金曜日, 4月 26, 2024

実名あげ短歌で墓碑を記す 松崎健一郎さんが第4歌集

【相澤冬樹】水戸市在住の歌人、松崎健一郎さん(72)が第4歌集『死者たちの時』を上梓した。茨城文学賞を受賞した『仕事と日々』以来6年ぶりの出版。亡くなった義母や同僚、大学・土浦一高の同級生など26人について実名をあげ、墓碑を記すかのように歌を送る「追悼」の章を設けている。 松崎さんは元高校の国語教員、茨城民俗学会で常任理事(副会長)を務める。歌集以外にも「親鸞像」「起源の物語『常陸國風土記』」などの著作がある。 歌集に収めたのはいずれも近作だが、高校教員時代にさかのぼっての「日常の風景」の記憶から始まる。 「電車内も禁煙になり高校生のたばこ吸へるを見ぬはよろしも」 やがて、訪れる老い。 「家族らの先頭をいつも歩きしが老いてはあとをついてゆくなり」 歌集後半は、死の色が次第に濃くなる。 「あの本もこの本も読んでおきたいと思へど死んでしまへば読めぬ」 そして、「追悼」の章。義母の伊藤とみ子さん(2014年没)に向けては「お金とは人を動かすみなもとの力なること知り抜きしひと」と詠む。 親鸞の研究家である古田武彦さん(2015年没)には「グランドデザイン描ける者は稀なるを古代史ならば古田武彦」、高校同級の山岡憲さん(2018年没)には「俗からはとほく息してをりながら俗に強くて頼ることあり」と記す。 歌集ではこれら物故者について、個人名のほか逝去の日にち、死因と享年まで記した。松崎さんによれば「それが墓碑には必要なものである」との思いからだそうだ。遺族の了解を取り付け掲載しており、「本の形で名前が残ることにそれぞれが喜んでくれた」と語っている。 ▼松崎健一郎『死者たちの時』(A5判、150ページ、真昼のうみかぜ社、本体価格1800円)問い合わせ電話029-259-4406。

《食とエトセトラ》4 梅ジュースや梅干しを作る

【コラム・吉田礼子】今年の紫陽花(アジサイ)は例年より鮮やかに感じられる。梅雨空にピンクや紫の花の色は一服の清涼剤。空梅雨(からつゆ)の年には瑞々(みずみず)しさが失われ、気の毒なくらい萎(しお)れるが、今年は恵みの雨。紫陽花に元気づけられる。梅雨ならではの仕事がある。梅仕事である。 先ずは梅シロップ(梅ジュース)から始める。固い青梅が最適で、日にちが経っても充分おいしくいただける。酷暑を乗り切るため、原液に氷を入れ、炭酸で割って何度も助けられた。簡単に作れる一品。お忙しい方にもお勧めしたい。 次は梅干し。昨今は、健康維持のために塩分摂取量を減らすことが求められ、梅干しの消費量は減っている。昭和40年代ごろまでは、30%ぐらいの塩分量はよく聞いた。最近は、減塩しても、美味しく傷まない梅干しを作る。 以前、ある梅干しメーカーに5%の減塩梅干しを、どのように作るのか問い合わせたことがある。先ず20%以上の塩で漬け、その後塩抜きをして、ハチミツなどで味付けをして市場に出すということだった。 でも、昔の梅干しを求める声も多い。義母も塩分16%に落ち着いた。高温多湿の日本の夏の気候風土に必要な食品である。昭和生まれの私たちには、日の丸弁当や、梅干しを具に醤油の焼きおにぎりを作ってもらったことが思い出される。 ラッキョウ、ジャムなどの保存食も 梅雨には、ラッキョウ、ピクルス、ジャムなどの保存食作りもある。菌類が活発に動くシーズンは、パン、ピッツア、イーストで作るシュテンゲル(棒状クラッカー)作りにも最適だ。 コロナ禍で、自宅での危機管理のひとつ、食料の調達・備蓄について検証する機会を得た。夫の実家は農家だが、32年前に祖母が亡くなったとき、分家の叔父が米1俵を持って来てくれた。独立した家は備えとして1俵は手を付けないでおく。本家がいざというとき持っていくためと、飢饉などの災害用に、である。 昔は、新米が出来たら1回は食べても、古米から食べていくので、正月を超えないと新米は食べられなかったとのこと。味噌、醤油、塩、砂糖、梅干しなどのほか、乾し椎茸、豆類、麩(ふ)、昆布、かつおぶし、切り干し大根といった乾物の備蓄も大事だった。 これらの使いこなし方の伝承も、昭和生まれの責務と痛感している、同時に、新しい生活様式も取り入れるため、若い人の力も貸してもらいたい。そんなことも考えながら保存食作りに勤(いそ)しんでいる。(料理教室主宰)

新規講座も続々 常陽藝文センターつくば教室 7月本格再開

【池田充雄】常陽藝文センターが主宰するカルチャースクール「藝文学苑つくば教室」が今年度の春期講座を再開し、受講生を募集している。 つくば教室は、2012年につくば市吾妻の常陽つくばビル内につくられた。今年度は春期講座を4月に開講したが、新型コロナウイルスの影響で4月7日から休講していた。感染の沈静化を受けて6月12日から一部講座を再開し、いよいよ7月から本格再開となる。 「今はまだ数講座だけの再開だが、受講生の方々は皆さん楽しみに待ってくださっていた。久しぶりの再会を喜び合う様子などを拝見して、単なる学びの場ではなく、集うこと自体が楽しみな、いこいの場にもなっているんだなと実感できた」と、事務局の笹沼亜希子さん。 再開にあたっては消毒や換気、座席の配置なども3密を避けるよう、感染防止に気を配りながら準備を進めてきた。 新規講座も多数用意されている。その一つ「特攻隊の故郷 茨城」(講師/伊藤純郎さん=筑波大学人文社会系教授)は、霞ケ浦・筑波山・北浦・鹿島灘での厳しい訓練と、食事や外出などの生活から、特攻隊の原風景を探り、その歴史を問い直そうというもの。7月7日から第1・第3火曜日開講、全5回。受講料は会員6600円、一般9900円。テキスト代別途。 「美味しい珈琲(コーヒー)の淹(い)れ方と楽しみ方」(講師/小池美枝子さん=コーヒーハウスとむとむつくば店、コーヒーアカデミードンマイスター主宰)は、テイスティングやラテアートなどを通じて楽しさや奥深さを学び、家庭のコーヒーをワンランクアップさせてくれる。7月11日から第2土曜日開講、全4回。受講料は会員6600円、一般8250円。教材費4400円。 「竹で編む花籠(かご)」(講師/橋本千菜美さん=竹かご作家)は、青竹のひごを使って「四海波花籠」を編む。講師の橋本さんは筑波大学芸術学群彫塑コースを卒業後、笠間などの竹細工工房で修業し、現在はつくば市北条に拠点を置く。材料の竹ひごは橋本さん自身が筑波の竹林で採取・加工したもの。工程も本来は座り仕事だが、いすに座ってできるようアレンジし、初心者でも楽しんで作業できる。8月8日(土)、全1回。受講料は会員2200円、一般3850円。教材費2000円。 このほか当初は4月開講予定だった講座も、ほとんどが7月から仕切り直しとなっており、途中からの受講も可能だ。耳よりな話題として、昨期までは火~金曜のみだった開講日に、今期から第2土曜日も加わり、平日は仕事がある人でも参加できる講座が増えている。 詳細は常陽藝文センターホームページ、申し込み・問い合わせは藝文学苑つくば教室(電話029-855-1125)。

《ライズ学園日記》6 With/Afterコロナの国語授業

【コラム・小野村哲】小学校国語の模擬授業に参加した。都会の人混みが苦手な私には、自宅に居ながらにして参加できるオンライン会議システムを使った研修機会は天の恵みだ。 授業者は教師歴5年目の若い教師、題材は宮沢賢治の「注文の多い料理店」だった。まずは本文を読んで疑問に思った点を、PCに直接タイプしていく。「なぜ、クリームをぬらせたのか?」「どうして風が、‘どう’と吹き始めたのか?」など、他の参加者と疑問点を共有したら、今度は、その中のいくつかを選んで自分なりの回答を書き込んでいく。 もしもこれを一人ひとりに発表させ、板書していたら、大変な時間を要しただろう。挙手となると、発表する子も限られてしまいがちだ。しかし一人に1台のPCを用意すると、これまで手を挙げなかった子まで含め、より多様な考えがより積極的に打ち込まれるようになり、その後の話し合いも活性化したという。 ただ漫然と、塾や家庭で予習をしてきた子が模範的な発表をするのを聞かされて過ごすのでも、教師の範読のあとに棒読みするのでもない。With / Afterコロナの時代にあっては、与えられた情報をうのみにするのではなく、批判的に読み取る力が求められる。時代に取り残されつつある老教師にとっては、コンビ漫才のように宮沢賢治の作品に突っ込みを入れようという発想そのものが興味深かった。 次代に託す コミュニケーションツールとしての「人の言語」は、あいまいで不完全なものだ。距離や方角を正確に伝えるという点ではミツバチのダンスにも及ばない。木々の間を風が吹き抜ける様子を正確に伝えるすべもない。英語の授業では‘critical’を「批判的」と訳すが、英語話者が思う‘critical’に比べて、多くの日本語話者が「批判的」という語から受ける印象はよりネガティブだ。 文字に変換された言葉はなおのこと、教科書に整然と並んだそれはいわばフリーズドライされたものだと思っていい。「馬鹿」という文字は「ばか」としか読めないが、解凍の仕方によっては「愛している」という意味にもなり得る。しかしこれまでの国語の授業では、これを受動的、無批判に読ませることに終始しがちだった。授業の後で行われるテストには、あらかじめ「そのときの主人公の気持ちは、…である」と正解が用意されていた。 もちろん基礎基本をおろそかにしてはいけない。しかし、時に不可解でさえある常識を押し付けるような授業では、言葉は生気を失う。当然、‘critical’で‘assertive’なコミュニケーション能力など養われようもない。 コロナ禍を文部科学省は「非常事態」だといい、授業のオンライン化を推し進めろと言う。「学びを止めるな!」というのももっともだ。しかし私は「学びが止まる」ことよりも、今の学びが「そのまま続く」ことを恐れる。ICT化はいいが、学びのあり方を見直すべき今、授業はおざなりに継続され、一人に1台のPCをもたせることが、目的とされてしまうことを恐れる。 時代は移り変わっている。幕末の先人たちがそうしたように、次の世代にバトンを渡し、その新たな取り組みを支援したいと思う。(つくば市教育委員)

【つくばセンタービル改修】㊦ 世界的アート建築に屋根?

【鈴木宏子】つくばセンタービルのリニューアル計画では、センター広場に屋根をかける計画も検討されている。今回公表されたリニューアルの方向性案には「(センター広場は)多くのイベントが実施されているが、雨天であると実施が難しいなど運営面のリスクが高いことから、雨天時でも実施できるよう屋根の設置を検討する」とある。 今回公表された整備費用約9億8960万円(または約13億6280万円)は屋根を含めた概算費用になるという。「屋根については公共施設基本計画を進める中で検討」(市長・副市長報告案件指示要項)するとされている。 どんな屋根が検討されているのか。2019年3月策定の「つくばセンタービルあり方検討業務報告書」によると、軽量で透明性の高いアーチ状のドーム型屋根が検討されている。骨組みは木材を材質とし、「広場の楕円形に沿って剛強リング梁を設け、リング梁同士の間にアーチ状の架構を渡す」などとかなり具体的な記載がある。費用は非開示。イベントの都度、組み立てて設置するテント式の立派な屋根も各地の式典やコンサートなどですでに使用されているが、可動式の屋根は検討すらされていない。 固定式のドーム型屋根は建物全体のデザインやアート建築としての思想を変えることにならないか。 プリツカー賞受賞 つくばセンタービルは筑波研究学園都市のランドマークとして1983年に造られた。昨年、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞した建築家、磯崎新氏の代表作の一つ(19年3月7日)。ポストモダン建築の代表作品ともいわれる。 センター広場は、ローマのカンピドリオ広場を反転した作品とされる。磯崎氏はその思想を「建築のパフォーマンスーつくばセンタービル論争」(パルコ出版局)で、筑波研究学園都市という国家プロジェクトでつくられた街ゆえに、中心に国家のシンボルを描き出すのではなく「中心を空間にし、空間の中に向かって消滅していくような反転した空間をつくり上げた」と述べている。 新しくつくられた街の中心には、普通なら周囲から目を引くシンボルとなる建物をつくるが、磯崎氏は、国家のシンボルをそびえさせるのではなく、あえて中心に沈み込む空間をつくった。 市はリニューアルの方向性案で、センタービルの課題として「店舗を外から視認できない」と、外から見えにくいことが集客する上で課題の一つだと指摘しているが、センター広場の、沈み込む空間こそが磯崎氏のメッセージとなっている。 文化的な事件 同方向性案で市は「磯崎氏の設計思想を継承する」とし、磯崎氏本人から「この建物が転用されていくことについて、それは建築の宿命。庭(センター広場)は500年くらい残っていくものである」という意見を伺ったと記している。 磯崎氏本人の意見は、情報開示された「つくばセンタービルあり方検討業務委託報告書」(2019年3月策定)にもっと詳しく記載されている。 設計者へのヒヤリングによると、磯崎氏は以下のように語っている。 「センタービルは、文化的な事件として世界的な議論が行われた。メディア的な建築、建物が初めてここで出てきた」 「ベラスケスの『ラス・メニーナス』という絵画を構成する視線としての王=不在の王を引き合いに出すと、この『にわ』の不在はその視線がつくり出す建築として、各所に多くの建築の部分が引用されている。それを『読み解く』ことを建築というものが(書物のように)つくることができるということを示したことが事件であり、この建築のメディア性だった」 「中庭は『広場』(カンピドリオ広場)を反転することによって出来上がっている。それは何かといえば『にわ』として考えられる」 「この建物が『転用されていく』ことについて。それは建築の宿命。そこで自分は『にわ』について考えたい。歴史的に建築建物が壊れたとしても、中庭は祖型として500年ぐらい残っていくであろうし、そうあるように考えていた。それはアートの領域として考えてきたものだった」 「兵馬俑やローマのように、またメトロポリタンのセンター部、神殿の上にかかっている屋根の下の空間のように、この中庭が覆われたとしたら、建物以上に覆うことで皇族の儀式や世界的なイベントを開くにふさわしい空間としてつくばを代表する空間になるようなことぐらいのスケールで考えてほしい」 「そういった公共建築についての『事件=事例』が建築として今も使い続けられていることに、設計者としてはよろしくお願いしますという気持ちである」 市民にとって、つくばセンタービルは今どのような存在だろうか。 第1部 終わり 【訂正】第2段落「整備費用約9億8960万円(または約13億6280万円)の中に屋根は含まれていない」を「整備費用約9億8960万円は屋根を含めた概算費用になるという」に訂正しました。(29日)

《食う寝る宇宙》64  ソロリソロリと3時半起床

【コラム・玉置晋】まずは御報告。2020年4月12日、宇宙ビジネスサロンの一般社団法人「ABLab」において、宇宙天気プロジェクトを発足させました。プロジェクトメンバーがキックオフミーティングの様子をまとめましたので、こちらをご覧ください。 プロジェクトのコンセプトは「宇宙天気キャスタ・宇宙天気インタプリタが活躍する近未来社会を創造する」です。「宇宙天気キャスタ」は読んで字の如くですが、「宇宙天気インタプリタ」って何?という人は、コラム49とコラム50をご覧ください。昨年末に鹿島神宮でうけた神様のお告げ(コラム51)を、しっかり実践しておりますよ。 このプロジェクトは、ABLabと僕がお世話になっている茨城大学理学部・野澤研究室(宇宙天気防災)の協力により、「教育・研究」「社会ニーズの醸成」「利用・防災」の3つの柱をつなげていきます。 愛犬のご飯は僕の担当 さて、上記の宇宙天気プロジェクトを推進するために、僕は「会社勤めの宇宙エンジニア」と「宇宙天気防災を研究する社会人大学院生」の二足のわらじを履いています。時間のやりくりが大変なのですが、どのような1日を送っているのか紹介します。 朝3時半にムクっと起き出し、ソロリソロリと椅子に座ってパソコンを開く。「ガタ」という椅子のきしむ音、カチャカチャというキーボードの音。これらの音で家族を起こすわけにはいかない。一挙一動を慎重に行う必要があります。 就寝前に仕掛けたプログラムの出力結果を確認したり、解析結果をドキュメントにまとめたり、プレゼン資料を作ったり、クリエイティブな仕事は早朝の3時間が勝負となります。 朝7時から8時半は家事の時間です。風呂掃除とゴミ出し、愛犬の「べんぞう」さんのご飯の準備は僕の担当です。この行程を忘却すると奥さんに怒られるので、必死です。 僕は会社勤めの宇宙エンジニアです。基本的には、9~18時の日勤帯は本業の人工衛星を見守る仕事をしています。研究で得た知見は、仕事にフィードバックさせるよう、意識しています。仕事と研究を分離しないことがコツだと思います。 また、担当する人工衛星で問題が発生したり、宇宙天気が異常に荒れたりといったクリティカルな状況にならない限り、定時には退勤するように心がけています。 夕飯の準備は夫婦で連携 先に奥さんが帰宅して、夕飯の準備をしてくれていることが多いので、まずは「べんぞう」の散歩などのお世話をしつつ、人間の夕飯の準備を交代します。夫婦共働きなので、その辺りの連携が生活をやりくりするポイントなのでしょう。ただし、主導権は奥さんにあります。 メール処理などの管理作業、明日の準備で2時間ほど費やします。そして、今日も1日が終わる。 以上は平日の様子なのですが、これだけではとてもタスクはこなせません。残りは、週末にまとめて行うことにしています。また、大学院通学や学会発表では、会社で有休を取得して対応することになります。家族、会社、大学の皆さんの御協力のおかげで、宇宙天気プロジェクトの遂行が可能になっています。心より感謝いたします。(宇宙天気防災研究者)

【つくばセンタービル改修】㊥ 民意と距離ある計画

【鈴木宏子】つくば駅周辺、つくばセンタービルリニューアル基本計画策定費や中心市街地エリアマネジメント団体の出資金などが予算化され、市民説明会が開かれないまま、中心市街地をイノベーション拠点にしようという取り組みが始まっている。これに対し市民は、中心市街地に何を求めているのか。 市は2017年から居住者や働く人の意向調査、オープンハウス、アンケートなどで市民の意見をたびたび求めてきた。 市民意向調査結果の方はホームぺージなどで公開されている。調査の一つ、中心市街地居住者580人の意向調査結果では、住民は中心市街地に「商業や滞在型施設などが多く立地し活気にあふれている街」「文化施設や公共施設が多く立地する公的機能が中心の街」を求め、「インキュベーション(創業支援)施設」がほしいとの回答は14番目だった。 市民は生活者として中心市街地に、にぎわいや都市機能、文化を求めている。昨年12月に出された市議会の「今後のつくば中心市街地まちづくりについての提言」も市民の意向に沿ったものだ。 今年3月策定の「中心市街地エリアマネジメント検討業務委託報告書」にも市民の意向について「文化・運動施設、商業施設、子育て施設を望む意見が多い。その他高齢者、子供の居場所、市の窓口、業務機能、ホテル」などと記されており、市は市民の意向を把握した上で、今回のリニューアル案を出したことが分かる。 市の計画は民意と乖離(かいり)してないか。3年半前の前回の市長選でも、中心市街地という場所は別にして、つくばに集積する研究機関のさまざまな資源を活用して科学産業をつくり雇用を増やす科学産業都市づくりを訴えたのは大泉博子候補だったが、市民が選んだのは、総合運動公園問題の完全解決を訴えた五十嵐現市長だった。 市民の意向を市長がどう考えたかは議事録が不存在で、「市長・副市長報告案件指示事項」と題した簡単なメモの一覧表しかなく、意思形成過程を検証できなかった。 「市の顔つくば駅が効果的」 なぜセンタービルに2カ所目のイノベーション拠点をつくるかについて「つくばセンタービルリニューアルの方向性案」では「(つくばセンタービルは)店舗自体を外から視認できないこと等により不特定多数を集客する商業等の入居は難しい」などと消去法で商業機能を省いている。さらに区分所有者の意向として「ホテルオークラ(ホテル日航つくば)から、ホテル運営が厳しい状況であるため相乗効果を生むオフィス機能となることが望ましい、オフィス機能であれば相乗効果が見込めるため連携した取り組みも可能」との意見があるとも説明している。 情報開示された「中心市街地エリアマネジメント検討業務委託報告書」には、つくば市は研究機関のさまざまな資源を活用した小さなビジネスは起こっているが市に根付く企業が少ないと課題を挙げ、「市の顔となるつくば駅周辺で、資源を活用したまちづくりを表現していくことが効果的」とある。 総合運動公園の教訓どこに 「総合運動公園問題の完全解決」を最大の公約に掲げた五十嵐市長が就任直後、著名な弁護士による総合運動公園事業検証委員会を設置した。総合運動公園がなぜ白紙撤回に至ったかについて同委員会は第1に民意との乖離を指摘し、7つの提言をまとめた。①大規模事業は民意の把握を適切に行い、市民の直接的な要請に基づくものでない事業は市民への説明を十分行うこと②事業計画、基礎的検討の段階で議会への適切な報告を行うこと③財源、市の財政負担の程度について確実な財源と見通しを区別して説明することーなどだ。 同検証委の提言を受け、市は18年9月「大規模事業の進め方に関する基本方針」を策定し、市が主体となる総事業費10億円以上の施設整備事業について、①事業の進め方、必要性や効果、課題、将来への影響など市民に必要な情報提供を十分に行うなど、民意を適切に把握する②事業の客観性を高め市民ニーズに即したものとし、意思形成過程の透明性を図るーなどの手続きを定めた。 「つくばセンタービルリニューアルの方向性案」によると、センタービルの改修費用は、すべての整備を市が実施した場合は約13億6280万円、市が出資する法人が運営整備した場合は約9億8960万円かかるとある。これはセンター広場に設置が検討されている屋根や、エリアマネジメント団体が担うことが検討されている中心市街地全体のまちづくりを含まない。 事業費は全体でいくらになるのか。エリアマネジメント団体の収支見通しをどう見積もっているのか。つくばには創業支援組織が多くあり多くの取り組みを行っているが、これまでやってきたことの分析はされ、課題を明確にしているのか。なぜ民意と乖離してでも中心市街地でなくてはならないのかー。市は総合運動公園の教訓を生かし市民に説明すべきだ。(つづく)

《茨城の創生を考える》16 茨城は対外アピール力を磨くべき

【コラム・中尾隆友】昨年、茨城県議会が茨城空港の名称を「北東京空港」に変更することを提案したが、多くの県民がこの名称に疑問を持ったことだろう。非常に浅はかな名称変更案だったと思うのは、名称に茨城の特色が表れていないばかりか、東京への距離の近さだけを謳(うた)ったものだったからだ。 最終的には専門家の意見を聞いたうえで、「茨城空港」の名称を継続することとし、英語名では「東京首都・茨城空港」「東京北空港」「首都茨城空港」などとする折衷案が出されたが、いかにもお粗末なドタバタ劇だったと思う。 県議会には失望している。提案する前に最低限やるべきことをやっていないからだ。マーケティングでデータを揃えてから、茨城の強みは何かを考えるという発想があった方がよかった。 県や各自治体のPR能力が問われる 東京への近さをアピールしたかったのは、魅力度ランキングで全国最下位だというコンプレックスから来ているのかもしれない。以前も申し上げたように、茨城県の魅力度が低い理由として、経済性や居住性が優れているため、魅力度を磨く必要性に迫られていなかったという点が挙げられる。 人々はさしたる定義がないなかで「魅力度」と問われると、まず自分が観光地として行きたいところはどこか、といったことを思い浮かべる。茨城にも牛久大仏や袋田の滝といった観光スポットは存在するが、これらは茨城のイメージを決定づけるほどの強いイメージを持っていない。 たとえば、研究機関が集積するつくば市の「科学技術」を前面に押し出していくというのはどうだろうか。つくば市では2016年にG7の科学技術大臣会合、2019年にG20の貿易・デジタル経済大臣会合が開催されている。私はG7とG20の双方で会合が開かれた都市を他に知らない。 新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、都心でリモート勤務が増加し、地方へ移住するハードルが低くなりつつある。企業が地方へ移転する動機付けも強まっている。これまで以上に、県や各自治体のPR能力が問われる事態になっているのだ。そのことを強く意識して、成果を出してもらいたい。(経営アドバイザー)

【つくばセンタービル改修】㊤ 具体案、市民に説明なく

【鈴木宏子】つくば駅前「つくばセンタービルリニューアルの方向性案」を、市がホームぺージ(HP)で公表し、30日まで市民の意見を募集している。具体案が市民に公開されたのは初めて。 センタービル1階アイアイモールの一部に市として2カ所目のイノベーション拠点(多様な働き方を支援する場)をつくること、ノバホール西隣のつくばイノベーションプラザなどに吾妻交流センター、市民活動センターと、国際交流、男女共同、消費生活などの機能を集めた市民活動拠点をつくることなどが柱だ。センタービルのイノベーション拠点を運営し、さらに同駅周辺のまちづくりを担う、エリアマネジメント団体を新設することも検討されている。 出資金すでに予算化 一方、今年3月議会でエリアマネジメント団体を設立するための出資金6000万円と、センタービルリニューアルの基本計画策定費990万円などがすでに予算化され(3月9日付)、6月初めには同基本計画策定業務の委託業者が選定された。 工事が実施されればセンタービル建設以来のリニューアルとなるが、担当の市学園地区市街地振興室によると現時点で市民説明会を開く予定はなく、開くかどうかも決まっていない。 市はセンタービルや中心市街地で何をしようとしているのか。意思形成過程や策定過程、考え方が分かるすべての公文書を情報開示請求した。 報告書も検討委も非公表 開示資料によると、センタービルのリニューアルに向けて市内部で検討が始まったのは2018年7月。19年3月に「つくばセンタービルのありかた検討業務報告書」、20年3月に「中心市街地エリアマネジメント検討業務報告書」がそれぞれ策定されたが、内容が市民に説明されることはなかった。片やヴィジョン(18年7月)戦略(20年5月)などイメージや将来像などは公表された。 昨年7月には、エリアマネジメント団体の在り方を検討する検討委員会も設置されたが、会議は第1回目を除き非公開で行われた。 3カ所で役割分担 市が今回初めてHPで公表したイノベーション拠点(多様な働き方を支援する場)は、1階アイアイモールの一部約2500平方メートルにつくる。新施設の面積としては最大だ。リニューアル案には、働く人の交流の場、シェアオフィス、会議室などのビジネスを支援する機能等、子連れ出勤やリモートワークなど多様な働き方を支援し、働く人同士が交流できる場を整備するなどと説明されている。 市がイノベーション拠点を整備するのは、昨年9月にセンタービル近くの市産業振興センターに開設された「つくばスタートアップパーク」(年間事業費約5700万円)に次いで2カ所目となる。 名称はこれまで「イノベーション拠点」として議会に説明されてきたが、今回「働き方を支援する場」と変更された。同振興室によると、中身は議会に説明したイノベーション拠点に変わりはないという。つくば駅周辺をイノベーション拠点とする検討をしており、センタービルの考え方を分かりやすく示すため「働き方を支援」という表記にしたという。 開示資料によると、国家公務員宿舎跡地の70街区にもイノベーション施設をつくる計画がある。つくば駅周辺で計3カ所になる。3カ所の役割分担として「スタートアップパークで創業支援を行い、ある程度の大きさのオフィスが必要になったらセンタービル、さらに従業員が増えるなど企業規模が大きくなったら70街区という流れ」が検討されている。 全体事業費は不明 来年3月までに設立予定のエリアマネジメント団体には、出資金6000万円のほか、センタービルの床の区分所有権の一部を市が現物出資することも検討されている。現物出資されれば所有権がつくば市のものから、新団体の所有となる。経営がうまくいかなかった場合、センタービルはどうなるのか。市振興室によるとまだ検討されてないという。 ほかに中心市街地に新たに、こども体験施設、チャレンジショップ、賃貸住宅やシェアハウス、ゲストハウスなどの箱モノを整備し、中心市街地をイノベーション拠点にする案が検討されているが、費用は全体でいくらになるのか、エリアマネジメント団体の収支がどう想定されているのかは、市民に知らされないままだ。(つづく) つくばセンタービル 筑波研究学園都市のシンボルとして37年前の1983年に建設された。2018年6月に飲食店すべてが撤退し、現在、空き店舗が目立っている。つくば市(52.86%)、ホテルオークラ(ホテル日航つくば、38.48%)、筑波都市整備(8.66%)の3者が区分所有している。

《宍塚の里山》65 初夏の里山「ぶらっと歩き」②

【コラム・及川ひろみ】初夏には木々が次々花を咲かせます。花とはいっても目立たないものも多い中、甘いいい香りに思わず引き寄せられる木もあります。 その代表がムラサキシキブ。秋には美しい紫の実を付けることで有名ですが、花は長い雄しべの先にある黄色い葯(やく)と薄紫色の花弁が美しい。3メートルほどの高さに育ち、枝を四方に伸ばし花を咲かせています。林の林縁(りんえん)のあちこちで見られます。かじってみるとほのかに甘い。小鳥はこの実が好物。食べたあと、消化されない種を方々に落とします。 アカメガシワ(トウダイグサ科)の花もこの季節の花。春に出る若葉が紅色で、とても美しい樹です。この木はかなり大きな木に育つことから、花を見ることができるのは斜面に生えた木など、条件がよいときだけ。 この花には、ヒョウモンチョウやキタテハなど、チョウがよくやって来ます。チョウ好きな人は、この花が観察ポイントです。高木のため、撮影には望遠レンズ付きのカメラが必要で、首が痛くなるほど上を向いて撮影しているのを見かけます。アカメガシワも虫媒花(ちゅうばいか)であり、種子散布は野鳥。したがって、アカメガシワも里山の明るいところにたくさんあります。 明るいところといえば、アカメガシワは先駆植物、パイオニア植物です。裸地(らち、火事や造成など)が生まれると真っ先に生えてくる植物で、乾燥に堪え、貧栄養の場所でも育ちます。 里山には涼しい風が流れます この時期、血赤珊瑚(ちあかさんご)を思わせる、真っ赤な実をつけているのはニワトコ。早春ブロッコリーのような蕾(つぼみ)。4月末には小さな白い花。そして今ごろ、真っ赤な実をつける樹がほとんどない中、鳥にごちそうを提供し、鳥に種を蒔(ま)かせるのがニワトコの戦略。その結果は大当たり。里山の方々で見ることができます。 そろそろヤマユリの花の見ごろの節を迎えます。この花の存在はまず香り。遠くから香ってきます。そして近づくと、大きな白い花。香りは昆虫を誘う道具。この花が咲く明るい林の中を飛ぶクロアゲハやカラスアゲハが受粉。種は風で飛び散ります。 今年は30度を超える暑さが早くも到来しましましたが、里山の中には涼しい風が流れます。しかし、体調が芳しくないときにはご遠慮ください。(宍塚の自然と歴史の会代表)

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