【コラム・先﨑千尋】先月7日、東京都練馬区の大東文化会館で国際シンポジウム「旅するカジの木、旅する神々-静御前と倭文(しづり)」が開かれ、その中で北村皆雄監督の映画「倭文-旅するカジの木」が上映され、北村監督の講演などがあり、筑紫舞、大和高田の白拍子舞などが披露された。
倭文ないしは倭文織は古代の織物の名称で、常陸国風土記や万葉集、日本書紀、延喜式などの古典に登場するが、現物が発見されていないので、“幻の織物”と言われている。その素材はコウゾやカジの木などの自然繊維で、神事に使う幣(ぬさ)、手纏(まとい)、鞍(くら)などに使われていたようだ。
私は那珂市静に鎮座している常陸二の宮静神社のすぐ近くに住んでいることもあって、かなり前からその織物に関心を持って、史料も集めてきた。常陸国風土記には「まだ織物がなかった時代に倭文部(しどりべ)という織物の技能集団が静周辺に来住し、倭文を織った」とある。静神社の主祭神は、織物の神様・建葉槌命(たけはつちのみこと)だ。
「衣食住」という言葉
北村監督は映画上映の前に「衣食住という言葉があるが、衣が最初で、食、住と続く。それはなぜなのか。人が生まれてきて最初に産着(うぶぎ)を着ける。布は第二の皮膚と言われ、人間しか着けない大事なものだ。倭文という謎の織物を手掛かりに、衣の持つ呪術性を探ってみたいと考えて映画を製作した。何もないものを作るのは大変なことで、5年もかかった」と話した。
映画は最初に、日本の原始布が残る徳島県旧木頭村を訪ねるところから始まる。ここではカジの木やコウゾで織る太布(たふ)が現在でも織られている。次に、糸を使わない布、タパが登場する。カジの木の樹皮をたたいて伸ばす。撮影隊は、タパを作っているパプアニューギニアに向かい、人類最古に当たる植物繊維の衣服が今でも作られている有り様を伝える。
カジの木の原産地は中国南部から台湾。そこから4000年にわたってフィリピン、インドネシア、オセアニア、日本などに伝わったという。北村さんらは正確を期するために各地でDNA鑑定を行っている。茨城県内にはコウゾはあるが、カジの木はほとんど見かけない。コウゾはカジの木とヒメコウゾの交配から生まれたものだ。
この映画を作るために、国内の4人の織物作家(山口源兵衛、石川文江、西川はるえ、妹尾直子)が帯や幡(はた)、紙布を作る。その苦労する過程が克明に映し出される。
映画の最後は、日立市の大甕倭文(おおみかしず)神社にある宿魂石上(しゅっこんせきじょう)で、神話に出てくる倭文神「建葉槌命(たけはづちのみこと)」(大和朝廷側)がまつろわぬ星の神「香香背男(かがせお)」を、倭文織を使った呪術的な力で圧倒する場面。この場面だけがフィクションである。
冒頭に戻る。今回のシンポジウムのタイトルに「静御前と倭文」とある。静御前が鎌倉鶴岡八幡宮で歌ったという「しずやしず 倭文の環(おだまき) くりかえし 昔を今になすよしもがな」から採ったと思われるが、静御前と倭文の関係について、今後の研究に期待したい。(元瓜連町長)






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