つくば市下広岡の住宅団地、桜ニュータウンで今年1月31日、同団地とつくばセンター(つくば駅前)を結ぶ「桜ニュータウン線」が廃止となった。関東鉄道が運行する路線バスで、売り上げの減少が廃止の理由だ。
廃止の方針を聞き、2017年から同団地自治会の下部組織として活動しているまちづくり団体「桜ニュータウンのこれからを考える会」(金子和雄、阿部眞庭共同代表)が立ち上がった。
コロナ禍で利用減、年561万円の赤字
同団地は土浦市に隣接し、今年4月現在1244人が暮らしている。1979年に分譲が開始され、働き盛りの世帯がこぞって入居した。入居から約40年を経て団地全体が同時に老いることになり、高齢化率は市平均の19.2%を大きく超え51.7%に上る(5月1日現在)。
団地のほぼ中央にバスの回転場を備えた起終点の停留所があり、第1期の入居者が住み始めた時から現在に至るまで、土浦駅までの路線バスの起点及び終点となっている。入居当時、都心への通勤手段は常磐線で生活全般が土浦に向いていた。05年8月24日、つくばエクスプレス(TX)が開業すると生活圏がつくばに向かい、つくば駅と接続するバスターミナル、つくばセンターへのバス路線を望む声が上がるようになった。
06年4月につくば市のコミュニティーバス「つくバス」の運行がスタートしたが、地域循環ルートでつくばセンターまで時間がかかる上に便数も少なかった。5年後にルートを見直し、関東鉄道が運行する路線バス、桜ニュータウン線になった。廃止直前は平日9本、土日祝日は2本が運行していた。
桜ニュータウン線の廃止は、21年11月に市総合交通政策課と市議でもある同会代表の金子さんが、当時の関東鉄道自動車部長の訪問を受けたことから始まった。同年12月20日、関東鉄道は県バス対策地域協議会に22年6月30日をもって廃止を申請。新型コロナの影響で利用客が大幅に落ち込み、22年度以降に運行する場合の経常収支は年間561万円の赤字になるとし、路線の維持は厳しいというのが理由だった。年が変わって22年2月1日の同協議会で廃止申請案が審議され、路線沿線住民の意見を確認できていないことを理由に廃止決定はいったん保留となった。
2060戸にアンケート、廃止なら交通難民
同会は、沿線住民の利用実態と意見を聞き取るアンケートに乗り出した。104の区会を束ねる桜地区区会連合会にバス路線廃止の動きを説明し、アンケートへの協力を依頼。桜ニュータウンの3区会を含む路線沿線の21区会2060戸を対象に4月3日から5月8日までの期間でアンケートを実施した。回収枚数は724枚で回収率35.1%だった。
集計した結果、外出時の移動手段に桜ニュータウン線のバスを利用していたのは146人で、このうちの半数を桜ニュータウンが占めていた。また、廃線後の移動手段を聞いた項目では「廃線されると目的地まで移動できない」を選択した人は11人いて、7人が桜ニュータウンの住民だった。同団地の住民にとって、つくばセンターに向かうバスは重要な公共交通で、廃止されると「交通難民」になりかねない状況が浮かび上がった。
自由記載欄には▽今は運転しているが、この先が心配で免許返納に踏み切れない▽通院できないので困る▽老人は家に閉じこもるか、便利な地域に引っ越すしかない▽減便になってもいいのでなくならないでほしい▽通勤通学の時間だけでも運行してほしいーなど、廃止への困惑と不安、存続の訴えが書き込まれていた。アンケートの報告書はつくば市を通して同協議会に提出された。
22年8月26日に開かれた協議会で、保留となっていた桜ニュータウン線の廃止申請案が審議された。アンケート報告書によって沿線住民が存続を切望していることが認知されたが、廃止が決まり、翌23年の1月31日で運行を終えることになった。
代替交通を提案「市に希望託すしか」
同会のメンバー伹野恭一さんは「ここだけの話ではなく、売り上げの減少や乗務員の人手不足を理由にした廃線や減便が全国で問題になっている。関東鉄道の採算を考えると受け入れるしかないと思った」と当時を振り返る。
通勤や通学に桜ニュータウン線を利用していた人は、廃止になる前は、つくばセンターまで1本のバスで行くことができた。今は最寄りのバス停まで1キロの距離を歩いて2本のバスを乗り継ぐか、土浦駅行きのバスに乗車して乗り換えるルートを使うしかない。いずれも大幅にう回するルートで、25分だった所要時間が倍以上になって運賃も高くなった。
廃止が決まるまで、同会は市や桜地区区会連合会と何度も話し合うなど、粘り強く桜ニュータウン住民の意識を伝える努力をしてきた。廃止を受け入れた後も、活動の手を緩めずに代替交通の確保に取り組んでいる。
会が提案する代替案は、通勤通学客を輸送する朝晩の定時マイクロバスの運行と、商業施設を経由してつくばセンターに至る新たなバス路線だ。市と協議を進めており、代表の阿部眞庭さんは「市に希望を託すしかない」と話す。(橋立多美)
(続く)
➡「公共交通を考える」の過去記事はこちら