水曜日, 11月 12, 2025
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筑波山観光再開 ホテルは休業続く

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1カ月ぶりに運転を再開した筑波山ケーブルカー=18日午後1時50分ごろ

【鈴木宏子】国の緊急事態宣言解除と県の休業要請緩和を受けて筑波山観光が18日再開した。一方、筑波山中腹の土産品店や飲食店約40店のうち、18日に再開した店は半数ほどにとどまり、観光ホテルや旅館は休業が続いている。

4月22日から閉鎖されていた中腹の市営駐車場4カ所(計470台)が18日、ほぼ1カ月ぶりに一斉に再開し、筑波山観光案内所も開館した。筑波山ケーブルカーとロープウェーも運行を再開し、筑波山つつじケ丘駐車場も利用ができるようになった。

一方、18日は雨模様の天候も重なり、筑波山神社周辺を歩く人の姿も、駐車場を利用する車もまばらだった。

再開したものの利用する車が少なかった筑波山市営駐車場=18日午後1時ごろ

ケーブルカーやロープウェーは、密集を避けるため乗車定員を6割減らし、車内の手すりなどを頻繁に消毒したり、走行中も窓を開けたままにして運行を再開した。運行する筑波観光鉄道によると、18日の利用客は例年の5月の平日と比べても少ないという。

登山道も再開された。つくば市の50代女性は「(緊急事態宣言の)前は、月2回くらい、筑波山や宝篋山、土浦の小町山に登っていたので、山登りは1カ月ぶり。今日はすれ違う登山客は少なかった。これから東京の緊急事態宣言が解除されて登山道が密になるのが心配」などと話していた。

筑波山神社前で、土産品店と飲食店を夫婦で経営する石浜豊子さんは「商売上はお客さんに来てほしいが、ゴールデンウイーク中、首都圏ナンバーの車を見掛けたので、来たら来たで心配もある」と複雑な心境を話した。

一方、首都圏からの利用が多いホテルや旅館は5月いっぱい休業を続ける。つくばグランドホテルを経営する東郷治久代表は6月以降について「6月、7月は(現時点で)予約がほとんどなく、あっても数件程度で、見通しが立たない状況」だという。ホテル青木屋は「東京の緊急事態宣言が解除されないとお客さんがこちらに来ることはない。先が見えない状況」だと語る。

半数ほどの土産品店がまだ休業したままで人影がまばらな筑波山神社周辺=18日午後1時過ぎ

【土浦建築探訪】㊦ 土浦小学校 街なかの景観にアクセント

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土浦小学校

【鴨志田隆之】土浦市は藩政時代から営まれてきた城下町や、商都としての趣を、近隣の地方都市ほどには残せなかった。それでも中城通りの蔵を活かした街並みには、明治草創のそば屋や天ぷら屋が軒を連ねる。土浦城址である亀城公園の存在も、土浦の歴史をとどめておく重要な要素となっている。

街には人のにぎわいや人のなりわいがある。建築はそれらの後ろ盾となって支えるもの。このような考え方から市内に造られた建物がある。

2014年に完成した土浦小学校(同市大手町)だ。校舎設計は水戸市に所在する横須賀満夫建築設計事務所が手がけた。横須賀満夫氏の建築に対する理念が、街と人、にぎわいとなりわいを創造する、あるいは維持継承するというもの。土浦小ではどのようにして設計コンセプトを描いたのか。

横須賀氏は「学校というのは子どもたちの集うにぎわいの場であり、同時に子どもたちを守る堅牢なたたずまいも求められる」とする。「土浦小学校周辺ではちょうど(道路の歴史景観を整備する)歴史の小径整備事業という街づくりも進められていた時期で、亀城公園や旧土浦城址の大手門跡といったキーワードがちりばめられていた」と振り返る。「街の歴史を受け継ぐ建物として、勾配屋根の連なりや昔ながらの生け垣、塀、門構えを配置して動線を誘導し、校舎自体は鉄筋コンクリートだけれど、木の風合いも取り入れている」と話す。

教室の窓の外に日よけや目隠しとして設置したルーバー(細長い板を隙間をあけて平行に組んだもの)には特に力を入れたという。同小近隣の建築にも縦格子をモチーフとしたルーバーが見られた。歴史の蓄積を重視しながらも、極端に土着的なデザインは避けたいと考え、同市の街なかの景観にアクセントを加えた。同校舎は、第28回茨城建築文化賞県知事賞、2015年まちづくりグリーンリボン賞、日本建築家協会優秀建築選2015といった賞を受けている。

横須賀氏は建築士という自身のなりわいを経て、あるとき「日本の街並みは単一の非連続的な建築が過密し、街の景観も地域性もだめにしていた。それは建築家の責任でもある」と気づいたという。

学校建築は、ある意味閉鎖された敷地の中に収められるため機能性重視で論じることができるが、土浦小学校は能動的に街との接点を見出した建築だ。そして「学び舎」というなりわいが、後世、大人になった卒業生たちに語り継がれ、その子どもたちが通い続ける。(終わり)

◆土浦小学校 土浦市大手町13-32。2014年2月リニューアル。敷地面積1万5840平方メートル。校舎は鉄筋コンクリート造3階建て、延べ床面積8160平方メートル。

《吾妻カガミ》82 コロナ禍の仕事と生活

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今は閉鎖中の大学キャンパス(2018年秋撮影)

【コラム・坂本栄】新型コロナ禍で仕事も生活もスタイルの修正を迫られています。本サイトの運営については、コラム「わたしたちのテレワーク」(3月2日掲載)で、元々ネット上の作業なので影響はあまり受けない、週1の編集会議はできるだけ従来の形を維持したい―と述べましたが、この会議も4月半ばから「電話とメール」に切り替えました。でも、茨城も緊急事態が解除されましたので、そろそろ室に戻れそうです。

オンライン授業での誤算

本サイトの運営のほかに、私は県北の大学で講義も担当しています。当然、教室を使ったリアルな授業は見送られ、4月の始業から夏場までオンラインに移行しました。その際、事務方から①同時双方向型②オンデマンド型③課題研究型―のどれかを選ぶよう連絡がありました。

同時双方向型はパソコン画面を分割してやり取りする方式(テレビ番組が多用)、オンデマンド型は録画した講義を学生に視聴させる方式(学習塾などが採用)です。これらが望ましいことは言うまでもありません。しかし私は、両方ともパソコン故障や回線中断のリスクがあるとの理由で(本当は扱える自信がなくて)、課題研究型を選択しました。

課題型は大学ホームページ(HP)内の「リポート受付機能」を使う方式ですから、やり取り(先生の課題提示→学生の回答)はテキストだけになります。「〇〇について△△字以内に記せ」と課題を提示、HP内の指定箇所にリポートを添付させるやり方です。声がかれる講義はパスできますが、リポート(2クラス193人分!)を読むのは大仕事です。結果、「行きはよいよい帰りは怖い」になりました。

老犬に嫌われた散歩倍増

また、地域FMのニュース解説も担当しています。放送は、MC(司会者)との接触を避ける必要があると、スタジオから電話出演に切り替わりました。元々音声だけの世界ですから、進行上の問題はありません。残念なのは、音楽がかかっている間(マイクがオフの間)、若いMCと雑談できなくなったことです。こちらもそろそろスタジオ入りできる?

生活のスタイルも変わりました。大きいのは、スポーツクラブが閉鎖され、週2~3回通っていたジムで運動できなくなったことです。そこで、有酸素運動→筋肉トレーニング→ストレッチの穴を埋めるために、散歩を倍にして運動量を確保しています。以前は、毎朝柴犬を連れて40~50分歩いていましたが、夕方の散歩も加えました。これにはついて行けないと思ったのか、老犬はときどき抗(あらが)います。

家でも筋トレをと、アマゾンから5キロのダンベルを2本取り寄せました。使い方はジムと同じにして、回数は倍にしています。ダンベルを受け取るとき、配達の方から「これ何ですか? こんな重い荷物は初めてです」と怪しまれました。ジムが使えるようになりましたら、どなたかにお譲りします。(経済ジャーナリスト、大学経営学部講師)

「きれいになって待ってるよ」 18日、1カ月ぶり再開 つくばわんわんランド

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スタッフにシャンプーをしてもらい来園者を迎える準備をする犬たち=17日

【鈴木宏子】テーマパークなどに対する県の休業要請が18日から解除されるのを前に、筑波山の麓にある日本最大級の犬のテーマパーク「つくばわんわんランド」(つくば市沼田、東郷治久代表)では17日、翌日の再開に向けて、スタッフが犬をシャンプーするなど、来園者を迎える準備に追われた。

新型コロナウイルスの感染拡大による休業要請を受けて4月22日から休業しており、ほぼ1か月ぶりの再開となる。例年ならゴールデンウイーク期間中、約2万人の来園者があるが、約300匹の犬たちは今年、園内で静かに過ごした。

寺崎修司支配人によると、休業期間中は36人のスタッフのうち3分の1の約10人ずつが交代で出勤し、犬に食事を与えたり、犬舎の掃除をしたり、日中は屋外施設に移動させて遊ばせたりした。

犬は普段なら、日中は来園者と触れ合って体をなでてもらったりするが、今年は約1カ月間、かまってくれる人が少なかったため、人にかまってほしがっている様子だという。

休業中スタッフは、犬たちの動画や写真をホームぺージやSNSなどで積極的に発信してきた。開園を心待ちにしているリピーターからは、励ましの電話や、再開を望む声が数多く寄せられたという。

18日の再開に向けて、スタッフは16日から全員が出勤し、シャンプーをして犬をきれいにしたり、感染防止対策のため売店やチケット売り場にビニールシートを張ったり、テーブルや座席の間隔を広げたり、園内200カ所に手洗い消毒スプレーを設置するなどの作業に追われた。

ベンチとベンチの間隔を広げた、犬と触れ合うことができる「わんわんパーク」コーナー

感染防止対策としてはほかに、来園者に入園時のマスク着用や体温測定のほか、手洗いをひんぱんにするよう案内する。混雑した場合は入園を制限する場合もあるという。唯一の屋内施設である「ねこハウス」は引き続き入館できないが、屋外から猫たちの様子を見ることはできる。

園内200カ所に設置した消毒スプレーや手洗い場について説明する寺崎修司支配人

同園の酒井真希人さんは「犬たちもお客様と触れ合うのを楽しみにしている。動物と触れ合うと幸せを感じるホルモンが分泌されストレスを軽減するといわれているので、動物たちに癒されていただければ」としている。

【土浦建築探訪】㊥ 市役所旧庁舎 同じ街に二つ残す

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市役所開庁から1年半後、小松丘陵から見た旧庁舎

【鴨志田隆之】老朽化と狭あい化によって、土浦市役所旧本庁舎(同市下高津)の移転新築をどうするかという問題は、1990年代に候補地や財源をめぐって白熱の議論が繰り返された。

その後、バブル経済崩壊や2008年のリーマンショックにより景気低迷の時代を迎える。11年の東日本大震災の地震被害も重なり、旧庁舎は建築物としての利用が難しくなっていた。

13年2月、土浦駅前の再開発ビル「ウララ」から旧イトーヨーカドー土浦店が撤退。現在の市役所が移転してから久しい。

現在、旧庁舎は立ち入り禁止になっているが、映画やテレビのロケ地として活用されている。18年のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」の劇中に東美濃の地方都市にあるバスセンターとして建物外観が登場し、映画「仮面ライダー平成ジェネレーションズ」では一部館内も映し出された。

自然の地形をシンボルに

旧庁舎とは、どんな建築だったのか。この建物は市民会館より5年早い1963年11月、市民会館と同じ佐藤武夫の設計によって完成した。建設地となった高台、藤塚山は豪族の塚の跡といわれ、庁舎以前に旧海軍の関係施設として使われていた場所だ。

佐藤と、この建物の図面を直接引いた弟子の宮本忠長(1927~2016年)は松や杉に囲まれ、市域(当時)のどこからでも、霞ケ浦の沖からさえ遠望できる立地環境を重視したと、当時の建築雑誌に宮本自身が手記を寄せている。

そこから考えられた庁舎は、計上された予算から鉄筋コンクリート造で4階から6階と考えられた。最大で海抜40メートルに達する建物頭頂部の案は、しかし回避され、藤塚山をできる限り維持し、むしろ自然の地形こそをシンボルへと描き直した。そうして誕生したのが、旧庁舎だった。

閉庁直後の旧庁舎

土浦市は現在、将来の公共施設運営規模を想定し、保有する公共施設の総延べ床面積のうち30%を縮減するスタンスだ。統廃合がそれにあたるが、旧庁舎自体は、仮に解体してもこの縮減率に貢献できない。ならば活用の道があるかというと、耐震基準を満たさず老朽化しておりそのままにもできない。

17年度に策定された市立地適正計画には、同敷地は転用または売却という基本方針が打ち出されているが、実際には手つかずだ。

ここで視点を変えて眺めてみると、1人の建築家が同じ街に心血を注いだ建築を二つ残しているというアングルが見えてくる。市民会館と旧庁舎を後世に残る名建築と呼ぶかどうかは、そこに住まう人々に委ねられる。

佐藤武夫は奇しくも、旧庁舎完成の年に、日光東照宮の火災で焼失した「鳴竜」を完全復元している。(続く)

◆土浦市役所旧庁舎=同市下高津1-2-35。1963年11月開所。敷地面積1万7820平方メートル。建物は鉄筋コンクリート造、地上3階地下2階建て、延べ床面積6880平方メートル。市役所が15年9月24日に土浦駅前に移転したのに伴い閉庁した。

《沃野一望》15 藤田小四郎の5 天狗党豪雪の峠越え

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藤田小四郎像=筑波山

【ノベル・広田文世】

灯火(ともしび)のもとに夜な夜な来たれ鬼

我(わが)ひめ歌の限りきかせむ  とて。

幕末の元治元年(1864)、藤田小四郎たち水戸藩改革派諸派連合の天狗党は、美濃国(現在の岐阜県)濃尾平野の北端、揖斐(いび)宿へ辿りついた。濃尾平野を横断すれば関ケ原。さらに進めば琵琶湖。湖岸を回りこめば、頼りとする一橋慶喜が政務する京へ、あとわずか。

天狗党は、これまでの行軍で遵守してきた規律にしたがい、行く手の通過予定領大垣藩へ使者をたてた。

「争いを起こす所存はありません。穏便に通してほしい」

対する大垣藩からの返答は、天狗党を震撼させた。

「水戸藩天狗党追討のために出陣された一橋慶喜様より、先陣を担うように命じられています。平野へ出陣されるとあれば、一戦を交えねばなりません」

京で天狗党の行動を監視していた慶喜は、「天狗接近」の報を得るや朝廷に、「天狗勢追討」の願書を自ら提出し、出陣の指揮をとっていた。天狗党にとっては驚愕至極。何という天変。頼りとしてきた慶喜様が追討の指揮とは…。これからいったいどう動けば…。どこを目指せば…。

混迷の軍議が繰り返された。たったひとつ確かな道理は、慶喜様の軍勢と戦端をひらくわけにはいかないという立脚点。とすれば、進むべき行く手は。

難行軍823名 慶喜に降伏

軍議を繰り返す中で天狗党は、尊攘を信奉し天狗党を側面から支援する地元医師棚橋衡平(たなはしこうへい)の勧めにしたがい、揖斐から北方の山岳地帯へ向かい、蠅帽子(はいぼうし)峠を越えて越前国(現在の福井県)への迂回路を選択した。慶喜と戦わずに京へ迫る。

季節は、厳冬へ向かう師走。名だたる豪雪地帯。地元民さえ通わない氷雪の峠越えへ天狗党は、かすかな活路をもとめた。深い峡谷沿いの崖をぬう狭い杣道が、鉛色に凍りついている。天狗党の隊員たちは、黙々と進んだ。

峠越えの途中で何人かの隊員が、前途に見切りをつけ脱走していった。また、凍った崖を踏み外し、谷底へ転落し絶命した隊員もいた。それでも天狗勢はついに、執念の鬼と化し亡霊のような雪まみれ姿で、蠅帽子峠を越えた。下った先は、越前大野藩領。

天狗来襲を聞きつけた大野藩は、行く先々の集落を焼き落とし、天狗党の行軍宿泊を側面から妨害した。それでも天狗党は、間道を抜け新保(しんぽ)宿へ入る。新保宿で天狗党は、間道前方の葉原(はばら)宿に、加賀藩軍が布陣していることを知る。

加賀藩兵は、琵琶湖岸へ出陣していた慶喜の命で動いていた。心情的に天狗党へ肩入れする加賀藩士永原甚七郎は、戦闘を避けるべく慶喜との仲介の労をとり、天狗党を説得する。

そしてついに藤田小四郎たち天狗党の一党は、慶喜に降伏状を提出し、加賀藩勢に捕らわれの身となる。ここまで難行軍をともにしてきた降伏者823名。筑波山挙兵以来9カ月目のこと。(作家)

【土浦建築探訪】㊤ 市民会館24日開館 建築音響工学の先駆者設計

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5月24日リニューアルオープンする土浦市民会館=土浦市東真鍋町

【鴨志田隆之】老朽化していた土浦市民会館(同市東真鍋町)の大規模改修工事が完了し24日オープンとなる。1182席あった大ホールはいすの幅を広げて客席を1019席に若干減らし、来場者が移動しやすいよう通路を設けるなど、耐震補強と共に安全で快適に利用できる施設へとリニューアルされた。

市民会館は1969年2月に開館した。近代の市保有公共施設として古株に属する。戦後、東京都内にも本格的なコンサートホールがなかった時代に、市民要望を元に市長公約として建設が実現していった。

当時の土地改良事業の一環として市民会館の建設地が定められ、華美に流れず、質索であっても堅実なものをという市民の声が反映された。大ホールは音響効果のよいクルミ材の化粧合板に不燃処理を施し、音響効果の優れた性能と木材のやわらかい感触を両立させるなどの工夫が凝らされた。

リニューアル後もクルミ材の壁はそのまま利用され、当時のままの内装や外装をできるだけ生かした改修となった。

近代日本建築のけん引役が設計

このような建築物を実現させたのは、近代日本建築のけん引者の一人である佐藤武夫(1899~1972年)。在籍した早稲田大学助教授時代に日光東照宮の本地堂で「鳴竜」現象の発生プロセスを科学的に解明し、建築音響工学を極めた建築家だ。

正確には、佐藤氏が主宰する佐藤武夫設計事務所(現・佐藤総合計画)において編成されたチームの設計だが、単純な劇場ではなく、想定されるすべての催事と、多数が集会でき活用する多目的ホールとして、それぞれの施設機能を分割あるいは総合一括利用できる建物が考えられた。

佐藤が手がけた建築は、早稲田大の大隈講堂に始まり、晩年の岩手県民会館まで文化会館や庁舎など全国各地で活躍したが、1960年代までの著名な建築が改築などで現存しなくなってきた。

機能や素材の更新を行いつつも、土浦市民会館は建設当時の市民の思いを形として残すに至ったことが、市民の共有財産として恵まれた存在だ。そして実は、土浦市にはこの会館と兄弟関係にある、佐藤の設計で生まれた公共建築がもうひとつ残されている。それは旧庁舎(2代目庁舎=下高津)だ。(続く)

◆土浦市民会館(クラフトシビックホール土浦 土浦市真鍋町2-6。1969年2月開館。リニューアルオープンは2020年5月24日。敷地面積1万6940平方メートル。建物は鉄筋コンクリート造り3階建て、延床面積5180平方メートル。

《続・気軽にSOS》61 プラスのストローク

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【コラム・浅井和幸】先日、懐かしいクライエントAさんから電話がありました。緊急事態宣言が出されている状況の中、今は大丈夫だけれど、この先、どうなるか分からない不安が大きくなった。仕事も生活も今は安定しているけれど、今後、いつ仕事がなくなるかもしれないし、誰ともつながりが無くなってしまった場合を考えると、どうしてよいか分からないと話してくれました。

ちょっとした世間話をして、私が現在している居住支援の話もしました。最悪、手持ち金も、つながりも、仕事もなくなったとしても、私の携帯番号さえ知っていれば何とかなりますよ。お世辞にも豪華とは言えないけれど、住む場所と腹いっぱいの食べ物を提供しますよと、私はお伝えしました。

Aさんは、相変わらず私が、つくばで、茨城で活動を続けていることだけで、とても勇気が出てありがたいと言ってくれました。もちろん私も、そのように言ってもらえて、とても嬉しくて、これからも頑張っていける、とても勇気づけられた―と感じました。

心地よい気分でいた方がよい

心理療法の理論の一つに、交流分析と呼ばれるものがあります。20世紀の中ごろに、精神科医のエリック・バーンによって提唱されました。その中に、プラスのストロークというものがあります。簡単に言うと、心地よいやり取りということです。

私たちはともすると、こんな嫌なことを言う私でも、受け入れて欲しいという願望を相手に押し付けてしまいがちです。自分の悪いところや、弱いところを受け入れてもらえることは、安心感につながります。それ自体は悪くはありませんが、それを多用してしまい、受け入れてもらえない場面で、不快感が大きくなり、相手を責めてしまいます。

また、相手の悪いところを指摘することで、その相手よりも自分が優秀であるという優越感に浸ることで、自分のコンプレックスを隠そうとします。それは、嫌な気分、嫌な関係となり、生活の中で大きく引きずって悪影響になっていきます。

いつも無理してポジティブでいることを勧めているのではありません。ネガティブな気持ちを共有することも大切ですからね。しかし、心地よい気分でいた方が何かとよいことが多いですよね。

人は、言葉や雰囲気に引きずられるものなのです。なぜかこのごろ、嫌な気分のことが多いなとか、自分は運が悪いと感じるときは、悪い言葉やコミュニケーションに偏っている可能性があります。

ネガティブな言葉と同じぐらい、ポジティブな言葉や表情を意識してみてください。空や道端の花がきれい、お茶が美味しい、笑顔であいさつ、少しだけ自分を褒めてみる、ネットで楽しい動画を見る、周りの人の素敵な言動を感じてみる―なんでもよいです。ささいなことでよいです。

そのちっぽけなことの積み重ねが好循環につながり、人生を豊かにしてくれることでしょう。(精神保健福祉士)

18日から外出自粛・休業要請を緩和 学校再開は早くて6月8日

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茨城県庁

【鈴木宏子】新型コロナウイルス感染拡大対策で、茨城県が緊急事態宣言の対象から解除され、県独自の判断指標でも直近1週間の新規感染者数がゼロに抑えられていることなどを受けて、大井川和彦知事は15日、外出自粛と休業要請を18日から1段階緩和すると発表した。

18日以降も現在の状況が続けば、1週間後の25日からさらに一段階緩和するとした。

25日以降も引き続き感染が抑制された今の状態が続けば、学校再開は早くて6月8日になるとする見通しを示した。学校について22日に考え方を示すという。

飲食店の営業短縮すべて解除

18日からは、感染爆発・医療崩壊のリスクが高い現在のステージ4の対策段階から、感染が拡大しているステージ3の対策に一段階緩和する。

外出自粛は、一般の人は平日昼間に加え週末昼間の自粛要請を解除する。ただし夜間の外出自粛や東京圏への移動自粛要請はそのまま。感染すると重症化するリスクが高い高齢者は平日昼間も引き続き外出自粛を求める。

飲食店などに出していた営業時間短縮要請はすべて解除する。休業要請は、映画館、劇場、プラネタリウムなどの休業要請を解除。休業の対象はスポーツクラブ、パチンコ店、ライブハウス、スナックなど19業種に絞る。

ただし営業再開は感染防止対策をとることが前提だ。人と人の距離を2メートル以上空ける、マスクを着用する、手洗いを頻繁にすることのほか、飲食店の場合、隣の席を一つ空ける、対面せずに片側に座るなど定員の半分程度の人数にする、対面する場所にビニールカーテンを設置する、大皿での提供は避ける、テーブルに調味料や冷水ポットなどを置かない、飲み物はできるだけ使い捨ての紙コップを利用する、窓や扉は2方向以上開け1時間に2回以上換気することなどを求める。

18日から21日は一般の人に夜間の外出自粛を求めたまま、飲食店の営業短縮要請を解除することになるが、大井川知事は、感染拡大防止の準備期間という考え方だとした。

22日からさらに1段階、対策を緩和した場合は、一般の人の夜間の外出自粛要請が解除される。休業要請はスポーツクラブ、パチンコ店、ゲームセンターなどを解除し、スナック、バー、カラオケ店、ライブハウスなど10業種に限定する。

第2波に備えPCR検査強化

大井川知事は、第1波が収束に向かいつつあるこの時期に、第2波、第3波に備える必要性を強調。クラスター発生の3分の1は医療機関、高齢者施設、障害者施設だったとして、クラスター発生を抑えるため、国の検査対象者に加え、茨城では医療従事者、高齢者・障害者施設勤務者や新規の入院患者への検査体制を強化するとした。民間検査機関の活用のほか抗原検査などの活用も検討するという。

さらに高齢者や障害者施設の感染対策マニュアルを策定し、各施設で感染を持ち込まない、拡げないためシミュレーションやトレーニングを実施するよう求めた。

住居確保給付金の要件緩和、一部の学生も対象に

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つくば市社会福祉課窓口

【山口和紀】新型コロナウイルスの感染拡大によりアルバイトの収入が大きく減り、生活に影響が出ている学生が少なくないとされる。経済状況の悪化を受けて国は、家賃を肩代わりする住居確保給付金の支給要件に関して就職活動条件を一部緩和した。これにより筑波大などの大学生も支給対象になった。しかし対象となる学生はごく一部に限られる。

筑波大学や筑波学院大学など全日制の大学に通う学生であっても、要件を満たせば支給対象になるが、つくば市社会福祉課によると、対象は「扶養されておらず社会保険料を自ら支払っている」など、親から独立していて学費も生活費も自分でまかなっている学生に限られるとする。

同課は「学生を対象にした修学支援制度や奨学金拡充などの制度があるのでそちらを案内している」としている。

ハローワーク要件不要に

住宅確保給付金は収入の減少などにより経済的に困窮し、住居を失う恐れのある人などが家賃を代わって支払ってもらえる制度だ。原則として3カ月分、最長9カ月が対象となる。支給金額はつくば市の場合、単身世帯が1カ月3万4000円、2人世帯が4万1000円、3~5人世帯が4万4000円となる。

もともと仕事が無くなり経済的に困窮して、住まいを失ったり失う恐れがある人が支給対象だった。新型コロナウイルスの感染拡大により、仕事が無くなってはいないものの、離職などと同程度の状況にあり、住まいを失う恐れがある人などにも4月30日から支給対象が拡充された。

支給要件は従来、ハローワークで月2回以上職業相談をすることなどが要件だったが、「誠実かつ熱心に求職活動」とすることに緩和され、ハローワークへの求職申込などが不要になった。

支給対象者のうち学生について、厚労省は「もっぱらアルバイトにより学費や生活費を自らまかなっていた学生が、これまでのアルバイトがなくなったため住居を失う恐れが生じ、別のアルバイトを探している場合いも、収入要件や資産要件を満たせば、当分の間、例外的に支給される」とする。

例として「児童養護施設を出て大学に通う学生など」を挙げ、「事情により両親を頼ることができず、扶養に入ること等もできない学生」と規定する。

行政は修学支援や奨学金を推奨

学生向けの支援として行政が勧める修学支援制度は、授業料や入学金の減免や減額と、給付型奨学金の支給を受けられる制度で、新型コロナウイルス感染拡大の影響で父母の収入が大きく減った場合(4人世帯の目安は380万円以下など)も支給対象になる。

奨学金は無利子(目安年収は約800万円以下)と有利子(同約1100万円以下)があり、新たに申し込みができる。すでに貸与奨学金を利用している学生なら利用額を増額することもできるが、こちらはあくまでも借金で返済が必要だ。

《電動車いすから見た景色》6 コロナ禍の中でお互いにつがなるには

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イラストは筆者

【コラム・川端舞】ウイルスは人と人との物理的距離を広げる。障害当事者団体である自立生活センターに関わり始めた時、障害者が外に出て、買い物したり遊びに行ったりすることで、地域の人と関わることも、立派な社会運動であると教わった。現在は介助者のサポートを受けながら一般のアパートなどで生活している障害者も多いが、普段障害者と会う機会のない人は、重度障害者は福祉施設でしか生活していけないと思っていることも多いだろう。

そのような人たちに、重度の障害があっても支援を受けながら、障害のない人と同じように地域社会の中で生活していけるということを知ってもらうためには、お店や公園など日常生活の中で普通に暮らしている障害者に出会うことが必要だ。このような考え方を背景に、今まで私もできるだけ通販などは使わずに、介助者と一緒に直接お店に買い物に行ったり、つくば自立生活センターでは地域の子どもたちを集めてイベントを開催したりしてきた。

そんな今までの生活も、「新しい生活様式」のもとで変わってくるのかもしれない。現在、障害のない人でも買い物は通販が奨励されており、これから多くの人が集まるイベントには神経質になるだろう。最近はオンライン通話なども広がっているが、オンラインでのコミュニケーションは関わる相手も話す話題も限られてしまう。

街中で手話で話している人を見かけることも、バスの運転手が車いすの人のためにスロープを出してくれる風景も、今より少なくなってしまうのだろうか。周囲の人と距離を取ることが求められる社会で、どうしたら障害のある人とない人が接点を持てるのか、改めて考え始める必要があるのかもしれない。

何年も自由に外出できない人もいる

そして忘れてはいけないのは、地域で暮らしている障害者よりも世間の人に知られていないのが、福祉施設の中にいる障害者であるということだ。新型コロナがある程度落ちつき、ほとんどの人が自由に外出できるようになったとしても、施設の入所者が何年も自由に外出できないという現実は変わらないのだろう。

数カ月外出できないだけでストレスがたまる人も多い中、何年も自由に好きな場所に行けない生活はどのようなものなのだろう。好きなところに自由に行けるありがたさを感じるとともに、そんな当たり前のことがずっとできていない人たちが、同じ日本にいることを忘れてはいけないということを実感させてくれた外出自粛である。(つくば自立生活センターほにゃらメンバー)

純利益12.8%増も来期の見通し厳しく 筑波銀行が20年通期決算

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2020年3月期決算を発表する生田雅彦頭取=14日、筑波銀行つくば本部

【鈴木宏子】筑波銀行(本店・土浦市、生田雅彦頭取)は14日、2020年3月期決算(19年4月~20年3月)を発表した。新型コロナウイルス感染拡大による影響が顕在化するとみられる来期(21年3月期)の業績予想(連結)について、経常利益が20年3月期比46.8%減の14億円、当期純利益は同18.2%減の10億円と厳しい見通しを示した。

さらに今後、感染拡大の影響が長期化する場合は、取引先の貸出金が回収できなくなった場合に備える与信費用がさらに増加する可能性があるとした。

現時点での地域経済への影響について生田頭取は「コロナの影響でかなりの相談があり、融資申し込みが通常の2倍、3倍に膨れ上がっている」とする一方、与信費用について「現時点で莫大に増えたことはなく、コロナ倒産はない」とした。

経常利益31%増

20年3月期の業績(連結)について、銀行本来の業務の収支である業務粗利益は、貸出金利息や有価証券利息配当金が減少し資金利益が減少したが、役務取引利益や国際債券売却益が増加したことから、前年比7億9500万円増の297億7800万円となった。

銀行本来の業務で稼ぎ出した1年間の利益となる、業務粗利益から人件費などの経費を差し引いた実質業務純益(単体)は、業務粗利益の増加に加え、店舗を98店から79店に統廃合したなどにより人件費や物件費などの経費が前年比6億7300万円減少したことから、同16億1000万円増の35億3200万円となった。

銀行の通常の活動から生じた利益を表す経常利益(連結)は、株式関係損益が減少したが業務粗利益の増加や営業経費の削減により、前期比6億3700万円増(31.9%)の26億3200万円となった。最終的に稼いだ利益である当期純利益は経常利益が増加したことなどにより同比1億3900万円増(12.8%)の12億2300万円となった。

健全性の指標となる、リスク資産に対し資本金などの自己資本がどれだけあるかを示す自己資本比率(連結)は、有価証券の減少などによりリスク資産が減少したことなどから、前年度末比0.07ポイント上昇し、8.79%となった。

金融再生法に基づく開示債権額(単体)は、要管理債権や破産更生債権の増加したなどから前年度末比16億円増の466億円となった。この結果、不良債権残高の割合を示す開示債権比率(不良債権比率)は同0.03ポイント上昇し2.72%となった。

県南名店の味を医療従事者へ クラウドファンディングで届くお弁当

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お弁当の配達準備をする中台義浩さん㊨と理香さん=13日、レストラン中台(土浦市)

【伊藤悦子】新型コロナウイルスとの戦いの最前線にいる医療従事者に、県南地域を代表する飲食店のお弁当を届けようという取り組みが行われている。レストラン中台(土浦市桜町)、旬の台所連根屋(牛久市神谷)とその常連客が立ち上げた「セーバーイーツ茨城」による活動で、クラウドファンディングで広く支援を募り、両店のお弁当を病院に届け始めた。

土浦、牛久の飲食店が常連客とタッグ

発案者は両店の常連客、戸田さつきさん(41)。新型コロナの影響から、両店とも売り上げが前年比80%減と苦境に立たされていた。「いつも旬の食材を使って、どんな料理でお客様に喜んでもらうかワクワクして考えていたのにむなしくなった」という中台義浩さん(55)の言葉に心を痛めた戸田さんはなんとかしたいと思った。

個人的なテイクアウトを毎食続けるわけにはいかず、「応援したいが食べられない」ジレンマがあった。折から戸田さんが親しむSNSのツイッターには、医療従事者へ応援や感謝の言葉があがる一方、「応援が拍手だけでいいのか?」など議論が交わされているのを目にした。

そこで、医療従事者へ感謝の気持ちを伝えるためお弁当を届ける「セーバーイーツ」を発案。お弁当作りならば、経営難に陥っている飲食店の仕事としてシフトできる。テイクアウトは土日に集中しがちだが、平日のスタッフの仕事もまかなえる。さらに「クラウドファンディングなら、多くの人々が感謝の気持ちを伝えることができるから、みんなが幸せになれるのでは」と考えたという。出資額は、医療従事者1人のお弁当代に相当する1500円からと決めた。

戸田さんとレストラン中台のシェフ中台義治さんは土浦生まれ、連根屋店主佐藤栄次さん(57)は牛久生まれだが、3人は県内の同じ高校出身。地元の味を届けようと、タッグを組んだ。

佐藤さんは、先にラジオで、都内で医療従事者に差し入れする話を聞き、やりたいなと思っているところに戸田さんから声をかけられた。「ふたつ返事でやるやる!」と応じたそう。

レストラン中台の女将(おかみ)、中台理香さんも「話を聞いてすぐにやりたいと思った」と話す。「1500円のお弁当だが、中身は1800円以上のものを使っている。クラウドファンディングでいただくのは材料費だけ。おいしかったと喜んでもらいたいから、儲けはいらないという気持ちだ」という。

目標額は3日で達成も募集継続

パンフレットを作り、サイトを立ち上げ、クラウドファンディングは5月1日にスタート。目標額の50万円はわずか3日で達成した。セーバーイーツのサイトには「頑張ってください」「応援しています」など支援者から医療従事者への感謝のメッセージが並ぶ。なかには「これからのことを考えると、医療の現場を守らないといけない」という10代の若者からの支援もあったという。

メッセージは印刷して、お弁当と一緒に病院に届けている。12日以降、JAとりで総合医療センター(取手市)と筑波大学付属病院(つくば市)にそれぞれ30食、40食を届けた。

佐藤さんは「店は20年近くやっているが、このように弁当の仕事をやるのは初めてに近い。中台さんと協力しあえるのも自分の店だけで全部こなさなきゃいけないわけじゃない、と気持ちの面で助かっている」と語った。

実際にお弁当を食べた医療従事者からは、「ハンバーグがおいしかった」「みなさんの支援がうれしい」「励みになった」という声が寄せられている。

受け入れる医療機関も募集中

目標額50万円には達しているが、31日まで募集している。戸田さんは「予算やお届け距離の都合もあるため、すべてに応じられないかもしれないが、新型コロナウイルス感染者が入院している、いないにかかわらずたくさんのに医療従事者に届けたい」とし、「もしお弁当を受け入れたい医療機関あれば、連絡してほしい」と話す。

クラウドファンディングは出資額に応じて、お弁当を届けられる人数が異なる。クラウドファンディングのリターンは、イラストレーター・画家の長友心平さん描き下ろしポストカード、ロゴ反射缶バッジ(直径40ミリ)が用意されている。

長友さんイラストと光る缶バッチ

コロナと戦う医療従事者に地元の美味を届けて、みんなを守りたい!セーバーイーツ茨城のサイトはこちら

《映画探偵団》31 雨情とチャップリンのちょび髭

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イラストは筆者

【コラム・冠木新市】茨城県出身の民謡詩人野口雨情と世界的な喜劇俳優チャーリー・チャップリンは、外見が小柄でどことなく雰囲気が似ているように思える。2人は1930年代の世界大恐慌に生きた同時代人だが、私が似ていると感じたのは、ちょび髭(ひげ)のせいかもしれない。しかし雨情のちょび髭は本物だが、チャップリンのそれは映画の中だけでしか付けない放浪紳士用としての偽物の髭である。

2人が生きた時代のニュース映像などを見ると、ちょび髭の人たちが結構映っていて流行だったのが分かる。チャップリンと同じ1889年生まれのドイツの独裁者アドルフ・ヒトラーもちょび髭だった。成功者の証しなのか、自己アピールのファッションなのかは分からないが、今は女性受けしないようで、ちょび髭の男性はほとんど見かけない。

昭和7年(1932)5月13日、桜川流域の土浦にあった高級料理屋・山水閣に海軍青年将校らが集まり、犬養毅首相たちの最終暗殺計画が練られた。将校らは犬養毅とチャップリンが会見する情報を知り、一緒に暗殺しアメリカに恐怖心を与えようと考えたという。5月14日、チャップリンが来日。東京駅には8万人のファンが歓迎する熱狂ぶりだった。そして5月15日を迎える。急きょチャップリンは予定を変更し犬養の長男と相撲見物に出かけ、暗殺から逃れることができた。

中学生のころ、5・15事件とチャップリン暗殺計画の事実を映画の本で知ったときには、歴史的事件と喜劇映画とがなかなか結びつかなかった。青年将校らは民衆に人気があったチャップリンの命をなぜ狙ったのだろうか。もし成功していたら、猛批判にさらされたのに違いないからだ。また将校らはチャップリンの映画を本当に見ていたのだろうかと気になった。

『チャップリンの黄金狂時代』

『チャップリンの黄金狂時代』(1925)は、金鉱を探す一攫(いっかく)千金を狙う放浪紳士の話である。凍てつく雪山で腹をすかし、飢餓におちいる場面が出てくる。空腹に耐えかねた放浪紳士は、片方の革靴をお湯でぐずぐず煮て料理をつくる。皿にのせた靴のヒモをフォークでスパゲッティのように巻いて美味しそうに食べる。次に靴底に打たれた釘を取り除くと肉の付いた小骨のようにしゃぶる。少年のころから何度も見ているシーンだが、靴底が本物のステーキのように見えてきて、こちらまでお腹がふくれる気がする。

多分、将校らはこう考えたのではないか。チャップリンのボロ服を着たちょび髭キャラクターは偽物の幻影であり、本当の庶民ではないと。つまり一般の観客はスクリーンの放浪紳士を愛しその存在を信じたが、将校らはちょび髭のない大金持ちのチャップリンの実像を見ていた。虚構を信じる一般の人々と、虚構を信じきれないエリートたちとの差とでも言おうか。

雨情が5・15事件とチャップリン映画をどう考えたのかを知る資料は見つからないが、同じころ、雨情は全国各地のご当地民謡を作るための旅をしていた。その作品数と旅した距離を考えると、「新民謡狂時代」とも名付けたいくらいである。依頼されて作る新民謡とは、地方のまちおこしに他ならない。雨情は中央よりも地方に注目していた。

5・15事件の3カ月前、1月31日『今朝も別れか』(常陸竜ケ崎音頭)、2月2日『竜ケ崎小唄』など、男女の恋心と豊かな自然描いた茨城県の民謡をつくっている。その活動ぶりは、放浪紳士が愛すべき女性に出逢い、俄然バリバリと働き出す姿に似ているのだ。私には凄まじい勢いで民謡を作る雨情の姿がチャップリンの演じた放浪紳士と思えてならない。再びちょび髭が流行る時代は来るのだろうか。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

1人暮らし学生に3万円、自宅通学に1万5千円支援 筑波大

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筑波大学正門

【鈴木宏子】新型コロナウイルスの感染拡大により学生が経済的に苦しい状況にあるとして、筑波大学(つくば市天王台)は12日、アパートなどで1人暮らしをしている大学生に計約3万円、実家から通学している大学生に1万5千円などを支援する総額7億円の緊急経済支援を実施すると発表した。

保護者の収入が減って仕送りが減少した、アルバイト先が休業になり収入が減った、オンライン授業が実施されているため通信機器の購入などで支出が増えたなど、学生生活に影響が出ており経済支援が必要だとして、当面3カ月間を想定した支援を実施する。

約7億円の財源が必要になるが、現時点では同大の基金などを含め約4億円を確保している。約3億円が不足していることから、教職員から寄付を募っているほか、市民にもクラウドファンディングで支援を呼び掛ける。

支援内容は1~4年の大学生全員に1人一律1万5000円を給付する。実家を離れてアパートや学生宿舎などに住んでいる学生には1人約1万5000円を追加支援し、1人暮らしの学生などには計約3万円が給付される。

感染拡大により保護者の収入が急激に減少した学生に対しては、入学金と授業料の免除や徴収猶予などの特別措置を整備する。

オンライン授業の通信機器については、通信環境が整っておらず対応が困難な新入生を中心に、通信機器やパソコンなどを無料で貸し出している。

大学院生に対しては研究補助や教育補助などを拡充し、大学で研究や教育のアルバイトをしてもらって、大学生とほぼ同額の経済支援を検討している。さらに保護者の収入が急変した大学院生にも入学金や授業料の免除や徴収猶予を検討している。

留学生約100人、卒業後帰国できず収入無く

一方留学生は、授業料免除の私費留学生を対象に1人12万円、今年3月に大学や大学院を卒業したものの帰国できずに日本滞在を余儀なくされている元留学生にも12万円の支援金を給付する。

留学生の場合、アルバイト収入の減少のほか、感染拡大に伴い、本国からの送金が途絶えてしまったケースもあるという。特に卒業後、帰国できなくなった留学生は、就学ビザの期限が切れてしまったためアルバイトをして収入を得ることができず、収入源がまったく無くなってしまった人もいるという。

留学生への金額が高いことについて同大は、留学生のための基金を活用すること、さらに特に留学生から深刻な相談が多く寄せられているためとしている。3月に卒業したものの帰国できない元留学生は100人程度いるという。

ほかに学生、大学院生、留学生すべてを対象に1人10万円の一時貸付金を設ける。

学生数は大学生が約1万人、大学院生が約7000人。現在、手続きを始めており、6月中旬ごろには給付を実施したいとしている。

一方、4年生の男子学生は「自分もアルバイト収入が半分に減ったし、周りの学生からも(感染拡大前のように)アルバイトがちゃんとできているという話はまったく聞かない。つくばにいてもお金がないので実家に帰省した学生も多いと聞いている」と話し、大学の緊急経済支援について「もらえないよりいいが、3万円じゃどうしようもないと友達と話したばかり」と語っている。

《つくば法律日記》7 withコロナと法律問題

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堀越さんの事務所があるつくばセンタービル

【コラム・堀越智也】コラムのタイトルを法律日記と謳っておきながら、新型コロナと法律の話を避けて通ることは許されないだろうという思いがありながら、本音はできれば避けたいところである。というのも、判例の集積がないだけに、結論が明確でないことが多々あるからだ。

それでも、勇敢な僕はそこに切り込んでいくことにした。そこに多くの人々の心配があるし、自分自身、気を付けなければならないと思うことがあるためである。

御多分に洩れず、流行りに任せてZOOM飲み会をしてみたりする。ZOOMの利用もセキュリティーなどを考えると十分な注意が必要なのだが、その点はここでは触れないことにする。そのZOOMでwithコロナでの法律問題についてよく聞かれるのが、従業員の解雇の問題や賃料の問題である。

解雇するには、正当な理由がなければならない。また、リストラを理由に整理解雇をすることがあるが、その場合でも人員削減の必要性などいくつかの条件を充たさなければならない。正当な理由や必要性の判断をする際、いつ終息するか分からないコロナについてどのような考慮をすべきかは、非常に難しいところである。ただ、売り上げが下がったというだけでは、解雇は難しく、その他具体的な事情を考える必要がある。

ZOOM利用で気を付けたいこと

ところで、ZOOMを利用していると、まずは便利さに気を取られてしまう。お店で飲み会をしていたら、パソコンで仕事をしながらというわけにはいかないが、ZOOM飲み会なら、こそこそパソコンでネットを見たりしていても気づかれない。

また、職場にいれば、資料や本などもすぐに取り出せて便利である。ただ、これが大勢の会議やセミナーという形式になったときに、資料を複製して参加者が見られるようにしたり、音楽を流したりということを、気軽さと便利さゆえに安易にしてしまう可能性があるだろうと感じた。その際、著作権侵害には十分に気を付けて、せっかくの便利さや楽しさを台無しにしないようにしたいものだ。

SNSが流行り始めたころ、僕もSNSを真っ先に利用し、多くの仲間ができて喜んでいた矢先、仲間が気づかないうちに著作権を含めたいろいろな法律問題に触れていることに気づき、襟を正したことがある。SNSやZOOMなどの普及により、アウトプットが容易になる反面、法律問題になる危険もあるので、十分に気を付けて、便利さや楽しさに水を差さないようにしたい。(弁護士)

県立博物館、美術館1カ月ぶり再開

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透明なビニールカーテンで仕切られた案内カウンター=2日、県自然博物館

【鈴木宏子】新型コロナウイルスの感染拡大で利用が制限されていた博物館や美術館、公園の利用制限を国が緩和したのを受けて、県立自然博物館(坂東市)や県近代美術館(水戸市)などが12日、一斉に開館した。感染防止対策をとった上で、ほぼ1カ月ぶりの再開となった。

坂東市大崎のミュージアムパーク県自然博物館は午前9時30分に開館した。4月11日に休館となって以来、ちょうど1カ月ぶりの再開となった。この日の来館者は例年の2割程度にどどまり、にぎわいはまだ館内に戻らなかった。

新たに一方通行の順路が設けられ間隔を空けて見学するよう求める貼り紙が貼られた恐竜たちの生活コーナー=2日、県自然博物館

入館者はマスクをして、入り口で手指をアルコール消毒、さらに除菌マットで靴底を除菌して入館した。受付の案内カウンターには飛沫を防止する透明なビニールカーテンが張られ、案内スタッフはマスクと手袋を着用して応対した。

同館は恐竜の骨格標本や動物のはく製を触ったり、顕微鏡でミクロの世界をのぞいたりできる体験型施設だが、展示物には手を触れないなどの新しいルールが館内のあちこちに表示された。展示物の至るところにあるスイッチなどは、1日4回、スタッフが除菌する。

入館者同士の間隔を2メートル空けることなども求められ、混雑した場合は入場を制限することもあるそうだ。

密集や密接を防ぐため400席あった座席を150席に減らした飲食ができるセミナーハウス=同

館内のレストランや売店はまだ休業のまま。来館者が昼食を持参して館内のセミナーハウスで食事をしたり、屋外広場で飲食することはできるという。飲食ができるセミナーハウスは密集や密接を防ぐため400席あった座席を150席に減らした。

12日、再開した同館を4歳の長男と0歳の長女を連れて訪れた守谷市の30代の主婦は「長男の幼稚園が休みになり、ずっと家にいて子供のストレスがたまっていた。長男は恐竜が好きなので博物館に来た。開館してくれてありがたい」などと話していた。

広報を担当する同館企画課の高橋優華さんは「制限をかけての開館となり、精一杯楽しんでいただけないところは心苦しいが、ご理解いただいて利用いただければ」と話している。

緊急事態宣言が出され都道府県をまたいだ移動は自粛を求められていることから、県外からの来館については自粛を求めているという。

つくば美術館は6月13日から

県立美術館は、県近代美術館(水戸市)、県天心記念五浦美術館(北茨城市)、県陶芸美術館(笠間市)の3館が12日、一斉に開館した。

一方、貸し館による展示が主なつくば市吾妻の県つくば美術館は、展示予定だった主催者のキャンセルにより5月いっぱいは休館を続ける。再開は6月13日の「土曜講座」からで、学芸員が講話する。6月20日にはビデオ鑑賞会も再開する。ギャラリーの展覧会再開は6月30日からになるという。

洞峰公園テニスコート13日再開

県立の屋外公園は11日から笠松運動公園(ひたちなか市)などが再開した。

つくば市二の宮の洞峰公園は、テニスコートが13日から利用を再開する。同公園によると、13日午後2時時点ですでに延べ10面の利用予約が入ったという。ただしマスクを着用してプレーしてもらう。更衣室やロッカー、シャワーなどは利用できない。

13日利用が再開される洞峰公園テニスコート

一方、アリーナやプールの再開は未定のままだ。ギャラリーやカフェがある新都市記念館も休業が続き、こちらも再開は未定という。冒険広場にある、子供たちに人気の複合遊具と砂場は引き続き利用できない。

土浦市大岩田の霞ケ浦総合公園は、霞ケ浦文化体育会館(水郷体育館)前の県の駐車場がゴールデンウイークの2日から11日まで閉鎖されていたが、12日から利用できるようになった。

12日から利用できるようになった霞ケ浦総合公園水郷体育館前の駐車場

公園内の施設のうちテニスコートは6月2日から再開予定で、予約受け付けが開始された。水郷体育館の再開は未定。県都市整備課によると体育館利用再開の目安は、スポーツクラブなどの休業要請が解除される時期になるという。土浦市のネイチャーセンターは6月1日まで休館。2日から再開の予定。

【土浦市長会見】売上減の事業者に最大20万円を給付へ 土浦市、独自の緊急経済対策

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安相真理子市長=11日、土浦市役所

【伊藤悦子】新型コロナウイルスの感染拡大で、土浦市は総額約5億6000万の緊急経済対策を実施する。安藤真理子市長が11日の定例会見で発表した。国が創設した「地方創生臨時交付金」を受け、市独自の事業として、売り上げが落ち込んでいる事業者に最大20万円を支給するほか、市民へのサージカルマスク配布など6つの対策に取り組む。14日開く臨時市議会に一般会計補正予算を提出する。

売上減少の事業者に最大20万円給付金

売り上げ低迷の事業者に最大20万円を支給する市の「持続化給付金」は、売り上げが前年の同月比30%以上50%未満の中小企業や個人事業主が対象になる。国の持続化給付金は売り上げ50%以上減額の事業者が対象となる。国の制度の対象にならない事業者に給付する。先に始まっている融資の相談では、前年の比30%以上50%未満売り上げが減少している事業者が18%程度あったという。今後さらに増えることを予想し、対象は市内6373事業者のうち、20%にあたる1274事業者を想定している。

20万円の金額は、国の個人向け定額給付金や県内他市の状況を参考に算出した。事業費に約2億5000万円を計上する。

市民にサージカルマスクを配布

感染症予防用のサージカルマスクは、1戸当たり3枚を全戸に配布する。配布は5月下旬の予定で、除菌水の配布も予定する。また、保育所や幼稚園、小中学校には非接触式体温計を配布、土浦協同病院、霞ケ浦医療センターにはマスク、病院用防護服やガウンも提供する。これらは感染予防物品の整備費として約2700万円を計上する。

ゴミ袋の無料引換券を全世帯に配布

外出自粛に伴い増加している家庭ごみとその経済的負担の軽減のため、可燃ごみ袋(45リットル入り、10枚)を全世帯に配布する。5月1日現在で住民基本台帳に登録ある67023世帯が対象。

引換券が印刷されたはがきが世帯主宛に送付され、市指定の販売店舗に持っていくと、ごみ袋と交換できる。5月下旬発送、10月末までに引き換えというスケジュールを予定している。事業費は約1600万円。

子育て世帯にも市独自の支援

学校の再開に伴う保護者負担の軽減のため、6、7月分の給食費は無料化する。対象となるのは、小学校に通う児童6638人、中学校の生徒3422人のほか、義務教育学校、公立幼稚園の給食費だ。給食費は小学校が4200円、中学校は4700円で、約8800万円を徴収しないことになる。休校中の4、5月分の給食費については徴収していない。

経済的に困っている就学援助制度利用世帯への支援として、休校期間中4、5月の給食費相当額を支給する。学校が始まってから申請を受け付けるという。事業費は約1000万円。

給食の中止に伴い、給食食材納入業者には約530万円を支出する。3月の臨時休校によって生じた損失分を補償するものだ。

母子父子家庭など一人親世帯へは、市独自給付金事業として7月期の児童扶養手当に、児童1人当たり1万円を上乗せして給付する。約2700万円の事業費を予定している。

安藤市長会見映像=J:COM茨城提供

《続・平熱日記》61 「さらばマスク」 私はマスク嫌い

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【コラム・斉藤裕之】いちいち癇(かん)に障(さわ)るトランプさんだが、最近自分との共通点を見つけた。それはマスク嫌いという点。正直に言ってマスクは煩(わずら)わしい。これまでは外国人並みにマスクの効果を疑っていた。しかし仕方なく始まったマスク生活。喋(しゃべ)りづらいし、呼吸もしづらい。老眼鏡は曇るし、おまけに鼻のあたりが温まって鼻水が垂れてくる。やはりマスクは嫌いだ。

しかし、こういう事態になる以前から、最近では毎年のインフルエンザの流行に伴い、学校ではマスク着用を促すようになった。ただ困ったことに、マスクをしていると表情が読み取れない。

「目は口ほどにものをいう」とは言うが、実は表情は顔の半分から下でつくられることがよくわかる。要するに、目から上には表情をつくる筋肉がほぼないのである。例えば教室で個人の表情が全く分からない、40人のマスクさんたちを相手に、有意義な授業は見込めない。逆も然り。マスク先生の話は面白さも半減する。

マスクマンの「マスク内引きこもり」

小学校のころ、母が毛糸で赤いマスク編んでくれた。マスクといっても覆面レスラーのマスク。多分海外でmaskといえば、仮面や覆面を指すのだろう。当時、絶大な人気を誇った覆面レスラーといえばデストロイヤー。漫画ではタイガーマスク。そして千の顔を持つ男といえばご存じミルマスカラス。

そんな憧れのマスクを手に入れて、畳の上で繰り広げられるプロレスごっこのタッグマッチは盛り上がった。今考えると、プロレスはマスクの持つ匿名性や神秘性という側面を実に上手く利用していたといえる。

ところが、レスラーほどのフルフェイスのマスクではないが、近年学校にもマスクマンが現れ始めた。春はおろか夏になってもマスクをしている、要するに年中マスクをしているマスクマン生徒だ。外界と一線を画すようなマスク姿。

「マスク内引きこもり」と私は勝手に名付けていたのだが、それを敢えて咎(とが)める理由もない。しかし、そうこうしているうちに、とうとうその生徒たちの素顔がわからないまま学年が変わってしまう。多分、マスクを外した顔で挨拶されてもわからないだろう。それよりも、その子たちは今後ずっとマスク顔で生きていくのだろうかと不安になった。

因(ちな)みに、覆面レスラーは覆面をはがされて正体がばれそうになるところがクライマックス。そして、マスクの下の素顔はいつか明かされる運命にある。

今回、ハンバーグや餃子と同様に、マスクは「手作り」という市民権を得た。マスク不足から、創意と工夫で作られた手作りのマスクは、それなりの意味と効果があったといえる。しかし、エコバッグが街にあふれてエコでも何でもない道をたどったように、手作りマスクが生活の中でこれ以上過剰に流行らないことを祈る。

さて、いつもは安倍さんに冷たい私だが、今回はいささか同情せざるをえない。「もうマスクはいりません!」。彼が満面の笑みで放り投げる、洗いすぎてビヨーンと伸びたゴムのマスクが、スローモーションで宙を舞う姿。私の思い描くハッピーエンドだ。(画家)

《邑から日本を見る》63 農家の暮らしとコロナ騒ぎ

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田植え時の小昼飯

【コラム・先﨑千尋】いつものように5日に田植えが終わった。5反(50アール)百姓だから、借りてきた4条植えの田植え機を手で押し、半日で終わる。親の代から「我が家のコメを食べる者は田植えには集まれ」と兄弟たちに言ってきたので、孫の世代も含めて17人も集まった。それぞれが植え継ぎ、寄せ植え、箱洗いなどを分担してやってくれる。

手植えのころは、結(ゆい)と言って親戚が集まり、互いの田んぼを交代で植えていくので、それこそにぎやかだった。嫁同士の植え方の優劣もよくわかった。苗も、今と違って苗代(なわしろ)で育て、暗いうちに手で取り、束ね、田んぼに運ぶ。子供も、苗運びや代掻(しろか)きをする牛馬の補助などの役割があった。

楽しみは小昼飯(こじゅうはん、なまって「こじはん」と言っていた)。塩の握り飯に切昆布と麩(ふ)の煮もの、漬物くらいしかなかったが、それでも、子供にとってはその時間が待ち遠しかった。今では、我が家のように大勢が集まる光景はほとんど見られない。大型の乗用田植え機で植えるので、ほとんど人手は要らない。水田地帯だと8条植え。あっという間に終わってしまう。だから小昼飯もない。

田んぼや畑にいると、コロナのことなど忘れてしまう。人にも会わないから、密閉、密集、密接の三密とは無縁である。米や野菜、みそなどはあるので、日常の暮らしにそんなに影響はない。不要不急の外出自粛とやらで、外に出ることがなくなり、客も来ない。安全、安心な暮らし方をしている。よけいな金も使わなくて済む。

都会はその脆さが浮き彫りに

逆に、都会はその脆(もろ)さ、生活の危うさ、苦しさが浮き彫りになって見えてくる。田畑から家に戻り、テレビをつけるとコロナのニュースばかりだ。クラスター、オーバーシュート、ロックダウンなど、これまで聞いたことがない言葉にとまどい、安倍首相や小池東京都知事のうつろな言葉に付き合わされる。

休業、営業自粛に追い込まれた人たち。医療崩壊を防ぐために、懸命に医療現場を支えているスタッフたち。人通りが極端に減った観光地。それぞれ大変な苦労をしている。

戦後の日本は、農林漁業という人間の生活に不可欠な産業を切り捨て、経済成長を目指し、結果として首都圏などに人口が集中した。吉幾三ではないが、「俺あこんな村いやだ 東京へ出るだ~」だ。農村の過疎と都市の過密は背中合わせの現象である。

オリンピックが来年開かれるかどうかはわからないが、今回のコロナ騒動はいずれ収束する。しかし、歴史が教えてくれているように、また同じようなことが確実に起きる。

コロナウイルスは、安倍首相が言う「戦う、打ち勝つ、撲滅する」相手ではない。人類はたかだか20万年の歴史しかないが、ウイルスは4億年前に生まれている。そして忘れてならないのは、「人間は自然界に生かされている生物の1種にすぎず、自然の支配者ではない」ということだ。ウイルスとの共生、一極集中からの転換。そんなことを考えながら、田植え機を動かしていた。(元瓜連町長)