【コラム・坂本栄】ミニ紙に市政を批判され、ウソが多いと発行人の市民を訴えた市長。ところが裁判に勝てないと気付き、取り下げを図ったものの、条件付きの和解を拒否され、逆に「追訴」で裁判を補強した市長。それでもダメと分かり、無条件取り下げをのんでもらい、自ら裁判の幕を引いた市長。つくば市長の市民提訴の顛末(てんまつ)はこんな流れでした。

原告・市長の取り下げ声明(1月20日)は記事「名誉毀損訴訟を取り下げ 五十嵐つくば市長、FBで公表」(1月20日掲載)で、被告・市民(亀山元市議)の記者会見(同1月21日)は記事「当初、口外禁止を条件に和解案 …つくば市長」(1月21日掲載)で、ご覧ください。五十嵐さんの1人芝居に終わった感がある裁判のあらましが分かります。

よく調べずに高齢市民を提訴

発信力がある市長が80歳の高齢市民を提訴(2020年11月、被告が知るのは2021年1月)するという、このユニークな裁判沙汰については本欄でも5回取り上げました。今回はその続きです。

五十嵐さんの当初の主張は、亀山さんが発行する「つくば市民の声新聞」の市政批判記事は虚偽が多く、市長としての名誉を傷付けられた、だからその損害を賠償せよ―というものでした。ところが、記事は市長個人を批判したものでなく、市政の不出来を批判したものだから、民法の名誉毀損にならないことが分かった―これが取り下げの理由、その1です。

途中で補強した主張(2021年9月)は、市長選挙前、ミニ紙は市政について虚偽の記事を載せ、事実をゆがめたから、公職選挙法の虚偽事実公表罪に当たる―というものでした。ところが、それを立証できなかった―これが取り下げの理由、その2です。

よく調べないで裁判に持ち込んだあと、両者の弁護士と裁判官による審理の過程で、ミニ紙の記事は名誉毀損に当たらない、公選法上の問題も立証できない―ことが分かったというのです。実にお粗末です。

ネット上のフエイスブック(FB)に、「提訴の時点で検討が不十分であったことについては反省しております。亀山氏に応訴の負担をおかけしたことについても申し訳なく思っております」(取り下げ声明)と書き込んで済む話ではありません。亀山さんに直接会い、弁護士費用は負担しますと、謝罪するのが大人の作法でしょう。

市長としての適格性に疑問符

亀山さんによると、五十嵐さんが最初(2021年6月)に取り下げを図ったとき、その和解案には「和解により(裁判が)終了したことを除き、正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に確約する」「本件訴えの提起や和解内容に関して、論評しないことを相互に確約する」との条件が付けられていたそうです。

分かりやすく言えば、提訴をコッソリ取り下げたいので、その経緯はメディアなどに喋らないでほしい―ということです。取り下げの詳細を市民に知られたくなかったのでしょう。

法律をよく調べないで市民を訴える(市長の適格性に疑問符)。市民への謝罪をネットで済ませる(大人の社会常識が不足)。取り下げの実相を市民に隠す(正しい情報発信とは真逆)。市民の市政批判を萎縮させる(民主政治の基本「言論の自由」を軽視)。今回の一件を検証して、五十嵐さんのこんな行状が明らかになりました。 (経済ジャーナリスト)

<名誉毀損提訴を取り上げたコラム>
▽101「…名誉毀損提訴を笑う」(2021年3月1日掲載
▽103「…提訴を検証する」(2021年4月5日掲載
▽105「…近く裁判開始」(2021年5月3日掲載
▽111「…提訴を取り下げ?」(2021年7月19日掲載
▽120「…批判封じに新手」(2021年11月15日掲載