月曜日, 12月 29, 2025
ホーム ブログ ページ 148

制服を回収し繕い安く譲渡 市民が息の長いリサイクル活動 つくば

3
寄付された体操着や制服のチェック作業をする「茎崎家庭教育と地域を考える会」のメンバー=つくば市小茎の茎崎交流センター

茎崎家庭教育と地域を考える会

寒さが緩み、入学シーズンが間近になった。子どもの成長を喜ぶ一方で親が戸惑うのは、学校指定の制服費用の高さだ。つくば市茎崎地区の市民グループ「茎崎家庭教育と地域を考える会」(三澤春枝代表)は家計の負担を軽減しようと、着なくなった制服を回収し、必要に応じて補修した上で安く譲る息の長いリサイクル活動を続けている。また、制服のリサイクル活動が全国に広がりつつあり、制服リユースショップ「さくらや」つくば店が制服回収と安価での販売に取り組んでいる。

「茎崎家庭教育と地域を考える会」は1990年、旧茎崎町の家庭学級を修了した主婦たちが地域に役立つリサイクル活動を目的に発足した。当時町内は大規模宅地開発が行われ、急激な人口増加に伴って小中学校の増築や新設が進められた。開校した町立茎崎第三小学校は児童数1500人のマンモス校だった。転入生の増加のほか、成長著しい中学生は制服の買い替えを迫られることから、制服リサイクルに取り組むことになった。

発足から32年経った今も、扱うのは茎崎地区の小学校3校(第一、第二、第三小)が指定する体操着と、中学校2校(高崎、茎崎中)指定の制服とジャージ、体操着だ。着なくなった体操着や制服を中学2校と茎崎交流センターに設置したリサイクルボックスで回収し、使用に耐えられるかチェックした上で希望者に販売している。

同地区では中学入学時、学校指定の制服や体操着などを購入すると一式で8万円前後かかる。県立高校は一式約10万円、私立高校は一式15万円以上だ。同会の場合、リサイクルした制服を男女とも上着1500円、中学生のジャージ上下各300円、小学生の体操着上下各200円などで販売する。収益金は各中学校に寄付している。

同会が扱うリサイクル品の多くは、子供たちが2着目として使用する洗い替え用に活用されている。寄付される制服のほとんどは律儀にクリーニングされているという。桜井さんは「年間約100着を扱い、5月に回収と販売の流れが加速する」と話した。

メンバーの(左から)古屋野寛子さん、三澤春枝さん、桜井妙子さん=同

「貧困の相談 コロナ禍以前はなかった」

新型コロナウイルス感染が広がる3年前までは年4回、同センターロビーで販売していた。現在は感染拡大防止対策として奇数月の第3水曜午後1時半から2時半までの1時間とし、少人数による入れ替え制の予約販売に切り替えている。会場は回収した制服を収容しているセンター倉庫室を使っている。

学校から相談を受けることがある。「困窮世帯で中学入学までに制服を購入できない子どもがいる」「引きこもっていた子どもが修学旅行に参加を希望しているが、入学時に購入した制服が成長した体に合わない」などだ。会はどんな場合も対応してきた。一方で「貧困世帯の相談はコロナ禍以前にはなかった」と三澤さんは顔をくもらせる。

現在、会員は3人。古屋野さんは「地域に根づき、待っている人がいるからやりがいがあって楽しい。仲間になりませんか」と呼び掛けている。(橋立多美)

◆入学前のリサイクル販売は3月16日(水)午後1時30分から茎崎交流センターで。予約申し込みと入会の問い合わせは電話029-876-0568(三澤さん、平日の午前9時〜正午)。

◆学生服リユース専門店のさくらやつくば店は、不要になった学生服の寄付を各所に設置した回収ボックスで受け付け、低価格で販売している。回収ボックスは、竹園高校(つくば市竹園)、土浦自動車学校(土浦市中村南)、わたなべクリーニング「洗濯王」各支店にある。また、つくば市(一部対象外)、土浦市、牛久市を対象に、出張買取を行なっている。入荷商品はインスタグラムで公開している。

春を探しに学園都市を散歩 《ポタリング日記》6

2

【コラム・入沢弘子】庭先の梅が香りはじめました。梅の別名は春告草。今日はポタリングで春を探しにいきましょう。つくば市の洞峰公園に車を止め、折りたたみ自転車「BROMPTON(ブロンプトン)」を組み立てたらスタート。

つくばでは老舗の洋食店、パン屋などが並ぶ洞峰公園通りを進んでいくと、左手に筑波宇宙センター、右手に産業技術総合研究所つくばセンター。東大通りを渡ると、左手に物質・材料研究機構の国際ナノアーキテクトニクス研究拠点、右手に産総研つくばセンターつくば東事業所と続きます。

この並木地区は、世界有数の研究機関が隣接する地域。垣根のない芝生の庭に造られた低層の公務員宿舎、電線のない街並み、縦横に整備された車線の多い道路は、まるでシリコンバレー周辺の景観のようでした。30年前にパロアルト(米カリフォルニア州)からつくばに引っ越した際、違和感がなかったのはそのためでしょう。

直進していくと視界が開けました。畑が広がり筑波山がくっきり見えています。花室川の橋の上で振り返ると、つくばセンターの三井ビルと高層マンション群。下は枯れ草に覆われた川辺に遊ぶカモの群れ。花室川流域の地層は約3万年前に形成されたもので、ナウマンゾウの化石が発見された場所。新旧が混在したこの景色を眺めるのが好きです。

ここは難読地名で有名な、大角豆(ささぎ)地区。農家の家屋、道端の石碑や祠(ほこら)に癒されます。あぜ道にははうようにタンポポが咲いていました。河川沿いに田園地区を抜け、桜南小学校に出ます。約150年続く歴史ある小学校です。学校裏手から再び田園地帯へ向かうと、畑や雑木林の周辺に建設中の住宅が増えてきました。藤沢荒川沖線を渡り、並木地区に戻ると景色が一変しています。

数年離れていると「浦島太郎」に

段階的に売却が進められていた公務員宿舎の跡地には、分譲住宅地やマンションが完成していました。桜南スポーツ公園や並木公園の周辺も、すべて一般住宅地。並木ショッピングセンターの隣には、新業態スーパー「ブランデ」ができています。この地域に約1800戸あった公務員宿舎が消え、新しいまちに生まれ変わっていました。数年離れていると、浦島太郎の気分になるのではないでしょうか。

藤沢荒川沖線に戻り国道を渡ると、「いちご狩り」の看板。田村農園はミニチュアホースのいる農産物直売所です。イチゴを買って元の道へ。梅の木通りの梅の香りを楽しみながら東大通りを渡り、ペデストリアンデッキを進みます。

梅園公園に到着しました。小山の上に腰を降ろし、梅林を見渡します。花は3分咲きぐらいでしょうか。ここは、つくばに越してきたころから変わらない景色。梅の木は高く、大きくなりましたね。甘酸っぱいイチゴを口に含むと、懐かしい記憶がよみがえってきました。

お弁当持参で散歩した日、ベビーカーを押して日光浴をした日…。激変するつくば市内ですが、変わらない場所を見つけるとホッとします。

梅園公園から赤塚公園を経由し、洞峰公園に至るつくば公園通りも、以前の面影をとどめています。思い出に浸りながら戻るといたしましょう。(広報コンサルタント)

テイクアウトのモバイルオーダーをスタート 百香亭

0
右はQRコードでの注文の仕方について説明する統括マネージャーの許さん。左はテイクアウト人気メニューの(上から順に)黒酢豚弁当、炒飯、焼きそば=百香亭筑波大学店 

店内飲食もスマホから注文可能に

県南を中心に全8店舗を展開している中国家庭料理の店「百香亭」(ひゃっこうてい、本店・つくば市東平塚)が2月から、待たずに持ち帰りができるテイクアウト予約のモバイルオーダーシステムをスタートさせた。コロナ禍、昨年から同店は、弁当や一品メニューの持ち帰り販売に力を入れている。

スマートフォンでQRコードを読み取って注文する形式で、受け取りの時間を10分刻みで指定できる。現在、筑波大学店(つくば市天久保)では初回から3回目までの注文が割り引きになるテイクアウト専用割引券を配布中で、今後さらにテイクアウト利用客を増やしていきたい考えだ。テイクアウトで人気なのは500円(消費税込み)のワンコイン弁当のほか、店内飲食でも人気の看板メニュー黒酢豚に、炒飯や焼きそばだという。

店内飲食での感染リスクも減らそうと、店内でのモバイルオーダーもスタートした。席に着いた客が自分のスマートフォンで店内にあるQRコードを読み込み、メニューを選ぶと店側の端末に注文が届いて配膳される仕組み。伝票も必要なく、スマートフォンの画面をレジで提示して会計を行う。紙のメニューの消毒がしづらいことなどからメニューを触る必要なく衛生的と導入を決めた。アプリケーションのダウンロードが必要なく簡単で、若い客だけでなく、50代、60代にも好評だという。

統括マネージャーの許徳生(きょとくせい)さんは「お客さんは(テイクアウト用の)チラシをもらってもなくしてしまうし、注文したい時にどのようなメニューがあるか、そのメニューが持ち帰りできるのかどうかも分からない。感染リスクを抑えて安全に注文しやすい方法をと考え、モバイルオーダーシステムを導入した」と話す。

歓送迎会の予約はゼロ

一昨年はコロナ禍で売り上げが半分に減少。その後回復したものの店舗全体での売り上げはコロナ禍以前の7割ほどとなっている。昨年4月にデリバリー部門を新設してから1日50食ほどの弁当を主に官公庁に配達しており、売り上げ全体のおよそ3割をテイクアウトとデリバリーが占めている。

筑波大学の学生や教職員などの利用が多い筑波大学店では、コロナ禍以前、歓送迎会のある3月、4月には月の売り上げが1000万円ほどあった。しかし今年は歓送迎会の予約はゼロ。新システムの導入でテイクアウト部門を強化し、店舗への客足も増やしたい狙いがある。

百香亭筑波大学店のテイクアウト予約用のオーダー画面(左)とモバイルオーダー用のQRコード(右)

モバイルオーダーシステムはコミュニケーションアプリLINEを利用したもので、「百香亭筑波学園店」はLINE公式アカウントから店舗情報などを随時配信している。同店のシステム担当者は「(百香亭筑波学園店が)公式アカウントを開設してから1週間で300人のフォロワーが付き驚いた」と話す。現在は2100人以上のフォロワーがおり、今後の集客効果に期待を寄せている。

「百香亭」は医食同源をコンセプトにした中国家庭料理の店として2001年にオープン。特につくば本店、筑波大学店はつくば市民を中心に親しまれている。牛久など合わせて7店舗があり、いずれの店舗もテイクアウトサービスを実施している。(田中めぐみ)

◆筑波大学店のテイクアウトについて詳しくは電話029-858-4360(百香亭筑波大学店)

2週間程度の再延長を要請 茨城県 まん延防止等重点措置

0
茨城県庁(イラストは「いばらきアマビエちゃん」)

6日を期限とする新型コロナウイルスのまん延防止等重点措置について、大井川和彦知事は1日、県内全域を対象にさらに2週間程度、再延長するよう国に要請したと発表した。延長されれば、すべての飲食店に引き続き営業時間の短縮などを要請する。

新規感染者数は2月上旬にピークを打ったが、2月末は週平均で1日当たり1200人を超えているなど減少傾向が下げ止まっていること、入院患者数が高止まっていることなどのためとした。

その上で、オミクロン株による今回の第6波の感染状況について、県内の一昨年からこれまでの累計感染者数約7万3000人に対し、2月の1カ月間だけでほぼ半数の3万7000人を占めていることを明らかにした。

現在の入院患者は60歳以上がほぼ9割で、そのうち80歳以上が過半数を占めているという。さらに入院患者の9割以上が3回目のワクチン未接種者だったとした。感染が確認された場合、60歳以上が入院に至るケースは15%、60歳未満は1%だった。

一方、2月27日時点の3回目のワクチン接種率は県人口の22%、2回目接種から6カ月を経過した高齢者は72%という。大井川知事は、2月末に8割の高齢者の3回目の接種を終えたいと思っていたが、届かなかったとした。つくば市の3回目の接種率は全人口の19%で県内44市町村中33位、6カ月を経過した高齢者の接種率は83%で同14位、土浦市は全人口の19%で30位、高齢者は66%で31位。

まん延防止等重点措置が延長された場合の対応策については、すべての飲食店に対し7日以降も夜8時以降、または9時以降の営業自粛や酒類の提供自粛などを要請する。協力金の支払いも延長される。金額は中小企業の場合、1店舗1日当たり売上高に応じて2万5000円~10万円。

県民に対しては、会食は4人までとし、混雑していたり感染対策が徹底されてないなど感染リスクの高い場所への外出や移動の自粛を引き続き要請する。

事故物件でもかまわない 《ことばのおはなし》43

3

【コラム・山口 絹記】よく、「事故物件」という単語を耳にする。

前居住者が亡くなった物件には安く住めるらしいが、私は実際にそういった賃貸情報を目にしたことがない。この事故物件という用語は定義が少し曖昧らしく、科学的根拠がなくとも場合によっては該当してしまうらしいのだ。興味深い単語である。

個人的には、そこで過去に凄惨(せいさん)な事件が起こって今も地元で有名であるとか、テレビ画面から時折人が出てくるため視聴に著しい問題があるとか、夜ごと枕もとで落ち武者が金打(かねうち)していてうるさく眠れないとかでなければ、私は気にしない。

私は特に信心深いわけでもなく、どちらかと言うと「信心浅い」のだが、自宅に霊や妖(あやかし)が出るとて、今はもう気にすることはないと思っている。

夜中にトイレに行くのを怖がる娘にも、「賃貸だし、本質的に私の所有物ではないから、邪魔でなければ許してあげなさい」と言い聞かせている。夏は暑く冬は寒いし、なにぶん狭い家だが、それでもよろしければ、といったところ。

おはなしがだいぶ脇道にそれてしまった。

実は、私の実家の部屋は、母方の祖父がこの世で最後の時間を過ごした部屋だ。祖父は最期を家族の皆に看(み)取られたわけで、不審死でもなければ遺体が損壊したわけでもなく、これは当然、事故物件には当たらない。

亡き祖父の部屋にある数千冊の蔵書

だが、この物件に今、問題が発生している。

母や叔父が、この家を近い将来に手放して引っ越そうとしているのだ。幸い、相続トラブルのような事態にはなっていないのだが、一つ私にも関わる問題がある。祖父の部屋には数千冊の蔵書があるのだ。これは蔵書の一部であり、別の部屋にも段ボールに入ったものがある。

そして、これの処理は私の担当なのだ。書物に興味のない人間であれば、すべて処分してしまえばよいのだろう。お金はかかるがそれだけのおはなしだ。

しかし私は書物と、そこで紡がれることばを愛していて、これらを手放すのは身を切るような行為なのだ。問題は深刻であり、ごく個人的な精神的負担は相当なものである。

私の部屋にはすでに1300冊程度(ええ、また増えましたとも)の蔵書があり、現状、実家の書物を引き取る余裕もない。とはいえ、捨てたくない。よって、精神的に血を流しながらも徹底的に整理しなくてはならない。あまり泣き言は言いたくないが、有り体に言って内心パニック状態である。

私は幽霊など信じていないが、正直言って祖父の霊が出てきてくれることを心から願っている。そして書物の整理を手伝ってほしい。死人を鞭(むち)打つなどという残虐な行為に及びたくはないが、今は幽霊の手も借りたい。賃金は出せないが、住み込み可。司書資格歓迎。

法律には詳しくないが、労基法は労働者の生存権を保証するためのものだったはず。死後の人間には適用されないだろう。昼夜問わずテレビ画面から出入りしても構わないし、夜中に多少うるさくすることにもこの際、目をつぶろうではないか。(言語研究者)

5人の元首相の書簡が波紋を呼ぶ 《邑から日本を見る》106

3
雪がかぶった田んぼ

【コラム・先﨑千尋】東京電力福島第1原発の事故から11年たつ。事故を起こした原発は、放射能が高く、本体にはいまだに手が付けられないでいる。また、原発周辺の住民は避難先から戻れないでいる。その原発事故がもたらしたものの一つに汚染水の処理問題があり、もう一つが子どもの甲状腺がんの多発がある。今回は後者をテーマに取り上げる。

2月27日付コラムでも取り上げられたが、1月27日、小泉純一郎、菅直人、細川護熙、鳩山由紀夫、村山富市の首相経験者5氏が、欧州連合(EU)の執行機関・欧州委員会に「東京電力福島第1原発事故で、多くの子どもたちが甲状腺がんで苦しめられている」と書簡を送った。

それに対して、山口環境相は2月1日、「福島県での甲状腺がんは、同県や国連の専門家会議などにより、現時点では放射能の影響とは考えにくいという評価がなされている。『多くの子どもたちが甲状腺がんに苦しみ』という表現は、差別や偏見につながるおそれがあるので、適切ではない」と抗議文を5人に出した。

また、西銘復興相は2月4日の記者会見で、「5人の書簡は誤った情報を広め、いわれのない差別や偏見につながる」と批判。内堀福島県知事は「科学的知見に基づき正確に情報発信するように」と要請した。さらに、自民党の高市政調会長は「誤った情報で、風評被害が広がる」と非難の声をあげている。

こういった国や県、自民党の批判に対して、2月4日には、東電を提訴している甲状腺がん患者の弁護団が「200人あまりの子どもが手術を受けており、苦しんでいる」と抗議声明を出した。

また、抗議を受けた5人の元首相は、脱原発運動に取り組む市民団体「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」を通じて逆抗議し、「この10年で266人に甲状腺がんが発症し、222人が手術している。一般には、子どもの甲状腺がんは100万人に2人程度。福島では事故前の70倍にもなっている。国や県が、この原因が原発事故由来でないと言うなら、増えた原因は何だと主張・立証するのか」と質問している。

環境省は2月10日、「福島県の甲状腺がんは、国内外の専門家会議により、現時点では放射能の影響とは考えにくいという評価がされている」と答えているが、質問に直接答えてはいない

「科学的知見」は何か?

両者のやり取りを見て、それでは、国や県が言う「科学的知見」とは何だろうかと考えた。

コロナ禍でもそうだが、国はしばしば専門家を持ち出す。しかし、専門家といっても、考え方、手法はさまざまだ。原発一つをとっても、「原子力むら」の研究者の意見と、それに真っ向から対峙する研究者とは全く違う。どちらを信用するか。その人の生き方、暮らし方によって皆違う。専門家が言う「科学的知見」は、皆が納得するものでなければ、それを信用しろと言われても無理な話だ。

今回の問題に戻すと、多発している福島の甲状腺がんは原発事故によるものではないというのなら、それならばどうしてなのかという因果関係を説明するのが「科学的」なことではないのか。汚染水の海洋放出についても同じことが言える。国や東電は「環境に影響がある」という主張を否定する根拠を示さなければなるまい。(元瓜連町長)

ツェッペリンカレーを無償提供 7つの子ども食堂に

4
利用者にできたてのツェッペリンカレーが手渡される=27日、土浦市都和、都和公民館の「ひよこ食堂」

土浦市食のまちづくり推進協

土浦市食のまちづくり推進協議会(事務局・土浦商工会議所内)つちうらカリー物語事業者部会(藤澤一志部会長)は、「カレーのまち土浦」をPRし子供たちの食育を推進しようと、市内で活動する7つの子ども食堂に「ツェッペリンカレー」を定期的に無償提供していく。第1弾として27日、都和公民館の「ひよこ食堂」に300食が提供された。

土浦とカレーの歴史知って

市独自の食の歴史・文化を生かし、個性的なまちづくりを進める「食のまちづくり事業」の一環。ツェッペリンカレーの由来は1929年にドイツの大型飛行船ツェッペリン伯号が、史上初の世界一周飛行の旅程で土浦近郊に降り立ち、地元で乗組員の労をねぎらうためカレーを振る舞った史実に基づいている。

同部会は2007年から毎年11月に土浦カレーフェスティバルを開催するほか、市内小学校の給食に「カレーの日」を作ってもらうなど普及に務めてきた。だがコロナ禍でこれらの事業も中止が相次ぎ、新たな活動の場を模索していた。

「今日はサプライズ」

ツェッペリンカレーは、地元産のレンコンと県の銘柄豚ローズポークを使ってじっくり煮込んだぜいたくなカレーをいう。ターメリックライスに、ゆでたオクラも欠かせない。食材は推進協議会が提供した。27日はゆで卵とシーフードフライも寄付によりトッピングされた。

調理室では手分けして作業が進む

公民館の調理実習室で、調理や盛り付けの作業をするのは「ひよこ食堂」のスタッフ約10人。でき上がったそばから、電子レンジにもかけられる紙製の弁当箱に詰められ、手渡されていく。密を避けるため利用者は事前予約制で、決められた時間に会場を訪れる。出口ではマスクや野菜類、子ども向けの袋菓子などの配布もある。マスクは寄付金で購入した。野菜は市民農園や有機農園の規格外品などだそうだ。

「子どもたちはカレーが大好きなのでありがたい。コロナ前の食堂形式のときはよくカレーを作っていたが今の弁当方式だと難しい。今日はサプライズとして喜んでもらえたと思う」と話すのは、2019年から都和公民館で「ひよこ食堂」を運営するNPO法人「地域コミュニティワーカーズコレクティブみんなのたまご」代表の荒井敦子さん。

同食堂の弁当は、地域の一人暮らしの高齢者の家にも区長や民生委員の有志の手によって届けられている。これからも必要な人にはなるべくピンポイントの支援ができるよう考えていきたいと、荒井さんは話す。

推進協議会の小島俊光さんは「今はどの子ども食堂もテイクアウト方式だが、コロナが落ち着いて食堂形式が復活したら、そこで写真展や紙芝居などを開催し、ツェッペリン伯号と土浦のカレーの歴史についても理解を深めてもらいたい」と話している。(池田充雄)

◆今後のツェッペリンカレー提供予定は以下の通り。
・こども食堂たんぽぽ:3月6日(日)、たんぽぽ作業所(旧宍塚小学校前)
・ほぺたん食堂:3月26日(土)、一中地区公民館
・土浦ひまわり食堂:3月27日(日)、三中地区公民館
・ふれあい食堂かみもり:3月27日(日)、神立地区コミュニティセンター
・ロック応援弁当:3月27日(日)、六中地区公民館
※各所ともテイクアウト制。利用方法や申し込み方法、代金などはそれぞれ異なる。提供数には限りがある。問い合わせは電話029-821-5995(市社会福祉協議会・福祉のまちづくり係)へ。

昭和な世界の競り台に立つ紅一点 佐野聖美さん【ひと】

1
流れに乗ってさばかれる切り花の競り。右手に立つのが佐野さん=つくば市花室、土浦生花市場

土浦生花市場 

卸売市場はかなり独特な世界だ。隠語が飛び交い符丁で交渉する。競(せ)りをさばく競り人は、商品とお金のやり取りを瞬時に決する仕切り役だから、いわば「切った張ったの世界」に属する。世の中が男女共同参画、ジェンダーフリーと声を上げても容易には届かない、男の仕事だった。令和になって、つくば市花室にある土浦生花市場(齊藤巌社長)の競り台に初めて現れた女性競り人が、好感を持って受け入れられようとしている。

20年9月から競り台に立つのは、土浦市在住の佐野聖美さん(40)。株式会社組織である同社の花き流通部主任、市場にいる競り人3人の中の紅一点、海外から輸入の切り花、鉢物などを主力に扱っている。

売れ筋のデンドロビウムの鉢物を手に=同

流れを止めないとっさの判断力

将来の夢に「ケーキ屋さん」「花屋さん」をあげるようなタイプではなく、花好きというより緊張感ある職場に惹かれる女子だったという。アルバイトに来たとき、その素養を見抜き、正社員採用したのが齊藤社長。2015年ごろの話だ。「これからを考えたら女性を積極的に活用していかなければ」と経営判断、最初から競り人に育てるつもりで採用した。

同社は1974年創設。県内には水戸、土浦の両公設市場にある花き市場をはじめ、日本花き卸売市場協会の会員企業が5社5市場あるが「現時点で女性競り人は1人だけ。おそらく過去にもいなかったろう」(齊藤社長)という。

日本で最大の花市場がある東京・大田市場などでは、競り人になるには試験を受け、資格を得る必要がある。男女に等しく門戸が開かれ、女性の姿が珍しくなくなってきているが、「茨城県内では特に資格試験はなく、水戸公設(水産、青果、花き市場がある)でも競り台に立つ女性はいない」(県農林水産部)そうだ。

大手の卸売市場では近年、透明性確保から電光掲示板に取引価格が即座に表示されるようになっている。競りで、卸業者などが値段を暗に示す符丁の使用を禁ずるところも出てきているが、土浦生花市場は「まだ昭和が色濃く残る世界」。符丁をしっかり覚えるのが競り台に立つための第一歩だ。

ツラ(1)、ブリ(2)などと数えていくが、青果市場のような威勢のいい掛け声とも違う。競り人とひな壇に並ぶ買参人(ばいさんにん)たちとのやりとりはぶつくさ言い合う形で、部外者にはほとんど聞き取れない。チョンガは1と5の並びをいうが、それが15なのか150なのか即座に判断しなくてはならない。1本だったり、1束だったり、1箱だったり扱う単位も一定していないのだ。

「流れを止めないとっさの判断力を問われる仕事」と佐野さん。同時に声が上がった時、どちらが高いか、どちらが早いか即座に判定しないと、買参人になめられたり、怒鳴られたりしてしまう。「お互い真剣勝負だから、なかなか女性には務まりにくかった」

花産業受難のコロナ禍に業績伸ばす

土浦生花市場では常時30人ほどの買参人がひな壇に並ぶ。多くが生花店のバイヤーだ。土浦で切り花販売をしている古参の赤根孝さんは「30年通って初めての女性。どうなることかと思っていたが、きっぷがよくてねえ。評判はいい」という。

「1年半やってきて、ひな壇にも女性の姿が次第に増えてきた。やっぱりコロナの影響かしら。冠婚葬祭の需要が減って花き産業が大変になったのは確かだけど、売り上げを増やしている生花店さんだってある。自宅時間が増えた分、家に飾る花に販路を見出したりしてね」と佐野さん。ドライフラワー向けのアレンジがしやすいオランダアジサイの入荷を増やすなどした。

これらの花は自ら2トン車を運転して、東京・葛西の東京フラワーポートなどに仕入れに行く。競りは毎週月・水・金の3回、午前9時から2時間ほどだが、佐野さんが市場に入るのは午前6時。前日までに仕入れを確認して、相場価格をチェック、競りの戦略を練りながら、運び入れて競りに臨む。

齊藤社長もその仕事ぶりを頼もしく見ている。市場の直近の取扱量は年5億円ほど、コロナ禍にあっても一応の右肩上がりを確保した。春になれば、市場に入ってくる花の数も増えてくる。(相澤冬樹)

ウクライナ情勢が急展開 《雑記録》33

14

【コラム・瀧田薫】2月24日、ロシア軍は首都キエフをはじめとするウクライナの主要都市周辺の軍事施設に空からの攻撃を開始した。今回のウクライナ攻撃が「力による一方的な現状変更を禁じた国際法」に違反することは明白であり、日本政府がロシアに対する非難声明を発表したのは当然のことである。今後、ロシア制裁について、政府はG7メンバー国と同一歩調を取ることになるだろう。

米欧側はロシア軍のウクライナ侵攻を抑止できず、今後、大規模な経済制裁を発動するにしても、手詰まり感は否めない。米軍あるいはNATO軍の軍事介入は、ロシアとの核戦争を覚悟しなければできないオプションであり、米欧にできるウクライナへの軍事支援としては、最大限、武器・弾薬と情報の提供ぐらいだろう。

一方、ウクライナ政府は「非常事態宣言」を発し、ロシア軍への反撃を国民に呼びかけている。しかし、彼我の戦力差は大きく、ロシア軍に対する組織的抵抗を長期間続けるには無理がある。ゼレンスキー・ウクライナ大統領は、親ロ派やロシアが送り込んだ工作員によるクーデターやテロの可能性にもおびえなければならない―それが実態と思われる。

他方、プーチン大統領は、ウクライナ侵攻を事前の計画どおりに進めており、現時点で戦争の主導権は完全に彼の手中にある。しかし、プーチン大統領にも不安材料はある。

彼の最終目的は「強国ロシアの復権」であり、そのための条件として、この戦争の後、ウクライナ、ベラルーシそしてロシアとの間で強力な同盟もしくは国家統合を形成する必要がある。この戦争でウクライナを徹底的に破壊してしまえば元も子もない。

そこで、可及的速やかにウクライナの現政権を無力化し、新政府(ロシアの傀儡政権)を誕生させることが、プーチン大統領の最優先課題となる。首都キエフの制圧に手間取って、ロシアとウクライナ双方に甚大な人的・物的損害が出るような事態になれば、プーチン大統領は、たとえ戦争に勝利したとしても、ロシア国民の支持を失うだろう。

旧い国家観のプーチン戦略

ところで、ウクライナ情勢がプーチン大統領の思惑どおりに展開したとして、最終目標の「強国ロシア」の復権は実現するだろうか。

国家を「強国たらしめる要素」は軍事力だけではない。経済力、外交力、文化的影響力など諸要素が相まって、また国内外からの評価もあって、初めて強国たり得るのである。その観点からすれば、プーチン大統領の今回の試みは、ソ連崩壊以来30年、衰退の一途をたどってきたロシアの国力を、軍事力だけで回復せんとするものであり、20世紀前半の旧い国家観にとらわれた戦略でしかない。

今後のロシアが、国際的に孤立するなかで、頼れるのは軍事力だけだとすれば、ロシアが「20世紀に取り残された国家」の枠を超えるのは、プーチン以後を待たねばならないだろう。(茨城キリスト教大学名誉教授)

土浦で1年越しの成人式 コロナ禍 2回延期

5
「式が延期になって20歳を過ぎてしまい、まだ成人したという実感がない」と話す参加者ら=クラフトシビックホール土浦

新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となっていた2021年の土浦市成人式が27日、1年越しで同市東真鍋町、クラフトシビックホール土浦(土浦市民会館)で執り行われた。当初は昨年9月19日に延期する予定だったが、緊急事態宣言を受けて再び延期していた。

感染防止対策のため参加者は、市に事前申し込みをして抗原検査キットを送ってもらうか、自費でPCR検査を受けるなどし、受け付けで検査結果を示して会場に入った。会場にも当日用の抗原検査キットが用意され、来場者に備えた。

式典は8つの出身中学校を午前と午後の2部に分け、それぞれ30分間に短縮して開催された。

式典会場で一つずつ空けて着席する参加者たち=同

式典の中で安藤真理子市長は「この約2年間のコロナでたくさんのことが激変した。会社での仕事がオンラインになったり、自宅で仕事をしたり、学校に長く行くことができなかった。そんな時代を皆さんはご苦労されたのではないかと思っている。大きなピンチを皆さんの力でチャンスに変えていただきたい。ご苦労された両親や先生、これまで自分に関わってくれた方々に大きな感謝をし、自分自身の可能性を信じて大きく羽ばたいてください。夢は強く願えば、必ずかないます」と言葉を贈った。

成人式運営委員の小澤典皓さんは、成人代表謝辞として自身の塾講師のアルバイト経験を話し、「私たちは多くの人の手助けがあって現在に至る。コロナ禍で人とのつながりが薄れたように感じた人もいるかもしれない。しかし、人とのつながりを再認識し、感謝を伝えていくことで、社会人として旅立つ私たちにとってかけがえのない一日になる」などと述べた。

式典後、参加者は会場の大ホールから退場するよう促されたが、会場前では友人たちとおしゃべりする姿が見られた。

式典終了後、会場の外で友人たちとおしゃべりする参加者=同

現在都内の大学に通う飯村駿介さんは「一年越しの成人式でみんな楽しみにしていたのでうれしい。コロナ禍でこのような式典を開いてくれることに感謝している。大学卒業後は小学校の先生になることを目指していて、今年茨城県の採用試験を受ける予定。小学校も中学校も土浦市だった。自分が育ったところで今度は自分が子どもたちを教える側になりたい」と意気込みを語った。

土浦市田中に実家がある塩田拓実さんは「両親には今日まで育ててくれてありがとうとシンプルに伝えた。今日は皆で集まることができてうれしい。今後の目標はもっと大人っぽくジェントルマンになりたい」とはにかみながらもマスク越しに晴れやかな笑顔を見せた。

塩田さん(後列左から2番目)と式に参加した友人たち=同

対象となったのは昨年1月に成人式を行うはずだった1491人で、うち男性730人、女性761人。成人式には例年800人ほどが参加している。(田中めぐみ)

原発事故の「風評」被害とは 《文京町便り》1

3
土浦藩校・郁文館の門=同市文京町
原田博夫さん

【コラム・原田博夫】2011年の東日本大震災による福島原子力発電所事故により、原発の稼働率が大きく落ち込み、20年の電源構成に占める原発の割合は4.3%に低下しています。一方で、太陽光発電も8.5%、水力発電も7.9%、バイオマス発電も3.2%にとどまっています。

こうした状況を打破するために、脱原子力発電・再生可能エネルギー推進を目指して、2017年、「原発ゼロ・自然エネルギー推進連盟」(原自連、電事連ではありません)が立ち上げられました。会長に吉原毅・元城南信用金庫理事長、顧問に元首相の小泉純一郎氏と細川護熙氏が就き、私は賛同人の1人です。

茨城県内でも数回、小泉氏の「脱原発講演会」が開かれ、多くの聴衆に感銘を与えました。

原自連はこうした啓蒙活動のほか、今年1月27日、フォン・デア・ライエンEU(欧州連合)委員長に、「脱炭素・脱原発は可能です―EUタクソノミー(持続可能な気候変動対策の事業分類)から原発の除外を」と題する文書を、歴代5首相(小泉純一郎、細川護熙、村山富市、菅直人、鳩山由紀夫)名で送りました。

福島県知事、環境大臣、自民政調会長からクレーム

ところが、その中で「…福島第1原子力発電所の事故で、多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ…」と指摘していることについて、内堀雅雄福島県知事と山口壮環境大臣から、風評被害を引き起こすので異議アリ―とのクレームが届きました。高市早苗自民党政調会長も同じ不満を述べています。

この文書を発出したのは、昨年夏以降、EUにおいて、持続可能な気候変動対策(CO2削減)事業に原子力を入れる方向性が明らかになってきたことから、これを阻止すべく、国際世論を喚起するためのものでした。

「…多くの子供たちが甲状腺がんに苦しみ…」のくだりは、文書の中核ではなく、あくまでも、原子力被害の一例としての言及でした。福島県における子供たちの甲状腺がんの高い発生状況は、県が実施している県民健康調査でも明らかで、そのこと自体は厳然たる事実です。

それなのに、「風評被害を引き起こすので言及すべきではない」といった言説こそ、隠蔽工作ととられかねません。

東電福島第1廃炉については、汚染水の海洋放出やデブリの保管施設など、中長期的に取り組まなくてはならない課題が山積しています。地元福島だけでなく、日本国民、韓国や中国など近隣諸国に対しても、科学的な情報を公開することなくしては、この巨大かつ深刻な課題を克服できないでしょう。(専修大学名誉教授)

【はらだ・ひろお】土浦一高卒、慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了。専修大学経済学部教授を経て、2019年4月から名誉教授。米スタンフォード大などに留学。公共選択学会会長、政治社会学会理事長などを歴任。著作(編著)に『人と時代と経済学-現代を根源的に考える-』(専修大学出版局、2005年)、『身近な経済学-小田急沿線の生活風景-』(同、2009年)など。現在、土浦ロータリークラブ会員。1948年土浦市生まれ、土浦市文京町在住。

「幸せな空気」にグランプリ つくばショートムービーコンペ

3
受賞あいさつをする鹿野洋平さん(左)と中村審査員長=つくばエキスポセンター

つくばからの文化発信と次世代の才能発掘を目指す短編映画祭「つくばショートムービーコンペティション2022」(つくば市など主催)のノミネート作品上映会が26日、つくば市吾妻のつくばエキスポセンタープラネタリウムホールで開かれ、鹿野洋平さん制作の「幸せな空気」がグランプリを獲得した。コロナ禍の影響で上映会の開催は3年ぶり。今年度の応募作品総数は172本、全国24都道府県と海外からも寄せられ、年齢は9歳から77歳までと幅広かった。

増幅する不協和音の面白さ

「幸せな空気」の作者、鹿野洋平さん=同

グランプリに輝いた「幸せな空気」は、うだるような夏の昼下がり、エアコンを修理中のアパートの一室で、若いカップルの別れ話が突然浮上し、不穏な空気が流れ始めるという物語。

「気まずい状況やどうしようもなさを、どうやったら面白く描けるだろうかと工夫した」と鹿野さん。「エアコン屋のおっさんという第三者により視点が逆転し、目の前に起きている世界へ狙わずに一発で観客を引き込んだ。映画をよく知っているからこそでき、よほど映画が好きなんだろうなと伝わってくる」と審査員長で映画監督の中村義洋さんの講評。

審査員の一人、五十嵐立青つくば市長は総評として、いま俳優のショーン・ペンさんが、ウクライナの首都キエフでロシアによる侵攻のドキュメンタリー映画を撮影中であることに触れ「世界が平和やほかの尊い何かを考える材料になる」と述べた上で、「今回の応募作品にもちょっとした間や一瞬の表情など、微細に作られているから伝わる、言葉や文章にならない何かがある。それが映像の力だと思う」とコメントした。

中村監督は今回、グランプリを争った作品がもう一つあったと明かした。マンガの中と現実がシームレスにつながる構造の「マンガガールズ」(大門嵩・祁答院雄貴/ケドモン)。「途中から実写になると思ってなく不意打ちをくらった。タイミングやキャスティングもすごく良く、これからもすごい作品を撮ると思う」との講評。この作品は市民審査員賞およびWITスタジオアニメーション賞を受賞した。

審査員と受賞者らによる記念写真

その他の受賞作は以下の通り。つくば市長賞「シブキ」(横山拓巳・Tparty / Nuink.)、つくばエキスポセンター賞「move」(冨田龍雅)、3分以内のショートショート部門賞「瞬間移動ウォッチの悲劇」(笑うポーカーフェイス)。佳作には▽「おどりなき夏」(内藤 諭/鯨岡 弘識)▽「マッチポンプの少女」(高岡尚司)▽「ハロウィンの偽者たち」(川井和)▽「ひとりじゃない」(山口マサカズ/梅花女子大学情報メディア学科山口ゼミ&劇団蒼天)▽「つばさをください」(菜々すうじ)▽「卓上フェス」(ヤマダダイキ)▽「ギャラクシー・レンジャー」(山岡一樹)▽「エイ」(大橋真理子)―の8作品が選ばれた。(池田充雄)

市民参加の文化財保護へアプリ開発 つくば平沢遺跡で3Dスキャン実証実験

8
復元建物の高床式倉庫に3Dスキャンアプリ内蔵のスマホを向ける五十嵐市長=つくば市平沢

スマホで遺跡を多方向からスキャンして3次元データを集め、市民参加の文化財保護に組み立てるという実証実験が26日、つくば市平沢の平沢官衙(かんが)遺跡で行われた。同市のSociety(ソサエティー)5.0社会実装トライアル支援事業の採択案件の一つで、筑波大学が遺跡管理を行うアプリ開発を目指して取り組んできた成果を五十嵐立青市長、森田充教育長らと市民一般に公開した。

実験は3Dスキャンアプリを使って遺跡のモニタリングをするトライアル。奈良・平安時代の筑波郡の役所跡で、国の史跡に指定されている平沢遺跡に復元された高床式倉庫など3棟の建物が対象になった。

スマホからミリ波レーザーを照射し、対象に当たって跳ね返ってくる時間をとらえ、スキャンデータを取得、撮影画像と合わせて3次元イメージに加工する。今回は、建築に使われている市販のアプリを使い、専門業者による詳細な計測データを集約することで、遺跡の最新状態を把握した。

参加者は、対象物を一筆書きでなぞるようにスキャニングする手順の説明を受け、貸与されたアプリ内蔵のスマホで思い思いのポジションで撮影に取り組んだ。平面の土地から高床式倉庫を見上げるように撮影しても、柱が垂直に並んで立ち上がる様子が立体的にとらえられた。

筑波大学芸術系の黒田乃生教授によれば、こうして多方面からスキャンされたデータを集積していくと、VR(バーチャルリアリティー)の形で多くが共有できる。文化財の保存状態の確認や新たな発見による書き変えが継続してできるという。

市民向けの公開に帯同した研究室メンバーは「遺跡の見方が『見物』から『観察』に切り替わり、楽しみ方も変わってくることで参加意欲も湧いてくるようだ」と手応えを語る。

五十嵐市長は「文化財をどう維持管理するかはコストも労力も大変だ。その作業に市民が参加する意義は大きい。市民の意識も変わってくるなら、どうかアプリ開発を加速させてほしい」と感想を述べた。

同市による今年度の支援事業はこれで一旦終了する。筑波大学側はこの先、アプリ開発を継続して進めるための実施主体と資金調達に見通しのついたものではないとしている。(相澤冬樹)

里山体験プログラム 《宍塚の里山》86

1
有機農業を学ぶ

【コラム・森本信生】私たちの会は、33年前から地域の人々の理解を得ながら、生き物調査やボランティアによる里山保全活動を続けてきました。この活動を通して、多様な動植物が生息する貴重な里山が維持されています。訪れた方々は「美しい里山」「珍しい草花」「とても癒される」と言ってくれるようになり、各種観察会や子ども関連行事はたくさんの参加者でにぎわい、環境教育の大切な場となっています。

現在募集中のプログラムは、若い人をはじめ自然に興味のある方々に、里山にもっと気軽に来てもらい、保全活動に参加してもらうものです。参加者は自分に合った方法で活動プランを立て、ゆっくり実践してもらいます。各活動では、その道のベテランが丁寧に寄り添って指導します。

プログラムは、子どもが自然に興味を持ち楽しく体験できるように工夫。谷津田を利用した稲作りや、生き物との共存、生き物の多様性、里山の環境作り―体験のほか、経験豊かなスタッフとの交流もあります。

高校生や大学生も参加

また、環境省指定の「モニタリングコアサイト1000」の調査や土曜観察会では、専門家に貴重な動植物を紹介してもらいます。月例観察会では、専門家による話を聞くこともできます。

この春からは、高校生が自然農田んぼ作りに1年間の予定で来ます。自分が目指す進路に向けての主体的な学びです。つくば市の大学生も、進路をもっと具体的なものにしたいと、70時間もの里山体験をしています。

私たちの会は、里山が未来の子供たちの学びの場となるよう、また生物の多様性を未来につなげるために、持続可能な会の運営を目指しています。活動を修了した方は、理事長から修了証書を授与させていただきます。(宍塚の自然と歴史の会 理事長)

プログラム詳細は宍塚の自然と歴史の会まで

7月22日水戸地裁で判決へ 常総水害訴訟が結審

1
報告集会で、これまでの裁判を振り返る原告団長の片倉一美さん

2015年9月の鬼怒川水害で、住民が甚大な浸水被害を受けたのは国交省の河川管理に瑕疵(かし)があったためだなどとして、住宅や家財、車などの浸水被害を受けた常総市の住民ら32人が18年7月、国を相手取って約3億5800万円の損害賠償を求めて国家賠償訴訟を起こした裁判の口頭弁論が25日、水戸地裁(阿部雅彦裁判長)で開かれ、住民側、国側いずれも最終準備書面を陳述して結審した。判決は7月22日言い渡される。

25日の裁判では原告団長の片倉一美さんが、被害の状況や住民側の主張をまとめた画像を法廷で映しながら、これまでの裁判を振り返り「国の言い分はあまりにも非常識で、論点をごまかす姑息(こそく)な言い換え」だなどと述べ、「国民の生命と財産を守るという使命が微塵も感じられない」などと国の河川行政を真っ向から批判した。

裁判終結後、水戸市内で開かれた報告集会で住民側弁護団の只野靖弁護士は「日本各地で洪水や水害が発生している。自然災害としてやむを得ないものもあるが、鬼怒川の上三坂(堤防決壊)と若宮戸(溢水)に関しては、人災だと確信をもって言える。裁判前は、国は『仕方なかった、もう少しやりようがあったが予算が付かなかった、地主の理解が得られなかった』など、いろいろな制約があったと主張すると思っていた。ふたを開けてみたら中身は空っぽ。(築堤や護岸改修の順番をどう決めるかなど)予算の範囲内で次にどこをやるかをあまり考えないでやっていこうというのが国の河川行政の中身で、計画らしいことが出てこなかった。これでは住民の生命と財産は守れない。この裁判を通してこうした在り方が見直されればいい」と話した。

原告団長の片倉さんは「理不尽な思いから、私たちと同じような被害を最小限にできないかと裁判をスタートした。鬼怒川だけでなく、全国の水害被害者が束になってかかれば裁判官の見方も変わるはず。今回の裁判はそういう一歩となれば」と語った。

裁判は、行政の責任の範囲を限定した1984年の大東水害訴訟最高裁判決の判断基準を元に、河川改修工事の順番が合理的だったかどうかなどが争われた。堤防が決壊した上三坂地区について住民側が、堤防が一番低く最も危険な場所で最優先で工事をする必要があったと主張したのに対し、国側は、堤防の高さだけでなく質も含めた評価を行う必要があるなどとし、堤防の幅を加味したスライドダウン評価という計算上の堤防の高さを元に、上三坂地区の管理に瑕疵はなかったと主張した。さらに砂丘林による自然堤防が掘削されソーラーパネルが設置された場所から水があふれ出た若宮戸地区については、住民側が、国が河川区域に指定していれば掘削を防げた、指定しなかったのは河川法の政令違反だと主張したのに対し、国側は、河川区域の指定は河川改修計画の合理性とは無関係で河川管理に瑕疵があったとは言えないなどと主張した。(鈴木宏子)

世代間不公平という肩車型の脅し 《ひょうたんの眼》45

0
サクランボの花

【コラム・高橋恵一】少子高齢化を語るとき、1人の高齢者を働き盛りの年齢層が何人で支えるかを解りやすく表現するのに、イラストなどを用い、騎馬戦型(3人で1人)や肩車型(1人で1人)と呼んだりする。昔は4人で1人だったのに、今は2人弱で1人、将来は1人で1人を担ぐ肩車型になってしまい、世代間の不公平が進むなど、社会保障費の抑制を求める理由とされたりしている。特に、テレビや新聞などのメディアが安易にこの理論に乗ってしまっている。

元々、「年齢3区分別人口割合」は、国連が各国の人口構成をまとめたもので、開発途上国の現状や世界規模での高齢化を予測した統計である。生産年齢人口を15~64歳としたのも、途上国の現状を踏まえたものだ。65歳以上人口の割合が7%以上を高齢化社会、14%以上を高齢社会、21%以上を超高齢社会という。

しかし、この人口区分が現実と符合しないことは、お分かりだろう。日本の15~18歳は、大枠で就労人口に組入れられるだろうか。女性の就労率や、再雇用賃金の面から64歳まで生産年齢人口に換算できるのか。65歳以降の就労など、年齢人口区分の生産年齢人口と、就労・所得の人口割合とは、性格が異なるのだ。

さらに、生産年齢人口に対して、年少人口と高齢人口を合わせたものを従属人口と言う。つまり、騎馬戦の3人は、高齢者1人と年少人口3人を乗せていたのだ。肩車型では、高齢者1人と年少人口1人しか乗せないのだ。世代間負担の理屈は、年少人口の激減を考えなければ、それこそ不公平なのだ。

必要配分と応能負担の原則

高齢人口割合の上昇は、平均寿命の延びと年少人口割合の減少によるもので、日本の場合は、急激な出生人口の減少である。平均寿命の延びは、食糧事情の改善や生活環境の改善、医療水準の飛躍的発展、社会福祉サービスの向上などがあり、世界的にいえば、戦争や治安の悪化により理不尽に命が奪われることのないことだろう。

少子化については、生活水準の向上により、個人の時間や経済と出産・育児のバランスから、少子化はやむを得ない現象であり、人類社会の発展過程で、女性あるいは夫婦が最善の選択をした結果である。

少子高齢化を「国難」と言った総理大臣がいたが、個人の最適な生き方選択の結果が少子化であれば国難ではあるまい。長生きを遠慮させる国策などありえないだろう。

少子化の進行が人口をゼロにしてしまうわけではない。高齢化も無限ではなく、団塊の世代の山が、2040年くらいには平準化し、日本の人口は将来的には7000万人くらいで落ち着くはずだ。現在のドイツやフランス、英国並みの水準になり、人口密度は少々高めだが、海に囲まれ森林が豊富なので、安定した生活を維持できるだろう。

高度な福祉国家を維持する財源はどうするのか。世代間の負担の不公平はどうするのか。答えは簡単だ。「必要配分と応能負担の原則」。少子高齢化の波を正面から受け止め、安心で平和な政策と、それを正しく助長するメディアを望む。(地図好きの土浦人)

延期半年 3月11日から開催へ つくばの街と山をつなぐ芸術祭

0
左上:小谷里奈 左下:寺村サチコ 右:植田爽介の各作品(敬称略)=主催者提供

コロナ禍のため延期されていた「つくばの街と山をつなぐ芸術祭(つくばアートサイクルプロジェクト)」の開催が、3月11日から4月10日までと決定した。参加作家は国内外から35人以上、展示拠点は筑波山神社を含む全11カ所となり、仕切り直し前から共に増えた。プロジェクト実行委員会の野堀真哉委員長は「約半年の延期でつくばセンタービルが使えなくなるなどしたが、先行させる筑波山エリアでは1カ月のロングランとなり、色々楽しんでもらえるようになった」と企画の追い込みをかける。

テーマに「アントロポセン-分岐点を超えた景色」を掲げる。アントロポセン(人新世)は、新しい地質年代をさす造語。地質学的な意味づけは「人類の活動が地球規模で環境を激変させ、長期的な痕跡を残す時代」。この時代にアーティストは何を感じ表現するのかを問いかけた。

会場を筑波山周辺の山エリア、つくば駅周辺の街エリアの双方に複数箇所設定するのが特色。つくばでは、アートに関わる様々なイベントが散発的に開催されているが、“街でやっていること”“山でやっていること”と互いの距離感があるよう感じられたのがプロジェクトの立ち上げとなった。展示品のみが主役のイベントではなく、つくばの地域性を知りながら、その場所性を生かした現代アートを通し、芸術に触れ、地域に触れ、歴史に触れる機会を作るのがねらい。当初、昨年9月の13日間の開催が予定されたが、コロナ禍から延期となっていた。(21年9月8日付

仕切り直し後は、山エリアが3月11日からと開催を先行させる。展示会場は、BASE877、筑波山神社、江戸屋、旧小林邸ひととき、神郡石蔵shiten:、北条川田邸を予定。野堀委員長は「登山道を使ったインスタレーションの計画もあり、会期中には筑波山神社の御座替わり(4月1日)も行われる。りんりんロードでは沿道の桜が見ごろを迎えるはず」と芸術鑑賞に留まらない楽しみ方をアピールしている。

センター地区の街エリアは4月2日から10日の開催。つくば美術館、桜民家園が中心になる。研究学園地区イーアス内のサイバーダインスタジオは3月11日~4月10日の会期。

鑑賞には共通パスポートが必要。各会場で取り扱い。昨年実施のクラウドファンディングで、リターンにパスポートを求めた応募者には郵送の予定という。(相澤冬樹)

◆つくばアートサイクルプロジェクト2021-22 ▽日程:山エリア・サイバーダインスタジオ 3月11日(金)~4月10日(日) センターエリア4月2日(土)~10日(日)▽会場時間:10:00–17:00 *最終日15:00まで▽休場日:毎週月曜日(桜民家園10:00–16:00 毎週水曜日休み)▽入場:共通パスポート(会期中何度でも入場可能)一般1500円 学生1100円 (税込み)
会場や出展作家など詳しくはプロジェクトのホームページ

TX延伸に調査費1800万円 茨城県、22年度内に方向づけ

7
つくばエクスプレス(TX)=研究学園駅付近

茨城県は2022年度当初予算案に、つくばエクスプレス(TX)の県内延伸の検討を初めて盛り込み、調査事業費1800万円を計上した。22年度内に、現在延伸ルートとして挙がっている①筑波山方面②水戸方面③茨城空港方面④土浦駅方面-の4方面案=図参照、茨城県提供=の中から1本に絞り込む。

橙色の矢印で4ルートを示す=茨城県提供

4ルートは18年に発表された県政運営の指針、県総合計画(18~21年)の「2050年頃の茨城の姿」の中で示された。県を取り巻く環境の変化や発展可能性などを踏まえ、道路や鉄道、港湾、空港などの公共インフラ基盤の将来像を記す中で、県内のTX延伸ルートの構想として4つを示したものだ。

20年の第4回定例会で「基本調査を実施する状況にはない」と発言した大井川知事だが、今回の調査開始について予算発表後の記者会見で「TX沿線、つくばを中心として県南の経済圏、あるいは社会生活圏、これと常磐線沿線、特に県央から県北に向けた生活圏や経済圏を結びつけるためには非常に重要なプロジェクト」とし、どういう形でTXを延伸させるかという議論をするための調査を「このタイミングですべき時」との見解を示した。

4方面ごとに事業費や需要予測

調査は5月から12月に4方面ごとの延伸に必要な事業費、延伸後の事業予測や路線需要予測、費用対効果等を比較整理し、鉄道専門のコンサルタントなど民間の調査機関への委託を含め進める。調査結果に基づき12月から23年2月に、学識者、経済界、県議会、市町村、鉄道事業者らで構成した第三者委員会が絞り込みに向け検討。2月にはパブリックコメントを実施し、3月に決定する。

つくばエクスプレスは起点の秋葉原駅側でも、東京駅まで延伸する計画がある。さらに、臨海地下鉄へ乗り入れて、銀座から晴海を経て国際展示場まで直通運転する構想もある。2016年の国土交通省交通政策審議会答申に「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」として盛り込まれた。東京駅までの延伸開業に時期的な見通しはついていない。

TXのみならず、JR常磐線や地域の鉄道計画のネックとなっている地磁気観測所(石岡市柿岡)の移転の可否が再度クローズアップされそうだが、今回の調査検討の対象にはなっていない。35キロ圏内では直流電源が使用できないことから、県内延伸ばかりでなく、地下鉄線の乗り入れにもかかわってくる。25日開会の県議会で、議論の的になりそうだ。(花島実枝子)

つくば、日本、世界の諸行無常 街は変わる 《遊民通信》35

0
元公務員宿舎(つくば市内)

【コラム・田口哲郎】
前略

先日、手代木公園から松代公園までの遊歩道を散歩していたら、公務員宿舎の建物を見つけました。つくば市内に点在する宿舎は順次売却されるそうです。つくば科学万博では明るい未来を描く舞台となったつくば市は、いま変化の過渡期といったところでしょうか。年季のはいった宿舎の建物は「公団住宅」を思い出させるので、私世代にはノスタルジーを感じさせます。

こうして人は街をつくりますが、時がたてば街は変わるのだな、諸行無常だなと思いました。いま、つくば市のみならず、日本、世界が変化の過渡期に直面しています。国の内外がここまで多方面で騒がしいのは、明治維新や先の大戦後のころに似ているのでしょうか。

英の名門パブリック校が「柏の葉」に

そういえば、つくばエクスプレス(TX)沿線の話ですから、つくば市に無関係ではないと思うのですが、2023年9月、柏市・柏の葉に、英国の名門私立校・ラグビー校の分校が開校するそうです。ラグビー校はハロウ校やイートン校と並ぶパブリック・スクールです。

ちなみに、慶應義塾は福澤諭吉がパブリック・スクールを参考にして創設したと言われています。義塾というのがパブリック・スクールに当たるそうです。西洋文明を和魂洋才のスローガンのもとに取り入れてきた日本に、いよいよ西洋の本丸が乗り込んでくるというのは衝撃です。

慶應義塾には付属高校にニューヨーク校というのがあって、ニューヨークに住んでいる家庭の子弟がそこで学んで、日本に進学するというパターンはありました。ほかの大学でも海外校を持っているところはありますよね。

でも、ラグビー校は日本に住む英国人のための学校という感じではなさそうです。すでにシンガポールに分校をオープンさせているそうですから、ラグビー校の海外戦略はシンガポール校を見ればわかるでしょう。

価値観が気軽にやってくる時代

何年か前、常陽銀行が足利銀行と経営統合する際に、共同持ち株会社の本社を東京に移すという話があり、地元水戸の大反対に遭い、中止したというニュースがありました。銀行もいろいろと大変で、地銀同士のナワバリ、つまり県境を守っていては時代についていけないという事情が背景にあるようです。こうした状況は、コロナ禍以降、県境どころか国境にまで広がっていますね。

ICT(情報通信技術)によるネットワークが整備され、「リモート」が進むと、それを主導して推進しようとしている欧米の価値観が日本にも流入すると以前書きましたが、こんなかたちで最初の波が現れてくるとは思いませんでした。精神に関わる教育というものが、本格的なイギリス式になる。それも日本にいながらにして。

これは黒船の来航というよりも、フランシスコ・ザビエルの来日に近いかもしれません。当時は宣教師が命がけでやってきましたが、これからは価値観が通信網に乗って簡単に、いつも気軽にやってくる時代です。ごきげんよう。

草々(散歩好きの文明批評家)

市村すみいさん・典子さん 《菜園の輪》1

4
市村さん宅の菜園

【コラム・古家晴美】新タイトルの「菜園の輪」では、人の緩やかなつながりに注目したい。ここでいう「菜園」は、家庭菜園から直売所に品物を出荷する自家用畑まで含む大まかなくくりだ。

そこで主な生計を立てているわけではないが、食生活の一部に深く組み込まれている「菜園」は、様々な形で「人のつながり」をもたらしている。家族で食べきれない野菜をおすそ分けする友人知人。育て方のコツを教えてくれる畑の隣人。土地を貸してくれる地主さん。そして、家族もつながりの中に入る。

初回は3町歩(3ヘクタール)の稲作を行いながら、トマトやキュウリなど栽培している、市村すみいさん(92)と市村典子さん(65)の菜園を紹介したい。

つくば市にある市村さん宅の菜園は、母屋裏手の長さ50メート、幅5メートル弱の長細い畑と、自宅から少し離れた1畝(せ、1アール)の畑の2カ所に分かれている。筆者は30年近く、様々な菜園のあり方を見てきたが、このように、家の敷地内や近くで、日常よく使う葉菜類や果菜類を育て、少し離れた畑で根菜類を育てる自家用畑は多い。

食卓を鮮やかに彩る野菜

家裏手の畑は、土起こしや果樹の剪定(せんてい)以外は、基本的にすみいさんが、種まきから草取り、収穫までを健康維持のために管理している。ほうれん草や小松菜などの菜っ葉類や小豆、えんどう豆などの豆類、聖護院(しょうごいん)大根が中心だ。

聖護院大根の栽培は「普通の大根が霜に当たったときに備えて…」と言う、すみいさんの配慮によるものだ。もう1つの畑は、典子さんが管理している。こちらでは、夫とともにトラクラーを使用して、自家用の大根と白菜を中心に育てている。

これまで菜園のお話をうかがった方は、70代までの方がほとんどで、1人あるいはご夫婦で複数の自家用畑を面倒見ている方が多かった。70代とはいえ、青年に近いほどの気概と迫力をもって、様々なことに取り組んでいる。

では、80~90代の方はどうか。市村さん宅では、2つの畑の運営管理については、お互いに口を出さず、自分のやり方で野菜を栽培している。無論、何10年もなさってきた畑仕事に違いないが、年を重ねれば、それなりの苦労もおありだろう。

陰で家族を支えながら、信頼され任されることにより生まれる、「やりがい」と「心の張り」が、お年を感じさせぬ肌の艶をもたらしているのだと思う。お互いを見守りながら、2つの菜園、そしてご家族が、緩やかにつながり支え合う。

2つの菜園から収穫された野菜が、市村家の毎日の食卓を鮮やかに彩っている。(筑波学院大学教授)