木曜日, 11月 21, 2024
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開き直った戦い方が良い方につながった 霞ケ浦 高橋監督に聞く

甲子園初勝利つかみ、秋の大会へ 霞ケ浦高校は7月に行われた第106回全国高校野球選手権茨城大会を5年ぶりに制し、甲子園では2回戦(初戦)で名門の智弁和歌山と対戦。延長11回タイブレークにもつれ込むも、エース市村才樹(2年)と眞仲唯歩の継投でしのぎ5対4で甲子園初勝利をつかんだ。続く3回戦では滋賀学園に2対6で敗れた。息つく暇もなくその4日後に秋季大会1次予選を迎え初戦敗退となった。激動の日々を経験した霞ケ浦の髙橋祐二監督に、夏の大会や甲子園初勝利の感想、秋の戦い方について語ってもらった。 苦しい初戦をものにできて選手がまとまった ―改めまして、第106回茨城大会の優勝と夏の甲子園で学校として初めての1勝おめでとうございます。まず、茨城大会について振り返っていただきたいと思います。大会前のインタビューで、今年はチームの中心選手が不在で選手の一体感がないとおっしゃっていました(7月9日掲載)。大会初戦(2回戦)は太田一に2対2から9回サヨナラ勝利と苦しい試合戦だった訳ですが、優勝に至るまでチームはどのような変遷をたどったのでしょうか。 高橋 全く打てなくて本当に苦しい初戦になりました。負けてもおかしくなかったと思います。ですが、苦しい試合をものにできて、バラバラだった選手たちが少しずつまとまり、どん底の状態から偶然に最高の状態に持っていけました。こういうふうに勝ち上がる展開を計算してできる監督だったらまさしく名将と言えますが、完全に偶然の産物です。今年のチームは本当に力がなかったので、「いつ負けてもいいや」くらいに開き直ったところがありました。 ―大会前のインタビューでも「勝ちたい勝ちたいと思わない方が、欲がない方が意外と勝てるのかもしれない」とおっしゃっていました。 高橋 この夏はいろいろな方面から「ちょっと以前とは采配が変わりましたね」と言われることがありましたが、私は別段何かこう変えようと意識していた訳ではありません。開き直った戦い方が結果的に良い方につながったのだと思います。 市村がよくしのいでくれた ―準々決勝では秋に負けた鹿島学園に、決勝では春に負けたつくば秀英に勝利しました。何か特別な対策はあったのですか。 高橋 2チームとも秋と春に対戦していたので勝つイメージはつかめていました。組み合わせが決まった時に最大の山場になるのが準々決勝の鹿島学園戦だろうと見ていました。鹿島学園は春にも関東大会に出場して非常に勢いがあった。内容的に楽に勝てた訳ではないですが、市村才樹(2年)がよくしのいでくれました。 準備したものを羽成がやってのけた ―決勝のつくば秀英戦では、羽成朔太郎選手がライト前ヒットで一気に二塁を落とし入れる走塁が光りました。あのプレーで試合が動いて霞ケ浦ペースに傾いたように思います。 高橋 チームでは大高先生を中心に相手を分析しており、投手の癖や球種、打者の傾向や守備の隙など、ある程度のデータを蓄積しチームで共有しています。あのプレーはまさにチームで事前に打ち合わせて準備したものでした。しかし、あれを羽成がやってのけたのは私も驚きました。チームを勢いづける素晴らしい走塁でした。 ―羽成選手に関しては、雲井選手と共に1年生から出場している中心選手なのに、チームを引っ張れていないと大会前に話されていましたが、その後の評価はどうですか。 高橋 羽成と雲井の二人に関しては期待値に見合った行動をしてこなくて、夏前には私がかなり追い込んでました。初戦から4回戦までは精神的にかなり負担の方が大きかったと思います。その後、準々決勝からは何だかプレッシャーから解き放たれたように輝き出して顔付きが変わり、チームを引っ張る活躍を見せてくれました。彼らの精神的な成長は本当にうれしかったですし、よくぞ期待に応えてくれたと思います。 込み上げる感情抑えた ―その後の甲子園では、全国優勝経験もある強豪の智弁和歌山に対して延長11回タイブレークの末に5対4で勝利し、遂に校歌を歌うことができました。校歌を聞いた時はどのようなお気持ちでしたか。 高橋 3度目の甲子園にしてようやく勝利してホッとしたのが本音です。強豪の智弁和歌山を相手に何でうちが勝ったんだろうという不思議な感覚と、甲子園初勝利の感動で戸惑っているうちに校歌が流れてきました。途中でやばい、泣きそうだというタイミングがあったのですが、戸惑いの方が強くて込み上げる感情を抑えることができました。 連絡が1000件 ―ここまで茨城大会の決勝でたくさん壁にぶつかり、甲子園でも2度の初戦の壁に跳ね返されてきました。OBや関係者からの祝福の連絡が相当あったのではないですか。 高橋 茨城大会優勝時に500件ほど祝福の連絡をいただきましたが、智弁和歌山に勝った時は1000件ほどの連絡を頂戴しました。ものすごい熱量で桁が違いますね。みなさんに同じ文面で通り一遍に返すのも違うと思ったし、次の対戦の準備をしなくてはならない。申し訳ないですが返事が書けていません。この場をお借りして祝福してくださった方にはお礼を申し上げたいです。 ―引退した3年生に一言お願いします。 高橋 この夏にみんな力を合わせて頑張ってこういう結果で終われて本当に良かった。この経験を将来の人生の糧にしてもらいたいです。 厳しい日程 ―3回戦の滋賀学園には惜しくも2対6で敗れ、翌8月17日に帰茨しました。その4日後の8月21日に3年生引退後の新チームによる秋季県南地区大会1次予選を迎えました。結果としては、江戸川学園に0対2で初戦敗退して、敗者復活戦に当たる2次予選に回ることとなり、秋の県大会のシード権を獲得することは出来なくなりました。この状況について所感をお聞かせください。 高橋 甲子園出場校にとっては厳しい日程です。昨年からこのような日程に変更され、土浦日大は甲子園準決勝の翌日に秋の1次予選を戦いましたが、日程は今年、見直されませんでした。茨城に残った選手たちは直井先生が指導してくれていましたが、私が直接見ることが出来ません。また、甲子園で2試合やったので、応援部隊は0泊3日を2回です。当然その間は練習できないし、疲労ばかり蓄積される。甲子園組も16日間ホテル生活で明らかに体のキレがおかしくなっていました。 ―土浦日大の小菅監督にお話しを伺った時も、日程にもっと配慮して欲しいとおっしゃっていました。 高橋 秋の大会ってその1年間を左右する大事な大会なので、新チームの立ち上げ期間は1カ月程度は必要だと思います。それくらいあれば、選手を色々と試して適性を見極めて地固めをしてから臨めます。県大会のシード4つも(水戸、県北、県南、県西の)各地区で優勝した1チームということになったので、今回もし2次予選を勝ち抜いたとしても県大会はノーシードになります。だからまた初戦で他地区のシードと当たるかもしれません。秋に序盤で有力校がつぶし合う可能性が高いルールになったから、今夏と同じように来夏も力があるのにノーシードのチームが出てくるでしょう。 気持ち立て直して戦う ―2次予選はいかに戦いますか。 高橋 甲子園から帰ってきて選手で話し合い、新チームの目標を「春の選抜甲子園出場」に設定したんです。うちは第62回大会の選抜甲子園に出場しましたが、私が監督に就任してからは一度も出場したことがありません。そしたらいきなり負けました。正直、昨日の負けはショックですけど、しょうがないですねこれは。必死でやったのですが点が取れなければ勝てません。もう後がないわけだからしっかりと気持ちを立て直して県大会の出場権を取れるように頑張って戦っていきます。 7月の地方大会から甲子園、秋の1次予選と休みなくお疲れのところ、インタビューを引き受けていただいた。霞ケ浦の秋の戦いぶりに注目したい。(聞き手・伊達康)

守備からリズムつくる 優勝候補筆頭 常総学院 島田監督【高校野球展望’24】㊦

県南強豪チームの名監督インタビュー最終回は常総学院の島田直也監督。常総学院は昨秋の県大会で優勝し関東大会では4強入りを果たした。センバツ甲子園では初戦を突破したが、のちに準優勝した報徳学園に2回戦で敗れた。今春の県大会でも優勝し、関東大会では準優勝と県外でも勝てるチームに仕上がっている。今夏の優勝候補筆頭に挙げられる常総学院はこの夏をどう戦うのか、心境を語ってもらった。 ―春のセンバツは島田監督として2回目の出場になりました。今回も初戦を突破し、のちに準優勝した報徳学園に1対6と敗れました。センバツで2試合を経験した所感をお聞かせください。 島田 センバツは優勝を目指して戦っていました。1回戦は日本航空石川と1対0の良いゲームができました。2回戦は報徳学園と1対6で負けてしまいましたけど、点差ほど力の差はないと感じました。うちは守備からリズムをつくることを信条としていますが、守備にミスが出てしまいいつも通りにできなかったことが敗因です。逆に、報徳さんはやるべきことをきちんとできていました。この差だと思います。 ―春の県大会と関東大会を振り返っていかがですか。 島田 選手は大会ごとに成長しています。関東大会で準優勝できたことは本人たちも自信につながったのではないかと思います。センバツでできなかったことが関東大会ではしっかりできた。これが結果につながったのではないかと思います。 ―関東大会ではセンバツ優勝校の健大高崎を破りました。これもかなり自信になったのではないですか 島田 去年から試合に出ている選手が多いので、大きい舞台に慣れているというのはあります。強豪校と大きな舞台で対戦できて、結果が出たということは自信になるのではないかと思います。 音の感覚変わる ―春のセンバツから新基準のバットに変わりましたが、戸惑いなどはありますか。 島田 僕は就任当初からセンター返しを意識して低く強い打球を打つように指導しています。バットが変わったからといってやることは変わらないので、戸惑いや違和感はありません。 ―攻撃時は意識が変わらないのは分かりましたが、守備時はどうでしょうか。 島田 音の感覚が変わって戸惑うことはありました。飛距離については若干飛ばなくなったという気はしていますが、しっかり打てば打球は前と変わらず飛ぶので、守備位置を前にすることはしていません。選手達もちょっとずつ慣れています。 状況に応じたバッティング出来る選手ぞろい ―今年のチームはどのような特徴があるかご紹介をお願いします。 島田 今年のチームは守備力が高く守備からリズムを作ります。打線はしっかりと状況に応じたバッティングが出来る選手がそろっており、何とかつないでいこうというチームに仕上がっています。 ―打撃の中心を担う武田勇哉選手は昨年から4番を打っていましたが、昨年は好不調の波が激しいと仰っていました。最上級生になってからの様子はどうですか。 島田 好不調の波がなくなりコンスタントに打ってくれています。春の大会でもチームで1番打った印象がありますね。かなりの成長を感じますし頼りにしています。 ―ショートでキャプテンの若林選手はどうですか。 島田 僕の考えていることをしっかりと受け止めてチームに還元してくれています。 ―キャッチャーの片岡選手は新チーム発足当初にキャプテンだったと記憶していますが、どういった経緯で若林選手にキャプテンが変わったのでしょうか。 島田 新チーム発足当初は片岡がキャプテンだったのですが、片岡自身はチームをまとめようと一生懸命やってくれていました。ですが、自分のプレーを見失っているところがあり、県南選抜大会終了後に片岡にはもう少し余裕を持って楽にプレーしてもらいたいという思いから、キャプテンは若林に交代しました。片岡自身はレギュラーキャッチャーなので、試合は片岡がまとめなくてはなりません。片岡だけに責任を負わせるのではなく、ショートで守備の要である若林にも分散させる目的でこの形を取りましたが、上手くことが運んでいます。 秋以降、強烈な自覚 ―ピッチャー陣については小林芯汰投手を中心に今年もタレントぞろいです。エースの小林投手については、3年間どのような変遷をたどって現在に至っているでしょうか。 島田 入学当時から良いピッチャーなので大事に育てようと思って、小林とも育成方針について話し合いながらやってきました。下級生の頃から実戦経験を積ませて、最上学年になったらエースとして成長してもらいたいというプランのもとにここまで来ましたが、上手く成長していると思います。欲を言えば去年あたりから長いイニングをもっと経験させようと思っていたのですが、その経験は積めませんでした。入学当時から本人はストレートには自信があったのですが、それ以外のボールがまだ実戦で使えませんでした。ストレートを生かすための変化球を磨くという取り組みは最初からしてきたのですが、自分でももう一つ武器になるボールが欲しいという強烈な自覚が秋以降に芽生え、冬場は重点的に取り組んでいました。春にはこれが上手く出来るようになったのでピッチングの幅が広がり、本人としてもここでこれを投げれば抑えられるという感覚が生まれているようです。 ―ほかに大川慧投手や平、中村、鍛冶とタレントぞろいです。 島田 みんな一本立ちしてもらいたいと思っていますが、小林に続くピッチャーがなかなかね。それなりにはやってくれるのですが、僕が求めているレベルが高いというのもありますが、この選手に任せたら大丈夫というレベルには到達していません。 ―昨夏は4回戦で茨城高校に敗れました。勝つことが宿命づけられている常総学院としては厳しい結果だったかと思います。この結果を受けて今年のチーム作りで特に力を入れたことはありますか。 島田 勝負ごとなので勝つこともあれば負けることもある。負けた時は相手が上だった、うちに力がなかったということなので、4回戦で負けたからといって次の世代のチームづくりを変えようという風にはなりませんでした。また原点から基本を大切に一からのやり直しという感じです。勝たせられなかったのは監督である僕の責任なので僕が未熟だったということに尽きます。そのほかに僕も2020年秋から高校野球の監督になってまだ4年目ですので勉強中の身です。こういう流れでやれば良いのかなという手応えはちょっとずつつかんできたように思います。 普段通りできれば結果付いてくる ー今年の夏は優勝候補の筆頭に挙げられています。今年優勝すると常総学院として実に8年ぶりの夏の甲子園となり、島田監督としても就任以来初めての夏の甲子園です。夏の組み合わせをみると、結構手強そうなチームが同じゾーンに入っていているように思いますが、夏の大会に向けての意気込みをお聞かせ願います。 島田 3年生にとっては最後の大会であり、秋も春も公式戦で県内負けなしの代なので、なんとか夏も頂点に立ちたいという思いです。春のセンバツでの悔しい思いもありますので、甲子園の借りは甲子園で返すしかありませんので、どんな相手でも必死に食らいついていきたいと思います。また、このチームには秋の関東大会、センバツ、春の関東大会という上位大会に出場し、いずれも勝ちを収めた経験値がありますので、それが強みなのではないかと思います。 ―夏に向けて選手にはどういう話をされていますか。 島田 特に大会前にこれといって話をするわけではないです。練習をしっかりやれば結果が付いてくると思っていますので、しっかり練習していく環境に気を遣っています。相手も打倒常総で来るかもしれませんが、うちは普段通りにできれば結果が付いてくると思います。 ―お忙しい中、今年もお時間をいただきありがとうございました。(聞き手・伊達康) 終わり

先輩たちの偉業断ち 一戦必勝で臨む 土浦日大 小菅監督【高校野球展望’24】㊥

高校野球県南強豪チーム監督インタビューの2回目は、昨年の茨城大会を制し、甲子園で4強入りして土浦日大旋風を巻き起こした土浦日大の小菅勲監督。その後の国体でも優勝(順延のため仙台育英と2校優勝)し、小菅監督としてもキャリアハイを経験した。 中でも、茨城大会準決勝から決勝にかけては、正捕手でキャプテンの塚原歩生真選手が、頭部死球によって決勝には出場できなかったり、代役として出場した飯田捕手が神がかったプレーをするなど、県大会準決勝と決勝は後世に語り継がれる内容だった。今年のチームはどのように仕上がっているのか。 ー昨年の茨城大会では準決勝で塚原歩生真選手が頭部に死球を受けて、飯田将生選手が決勝戦まで代役を務め大活躍しました。 小菅 昨年4月から5月の時点で「この選手の中で明日からでも夏の大会に出られるのは飯田だ」と言っていたほど、飯田はいつでも出場する準備が出来ていました。彼があの場面で出ていく台本が用意されていたのではないかと思うくらいです。あの場で塚原の代わりに出場しても本人もチームも全く不安はありませんでしたし、結果的に塚原以上の活躍を見せてくれました。塚原は決勝戦にはドクターストップがかかって出られなかったのですが、塚原を甲子園に連れて行こうとチームがまとまりました。 ー飯田選手は出塁したらファーストベース上でベンチに向かってガッツポーズをして雄叫びを上げていました。彼が流れを呼び込んで来ているように見えました。 小菅 何かが乗り移っているようでしたが、飯田はもともとガッツを前面に出す選手ではなく、どちらかと言うと元気を出そうぜと言われる側でした。自分の中で思うところがあったのでしょう。 3年生になって全くの別人になりました。 ーその決勝戦は0対3の劣勢のスコアから9回表に5点を奪って大逆転勝利を収めました。見ていて鳥肌が立ったのを覚えていますが、なぜあのような大逆転勝利が生まれたのでしょうか。 小菅 決勝戦での最大のポイントは最終回に先頭バッターが出塁した後に飯田が続けて打ったことです。彼が打ったことがみんなに勇気を与えました。それにみんなもつられて、飯田が出来るのだから俺たちもという雰囲気が生まれました。あの瞬間に「これは絶対にいける」と思いました。私は普段の年は試合のビデオは見ないのですが、去年ばかりはどうなっていたのか確認したくて後から見直しました。ワンフォアオール オールフォアワン(一人はみんなのために みんなは一人のために)とよく言葉では使っていますが、あの場では言葉がすんなり体に入ってきていたように思います。緊張するというよりも、塚原をなんとか甲子園に連れて行ってやろうとチームが一体になってオールフォアワンを体現できていました。 ー昨年の甲子園ではベスト4まで勝ち上がる快進撃でした。 小菅 甲子園に滞在した3週間で選手は急成長しました。自分たちで練習をつくって、次に対戦するピッチャーについても対策を自分たちで立てて練習内容をリクエストしてくる。データミーティングをやると普段は私たちスタッフからデータ類を提示するのですが、ビデオも癖も対戦相手のデータも既に選手間で共有していました。甲子園で試合が終わってバスに乗るとすぐにバスの中で選手が次の試合に向けてミーティングしていました。守破離(しゅはり)を体現した素晴らしいチームになっていたと思います。 ー勝ち上がれた要因は何だと思いますか。 小菅 この場で、この期に及んで、大舞台でこんな良いプレーが出来るんだという驚きというよりも、このチームなら、この選手なら、やっぱりできるよなということの連続でした。甲子園の前まではたまに出来ていたということが、甲子園では常に出来たと思います。平常心とか不動心とかよく言いますが、普段どおりにできたことが勝ち上がれた要因だと思います。 ー甲子園から戻って翌日に県南選抜大会(新人戦)という過密スケジュールでした。 小菅 去年は茨城のチームが甲子園で勝ち上がることを想定していない日程で県南選抜大会が組まれていました。大変体力的に厳しかったので、今年は甲子園出場校には考慮していただきたいという意向は大会前の会議で述べさせていただこうと思います。 ー今年の1年生は何人入部しましたか。また、甲子園4強入りの影響を感じていますか。 小菅 新入部員は34人です。一般入部の選手が影響を受けて選んでくれています。1年生に話してもらう抱負はこれまで「甲子園に出場したい」だったのですが、今年は「甲子園で優勝したい」に変わりました。これまで先輩たちが積み重ねてきたものが後輩たちに良い影響を与えていると感じています。 時間と自信 ーあれだけ甲子園で勝ち上がったので1年生には甲子園で勝つイメージは湧きやすいでしょうね。それでは今年のチームについて伺います。今年のチームづくりにおいて重きを置いたことは何でしょうか。 小菅 時間と自信です。去年の甲子園が終わって新チームを預かった時に「このチームが成熟するには夏の大会の直前までかかる。時間が必要だ」と思いました。というのも、レギュラー1年目の選手が多く、自信がおぼろげな選手が多かったのです。時間をかけて練習と試合を繰り返しながら夏の大会の直前まで来て、ようやく夏に優勝を狙えるチームになってきたなと思います。 後は自信です。自信は実際のシチュエーションでしかつかめないことなので、大会の時に逆境を乗り越えながらつかんでもらいたいと思います。自分の役割を理解してそれを貫き通してくれたら結果は自ずと付いてくると思います。 チーム変える特効薬 ー春の大会では秋から大胆なコンバート(守備位置の変更)がありましたが、その狙いを教えていただけますか。 小菅 チームを劇的に変えるための一番の特効薬はコンバートでセンターラインを固めることです。中本佳吾のウィークポイントであるスローイングをカバーするために、センターにコンバートしてバッティングにより専念してもらうこと。さらにキャプテンである彼にセンターからチームを見てもらおうという意図もあってのコンバートでしたが、これが大変はまっています。 大井駿一郎についても中心選手ですからサイドにいるよりはセンターラインに来てもらって内野をより活性化させようという意図で春はショートで使いました。大井はスタメンで出るべき実力がありますから、その分、セカンド、サード、ファーストに競争が生まれました。そのような経緯を経て、この夏、大井はピッチャー専任でいきます。中本はセンターで、大井はピッチャーでという形に落ち着いています。 粘り強く戦える集団にはなった ーどんなチームに仕上がりましたか。 小菅 打撃か守備かで言うと守備のチームです。地味ではありますが、個々の選手が自分のやるべきことを分かっているチームです。大井という投打の中心選手はいますが、毎年のようにスター選手は不在で、だからこそみんなで泥臭く繋いでいこうとしています。最後の仕上げは夏に戦いながらやっていくのですが、それに耐えられる粘り強く戦える集団にはなったかなと思います。 ー各選手について個別に紹介も交えながら教えていただきたいと思います。大井駿一郎投手をエースに据えるということでしたが、どういうタイプのピッチャーでしょうか。 小菅 剛速球やキレ味が鋭い変化球というタイプではなく打たせてとるピッチャーです。結構出塁を許すのですが、打たれ強くて最後は最少失点で切り抜けるということが多いです。 ー大井選手がエースで4番の中心選手という形ですか。 小菅 そうですね。大井におんぶに抱っこにならないようにチームづくりをしてきてはいたのですが、大井と中本がクリーンアップを打つことがチームとして落ち着いた感じになったので、4番に大井がいて打線が機能するという形です。 ー春までエース番号を背負っていた小島笙投手についてはどうでしょうか。 小菅 小島は球威で押してきりきり舞いさせるピッチャーではなく、変化球と真っ直ぐのコンビネーションで乗り切るピッチャーです。よく打たれるのですが、打たれても最後にホームを踏ませないという大井と似たところはあります。自分でも最近になってタイプが分かったようです。本人としては打たれるのが嫌で奮闘していたのですが、打たれ強ければ良いんだと、最後に点をやらなければ良いんだという考え方に到達したので、打たれながらも抑える投球ができるようになりました。自分の良さを生かして投げてもらえるように本人に考えてもらおうと思って、エースや準エースはこういう投球をしていかないといけないんだよということを1年間かけて学んでもらいました。今はようやく自分のスタイルはこれですと言える域に到達しました。それで良いと思います。 ー3番手は右サイドの笹沼隼介投手でしょうか。 小菅 そうですね。4番手には左の山崎奏来と今本大翔のどちらかが食い込んでくると思います。いずれも3年生です。 大橋の成長がチームの成長 ー続いて野手の話をお願いします。中本選手と大井選手がクリーンアップだとお聞きしましたが、他に打線のキーマンはいますか。 小菅 1番から9番まで全員がキーマンだと思っていますが、打線の中に未熟な者がいるなとこの1年間思っていました。特に期待をかけて上位を任せている石﨑瀧碧と島田悠平の2人がボール球を振ってしまうとか、狙い球が定まらないとか、基本中の基本が秋から春にかけてできていませんでした。しかし、ようやく自分を俯瞰(ふかん)して見られるようになって、やっていることは間違っていない段階に来ていますので、夏に結果が出る形までは持って来られたかと思います。あとは夏の大会中に化けてもらうことを祈るばかりです。本人たちにもそのように話しています。 あとは2年生なのですが、キャッチャーの大橋篤志です。大橋の成長がチームの成長だとチーム設立当初から公言していました。大橋がプレッシャーに捉えて萎縮することなく、前向きに捉えて伸びてくれたら優勝もあり得ると思っています。 さらにファーストを守る2年生の梶野悠仁ですね。大橋と梶野という2年生レギュラーがいかに存在感を現すかが鍵になると思います。 ー春の大会を振り返って所感をお聞かせ願います。 小菅 春も失点もエラーも少なかったと思いますし、守備力は手応えを覚えました。攻撃力については低反発バットに変わるということで冬の間は打撃強化に努めていたのですが、各自で自分のバッティングができるようにはなりましたし、繋げるようになりましたので、一定の成果は出たかなと思っています。準々決勝の鹿島学園戦では打力が課題となって1点しか取れなかったですが、鹿島学園の投手陣に対してあと2点や3点をどうやって取りにいくかというのが課題になりましたので、春は非常に良い宿題をもらったと思っています。春以降の練習試合では打力だけにとらわれずに走力や小技を絡めた上での得点力にこだわって取り組んで来ました。 飛距離にして10%程度マイナス ー新基準のバットに変わってどのような感想をお持ちですか。 小菅 春先に導入されたばかりの頃は長打が激減していましたが、高校生には順応性がありますので今はだいぶ慣れてきました。しっかりとコンタクトして、飛んでいくボールに関しては以前のバットと同様の飛距離があります。ただ、いい加減に打った打球というか、小手先だけで打ったものは思った以上に飛距離が伸びません。飛距離にして10%程度マイナスになっていると感じます。試合中も「前のバットだったら抜けていたね」というやりとりがあります。だからこそしっかりとコンタクトすることを心掛けています。 マインドセットが出来るようになった ー夏の大会に向けての意気込みをお願いします。 小菅 去年の甲子園4強という結果からどうしても無意識のうちに今年もだとか、2連覇だとかというマインドになってしまいます。先ほどお話しした1年間かけてチームづくりする必要があると思ったのは、まずはそれをリセットしないといけないと感じたことが発端でした。 ここ最近になって、自分たちの代は先輩たちの結果を追い求める訳ではなく、自分たちのやれることをやるんだと、ようやく先輩たちの偉業と自分たちの代とのことを断ち切れてきましたので、この代の良さが出るのではないかと思います。このチームで一期一会にしてこのメンバーで初めて出場する甲子園という捉え方をしています。もちろん今年も茨城の優勝旗を奪いに行くことが目標なのですが、あくまで一戦必勝で臨みます。 ー選手が常に先輩の築いた結果を重く受け止めていて、使命感に駆られていたということですか。 小菅 そうです。ようやくそういうのがなくなってきたなと感じる部分がありまして、良い形でチームが仕上がってきたと思います。これだけ結集した力を精一杯出そうねというところまで今来ているので、それを夏に貫き通してくれたらいいなと思います。最後に戦った後に、やはり常総学院が強かったで終わるのは良いと。ただし、うちが本来の力を出せずに終わるのはダメだろうと、自分の力を出そうというマインドセットが出来るようになってきました。 認知行動療法で思考の可視化を手助け ーマインドセットとは。 小菅 認知行動療法というものです。例えば、昨夏甲子園の準決勝で、慶應義塾のものすごい応援をどう捉えますかと聞かれたときに、今自分がやるべきことはこれだとそこでマインドセットする。私はよく「種」というのですが、自分の種は何か、それを貫き通すことで結果はやってくると言っています。私自身は選手たちの青春時代に花を添える人間です。こういうことをやったら上手くなるよ、こういう風にやったら良いことがあるよとやってきた結果が甲子園ベスト4だったということですから、その物事をどう捉えるかが大事だということです。 ー思考の整理の手助けをするということですか。 小菅 思考の可視化の手助けをするとはいいますね。大事な試合の前に「今100%のうちどのくらい緊張しているか」と問うたときに、90%と言った場合は、90%は線路に飛び出して今にもひかれる時のような絶体絶命の時だよと教えます。じゃあ、それに比べて今はどうなのと問うと、大抵は30%となります。物事の恐怖の尺度が30%ならば自分の力が出るそうだよと伝えてあげると、「ああ、そうなんですか」と平常心を取り戻してくれたということはありました。 昨夏甲子園2回戦での専大松戸戦でのエピソードです。台風の影響で本校も専大松戸も応援団がたどり着けなくて、静かな試合だったんです。 最初に先制されて、次にうちが逆転したら球場全体で拍手してくれて。その時にエースの藤本が私に「いやあ、夜の甲子園って良いですね。阪神タイガースってこんなところで試合できて良いですね」と、試合中にこういう捉え方をしたんです。だからこそ本来の力が出せたのではないかと思います。台風で1日延びたおかげで夜の応援団なしの一球一打の音を体感する甲子園が経験できて、お互いに敵味方ではなくて野球の現場を盛り上げてくれるという、それに呼応するかのように選手も躍動するという、それに20時になると涼しいですから良かったですね。甲子園でかなうなら2部制も最高ですね。 今年は教育実習生として2020年のコロナ直撃で甲子園がなくなった世代の笠嶋大介(仙台大野球部4年)が来てくれたんです。この間、私と笠嶋君で「君たちは甲子園を目指せるだけで幸せなんだよ」、「とにかく試合に出られるだけで良いじゃないか」という、あの時の気持ちを2人で涙ながらに語って選手に聞かせるミーティングをしました。あの当時、今の現役選手は中2、中1、小6だったのですが、2020年世代のリアルな思いをどれだけ聞き入って気持ちをつくり上げてくれるか楽しみにしています。今年笠嶋と出会ったことがきっかけとなって、野球が出来るだけでありがたいと骨身に染みて思ってくれたら、よい結果が待っていると思います。(聞き手・伊達康) 続く

チームの団結力で束になって戦う 霞ケ浦 高橋監督【高校野球展望’24】㊤

第106回全国高校野球茨城大会が6日開幕した。霞ケ浦、土浦日大、常総学院の名監督から熱い話を聞かせてもらった。2019年から始まった県南強豪チームの監督インタビューは今年で6回目を迎える。 1回目は霞ケ浦の髙橋祐二監督。霞ケ浦は、昨秋は鹿島学園に、今春はつくば秀英にそれぞれ準々決勝で敗れた。また、昨夏は後にプロ入りした木村優人投手を擁し、土浦日大との決勝戦では8回終了時点まで3対0で勝っていたものの、9回に逆転負けを喫した。今夏を迎えるにあたり心境を語ってもらった。 冷静であればしのげた ーまず去年の決勝戦のことを聞かせてください。 高橋 決勝戦で先発したエースの木村優人は兄2人(翔太=東洋大―日本通運、英二)が決勝戦の延長15回、9対10で土浦日大に負けたのを小学6年生の時に現場で見ていたのです。兄のリベンジを果たすべく三兄弟で一番下の優人が向かっていって、3対0で9回を迎えて、あと1イニングだったのですがね。 9回のマウンドに上がるときにキャッチャーの安藤早駆(千葉商科大1年)を呼んで、7番バッターから始まる下位は変化球を連投して、上位になったら真っ直ぐ中心で行くよう指示をしたのですが、真逆になってしまった。 ほかにも一死一塁から出したフォアボール…。 二死一、二塁からの守備体系の指示を仕切れなかったのも悔やまれます。3対2で勝っていて二死一、二塁。バッター4番。一塁線と三塁線をガッチリ詰めて、一二塁間、三遊間を抜かれるのは良しとする。外野は深く守らせておいて一塁ランナーを返さない守備体系をするという定石通りの守り方をしていなくて、三塁線を抜かれて同点に追いつかれました。定石通りに守っていればサードゴロで試合終了だったということは反省すべき点だなと思います。ベンチでもっと冷静にいろんな指示をしなくてはならないんですが、木村への気持ちの切り替えの指示や励ますのに必死で、守備体系の指示が回りませんでした。冷静であればしのげたので悔やまれます。 木村は大会中にデッドボールを受けて本調子でない部分がありながらも、彼なりに頑張って勝負所は一生懸命に投げてくれました。決勝も悪いながらも8イニングを4安打無失点です。あとアウト3つだったんですけどね。 ーありがとうございます。木村君はその後、U-18日本代表に選出され、千葉ロッテからドラフト3位指名されプロ入りを果たしましたが、連絡はありますか。 高橋 今日のゲーム(6月28日)で登板予定だったんですが、雨で流れて来週先発しますとさっき連絡がありました。5月17日のイースタンリーグで初登板の時に見たときには着実に良くなっていました。体もびっくりするくらいでかくなっていて、5カ月で9キロも増量していました。3食しっかり食べて、暇さえあれば何か食べろと言われているみたいですが、臀部や足の太さは別人のようになっていますね。 春は谷底にあった ー新チームのことについて伺います。春は準々決勝でつくば秀英に敗れました。振り返って所感などをお聞かせください。 高橋 春はチーム状態が心身共に疲弊していましたので勝ち上がれる状態ではなかったです。 ーどういうことですか。中心選手が引っ張っていけていないとか。 高橋 今年のチームは強力なリーダーシップを執れる選手が不在で、選手同士で気持ちを高め合ったり励まし合ったりという感じではなくおとなしい選手が多いのです。 チームの一体感とか、秋から冬の反省を生かしたきめ細かい野球をやっていく領域に達していませんでした。上手い下手じゃなくて、準備とか思考力を大事にしていってこそ初めてチームが出来上がるはずなのに、大事なところを無意識なまま感覚で野球をしているので、春の大会はその谷底にあった状態です。 最後の夏に賭ける想いを爆発させてほしい ー最近はどうなんですか。 高橋 私が夏の大会モードにするために気持ちを乗せていくように仕向けたら多少は上がっていくのですが、良い日もあれば、一転して気分が乗ってない悪い日もある。夏まで残りわずかなのに危機感を覚えています。 ー1年生から出場している羽成朔太郎選手や雲井脩斗選手がチームを引っ張っていっているのではないのですか。 高橋 昨年の中心選手だった木村と新保玖和(仙台大1年)が抜けた分、羽成と雲井が去年よりも良くなればそれだけでカバーできるのですが正直言って物足りません。もう少し最後の夏に賭ける想いを爆発させて、夏にはチームを精神的にも技術的にも牽引して欲しい。出来なくてもいいから一生懸命に頑張って欲しい。彼らには期待しています。 試合つくれる投手が3人 ー今年のピッチャー陣はどうですか。 高橋 飛び抜けて良いプロ注目という選手はいませんが、左腕の市村才樹(2年)をはじめとして試合をつくれる投手が3人います。あと、何人かをベンチに入れる予定です。 ー春に背番号1だった乾健斗投手はベンチに入って来ますか。 高橋 怪我明けですが復調してきました。市村、乾、眞仲唯歩は確定です。眞仲はサード兼任。投手陣にはマウンド上で打者に向かっていく闘争心を見せてくれることを期待しています。 1点の重みをずっと説いてきた ー今年のチームの特徴としては一言で表すと…。 高橋 先ほど話したことと正反対になりますが、今年はチームの団結力で束になって戦います。突出した選手がいない分、一つにまとまって戦うしかありません。だからこそ、最後の最後で団結力を発揮できるよう、3年生には期待しています。チームを引っ張って欲しいと思っています。それから、1点の大切さや重みのことを1年間ずっと選手に説いているのですが、これだけ時間を割いたので、この1点で負けてしまうんだということを真剣に感じ取って、夏にはチームが大化けしてくれるのではないかと、願望混じりですが感じています(笑)。 良いピッチャーは飛ばなくなる ー閑話休題。今年から高校野球の金属バットに反発力を抑える新基準が導入されました。導入後どうですか。 高橋 良いピッチャーになればなるほどボールが飛ばなくなるので打つのは厳しくなると思います。フライになったら絶対に伸びませんので、ライナーで放り込むしかありません。 ーしっかりとコンタクトすれば前のバットと変わらないという話も聞きますが。 高橋 芯で捉えれば飛びますが、詰まったら終わりです。先っぽであればまだ可能性はありますが。泳ぎながら前でさばく場合は可能性があります。ただし、木製バットの場合はインサイドアウトで引きつけて打つため、前で先っぽで打つというのは正反対なので、選手が将来木製バットでやる場合とは益々違う打ち方になるでしょうね。 ー最後に、夏に向けての意気込みをお聞かせ願います。 初戦から一戦一戦勝利を積み重ねて、去年の雪辱を果たしたい。そして甲子園で初めて校歌を歌うことが目標です。勝ちにこだわるというよりも、俯瞰(ふかん)して冷静に、時に無欲に選手の可能性を信じる。意外とこういう肩の力が抜けた方が結果は付いてくるのかもしれないなって最近感じています。(聞き手・伊達康) 続く

県勢20年ぶりの4強入り 土浦日大 名参謀の丸林直樹コーチに聞く

6日から23日まで甲子園球場で開催された全国高校野球選手権記念大会で、土浦日大が茨城県勢として20年ぶりとなる4強入りを果たした。まずは土浦日大の甲子園の軌跡を1戦ずつをたどる。 6日の開会式直後に行われた1回戦は、上田西(長野)との開幕戦を延長タイブレークの末に8対3で制した。同点に追いつかれた4回裏など、記録に残らない守備のミスがあり、4番の大黒柱・香取蒼太が熱中症で途中棄権するなど、終始肝を冷やす試合展開だったが、タイブレークに入ったことが吉と出た。春の県大会決勝(対常総学院)と関東大会1回戦(対健大高崎)ではタイブレークを経て敗れたことからその攻略法を5月から6月にかけて徹底的に追求していた。息つく暇もなく試合が急展開するタイブレークは先攻が有利。先に点を積み重ねて相手を意気消沈させることに成功した土浦日大は見事に37年ぶりの夏1勝を挙げた。 2回戦の九州国際大付(福岡)は茨城大会で調子が上がらなかった小森勇凛に先発マウンドを託した。ストレートの制球が定まらず春に見せた本来の球威とはほど遠いものの、スライダーを高低に投げ分け5回まで無失点で切り抜けた。クーリングタイムを挟んで6回からは伊藤彩斗が、8回からは藤本士生と3投手の完封リレーで危なげなく完勝。同校として初となる甲子園2勝を挙げた。 3回戦の相手は竜ケ崎一、藤代、常総学院で監督を務め取手市在住の持丸修一監督が率いる専大松戸(千葉)だった。土浦日大の小菅勲監督が取手二時代に薫陶を受けた故・木内幸男さんとは、持丸監督も生前公私にわたり交流があり、常総学院の監督を引き継いだ間柄であることで「木内チルドレン対決」と見出しが打たれた。また両校が隣県でありJR常磐線で結ばれていることから「常磐線ダービー」や「チバラキ決戦」などと話題となった。試合は3回表を終わって土浦日大が6点ビハインドの大敗もあり得る展開であったが、3番目に登板した藤本が相手打線を完璧に封じると、打線が単打を積み重ね終わってみれば10対6の逆転勝利を収めた。本県勢の8強入りは2016年の常総学院以来9回目。 準々決勝は春の東北大会で今夏準優勝の仙台育英を抑え優勝した八戸学院光星(青森)。強力打線が武器の相手だけに、もうさすがに次は無理だろうと茨城の高校野球ファンのほとんどが大敗を予想したのではないか。しかしここでも土浦日大打線が爆発し、洗平(あらいだい)、岡本の2年生両エースをノックアウトしてしまった。9回には松田陽斗のバックスクリーン弾のおまけ付きである。9対2と大差の勝利を誰が予想できただろうか。本県勢の4強入りは常総学院が優勝した2003年以来20年ぶり5回目。紙面には「快進撃」の文字が躍った。ひょっとしたらひょっとする。 準決勝は日頃から練習試合で交流しているという慶應義塾とであったが、相手エース・小宅の内外のコースビタビタに決まるボールを捉え切れずに自慢の粘り強い打線が沈黙。0対2で敗れ、土浦日大の長い夏は8月21日をもって終わった。 甲子園で勝つためのチーム作りが結実 7月に掲載した土浦日大の小菅勲監督のインタビュー記事(7月9日付)はご覧いただいただろうか。小菅監督にとって2017年に土浦日大を率いて初めて出場した甲子園で松商学園に初戦で敗れたことが大きなターニングポイントだったという。県内を勝ち抜くことを目標にしていたのではいつまで経っても甲子園では勝てないことを痛感し、甲子園で勝つためのチームを作ろうと固く決意した。 甲子園で躍進したこの世代は中学時代のスカウティングの段階から「甲子園に行こう」ではなく「甲子園で勝とう」という志を持って土浦日大に集まってきたメンバーだ。小菅監督は目標設定や選手のスカウティング、練習の取り組みなど、ありとあらゆることを見直した。中でも食事内容やウェートトレーニングの頻度や強度にはこだわり、専門のスタッフを置きフィジカルの強化に力を入れた。こうして取り組んできた甲子園で勝つためのチーム作りが37年ぶりの初戦突破に止まらず県勢20年ぶりの4強入りという新たな歴史を刻んだ。 「一戦必勝で精一杯臨んだ結果」 丸林コーチ 小菅監督が伊奈高校の監督を務めていた頃から小菅監督の右腕として支えてきた丸林直樹コーチに今回の大躍進や今後のことについて聞いた。 次ページに続く ー今回の勝ち上がりをどのように感じていますか。 丸林 監督さんが言うようにまさに甲子園で勝つことを目標にして取り組んできた世代で、秋と春の関東大会で勝ちきれなかったが、甲子園で結果が出て本当にうれしかった。一戦必勝で精一杯臨んだ結果が4勝につながった。(データ分析担当の)私としては対戦相手の地方大会からの全試合を見て、投手、打者それぞれの傾向を分析し対策を練って選手に伝える忙しい日々を過ごさせてもらった。99回大会と100回記念大会とで初戦敗退で帰ってきた時は「お疲れ様」と声をかけてもらったが、今回は「感動をありがとう」とか「元気や勇気をもらった」といろいろな人から熱く声をかけてもらった。ずっと大阪にいて茨城の熱量が分からなかった(笑)が、帰ってきて、改めて茨城県全体が盛り上がっていたことを知り、うれしく感じた。 ー学校関係者やOBからの反応はどうでしたか。 丸林 新たな歴史を築くことができ学校関係者やOBからも多数の支援や祝福の言葉をいただいた。99回大会や100回記念大会に出場した世代の子たちには、「君たちが甲子園に出場してくれたおかげで今の子たちが土浦日大を選んでくれたんだよ」と改めて感謝を伝えることができた。 ー8月21日に甲子園で準決勝を行い、翌22日には、新チームの秋季大会としてJ:COMスタジアム土浦での県南地区1次予選に出場するため、小菅監督と2年生の甲子園メンバーは息つく暇もなく21日のうちに茨城に戻りました。疲れが相当残っていたのではないでしょうか。 丸林 そうですね。甲子園でも2年生2人がほぼフル出場していましたので、疲れはあったと思いますし、何よりけがなどの故障が心配でした。1次予選に選手権出場校も参加する仕組みになったことは理解できるが、例えば、甲子園で準々決勝(ベスト8)や準決勝(ベスト4)まで残った場合には、県南地区予選を何日か後ろにずらしていただくとか、勝ち上がるほどに新チームがスタートできないので日程的な配慮はあってもいいのかなとは思う。 ー10月8日からの鹿児島国体にはどのようなメンバーで臨むのでしょうか。 丸林 甲子園に出場した3年生が中心になりますが、2年生は秋季大会の期間中にもなるため、勝ち上がり次第ではメンバー選考の調整が必要になると思います。 ー最後に始動したばかりの新チームの展望をお聞かせ下さい。 丸林 毎年のことだが、春先から秋を想定して1、2年生で県外遠征を続けてきた。甲子園組の2年生も加わってようやくチームがまとまってきたところ。県南地区1次予選の代表決定戦では石岡一に7対5と接戦となったが、甲子園の疲れもありまだ本調子ではなかった。その後、県外の強豪校と練習試合を重ねて勝ち切れているので新チームにも力はある。スケール感は旧チームとは違うが、その代に見合ったチーム作りを行っている。そのため今夏とはまた違ったチームとして、種類の異なる投手陣をはじめ、アグレッシブな攻撃陣を楽しみにして欲しい。 ざっくばらんにお話ししてくれた丸林直樹コーチ。たくさんの感動をありがとうございました。(伊達康)

去年の悔しさ背負い基本練習やり続けた 常総 島田監督【高校野球展望’23】

高校野球県南3強チーム監督インタビューの最終回は常総学院高校の島田直也監督。常総学院は昨夏、創部史上初の初戦敗退を喫し、「常総の時代はもう終わった」とささやかれた。しかし、昨秋の県大会では準決勝に進出し、優勝した土浦日大に1対7で敗退した。春の県大会ではその土浦日大との延長10回タイブレークを制し優勝。続く関東大会でも並み居る強豪を撃破して4強入りを果たし、まさにV字回復の途上である。7年ぶりの頂点をかけてこの夏を迎える常総学院の島田監督に意気込みを語ってもらった。 絶対に茨城の1位を獲る ーまずは春の県大会の振り返りをお願いします。準決勝の常磐大高戦の5点差から逆転勝利が印象的ですが、どのような所感がありますか。 島田 春はあの試合に限らず粘り強く戦えたと思いますね。準決勝は選手が最後まで諦めることなく戦った結果、7回と8回で逆転できたのだと思います。 ー常磐大高戦では中林永遠投手が相手打線に捉えられていた中で、だいぶ引っ張ったなという印象があります。そこは何か意図があったのでしょうか。 島田 意図はないです。ただ僕の継投のタイミングが遅れたというだけです。あそこまで連打を浴びないだろうと、どこかで切ってくれるだろうと思っていたのですが続いてしまった。プロのペナントレースとは違う、負けたら終わりの高校野球における継投のタイミングの難しさをあの試合では痛感しました。選手交代のタイミングはまだまだ僕に足りないところです。それでも準決勝は僕の失敗もあったのに5点差を逆転してくれた。選手に助けられたという思いはありますね。 ー決勝戦はもつれた試合になり最後は延長10回タイブレークで勝利しました。 島田 絶対に茨城の1位を獲るという選手の思いと、諦めず戦った結果がこのようになったのではないかと思います。 ー続いて関東大会初戦の関東一高戦はどうでしょうか。 島田 秋に関東に出場できなくて悔しい思いをしましたし、関東で常総学院という名を知らしめる良いチャンスですから当然優勝を目指していました。関東一高戦の入りは良かったんじゃないかと思いますね。先制して追い上げられても突き放した。自分達がやってきた野球が出来ていたんじゃないかなと思います。 ー準決勝は木更津総合に0ー3で敗退でした。 島田 春の大会前の練習試合では大差で勝利したのですが、そこまで力の差はなかったのでロースコアの展開になるかなと思っていました。結果的にはうちはチャンスに1本が出なかった。相手はチャンスをしっかりとものにできた試合でした。 ー準決勝を前に島田監督が「関東大会準決勝の会場が現役時代を過ごした横浜スタジアムで、僕が一番うれしい」とコメントされていました。実際に久しぶりに横浜スタジアムに立ってみていかがでしたか。 島田 新しくウイング席が出来てから初めてグラウンドに立ちました。ここでやってたんだなあと思いながら、マウンドに立たせてもらいました。感慨深かったですね。 次ページに続く 選手の覚悟は相当なもの ー今年のチームはどういう経緯をたどって仕上げてきたのでしょうか。 島田 先輩のあの悔しい思い(昨夏初戦敗退)があったので、選手達の覚悟は相当なものでしたね。新チームはもう一回基本から立ち返ろうということで、基本練習を多めにやってきました。やりたい練習を多くやるのもいいんですけど、毎日基本練習を行って、それが普通に当たり前に出来るようになるまで続けることが大事なんじゃないかと思います。とにかく基本練習をやり続けた結果がこのチームの春の県1位というところにつながったのではないかなと思います。 ー基本練習というワードが多く出てきましたが、新チームになってから基本練習を多めにするに当たってどのような点を変えたのですか。 島田 去年のチームは2020年2月から始まったコロナの関係で4月の入学当初から活動に制限がかかっていまして、下級生の頃から実戦経験が圧倒的に少なかったので、最上級生になってからは実戦を多く積ませました。しかし、それがなかなか結果に結びつきませんでした。練習が足りない分を補うには実戦を経験させるしかないと思っていたのですが、練習不足はやはり練習でしか埋まらないですね。そういう経緯があって、新チームは実戦を減らして基本練習を大事にやっていこうということで実行しています。 意識を共有し合うチーム ーチームカラーを一言で表すとどうですか。 島田 特徴はないですよ。特徴がないところが特徴なのかな。とにかく意識を共有し合うチームを目指して取り組んでいます。僕からしたらまだまだ足りないですが、ダメなプレーはダメだと言い合って共有し合い、良いことは良いと言ってみんなで褒め合う。そういうことが少しずつできているのかなと思います。それが結果につながっているのかなと思います。 ー2年前のチーム(センバツ甲子園出場、夏準優勝)のお話を伺ったときに、島田監督が求めているレベルに達していないとおっしゃっていたんですが、今年はどうでしょうか。 島田 2年前のチームに比べたら力は劣りますが、意識の共有の面では勝(まさ)っている部分はあるかもしれません。 次ページに続く サウスポー同士競争してやっている ー常総学院がベンチキャプテンを選ぶのは珍しいと思うのですが、澤田一徹選手はどんなキャプテンですか。 島田 キャプテンは最上学年の話し合いで決めています。キャプテンは怒られ役ですので例年どおり澤田にも厳しく言っていますね。その代わりよく話し合ってコミュニケーションを取るようにしています。僕の要求を澤田は的確に選手に伝えてくれるし、周りを見て行動で引っ張れる。しっかりとしたキャプテンで頼もしいです。 ー続いて各選手について伺います。エースの諸星蒼空投手はどんな選手で、1年間どんなことを頑張って成長してきたでしょうか。 島田 春の大会の活躍でかなり評価していただいたと思いますが、彼は集中し過ぎて視野が狭くなる部分があります。今回彼を背番号1にしたのには、背番号1の重みを与えて自分のことだけではなく、周りのことを見て責任感を感じてもらいという意図がありました。そういう部分が良い方向に作用したのではないかと思います。彼自身が成長を感じているのではないでしょうか。 1年生の頃は活きの良いボールをただ力任せに投げていて、どうしてもコントロールが定まりませんでした。そこは僕としてもこうすれば良いよとアドバイスをして、取り組み続けてくれてここまで成長してくれたのかなと思いますね。 ープロ注目としても名前が挙がるようですが。 島田 将来的にはあるかもしれませんが、技術とかその辺はまだまだですよ。でもそうやって1番を背負って抑えてきたというのは自信にもつながったと思いますし、周りからも評価されて、本人もよりしっかりしなきゃという良い方向に向かっていくのではないでしょうか。 ー飯塚遥己投手はどのような投手ですか。 島田 飯塚はボールのスピードはないですが、コントロールが良いのでね。相手も球速的には打てると思って打席に入ってきていますが、意外と打てないのはやはりキレが良いのだと思います。これこそピッチャーの球質を持っていると言えるのではないかなと。淡々と投げていますが芯が強く、内に秘めた闘志を持っている子です。諸星と飯塚でサウスポー同士競争してやっているのが良い方向に働いているのかなと思います。 ーこの2人は軟式野球出身だと思うのですが、中学軟式野球のスカウティングは島田監督ご自身でされたのですか。 島田 いや、良い選手がいるという情報をもらって、そこで僕ではなくて松林部長が連絡を取ってくれて、実技を見て是非うちに欲しいという流れですね。 ー続いて小林芯汰投手ですが、1年生から出場していて、球速的には148キロを出して注目されるピッチャーになってきました。今後は大黒柱になっていくと思うのですが、今はどのような状態でしょうか。 島田 148キロという球速で注目されていること自体は決して悪いことではありませんが、コントロールがまだ僕が求めているレベルに達してはいません。持っているものは良いので、一球の大切さとか、コントロールをもっともっと追求してもらいたいなという思いはありますね。この勢いのボールをビシビシ投げ分けられるようになれば鬼に金棒になると思いますが、どうしても大事なところでコントロールミスがあります。甘く入ったら打たれるということは自分で経験して覚えていかないといけないことなので、試合で経験を積ませているところです。どうして試合の大事なところで使われているか考えて投げてもらわないと、ただ力一杯投げているだけでは本人の成長にはつながらない。いくら140キロ後半を投げても今の高校生の技術であれば真ん中に投げれば簡単に打たれてしまいますから。厳しいかもしれませんが、今後の常総を背負うピッチャーになってもらわないと困る訳ですから。その上でも注目されるようなピッチャーになる可能性も秘めていますし、僕自身がピッチャーで大事なのはコントロールだと思っているので、下級生のうちからその辺はシビアに要求していますね。それがものにできれば全国でも勝てるピッチャーになれると思いますので、期待を込めて、要求する基準を高く厳しく指導しています。時と場合によってはかなりきつい口調で言うこともありますね。 次ページに続く 4番武田がポイントゲッター ー続いて野手陣について伺います。クリーンアップは今年かなりの重量打線になっていると思います。 島田 うちは4番の武田勇哉がポイントゲッターとして重要な立ち位置を占めていまして、武田が打たないと勝てないです。2年生で重圧はかかると思いますけど、武田ならやってくれる。上位打線は武田の前になんとかチャンスメイクしようと必死になっていますし、武田が打てなくても後ろを打つ上級生の秋山翔と石井恭悟がなんとか還してくれるというつながりが生まれています。打順は武田を起点にして上手く配置できていますね。個人個人に与えられている役割は分かっていると思うので、春はそれがかみ合ったのかなと思います。 ー武田選手を中心に打線が組まれているのですね。彼は春の県大会決勝戦で、J:COMスタジアム土浦で強い逆風の中、レフト場外にとんでもない当たりのホームランを放ちましたよね。あの当たりには度肝を抜かれました。今はどれくらいホームランが出ていますか。 島田 10本くらいではないですか。たまたま春の練習試合でたくさん出た。好不調の波が激しいのですが、春は好調がキープできていましたね。武田に回せば何とか還してくれるとみんな思っていて期待値がものすごく高い。4番としての仕事ができればチームも本人も乗りますし、本当に中心選手として夏は期待しています。あいつにかかっているといっても過言ではないです。 ー武田選手のパワーはもともと持っているものなのでしょうか。 島田 もともと上体が強いんですね。今はまだ上体だけで打っているから、これが下半身も使えるようになるとバッターとしてさらに成長できますよ。 ーこれだけ監督が言うほどの打線の柱がまだ2年生だということで、この先も楽しみですね。守備の要といったら誰の名前が挙がりますか。 島田 ショートの若林佑真が守備の要として頭角を現して固定していますね。そのおかげで山崎玲恩をセカンドに回して盤石になったところがこのチームの強みです。去年に比べたら今年はポジションやメンバーの移動がなくやれているので、チームとしては良いのかなと思いますね。 ー地道な基本練習の繰り返しが実を結んだと言えそうですね。 島田 冬場はバッティング練習をせずにずっとキャッチボールと守備練習しかしませんでしたからね。守備練習で守備を強化することができますが、下半身強化という副次的な効果もある。だからこそ守備練習を多く取り入れたんです。野球は点取りゲームですが、0点に抑えたら負けることはありません。少ないチャンスで点を取って後は守り勝てば良い。打ち勝つことも野球の醍醐味ではありますが、守り勝つ野球を目指しています。 ー去年の代は内野のエラーが結構出ているなという印象がありましたが、今年は守備が堅く仕上がっているなという印象があります。 島田 僕はそうは思わないんですが、周りの人からは「今年の常総の内野の守り良いよね」って言われます。それはやはり冬場に取り組んだ練習が実になっているのかなと思いますね。バッティング練習をしなくてもあそこまで打ってくれているのですから、やはり土台となる下半身が守備練習で鍛えられたのだと思います。ランメニューに時間を割かずに守備練習を多くしているので下半身もアジリティ(機敏性)も鍛えられてバッティングにも好影響が出ています。守備とバッティングには相関関係が少なからずあると思いますね。 ーキャッチャーについて、秋は土屋海陽選手がスタメンマスクでしたが、春は下級生の片岡陸斗選手になっていました。片岡選手が伸びてきたのですか。 島田 キャッチャーはもともと夏から片岡を使おうと思っていたんですが、片岡がけがをしていて新チームにも間に合わなかったんです。 ーキャッチャー片岡選手の評価はどうでしょうか。 島田 やっぱりキャッチャーらしいキャッチャーですよね。ピッチャーへの声がけもできるし、バッターを見て配球ができている。キャッチャーはグラウンド内での監督なので、片岡がしっかりといてくれることで、チームもまとまってきたなと感じます。 次ページに続く 応援の力ってものすごい ー今年から制限がなくなり、応援団やブラスバンド、チアリーダーも来ることになります。常総学院の迫力の応援が4年ぶりに返ってきます。 島田 生のブラバン演奏での応援は、僕としても監督になって初めてのことなので非常に楽しみですね。やっぱり応援の力ってものすごいんですよ。個人名を大声で叫んで応援してくれるとやっぱり力になるので、どれだけ応援に助けられるのだろうかというワクワク感がありますね。応援からパワーをもらっていつも以上のパフォーマンスが出せると思うので、今年の夏は本当に楽しみです。選手もみんな、たくさんの人に応援されたいと思っていると思います。僕が現役の頃は甲子園を勝ち上がる度に応援してくれる人が増えて、それが快感でうれしくてものすごく力になりました。甲子園に行けばテレビで全国中継される。やっぱりたくさんの人に応援されるというのは力になりますよね。 選手は悪くない、自分がうぬぼれていた ー去年の夏の初戦(2回戦)敗退について振り返っていただきたいのですが、その後の心境の変化や教訓などはありますか。 島田 去年のチームは秋春の公式戦で1勝しかできなくて力はなかったですが、正直言うと僕自信が初戦は負けることはないだろうと思っていました。初戦の入りは難しいぞと周りの監督経験者から聞いてはいたのですが、負けるということは全く考えていませんでした。いくら実戦経験が少ないとか練習が不足していると言ったって、勝たせてあげられなかったというのは僕の力不足だったと痛感しています。選手は絶対に悪くないので、本当に申し訳ないと思っています。自分自身も高校野球の監督って難しいなってつくづく思いました。監督をされている方はみなさん大変な苦労をされているんだなって。最初の年に監督に就任していきなりセンバツ甲子園に出場して1勝できてしまったこともあって、多少うぬぼれていたじゃないですけど、自分がプロまで経験して培ってきたことを子どもたちに伝えたら、勝てるんだろうなという思いがもしかしたらあったのかもしれません。最初に上手くいったので、次の代でも僕が伝えたらできるでしょうと同じように指導していました。しかし、去年の代には去年の代に見合った指導をしないといけなかったなと思います。高校生だけど大人の感覚で見てしまったといいますか、言っても出来ないのなら別の選手を使うという考えになっていたかもしれません。一度伝えたら分かるでしょうではなくて、分かるまで根気強く言い続けるということが大事なんだなと感じた1年でした。そう考えたら僕も高校時代、できるまで厳しく言われ続けていましたね。去年の教訓を生かして今年のチームには分かるまで言い続け、出来るまでやらせるように根気強く指導しています。 正直、厳しいゾーン ー組合せについて所感を伺います。第1シードの常総学院ゾーンにノーシードの強豪校が集まりました。 島田 正直厳しいゾーンになりましたね。でも相手は関係なくどこが来ても勝たなくてはならないですから。春も厳しいなと思っていましたが、緊張感があるゾーンの方が目の前の敵に向かっていけて良いんじゃないですか。 ー最後にこの夏に向けた意気込みをお聞かせ願います。 島田 去年初戦で負けたということがあるので、初戦は選手よりも僕の方が緊張するかもしれませんね。そこは選手達が普段どおりにやってくれると思うので心配はしていません。とにかく去年の先輩の悔しい思いも背負って、今年は相当な覚悟を持って絶対に優勝すると意気込んで一致団結している状態なので、このチームは必ずやってくれると信じています。 ー緊張のお話が出ましたが、プロの試合と今の試合、どちらが緊張しますか。 島田 これはよく質問されるのですが、プレーヤーとしてやっていた方がはるかに楽です。監督の立場の方が緊張しますね。胃が痛くなりますよ。高校野球の監督を長らくやっていらっしゃる方々は、こういうことを毎年繰り返されていてすごいなと心の底からリスペクトします。まだまだ僕みたいな監督になって3年目の若造には想像できない修羅場がたくさんあるのでしょうね。でもこれほどやり甲斐のある仕事はないなと思っています。 ー7年ぶりの頂点に向けてどのような戦いになるのか楽しみにしています。本日はお忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございました。 (聞き手・伊達康) 終わり

甲子園で勝つため心血注いだ初のチーム 土浦日大 小菅監督【高校野球展望’23】

高校野球県南3強チーム監督インタビューの2回目は土浦日大高校の小菅勲監督。土浦日大は秋の県大会で優勝、春は準優勝し、2季連続で関東大会に出場して安定した強さを誇っている。盤石な左右のエースを有し、下級生から主力を務めたタレントぞろいの今年のチームは、今夏の優勝候補の一角とされる。小菅監督に大会への決意を聞いたところ、例年は「一戦必勝」と控えめな答えだったが、今年は意外な答えが返ってきた。 大勝して狂い生じた ―関東大会を振り返って、所感を教えてください。 小菅 関東大会でベスト4に入る目標を持って臨みました。心身ともに県大会の疲れがあり、あまりいい状態で臨めた大会ではありませんでした。特にメンタル面でモチベーションアップができなかった部分があります。相手の健大高崎(優勝校)に名前負けした雰囲気にならなかったのは良かったと思います。相手が強かったというのが一番の敗因だと思います。相手投手陣を打ちあぐねましたね。どの投手相手にもつなぐバッティングが出来なければ勝ちきれないという経験にもなりました。タイブレークは県大会決勝戦でも経験させていただきましたが、県大会では裏攻撃、関東大会では表攻撃でした。まず経験できたということが良かったと思います。延長10回からのタイブレークは息つく暇もなく試合が急展開します。それを経験できてしのぎ合いをした耐性というか、免疫というか、負けはしましたがこういったところが大きな財産になったかなと思います。 ―タイブレークで表攻撃と裏攻撃の2つの敗戦から何か教訓になったことはありますか。 小菅 取れるアウトを確実に取らないと、必ず最後に点数になって跳ね返ってくるということがありありと分かりました。本当に当たり前のことを当たり前にやる。凡事徹底がいかに大事か分かりました。失点は構わないのですが、相手に余計に献上してしまう進塁や点数があったので、6月はそうした部分を徹底的に修正しました。 ―春の県大会準々決勝ではプロ注目投手でもあるつくば秀英の五十嵐大晟投手から香取蒼太君が2打席連続ホームランを放つなど、9対1で大勝しましたね。 小菅 大会というのは微妙なものがありまして、まさに「好事魔多し」です。大勝してしまったせいで部員の中でちょっと過信してしまった部分が見られました。実は春はあの試合の後から少しチームの方向性に狂いが生じました。春はまだ後日談にできるので、しっかりとみんなで反省して立て直しました。おそらく部員にもいい教訓になったと思います。 ー準決勝の霞ケ浦戦はいかがでしたか。香取君の犠牲フライの1点で勝ちました。 小菅 霞ケ浦の木村優人投手が非常にいいので10三振をくらってもめげずにやろうと、2度や3度はチャンスが巡ってくるだろうと予想し、3点をもぎ取ろうと臨みましたが、1点を取るのが精一杯でした。本当に良い投球をされましたね。好投手相手には三振したから気持ちが沈むということがないように、バットにかすっただけで喜んでいくように気持ちをつくっていかないといけません。 ー決勝戦を振り返ってどうでしょうか。何が敗因ですか。 小菅 春の大会の常総学院は波に乗っていましたね。実力プラスアルファのものが出ているように見えまして、これは嫌だなという感じがしていました。あの状態の常総とよく戦ったものだと思います。よく1失点で最後まで来てと。ツキもなかったですね。中盤に太刀川幸輝のピッチャーライナーで打線の繋がりが途切れた時にこれはまずいなと思いました。7回の一死三塁の勝ち越しを機に3番の後藤陽人が狙い球を絞れなくて少し泳がされてセカンドライナーになってしまった。太刀川、後藤はうちの主軸ですので打順がどこであっても彼らが決めなくてはならない。敗因は決めきれなかったところですね。 次ページに続く 藤本のピッチングが勝敗の鍵 ー今年のチームについて監督さんの言葉で選手について紹介をお願いします。具体的には1年間どういう風に過ごして来て、今どのような立場にいてなど。まずは投手陣からお願いします。 小菅 小森勇凛は陽気でのんきな、いじられキャラです。2年生の夏が終わった頃から目の色が変わってきました。エースを奪るんだとようやくチームを背負ってピッチングができるようになりました。そうした自覚が生まれた1年間で高校球児らしくなってきましたね。実力と共に結果がついてくればそういった部分が開発されると思っているので伸びしろはまだあると思います。もちろん素材としてもプロのスカウトに狙っていただけていますが、大器晩成というかまだ伸びる部分が残されていると思います。体の中でも彼は強い部分と弱い部分があるので、ものすごく練習はしますけれど、苦手なこと辛いこと、例えば走り込みなどをようやく自分からやるようになってきましたので、本当にこれからが面白いなって思います。 ー球速が春にかなり上がったのですが、何がその要因ですか。 小菅 彼は細かい部分でトレーニングとか食事のことだとか体づくりのことだとかを自分のペースでやるんですね。それが合体してきたのではないかと思います。技術的にここが飛び抜けて良くなったとかはないんですが、心技体が安定してきたので、球速に現れたのではないかと思います。 ーもう一つの柱の藤本士生君についてお願いします。 小菅 彼は人間性が抜群です。本当にフォアザチーム(チームのために)でストイックに練習をやりますし、自分にもチームにも興味がある男なのでその辺のところは申し分ないです。ただ優しいところがありまして、例えば相手のインコースに投げきれなかったり、考えすぎてボールを散らしすぎたり、この部分は練習試合で打たれたり抑えたりをしながら6月になって上がってきたところです。大体彼が打たれて負けた試合が多いのですが、それも貴重な経験ですし、チームを背負っているピッチャーなので当然勝敗を背負うでしょう。夏も彼のピッチングが鍵を握る可能性が高いと思います。 次ページに続く 松田がラッキーボーイになれば面白い ー野手陣についてお願いします。 小菅 後藤は下級生の時からショートを守っていて、実戦のボールを捕るとか、プレーを完成させる球際の強さをすごく持っています。バッティングでもすごく良い当たりを打ったかと思えば、無様に凡退するバッターです。そこら辺が彼の課題でもあり魅力でもあります。去年まではチームを背負う気持ちがちょっと足りなかったのですが、最近はみんなで甲子園行こうねと言い出したんです。やはりこの1年間、後藤に対する要求も増えてきまして、それを真摯に受け止めてやってくれています。 太刀川はうちのチームリーダーです。うちは塚原歩生真と太刀川ってキャプテン2人体制です。塚原は俺について来い的なところがありますが、太刀川は細かいところに目が届く選手です。寮生活のこととか、チームの決まりごととか、ボールが落ちているというのを気がつく人間です。少しキャパオーバーまで頑張り過ぎてしまう部分があるのですが、野球の方に専念していって自分のプレーを楽しんでもらって最後を迎えさせてあげたいなと思っています。テクニシャンなところがあるので、それを最後に発揮してもらいたいなと思います。 松田陽斗は勉強面がクラスでもトップで、非常にクレバーに野球をよく見られる選手です。熱くなり過ぎないのが彼の良いところでもあるし悪いところでもある。そういうところって表裏一体ですよね。みんなが打てないところで打ったり、誰も狙ってないボールを狙ってみたりという意外性があります。ファーストというポジションも彼に合っています。もう少しボールを丁寧に扱ってもらいたいなということを彼には要求として言っていますね。非常にマイペースで、打順とか立ち位置からして結構夏は彼が鍵を握るというか、彼がラッキーボーイになれば面白いかなと思います。 中本佳吾は次世代のリーダーです。いろんな部分を頑張りすぎて空回りすることもあるんですが、人間的に非常に優れていますし、学校の成績も優秀です。今は守備もバッティングも覚えている最中です。一つ一つ食らいついてくれるので、必ずいつか伸びると思っていますし、来年はリーダーとして期待しています。 香取蒼太はダイヤの原石です。磨けばダイヤになれるけど、その存在に誰も気が付かずに終わるかもしれない。そんな選手です。今30本くらい打っていますかね。あれだけの飛距離ってなかなかないんですよ。飛ばす力を秘めていますのでこの先も非常に楽しみです。 去年のトラウマ大きかった ー最後に捕手の塚原君についてお聞かせください。 小菅 塚原はもう野球小僧っていう言葉が一番似合う選手です。もういろんな経験をしてしまった。キャッチャーは、打たれたことが怖い経験になるんですね。この3カ月はずっと迷いっぱなしだったんです。去年の夏の(明秀日立との)決勝のトラウマと言いますか、最後の一打(サヨナラ被弾)、あれが大きかったと思うんです。それをピッチャー陣と話しながら、お前が全責任を背負うんじゃないんだよって言い聞かせていますね。彼はよく私とコミュニケーションを取ってくるタイプなんですね。心の整理整頓が付かないまま話しているところが彼の面白いところで、この最後の1カ月くらいは心の整理整頓がついてから私と話すようにと言っているところです。整理されれば力を発揮してくれると思います。 ー新聞で「配球に自信がついてきた」とコメントしているのを見ました。 小菅 普通は塚原ほどのレベルだとそんな弱音や本音を吐かないと思うんですが、よく正直に素直にそう言えたなと思います。何でそういう配球にしたのとか、理由を聞いても高校時代は完成しないで終わると思うんですよ。そういう中での配球だと思うんですね。後悔だけはしないでくれと毎試合よく話しています。 ー打順が結構目まぐるしく変わっていますが、調子を見て決めているのですか。 小菅 やはり調子は大事な要素ですね。あとは相手ピッチャーとの相性です。意外にこちらがこういう打順にしたいと思っても、相手からしたらどうなのかなという視点を持ち合わせていることも大事ですね。向こうがやりづらい嫌な打順を組むことも方法の一つです。打順はあえて固定しないです。 次ページに続く 活躍出来て輝ける環境求める ーどんな打順になるのか毎試合楽しみにしています。今年は特に実力者ぞろいの代ですが、どのような経緯で県外から土浦日大に入学しているのでしょうか。 小菅 本人がうちの環境を気に入って希望して来てくれていますね。高校野球をやりたいと考える最近の中学生は、ただ実績のある強いところというよりも、自分が活躍出来て輝ける環境を求める傾向にあるのかなと感じています。本校は練習環境が抜群ですし、自主性をうたっているので自主練習でいろいろなことができます。勉強もしっかりやれるし、自分で体づくりが出来るのを魅力に感じてくれますね。親御さんも環境をすごく気にされているように思います。ご縁があって希望して本校に集まってくれてこのチームがある。私はこういうのを「球縁」と呼んでいます。球縁の話はミーティングで頻繁にしますね。 ー相手チームの投球や打線を分析するデータ班は監督が個別に任命するのですか。 小菅 日々部員を観察して、野球を知っているなとか、面白い考えを持っているな、分析力があるなというような選手を任命しています。最初は当てずっぽうに近いですけど、やらせると結構当たっているんですね。データ班の人間たちは自分の意見をしゃべれますし分析力もあります。今はちょうど2年生が主軸になってやってくれています。1年生も何人か担当しています。 ー今スタメンで出ているような選手でデータ班出身者はいますか。 小菅 太刀川と塚原ですね。2人とも試合に出るのが早かったですが、考えながら試合を見る目があります。 次ページに続く 昔は型に当てはめがちだった ー指導観が劇的に変化したタイミングやきっかけってありましたか。 小菅 昔は高校野球はこうあるべきだと型に当てはめて考えがちでした。ひと山いくらで見ていたといいますか、一人一人に合った指導をしていませんでした。しかし自分に子供が出来て、子供の成長と共に考え方が変わってきました。やはり一人一人を親御さんから預かっている訳ですから、自分も親になってそういう感覚が分かるようになりました。また、昔は親御さんとは一線を画していましたが、今は親御さんとも一定の距離感は保った上で積極的にコミュニケーションを図っています。毎年12月のオフシーズンに選手と親、私の三者で面談を行うのですが、本人からはこれからどういう風に高校野球に関わっていくかの未来像を話してもらい、それに対して親御さんの意見を伺います。私からは選手の現状や課題、学校生活、育成方針などをお話しし、ざっくばらんに意見交換してコミュニケーションを図っています。 ー中学生に求める選手像や人間像を教えてください。 小菅 素直であって欲しいですね。野球が伸びる1番の要素はこれだと思います。あと野球を好きであって欲しい。たくさん練習して欲しいし基礎基本を大事にしてほしいですね。指導者に言われるままの受け身の子が今の時代にも多いです。間違った指導は疑って欲しい。自分でエビデンスに当たって欲しいです。高校2年生くらいになればみんなができるようになるのですが、それを中学生の頃からやれたらより高校野球にスムーズに入ってこられると思います。 ー野球人口が年々減少していると言われていますが、それに対して何か具体的な動きをされていますか。 小菅 問題意識は持っていますが、実は現場の人間にとってそこが一番欠けている部分だと思います。たくさんの子供たちに野球を好きになって欲しいという考えはもちろんありますけども、私がやれることは魅力的なチームを作って、土浦日大に入りたいとか、高校野球に憧れる子供を一人でも増やすことです。選手たちの青春時代を預かっている限りはそこに全力を注がないと、選手たち、あるいは親御さんの期待を裏切ることになりますよね。ですからあえてこの問題には目を向けないようにしています。 現場の人間には難しいので、そうした危機的状況を組織の上の方が捉えてアイデアを考えて、現場にこういうことをやってくれとか、この小中学校を指導してくれとかいうのがあれば惜しみなく協力します。 次ページに続く ワクワクしながらやってる人間は強い ーWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)をやっている期間は監督も選手も全試合ご覧になったんですか。 小菅 全試合見ました。プロの最高峰の人たちが真剣勝負するというのは最高の材料ですからね。いくらプロでホームランを打っているとはいえ別のプレッシャーがかかるし、ああこの人センター返しするといとも簡単にヒットが出るんだとか。あの人たちが日の丸を背負ってつないでつないでと、心も技も凄く勉強になりました。 ーミーティングでWBCに触れたりもしたんですか。 小菅 もちろん触れました。大谷翔平のセーフティバントどう考える?って話もしました。夏の大会でああいう判断が出てくるかもしれないよねって。それこそフォアザチームじゃないですけどね。実はひょんなことからチケットが手に入りまして、これで大谷翔平を日本で見るのは生涯で最後かもしれないなと思って、中国戦を東京ドームに見に行ったんですよ。なかなかの迫力でしたね。私もこれだけ長く野球をやっていて、目で追えない打球って見たことがないんですよ。左中間にぶつけた当たりなんか、打った瞬間にボンって。普通は打ってしばらくしてボンなんですけど、あんな打球は初めて見ました。本当にすごかったですよね。三塁の横にいたので、本当にドンって感じの。 選手には「大谷は100年に一度の選手で人間性も良い」と、「引退して偉人伝になる前に今見ておくんだぞ」という話をしています。大谷君って結局は野球小僧なんですよね。やはりワクワクしながらやっている人間は強いなと。そして彼は結構チーム愛が強いですよね。勝ちたいってハッキリ言っていますもんね。大谷翔平の勝負にこだわるところは好きです。それこそ野球小僧ですよね。 ー大谷翔平が高校時代に練習試合で下妻二高に来ましたよね。 小菅 私が下妻二高の監督時代に交流があって行き来していましたね。その試合は0対1で負けました。 ースカウトが当時バッターとしても高く評価されていた大谷翔平をエースの諏訪洸選手(下妻二高-亜細亜大-トヨタ自動車)が見逃し三振にとって、諏訪の評価がかなり上がったという話を当時聞きました。 小菅 あの試合は忘れませんね。大谷君と握手してもらいました。これは間違いなく将来メジャーリーガーになる選手だと思いましたし、雰囲気から何から違う。華がありますよね。まさに頭抜けてました。技能じゃないですよ、華が。キラキラっていう華が。 ー大谷翔平と対戦経験がある監督ってたぶん県内見渡しても小菅監督以外にいないんですよ。 小菅 もしかしたらそうかもしれませんね。彼はその試合でセンターフライを打ったんですよ。対空時間が長くて全然落ちてこないセンターフライは初めて見ました。こちらがバントをする場面があったので、一番良いバッターにバントをさせてみたんです。でも出来なかったですね。ピッチャー正面のバントがゲッツーになりました。0対0で進んだ試合でしたが、最後に花巻東が1点をガムシャラにとりに来て、精神面の強さに気圧(けお)されて負けたんですけどね。ただあの年は大谷君は甲子園に行けなかったですね。 次ページに続く 部活制限、絶対的な時間足りない ー今の高校生が知らないような貴重なお話をしていただきました。公立高校の部活動の活動時間制限について、公立高校の教員でいらした小菅監督に伺います。週に2回休みを取らされて、土曜日と日曜日のうちどちらか4時間以内、平日は2時間以内の活動時間制限です。これで強くなれますか。 小菅 絶対的な時間としては足りないと思います。高校野球を3年間で仕上げようと思った時、週の練習時間としては絶対的に足りないですね。野球ほど時間のかかるスポーツはないですし、競技性とか特性を無視して活動時間を設定していますね。やはりそこは全ての競技が一律であってはならないと感じますね。 ー活動時間制限の中で強くなるためにはどうしたらいいでしょうか? 小菅 時間の制限がマストであるならば、今日はこのメニューだけやろうとか、選手と合意して、コンセプトを持って時間の足りない分を何かで補うように工夫します。頭脳やら練習目的やらそういったものを磨いていく。それしかありません。 主役は誰かってことですよね。本人たちは青春時代の全てをかけているのですから。部活動と勉強って青春の両輪ですものね。それが制限されちゃうって苦しいことですよね。親にとっても同じですよね。思う存分に高校野球をやって欲しい、部活動をやって欲しいと願っているのに。一体何から来ているのかってことをもう一回考え直した方が良いと思うんですよ。働き方改革だとか子供の安全面とか、パワハラだ、指導の行き過ぎが拡大解釈となってここに行きついているのではないでしょうか。これだけ議論があるのであればもう一回やり直した方が良いと思うんですけどね。昔に戻るってことはないにしても、もう少し緩和して、子供たちも指導者顧問も、話し合ってやるべきじゃないかなと思いますけど。 ーまさにこれは小菅監督にしか聞けない話なんです。部活動制限問題に出てくるのって公立学校の当事者ばかりですし、私立にとっては関係のない話なので、両方とも経験されている小菅監督ならではの意見を伺いたかったんですね。 小菅 私もこの問題には興味があって、ああ、こうなったんだって残念に思いました。ただ、私立もいずれそうなるかもしれないという危機感は持っていなくてはいけないと思いますね。高校の教員の方たちも、もしかしたら自分は転職するかもしれませんって話をされています。このままやっていても夢が持てないですって話をしていますね。そういった夢とか目標を奪っちゃうことになりますよね。 次ページに続く ー最後にいつもの質問です。夏に向けた意気込みをお願いします。 小菅 公立高校や、低迷していた土浦日大など、これまでは甲子園出場が目標の、茨城大会を勝つためのチームづくりをしてきました。しかし2018年に甲子園で松商学園に初戦敗退したのを機に状況が一変しました。甲子園で勝つ野球が必要なんだと強く意識し、甲子園で勝つためのチームづくりに着手しました。コロナがあり去年までは思う存分指導できませんでしたが、今年の世代は甲子園で勝つために3年間心血を注いだ、私の指導者人生の中でも初めてのチームなんです。ですから2023年茨城大会を勝つんだっていう意気込みは当然持っていますが、是非、甲子園に出て力試しをして、あそこで校歌を歌いたいっていう気持ちです。口が先走っているのではなく本気で思っています。甲子園で勝とうなっていう気持ちを持って入ってきてくれた部員たちなので、それを達成したいという思いが強いです。右往左往しても結果はもう決まっている。人事を尽くして天命を待つだから、結果はもう意識せずに、純粋に目の前の3秒を積み重ねて、ああ試合が終わったなという風にしたい。また一期一会を大切にして、この年に集まったこのメンバーで狙える甲子園なんだから、これはもう俺達チャレンジャーだろうっていう理屈ですね。こういう理屈を部員が落とし込んでくれれば強さを発揮できると思うんですけどね。勝ちたい、勝たなきゃならないという煩悩が入ってくると、ダメだと思うんですね。 ー戦いぶりを楽しみにしています。ありがとうございました。いや、今年もいい話が聞けました。いつもより全然長丁場で、お時間とっていただきましてありがとうございました。 小菅 高校野球ファンの人が最近増えたというか、戻ってきたっていうか、春なんかも大会場にかなり観客がいましたよね。最近はおのおのが独特の見方をしますからね。相変わらず古株のオールドファンはノーマルに見ていますが、やっぱりベンチのすぐ上の方で、スマホで速報したり写真を撮ったり、いろんな見方をされる高校野球でありスポーツですので、良いのかなって感じます。自分で楽しまれていますもんね。すごくそういうのって良いなって思います。自分がもし高校野球の指導者が終わったとしたら、たぶん観戦には行かないと思います。大会場ってやっぱり武者震いする場所なので、あそこでのんきにいいぞ高校野球ってことにはならないって思うんですよね。そうなるまで燃え尽きたいと思います。 (聞き手・伊達康)

プロ注目のエース木村起点に役割分担 霞ケ浦 高橋監督【高校野球展望’23】

夏の高校野球県大会が8日開幕した。2019年から始まった県南3強チームの監督インタビューは今年で5回目を迎える。今回も常総学院、土浦日大、霞ケ浦の各監督から熱い話を聞かせてもらった。 1回目は霞ケ浦高校の髙橋祐二監督。霞ケ浦は秋(秋季関東地区高校野球県大会)の準決勝では常磐大高に、春(春季関東地区高校野球県大会)の準決勝では土浦日大に敗れたが、昨夏から3季連続で4強入りを果たしている。プロ注目の木村優人投手を擁してこの夏をいかに戦うのか語ってもらった。 ―毎年恒例のインタビューです。今年もよろしくお願いいたします。まずは春の大会の振り返りをお願いします。準々決勝の岩瀬日大戦は2対1とロースコアになりました。 高橋 春は全体的に打てませんでした。ファーストストライクを振りにいけない、どうしても消極的な場面が目立ちましたので、修正に取り組んできました。岩瀬日大戦は木村以外の2番手以降の仕上がりが課題になることが改めて浮き彫りとなりました。打者との戦いではなく、自分との戦いになってはね。心は熱く、頭は冷静にやっていかなくてはなりませんね。 ―準決勝の土浦日大戦は0対1とこれまたローゲームになりました。 高橋 打てませんね。木村が粘って最少失点に抑えてくれたんですが、攻め手を欠きました。夏は修正して臨みたいと思います。 木村は3段階くらいギア上がった ―今年のチームについて紹介をお願いします。 高橋 今年はキャプテンの新保玖和を中心としたまとまりのあるチームです。新保が私と同じ方向に向かって進んでくれて、強烈なキャプテンシー(統率力)で引っ張ってくれています。チームのことを最優先に考えてくれているんですが、少し根(こん)を詰めすぎるところがある。そこはバランスを取りながら、たまには引くことも大事だよと言い聞かせていますね。 ピッチャー陣はエースの木村優人が抜きん出ています。木村以外の投手陣の力量を見極めて起用の仕方を考えていきながら、なるべく木村に負担が掛からないように役割分担できればいいなと思っています。 打撃陣もやはり新保と木村が起点になります。ここに俊足の山崎隼人が絡んでくると面白い展開になるでしょうね。良い働きを期待しています。キャッチャーは何枚かいますので、ピッチャーとの相性を見ながら起用することになると思います。 ―木村選手はプロ注目投手として名前が上がりますが。 高橋 春は私としても驚くほど木村が成長を見せてくれました。ボールが明らかに強くなったし、3段階くらいギアが上がった感じがします。ただし、これは春だからこそできたことであって、夏の猛暑の中であのピッチングをするのは、いくら木村でも至難の業だと思います。最近メディアでよく取り上げていただいていますが、まだ18歳の高校3年生です。気持ちが浮足立って来ていることが見かけられましたので、そこはギュッと締め直すように、目の前のことに集中して勘違いしないようにと指導していますね。 次ページに続く 選手宣誓は運命的 ―今年は新保玖和主将が選手宣誓の大役を引き当てました。選手宣誓の文章はどうやって考えているのですか。 高橋 副部長の直井先生が国語科教員なので、新保と2人で相談して考えています。新保の気持ちをベースにした中で、いかに新保のオリジナルな言葉で、かつ新保が心の底から発した言葉になるようにと考えています。昨日(7月3日)ようやく本文が出来上がりました。本校の校長がそういうのが好きなんですよ。今は校長が最後の添削をしています。開会式の前日に職員室で朝会の時に、新保に本番さながらに選手宣誓をやってもらうことになっています。みんな学校では盛り上がってますよ。 ―準備は万端ですね。 高橋 本校の選手宣誓は2回目なんです。 ―そうだったんですか。前回はいつですか。 高橋 私が監督に就任して2年目の2002年です。太田浩之というキャプテンが引き当てました。私は2001年にバレー部の監督から野球部の監督になったのですが、春高バレーから帰ってきてすぐに野球部監督になった。その時のメンバーなので本当によく覚えています。太田君は立派な選手宣誓をしました。その太田の息子が太田翔都といって、今年うちの1年生にいる。これは何かの運命ですかね。私にとっての2度の選手宣誓に、太田が絡むという。彼が選手宣誓を引き寄せたのかもしれない。 ―なんだか運命的なお話しですね。 高橋 それと同時に、キャプテンの新保玖和の兄は、5年前の第90回選抜甲子園で瀬戸内高校のキャプテンとして選手宣誓を引き当てています。今回、新保が選手宣誓の大役を任されるということで、何か運命的なものを感じざるを得ません。本校への入学の経緯にしても、あらゆる縁が積み重なって新保と本校の糸がつながったという感じです。新保は人としてもみんなから好かれているし、もう素晴らしいと思います。 次ページに続く 応援、本当にありがたい ―もう新保選手が抽選前から引き当てることが決まっていたかのようなサイドストーリーですね。野球部員とブラスバンド部、チアリーディング部は交流があるのでしょうか。 高橋 うちは文化祭でも3つのクラブがコラボして応援メドレーっていうのを必ず発表しているので、3つの交流はよくやっています。一般生徒は終業式が終わったら応援に来てくれますが、吹奏楽とチア部は1試合目から来てくれます。今年は制限がかからないこれまで通りの応援ができるということで、今回の選手宣誓の文言にもきっちり盛り込まれているけど、やっぱり学校応援があって、普通の方々が来てくれると言うことは気持ちの高まりも違うし、本当にありがたいですよね。 費用負担抜きでは語れない ―公立高校で話題になっている部活動問題について、高橋監督の見解をお聞かせください。 高橋 どこかから聞いた話ですが、日本の部活動制度っていうのは、外国のどこにもない、学校に行っていれば貧富の差がなく平等に部活動の機会を得られるんですよね。他国は地域スポーツだっていわゆるアカデミーみたいなのを立ち上げてっていうとそこにはお金が必要で、お金を払ってチームに入れる。そういう制度になると、貧富の差で受けられなくなる可能性がある。日本の部活動というシステムはそういう側面では優れていたんだと思います。ところが、アカデミーになるとみんな平等に受けられていたことが受けられなくなる。中学も高校も、部活動の指導がしたくて教員になっている人がいっぱいいて、その先生達がやる分には問題ないと思うんだけど、やりたくない先生だっている。先生の働き方改革のためには、別の指導者を雇わなくてはならない。生徒の部活動の機会の確保と併せて費用負担抜きでは語れない問題ですね。 「こういうところを見習おうよ」 ―WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は全試合ご覧になりましたか。 高橋 全試合見ました。映画(「憧れを超えた侍たち 世界一への記録」)も見ましたよ。1週間前に部員全員を連れてレイトショーを見てきました。選手たちも感動して良かったって言っていたみたいです。映画は特に勉強になりましたね。まだまだ試合が終わってないんだから泣いちゃダメだろうとか、同点に追い付いた後に勝ち越されて、その瞬間にベンチの中が静まりかえった。その時に大谷翔平選手が「大丈夫、大丈夫、大丈夫」って、ベンチ内を大声で練り歩くの。あれ見た瞬間、こんなやついるんだって驚きましたね。静まり返ったベンチが息を吹き返す。プレーだけじゃない。こういうところを見習おうよって、君たちにもできるよってミーテイングで話しました。 ―最後の質問です。大会に向けての意気込みを語っていただきたいと思います。 高橋 今までの経験上、勝ちたい勝ちたいと思っていない方が勝てているように思います。チームは完璧に力のある仕上がりにはなってはいませんが、かと言ってエース級が何人かいても上手くいくとは限らない。そこが難しいところですね。甲子園という素晴らし場所にいけるように選手達は頑張ってきたんだから、優勝したいねって話をしています。なんとか甲子園に出て校歌を歌えるようになれれば良いですね。 ―戦いぶりを楽しみにしています。ありがとうございました。 (聞き手・伊達康)

小粒ならではの勝ち方探ってる 常総学院・島田監督【高校野球’22展望】

開幕した第104回全国高校野球選手権茨城大会は13日から二回戦に入り、シード校も登場する。有力校インタビュー第3回は、常総学院の島田直也監督に話を聞いた。 全員で助け合ってミス減らす野球を ―今年チームづくりをする上で苦労した点はどんなところですか。島田 僕はまだ監督経験が浅いので、チームづくりは試行錯誤しています。新チームが始まる際に、選手には先輩の良いところを真似しながらも、自分たちの色を出していこうと話し、去年から主力で出場していた太田和煌翔(3年)や鹿田優(3年)を中心にチーム作りをしてきました。先輩達の真似は随所で出来てきているとは思います。後は、意見をぶつけ合ったり、時に衝突したりしながら、自分たちの色を出してもらいたいのですが、その点は苦労しています。今年のチームは去年と比較すると軸になるピッチャーがいないし打線も弱い。ですから全員で助け合ってミスを減らし、少ないチャンスをものにする野球をしたいのですが、この点は上手くいっていないですね。 ―昨秋は県大会初戦で敗れて長い冬になりました。敗戦を受けて冬をどのように過ごしましたか。島田 新チームになった時点で1試合を任せられるような飛び抜けた能力のある投手が不在だったため、全員にチャンスを与えて底上げを図りました。秋は何人かの投手で繋いで乗り切るべく臨んだのですが、結果に結びつきませんでした。冬の間、チームとしては春に向けての体力強化を中心に取り組みました。年明けから3月上旬までは、コロナの影響で全体練習が出来ない期間がありましたので、個人練習の取り組みでかなり差が生じたように思います。 150キロ超えの投手、ブライアン ―秋はバルザー・ブライアン選手が投手の練習を始めて間もない中で、151キロを計測して評判になりました。さらに先日の明豊戦では154キロと再び話題になっています。島田 彼の特徴は肩の強さですので、少しでもレギュラー争いに食い込む可能性を広げるためにピッチャーを薦めました。ピッチャーとしての実績はまだ乏しいですが、高校生で150キロを投げるというのはなかなかいないですよね。 ―春は常磐大高に惜しくも敗れました。敗戦をどのように捉えていますか。島田 先に相手に主導権を握られると取り戻せないところがこのチームのもろさですね。序盤からずっと押される形で突き放せなかった。負けはしましたが、最後までよく粘ったとは思います。 ―その後、夏に向けてチームの取り組みに変化はありましたか。島田 3年生にとってはラストチャンスなので、夏にかける意気込みは感じられます。しかしこういうご時世なので、なかなか全員がそろわない時があったりと、調整の難しさを感じています。 今後は上がっていくしかない ―島田監督としては心境の変化はありましたか。島田 1年目は監督に就任してすぐにセンバツ甲子園に出場して良い経験をさせてもらいましたが、2年目になって大会での成績が出なくなりました。浮き沈みを経験して良い勉強ができているなと思います。今後は上がっていくしかないですが、そこでどうやっていけば良いかというのはまだ勉強不足と言いますか、なかなか高校野球の指導って難しいなと感じているところです。 ―指導方法やチームづくりに関して、相談や意見交換できる方はいるのでしょうか。島田 経験豊富な練習試合の相手の監督さんに教わることがあります。話を聞きながら勉強している部分はあります。お話しする中で、今年の常総は小粒だというご意見もいただきながら、小粒ならではの勝ち方を探っているところです。 ―今年の戦力について伺います。先ほど小粒というお話がありましたが、今年のチームカラーを一言で表すと何になりますでしょうか。島田 今年は何も特徴がありません。バッティングでも、守備に関してもまだまだ成熟していない。状況に応じたバッティングや守備ができない難しさを感じています。もっと必死にがむしゃらに競争心をかき立てる選手が出てきて欲しいと思います。 ―春の大会では各ポジションでメンバーがめまぐるしく入れ替わっている印象でした。島田 相手が嫌がるようなプレーができる選手が出てきて欲しいと思い、チャンスを与えて競争させる意図であえていろいろな選手を起用してきました。 ―投手陣についてはどうでしょうか。島田 坂本駿(3年)、石川大翔(3年)、伊藤地宏(3年)の3人を中心に期待しています。まだまだ成長できるはずなので、責任感を持って最後まで切磋琢磨して伸びてもらいたいですね。秋も春も早期敗退して公式戦の実戦経験も積めていないので、謙虚な姿勢で愚直にやって欲しい。技術も大事ですが、とにかく最後の夏は気持ちが一番大切な部分なので、3年生には意地を見せて欲しいと思います。 ―先日の土浦市内大会では飯塚遥己投手(2年)や小林芯汰投手(1年)などの下級生がいいピッチングをしました。この夏、下級生では誰が食い込んできそうでしょうか。島田 投手の数は多いので、全員で競い合ってもらいたいです。当然、飯塚や小林には期待しています。 強い常総でないといけない ―常総学院で野球をやりたいという小中学生に向けて一言お願いします。島田 常総で野球をやりたい強い気持ちのある子には是非来て欲しいです。そういう選手が競い合って常総の野球を承継していかなければならない。小中学生に憧れを抱いてもらうような、強い常総でないといけないですね。 ―現在の部員数のうち、寮生と自宅生の割合はどうなっていますか。島田 部員数が91人で、そのうち自宅生が5人です。遠方の選手は寮に入ってもらいますが、自宅が近い選手は通っています。 ―最後に、夏の大会に向けた意気込みをお願いします。島田 今年の常総は怖くないという声が結構耳に入ってきますが、僕としてはその方が気兼ねなくできる。実際に、今年は結果が出ていないので、結果を求めて必死にやるしかありません。その中で、当然甲子園を狙っていますし、やっぱり常総は強いんだと結果で示したいですね。大会まで残りわずかですが、しっかりと仕上げていきたいと思います。(聞き手・伊達康) 終わり

本来の細かい野球できてない 霞ケ浦・高橋監督【高校野球’22展望】

第104回全国高校野球選手権茨城大会が開幕した。出場を間近に控えた有力校インタビュー第2回は、霞ケ浦高の高橋祐二監督に、チームの特徴や意気込みを聞いた。 2カ月半治療に専念し復帰 ―春の大会は監督代行で臨みました。体調はいかがですか。高橋 3月中旬から入院し、チームから離れて2カ月半は治療に専念していました。その間は大高先生と直井先生に監督代行として指揮を執ってもらいました。おかげさまでもう回復し、リハビリ期間を経て現場復帰ができました。春の大会期間中の大事な時期にチームを離れていたので、何度もミーティングを行って、このままの体制で夏まで行くか、私が監督に復帰するかを話し合いましたが、監督として復帰することになりました。 ―今年のチームの特徴を教えてください。高橋 秋も春も勝ち上がることができませんでした。去年も本来の霞ケ浦の細かい野球ができていないと言いましたが、今年も同じような状況です。打撃の破壊力は持ち合わせていますが、いつもそれが出るわけではないですし、投打のバランスを保ってチームづくりをするのは難しいと感じています。 投手陣は山田が軸に ―投手陣はどうでしょう。高橋 雰囲気のあるピッチャーがそろっているのですが、例年のような失点が計算できる中心となるピッチャーがいません。3人が140キロ以上を投げますが、現時点では誰もエースと呼べません。ピッチャーのマネジメントが例年通りにでませんでしたし、メンタルのケアに関しても私が2カ月半留守にした影響は否めません。その点は申しわけないところですが、先輩たちもそうであったように、自分たちで殻を破ってもう少し伸びて欲しかったという気持ちもあります。ただ、この1年間で完投勝利したピッチャーはいなかったのですが、先日の練習試合で赤羽蓮(3年)が初めて完投勝利を収めたことは成長を感じる部分です。 ―各投手の状態を具体的に教えてください。高橋 左腕の山田大河(3年)は去年の秋に負けた土浦日大戦での失点はホームランの1点のみ。春も鹿島学園戦では圧巻のピッチングをしました。後はエースになるためのエッセンスをこの2カ月半で付け加えてググッと仕上げてあげたかったのですが、修正しきれていません。ただし、崩していたバランスも改善されてきてボールの質が改善しつつあるので、夏は山田が軸になってくると思います。木村優人(2年)に関してはライトで出場しなければ、ピッチャーとして出場します。まさに大谷翔平選手(大リーグ・エンゼルス)のような二刀流です。最近はようやく打撃にも力を入れて取り組むようになりました。赤羽と渡邉夏一(3年)は体格に恵まれた素材型ですが、夏の大会でチームを背負ってマウンドに上がるだけのメンタルが十分に備わっていません。ここに来て、黒須悠斗(3年)というコツコツ頑張ってきた左腕が頭角を現してきました。昨日の練習試合でも良い感じで持ち味を発揮していました。 打線にしつこさ、しぶとさ ―野手陣はどうでしょうか。高橋 ショートの新保玖和(2年)を中心に、キャッチャーの羽成朔太郎(1年)と太田遥人(2年)の二人、セカンドの大塚碧人(3年)を含めてセンターラインはある程度まとまりが出てきました。特に新保は気持ちの強い選手で、下級生ながらチームを引っ張ってくれています。 ―打撃陣はどうですか。高橋 上位が得点源です。1番・大徳岳登(3年)、2番・新保、3番・木村の3人は状況に応じたバッティングができて、かなり機能するようになっています。打撃陣は決してパワフルではないですが、霞ヶ浦が目指すしつこさ、しぶとさが見られるようになっています。 ―他校にも共通の質問項目として伺っているのですが、自宅から通っている部員もいるのでしょうか。高橋 自宅通いの地元の選手はたくさんいます。レギュラーメンバーでも2名は自宅から通っています。レギュラーになったら寮に入るという決まりはありません。 元広島の鈴木投手が指導 ―広島東洋カープを退団した鈴木寛人投手が後輩の指導に当たっていると伺いました。高橋 現在はアマチュア指導資格を回復して霞ケ浦の寮で後輩と過ごし、一緒に汗を流しながら貴重なNPBの経験を選手に伝えてくれています。 ―二季連続で茨城を制している明秀学園日立をどう見ていますか。高橋 とてつもなく強いです。経験豊富な猪俣投手を中心に非常にまとまりがありますし、打撃陣も破壊力がある。これだけのチームとお互い万全の状態で、序盤戦で当たってみたかった気持ちも少なからずありました。 ―最後に組み合わせに関する所感と、夏に向けての意気込みをお願いします。高橋 どんな組み合わせでも甲子園に行くときは行くし、負けるときは負けますので、組み合わせは関係ありません。(聞き手・伊達康)

コロナに翻弄、今も穴埋めしている 土浦日大・小菅監督【高校野球’22展望】

第104回全国高校野球選手権茨城大会が9日開幕した。出場を間近に控えた有力校3校の監督にインタビューした。第1回は土浦日大の小菅勲監督に、他校の分析と今年のチームの特徴、意気込みなどについて聞いた。 つくば秀英 勢い加わっていた ―春の大会は、準決勝でつくば秀英に1点差で敗れました。その振り返りと受け止めからお願いします。小菅 つくば秀英さんは春に霞ケ浦さんに勝って、チームに勢いが出ましたね。素材の良い選手がそろっていますし、シートノックを見ていてもしっかりと守れているので練習をやっているのがよく分かりました。そこに勢いが加わっていた。2回終了の時点で、相手の勢いを見誤っていたなと思いました。「前半が勝負。前半で攻め立てる」と選手たちに浸透仕切れなかったことが大きな敗因ですし、そこは私のミスだと思います。 ―つくば秀英投手陣については。小菅 五十嵐大晟投手(2年)、塚越伊織投手(3年)ともに良いボールを放っていました。こちらは初見のボールをしっかりと観察して、捨てるボールと勝負に行くボールの見極めがしっかりと出来てはいましたが、攻撃が遅くなってしまいました。 ―秋準決勝で対戦し惜しくも敗れた明秀学園日立は、その後、秋の茨城を制覇し、秋季関東大会で初優勝。センバツでは1勝を挙げ、春の茨城も制覇しました。明秀学園日立をどう見ていますか。小菅 各打者のスケールが大きく、エースの猪俣投手という軸がしっかりとしています。全国で勝てる力が十分ある。明秀日立さんが甲子園に行った2018年のチームに似ている印象があります。茨城県では頭一つ抜けている存在ではないでしょうか。格上に対してはチャレンジャー精神を持って、相手に欠けている部分と、自分たちの良い部分を織り交ぜながら挑戦していきたいです。 主将、指導歴でも稀有な存在 ―今年のチームは長打も打てて守れる選手がそろっている印象です。小菅 主将の武田優輝は勝ちたいという気持ちが非常に強くしっかりとチームをよくまとめています。去年はまだ突っ走っている感がありましたが、今年は上手く周りと同調しながら盛り立てて、いいチーム作りをしてくれています。彼は私が言おうと思っていたことを言いますし、2年生に対しても仲間として勝つために必要なんだという扱いをしてくれるので、なかなかこういうキャプテンとは出会えないと思わせる、私の指導歴でも稀有な存在です。 ―中心選手としては1年生から出場している吉次悠真選手も挙げられます。2年半の成長をどのようにたどっていますか。小菅 彼は器用ではないタイプで、黙って経験を積ませようという方針でやってきました。まだまだ失敗もありますが、目の覚めるような打球を放ったり、才能を感じさせるようなプレーがたくさん出ます。これまでは細かいことはあまり言わなかったのですが、いよいよ高校野球の集大成に入ってきたので、少しずつ修正点や課題を解消するために話し合うようになってきました。後は、大会で何かをつかんでくれればという段階に入っています。 ―中軸を打っている2年生については? 香取蒼太選手と太刀川幸輝選手はともに体が大きくて長打力が持ち味だと思います。小菅 香取は非常に長打力がありますし足も肩もある。試合経験を積みながら一つ一つ覚えていって、一歩一歩花を咲かせながら成長しています。太刀川については、非常に勝負強いです。野球への取り組みの良さが打席にも出ているなと思っています。 ―投手陣について。下級生から登板していた山田奏太投手と河野智輝投手、それに長身右腕の小森勇凛投手(2年)、それぞれの特徴を教えてください。小菅 山田は右のオーバースローで真っ直ぐと変化球のコンビネーションが特徴です。速さで押すというよりボールのキレで勝負するタイプです。本人が試行錯誤しながら今でも一歩ずつ成長しています。河野は右のサイドスローで、緩急とコーナーワークを織り交ぜながら丹念に打たせて取るタイプのピッチャーです。彼も本当にまじめでチームのために献身的にプレーしてくれます。小森は潜在能力が高く、球速があってボール自体はエース級です。荒削りではありますが素材としてはピカイチです。順調にいけば大学でエースになったり、その先も考えられる素材です。フィジカルとメンタルとテクニックが合わさったらすごく良いピッチャーになると思いますが、今はゲームを作る能力を磨いている段階です。 ―夏は特に期待する選手は。小菅 夏の大会は全員に期待しています。コロナ対策として試合ごとに登録変更が可能になっており、ベンチ外の選手もベンチ入りするかもしれません。この1年間、誰が欠けてもチーム力を落とさないでみんなで補おうというテーマを持って取り組んできました。常に準備しておいてくれと選手には伝えています。(次ページにつづく) 月曜日はオフ ―野球部のグラウンドと寮は土浦市内の学校から離れたかすみがうら市にあります。平日は学校が終わって何時に出発して、何時に練習を開始していますか。小菅 大体午後4時前に学校を出発し、4時30分頃に到着します。練習が始まるのは4時45分くらいからになります。 ―曜日によって練習の組み方が違うのでしょうか。小菅 月曜日はオフ。心身のリフレッシュのために完全休養としています。積極的休養か消極的休養かは本人に任せているので、グラウンドで練習している選手もいれば、完全に休養している選手もいます。 ―自主練習はどのようにしているのでしょうか。小菅 同級生同士で行うケースや先輩後輩で組んで行うケースがあり選手同士で上手く回しています。後輩に何かを伝えようとしているとか、先輩から技術を取り入れようとしているとか、自主練習で良い化学反応もたまに見られます。 ―現在の部員数は?小菅 82人です。 ―4年前には自宅から通いの選手が15人程度いると伺いましたが、今はどうでしょう。小菅 現在は自宅から通いの選手はいません。本人の希望で地元の選手でも全員寮で生活をしています。 ―寮には最大で何人入れるのでしょうか。小菅 最大で100人以上は入れますが、学年25人程度が適正じゃないかと思います。 ―一般受験でも入部はできますか。例えば公立を受けたけど落ちた、でも高校野球をやりたいという選手は受け入れてもらえるのでしょうか。小菅 一般受験でも入部できます。併願受験で結果的に公立に落ちて本校に入部したという選手がレギュラーで活躍することもあります。高校野球をやりたいと言っているのに断る理由がありません。高校野球を3年間全うしてこそ見える景色がある。その景色を見せてあげることは指導者としての一つの使命なのではないかと思います。 土浦市内大会、夏をイメージできる経験に ―先日、作新学院(栃木)と試合を行いました。どうでしたか。小菅 やはり強豪チームと背番号を付けて球場でやるというのは練習試合とは違った様相がありまして、夏の大会をイメージできる経験になりました。良くも悪くも土浦市内大会がきっかけになることがあります。2018年にも横浜高校(神奈川)が招待されて真剣勝負をさせてもらったのですが、夏の大会に優勝できるイメージが持てる試合ができました。今回、作新さんとは点差が開きましたけれど、向かっていく気持ちを持って臆することなくできましたので、そういう意味では良いバロメーターになったと思います。 ―最近の練習試合での手応えはいかがですか。小菅 練習試合は結果よりも結果につながるプロセスを大事にしています。負けた試合でも食らいついて最後1点差に迫ったり、何かしらの収穫があります。選手にも、練習試合でミスをした、打てなかったからといって、絶対に自分のこと仲間のことを不信に思ってはいけないよと言っています。練習試合を通して、試合のポイントを明らかにして、こういう気持ちで臨んでいれば結果は後から着いてくるというような、選手の野球に対する取り組みと、夏の大会に向かっていくチーム作りは着々と前進していると思いますね。こういった蓄積を大会で発揮したいと思います。 野球の喜びや感謝を集約できれば ―3年生には最後の大会。どのような軌跡をたどって来たか総括してください小菅 広い意味でコロナに翻弄された3年間でした。こちらが求めているよりも、体力や気持ちがついてきていない部分があり、今でもその穴埋めの作業をしています。それは大会中の最後の最後まで続くかもしれない。逆に言えば何かミラクルが起こる可能性もあります。ようやく野球が出来るんだという喜びや感謝を大会に集約できればいいなと思います。誰かが仲違いしたり、練習に身が入らない時期があったりと、チームの中ではいろいろと紆余曲折ありました。それでもやっぱり最後は仲間で最高の思い出を作ろうねと、今は一致団結している段階に入っています。 ―最後に、夏の大会への意気込みを。小菅 今年の3年生はコロナ3年目で、いろいろとつらい思いや、野球をできなかった期間を経験しています。ただただ夏の大会ができるという喜びを感じて大会に臨んで欲しいなと思います。彼らが掲げている目標は甲子園で勝つことです。私も1年間、彼らがそのことが達成できるように頑張ってきたので、後は大会が終わってから夢がかなうかどうか。本当に一戦一戦頑張って戦い抜いて欲しいと思います。(聞き手・伊達康)

「欲を出さないで頑張るしかない」 霞ケ浦 高橋監督【高校野球’21】

一昨年の夏に優勝し、昨年の独自大会でも優勝(4校優勝)と、この夏は3連覇をかけて戦う霞ケ浦。昨秋は準決勝で鹿島学園に敗れ関東大会出場を逃した。春は好投手・樫村佳歩擁する水城に県大会初戦で逆転負けを喫している。高橋祐二監督(61)にチームの現状を余すことなく語ってもらった。 勝てる力あるが、もろさある ー常総学院や土浦日大が入るゾーンです。組み合わせについて所感を伺いたいと思います。 高橋 特にありません。よそのチームを考える余裕がない。今年のチームは勝てる力はあるとは思うけど、簡単に負けるもろさもあり、霞ケ浦の本来の計算した、理詰めの野球が成立していません。監督を始めて12年目で初めて、決勝に行ってある程度こういうチームをつくればなんとか戦えると手応えをつかんで準決勝、決勝までは勝ち進んでいましたが、今年は21年目にして初めてその力がないかもしれません。強いチームを倒す力はもちろん秘めていますが、簡単に負ける可能性もある。そんなチームです。今年はピッチャーが計算できない。野手陣も戦力的には大して毎年変わらないと思うのですが、ものを考える力が不足しているとか、勝ち方を知らないとか、こちらにあまりついてきてくれていない部分が大きいのかもしれないですね。厳しいゾーンではありますが、同一ブロックでシードの土浦日大にしても常総学院にしても戦えないとは思っていませんが、目の前の相手、一戦一戦を戦っていくしかないのかなと。大それたことは言えない状況ですね。 ー現有戦力の分析をお願いします。歴代チームと比べてどうでしょうか。 高橋 1年生の夏に甲子園に行った飯塚恒介(3年)と宮崎莉汰(3年)がチームの完全な柱になり引っ張っていくような形が理想なのですが、そうなっておりません。飯塚についてはそれに近い存在にはなってきていますが、宮崎は全くですね。本来甲子園に行けなくても1年生から起用してきた選手は例年3年生になると完全な柱になってきました。ピッチャーでも野手でもそうですが今年はそうなっていません。戦力的には例年と変わりませんが、内面的な部分が相当弱いです。 ー技術的な部分ではなく、あくまで内面的な部分ですか。 高橋 内容的な部分がダメだから技術的な部分に影響を及ぼすのだと思います。チームの中心にならないといけない存在なのになっていない。3年生と2年生は持っている技量を引き出すだけの頭がないのか心がないのか、非常に残念ですね。僕自身は毎年チームづくりの仕方は変えていません。僕としてはある程度ここまでできたらなという指標のようなものがあるんですけど、今年のチームはそこまで届いていません。今年の子たちはチームワークが良いとは言えません。自分だけが良ければそれで良いという風に感じ取れる部分がある。霞ケ浦の野球って基本的に一人の力がなくても、糸だって100本あればロープになる。一本が細くても束になれば強くなるという野球なんですよ。それが今年は全くそうなっていません。例年同じようにチームづくりをしていても、根本的なところは押さえた上で、その年の3年生の性格によってチームカラーが出ます。今年は根本的なところを押さえられないまま最後の夏を迎えることになってしまいました。あめを使ってもむちを使っても通用しませんでした。 コロナが心に影響、例年とは違う ーそれはコロナの期間を経験した影響からですか。 高橋 2年生はコロナの影響があるかもしれないですね。やっぱり一番大事な4月から6月にかけての時期に霞ケ浦高校野球部として感じなければならないことを感じてこないで、やってこなければならないことをやれないでいて、去年の1年間を過ごしたってことが今の2年生にとっては非常に影響を及ぼしているので、ちょっとピントがずれているところがある気がしますね。やっぱりこれだけたくさん練習をやって試合をこなしてきているのだから、全ては想定内のことで進んでいかないといけないといけないのに、今年はエッと驚くような考えられないプレーが起きる。監督が選手を掌握できていません。そういうチームはダメだね。これがコロナの期間が影響してこうなったのか、どうして今年はこうなのか答えは出ていません。来年どうなるか、これからは毎年そうなのかもしれませんね。ほかの強豪校の監督と意見交換すると、どこの監督とも「コロナが選手の心の成長に何か影響しているのかもしれないですね。例年とは違いますよね。」という話になります。高校生活をしていく中で一番大事な時を失ってしまった子たちですからね。 ー春の県大会は初戦で水城に敗れました。注目投手の樫村佳歩君と対戦してみてどうでしたか。 高橋 良いボールでした。もう1回やりたいね。リードしていたのに余裕がなくて守備から崩れて一気に6失点。そういうところが例年のチームと違う。守り勝てなくてビッグイニングをつくってしまうから。本当に何が起きるか分からない。 ここに来て山名が急成長 ーピッチャーについて伺います。春に背番号1だった渡邊夏一投手(2年)はどんな状態ですか。 高橋 当然期待値は高くて水城戦で先発したように春は主戦で投げていましたよ。でも、打者に向かっていけない。なおかつ打たれてしまうので自信を喪失して余計に気持ちが乗ってこない。本人が一番そのことを分かっていると思うので、期待のままにずるずるとベンチに入れてしまうよりは、一回奮起を促してどれだけ爆発できるかというのを見ていこうという考えではいますが、どうなるか大会まで分かりません。 ーそれでは夏の主戦投手は誰に? 高橋 山名健心(3年)です。唯一の救いはここに来て山名が急成長したということです。先日の東京の強豪校や山梨の強豪校と良いピッチングを披露して、山名が今一番自信を持っていますね。僕が見ていてもこれだったら勝負できるなと。あの時のピッチングが本番で出せるかどうかですね。ストレート自体も良くなりましたけれど、変化球が格段に良くなりました。 ー長身右腕の赤羽蓮投手(2年)はどうですか。 高橋 赤羽は成長がゆっくりですが、本人の自覚も徐々に出てきて成長を感じます。ベンチにも入りますね。 ー付属ボーイズでエースとして活躍していた木村優人選手(1年)はどうですか。 高橋 本人がピッチャー志望ですからピッチャーをやらせているのですが、そこそこきっちりと投げますけれど、まだピッチャーらしいピッチャーではないです。素材としては学年では一番良いと思います。夏にはベンチに入ります。野手としての可能性も感じます。 ーベンチ入りするピッチャーは全部で何人ですか。 高橋 山名、木村、山田、赤羽、飯塚です。 ー1年生の木村君が2番手候補なのですか。 高橋 一番良いボール投げますからね。それに野球を知っています。ポテンシャルは兄(翔大・東洋大4年)にも負けていないですよ。 ー飯塚選手も投げるのですね。 高橋 まあ投げることはないでしょうけど、緊急登板なんてことも想定しています。もう1枚どうしようかと今考えているところです。 ー調子が上向きの選手を挙げるとしたら誰ですか。 高橋 ピッチャーは完全に山名ですね。野手ですか。野手はどうでしょう。見当たりませんね。 ー一番打っているのは誰ですか。 高橋 それは間違いなく飯塚ですね。パンチ力がありますね。30本くらいは打ったんじゃないかな。専大松戸の深沢君からも打ちました。 ー春の大会以降はどんなところと練習試合をしてどんな結果でしたか。 高橋 4月中に強豪校と複数試合を組んでいましたが、県外とは禁止となって、県内のチームとやらせてもらいました。水戸一、藤代、土浦日大、石岡一、下妻一。後は土浦市内大会ですね。下妻一以外とは全敗でした。水戸一には0対2でしたね。石井陽向君にものの見事に完封されました。素晴らしい。石岡一には0対6でやられました。植村塁君が一番良いと思いましたね。ものが違う。石岡一は本当に強いです。4月5月は県内の公立高校にたくさん負けました。6月に入って健大高崎と前橋育英に勝たせていただいてから徐々に調子が上向きになってきました。そして先日は東海大菅生と二松学舎と良いゲームをやらせていただいて。東海大甲府とは1対2で負けましたが、山名が完投して5安打。非常に良いゲームができて自信になったと思います。こんな良いピッチャーがいるのかと村中監督に言われたくらいです。本当に素晴らしい内容でしたので。 3連覇がかかった大会 ー監督の中では勝ち上がるイメージプランは出来上がっていますか。一昨年なんかはもう勝ち上がるプランをおっしゃっていただいて、そのとおりに投手起用されて優勝できましたが。 高橋 組み合わせが決まったら毎年ここで誰が投げようというプランを立てるのですが、今年はそういうのがないですね。本当にどうしたらいいかが分からない。こんな年は初めてです。エースを初戦からぶつけるしかないのかなと思います。でも球数制限があるからエースだけでいくと、1試合150球を4試合で、1週間のうちに600球投げることになって制限オーバーしてしまうんですよ。移行期間ではありますけど、その辺を考慮しないといけませんね。先のことを考えるのではなくて、目の前の試合を勝つと考えた時に、この投手で負けても仕方ないと思って起用するしかないかもしれませんね。今までの年とは違います。今まで2回甲子園に行っていますが、いずれも秋春の関東大会に行っていない年なんですよね。今年も関東大会に行っていないから、そういう意味では良いジンクスが共通するのですが、実績のない年の戦い方と今年の戦い方はどう考えても違うんですよね。 ー最後に、夏に向けて意気込みを語っていただきたいのですが。 高橋 それはもちろん甲子園を目指していますよ。去年の独自大会は優勝(大会はベスト4で終了)しましたし、一昨年の選手権は優勝していますので、夏はまだ2年間負けていません。3連覇がかかった大会なので今年も優勝を目指していますが、本当にうちは初戦で負けるかもしれません。チームがこういう状況なので欲を出さないで頑張るしかないですね。 ーどういう戦いになるのか楽しみにしています。(聞き手・伊達康) 監督インタビュー終わり

「不足していた糧が満ちてきた」土浦日大 小菅監督【高校野球’21】

土浦日大はこの夏をどう迎えるのか。秋はまさかの県大会初戦で敗退、春は準優勝の常磐大高に準々決勝でタイブレークの末に惜しくも敗退した。小菅勲監督(54)に大会への意気込みやコロナ禍がチームづくりにどう影響したかなどを語ってもらった。 厳しいゾーン、身が引き締まる ー組み合わせですが、常総学院ゾーンに入り、霞ケ浦も同じゾーンになりました。そのほかに好投手を擁する多賀や水戸葵陵などの中堅私学が入っています。まず、このゾーンに入った所感をお聞かせ願います。 小菅 厳しいゾーンです。非常に身の引き締まる思いがします。私は毎年、何回戦でどこと当たるといったことはほとんど見ないで大会に臨みます。勝ち上がりの予測が外れることも少なくありません。初戦、もし多賀高校さんが勝ち上がってきますと、神永耀生投手(3年)と対決することになります。去年常総学院に投げ勝った良いピッチャーです。そのほかに川井虹投手(3年)も良いボールを放っています。 ー右の好投手2枚に対して何か対策は考えていますか。 小菅 県内の好投手の情報は、年間を通してチーム内で共有し、対策を練っています。当然その中に神永君も入っていました。それを確認し直したいと思います。昨今はカット系、チェンジアップなどの特殊球を多投する投手が多いので、練習試合の中で対応してきました。選手はそういうピッチャーに対応しなければ勝てないということはよく分かっていますので、それをもう一回おさらいし、再認識するということだと思います。 負けに不思議の負けなし ー秋の県大会初戦の敗戦から冬場はどのように過ごしてきましたか。 小菅 秋に初戦で負けたことは絶対にその原因がある。“負けに不思議の負けなし”で、時間をかけて修正をしてきました。ようやくこの春になって、こちらが感じている以上に自分を「重くして」しまう選手が多くて、逆境の時に見せる姿が分かるようになってきました。逆境をはね除ける糧が、昨年からのコロナ禍で足りないと思っています。これまで、去年1年の真剣勝負の積み重ねが欠落していました。春の大会の戦績は満足できるものではありませんでしたが、ようやくここに来て不足していた糧が満ちてきた感があります。チームにもまとまりが出てきました。全員で、大会の時ももっと良い声掛け、あるいは結束が出来ると思っています。チーム力としては、十分に優勝の可能性があると信じています。特に野手は能力の高い選手がいます。“大会を通して成長を果たしていく”のが優勝チームだと思います。1イニング1イニング、一戦一戦で成長していきたいです。その姿を見ることが楽しみです。 エースは小谷野、3人で回す想定 ー戦力について伺います。夏はどのような布陣になりそうでしょうか。 小菅 昨秋にベンチ入りしていなかった小谷野奨大(3年)がエースナンバーを着けます。2番手、3番手の山田奏太と河野智輝は2年生です。秋からはレギュラーが2~3名入れ替わり、背番号二桁の選手も秋から4~5名入れ替わりました。チーム全体で「切磋琢磨」ができました。 ー小谷野投手はどんなタイプの投手ですか。 小菅 左投げで180センチです。大柄な割に制球力がよくて,ストレート、カーブ、スライダー、チェンジアップを満遍なく操れるピッチャーです。 ー秋に1番をつけていた山田投手はどんな調子でしょうか。 小菅 ここ3カ月くらいでかなり成長してきました。彼もボールの勢いで勝負するタイプではなく、コントロールや試合をつくる能力と、強気なピッチャーなのでピンチでも向かっていける要素を持っています。ベストな状態で臨めると思います。身長も伸びて170センチ後半になったと思います。以前は少しぽっちゃり系だったのですが、この3カ月くらいで体脂肪もコントロール出来てきて、その分ボールのキレも増したように思います。 ー河野投手はどのようなタイプの投手ですか。 小菅 右サイドスローです。落ち着いていて淡々としたピッチャーです。大体この3人で回す想定ですが、4人目には、この数週間でいちばん調子の良いピッチャーを入れたいと思います。 ー秋はたくさん下級生がベンチ入りしていましたが、夏は3年生が入ってくるのでしょうか。 小菅 やはり3年生が巻き返し、夏は3年生が増えました。20人中15~16人くらいが3年生になるのではないでしょうか。 去年秋は衝突、産みの苦しみを経験 ー野手陣について伺います。下級生の時から中心選手であった菅野と芹澤、1年夏からスタメンを張っている吉次悠真が春の大会では2番、3番、4番と上位を打っていました。3選手が特に注目を浴びていますが、各選手の状態を具体的な数字などを交えて教えてください。 小菅 正確な本数を把握していませんが、菅野と芹澤は通算本塁打が20本弱で同じくらいの数字だと思います。吉次は一桁台です。トーナメントで求められるのは“勝負強さ”です。“一球入魂”の精神です。あまり本塁打数などは求めていません。本人の励みにしてもらう程度です。まずけがなくここまで来ているというのが良い材料です。菅野と芹澤の2人でチームを引っ張っています。去年の秋にはお互いに衝突したり、冬の間は口論したりと産みの苦しみを経験しました。それだけ2人でチーム作りを真剣にやっているという証拠です。今は同じ方向に向かっています。非常に頭の良い子たちなので、2人でしっかりと考えてチーム作りをやってきたと感じています。後は責任を背負いすぎないようにして欲しいなと思います。今のところは心身ともに充実していると思います。 ー菅野は何球団かスカウトがチェックしに来たという話があります。 小菅 巨人と楽天、中日が来ました。菅野は183センチで90キロと恵まれた体格でありながら100メートル走を12秒切るスピードがあります。そういうデータを知っているので追っているのでしょう。現状では大学経由などワンクッション置いた方がいいでしょうとスカウトも言っていますし、私もそう思います。本人もその辺は理解しています。補強ポイントとして見に来るチームもいるということです。 ー春の大会で1番を打っていた武田優輝と5番の荻原康誠はどのような選手ですか。 小菅 武田は非常にガッツマンでチームのリードオフマンにふさわしい人間です。2年生ですけれども、よく声が出て元気がある。芹澤と二遊間でコンビを組んでいますが、いい「化学反応」を起こしています。時には芹澤が武田に引っ張られながらやっている感じもあります。荻原は学習成績もトップクラスで、練習も一番やる模範中の模範の選手です。自分の真面目さを貫き通して自己を確立してきました。この3カ月くらい試合でも打っていますし、荻原が打って助かった、救世主となった試合が数多くあります。 ーそれでは5番は荻原で決まりですか。 小菅 候補の一人ではありますが固定はしません。警戒される芹澤・菅野の後を打つ重要な役割でありますから、候補は何人かいます。ケースバイケースで決めます。 ーほかに調子が上向きの選手はいますか。 小菅 去年から出場していましたが、中村陸人(3年)です。足も速いです。紆余曲折あって自己が確立できていない時期もありましたが、最近ようやく夏の大会に勝つんだという気持ちが見えるようになってきました。後は高内大翔(3年)ですね。この選手も気持ちの浮き沈みがありました。自分の路線、役割、あるべき姿を確立するのに時間がかかったのですが、ここ2週間ほど非常に良い状態でして期待しています。また大島優太朗(3年)という選手も調子が上がってきました。うちの選手はみんな真面目なんですが、彼は大らかなタイプです。チームの中に一人や二人、考えすぎないような選手がいると良いスパイスになるので期待しています。 ー1年生はどのような状況ですか。 小菅 1年生は促成栽培せずにゆっくりつくっています。秋に照準を合わせてじっくりと仕上げようと話しています。コンセプトも理解してくれて、主体的に練習に取り組んでいます。 感謝の気持ちあふれてる ーコロナを経験してチームの取り組みとして変化はありましたか。 小菅 まず3年生は「今年は選手権ができて本当にありがたい」という気持ちがあふれています。やはり去年の3年生を目の当たりにしていますから。この間保護者会の壮行会があって、保護者の前でキャプテンの芹澤があいさつをしていました。「本当に大会が開催されることに感謝しています」と言っていました。本音だと思います。後は、このチーム、この世代は仲が良い。3年生のチームワークが非常に良い。皆で頑張って甲子園に行こうよという感じは出ています。なおさらいろいろと制約された中で練習や練習試合をやってきました。本当に練習試合が厳しかったんです。うちはよくても相手がキャンセルを申し出る。直前の金曜日にお互いにやっぱり行けない。本当にいろいろなところと情報交換しながらも、毎週欠かさずになんとか練習試合ができました。有り難かったです。 心は熱く、頭は冷静に ー最近見た試合で、選手同士が「おおらかに、おおらかに」と声を掛け合っていました。何かきっかけというか、こういう声掛けをするようになった理由はあるのでしょうか。 小菅 私は常日頃から野球はガツガツとやるものではないと言っています。人によっては野球を格闘技に例えたりしますよね。一瞬一瞬のプレーではボルテージが上がりますが、特にバッティングなんかではおおらかさを忘れてしまうとがっついてしまうので、頭は常に冷静にすることを大事にしています。そういったことでおおらかにという声掛けが出るのかもしれません。心は熱く、頭は冷静に、一言で言うとおおらかにとなると思います。 ーこれをチームのテーマとして取り組んでいるのでしょうか。 小菅 自然とテーゼとして流れています。ゲームの時も、選手だけで集まってピッチャーのこと、配球のことを言い合っています。頭は冷静でおおらかさを失うと実のある打ち合わせはできないですから。相手を分析する面など、野球偏差値もかなり良い感じに高まってきています。 ー去年のインタビューでは球速を上げたり投球を改善するために一貫して取り組んでいることがあるということでした。現在でもこの点は変更がありませんか。 小菅 一貫して取り組んでおります。毎月ラプソードを借りて回転数や変化球の精度を計測して「ピッチトンネル」を測っていますし、成果があったと確信しております。 ーピッチトンネルとはどのようなものですか。 小菅 同じ球筋、同じトンネルを通過してから変化させるのが有効という考えのもとにボールの軌道を修正する作業です。当然カーブのように目線を上げる球種もあるのですが、力んだり抑えてやろうとなるとなかなか上手くはいきません。同じ球筋を通ってから変化するという、大きく曲がりすぎることがないように意識しながらやっております。 ー今大会は球数の制限はどのようになっているのでしょうか。 小菅 1週間500球で、試合日を起点として前1週間です。決勝戦を起点として4回戦からの4試合が問題になると思います。去年準々決勝までいった時に球数を見せられて(前1週間が)300球程度だったので、この調子でいくと決勝戦で球数制限を超えるんだなと感じました。高校野球はトーナメントです。勝たないと明日がありません。流れと試合展開をよく見ながら、500球ルールに対応していきたいと思います。 ー木内幸男監督が昨年11月にお亡くなりになりました。小菅監督は、甲子園を制覇を果たした1984年の取手二高の優勝メンバーでした。木内監督から受け継いだことや思いなどをお聞かせ願います。 小菅 最後に会ったのは亡くなられる1年ほど前でお元気でした。いつものようにずっと野球の話を興味深くされていました。木内監督から学ばせて頂いたことは1冊の本になると思います。お亡くなりになられてとても残念ですが、悲しい気持ちを決意に変えていきたいと思っています。大事なのは木内監督の遺志を継いで、次の世代の者が高校野球を発展させていくことです。木内監督の気概、「甲子園で勝つ事が教育になる」ーを胸に刻んで励んでいきたいと思います。(聞き手・伊達康)

「気持ち負けなければ結果付いてくる」常総学院 島田監督【高校野球’21】

第103回全国高校野球選手権茨城大会が8日開幕する(6月23日付)。有力校はどのように夏を迎えるのか、監督に話を聞いた。第1回は茨城が誇る名門・常総学院の島田直也監督(51)だ。 常総学院は昨年夏の独自大会以降、投手コーチであった元プロ野球選手の島田氏が監督に就任し、秋季県大会で準優勝した。秋季関東大会では破竹の勢いで勝ち上がり、準優勝の末、6年ぶりに春のセンバツ出場権を獲得した。センバツでは6年ぶりの勝利を挙げ、島田監督にとっても甲子園初采配初勝利の記念すべき試合となった。センバツ以降、チームとしていかに過ごしてきたか。大会前の意気込みなども存分に語ってもらった。 チャレンジャーのつもりでやる —常総学院の組み合わせゾーンには県南地区の強豪校である霞ケ浦や土浦日大が入り激戦ゾーンといわれています。組み合わせをみて島田監督の所感をお聞かせください。 島田 相手はどこでも一緒だと思っているので、ただ自分たちの力を出せば頂点までいけるんじゃないかとは思っています。厳しいゾーンではありますが、うちは1試合1試合チャレンジャーのつもりでやるだけです。 ーセンバツのお話をお聞きしたいと思います。センバツは1回戦のタイブレークを制して敦賀気比に勝ち6年振りの甲子園勝利ということで、県内の高校野球ファンに大変明るいニュースを届けていただきました。島田監督にとっても甲子園初采配初勝利ということで、記念の試合になったと思います。次戦では中京大中京の好投手・畔柳亨丞投手を打ち崩すことができませんでした。センバツの総括をお聞かせください。 島田 僕も夏に監督に就任し、当然、高校野球の指導は初めてでしたし、僕の今まで経験したことを選手たちに伝えられたら良いなという思いでまずやっていて、その先に甲子園というものがあったので、そこを目指すためにはこういうことが必要だよと思いながら指導してきました。とりあえず甲子園に行けたことについてはホッとしたというか、良かったなというのが前提です。そこで、今度は全国に行って勝たなくちゃいけないということで冬の間に練習をしました。センバツでは1回戦でタイブレークで苦しみながらもチーム全員で勝って勢いに乗るかなと思ったんですが、2回戦は全国でも屈指のピッチャーに当たってしまうと、まだそこまでのレベルには達していなかったなというのが印象ですね。 ー畔柳投手についてはどのような印象を受けましたか。 島田 やっぱりマシンで150キロ近くのボールは打てるのですけれど、人間の動作が入ってタイミングを合わせてとなると難しいですね。本当に選手たちも初めて全国でも屈指のピッチャーや打線と対戦できたので、良い経験ができたんじゃないかなと思いますけれども、あのようなすごいボールを投げるピッチャーは関東にはいないので、なかなか対応できなかったというのが印象ですかね。 ー畔柳投手のボールを経験したことで、春の関東大会では怖い相手はいなかったのではないかなと思うのですが、春の関東大会ベスト4という結果についてはいかがお考えでしょうか。 島田 優勝を狙っていたので、準決勝で関東一高に負けてしまって当然悔しい思いもありました。それでもやっぱり当たり前のことができなくてミスで負けたのでね。そういう当たり前のことができないと夏は足をすくわれるよということは選手たちには言いながら今まで取り組んできてはいたのですが、センバツ以降、春の関東大会まではあっという間で、なかなか当たり前のプレーの確認ができなかったことが影響していますね。 大川と秋本のWエースに ーピッチャーのことについて伺います。大川慈英投手はセンバツ後に春季県大会で背番号1のエースとして関東大会をたぐり寄せる大活躍を見せたと思います。大川投手について、これからどのような投手に育って欲しいですとか、今後に寄せる期待値などを教えていただければと思います。 島田 秋本璃空の調子が悪かったということがあって、大川を1番にしたんですね。大川はポテンシャルが高いと思うのですが、自分の良い球をまだただ投げているだけで、上手く場面に応じて使うことが出来ていない状態ではないかなと思います。そこがしっかりと出来るようになったら秋本と一緒くらいに嫌なピッチャーになると思うんですけど。僕から言わせたら、まだ、ただ投げているだけという印象ですね。 ー秋本君は関東大会でベンチ入りしませんでした。現在どういう状態でしょうか。 島田 調子が悪かったので関東大会は無理をしませんでした。夏には間に合うと思います。エースナンバーは競争の末にまだどちらになるか分からないですね(6月29日のインタビュー時点)。 ー春の関東大会では3年生の時岡秀輔投手が好投しましたし、1年生の中林永遠投手が県大会で公式戦デビューを果たすなど投手陣の明るい材料がありました。大川君、秋本君以外に、島田監督が期待する現時点の3枚目、4枚目のピッチャーを教えてください。 島田 難しいなあ。正直現状ではいません。時岡とか中林、2年生の石川大翔もそうですけど、経験させながら自信を付けさせようと思っているのですが、まだあの2人の次に任せられるかというとまだまだそこまで行っていないですね。ただ、大川、秋本の2人だけでは絶対に夏は勝てないと思っていますし、当然、先ほど名前が挙がってきたピッチャーには頑張って欲しいなという気持ちはありますね。 ー序盤戦では2枚のエースは温存しておきたいというお気持ちはありますか。 島田 球数制限とかそういうのはあるので、登板の間隔なんかを考えなければならないとは思うんですけど、彼らにとって高校野球の最後の大会です。1試合でも落とすわけにはいかないですよね。ですので、1試合1試合ベストのメンバーでいくしかないのではないかと思います。 夏も4番は田邊 ー田邊広大捕手は4番も板に付いてきたと思いますが、夏も4番は田邊君でいくというお考えでしょうか。 島田 打順はどうなんですかね。田邊は責任感があるので頼りになりますし、春の良い流れをそのままにしたいという思いもありますね。たぶんそうなるとは思います。 ーそのほかに三輪拓未選手や宮原一騎選手、鳥山穣太郎選手、伊藤琢磨選手など3年生の調子の良い打者を試合ごとに見極めて上位を任せているように思いますが、この辺は不動のメンバーでしょうか。 島田 3年生だけに任せるということはないですね。2年生の力も当然必要になってきます。ある意味、鳥山も宮原ももう少し頑張ってもらわないとどうかなという、下からの突き上げはきています。センバツに出たからといってレギュラー確約という訳ではないので、そういう意味ではチーム力自体は上がっているのかなと思います。最後の最後まで競争をさせますね。 ー1年生の夏のスタメン起用もありますか。 島田 それはちょっと。若い力も必要ですけども。春は当然経験を積ませたいということもありますが、夏はレベルが見合っていれば当然ベンチに入ると思います。現時点では3年生に比べれば弱いという部分がありますのでね。経験を積ませるためにベンチ入りさせるほどの余裕がないので、どうなるかなという感じですね。 ー秋本投手はバッティングセンスも大変素晴らしいものを持っていると思います。もし投げない時でも代打での起用はありますか。 島田 十分あるんじゃないですか。 母校のため、使命感が勝った ー続きまして、島田監督のことを伺いたいと思います。去年、コーチになられたときの経緯を教えていただけないでしょうか。 島田 学校から連絡がありまして、ニュアンス的には常総を助けてくれないかという感じで話が来たんですけども、やはり僕はNPB(日本野球機構)の方で仕事をしたいという思いがあったので最初は断っていたんです。ただ、熱意というか、お話させてもらっているうちに、僕もこうやって野球界に携われているのも常総学院のおかげだし、自分の力で何とかできるのであればそれも恩返しになるのかなと思いまして決意しました。一度アマチュアに来てしまえばもうプロには帰れないので、決断するに当たって相当に迷いました。でももう50歳も過ぎていましたし、なんと言うんですかね、まあこういう、誘ってもらっている時に行かなくちゃダメなんじゃないかなっていう使命感が勝ってNPBの方は諦めたという思いで、母校のために頑張ろうという気持ちで引き受けました。 ー恩師の木内幸男監督(故人)には報告されたのでしょうか。 島田 常総にお世話になる去年3月のタイミングで一回あいさつに行って、秋の関東大会が終わった後にあいさつに行きましたので、しっかりとお話は出来ています。 ーセンバツでは6年ぶりの1勝を挙げるなど、常総ファンのみならず茨城県の高校野球ファンも県勢の久しぶりの勝利に酔いしれました。昨夏の監督就任からこれまでのことを振り返って、感想をいただけたらと思います。 島田 周りが実際にどう思っているかは分からないですけど、僕自身は本当に監督就任によって勝って当然だって思われているんだろうなとは感じていましたし、結果を残すことについてずっとプレッシャーを感じていました。僕もプロ野球界の中でやってきたので、プレッシャーには強い方かなとは思ったんですけどね。でも高校生はトーナメントなので、1回でも負けたら終わりですからそういう難しさというか、トーナメントの戦いというのもまだまだこれからも勉強すべきことだと思います。いろんなプレッシャーは本当にありましたよ。ただ、結果が少しずつ付いてきていたので、それは良いことなんでしょうけどね。余りにも順調に行き過ぎて何か怖い部分もありますよね。チームを勝たせることももちろん大事なんですけど、本当に当たり前の話で、あいさつとか整理整頓とか、それが出来ればプレーにも反映されると思っているので、そこはずっとうるさく言っていたかな。 センター前に強く低い打球を打て ー選手とのコミュニケーションなんかで苦労されたことはないですか。 島田 なかなか僕も人見知りのところがあるので、極力選手と話そうとは思ってるんですけど、なんせ部員が100人近くいると一人一人と話すのは難しいところです。極力コミュニケーションを取ろうとは思っていますけれど、選手たちは物足りないと思ってるんじゃないですかね。 ーこのチームはバッティングがすごく良いなという印象があるのですが、バッティングは監督ご自身も経験から勉強されながら指導されているのでしょうか。 島田 全然指導してないですよ。バッティングは水ものだと思っているので。それよりは小技とか当たり前のことの方が大事かなと思っていますので、それを練習するようにしています。練習してはいますが、まだまだ出来ていないですね。後は、強く振るのも結構なのですが、形を意識して軸を意識した自分のスイングをしてくれと。センター前に強く低い打球を打てということを常日頃から言って意識させています。 悔しくてしょうがない ー今年のチームカラーを監督の目線で解説願います。 島田 どうなんでしょう。僕もまだ分かってないというか、ああいう若い子たちをどうやったら上手く波に乗らせることが出来るのかなと、そういうことしか考えていなくて、ただその中でも厳しさも教えなくてはいけないと思っているんですよね。監督就任当時はそんなに口うるさく言っていなかったんです。ですが、センバツでのあの手も足も出なかった惨めな試合をして帰って来てですね。僕は本当に3月27日というのは悔しくて悔しくてしょうがないんですが、なんか子どもたちは悔しさも何もなくて甲子園に行ったことに満足しているように感じたんですね。ちょっとそれは違うなと思って、甲子園から帰ってからは逆に今度は口うるさく言ってきているんです。でもちょっとその状況もここに来て慣れて来てしまっているのかなという感じで、難しいなと。どうやって指導していくのが良いのかなというのはまだまだ僕も勉強中ですね。 ー就任当時は探り探りだったが今は大きな声で指示をしていると。 島田 就任していきなりは無理でした。最初は子どもたちがどういう野球をやるのかなと思ってあえて何も言いませんでしたが、やはり課題が出てからはこういうことをやっていこうということで、それが上手くいって関東大会まで行ってあのような成績になったのだと思いますね。今は甲子園に行って帰ってきてから僕と同じレベルで悔しいと思ってくれているだろうと思っていたら、違う方向に行ってしまっていたので、ちょっと待てよと。センバツから帰ってからレポートを出させたのですが、「悔しいです」とか、「一球に対する執着心がなかったです」とかいうことを書いているのですけれど、何か練習からはそういう風には見えないので、そこが転機となって結構今は口うるさく言うようになりましたね。甲子園の借りは甲子園で返すしかないと思っているのですが、なかなかそういう感じには見えないなというのが甲子園から帰ってきてからの印象ですね。 ーそれが4月だったり5月だったりという段階で、今6月を終える段階で上り調子にはなってきているのでしょうか。 島田 いや、なっていないと思いますよ。秋にギラギラしていたものが今は見えないですね。あくまで僕がそう感じているだけですよ。 ー最後に、夏の大会に向けた意気込みをお願いします。 島田 本当に3年生にとって最後の試合ですし、春のセンバツも良いところですけど、それ以上に夏の甲子園というのは良いところですので、最後はみんなで笑って終わるためにも絶対甲子園に行かなくちゃいけないなという気持ちは、もしかしたら選手以上に思っているかもしれません。当然、他校はみんな打倒常総で来ると思うので、気持ちだけは負けないように、自分たちの野球さえできれば勝てると思うので。それができなければ結局勝負ごとなので負ける可能性もありますけれど、とにかく2時間と少しの試合時間を集中して、最後まで全力プレーでできたら自然と良い結果が付いてくると思っています。(聞き手・伊達康)

常総学院、センバツ出場決める 5年ぶり10度目

【伊達康】第93回選抜高校野球大会の出場校を決める選考委員会が29日、大阪市の毎日新聞社大阪本社でオンラインで開かれ、関東・東京地区から土浦市の常総学院が選ばれた。5年ぶり10度目の出場。組み合わせ抽選会は2月23日。大会は3月19日に兵庫県西宮市の阪神甲子園球場で開幕する。 常総学院は昨秋の関東大会で準優勝し、選出は確実視されていた。午後3時45分過ぎに朗報がもたらされると、島田直也監督(50)は「関東代表として気を引き締めてこれからも練習していきたい」と目尻にしわを寄せながら満面の笑みで語った。 主将の田邊広大は「(センバツ出場は)『当確』として練習してきた。正式に決まったということで、素直にうれしい。今日からまた全員で頑張りたい。自分たちが出来る最高のプレーをしたい」と意気込みを語った。 常総学院は昨秋の県大会で鹿島学園に競り負け準優勝となったが、関東大会では1回戦で前橋商(群馬2位)に9-0で7回コールド勝ち。準々決勝は優勝候補と目された木更津総合(千葉1位)を終盤に突き放して9-1と快勝すると、準決勝で東海大甲府(山梨1位)を10-0の6回コールドで退けた。 決勝は連覇を狙う健大高崎(群馬1位)に8回までリードを奪ったが2本のホームランを浴びて延長11回の激闘の末に7-9で敗れ準優勝。圧倒的な強打と高い投手力ががっちりかみ合って関東4枠に入ったことから選抜大会出場が確実視されていた。 島田監督は、昨年亡くなった名将木内幸男元監督のもとで1987年の甲子園に春夏出場、夏には準優勝投手となった。プロを経て昨年、学生野球の指導資格を回復し、同校の投手コーチから昨年7月に監督就任、最初のチャレンジで名門復活の手がかりをつかんだ。 2年生の二枚看板 エース右腕の秋本璃空は176センチ80キロの分厚い体躯から最速145キロのストレートと切れ味鋭いスライダーで打者に真っ向勝負を挑む。 県大会は1回戦に1失点完投、2回戦はエンジンのかからない打線を尻目に11奪三振1-0完封と完璧な投球内容でチームを牽引した。準々決勝はリリーフ登板し4回無失点。関東大会出場をかけた準決勝の藤代戦は初回に2点を失ったがその後は持ち直し、大川への継投で関東大会をたぐり寄せた。関東大会では健大打線には捕まったものの、準決勝までの3試合は防御率0点台と抜群の安定感を誇りベンチの信頼も厚い。 2番手格の大川慈英は176センチ70キロとスリムな体格から、秋本をしのぐ最速146キロのとてつもないボールをテンポよく低めに集める。 県大会準決勝の藤代戦は9回に連打から一死一、二塁のピンチを背負ったが145キロのストレートを連発して後続を断った。関東大会では準決勝の東海大甲府戦で先発登板し7イニングを投げ被安打3、自責点1。スピードの割には奪三振数が少ないが、一冬越えて迎える選抜では150キロの大台も期待できる逸材だ。母はバレーボール元日本代表で1996年アトランタ五輪に出場した鳥居千穂さん。身体能力は折り紙付きだ。 3番手格の左腕・伊藤地宏(1年)は130キロ前後のストレートと緩い変化球で打たせてとるスタイルで試合を作る。中学1年の時にはカル・リプケンU-12世界少年野球大会日本代表に選ばれた。 関東大会で打線に自信 打線は県大会で当たりが少なかったことから、関東大会で打順を入れ替えて臨んだ。結果的にこれが見事にはまり、関東大会のチーム打率は.388を誇る。 下級生時代から上位打者兼遊撃手として野手の中心を任されていた不動の3番・三輪拓未が長打も小技もこなし、状況に応じたバッティングでチームで支えるプロ注目の遊撃手。絶品の守備に注目だ。県大会で5番に入っていた185センチの長身の左打ち・宮原一綺は出塁率の高さを買われて関東大会から1番に固定された。大柄ながら器用に逆方向に弾き返し首脳陣の期待に見事に応えた。 4番に座る青木良弘は171センチ78キロと中軸にしては少々小柄で近年の常総の中軸と比較しても1発長打は少ないが、ボールを懐深く呼び込んで右中間にしぶとく返す技術に優れており、ピッチャーにとって嫌らしい打者だ。 6番捕手の田邊広大はシュアな打撃が持ち味。上位と遜色のない鋭い打球でセンター方向中心にはじき返す。捕手としても関東大会で名を上げた。二塁送球1.8秒台の強肩でピッチャー陣を盛り立てる。 中村蒼は9番ながら一発長打の怖さがある。大一番の木更津総合戦では先制の2点タイムリーツーベースを放ちその後も波に乗った。

【追悼】取手二、常総学院で甲子園V3 名将・木内幸男さん

【伊達康】高校野球の監督として取手二高で夏1度、常総学院で春1度・夏1度の甲子園優勝を飾った名将・木内幸男さんが24日午後7時ごろ、肺がんのため取手市内の病院で亡くなった。89歳だった。 甲子園では取手二高で春2回、夏4回の出場で8勝5敗(優勝1回)、1984年秋に常総学院に移ってからは春5回、夏11回の出場で32勝14敗(優勝2回・準優勝2回)と歴代7位の通算40勝を挙げた。なお、異なる2校を甲子園優勝に導いた監督は、原貢さん(三池工、東海大相模)、上甲正典さん(宇和島東、済美)、木内さんの3人しかいない。いずれも故人となった。 今でも伝説のように語り継がれるのは1984年に取手二高を率いて県勢初の甲子園優勝に導いた決勝戦だ。当時最強といわれた桑田真澄、清原和博を擁したPL学園に、決勝戦で延長戦の末8対4で勝利。甲子園で躍動するスカイブルーのユニフォームに全国の高校野球ファンが魅了され、勝利監督インタビューのユニークな受け答えと相まって木内幸男の名前は瞬く間に全国区となった。その後、常総学院を全国区の名門校に育て上げた手腕はいわずと知れたところである。 これほどの名将でありながら、初めて甲子園で指揮を執ったのが46歳のときだというから驚きだ。取手二高の監督に就任して20年後にようやくつかんだ甲子園であった。そこから80歳の常総学院第2期木内政権の終了まで34年もの間、甲子園での勝ち星を積み重ねていった。 常総学院はここ3年間、甲子園から遠ざかっていたが、元プロの島田直也新監督のもと先日の関東大会で準優勝、来年春のセンバツ出場を確実とした。木内さんも久しぶりの出場を楽しみにしていただろう。また、25日東京ドームで行われた都市対抗野球では、常総学院時代の1年夏まで木内さんの教えを受けた飯田晴海投手(日本製鉄鹿島)が先発登板した。惜しくも3回で降板となったが、マウンドに歩み寄り交代を告げたのは取手二高V戦士・中島彰一監督であった。さらにプロの世界では仁志敏久が今秋から横浜DeNAベイスターズの2軍監督に就任。金子誠が日本ハム一軍野手総合コーチを務める。木内チルドレンが今もなお指導者や選手として野球界を賑わせている。 最後にご本人から伺ったエピソードを一つ紹介したい。「土浦市営球場(現・J:COMスタジアム土浦)で第1号ホームランを打ったのは俺なんだかんな」と木内さん。もう60年以上前のことで本人の証言以外に証明できるものはないが、きっとそうであって欲しい。 1984年の甲子(きのえね)の年に甲子園で優勝を果たし、奇しくも89歳(やきゅう)で鬼籍に入られた木内さん。高校野球ファンはあなたのことを忘れません。感動と熱狂をありがとうございました。天国で安らかにお眠りください。

【高校野球代替大会を終えて】㊦ 「野球の力を感じた」

【伊達康】今大会は優勝してもその先に甲子園がないことが前提で開催された。小さな頃から甲子園でプレーすることを夢見てきた球児たちにとって喪失感は筆舌に尽くしがたい。 3月から5月半ばまでの学校の休校措置により春季大会は中止となり、多くのチームが通常の部活動すら行えない期間を過ごしてきた。 代わりに用意された代替大会。体裁上、表向きはみな優勝を目指して頑張るとは言いつつも、気持ちの整理を付け、失ったモチベーションを取り戻すことは容易ではなかっただろう。むしろ、モチベーションを失ったまま最後の大会に臨んだ選手がいたとしても不思議ではない。 大会中、何度か球場で取材をした。夏の大会では敗者は泣き崩れることが常であるが、今大会は敗者もそれほど泣くことなく、どこか達観した面持ちで球場を去る光景が見られた。 通常は、敗戦によって、もうこいつらと野球ができない、勝ちたかった、悔しい、無念だという様々な感情が押し寄せて泣きじゃくる者もいるのだが、今回は最初から甲子園への切符がない。敗者の感情の起伏という面からも今大会が持つ独特の雰囲気が感じられた。 「今が一番野球が楽しい」 つくば土浦エリアのチームではないが、私学4強の一角である明秀学園日立の金澤成奉監督が準々決勝後の囲み取材で語った今大会が持つ意味や、コロナ禍がもたらした変化などについて紹介し、今大会の総括としたい。以下は金澤監督の言葉である。 「今大会の意味として一つ言えることは、非常に考える時間を与えてもらったということ。親のことであったり、甲子園がなくなったのになぜ野球をやらないといけないのかと、自問自答しながら野球をやっていく中で、野球って楽しいんだなというのが分かったような気がする。 毎週、選手に日誌を出させているが、日誌に書かれた3年生の言葉の中で、『今が一番野球が楽しい』と、『仲間と野球をやれる喜びを感じている』といった声が非常に多かった。そういった時間を与えてくれたから意味があったと思う。 甲子園という目標があると、私自身もそうだが、どうしてもそちらの欲の方に目が行きがちで、本来の小さな頃から野球をやり始めた時の気持ちというのを失いかけたりする。 この大会は、何のために野球をやっているのだろうとか、やり遂げることの大切さだったり、今自分があるこの場所、この時間、どういった方々のお陰で今があるのか、そういったことを考えさせられ、思いをはせることができた。 特に高校野球というのは保護者の方々の力が大きいので、感謝っていうことはどういうことなのかとか、恩返しというのはどういうことなのかを感じられた大会だったと思う。 特別な大会だったので、特別な思いでずっと一試合一試合大切にやってきた。勝つことを前提にしながら、逆にどういう終わり方をするのかというのを常に頭に描きながらやってきた。やりきった後、終わりを遂げる時に、選手たちに何かを感じてもらいたいという思いで。 本音を言うと9回までやりたかったが、自分の中ではやれることはやれたのではないかなと思う。子どもたちも大変満足した終わり方ができたのではないかと思う。 大会を通して結果が出なくて悔しい思いをした子だっているでしょうし、ヒットを打って親御さんが喜ぶ姿が見られた子もいる。 いずれにしても、子どもたちが頑張る姿でお父さんお母さんがさらに勇気づけられる。子どもと親の絆が深まる。本来スポーツが持つべき姿というか、野球をやっていたからこそ感じられたそれぞれの思いを感じられる。 そういう意味では大変有意義な時間が過ごせた。親御さんたちも、普段は練習までは見に来ないけど、やっぱり子どもたちの姿を見納めたいということで、練習から見に来られている姿を見て、失ったこともあったけど、得たものもあると思う。 そういったいろんな意味を含めた大会だった。こういう年だからこそ1日でも長く1試合でも多く共に戦おうと。こういう年だからこそどの時代よりもお前たちとずっと長く野球をやりたいということを話して、ほぼそれが達成できた。モチベーションが下がった時もあったが、お互いが声を掛け合いながら、やりきるということはどういうことなのか、やりきったときにどんな光景が見えるのかということを、この試合で感じたと思う。 コロナ禍に見舞われた世代だが、様々なことに打ち勝ってきたのが人類なので、そこで野球の力というかそういったことをお前たちは感じたはずだから、これからいろいろ場面で野球で培ったこの乗り越える力、やりきる力を発揮し、今後も、この思い出を大事にしてほしい。思い出は作るものではなく、できるものなんだなということが分かったと思うので、そういう野球の力で人生のあらゆる局面で打ち勝ってもらいたいなと思う」。 心から感謝 大会が始まってみれば、無観客で例年通りとはいかずとも熱く盛り上がり、高校野球の話題が新聞紙上をにぎわせた。一般のファンもラジオやテレビ、速報サイトなどで楽しむことができた。 夏の甲子園と地方大会が中止になり、代替大会の開催自体が不透明だった5月下旬のことを考えると、大会期間中、関係者から陽性判明者が出ることなく日程を消化できたことは奇跡に近い。 新型コロナウイルスのみならず天候までもが足かせとなり日程が進まなかった。運営側の苦労は想像に難くない。当初予定していた県のナンバーワンを決めることはできず異例の4校優勝という形で幕を閉じたが、裏で支えた人たちの尽力には心から感謝したい。 (終わり)

【高校野球代替大会を終えて】㊤ 常総、夏1勝は創部以来初

【伊達康】茨城の夏の高校野球代替大会は5日の準々決勝をもって終了した。勝利したのは霞ケ浦、土浦湖北、水戸啓明、明秀学園日立の4校だ。 「3年生全員」戦法通用せず 今大会で最も衝撃だったのは秋優勝の常総学院が、3回戦で多賀に2対3で敗退したことだろう。 大会前から菊地竜雅と一條力真のWエースは全国的にも有名なプロ注目の逸材だった。 初戦の2回戦では菊地が152キロ、一條は148キロとそれぞれ自己最速をマークし、前評判通り圧倒的な投手力を披露した。さらにベンチに入った31人の3年生全員が出場する離れ業をやってのけた。 ところが次の3回戦では「できるだけ多くの3年生を起用しながら勝つ」という戦法が通用しなかった。 3回表に連打やバッテリーミスで多賀に一挙3点を先制された。相手のエース神永耀生は2年生ながらこの日の最速139キロをマークするなど、常総学院打線とはいえ簡単には攻略できない、抜群にキレのあるボールで粘りの投球を見せた。 常総学院はチャンスをつくるものの、あと1本が出ず14残塁。7回と8回に1点ずつ返したが、3点が最後まで重くのしかかり敗れた。 佐々木監督は大会前に「コロナ禍で打者がバッティングの感覚を失っており打線が仕上がっていない」と漏らしていたが、不安が的中する結果となってしまった。 夏の大会で常総学院が1勝しかできなかったのは創部以来、初めてのことだ。敗戦の翌日、島田直也投手コーチが監督に昇格し、佐々木監督は新たに統括責任者の任に就くこととなった。常総学院の復権は島田新監督の手腕にかかっている。 タイブレーク救った大魔神・山本雄大 秋準優勝の霞ケ浦も総和工との3回戦で苦しんだ。霞ケ浦は2回裏に二死から4連打で4点を先制したが、総和工は3回表にタイムリーと2番・杉山紘也が肩口から入るカーブを叩きレフトスタンドに運ぶ2ランホームランで1点差とした。さらに6回表、内野安打と盗塁で無死二塁から、4番・横山耕希の三遊間を破るタイムリーで同点に追いついた。 流れは総和工に傾き始めたが、ここで2番手としてマウンドに上がった霞ケ浦のエース山本雄大が盗塁殺と二者連続三振に打ち取って流れを断ち切った。 その後は両者ともチャンスすら作れない。山本は雄叫びを上げながら力投を続けた。総和工の背番号10の先発・永井政人も最速123キロながら両サイドに丁寧に散らす投球で凡打の山を築いた。 3年生で戦うとしていた霞ケ浦であったが、9回裏には何とか攻撃の糸口をつかもうと非凡な打撃センスを持つ2年生の飯塚を代打で起用した。それでも結果はセカンドゴロに終わる。 試合は9回を終えても同点のままで、無死一、二塁から始まるタイブレークに突入した。ここでも山本は殺気だったような投球を演じ、最後のバッターを見逃し三振に仕留めた。6回途中からマウンドに上がり、打者14人に対して被安打1、奪三振9、無四球。相手打線をほぼ完璧にねじ伏せ、最速は自己記録を更新する143キロに達していた。 どちらに転んでもおかしくない息を飲む試合展開に張り詰めた空気が漂う。10回裏、山本の力投に報いるべく、霞ケ浦は先頭の小田倉啓介が送りバントで一死二、三塁とすると、2番・斎藤拓生がセンターオーバーを放ってサヨナラ勝ちを収めた。 山本の力投がなければこの試合は落としていたに違いない。そんな苦しいギリギリの戦いを乗り越えた霞ケ浦は次から王者の貫禄を取り戻し4回戦では打線が奮起して鹿島学園に11対1と大勝。続く準々決勝はエース山本雄大が圧巻のピッチングを披露し3対0で水城に勝利した。4校優勝とはいえ、霞ケ浦は2年連続で茨城の頂点に輝いた。 土浦ダービーとなった準々決勝 8月5日にノーブル水戸で行われた準々決勝第1試合は土浦日大と土浦湖北の土浦ダービーとなった。試合はボールのキレで勝負する土浦日大エースの中川竜哉と、剛速球でねじ伏せる土浦湖北エースの大坪誠之助の投げ合いとなった。 先手を取ったのは土浦日大だ。2回裏、先頭・中川がセンターへのツーベースヒットで出塁すると、送りバントがフィルダースチョイスとなり無死二、三塁とした。しかし、9番・中村はスクイズを2度失敗し空振り三振。後続も連続三振に倒れ絶好のチャンスを生かせない。 先制したのは土浦湖北だ。5回表、先頭の大坪がセンターオーバーのスリーベースを放つと、ボークで1点を先制。自らが先制のホームを踏んだ大坪はその後二塁を踏ませない圧巻の投球で土浦日大の反撃をしのいだ。さらに9回表、二死から3番・田中のセンター前ヒットと四球、ボークで二塁、三塁とすると,パスボールで2点目を奪った。 後がない土浦日大は一死から代打に関野を投入したが、大坪渾身の144キロストレートに空振り三振。二死から6番・菅野がライト前ヒットで出塁したが、中川はセンターフライで試合終了となった。 試合後、土浦日大の小菅勲監督は「大坪君が良かった。ヒットが出るには出たがつながりを欠いた。反面、相手は長打が出た後にワンチャンスをものにできた。ボークは仕方ない」とうつむきがちに淡々と語った。 土浦湖北の小川監督は「土浦市内同士の対決なので絶対に勝ちたかった」と満面の笑みがこぼれた。完封した大坪については「高校生活で最高の出来、ベストピッチ。6月からひじの調子が悪く長いイニングを投げさせなかった。序盤に点を取られたら替えようと思っていたが、あれだけ気持ちの入ったピッチングをしていたものだから替えられなかった」と絶賛した。 さらに「(梅雨で日程が延び8強決定の)8月2日で大会が終わると聞いたときはひじの状態もあるので、あと1試合なんだと安心した。でも後から、勝ったら(4強決定まで)もう1試合やると決まって不安で仕方なかった」と、日程変更にかかる素直な心境を吐露した。控えに回った選手については「荒木という最速143キロを投げる力のある投手が後ろに控えている。その子も出たかっただろうし、出してやりたかった」と気遣った。 土浦湖北はこの翌日から新チームで岩手に遠征した。外野にいる筆者は、勝った4チームで任意の準決勝と決勝をやればいいのではないかと考えていたが、当人たちは気持ちを切り替えて次に進んでいる。 (続く)

【高校野球代替大会】霞ケ浦 高橋監督インタビュー㊦ メカニズム理解して練習を

【伊達康】県高校野球代替大会が11日から始まった。霞ケ浦高校の髙橋祐二監督インタビュー3回目は捕手に求めることなどについて聞いた。 配球指示 全球ベンチでは勝てない —霞ケ浦からは毎年好投手が輩出され投手育成が注目されますが、捕手も毎年のように良い選手が育っている印象です。投手を伸ばす捕手のあり方など、捕手に求めるポイント、配球は捕手任せなのか、捕手によって違うのかなどを教えていただけないでしょうか。 高橋 捕手は扇の要といわれるだけあって、捕手には口うるさくいろんな話をしていますね。まだまだいろいろな意味で物足りませんが。配球については3年くらい前までは全球ベンチから出していましたが、それでは勝てないのかなというところがありました。 綾部翔がエースの時はクレバーな齋藤智徳という捕手がいましたので彼に任せましたね。今の瀬川悠人も困ったらこちらを見るという程度で、ほとんど任せています。その前の鈴木春樹の時は接戦になった藤代戦や石岡一戦は出していましたね。甲子園では任せました。 —内野守備についてはどのようにすれば上達するでしょうか。 高橋 キャッチボールが重要です。それに手投げのゴロ捕りをどのタイミングでグローブを下ろしてどのタイミングで足を出して捕球するか、しっかりメカニズムを理解してから練習すると良いでしょう。ゴロ捕りのメカニズムを分かっている指導者は少ないと思います。 ノックはこのボールをアウトにするためにどうやって捕るのか、打球によってベストの処理の仕方を選択できているか、捕り方やボールへの入り方が間違えていないかを確認する作業です。股を割って捕ったから、シングルハンドで前に伸ばして捕ったからと、理屈を説明できる指導者に教えてもらうと上達できるのではないでしょうか。 技術論の交換盛んな県も —最後の質問です。高校野球の指導者同士で技術指導論、野球論などの意見交換をすることはありますか。 高橋 野球界はないですが高校バレーボール界ではよくありましたね。強豪校同士で合宿をやっても、例えばブロックシステムのステップの話とか、本当に細かい話を指導者同士で意見交換して技術を磨き合っていました。野球ではそういう話はしませんね。 横浜隼人の水谷監督とは技術論の意見交換をします。神奈川県は指導者同士の技術的意見交換とかそういう交流が盛んに行われていると聞きますが、茨城県はあまりないですね。 —野球の監督に就任する前、霞ケ浦高校バレーボール部を指導し春高バレーに導いた髙橋監督ならではの比較ですね。貴重なお話をありがとうございました。 監督 三者三様 「やるからには優勝」 【取材後記】茨城県では2015年から19年までの5年間、直線距離でわずか5キロ以内にある常総学院、土浦日大、霞ケ浦の3校が優勝を独占している。代替大会出場を目前に控え、3校全ての監督から話を聞くことができた。 コロナ禍の過ごし方や夏の甲子園と地方大会の中止、代替大会に向けた取り組みについて、それぞれに同じ質問を投げかけてみたのだが、三者三様の素の答えが返ってきたことは大変興味深かった。 夏の甲子園と地方大会中止の知らせには、いまだ気持ちの整理がつかず甲子園での何かしらの代替大会の開催を今でも熱望する常総の佐々木力監督。甲子園を奪われても野球が好きで懸命に練習する選手の姿に思わず涙する日大の小菅勲監督。選手だけでなく小学生のときから子どもと一緒に甲子園を夢見てきた親の気持ちにも寄り添う霞ケ浦の高橋祐二監督。 また、甲子園につながらない代替大会には、3年生全員を公式戦の舞台に立たせてから主力組を投入する考えの常総学院。3年生は全員登録しつつ力のある2年生を積極的に起用する考えの土浦日大。2年生のレギュラークラスが多い中で、3年生だけで挑む考えの霞ヶ浦。本当に3年生だけで挑んでいいのかという高橋監督の葛藤は大会中も続くだろう。 昨年秋の県大会は常総学院が優勝、霞ケ浦が準優勝している。土浦日大は準々決勝で延長13回タイブレークの大接戦の末、優勝した常総に敗れた。もし例年通りに地方大会が開催されていれば、この3校が優勝に関わってきたことは間違いない。「複雑」な心境の中、「やるからには優勝を目指す」とは3校共通の答えである。甲子園を本気で目指してきた3校がいよいよ代替大会を迎える。 (高校野球代替大会有力校監督インタビュー 終わり)

【高校野球代替大会】霞ケ浦 高橋監督インタビュー㊥ ここにきて迷い

【伊達康】県高校野球代替大会が11日から始まった。霞ケ浦高校の髙橋祐二監督インタビュー2回目は代替大会に向けての取り組みについて聞いた。 全員で戦う姿勢になってない —甲子園が中止となりましたが、茨城県は独自の大会を開催する運びとなりました。代替大会が決まってからは大会に向けてどのように取り組まれているでしょうか。 高橋 3年生26人とマネジャー3人の29人で戦うかどうするかを3年生に聞いたところ、それで行きたいという返答があったものですから、3年生だけで代替大会に参加する形でスタートしました。背番号は30番までつくりました。 ちょうど練習試合を始めて1カ月くらいになるのですが、いろいろなことが見えてきまして、このままでこの大会をやって良いのかということをつくづく感じています。本来であれば6月中旬にベンチに入れない者が発表されてその子たちがサポートに回る。ベンチ入りメンバーはサポートメンバーの気持ちも背負って最後はチーム一丸となって大会に臨みます。 しかし今年は26人がみんな試合に出られる。チャンスがなかった者までが出られる雰囲気になっている。だからといって練習を頑張っているかといったら頑張ってない。練習試合では3年生の試合を午前午後の1試合ずつやるわけですが、1試合目はガチンコでやって、2試合目はそれ以外の3年生で組むんです。控えているメンバーは1試合目は途中出場の準備をしないのに、2試合目は試合中に自らバットを振って代打の準備をするんですね。なぜ1試合目にそれをやらないのかと考えると、2試合目に順番に出場しているからかなと。 控えメンバーが思い出づくりのつもりでいるように感じます。全員で戦う姿勢になっていないし上に食い込んでいくという気概がない。26人全員を出場させてあげたいと思っていましたが、この状態のままやって良いのかどうか、本当は下級生を入れてガチンコで戦った方が良いのではないかという迷いがここにきて生じています。 —もう出場も今週になり実戦練習を重ねられていると思います。言える範囲で、最近どのチームと練習試合を組んで結果はどうだったかを教えていただけないでしょうか。 高橋 7月7日に取手二に9対8で辛勝(しんしょう)です。8回まで5対8で負けていましたが最終回に連打で4点を取って逆転しました。7月5日は聖光学院(福島県)に1対0で勝ち。右アンダーの米島健斗が4回、山本雄大が5回を投げて完封リレーでした。 7月2日は帝京高校(東京都)に0対1で完封負け。山本が6回無失点、米島、三浦彰浩とつないで最後に1点取られて負けました。6月29日に作新学院(栃木県)と5対3で勝ち。6月に常総学院と0対2で負け。山本が点を取られたのは常総学院だけです。初回にエラー絡みで1点を取られて6回1失点でした。 ロースコアでも慌てず勝ち切れる野球目指す —2番手格のピッチャーは誰になりますか。 高橋 基本的には右アンダーの米島と左の高松康平を合わせた3人で回そうかと思います。 —現在打撃で一番状態が良い選手を教えてください。 高橋 4番を打たせている伊沢誠が3試合連続ホームランを放っています。すごいパンチ力を持っているのですが、ここのところめっきり打てなくなって、この前は4打数4三振でした。波がありますね。 ショートの小田倉啓介、山本、捕手の瀬川悠人など、秋のメンバー陣がコンスタントに結果を出しています。 —去年のチームと比較して今年のチームカラーはどのような感じになっていますか。 高橋 山本を中心とした守りのチームですが、去年と比べたら全然守れないし、攻撃も去年より落ちますね。山本がいるのでロースコアのゲームにはなると思います。 去年の石岡一戦や藤代戦のようなロースコアのゲーム展開でも慌てないで勝ち切れるのがうちの目指している野球です。身体能力の高い選手がいない中で合宿をやったりいろいろなことを経験して、うちの強みである組織としてまとまっていくということを今回はできなかったので、底上げができていません。 3年生の中でも温度差があるし今回は難しい大会ですね。優勝目指して頑張りますが、例年の夏とはほど遠い状態なのでどうしたら良いのか手探りです。 —先日常総学院と練習試合で対戦され0対2で敗れました。菊地竜雅、一條力真のWエースの印象を教えてください。 高橋 2人ともボールが速いですね。球速が注目されますが変化球も素晴らしい。一條君の変化球は特に良かったです。そのほかの投手も出てきましたがみんな良かったです。 (続く)

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