【ノベル・伊東葎花】
私は、イチョウの木でございます。
神社の参道へと続く道に、たくさんの仲間と一緒に立っております。
このあたりでは、少しばかり有名な並木道でございます。
青々と茂っていた葉は、秋が深まると黄金色に染まります。
それはそれは素敵な散歩道になりますのよ。
葉っぱたちは、風にはらはらと舞い落ちて、地面に黄色のじゅうたんを敷き詰めます。
ため息が出るほど美しい晩秋の風景ですわ。
ところでこの春、神社の長男が嫁をもらいました。
その嫁が、まあ、きれい好きと言いますか、風情がないと言いますか、せっかくの美しい葉っぱたちを箒(ほうき)で掃いてしまうんです。
竹箒でザッ、ザッ、ザッ、と葉っぱを集め、ゴミ袋に入れるんです。
何ともまあ、風情のない現代っ子でございます。
こちらとしても、負けるわけにはまいりません。
「おまえたち、あの女めがけて散りなさい」
私が命令すると、葉っぱたちは嫁をめがけて、まるで矢のように降りました。
「ああ、もうっ、掃いても、掃いてもきりがない」
嫁はとうとう掃くのをやめて、家に帰って行きました。
勝ちました。
…と思ったのもつかの間、今度は、大きな熊手を持って現れたのでございます。
あんなものでかき集められたら、たまったものではありません。
私たちは、嫁がいなくなるまで待って、ふたたび葉っぱの雨を降らせました。
負けるものですか。
そんなバトルが、数日続きました。
嫁がどんなにきれいに掃いても、翌朝にはまた黄色のじゅうたんが敷かれます。
それでも嫁は懲りもせず、毎日箒を持ってやってくるんです。
こういうのを、イタチごっこというのかしら。
次の日は、朝から雨でした。よく降る雨でございます。
並木道を、レインコートを着た小学生が走って来ました。
通学路ではないけれど、おそらく学校までの近道なのでしょう。
遅刻しそうなのか、赤い顔をして、一生懸命走っています。
子供の長靴が葉っぱを踏んだ時、つるりと滑ってバランスを崩しました。
「まあ大変」
私は、とっさに枝を伸ばして、子供を抱き上げました。
子供は、転ばずにすみましたが、よほど驚いたのでしょう。
大きな声で泣きました。
それを聞きつけて、嫁が走ってまいりました。
「滑っちゃったのね。気をつけて。走っちゃダメよ」
優しく頭をなでて、女の子を見送りました。
そして私の幹に手を当てて、誰にともなくつぶやいたのでございます。
「きれいなんだけど、滑るんだよね」
嫁は、黄色の葉っぱをひとつ拾いあげ、指で優しく汚れを落としたのでございます。
「雨が止んだら、また掃かなくちゃ」
あら、宣戦布告とは頼もしい。
でもね、ごらんなさい。もう葉っぱが、いくらも残っていませんの。
もうすぐ12月ですもの。
「どうぞ、好きなだけお掃きなさい」
あら、私ったら…。
どうやらこの嫁が、少しだけ好きになったようでございます。
(作家)







































