木曜日, 1月 1, 2026
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日本一の獅子頭から自転車散歩《ポタリング日記》13

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日本一の獅子頭

【コラム・入沢弘子】春らしい陽気に誘われ、桜の名所・常陸風土記の丘に来ました。石岡市のウェブサイトで案内されている“サイクリング拠点の無料駐車場”に車を止め、BROMPTOM(ブロンプトン)を組み立てます。

自転車を押しながら入口の長屋門をくぐると、見事な茅葺(かやぶき)住宅が出現。L字型の住宅は「曲屋(まがりや)」と呼ばれるもの。中はソバ屋さんとして使われています。園内を進んでいくと、江戸時代の会津地方の茅葺民家を移築したものもありました。ここ常陸風土記の丘は、茅葺屋根のふき替え技術継承のために、職人の育成も行っているそうです。

さらに行くと、巨大な獅子頭が見えてきました。「石岡のおまつり」で町を練り歩く幌(ほろ)獅子の獅子頭を巨大化し、展望台にしたものです。この大きさは日本一。ちびっこ広場を見下ろす階段の上に鎮座します。迫力満点の獅子頭は、子ども時代だったら怖かったかもしれません。

茨城のブランド豚の故郷

獅子頭にご挨拶をしたら横道から自転車に乗り、ふるさと農道をスタート。走り始めると、すぐに上り坂。しかも結構長い。立ち漕(こ)ぎをしながら頑張りますが、既に脚がつりそう。

坂の上には「鬼越峠の梅林」の看板がありました。左手には白梅の梅林。甘い香りが漂っています。ここからは下り坂。頻繁に横を通るトラックに注意しながら快適に進みます。坂を下りると、「茨城県畜産センター」の看板。後で調べたらfacebookもあり、かわいい子豚の生育状況なども掲載されていました。茨城のブランド豚の故郷なのですね。

平地に出て視界は開けましたが、車やトラックの通行量も多いです。前方の、峰が一つになった筑波山を眺めながら走ります。なだらかな山脈に囲まれるように民家と田畑が広がる風景は癒されます。「手打ちそば」の幟(のぼり)もちらほら。八郷地区に入ったのでしょうか。

季節限定のいちごパフェ

初めて信号のある道にぶつかりました。下青柳の交差点を右折すると、すぐに「いばらきフラワーパーク」。スタートから約90分。全身汗だくです。入園料が不要のフラワーパーク併設のRose Farm Market & Caféで、近所の農園の朝摘みいちごを使ったいちごパフェを注文。酸味と甘さに癒されながら帰り道を思い、ちょっと憂鬱(ゆううつ)な仲春(ちゅうしゅん)の午後でした。(広報コンサルタント)

<お知らせ>このコラムは筆者の都合により今回が最後になります。

小学校区に1カ所を【広がる子ども食堂】6

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子ども食堂サポートセンターいばらきの(左から)伊東輝実さんと大野覚さん

子どもに無料または低料金で食事を提供し、地域交流の場ともなっている「子ども食堂」。2017年から県内の子ども食堂など、食を通じた地域の多様な居場所づくりの設立・運営のサポートに取り組んでいる茨城NPOセンター・コモンズ事務局長で、子ども食堂サポートセンターいばらき(水戸市)の大野覚さん(43)によると、子どもが1人でも安心して利用できる子ども食堂には、子どもの貧困対策と地域の交流拠点の2つの柱がある。

ところが、子ども食堂イコール貧困対策のイメージが広がり、多感な時期の子どもは「周囲から貧困家庭と思われたくない」と利用を控えてしまうことがあるという。支援を必要とする子どもが入店しにくい状況を生まないため店の名称をあえて「子ども食堂」とせず、地域交流を前面に打ち出している食堂が多い。大野さんは「生活が苦しい子どもだけに限定している食堂はわずかで、全体の8~9割の子ども食堂が『地域の誰もが利用できるみんなの居場所』と広く門戸を開いている」と話す。

子ども食堂を開設する方法は、食品衛生責任者の資格が必要など保健所の問題だけで「参入の敷居が低い」と大野さんが言い表すように、開設しようという仲間がいて、調理と食事ができる公的施設などを借りることができれば始めることができる。運営者の7割を市民団体とNPO法人が占め、近年は民間企業が運営する子ども食堂が出現してきた。大野さんはその理由を「社会貢献として消費者に得点が高いからではないか」と分析する。

運営は明確な定義があるわけではなく、運営団体によって開催頻度、スタイル、メニューなどはさまざま。開催頻度は月に1回または2回が多く、土曜の昼食時や平日夜に営業したり、日曜の朝食時間帯に取り組む食堂もある。料金は子どもは無料、有料の場合は100~300円が主流で、大人については子どもより割高に設定されている。年齢を問わず誰でも無料の食堂もある。また、釜でご飯を炊いたり、地域の伝統食の提供や野菜の収穫と料理体験など、食育活動を行っている子ども食堂もある。

県内の子ども食堂の多くが市民ボランティアが主体となって運営されており、課題は「運営費の確保」だ。ボランティアが基本となる経営は必ずしも恵まれたものではなく、寄付や助成金制度などを活用しながら運営を行っているところが多いと大野さんはいう。

食材は農業協同組合からコメや野菜、フードバンクから加工品などの提供を受けているほか、野菜を多く作り過ぎた農家や、地域住民からの寄付で賄われている。

同サポートセンターいばらきコーディネーターの伊東輝実さん(37)によると「運営を担っているのは子育てが一段落した50代から60代の女性たちで、生き生きと活動を続けている」と話す。県内各地の現場を訪ねている伊東さんが、活動が長続きする理由を尋ねたところ「参加自由で義務ではない、無理せず出来る範囲で参加できるから」を挙げた人が多かった。また、地域に貢献しているという自信が生まれ、仲間同士の交流も離れがたい魅力で、「活動の喜びについて、皆さんが『子どもたちの笑顔』と答えてくれた」と話した。

大野さんは「困窮世帯はコロナ禍による収入減と物価高に追い打ちをかけられている。困っている人に無料または低料金で食事を提供する子ども食堂は社会を支える仕組み」だとする一方、県内の小学校区に子ども食堂がいくつあるかを比較した子ども食堂の充足率は、県全域で18・8%と、小学校区5.3校に子ども食堂が一つというのが実情だ、

県全体と比べると比較的多い県南の子ども食堂充足率は20・5%。「5つの小学校区に1カ所という状況にある」とし、「地域を問わず、子どもたちが徒歩で通える小学校区域に1カ所、子ども食堂ができるよう設立と運営をサポートしていく」と意気込みを口にした。また「コロナで交流が遮断されて人と人とのつながりが薄れてしまった。地域コミニティーを深める場としての役割を高めていきたい」と語った。

子ども食堂は2012年に東京で始まり、2年後の14年、厚労省が子どもの貧困率は16・3%で6人に1人の子どもが貧困状態にあると発表したこともあって、貧困対策として全国に普及した。全国に広がる子ども食堂をサポートするNPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」(湯浅誠理事長)の発表によれば、日本全国に少なくとも7331カ所、県内には149カ所ある(22年11月19日現在)。物価や光熱費の高騰で困窮する世帯の子どもへの支援はもとより、コロナ禍で失われた地域コミュニティーを取り戻す場として必要性が高まる。(橋立多美)

終わり

手紙を書くということ《ことばのおはなし》55

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私の筆記用具

【コラム・山口絹記】私は手紙を書く。手紙を書くときに考えるのは、便箋と封筒と切手と封の組み合わせ。そして相手に伝えたいことだ。写真を入れるか、挿絵を描くか、なんてことも考える。

手紙を書くときに下書きはしない。構成も考えない。ただ、はじめにどうしても伝えたい一文を決める。それに向かってひたすらことばを繋(つな)いでいく。だから、とんでもないことになる。書きながら、弱気になったり、おどけてみたり、誤魔化(ごまか)してみたり。

どうしてこんなにも大変な労力をかけて手紙を書くのだろう。これはたぶん、ことばに質量を持たせたいからなのではないかと思う。紙に万年筆のインクが染みこみ、やがて水分が蒸発しても、そこには染料や顔料が残る。空気の振動でもなく、0と1の信号でもなく、何かもっと、確かなカタチをもって、伝えたいことがあるのだと思う。

そうして伝えることばに、託したい想(おも)いがあるのだと思う。伝えるべきことは、自分の意思をもって、何を介すことなくできる限りを尽くして伝えたい。だから、手紙を書く。字、汚いのだけど。

手紙を書き始めると「あーあ、ことばなんて」と思うことがある。ことばなんて、くだらない。つまらない。恥ずかしい。どうせことばにしたところで。それでも、伝えたいことをことばにしないのは、ただの怠慢なのだ。うまい言い回しができなくても、ちょっとタイミングが悪くてもいい。

伝えたいことに質量をもたせる

手紙を書いたら、できるだけ早くポストに投げ込む。送ろうかどうかいつまでも迷っていると、相手が消えていなくなってしまうこともある。その手紙は、読む人を失って、机の奥底で静かに死ぬことになる。たまに読み返そうと思うのだけど、その勇気はなかなか出ない。かといって、捨てる勇気もない。そういうのは辛(つら)いからイヤなのだ。

私には、時折思い出したように連絡をとるひとがいた。もう10年以上の付き合いだった。最近、いつものように、ふと電話をかけてみると、通じなかった。なんとなく胸騒ぎがして、書留で手紙を送ったものの、数日後に宛所(あてどころ)がないと戻ってきてしまった。私よりずっと年配で、共通の知り合いもおらず、もうどうしようもない。三十路を過ぎてからというもの、少しずつこういうことが増えてきた。 それでも、私は手紙を書き続ける。伝えたいことに質量をもたせるために。(言語研究者)

企業も参加 飲食店やキッチンカーで【広がる子ども食堂】5

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提供する弁当を紹介する中華料理店、百香亭のスタッフ=つくば市天久保、百香亭筑波大学店

飲食店が子ども食堂を開くなど、企業参加型の取り組みも現れ始めている。

つくば市天久保の中国料理店、百香亭筑波大学店は、月2回土曜日の昼間、1日30食限定で無料の弁当を配布する「百香亭みんなの食堂」を実施している。

利用は子どもから現役世代、高齢者まで年齢制限はない。筑波大学が近いことから大学生の利用も多い。2月初め、店頭に「みんなの食堂」の看板が出された同店では、成人の男性が無料弁当を注文していた。店内で数分待ち、スタッフからあたたかい弁当を受け取る。同店がテイクアウトで販売している600円の弁当と同じ大きさの器に中華のおかず3品とごはんが入っている。この日のおかずはにんにくの芽と豚肉の炒め物にたけのこの和え物、シュウマイ。

茨城ロータリーEクラブ会員でもある同店の徐佳鋭さん(41)は「奉仕活動として地元の子どもたちに何かできることをしたいと思い活動を始めた。年齢を問わず、来ていただける方には配布している。温かいものを食べてほしいのでお弁当は注文を受けてから作っている。毎回来る人もいるので、飽きないようにおかずの内容は変えている」と話す。できるだけ長く続け、多くの人に支援を広げるのが目標という。

百香亭みんなの食堂は昨年7月から始めた。つくば市が年間最大10万円を補助する市内8カ所の子ども食堂「みんなの食堂」の一つだ。配布時間中はみんなの食堂の看板を出しているが、最初は3~4個ほどの注文しかなかった。昨年9月に市の情報広報誌「かわら版」にみんなの食堂の情報が掲載されると徐々に来店者が増え、毎回30食が無くなるようになった。活動資金は市の補助金のほか、茨城ロータリーEクラブとロータリー財団が支援している。

「こちらから行けばいい」

高見原地区の催しに出店したキッチンカーによる移動式子ども食堂=つくば市高見原、2丁目会館

つくば市高見原の2丁目会館で2月初め開催された地域の催しに、キッチンカー(移動販売車)を活用した移動式子ども食堂が出店し、ボリューム満点のハンバーグ丼やローストビーフ丼がふるまわれた。

この催しは、高見原を含む市内8つの周辺市街地の地域振興を目的にした市主導の実践型プログラムで、同市香取台在住の岡冨陽子さん(44)のアイデアが採用され、移動式子ども食堂と消防車をメーンに地域住民の交流促進や防災力を高めようという催しが実施された。

出店したキッチンカーは普段、都内のイベントなどで肉料理を販売している。この日は子ども50食、大人約100食分が提供された。子ども向けのハンバーグ丼は無料だ。

イベントを企画した岡冨陽子さんは青森県出身。筑波大を卒業し、10年前から子どもを対象にしたオンラインの料理教室「食育料理教室 ふくふく」を主宰している。

子ども食堂にも興味を抱いていたが「本当に支援を必要とする子どもが来ないのが悩み」という運営者の話にむなしさを感じ、運営する側も利用する子どもも、双方が満足できる仕組みはないのかと思案していた。そして出会ったのが、埼玉県熊谷市のNPO法人あいだの奥野大地副理事長が発案し、同市で2019年にスタートさせた全国初のキッチンカーによる移動式子ども食堂だった。「固定の店舗だと遠すぎたり、貧困家庭と思われるから行きづらいといった子どもが出てしまう。困っている人が時間をかけて来る必要はなく、こちらから行けばいい」。

シンプルな理由で始めた移動式子ども食堂の仕組みは、キッチンカーを所有する飲食店に食事の提供を委託し、プロの味を提供できる。中学生以下の子どもと妊婦は無料で、その食事代は寄付金を充てる。大人は通常の価格で購入することでキッチンカーの収益になるという仕組みだ。徐々に認知度が高まり、千葉や静岡、沖縄など、全国に移動式子ども食堂開催の輪が広がり始めている。

「こちらから行けばいいという考えに共感し、この仕組みならみんなが笑顔になれる」と思った岡冨さん。同法人の茨城支部として活動し、県域に移動式子ども食堂を広げたいと話す。まずは市内での移動式子ども食堂の開催に向けて準備しており、子どもたちには友達と連れ立って気軽に来てほしいと呼びかける。

ふるさと納税を充当

境町はコロナ禍の2020年から、町内の飲食店が参加し、毎週土曜日と日曜日に各店10食分ずつ、町内に住む18歳以下の子どもに弁当を無料配布する「境町こども食堂」を実施している。現在、和食店、洋食店、すし店など14店が参加する。

ふるさと納税や企業からの寄付を原資に、町が1食当たり300円を飲食店に助成し、年間2万食ほどが子どもたちに無料提供されている。配布時間は午前11時から午後4時の間だが、ほとんどの店が午前中に配り終わってしまうという。

同町まちづくり推進課によると、地域全体で子どもたちを見守ろうという橋本正裕町長の発案でスタートした。このやり方だとハードルは高くない、全国の自治体に仕組みを広げたいと同課はいう。(田中めぐみ、橋立多美)

続く

認知症予防 事故すれすれの日々《くずかごの唄》124

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イラストは筆者

【コラム・奥井登美子】夫は76歳で大動脈解離(かいり)。運よく命はとりとめたものの、「いつ何があってもおかしくない体」を自覚して、93歳まで楽しい宇宙人を生きてきた。

80歳から、蜂窩織炎(ほうかしきえん)、骨折、動脈炎、鼻出血、肺炎などでの入院が7回。そのたびに医療関係者の方にお世話になり、感謝している。私に出来ることは、食事、睡眠の管理のほか、精神的支え、認知症の予防がある。「死にもの狂いでやるしかない」と決心した。

「おじいちゃんに似てきましたねって、言われてしまったよ」

「髪の毛が黒いって、褒めてくれたの。おじいちゃんも85歳で白髪がなかったわ」

暗い方に持っていきたい話題を、明るくはぐらかすのだ。

「困ったなあ…、似てほしくないよ」

「親子だから似るのは仕方ないわよ」

「親父の最後が大変だった。あんなこと誰にもさせたくない」

舅(しゅうと)は、昔ながらの家の存続しか頭になかった。期待していた長男に死なれ、鬱(うつ)状態になってしまったが、しっかりした姑(しゅうとめ)と隠居所で暮らしていた。しかし、姑の突然の死亡で、「ボケ」といって、何とか世間体をごまかしていた鬱病が、ノコノコと這い出してきてしまったのである。

「死にたい」と言い出すと、紐(ひも)状の物を首に巻き付けてしまう。ネクタイ、腰紐など、紐類を全部隠したが、カーテンの紐を首に巻き付けてしまった。

仏壇の下に蝋燭(ろうそく)のマッチがあるのを知っていて、マッチをすってしまう。布団と畳のボヤが2~3回。幸い、早く見つけて消すことができた。事故すれすれの日が続く。

「手を縛らせていただきました」

千葉大学の外科医の兄も心配して、精神科に詳しい友達の医者がいる病院に入院させてくれたが、今のように老人性鬱病のノウハウがしっかりと確立されていない時代だった。「立派な鬱病です。危険なので手を縛らせていただきました」。両手ともベッドの枠に縛られて、動かせないようにしてある。

家に帰りたいと言っているが、私が家で手を縛ったりしたら、ご近所や親戚の婆さんたちに何を言われるかわからない。さあ、困った。家に帰る条件として、事故につながる危険なものは一切触らないという約束をして、家に連れて帰ってきた。

夫は東京勤務。私は薬局と3人の子供の子育て中。舅生存の5年間、よく体が持ったと思う。(随筆家、薬剤師)

建築家 磯崎新を追悼 3月19日 つくばセンタービルでシンポジウム

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企画への思いを語る(左から)実行委員会副委員長の齋藤さだむさんと、委員長の鵜沢隆筑波大名誉教授

昨年12月に亡くなった建築家、磯崎新さんの業績を振り返るシンポジウムと、同氏の美術作品を展示する企画が3月19日、つくばセンタービル内のノバホール(つくば市吾妻)で開催される。つくば市民が中心となる「追悼 磯崎新つくば実行委員会」(実行委員長・鵜沢隆筑波大名誉教授)が主催する。

ポストモダン建築の代表作とされるつくばセンタービルを設計した磯崎さんは、水戸芸術館や群馬県立近代美術館、ロサンゼルス現代美術館など多数の作品を残し、英国王立建築家協会ゴールドメダルや、建築界のノーベル賞といわれるプリツカー賞を受賞するなど、世界的に高く評価されてきた。今回の企画は建築だけでなく、美術作品や著作物など磯崎さんの多彩な活動を網羅的に振り返る。

激しい言葉が若者の刺激に

きみの母を犯し、父を刺せ−。

実行委員会委員長で建築家の鵜沢隆さん(72)が20代のころに衝撃を受けた磯崎さんの言葉だ。「日常的な住宅のイメージを払拭する新しい世界を切り拓け」。そんなメッセージを激しい言葉で伝えようとする磯崎さんの存在は、国内外の若い建築家に強い刺激を与え続けたという。また数々のコンペや展覧会開催に関わり、若手の育成にも力を注いできた。

「磯崎さんは建築だけでなく、制作した美術作品の多さも際立つ。また、刺激的で挑発的な文章を絶えず発信してきた。『ポストモダニズム』という言葉を概念化した磯崎さんの思考についても明らかにしたい」と鵜沢さんは意気込みを語る。

40周年 つくばセンタービルを後世に

つくばセンタービルをめぐって、つくば市は2020年、同ビルの中央広場にエスカレーターを設置するなどのリニューアル計画を発表した。これに対して「(同ビルの)文化財としての価値を失うことになる」と、市民団体「つくばセンター研究会」が21年、計画に反対する要望書を提出するなどして市に見直しを求め、市はエスカレーターの設置を取り止めるなど計画を大幅に見直した。

実行委員会にも名を連ねる同研究会は、21年6月と22年11月に、つくばセンタービルを再評価し今後の活性化のためのシンポジウムを開いてきた。同研究会の共同代表で、実行委員会副委員長の写真家、齋藤さだむさん(74)は「つくばセンタービルは今年、築40周年を迎える」として、今回の企画への思いをこう語る。

「同ビルが象徴する筑波研究学園都市は、日本が国家事業として街づくりをした初めてのケース。後に続く事例は今もない。研究素材、教育素材としても、いかに残していくか。時代の先端でもある磯崎さんの業績を振り返ることで、つくばセンタービルが持つ意味を考えることが、今後の活性化につながれば」

シンポジウム「追悼 磯崎新ー思考の建築」はシンポジウム、磯崎新作品展、つくばセンタービル建築ツアーの3部構成。3月19日午後1時半からノバホール大ホールでシンポジウムが開かれる。登壇するのは、磯崎さんのアトリエ勤務を経て日本建築学会教育賞を受賞する建築家の渡辺真理法政大学名誉教授、10年にベネチア・ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞した今注目の若手建築家、石上純也さんら4人。

作品展は同日午前11時から午後4時、ノバホールロビーで、シルクスクリーンの版画や写真、鉛のレリーフ、二脚のモンローチェアなど、磯崎さんのオリジナル作品十数点を展示する。建築ツアーは午前11時から正午、六角美瑠神奈川大学教授の解説で開催する。(柴田大輔)

◆シンポジウム、作品展、建築ツアーいずれも参加費無料。建築ツアーのみ事前予約が必要で、定員40人。問い合わせはメールtsukuba.center.studygroup@gmail.com(つくばセンター研究会)、建築ツアー申し込みはつくばセンター研究会ホームページへ。

米飯到着 最大1時間10分遅れ つくば市学校給食

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つくば市役所

つくば市は28日、学校給食に米飯を納入する業者の炊飯機械が故障し、市内の小学校9校と幼稚園3園に同日提供する予定だったご飯の到着が最大1時間10分遅れたり、主食を変更し、ご飯の代わりにパンや麺を提供するなどしたと発表した。

市教育局健康教育課によると、県学校給食会を通して市内の小中学校や幼稚園に米飯を納入している3つの業者のうち、9校と3園に計4890人分の米飯を納入している1つの業者の盛り付け器が故障し、提供できなくなった。

市は、児童や園児に速やかに主食を提供するため、小学校4校と幼稚園2園の計3114人に対しては、別の業者が急ぎ、ご飯を炊いて提供したが、到着が最大1時間10分遅れ、児童や園児は、給食開始時間の午後0時20分ごろからおかずだけを食べ、ご飯が到着した1時30分ごろから、ご飯にふりかけをかけて食べたという。

一方、小学校5校の1751人に対しては、ご飯の代わりに市内の製麺業者が麺を提供、この日の献立が味噌味のバター入りどんこ汁だったことから、児童らはどんこ汁に麺を入れて食べた。

ほかに幼稚園1園の25人に対しては、ご飯の代わりに市学校給食センターがパンを提供した。

故障した米飯納入業者の機械は28日までに修繕が完了し、翌3月1日から通常通り米飯を提供できるという。

同課はこの業者に対し、設備管理の徹底を図るよう指導したとしている。

コロナ禍 シングルマザー5人が立ち上げ【広がる子ども食堂】4

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子どもたちに巻きずしの作り方を教える林さん=阿見町の本郷ふれあいセンター

コロナ禍の2020年、シングルマザー5人が立ち上げた子ども食堂がある。阿見町を中心に食料を無料で配布するフードパントリーや子ども食堂、無料塾などの活動をしているami seed(アミ・シード)だ。代表の清水直美さん(44)ら30~50代の女性10人が中心となって運営する。

2月初め、阿見町のコミュニティセンター、本郷ふれあいセンター(同町本郷)で開かれた無料塾と子ども食堂「おにぎり食堂」に小学生から高校生まで約15人が集まった。毎週木曜日に開催している。子どもたちは机の上にそれぞれの教科書やノートを広げ、集中して鉛筆を走らせている。ボランティアの山田美和さんら2人が講師として子どもたちに勉強を教える中、調理室では清水さんら6人が調理に追われていた。

この日の献立は翌日が節分の日であることに合わせて、恵方巻とさつまいもの肉巻き、さつまいもとりんごのサラダ、あさりとしじみ2種類の味噌汁、牛乳。訪れた子どもたちの分と子どもたちが持ち帰る家族の分、合わせて50食を作り、容器に盛り付けていく。献立は調理師の資格を持つ林久美子さんが考えた。食材はいずれも寄付されたものだ。

しばらくすると勉強が終わった小学生たちが食事の準備を待ちきれず調理室にやってきた。「お腹減った?自分の分を自分で巻いてみる?」。林さんが恵方巻の作り方を教えると、子どもたちは真剣な様子で巻きすに手を添え巻いていく。完成すると笑顔がこぼれた。続いてやってきた中学生たちも自分で作った太巻き1本を、恵方を向いてほおばると「とてもうまいです」と顔をほころばせ、親指を立てて見せた。

2月12日に開かれたアミ・シード主催の講演会で活動への思いを語る清水さん=同

近所の人が助けてくれた

ami seedは20年4月、清水さんらが立ち上げた。阿見町には茨城大学農学部と県立医療大学の二つの大学がある。コロナ禍、一人暮らしの大学生や一人親世帯に食料を無料配布する活動から始まった。

清水さんは22歳になる双子の娘を持つ。娘が中学生の時に離婚し、仕事を掛け持ちした。忙しい生活の中、母が余命1年と宣告を受け、清水さんは自宅で最期をみとる選択をした。仕事と介護、子育てに追われる生活を見かね、近所の人たちが料理を作って持ってきて助けてくれた。

この体験を経て「それぞれいろいろな事情があったとしても、とにかくごはんを食べていればなんとかなる」と、食の支援を思い立った。

「おにぎり食堂」は、企業や個人からの寄付や、JAなどから支援を受けて集まった食材で運営している。最近は物価の高騰からか、集まる食材が減ってきたという。乳児用のミルクやおむつ、ベビーチェアやチャイルドシートなどが足りていないことも課題だ。

活動を知った土浦市や取手市などからも相談や問い合わせがあるという。子育ての仕方が分からないと育児ノイローゼになりながらも一人で子育てしている女性、離婚調停中で経済的に困窮している女性、仕事がなく昼夜逆転の生活をしている人。清水さんが寄り添ってきた人たちだ。「骨と皮になっているママもいる。職場でも友だちがつくれず、上司からパワハラを受けていたりもする人もいる」と清水さん。

一人暮らしの大学生は、経済面だけでなく心の問題を抱えていることが多いという。学業の相談を受けたり、自殺の連絡が来て止めたりしたこともあった。痩せていく様子を見て診察を勧め、医療につなげたこともある。

大学生との間でこんなエピソードもあった。ある時、90代の夫婦が寄付金数万円を携えて訪れた。県外出身の一人暮らしの男子大学生はその寄付金による支援で食料をもらうことができ、無事卒業した。社会人になった男性が夫婦に感謝の手紙を書いて送ったところ、子どものいない夫婦は「本当の孫からもらったようでこの手紙が宝物」と清水さんに語った。夫婦と男性を会わせたいと考えた清水さんは、夫婦宅の草取りの手伝いに男性を呼び、3人は対面することができた。

孤立しやすい一人親家庭や大学生、一人暮らし高齢者を、清水さんはいずれの場合も見守りながら、必要であれば本人の同意を得て行政の支援につなげる。しかし、傷ついた経験から行政の介入を拒む人もいるとし、「とにかく(気持ちを)吐き出させて帰らせることが大切」と話す。

今後の目標については「シングルマザーの暮らす家をつくりたい。第三の居場所、公共施設を使わずに活動できる場所をつくりたい」と話した。(田中めぐみ)

続く

「気がかり」をつなぎ ヤングケアラーを支援【広がる子ども食堂】3

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衣類なども集めて配布している、きらきらスペースのフードパントリー=牛久市内(本文と関係ありません)

5年前の12月、つくば市内の子ども食堂の運営者から、不登校やいじめなどの教育相談に取り組む同市の穂積妙子さん(73)に相談が持ち掛けられた。穂積さんは民間団体「つくば子どもと教育相談センター」の代表を務める。相談は「いつも来ている姉妹がいて、姉が妹の勉強を見てやっているが他の子どもと交流はなく、どこか違う。不登校の疑いもあるが、他にも事情がありそうで気がかり」というものだった。

同センターの相談員を務める元教員が子ども食堂を訪れ、姉妹と一緒に食事を取った。この時も姉妹の脇には教科書とノートが置かれていた。温かい食事に気持ちがほぐれた姉妹に「勉強熱心でえらいね」と話しかけたことをきっかけに、相談員の問いかけに姉がとつとつと話し始めた。

勉強を見てやっていたのは19歳の姉で、不登校の中学3年の妹の高校受験を案じてのことだった。シングルマザーの母親は入退院を繰り返していて、生活保護を受給していること、ホームヘルパーの生活援助を受けているが頼れる親戚はいないこと、姉は高校に進学しなかったこと、姉妹の下に小学6年の弟がいることが分かった。相談員は、姉の話に耳を傾けながらヤングケアラーだと直感した。

ヤングケアラーは、ケアを必要とする家族がいて、病気や障害の親のケア、きょうだいの世話、祖父母の介護など、大人が担うような家事や家族の世話、介護などを引き受けている子どもをいう。ヤングケアラーとなることで、遅刻や早退、欠席、成績の低下が生じ、進学もあきらめざるを得ない状況になるなど、子ども自身の生き方に影響を及ぼすことが問題視されている。

穂積妙子さん

母と妹弟の暮らし支える

姉は小学校高学年の頃から、家事を一手に引き受けながら妹と弟の世話、母親の看病や見守りまで4人の暮らしを支える役割を担っていた。ホームヘルパーの生活援助は当事者である母親へのサービスのみで、同居家族の食事作りや家族の部屋の掃除や洗濯などは含まれなかった。

やがて姉は、家事や家族の世話に追われて学業に充てる時間が取れなくなって成績は低下、友だちとの交流もなくなって中学2年から不登校となり、高校進学を諦めた。妹と弟もいつしか不登校になっていた。

真剣なまなざしで姉は「妹を私のように中卒にさせたくない。生活保護を受けながら高校に通学できますか」と問いかけてきた。相談員の元教員が「生活保護費には高等学校等就学費という制度があって、認められたら高校に行ける。きっと大丈夫」と答えると、ほっとした様子で表情が明るくなったという。

その後、穂積さんや元教員との相談を繰り返し、姉妹は志望校を定時制の県立高校に絞り、高校進学を諦めた姉と妹2人が共に入学できないかと志望先の校長に相談した。一方、高校進学を希望したことで福祉事務所から高等学校等就学費が給付されることになった。

翌年春、20歳になった姉は成人特例で面接のみで入学が許可され、中学3年の妹は一般受験で合格した。働きながら学ぶことのできる定時制高校は1日の授業時間が短い。姉妹は空いた時間を母親の世話や家事に充てながら勉強し、2人そろって4年後に同校を卒業した。

穂積さんは「姉は頼る人も相談する人もなく、家族を支えることを負わされていた。子ども食堂の運営者からの連絡がなければ彼女たちの存在すら知らなかった。子ども食堂は、運営に携わる大人が子どもが発するSOSに気づくことができる大切な場所だと思う」と振り返る。「定時制高校には知り合いの先生がいてスムーズに連絡がとれた。高校の不登校生徒に対する迅速で丁寧な対応もありがたかった」と話す。(橋立多美)

続く

「さつまいも博」に行ってきた 《邑から日本を見る》130

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大勢の人でにぎわうさつまいも博の会場

【コラム・先﨑千尋】全国のさつまいも産地や専門店が一堂に会する「さつまいも博」が、埼玉県さいたま市の「さいたまスーパーアリーナ」で先週開かれた。私はひたちなか市の干し芋生産農家の人たちと24日に行ってきた。22~26日の会期中に5万人が集まったという。この「さつまいも博」は、同実行委員会がさつまいもの多彩な味わい方やトレンドを発信しようと2020年に始め、今年は3回目。

同博名誉実行委員長の山川理さんは「さつまいも博は、さつまいもの優れた点を社会にアピールし、生産者と加工業者、消費者との絆を深めることが目的。ロシアのウクライナ侵攻は、肥料やエネルギー資源の世界的な不足を引き起こしている。この影響は農業にも及び、資材の高騰など経営の圧迫につながっている。さつまいもは最低限の肥料や農薬、農業資材で生産され、食料危機を回避できる大切な食べ物だ」とメッセージを寄せている。

会場には、地元埼玉のほか、沖縄や宮崎、神戸、京都、新潟などの焼き芋・スイーツ専門店など26店が、自慢のさつまいも製品を出品。そのほか、鉾田市やなめがたしおさい農協なども出店していた。けやき広場に設けられた会場の各ブースには、焼き芋や干し芋のほか、さつまいもを使ったアイス、プリン、ポタージュ、サンドイッチ、豚汁など約200種類のメニューが並んだ。生イモを買えるコーナーもあった。

同博の目玉は、ナンバーワンの焼き芋を来場者の投票などで決める「全国やきいもグランプリ」。参加した焼き芋店から自分の好きな焼き芋を購入。食べ比べをして、うまいと思った店に投票する。

ひたちなか市は業者も農協も不参加

各店自慢の焼き芋は、イモの種類や焼き方などで味や食感が異なる。熟成、つぼ焼き、塩味、超密、オリーブ焼き芋など、セールスポイントはさまざまだ。芋の種類も、人気が高い紅はるかやシルクスイート、安納芋など、「ほくほく系」と「しっとり系」があり、熟成期間や焼き方に工夫をこらしている。本県からは、行方市の「なめがたファーマーズヴィレッジ」と東海村の「㈱照沼」がエントリーしていた。

同博は入場時間に制限があり、2時間が限度だ。時間で区切って来場者を入れている。時間前から行列ができ、若い男女がほとんど。私たちのような高齢者は少なかった。私たちは同博から「いもの町」川越市に回ったが、こちらも、平日にもかかわらず、すごい人波に驚いた。若い人の着物姿も多かった。駐車場はどこもいっぱい。店もにぎわっている。私が住んでいる那珂市の近くの神社の祭りでも、これだけの人は出ない。

今回同博に行って気づいたのは、日本一の干し芋産地であるひたちなか市からは、業者も農協も行政も参加していないということだった。

さつまいもや干し芋は、健康食品、自然食品としてブームが続いており、農産物として人気が高い。これだけ人が集まるイベントに関心を持たない最大の干し芋産地。それはどうしてなのだろうか。そんな所に出なくとも、売れているからいいということなのだろうか。もったいないではないか。同行の人たちと車中でそう話しながら帰ってきた。(元瓜連町長)

手を伸ばし 子育てを“孤育て”にしない【広がる子ども食堂】2

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三日月橋生涯学習センターで月1回開催されるフードパントリーの様子=牛久市庄兵衛新田町

米5キロと食品、洗剤などの詰め合わせを各世帯1箱ずつ無料配布するフードパントリーが1月末、牛久市の三日月橋生涯学習センターの一室で開催され、予約した30世帯に手渡された。毎月1回配布している。食品ロス削減のため規格外品などを引き取るフードバンクや、支援団体NPO全国こども食堂支援センター・むすびえ(東京都新宿区)などからの物品、企業や個人が寄付したものが配布される。この日受け取った女性は「特にお米が助かる。自分では買わない物も入っていて面白い」と話した。会場は牛久市が無料で開放し、活動を支援している。

主催しているのはNPOきらきらスペース(牛久市牛久町、諏訪浩子代表)だ。2016年8月から活動を始め、7年目になる。元々は50人ほどが利用するビュッフェ形式の子ども食堂を開催していたが、コロナ禍で食品を持ち帰ってもらうフードパントリーの形式に変えた。

子育て世帯だけでなく、だれでも利用することができる。「お米や野菜など寄付が集まって活動できている。来る人は大体決まっているので、月1回顔を見て、元気かどうかの安否確認という意味もある」と諏訪さん(53)。

この日参加したボランティアの女性4人は、「子どもに何が欲しいのと聞くと飲み物を欲しがる。お菓子もあるといい。生活のうるおいが大事。子どもは楽しいことがないといけない」、「男親だけ、女親だけの子がここに来て父親、母親代わりのスタッフと疑似体験をしている。自分もおばあさんとして役に立っているのかな」と口々に話し、他愛ない雑談の中で、感想や情報を共有していく。

ウオーキング仲間とスタート

代表の諏訪さんは大学生2人の子を持つ母親だ。PTA副会長を務めた経験もある。同じく子育てをするウオーキング仲間の母親たちと互いの悩みを話し合う中、7年前、「何か子どものためになる活動をしたいね」と子ども食堂をスタートさせた。食を通じて「子育てを孤育てにしない」をモットーに活動しており、子育て相談も随時受け付けている。

スタッフは18歳から85歳まで約50人で70代が多い。全てボランティアだ。市ボランティアセンターからの紹介で参加するスタッフもおり、「グループの周りに応援団がたくさんいる感じ」という。民生委員、児童委員を務めているスタッフもいる。

諏訪さん自らが運転し、フードパントリーに来られなかった人や車のない人に食品の配達もしている。1月末は、荷物を積み込んで2件を回った。「もらいに来る人もいい人が多い。配布するものの中に不良品がたまにあるが、遠慮して言わないことも。互いに許しあえている関係」だ。

フードパントリーの他にも同生涯学習センター前にある古民家「とみさんち」(牛久市城中町)で月1回、「子民家はなみずき」(牛久市牛久町)で毎週土曜日、子ども食堂の少人数カレー昼食会を開いている。かっぱの里生涯学習センター(牛久市城中町)では週1回、無料塾の自習室「一歩」を開催する。

食堂では肉、魚などのタンパク質の寄付が少ないことが悩みだ。タンパク質は成長期の子どもに必要だが、冷凍する必要があるなど輸送が大変でなかなか手に入らないという。「肉、魚はもらえないのできらきらスペースで買うしかない」と話す。

きらきらスペース代表の諏訪浩子さん=牛久市牛久町、子民家はなみずき

行政につなぎ、行政から依頼も

活動を通して得た情報を牛久市につなぎ、実際に行政の支援につながったケースも多数ある。逆に行政から、食料の支援や古着の制服の提供、不登校の子の居場所の提供、お風呂に入っていない子の入浴支援などを依頼されるケースもある。ママ友同士のつながりで、困っている家庭の紹介を受け、支援につなげたケースもあった。

どこまで支援の手を広げるか、コロナ禍での活動のあり方が課題だという。「きらきらスペースのフードパントリーや子ども食堂は誰でも利用できるが、あまり広げてしまうと本当に困窮している人に支援が行き渡らない恐れが出てくる。困窮者だけに支援と限定すると、来なくなる人もいる。今度コロナが感染症法の5類になると聞く。そうするとまた活動の仕方を変えていかないといけないのか、それとも今までどおりなのか」と諏訪さん。活動の在り方を模索している。

子ども食堂サポートセンターいばらき(水戸市)の大野覚さんによると、外に手を伸ばし、さまざまな組織と連携して、子ども食堂やフードパントリーなどに来られない人にも支援を広げるきらきらスペースの活動は、福祉の分野で「アウトリーチ」と呼ばれる活動だ。県内の子ども食堂を対象に実態調査などを実施してきた大野さんによると、アウトリーチに取り組む子ども食堂はまだ少ない。実態調査では「個人情報保護の壁が高く、支援を一番必要としているところに手が届かないことに歯がゆさを感じている」などの声が寄せられた。大野さんは「アウトリーチは、さまざまな組織とつながりがつくれているかどうか」がかぎになっていると話す。(田中めぐみ)

続く

ふるさと納税の顛末記 ④ 《文京町便り》13

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土浦藩校・郁文館の門=同市文京町

【コラム・原田博夫】ふるさと納税による市町村民税(個人)控除額は2022年度、全国では540億円超で、前年度より168億円増えている。初年度(2009年度)の19億円と比べると、28倍である。控除額=流出額の多い地方自治体はほとんどが大都市である。高所得者で、インターネットやSNSへのアクセスが日常的で、目端(めはし)の利く大都市住民がこの制度を活用しているようだ。

ところが、この市町村民税(個人)控除額の流出のうち75%は、地方交付税制度で多数派の交付団体ではカバーされる。ただ、少数派の不交付団体は、ふるさと納税の流出額はカバーされない。

そもそも地方交付税制度(普通交付税)では、それぞれの自治体ごとに標準的な財政運営と財政収入を想定して、基準財政需要額と基準財政収入額(標準税率による地方税収の75%)を算出して、前者が後者を上回る分を財源不足とみなし、その不足分が交付額になる。

前者が後者を上回れば交付団体となり、下回る場合は財政的に富裕とみなされ不交付団体となる。交付団体において、ふるさと納税の流出額の75%がカバーされるとは、この仕組みによる。

一方、不交付団体ではこうした補填(ほてん)がきかない。不交付団体は2022年度では、東京都と72市町村(市町村総数は1718)である。東京都(および23特別区)はこの地方交付税制度の創設(1954年度)以来、一貫して不交付団体である。都内の市町村の中にも不交付団体がある。現に2022年度は、全39団体中9団体が不交付団体である。茨城県では、つくば市、神栖市、東海村の3自治体である。

他方、東京23区は、東京都と同様に地方交付税制度では不交付団体である。ところが、市町村民税(個人)控除額のランキングでは、全国20位までに東京都23区のうち8区が入っている。特別区長会ではかねてから、ふるさと納税制度の問題点を指摘し、廃止も含めた見直しを要望している(例えば2017年3月13日付)。

2019年6月から新制度がスタート

こうした経緯を経て、2019年6月1日からふるさと納税の新制度がスタートした。返礼品を「寄附額の3割以下の地場産品」に限定し、ルールを守る自治体のみ税優遇を認める、というもの。総務省は2019年5月14日、この新制度を利用できる地方自治体を公表した。この新制度には、東京都はそもそも手を挙げなかった。

また、税優遇を受けることができないとされたのは4市町、税優遇期間が4カ月(2019年9月30日まで)に限定されたのは43市町村(茨城県では稲敷市、つくばみらい市)だった(これらの市町村は、いわばイエローカードで、再度の申請は可能)。

ここ10数年の展開を見ると、この制度の立ち上げをリードしたと自負している菅義偉前首相に、ふるさと納税制度(案)の問題点を縷々(るる)説明した当時の総務官僚の心配、懸念は杞憂(きゆう)ではなかった。とはいえ、せっかくここまで人口に膾炙(かいしゃ)した制度をご破算にするのは難しい。

せめて、ふるさと納税の寄附先を過疎地自治体885団体(2022年度では全国1718市町村=東京23区を除く=中51.5%)に限定するなどの改革で、当初の問題意識を昇華させたい。(専修大学名誉教授)

県内最大規模の物流拠点に つくば市内3つ目の「ZOZOBASE」完成

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つくば市御幸が丘の「ZOZOBASE3」開設地は1985年の科学万博会場地

ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」を運営するZOZO(本社・千葉市、澤田宏太郎代表取締役社長兼CEO)は25日までに、つくば市御幸が丘に建設していた新たな物流拠点「ZOZOBASEつくば3」の完成を発表した。8月に稼働を始め、11月に本格稼働する予定。最新機器を導入して自動化を進め、既存拠点と比べて30%省人化する。

同拠点は商品の入出荷や保管をする施設で、同社5カ所目、つくば市内にある拠点としては3つ目となる。延床面積や商品保管数が同社最大規模で、敷地面積約6万8500平方メートル、地上5階建て延床面積13万7000平方メートル。ワンフロアが約3万1000平方メートルあり、県内でも最大規模の物流拠点という。2021年9月に着工していた。投資総額は約100億円という。

取り出した商品を注文ごとに自動で仕分けするシステムなど、国内初となる最新機器の導入により自動化し、既存の倉庫と比較して約30%の省人化を見込む。ZOZO本社や既存のZOZOBASEと同様、使用電力には主にバイオマスや太陽光由来の実質再生可能エネルギー電力を100パーセント導入するとしている。

稼働開始に向けてアルバイトスタッフ約500人の採用を予定しており、地域の雇用創出への貢献を目指す。施設内にはカフェテリアや「デニム」や「プレイド(格子柄)」といったファッションをテーマにした2つの休憩室の整備を予定。労働者の通勤事情を考慮し、571台分の駐車場を確保する。

休憩室「プレイド」のイメージ画像(ZOZO提供)

新拠点は、米カリフォルニア州に世界本社を置く物流不動産開発のグローバル企業、プロロジス(日本本社・東京都千代田区、山田御酒代表取締役会長兼CEO)が開発を手掛けた。同市内ではこれまでに、ZOZOの専用(BTS型)物流施設として「プロロジスパークつくば1」(東光台)、「プロロジスパークつくば2」(さくらの森)の2拠点に3棟の施設を開発している。

同社は昨年10月、つくば市とスタートアップ推進に関する相互の連携協定を締結。御幸が丘の敷地内には4月、インキュベーション施設「inno-base TSUKUBA(イノベース・ツクバ)」をオープンさせる。施設はオフィス、シェア倉庫、実証実験エリアを備え、運営、企画はツクリエ(本社・東京都千代田区、鈴木英樹代表)が行う。オープン記念として、3月2日午後6時30分から、オンラインでトークイベントを開催する。同市政策イノベーション部の屋代知行スタートアップ推進室長のほか、スタートアップ企業の小川嶺代(タイミー)、岡澤一弘(KURANDO)、伊藤茜(Doog)各氏が登壇する予定だ。(田中めぐみ)

多文化共生 みんなの居場所に【広がる子ども食堂】1

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子どもプレートを受け取る市内の中学生=下妻市下妻乙339

子ども食堂の数が近年、顕著に増えている。開設支援や食材確保の仕組みづくりなどに取り組む茨城NPOセンター・コモンズ事務局長で、「子ども食堂サポートセンターいばらき」(水戸市)の大野覚さん(43)によると、県内の子ども食堂は、5年前は20~30カ所だったが、昨年末は約150カ所と5倍以上に増えた。生活困窮世帯の子どもだけに利用を限定している食堂はわずかで「全体の8~9割が『地域の誰もが利用できるみんなの居場所』として広く門戸を開いている」という。

地域の大人が1食200円を先払い

下妻市の中心市街地に、午前11時から午後8時まで平日は毎日開いている子ども食堂「お茶NOMA」がある。国籍を問わず幅広い年代の人たちが気軽に立ち寄れるたまり場を目指して、市民団体「しもつま外国人支援ネットワークTOMODACHI」(小笠原紀子代表)が昨年5月にオープンした。高校生以下の子どもは無料で食べられる。約2200人の外国人が暮らす同市の住民同士が国籍や言葉の違いを認め、支え合って暮らす多文化共生社会に向けて活動を続けている。

「お茶NOMA」は、イベントが盛んな中心市街地の「まちなか広場」に面するコミュニティスペース「かふぇまる」の一角で営業している。午後4時を過ぎると下校した子どもたちの「ただいまぁ」という元気な声が聞こえ、白いかっぽう着を着けたスタッフが「お帰りなさーい」と応えるアットホームな雰囲気だ。

メニューは、おかえり定食(1,000円)と下妻かあちゃんカレー(800円)の2種類。1食分の料金のうち、大人が子どもの食事代を先払いする仕組みで、200円が「未来チケット」という子どもの食事チケットに充当される。子どもはカウンター脇のボードに貼られたチケットを一枚取ってスタッフに渡し、惣菜付きのこどもプレートを受け取る。お腹いっぱい食べられるよう、ご飯はお代わり自由だ。「元気に大きくなってね」など、大人からのコメントが書き添えられた未来チケットは地域の大人たちからの心のバトンと小笠原さん(54)は話す。

運営を担うボランティアスタッフは、「手伝いたい」と名乗りを上げた若いママからシニア世代までの約30人。別のグループが交代で朝の仕込みを担当し、閉店後の片付けまでを家事の隙間時間を活用したスタッフたちが担当する。「スタッフの報酬は食事という現物支給ですが、上下関係や利害関係がないから気持ちよく活動してもらっている」と小笠原さんはいう。一緒に遊んだり宿題を見てくれる中高生のボランティアも、子どもにとって頼れる存在になっている。

食材は農家やJAなどから寄付されるものを多く利用している。メニューはスタッフたちが生活の知恵を生かし栄養バランスを考えて決める。食堂のお母さんをイメージしてそろえたスタッフのかっぽう着30着も寄贈された。

オープンから9カ月。テストなど学校行事で入店が少ない日もあるが利用者は定着し、平日5日間で100人以上の子どもが訪れている。そのうちの1割が外国籍の子どもだ。大人メニューの売れ行きも順調で未来チケットは常に数十枚をストックできている。

子ども食堂「お茶NOMA」を支えているボランティアスタッフたち。前列中央が小笠原紀子さん

スリランカ人と隣り合わせがきっかけ

代表を務める小笠原さんが在住外国人と関わるきっかけは10年以上前。常総市で居酒屋を営み、スリランカ人が経営するレストランと隣り合った。人柄にひかれて役所の手続きや通院など日常の困りごとの相談に乗るようになり、スリランカの公用語シンハラ語を覚えていった。その後同国の食品を扱う店を開いたが、新型コロナの影響で店を畳んだ。

自身が暮らす下妻で外国人支援を考えていた時に、同市在住で、ブラジルで子供を出産した経験がある保育士の松本絵美さんと、ボリビアで青年海外協力隊として活動した保健師の中山美由紀さんに出会った。2人は「現地の人に助けてもらった恩返しをしたいし、外国人が安心して暮らせるまちづくりを」と思っていた。多文化共生を目指す仲間との出会いが2年前に会を発足させ、小笠原さんが代表に就いた。

発足以来、下妻公民館で外国人相談窓口などの支援を続けているが、いつでも気軽に相談できて日本人と仲良くなれる居場所づくりが必要と考え、子ども食堂なら自分たちでもできると運営に乗り出した。

食堂には外国人の子どもたちのほか、夕食を独りで食べていたり、共働き家庭でお腹を空かせて待つ日本人の子どもたち、子育てや仕事に疲れたひとり親、お茶を飲むのにふらっと立ち寄る高齢者など、幅広い世代が集うようになった。スタッフは、「最初、外国人と接した時は戸惑ったが今は普通にしゃべれるようになった」と自然体で交流している。

「外国人も日本人も両方が気軽に来られる場所になった」という小笠原さん。さまざまな年代の子が、ボランティアの中高校生や大人と一緒に同じ時間を過ごす。自然に多様な人との関わりを学ぶことが多文化共生社会の実現につながるとした上で「伸びてきた芽を大事に育てていきたい」と小笠原さんは話す。(橋立多美)

続く

今、考えよう! 無報酬性の限界 《宍塚の里山》98

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田んぼの学校での稲作

【コラム・佐々木哲美】私たちの会は、宍塚の里山が土浦市主導による土地区画整理事業で開発されることに危機感を持った人たちにより、1989年9月に設立されました。その後、2003年7月にNPO法人に認証され、2010年に認定NPO法人として承認され、現在に至っています。

認定NPO法人でありながら、専従の職員もいなければ、有償のスタッフもいない、ボランティア団体のままの運営方法をとっています。多くの方に宍塚里山の良さを知って頂き、支援者を増やすために、様々な活動を立ち上げ、ほとんどのイベントを無償で提供しています。

おおらかで自由な雰囲気もあり、新たな参加者が増え、活動も活発に行われ、盛況をみせています。

しかし、活動が広がると、他の人が何をやっているのか関心がなく、自分の興味があるところだけしか参加しない人や、無償のサービスを受けていながら意識しない人が多くなっているように感じます。

組織には、その基盤を支える労力、マネジメント能力を備えた人材と資金が必要です。そういった外部から見えにくい負担が一部の人たちにのしかかってきています。

無償でサービスを提供できるのは、無償で奉仕してくださる方がいるから成り立ちますが、そのバランスが崩れようとしています。また、無償性であることを誇りにして参加している方もいますが、無償にはなじまない専門性が必要な作業もあります。

NPO=ボランティア」ではない

一番の問題は、行政をはじめ、多くの人が「NPO=ボランティア」と解釈して対応していることにもあります。

これらの食い違いは、NPOへの理解が浸透していないことから発生しています。NPOとは、Non-Profit Organization(非営利団体)の略称です。非営利とは、収益を得てはいけないという意味ではなく、収益を構成員で分配してはならないということで、収益を得た場合は、それをNPOの事業に使いますという意味です。

また、認定NPO法人制度は、法人への寄付を促すことにより、法人の活動を支援するために、税制上の優遇措置として設けられた制度です。

ボランティア活動とは、自主性、公共性、無償制に基づく地域貢献活動です。NPOも求めるものは同じですが、ボランティアとNPOとの大きな違いは無報酬性か非営利性の違いとなります。

また、NPOと株式会社は、ミッションがNPOは社会的利益、株式会社は株主に対する経済的利益と、違いがありますが、株式会社は企業の社会的責任(CSR)が大きく問われるなど、もはや同一レベルにあると言えます。NPOも企業並みの経営感覚が求められます。

私たちは、特定非営利活動促進法(NPO法)の主旨に沿って、独自の収益の道を模索し、最低限の専従職員を雇用し、ボランティア活動の素晴らしさを生かしつつ、理念に基づいた活動をすることです。そのために、行政、一般市民、参加者もNPO団体を支援し、育てるという視点が重要です。(宍塚の自然と歴史の会 顧問)

仏系コンサルティングの日本法人 つくば駅前の複合ビルに入居

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トナリエクレオビル=つくば市吾妻

フランスの大手コンサルティング会社キャップジェミニの日本法人、キャップジェミニ(本社・東京都港区虎ノ門、殿村真一代表取締役会長)が3月から、TXつくば駅前にあるトナリエクレオ(つくば市吾妻)の5階に入居する。茨城県が同社の情報サービス事業部門の一部と管理部門(本社業務)の一部を誘致したもので、数百人が勤務する。

トナリエクレオは西武百貨店筑波店が入っていた建物。1~3階に物販などの商業施設が入り、4~6階がオフィス用のフロアーになっている。同ビルを所有している日本エスコン(本社・東京都港区虎ノ門)によると、キャップジェミニが使う区画は5階の一部。

キャップジェミニは県の行政効率化についても助言をしており、県と仕事上のつながりがある。つくばへの進出に際しては、県内に工場進出や本社移転した企業への補助金支給制度の対象になる。その額については「3月中旬、県議会に伝えるまでは明らかにできない」(県立地推進課)としている。

トナリエクレオ2階入口の案内板

知事「質の高い雇用を創出する」

県によると、キャップジェミニはグローバル展開しており、従業員は約35万人。売上高は約180億ユーロ(約2兆5700億円)。金融、製造、公共事業、エネルギー、自動車、消費財販売、通信・メディアなどを対象に、幅広い分野でコンサルティング業務を展開している。

大井川和彦知事は、同社のつくば進出を「グローバル大手コンサルティング会社を誘致できたことは、若者が望む質の高い雇用の創出に向けた大きな成果であり、大変うれしく思う。本県出身の若者が、就職先としてつくばを選ぶ可能性を高めるなど、大きな変化をもたらすきっかけになる」と歓迎した。

同社の殿村会長は「茨城県は東京への近接性のほか、事業環境が非常に優れており、最適な協労機会を備えている。筑波大や茨城大をはじめとした情報・工学系の教育機関も充実しており、産学連携や将来を担う若手人材の採用ができる。さらに、家族向けの教育施設も充実しており、従業員の生活環境も魅力的な地域だ」と述べている。(岩田大志)

金柑と干し柿 《続・平熱日記》128

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【コラム・斉藤裕之】古い友人が訪ねてきた。奥さんは小さなビンをくれた。中には金柑(キンカン)のシロップ漬けが入っていた。子供の頃、金柑は人の庭からもいで食べるものだった。だから、買ってまで食べるものではないと思っていた。事実、毎週のように出かける近くのカフェの窓からは金柑の木が見え、ちゃんと断って何度か口に入れてみたが、甘くておいしかったのだけれども、持ち帰ろうという気にはならないでいた。

ただでさえ果物をあまり食べない私。冷蔵庫を開けるたびに目に入る金柑のビン。なかなかふたを開ける勇気がなかったのだが、冬は案外喉が渇くので、ある日サイダーの中に金柑を入れてみた。

コップの底に残った金柑を口に入れた瞬間、あの独特の風味が甘さとともに広がった。それから、毎日、金柑入りのサイダーを飲むのが楽しみになった。ついでに、レシピを聞いて自分でも作ってみようと思った。けれども今年に限って、くだんのカフェの金柑は不出来で、どうやらシロップ漬けにはできない。初めて金柑を買って作ってみたら、なんとなく同じようなものはできた。まあ、金柑の実を砂糖と蜂蜜で煮るだけだから。

それからしばらくして、またその夫婦がやって来た。どうやらメールで送った画像を見て、私の作ったものがいまいちの出来だと思ったらしく、金柑と蜂蜜とレモンまでそろえて持ってきてくれた。

次の日、久しぶりに次女が東京から帰って来た。駅から降りてきた彼女は金髪だった。美容師という職業柄かどうかは知らないが、毎度変わる髪の色にはもう驚かなくなった。美容師という仕事は、かなりブラックに近い肉体労働だということは想像できる。多分疲れているだろうから、その日はどこにも出かけずに、食べたいと言っていたサツマイモ入りの豚汁を作った。

それから、「これ食べていいの?」と、彼女はシロップ漬けになるはずの金柑を見つけて言った。「どうぞ」。彼女はムシャムシャと金柑をほおばった。

憧れのロッキングチェアーに遭遇

翌日は小春日和の快晴。長女の安産祈願をしに、雨引観音に詣でた。次女と2人で出かけるのは久方ぶりだ。車中、仕事場の話や友人の結婚などの話題とともに、政治家のLGBTに対する発言について彼女は熱く語った。七三に分けたおじさん方よりも、この金髪の姉ちゃんの方がよほど筋が通っていると思った。

岩瀬の中華料理店でニンニク油とどっさりニラの入ったレバー炒めを食べた後、益子を回って帰ることにした。途中立ち寄った古道具店で、憧れのロッキングチェアーに遭遇。ただ今入荷したばかりだという店主の言葉に、勝手に運命を感じる。形、値段ともに納得の上、車に乗せて帰宅。

帰りは助手席でぐっすり寝ていた次女。自分を含めて弟や周りの友人も、彼女の歳には先の分からないなりに希望に満ちた日々を過ごしていたことを想い返した。

数日後、長野の知り合いの方から、まことに立派な干し柿が送られてきた。実は干し柿に目のない次女。金柑のシロップ漬けを送る代わりに、益子で買ったお皿といっしょに干し柿を宅配便で送ることにした。(画家)

「むすびつくば」4月から民間施設に 不登校支援でつくば市

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「むすびつくば」がある市産業振興センター=つくば市吾妻

不登校児童生徒の学習支援施設運営事業者の選定をめぐる迷走から、つくば市が認定NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所(小野村哲理事長)と協働で運営してきた不登校学習支援施設「むすびつくば」が4月の新年度から、民間フリースクールの一つとして運営されることが分かった。

23年度は現在地のまま

小野村理事長は(63)は同施設ついて、4月から「むすびつくばライズ学園」として仕切り直すと話した。同市谷田部地域で20年間続けていたライズ学園の名称を入れた形だ。開所日時はこれまでと同じ週4日(月、火、木、金)午前10時~午後3時。現在は週2日のコースで各20人、計40人程度を受け入れているが、市が他の民間フリースクールを運営する事業者と利用者の補助を23年度から開始するなど、市全体のサポート体制が充実することから、登録定員を30人程度とし、希望があれば相談の上で週4日の通所を受け付ける。

同市は4月から、事業者のリヴォルヴに対し運営費の一部を補助する。利用者に対しては月2万円を上限に利用料の一部を補助する。場所は、23年度は激変緩和のため現在の市産業振興センター(同市吾妻)で継続するが、24年度以降は新たな場所に移るという。

同市の不登校支援をめぐっては、2021年12月に市が実施した「むすびつくば」の運営事業者の選定で、20年10月から同施設を運営していたリヴォルヴが2位となり、新規のトライグループが1位となった。選定結果に対し、むすびつくばの保護者会がリヴォルヴによる運営継続を五十嵐立青市長らに陳情。五十嵐市長は「現在の利用者や保護者に多大な不安を与えてしまった」などと謝罪し、22年度は約2300万円を追加計上して、「むすびつくば」のリヴォルヴによる運営を産業振興センターで継続した。トライは場所を移して、同市研究学園のトライ研究学園駅前校で新たに支援事業を開始するという異例の決着を図っていた。

一方、むすびつくばの一部の保護者などから、市内の不登校児童生徒すべてを公平に支援するよう求める要望が出ていたことなどから、市は昨年5月、今後の市の不登校支援のあり方について検討する「市不登校に関する児童生徒支援検討会議」を設置した。今後の支援策として昨年10月、校内フリースクールを小中学校全校に設置する、民間の支援事業者と不登校児童生徒の保護者の両方に運営費や利用料を補助するーなどの案を示し、14日開会した3月議会に民間フリースクール事業者と利用者への補助事業として約7300万円などを提案していた。

利用には月謝制と補助制度併用

これまでは無料で利用できたが新年度からは月謝制になる。市は、不登校児童生徒の保護者の経済的負担の軽減などを目的に新たな補助制度を設ける施策を明らかにしており、週4日通所の場合、補助金額の上限2万円を超えた月謝は利用者負担となる。

民間フリースクール運営者への補助額は経費の2分の1となる見込みで、24年度以降の場所について小野村理事長は「利便性の高い場所は望めないだろう」とした上で、「考えていた以上に幅広い支援策が検討されていることは進展だと思う」と公表された施策を評価する。一方「(市と民間による)公民協働で不登校の支援にあたる事業の事業者に採択され、教育分野における協働事業の草分けとなれればとの思いで臨んだものの、教育局と十分な協議と調整を図ることができず、協働に関する認識の違いを感じた」とも振り返る。

小野村理事長は「雨降って地固まる。これからはもっと多くの時間を子どもたちと向き合う時間に当てたいと思う」と述べ、「不登校の心に寄り添い、育ち・学びを支えるという姿勢に変わりはない。これからも子どもたちのサポートに取り組んでいきたい」と意気込みを語った。

むすびつくばの保護者会代表だった庄司里奈さんは「市が示した民間施設運営者と保護者への支援は全国に類を見ない先進的な策で、ぜひ実現してほしい」とする一方、「不登校児童生徒と保護者の現実は厳しく、当事者が声を上げていかないと変わらないと感じている」とし、保護者の塩見直子さんは「多くの市民が身近な問題として快く署名に応じてくれたことが支援策につながったと思う。賛同してくださった皆さんにお礼を言いたい」と話す。(橋立多美)

「ただいま」「おかえり」 《短いおはなし》12

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挿し絵は筆者

【ノベル・伊東葎花】
妻と別れて、アパートで独り暮らしをしている。
年金暮らしの老人だ。
わびしい暮らしの中にも、楽しみはある。
隣から聞こえる、ほほ笑ましい会話だ。

隣の部屋は母と娘のふたり暮らしだ。
娘は、まだあどけなさが残る中学生だ。
母親は8時に家を出て4時半に帰ってくる。
娘は部活を終えて5時半に帰る。

「ただいま」
「おかえり」
「おなか空いた。ごはん何?」
「今からカレーを作るところ」
「じゃあ私、ジャガイモむくね」

こんな会話が聞こえてくる。何とも幸せだ。
私の家も母だけだった。
もっとも母は夜遅くまで働いていたから、「おかえり」を言うのは私の方だった。
おかずは少なくて、水みたいに薄い味噌汁だったが、今となっては懐かしい。

「部活でレギュラーになれそう」とか、「新しい先生がカッコいい」とか、娘ははしゃぎながら話す。
母親は、どんなに疲れていてもきちんと応える。
ときどき他愛のないことでケンカもするが、夕方にはやはり「ただいま」と「おかえり」が明るい声で聞こえてくる。
ステキな親子だ。

しかしある日、隣の会話が聞こえなくなった。
耳を澄ましても、物音ひとつしない。
どうしたのだろう。旅行でも行ったのだろうか。
気になったが、隣に住んでいるだけで親しいわけではない。
訪ねてみるわけにはいかない。

1週間が過ぎた。カーテンは閉じたままだ。
まさか入院。いや、きっと実家の両親に何かあったのだ。
色々大変だろうが、娘の学校もあるし、週明けには帰るだろう。
早く明るい声が聞きたいものだ。

しかし10日たっても隣の母娘は帰ってこなかった。
私は、たまりかねて管理人に尋ねた。

「205号室の方を見かけないのですが、何かご存知ですか?」
「ああ、引っ越しましたよ」
「えっ、引っ越した?」
「ここだけの話ですけどね、部屋に盗聴器が仕掛けられていたんですよ」
「盗聴器?」
「前のダンナが仕掛けたのかもしれないって、怖がってね。あの親子、ちょっと訳ありだったから。それで、夜中にこっそり引っ越したんですよ。まるで夜逃げみたいにね」

ああ、そういうことか。
寂しいな。
あの明るい「ただいま」「おかえり」を聞くことが、唯一の楽しみだったのに。
盗聴器が仕掛けられていたなんて…。

どうしてバレたんだ?
(作家)

最短で7月、市と県で条例改正必要 洞峰公園無償譲渡で知事

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洞峰公園野球場=つくば市二の宮

つくば市二の宮にある県営の都市公園、洞峰公園(約20ヘクタール)について、つくば市が16日付で「無償譲渡に向け正式に協議を開始したい」と県に文書で依頼したのを受けて、大井川和彦知事は21日の定例記者会見で「つくば市からの今回の申し出に、しっかりと意向を尊重する形で話を進めたい」と話した。今後のスケジュールについては「条例改正が必要なので最短でも7月かなと感じている」との見通しを示した。

1月31日までに市から文書による正式な回答が無かったことから進めるとしていた、グランピング施設を公園内の野球場に建設するための事前協議手続きについては「(事業者に)とりあえずストップしていただく」とした。

会見で大井川知事は「(つくば市が無償譲渡を受けることを)決めていただいたからには、スピーディーに、いつまでに譲渡を行うのか、その辺についてもしっかり詰めて、なるべく早くつくば市の意向を実現するよう努力していきたい」とした。

議会での無償譲渡の手続きについて大井川知事は「条例の改正を、お互い、市と県とそれぞれでやらなければならない」とした。その上で「所有権の移転は7月のタイミングになるのかなと思っている。それまでに細かい様々な手続き、あるいはスケジュール感なども調整していく必要がある」と説明した。

県都市整備課によると、新年度の洞峰公園の維持管理については前年度と同じ約9000万円の指定管理料を計上するという。

洞峰公園の無償譲渡をめぐっては、大井川知事が昨年12月の記者会見で「つくば市が自ら公園を管理するのであれば、県としては洞峰公園を無償で市に移したい」「今後のつくば市側の出方を注視したい」などと述べ、大きく動き出した。五十嵐立青つくば市長は同8日の記者会見で、県から無償で公園の譲渡を受け市が管理することも選択肢の一つだと応じ、今月14日、市議会に説明し、16日、県に正式な文書を出した。

一方、市が無償譲渡を受ける場合、新たに市が負担する費用として、維持管理費が年間約1億5000万円、体育館や温水プールなどの大規模修繕費が2027年度までに年平均7800万円、年間で合計約2億2800万円かかることが想定されるほか、28年度以降の大規模修繕にいくらかかるかは不明であることから、市は議会や市民にさらなる説明が求められる。(鈴木宏子)