【コラム・佐々木哲美】公務員は民間労働者とは異なる制度体系の下で働いており、安全衛生の基盤も民間企業とは大きく違います。このことを改めて実感したのは、東京都内A市教育委員会から用務員向けの安全講話を依頼されたことがきっかけでした。
一般に公立学校の安全衛生は民間より弱いと言われますが、これは教職員の意識の問題ではありません。学校という職場が制度・監督・文化の三つの面で「安全衛生を強化しにくい構造」に置かれているためです。個人の努力だけでは補いきれない仕組みになっているのです。
学校は安全衛生制度の外側
まず制度面では、学校が労働安全衛生法(安衛法)の一部適用外であることが大きな問題です。民間企業には安全管理者や衛生管理者、産業医、安全衛生委員会が配置され、労働基準監督署の監督を受けながら安全衛生が維持されています。しかし、公立学校はこの制度の網の外側にあり、労働安全衛生法関係法令の条文は危険作業に適用されますが、学校という組織自体は対象ではありません。
そのため、自治体が独自に内部規程をつくって対応していますが、制度の強制力や体系性が民間より弱くなります。
次に学校には労働基準監督署のような強制力を持つ外部監督がなく、教育委員会による指導・助言が中心となるため、民間より外部チェックが弱い構造にあります。民間企業では監督署が立入調査や是正勧告を行い、外部の目が安全文化を支えています。しかし、学校にはこの外部監督がありません。教育委が安全衛生を担いますが、監督署のような強制力はなく、教育委や学校は自己完結型の安全衛生を続けざるを得ません。
教員文化と安全文化の衝突
さらに文化面では、教員文化と安全文化の衝突があります。教員文化は「子どものために多少の無理をする」「個人の裁量で仕事を進める」といった価値観が強く、安全文化が重視する標準化や手順遵守と相性がよくありません。結果として、学校では安全衛生が個人の良心に依存しやすく、組織的な安全管理が育ちにくい状況が続きます。
学校は体育、理科、技術科、部活動、校舎設備、用務員作業など、多くの危険作業を抱える職場です。本来なら特別教育や資格が必要な作業も多いのに、教員が専門教育を受けていないことが少なくありません。さらに校長は、総括安全管理者に相当する役割を担うにもかかわらず、安全衛生の専門教育を受けていないという制度的ギャップもあります。
こうした制度・監督・文化の弱点が重なり、学校の安全衛生は「複数の制度が重なり合った結果として、安全衛生が強化されにくい」と言わざるを得ません。
だからこそ、学校の安全衛生を強くするには構造改革が必要です。民間の仕組みをそのまま移植するのではなく、学校という特殊な職場に合わせた安全文化を再設計することが求められています。これは教育委、校長、教職員が共に取り組むべき次のステップだと感じました。(労働安全コンサルタント)





