動物園の中に塀の隙間から潜り込んだりした。新制大学3年目、大学になったものの、専門学校にはなかった単位を、どの教師に依頼するか、学校側でも皆目分からない時期だったのだろう。個性的な先生ばかりだった。

寺田寅彦、正木昊、奧井誠一…

黒板に、週替わりで寺田寅彦(てらだ・とらひこ)のエッセイが張ってある。物理学と文学との間のこのような世界がある。私は戯曲以外の文学にも心を奪われていった。寺田寅彦は今読んでも楽しい。古くさくなく新しい宇宙を感じることができる。

法学は「首なし事件」の正木昊(まさき・ひろし)先生。この先生は漫画の天才で、黒板に漫画を描きながら話をする。松川事件、三鷹事件、口角泡を飛ばして言葉が弾き出され、飛び交い弾ける。「そもそも官僚根性は、自分の立身出世のためには何ものをも犠牲にする。独善、無責任、形式主義」。言葉のリズムと漫画が混然一体となった授業だった。

弁護士の正木先生は、水戸の先まで行って首のない遺体を掘り起こし、電車で運んで殺人を立証した人である。世間では、その事件を「首なし事件」といって話題になった。

東大は地理的に近いせいか、助教授クラスの若い先生がたくさん講師に来てくれていた。「裁判化学」の奧井誠一もその一人である。後々、この人に「弟と結婚してやってほしい」と、口説かれるとは夢にも思わなかった。(随筆家、薬剤師)