水曜日, 3月 12, 2025
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4年目を迎える「里山体験プログラム」《宍塚の里山》121

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宍塚プログラムの湿地保全(写真は筆者提供)

【コラム・田上公恵】持続可能な里山保全を目指して2022年度より開始した宍塚での「里山体験プログラム」は、4周年を迎えます。プログラムではその道の専門家による丁寧な指導、自然が大好きなスタッフと共に多種多様な保全活動の体験、子どもたちを対象とした環境教育、四季折々の自然の移り変わりや動植物との出合いなど、どれも充実した学びとなっております。

期間は4月から翌年3月の1年間。履修単位は20単位(必修10単位、選択10単位、上限無し)で、1単位は3時間の活動(午前または午後)となっています。必修科目は、自然農田んぼ塾、里山さわやか隊、田んぼさわやか隊、湿地保全、歴史探訪など。選択科目は、土曜観察会、月例観察会、子ども探偵団、田んぼの学校、土曜談話会、運営会議などです。

自分の仕事や学業の都合に合わせて毎月計画を立案するといった、受講者の自主性を最大限尊重しています。このように、しっかりとしたカリキュラムに基づいて実施していうため、筑波大学大学院のインターンシップ単位として認定されるという評価につながっています。

素敵な方々にも出会えます

もうすぐ今年度のプログラムを修了する参加者から感想を頂きましたのでご紹介します。

★里山体験プログラムは、宍塚で行われている様々な活動に参加することができます。里山の保全・活用、調査、教育への活用などを通して、宍塚の魅力をたくさん体験できるだけでなく、とても素敵な方々にも出会えます。非常に貴重な宍塚の春夏秋冬を楽しんでいただければと思います。(Ti)

★SDGs、自然保護、里山、農業、生物多様性、ビオトープ。これらのことに少しでも関心のある方にとっては、絶好の学びの場となります。参加者も大学院生や学生、社会人とさまざまです。自然の中で活動することは、清々しくて、心地よいものだ、ということを体感できます。(Ks)

★環境に関わる仕事がしたく、きっかけとしてプログラムに参加しました。環境保全のためにはボランティアの力がかなり大切です。宍塚の皆様は豊富な知識をお持ちです。収穫祭が楽しかったです。クリスマスリースやしめ縄作りが最高でした。ZOOM会議は勉強になります。是非たくさんの出会いと会話を楽しんでください。(Yo)

★季節ごとに変わる宍塚の自然の中で、この里山を守るための活動や、多くの人とのつながりを近くで知ることができる時間は貴重なものです。冬の里山こども探偵団では木登りに挑戦できます。ドキドキしながら高いところに登り、見渡す宍塚の景色はとても魅力的です!(Yt)

★里山こども探偵団など、子どもたちと交流できるプログラムが楽しいです。(Fm)

ご参加をお待ちしています

里山での豊かな学びの扉を開きませんか? ご参加をお待ちしております。(宍塚の自然と歴史の会 理事)

▼受講申し込み先こちら

石破首相、言葉遣いがずれていませんか?《文京町便り》37

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土浦藩校・郁文館の門=同市文京町

【コラム・原田博夫】昨年10月から政権の座にある石破首相は、今年元日、年頭所感を初めて発出した。そこには、複数の歴代首相の名前と主要な政策テーマが言及されていた。石橋湛山の施政方針演説、田中角栄の「日本列島改造論」、大平正芳の「田園都市構想」、竹下登の「ふるさと創生」などである。要するに、こうした歴代政権の施策の方向性を引き継ぐ、という意図の表明である。

もちろん、それ以外にも、資源エネルギー問題、AI(人工知能)、DX(デジタル・トランスフォーメーション)、GX(グリーン・トランスフォーメーション)や、災害対策のレベルアップ、地域のバランス・オブ・パワーを踏まえた安全保障政策のブラッシュアップなどにも、記者との質疑応答などの場で言及している。

こうした政策体系をより明確に表明しているのが、施政方針演説(1月24日)である。石破首相は「国づくりの基本軸」の箇所で、近代以降の日本が目指してきた課題を、明治時代は「強い日本」、戦後は「豊かな日本」と総括し、これからは「楽しい日本」を目指す、と言明した。しかもこの発想とワーデフィング(言葉遣い)は、故・堺屋太一氏の最後の著書『三度目の日本:幕末、敗戦、平成を超えて』(祥伝社新書、2019年4月刊)に由来することも、明らかにしている。

「楽しい日本」?

しかし、この「楽しい日本」を目指すという施政方針には、私だけでなく大方の国民は、相当な違和感を持ったのではないか。現代日本の社会の停滞、経済の不振、政治の混迷に困惑している大方の国民は、とても同調できないのではないか。石破首相の意図と政策の方向性を最大限に忖度(そんたく)しても、このワーディング(言葉遣い)はいただけない。せめて、「日本のウェルビーイングを引き上げる」とでも表明してほしかった。

コラム34(2014年11月24日掲載)で紹介した拙編著「Social Well-Being, Development, and Multiple Modernities in Asia 」(Springer Nature Singapore社、2024年10月刊)を出したことでもあり、ウェルビーイングという用語を活用してほしかった。衆院予算委員会(委員長は立憲民主党の安住淳氏)での質疑応答では、丁寧な石破構文で煙に巻きながら進行している感のある石破首相だが、事前にワーディングに関して相談でもあればアドバイスもできたのに、と思うばかりである。(専修大学名誉教授)

つくば市消防士を逮捕 同僚女性に不同意わいせつ容疑

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つくば市役所

警察は20日、つくば市消防本部 消防副士長の中谷天志容疑者(25)を不同意わいせつの疑いで逮捕した。

逮捕容疑は、昨年10月24日午前2時ごろ、つくば市内の消防施設で、20代の女性消防職員にわいせつな行為をした疑い。昨年10月下旬ごろ、被害女性から被害届が出され捜査していた。つくば署によると中谷容疑者は容疑を否認しているという。

同市消防本部によると、女性が被害に遭ったのは当直勤務中だった。女性は同日夕方、直属の上司に被害を相談。市消防本部はただちに加害者の中谷容疑者を配置換えし、両者から聞き取りをするなど調査している最中だったという。

青木孝徳市消防長は「このたび職員が不同意わいせつ行為により逮捕される事案が発生し、被害女性に対して心からお詫びを申し上げると共に、公務員として信用失墜となる行為を発生させてしまったことに深く反省しています。これまで捜査機関に全面的に協力してきましたが引き続き協力していきます。今後は職員の綱紀粛正を図り、再発防止に努め、厳正に対処します」などとするコメントを発表した。

アニメやデザイン作品並ぶ 日本国際学園大 卒業制作展 

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故郷の内モンゴル自治区をPRする観光パンフレットとキャップのロゴを作成したチョウ・イクさん

つくば市民ギャラリー

日本国際学園大学(つくば市吾妻、橋本綱夫学長)で情報・メディアデザインを学ぶ学生による卒業制作展が19日から、つくば駅近くの中央公園内にあるつくば市民ギャラリーで始まった。3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)によるVR(バーチャルリアリティ)やアニメーションによる映像作品、地域の特色を多面的にPRするパンフレットやグッズ類など、25人の学生による作品約30点が並ぶ。

会場では同時に、在校生5人の作品も展示されている。会期は25日まで。旧筑波学院大学から大学名を変更して昨年4月開学した日本国際学園大学としては初の卒業制作展となる。

中国出身のチョウ・イクさん(25)は、故郷の内モンゴル自治区をPRする観光パンフレットを作成。帰省した際に、アピールポイントとなる草原や砂漠、歴史博物館を取材し集めた素材をもとにした。「内モンゴルには日本にはない風景や歴史がある。日本の人たちにも実際に足を運んで欲しいという思いで作った」と話す。「内モンゴルの観光シーズンは夏。日差しが強くなる」と、オリジナルのロゴをあしらったキャップも制作。「この帽子をかぶって色々なところを巡って欲しい」と顔をほころばせる。「将来は、在学中に学んだ技術を活かして中国でデザイン関連の仕事に就きたい」と目標を話す。

展示会場の風景

3DCGによるVR作品を作った大嶋隼人さん(22)は「授業では、性格や背景などのストーリーを設定した上でキャラクターを作るよう教えられた。自分とは異なるキャラクターになりきり、もう一つの現実の中に身を置けるのがVRの魅力。将来は3DCGを制作する仕事に就きたい」と目標を語る。

細野大地さん(22)と宮本浩平さん(22)は、それぞれが製作したオリジナルのキャラクターを用いた3DCGによるアニメーション映像を展示する。

中国・北京出身のチョウ・ランさん(25)は、動物をあしらったアニメ映像作品を展示する。「アニメーションを学びたくて入学した。出展したのはセリフのないアニメ作品。どうすれば楽しみながら内容を理解してもらえるか考え、変化する表情を工夫した。将来は中国でアニメーターになるのが夢」と話す。

同大広報課の原紗織さんは「学生たちが、学生生活の中で好きなことに向き合い、研究を重ねてきたことが作品になっている。在学中から自分の『好き』を仕事に繋げてきた学生もいる。4年間の学生の成果を、是非、見てらえたら」と来場を呼び掛ける。(柴田大輔)

マッチ好きの少女《続・平熱日記》176

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絵は筆者

【コラム・斉藤裕之】昨日1箱のマッチを使い切った。だから、今朝ストーブに火を入れるために新しいマッチの箱を開けた。ぎっしりと詰まった頭の赤い真新しいマッチ。随分前に買っておいたものだ。いつだったかははっきり覚えていないが、パイプの絵が描いてあってそれが気に入って買ったと思う。このマッチ箱には約800本のマッチが入っているらしいので、使い切るのに3回は冬を迎えなければいけない計算だ。

30年前のパリ。学生会館の同じフロアーにいたチュニジアの女学生の紹介で、フランス人の女学生と日本語とフランス語の交換学習をすることになった。小柄なバニーナという女の子はフレンドリーなパリジェンヌ。どちらかというと、ラテン系の顔立ち(後にご先祖様はスペインから来たということを聞く)。当時私は子供もいたので彼女からしてみれば、うだつの上がらないおじさんのジャポネだったと思う。

大抵は私の部屋で、ある時は彼女の自宅に招かれて、しどろもどろで自分の絵について説明したり、また日本語を教えること、日本語の難しさに戸惑ったのを思い出す。それから、彼女は日本の古い映画が大好きで、溝口健二だか小津安二郎だかの映画を一緒に見に行ったことがあった(多分これが映画館で観た最後の映画)。

ある時、バニーナがタバコを吸う時にマッチを擦りながら、「私、マッチ大好き!」(もちろんフランス語で)と、しみじみと言ったのを今でも印象的に覚えている。

グランメール…グランペール

かつて、どの飲食店にも電話番号の入ったオリジナルのマッチがあって(銀行でもマッチを配っていたなあ)、それはデザインとしても面白かったし、軸や頭の色、大きさなどマテリアルとしても工夫がされていて、お気に入りのものもあった。記憶に残っているのは、マッチでできていている繁華街の地図。地図にお店のマッチが貼ってあって、飲食店の入る雑居ビルなんかはそれぞれの店のマッチが重ねて積み重なっていて面白かった。

ある日のこと、「じゃあ次はグランメールを…」という言葉がバニーナの口から聞き取れたので、「これはマズイぞ! 次はおばあさん(グランメール)を連れてくるのか?」と焦っていたら、彼女はひとりで現れて胸をなでおろしたことがあった。「グランメール」ではなく「グラメール」つまり「文法」をやろうと彼女は言いたかったのだ。今では私もすっかりおじいさん(グランペール)になってしまったけど。

今度どこかの街に行ったら、スーパーかホームセンターで新しいマッチを買おう。しゃれたデザインのパッケージで、頭が茶色とかのマッチに出会えるといいんだけど。(画家)

災害時は被災者や応援者受け入れ コンテナホテル、谷田部IC近くにオープン

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26日、谷田部IC近くのつくば市台町にオープンするコンテナホテル

東日本大震災きっかけ

常磐道谷田部インターチェンジ近くのつくば市台町にコンテナ型のビジネスホテル「HOTEL R9 The Yard(アールナイン・ザ・ヤード)つくば」が26日オープンする。開業を前につくば市は1日、同ホテルを運営するデベロップ(本社・千葉県市川市、岡村健史社長)と、災害時に同コンテナを市の災害対応に利用する協定を締結した。

災害時は市の要請に基づき、市が被災者や外部の応援人員の受け入れなどに利用する。市によると、県内で同社と災害協定を締結したのはつくば市が13市町村目になるという。

コンテナホテルは2011年の東日本大震災をきっかけに誕生した。コンテナメーカーでもある同社は震災後間もなく被災地に入り、コンテナ型備蓄倉庫を寄贈したり、復興作業をする従業員向けの仮設宿泊施設を建設した。岡村社長は、被災者が多くの避難所で生活に大きな負担を強いられている状況を見たとし「宮城県南三陸町に支援に行き、避難所で子供がじっとしていられなくて家族が外で車中泊している姿を見た。石巻市から作業員の宿泊施設として建設してほしいと要請を受け、長期間、快適に過ごせることが分かり、これだったら成り立つと思った」と振り返る。

石巻市で利用されたコンテナの宿泊施設を2017年、栃木県佐野市に移設してコンテナホテルとしてオープンしたのが始まりで、現在はつくば市も含め全国98カ所に3611室が展開されている。これまで、新型コロナ感染拡大時にトレーラーやトラックで移動させ、都内の病院でPCR検査施設として利用されたり栃木県では臨時の医療施設として利用されるなどした。

コンテナホテルの室内

施設は一つのコンテナ内が一つの客室になっていて、各部屋にベッド、ユニットバス、冷凍冷蔵庫、電子レンジなどが備えられている。つくばは敷地面積約3000平方メートル。客室はツインが7室とダブルが49室の計56室ある。駐車場は56台分を備える。各部屋の広さはいずれも13平方メートルで定員は各2人。平日は周辺の工業団地などのビジネス客、土日は観光客やレジャー客などの利用を想定している。

備蓄を推進

防災や減災への新たな取り組みなどを掲げる一般社団「地方創生戦略研究所」(代表・井手義弘元県議)の紹介で災害協定締結に至った。同研究所は、災害時に仮設住宅としていち早く利用できる移動可能なモバイル型仮設住宅の備蓄を進めたいと、自治体との防災協定締結を推進している。

災害協定を示す(左から)デベロップの岡村健史社長とつくば市の五十嵐立青市長

19日は現地見学会が開かれ、五十嵐立青つくば市長らがコンテナホテルを見学した。五十嵐市長は「全国でこれだけ災害が頻発している中で、全国各地に応援職員を派遣することも多い。コンテナホテルは平時はホテルとして運用し、有事は被災者も活用できる。全国に安心安全と経済活性化を広げてほしい」とし、岡村社長は「レスキューホテルとしてこれまでに7度、要請を受けて出動した。有事には動かして、被災した場所に行く存在であることを知ってもらい、お役に立ちたい」などと話した。

災害時に利用する場合、費用は市が市が負担する。利用料は1室1日7000円で、移動して利用する場合はトラックやトレーラーでの運搬費用がかかる。市危機管理課は「災害時に指定避難所の利用が難しい被災者や、応援に来る職員の受け入れなどでの利用を想定している」としている。

同社のコンテナは、タイヤが付いて災害時にトレーラーで移設する車両型と、釣り上げてトラックの荷台に乗せて移設する建築型がある。つくばの56室はいずれも建築型になる。災害時に移設先で仮設住宅などとして利用する場合は、電線や上下水道につなぐことが必要になる。(鈴木宏子)

◆「HOTEL R9 The Yardつくば」の宿泊料金はダブルルームが1人1泊6200円、2人8700円、ツインルームが1人6200円、2人9700円。詳しくは同ホームページへ。

古民家を活用した「家貨屋」《ご飯は世界を救う》66

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イラストは筆者

【コラム・川浪せつ子】つくば市周辺には古民家がけっこう残っています。ですが、古民家をそのままの状態で保存するのは大変です。そのため、店舗として付加価値をつけて保存していることも多いようです。役所などの公共機関で色々と活用されていることも…。

今回の「家貨屋(かかや)」は「ルーラル吉瀬」自然村(つくば市吉瀬)の「つくば文化郷」(国登録有形文化財)として利用されています。「つくば文化郷」の敷地はかつての農家。敷地内には色々な建物が配置されています。昔の農作業所、長屋門、蔵、母屋、離れなどが現存しています。

その中の主屋は「家貨屋」という名で、火曜から日曜は古道具販売、金曜はフランス料理、土曜はネパール料理を提供しています。また、「軒下市」としてイベントを開いたり、焼き菓子や野菜などを販売しています。

フランス料理の塩味ケーキ

今回は、フランス料理のサーモンとベーコンの「ケークサクレ」を食しました。ケークサクレとは甘くない惣菜系のパウンドケーキです。フランス語では「塩味のケーキ」という意味だそうです。初体験でしたが、気に入りました。

「つくば文化郷」には、長屋門横に「レンタルギャラリー・長屋門」「古民家カフェ・まめは」などもあり、レトロ感をたっぷり味わえます。

古民家とフランス料理はミスマッチィングとも思いましたが、ケークサクレはフランスの家庭料理のひとつで、お母さんたちが大切に守ってきたお味です。長屋門とその横の大きな樹木。落葉の時期、建物同様、年月と哀愁感を絵に入れたくて、夕焼けにしてみました。(イラストレーター)

つくば文化郷の長屋門

屋上離発着どう備える? 空飛ぶクルマ使って実験 建築研

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地上100メートルの高さでホバリングする空飛ぶクルマ=つくばヘリポート

建築研究所(つくば市立原)がつくばヘリポート(つくば市上境)で行っていた空飛ぶクルマ(AAM)の実験の模様が18日、報道陣に公開された。都市域の建築物、特にビル屋上を離着陸場(バーティポート)として利用する際、どんな環境整備が必要になるか、技術的課題を洗い出すのが目的の基礎的実験で、15日から3日間行われた。

実験は同研究所が産業技術総合研究所など3機関と共同で進める「都市・建築における空飛ぶクルマの活用」研究の一環。同ヘリポートに中国製の無人航空機「EH216-S」を駐機して、日本での型式認証取得を目指しているAirX(エアーエックス、東京都千代田区、手塚究社長)が協力した。昨年3月のテストフィールド開設以来初めての受託事業になる。

実験ではテストフィールドの一画に平屋のプレハブ小屋も設け、ヘリコプターと空飛ぶクルマがそれぞれ飛行した場合、またホバリング時における風、音、振動などの影響を調査した。

収集したデータの詳細はまとまっていないが、今回使用したヘリコプターの騒音レベル(約30メートル距離で計測)が約95デシベルなのに対し、空飛ぶクルマは約75デシベルとされる。ヘリコプターのレシプロエンジンに対し、空飛ぶクルマは電動モーターを用いるために優位性が出てくる。

AirX社の機体は8対16枚のプロペラを回し自重450キロの機体を垂直に持ち上げる。パイロットは搭乗せず、地上からのリモート操縦で、ホバリングも自在にこなす。18日の公開では、機体を一気に地上100メートルまで上昇させ、そのままホバリングさせる「国内初の飛行」(AirX社)も行ってみせた。

建築研究所の宮内博之上席研究員は「静音性は保たれるが、条件はそれだけじゃない。階下に住民が居住する環境で、屋上に着地した場合の心理的影響はどうかなど新たに浮かび上がる要素が色々出てきそうだ」とする。実験はあくまで建築側の課題の洗い出しが目的で、機体の開発や法整備には踏み込まないという。

実験に使われた機体「EH216-S」と宮内博之上席研究員

空飛ぶクルマは、電動化や自動化などの先端航空技術を装備し、垂直離着陸などの運航形態の実現によって、次世代の空の移動手段として期待されている。

国レベルでは2018年から「空の移動革命に向けた官民協議会」での検討が進められている。人・モノの移動のほか観光分野での活用などを見込み、2030年代に商用運航が普及するロードマップが描かれる。国土交通省は2023年、「バーティポート整備指針」を策定するなどの検討も行われている。

建築研究所では25年度から3カ年かけて実証実験の新たなステップに踏みだす。宮内上席研究員は「普及段階では複数、多数の空飛ぶクルマが発着を繰り返すようになって、屋上をエントランスとするような利用形態が想定できる。そうなると不動産価値にもドラスティックな転換が見込まれ、その社会的な受容性を見極めていく必要がある」としている。(相澤冬樹)

使い切る「京のしまつ」(2)《デザインを考える》17

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イラストは筆者

【コラム・三橋俊雄】江戸時代、大阪の儒学者 広瀬旭荘(ぎょくそう、1807~1863)は「九桂草堂(きゅうけいそうどう)随筆」で、「京の人は細成り(細かく倹約である)、大坂の人は貧なり、江戸の人は夸(か)なり(実を捨てて名を得る)」と、また、滝沢馬琴(1767~1848)も「大坂人の気質は、京四分に江戸六分、倹は京に学び、活は江戸に習う」と述べており、毎日の生活の中でモノを使い切る「しまつ」という気質は、京都人の特質であると言われてきました。 

今回は、記憶の中の「京の暮らし」調査(2001)において、府内の高齢者115人、上京・中京・下京区の中学生の親211人から「しまつ」の事例についてお伺いした、その一部をご紹介します。

(1)米のとぎ汁のしまつ(野菜などのあく抜き/茶わんを洗う/シーツなどののり付け/お花や野菜にやる)

(2)水のしまつ(流し水はしない/お米を洗ったり菜っぱを洗ったりした水は「上バケツ」にため、「下バケツ」に移して雑巾洗いや庭にまくなど、もう一度活用する/牛乳の瓶を洗った後の水は植木にまく/洗濯のすすぎ水や風呂の残り湯は水洗トイレに使う/夕立の時、とゆ(とよ)の水をバケツにためておき、最初の水は夕方の水まきに使い、水がきれいになってきたら雑巾がけ用に使う)

(3)食材のしまつ(残ったご飯をのりにする/使ったお茶の葉でつくだ煮をつくる/糠(ぬか)で体を洗う/米糠を袋に入れて拭き掃除に使う/お茶の葉を畳にまいて掃除をする/出しがらの昆布や花かつおとじゃこで佃煮をつくる/卵の殻で茶碗やポット、ビンを洗う/コーヒー豆を乾かし脱臭剤として下駄箱に入れる/ネギを使う時、根っこは植えて、芽が出たら食べる/米ぬかで柱や板の間を磨く/焼き魚の骨はお湯やお茶でスープにする)

(4)着物や布のしまつ(着物の残りで前掛けや座布団を作る/長じゅばんをさいてはたきを作る/着なくなったTシャツなどを小さく切って油汚れした鍋や換気扇、靴みがきなどに使う/セーターをほどいて洗い、蒸気でのばして編み替える/衣類は人目によほどでない限り繕って着る/亡くなった方の着物を傘の生地に使い、片見分けとしてお配りする/浴衣など木綿の古布で赤ちゃんのおしめを作る)

(5)紙のしまつ(使用後の障子紙を他の用途に使う/和菓子をのせた懐紙はもう一度、テーブルを拭くなどに使う/デパートの包み紙や裏の白いチラシ、パンフレットなどはとじて計算帳やメモ帳にする/カレンダーの裏は子どものお絵かき用に/新聞紙をぬらし細かくちぎって「通り庭(玄関から奥の庭まで続く土間)」の掃除に使う)

(6)その他(髪の毛を残しておいて針山の中身にする/割り箸やかまぼこの板は取っておく)、など。

上記の「上バケツ」は「あか(銅製)」のバケツで、内側に錫(すず)メッキがしてありました。また、京都では「掃除は白足袋を履いてする」「道路の掃除は一掃きだけ隣の家にくいこむように掃く」「お茶、お菓子、座布団などはお客様用を用意しておく」など、「しまつ」と同時に、言わず語らずの京都ならではの約束事も多くありました。(ソーシャルデザイナー)

若者の奨学金返済支援や市役所DX化推進 土浦市25年度当初予算案

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2025年度当初予算案を発表する土浦市の安藤真理子市長

花火大会は雑踏警備に重点

土浦市の安藤真理子市長は17日、2025年度当初予算案を発表した。一般会計は前年度当初比3.2%増の585億6000万円、特別会計などを加えた総額は同比2.5%増の1013億8000万円で、一般会計は2015年度に次いで過去2番目の予算規模となる。

新規事業として、若者の奨学金返済支援や就職活動支援を実施する(342万円)ほか、保育所入所選考作業にAIマッチングサービスを導入する(588万円)など市役所のDX化推進に取り組む。昨年、延期日の警備員を確保できず中止となった土浦全国花火競技大会は、今年は雑踏対策を最重要課題とし、市から昨年度と同額の8500万円を補助する。雑踏対策は自主財源を増やすなどして対応するという。

来庁希望日時の予約も

若者の奨学金返済支援は、市内に住み市内で就職している20代の若者に前年度に返済した奨学金額の2分の1を支援する(上限10万円)。就職活動支援は、県内に就職し市内に居住を希望する大学生などに就職活動にかかった交通費を補助する(上限4260円)。

市役所DX化はほかに、市民課や福祉の窓口の混雑状況をリアルタイムで配信したり、来庁希望日時を予約できるようにしたり、自分の順番が近づいたらメールで知らせるなどの窓口受付システムを導入する(1545万円)。

48施設の保守管理を一括委託

学校教育は、2028年4月開校に向けて上大津地区統合小学校の基本・実施設計などを実施する(2億3299万円)ほか、不登校生徒支援のため市内全中学校に設置している校内フリースクールの支援員を4人から6人に増やし校内フリースクールを常時開設できるようにする(1294万円)。

公共施設の管理では、小中学校や公民館、児童クラブなど48施設の清掃や点検、巡回、修繕、植栽管理などの業務を一括して民間に委託し(1億9120万円)、保守管理に民間のノウハウを活用して業務を効率化する。老朽化している市保健センターは施設の更新工事と併せて「ZEB化」と呼ばれる断熱化、省エネ化の改修工事を行う(1億232万円)。

土浦スマートICは詳細設計

昨年事業化が決定した常磐道桜土浦インターチェンジ(IC)-土浦北IC間に設置する「土浦スマートIC(仮称)」は詳細設計と地質調査を実施(8614万円)する。併せて同スマートIC整備とつくばエクスプレスの土浦駅延伸を見据え、開発候補地の事業スキームの検討や民間開発事業者へのヒヤリングなど開発候補地調査検討事業(809万円)を実施する。

桜土浦IC周辺に計画されている産業発展を促す拠点整備については、昨年、9割を超える地権者の仮同意を得て土地区画整理組合の前身となる準備委員会が結成されたことから、新たに施工地区を決定するための区域界測量、埋蔵文化財試掘調査、組合設立に向けた地権者合意形成などを実施する(6097万円)。

ほかに老朽化した荒川沖消防署と南分署を統合し、2027年度に向けて新消防署を完成・移転するための基本設計などに1億1726万円を計上する。

財源不足、28億円繰入

歳入は、法人市民税が9.1%減少すると見込む一方、個人市民税は定額減税の終了や賃上げに伴う給与所得の増加などから10.9%増を見込むなど、市税全体では3.4%増を見込む。一方歳出は、人件費や社会保障関係費の増加、物価上昇の影響などによって全体が増加したことなどから、財源不足をまかなうため財政調整基金から28億3000万円を繰り入れる。2025年度末の基金残高は121億900万円、市債残高は755億5400万円になる見込み。(鈴木宏子)

つくばの県立高問題は動く? その2《吾妻カガミ》202

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茨城県庁(左)とつくば市役所

【コラム・坂本栄】今回は201「知事選の年、つくばの県立高問題は動く?」(2月3日掲載)の続きになります。茨城県全体としては県立高校が余っているのにつくば市では足りないというこの問題、もう少し検証する必要があると思うからです。

県、クラス増と広域通学で対応

前回の要点は、①県内12エリアで県立高が足りないのはTX沿線エリアだけである、②県はこのエリアに県立高を新設して中卒者と保護者の不安を解消すべきと私は考える、③ところが県は既存高のクラス増と近隣市高への通学勧奨で対処している、④知事はこういった場当たり策でなく抜本策を示すべきではないか―といったものでした。

その際、県がまとめた「県立高等学校の今後の募集学級数・募集定員の見込み試算」(2024年10月発表)に掲載された表(エリア別過不足一覧)と図(つくばエリア県立高一覧)を使わせてもらいました。この試算には上記③の正しさを立証しようとする表(今後8年の見込み、下に掲載)も載っています。

上の表を踏まえ、県は「(つくばエリア)7市(つくば、常総、つくばみらい、守谷、土浦、牛久、下妻)の中卒者が最大になるのは2028年であり、24年に比べると180人増える」「24年の筑波高校とつくばサイエンス高校の欠員は合計で194人」とし、今後増える中卒者は両高の余裕で吸収できるから「現行の募集定員で足りる」との結論を出しています。

つまり、サイエンス高の2学級=80人増(23年実施)、牛久栄進高の1学級=40人増(24年実施)、筑波高の進学コース設置(普通科3学級中の1学級、24年実施)、サイエンス高の普通科設置(科学技術科6学級中の3学級、25年実施)によって、つくばエリア県立高の量と質の問題は解決できるということです。

「下り坂の県」と「上り坂の市」

前回書いたように、県の見込みと不足解消策に対し「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」(片岡代表)と五十嵐つくば市長は異を唱えています。そして、TXつくば駅に近い進学校・竹園高校のクラスも増やすべきだと主張、市長は校舎増築費を市が負担してもよいと先の選挙で公約しました。県立高のキャパシティとそのコンセプトについて市と県が対立する構図です。

県全体を見ている県としてはTX沿線エリアを特別扱いできません。そこで、広域(つくばエリア7市)で問題に対処すると同時に既存高に少し手を加えるという策を立案しました。しかし、こういった場当たり策では成長エリア・つくば圏の魅力が損なわれるでしょう。

2年半前、洞峰公園問題と県立高問題を扱った139「上り坂の市と下り坂の県のおはなし」(2022年8月15日掲載)で、私は「県立高問題は、県を当てにせずに市立高をつくり、つくば市が自分で解決したらどうか」「県と市が置かれている状況と方向が違うのだから、市は県から『独立』したらどうか」と提案しました。

状況の違いとは、人口が減少し財政も楽でなくなった「下り坂の県」と、人口が増加して地域に活力がある「上り坂の市」ということです。こういった社会経済構造上の変化が県立高問題の根っこにあるような気がします。

「独立」の大風呂敷案としては、「上り坂」のつくば市を中核とする人口50万以上の政令指定都市を設け、「下り坂」の県から「独立」するアプローチが考えられます。神奈川県における横浜市のイメージです。県が示した「つくばエリア」7市の人口は合計約70万ですから50万要件はOKです。(経済ジャーナリスト)

「にゃん・にゃん・にゃん」の猫の日に特別イベント つくばわんわんランド

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40種70匹の猫たちが自由に暮らす「ねこハウス」室内

オリジナルトレーディングカード製作

2月22日は猫の日―。「にゃん・にゃん・にゃん」の語呂合わせで制定された記念日だ。日本最大級の犬のテーマパーク「つくばわんわんランド」(つくば市沼田、東郷治久代表)は猫の日の特別イベントとして、園内にある「ねこハウス」(24年3月29日付)で暮らす猫たちのオリジナルトレーディングカードを製作、猫の日の22日から24日までの3日間、ねこハウス来場者に1人1枚、カードを無料配布する。

カードは表面に、かわいい猫たちの写真と猫の種類、名前のほか、「おとなしく、抱っこされるのが大好き」など性格や特徴などのデータが記載されている。さらにゲーム用に、上部にジャンケンのイラストとポイント数が書かれている。

新たに製作された「ねこハウス」のオリジナルトレーディングカード

カードの種類は、通常のノーマルカードが10枚、まれにしか入手できないレアカードが9枚用意されている。1枚の大きさは横6.3センチ、縦8.8センチで、トレーディングカードとして収集して楽しめるほか、猫の生態についても学ぶことができる。

猫の日イベントとして来場者に無料配布するほか、すぐに遊びたい人向けに10枚セット500円で販売も予定している。

「ねこハウス」は昨年4月にリニューアルオープンした。40種70匹の猫と触れ合うことができる施設で、今回リニューアルオープン後初めて、猫の日に合わせてイベントを開催する。

同園支配人の酒井真希人さんは「猫の日にちなんでいろいろなイベントを考え、トレーディングカードの配布ということになった。トレーディングカードはいろいろなジャンルで行われており、人気があると聞く。今回の結果を踏まえて、この施設の主力である犬のカードも検討している」と話す。

ねこハウスの外貨。屋根の上から巨大な黒猫が出迎える

「大きな玉ねぎの下で」とコラボ

つくばわんわんランドは犬や猫と触れ合えるテーマパークで、90種1000頭の犬猫が暮らす。筑波山麓に1996年4月に開園し、今年で開園29年となる。高さ11メートルの世界最大級の木造犬「モックン」がシンボルで、昨年12月にリニューアルされたばかり(24年12月14日付)。

2月7日から公開中の東映映画「大きな玉ねぎの下で」とコラボキャンペーンが展開中で、園内には同園のシンボル「モックン」の下で談笑する同映画の登場人物、丈流と美優のポスターが掲示されている。映画タイトルにちなんだの「大きな〇〇下で」の全国キャンペーンの一つで、茨城県からは同園のモックンが選ばれた。同園は「ポスターと同じ構図で記念撮影はいかがでしょうか」と呼び掛けている。

園内では2月3日~3月31日まで、犬のショーなどが開催される「わんわんステージ」のリニューアル工事が実施され、工事期間中のイベントは内容を変更して実施する。 工事期間やイベント内容は変更に なることがあるので、公式ホームページ(HP)で確認してほしいとしている。(榎田智司)

◆つくばわんわんランドはつくば市沼田579。問い合わせは電話029-866-1001。公式ホームぺ時はこちら

雨情とアジアの謎 新たなる旅立ち《映画探偵団》85

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イラストは筆者

【コラム・冠木新市】1月25日、『雨情からのメッセージⅢ/空の真上のお天道さまへの旅』をつくば山水亭(つくば市小野崎)で開催した。参加者は84名(出演者20名を含む)。山水亭のオ一ナ一の東郷治久さんからは「もっと話(講演)が聞きたい。次もまたやりましょう」とうれしい言葉をいただいた。1週間過ぎても参加者から感想が届き、これもうれしく思っている。しかし、反省していることが多々ある。

実は『水戸歩兵第二連隊歌』には、2つの歌詞があるのだ。『皇国をまもり 満洲に』と『なほ満洲の 建設に』。『死なば護国の 鬼となり』と『死なば護国の 神となり』。『名は徒(いたづら)の ものなりや』と『名は天地に輝かむ』。どちらを取るかで印象が変わる。2つの歌と言っては言い過ぎだろうか。講演では前者、詩劇コンサ一トでは後者を採用した。この謎を話せなかったことが心残りだった。

また『土浦小学校校歌』(映画探偵団28)では、歌詞に土浦小学校のフレ一ズが一度も出てこない。このことを少ししか語れなかったのも悔いが残った。

さらに、詩劇コンサ一トで雨情三姉妹を登場させたが、全体で21曲唄うために時間が不足し、キャラクターの表現がおろそかになってしまった。

雨情に興味を持ち、『雨情からのメッセージ/筑波節と筑波小唄の世界』(2010年)を開催後、『Ⅱ/幻の茨城民謡復活コンサ一ト』(2013年)、『Ⅲ/水戸歩兵第二連隊歌への旅』、『Ⅳ/土浦小学校校歌への旅』、『Ⅴ/空の真上のお天道さまへの旅』の5部作を計画した。

今回の企画は、ⅢとⅣとⅤを一緒にしたものである。なぜこんな無理をしたのか。雨情没後80年と筑波節誕生95周年が重なり、一気に進めようとしたことが原因か。いや、そうではない。日本映画の影響を受け、5部作構成が性に合っているのに、3部作仕立てにしたのが原因である。

中村錦之助主演の『宮本武蔵』

日本映画の5部作シリーズは意外に少ない。1950年代の『紅孔雀』『里見八犬伝』、1960年代の『宮本武蔵』『陸軍中野学校』、1970年代の『仁義なき戦い』。中でも、1年1作で製作された吉川英治原作、内田吐夢監督、中村錦之助主演の『宮本武蔵』はよく知られている。

第2部『宮本武蔵/般若坂の決闘』(1962年)の冒頭で『孤剣。(略)これを魂とみて常に磨き、どこまで人間としておのれを高めうるか』と武蔵は独白し旅立つ。だが、第5部『宮本武蔵/巌流島の決闘』(1965年)完結篇のラスト、佐々木小次郎を倒し、小舟の中で血に染まったおのれの手を見つめ、激闘の人生を振り返り、『しょせん、剣は武器か』と、これまでの旅路を否定するつぶやきをもらす。

大どんでん返しの結末であった。観客としては微妙な違和感が残るのだが、やはりそれで終わりではなかった。

6年後、内田監督は遺作となる『真剣勝負』(1971年)を中村錦之助主演で公開する。これも吉川英治原作の宮本武蔵を主人公にした物語で、鎖鎌を使う宍戸梅軒との決闘を描いたものだ。宮本武蔵5部作に組み込んでもおかしくはない。この作品も不思議な終わり方をする。武蔵と梅軒の決闘の途中、『殺人剣 即 活人剣』と出て、炎の中に赤文字で『剣は 畢竟(ひっきょう) 暴力』と出て終わる。

曖昧模糊(あいまいもこ)としたラストだった。撮影現場で監督と出演者たちと剣の解釈で、もめたようである。 

結局、雨情をアピールするため『雨情からのメッセージ』3本を1つにまとめてしまったが、やはり5部作でやるべきだった。いやそれでも、雨情とアジアの謎の話が残る。内田監督がもう1作つくった気持ちが分かる気がした。新たなる旅立ちが始まる。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

「雨情からのメッセージⅢ」の記事と動画はこちら

「花火2025」を前に気象神社を参拝《見上げてごらん!》37

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気象神社境内(筆者撮影)

【コラム・小泉裕司】日本で唯一の天気にまつわる「気象神社」を参拝し、間もなく始まる2025年花火旅の好天を祈願した。JR中央線高円寺駅南口を出て徒歩2分、千年の歴史を有すると言われる氷川神社の鳥居前に到着。敷地内は、正面に重厚な拝殿、その左隣に末社の一つとして気象神社がある。

一礼し、大鳥居をくぐる。手水舎で身を清め、まずは、2年前に授かったお守りを社務所入口の納礼箱に返納。昨年鑑賞した花火大会がゲリラ雷雨や台風来襲に見舞われるなど御利益薄く、「敗戦」続きだったのは、お守りの賞味期限切れということなのだろうか。本来、お守りのお力は1年で期限切れとする説が多いようだ。

社務所に入ると、授与所に並んだ外国人男性が3種類のお守りを購入していた。ここにもインバウンド観光か、日によって鳥居の外まで行列ができることもあるという。私は、前回と同じ、桐箱入りの白地に「晴守(せいもり)」の金文字のお守りを授かり、気象神社に向かった。

ここでも一礼、鳥居(上の写真)をくぐる。お社(やしろ)は、8つの気象条件(晴・曇・雨・雪・雷・風・霜・霧)を司ることができる「八意思兼命(ヤゴコロオモイカネノミコト)」を祭っていることから、「気象の神様」とされているのだが、日本神話では智恵の神・学業成就の神とされており、奉納されたたくさんの「下駄絵馬」や「照照みくじ」には、「合格祈願」の文字も目立つ。

参道脇の由緒書によると、気象神社の始まりは1944年と新しい。最初に建てられたのは陸軍気象部の敷地内。戦略や作戦に必要な気象の研究者たちの心の拠り所として作られたそう。現在のお社は、老朽化によって2003年に再建されたとある。

社殿前に進み、掲示された「参拝の作法」に基づき、2礼2拍手1礼。2025年に鑑賞予定の花火大会が、好天に恵まれ、無事開催されることを祈願した。

百葉箱の気象観測機器と記録帳

参拝前から気にかかっていたお社右奥の真新しい百様箱。前面に表記された「記録おねがいします」にうながされ、参拝客の目を気にしつつ、恐る恐る扉を開けると、気象観測機器と記録帳が置かれていた。早速、日付、目測した気温9℃、湿度Lo%(測定下限値未満)、気圧1012hPa、天気は晴れ、記録者の住所地と氏名、そして自由記述蘭には、「2025花火 晴天祈願!」と記帳。

境内に設置された百葉箱の中(同)

ちなみに、百葉箱や観測機器は、戦時中に気象神社が所在した杉並区立馬橋小学校の創立70周年を記念して、2022年11月に寄贈されたとのこと。気象観測班で、毎日黒板に気温を記録した小学生時代が懐かしい。

氷川神社本殿を参拝し、神社を後にした。振り返ると、一礼し、大鳥居をくぐる参拝客が、後を絶たない。

参拝後は「そば」に限るということで、高円寺駅北口の「名大 富士そば」で昼食。チェーン店にもかかわらず、出店地域ごとにメニューや味が異なることで知られるが、今回のだし汁は美味。ここでも来店客が後を絶たない。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)

強風で停電 TX 一時運転見合わせ 乗客、線路上を徒歩で避難

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つくばエクスプレス

13日午前10時36分ごろ、つくばエクスプレス(TX)みらい平駅ー守谷駅間のつくばみらい市陽光台の線路内に、強風によりトタン屋根が飛来し、万博記念公園駅ー守谷駅間で停電が発生、TXはつくば駅ー守谷駅間で一時運転を見合わせた。約5時間後の同日午後3時37分、復旧作業が終了し全線で運転を再開した。

TXを運行する首都圏新都市鉄道によると、停電の影響により、上り列車2本がみどりの駅ーみらい平駅―間に停車した。乗車していた乗客は線路上を徒歩で、それぞれみどりの駅とみらい平駅に避難し、午後1時17分、乗客全員の避難が完了した。午後3時55分時点で、徒歩で避難した乗客に体調不調の申し出はないという。

つくば駅ー守谷駅間の運転見合わせにより、同日午前10時56分から、守谷駅ー秋葉原駅間で一時、折り返し運転を実施した。つくば駅ー守谷駅間は午後0時30分からでバス代行輸送を実施した。

13日は冬型の気圧配置が強まり、各地で強い北風が吹いた。県内には強風注意報、波浪注意報、乾燥注意報が出された。つくば市の13日の最大風速は11.4メートル。県南では龍ケ崎市で2月では観測史上最大の風速14.9メートルを観測した。

【14日午前9時40分追加】停電の影響でTXは13日、上り24本、下り25本の上下線計49本が運休し、乗客約1万5000人が影響を受けた。

事故原因巡りNEXCO東日本とつくば市が裁判 5年前の常磐道斜面崩落

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5年前斜面が崩落し復旧工事が行われた谷田部IC近くの常磐道下り車線の斜面(階段状になっている斜面部分)=つくば市今泉

一審敗訴、議会に控訴を提案

5年前、谷田部インターチェンジ(IC)近くのつくば市今泉、常磐道下り車線で、道路脇の斜面が崩落し、一時通行止めになった事故で、斜面が崩落したのはつくば市が高速道路脇の市道の側溝の管理を怠り、雨水を高速道路の斜面に流出させたためだなどとして、高速道路を管理するNEXCO東日本がつくば市を相手取って、斜面の復旧工事費の一部など計約1450万円を損害賠償請求し、裁判になっていることが分かった。

今年2月4日、一審判決が東京地裁(高木勝己裁判長)で出され、つくば市側が全面敗訴し、市に対し同額をNEXCO東日本に支払うように命じる判決が出された。市は判決を不服として13日、同日開会の市議会2月定例会議に一審判決の取り消しを求め東京高裁に控訴する議案を提案。同日開かれた市議会都市建設委員会は全会一致で控訴について同意した。14日開く本会議で改めて審議し、議決が得られれば市は東京高裁に控訴する方針だ。

側溝の管理に瑕疵

斜面が崩落する事故は、2020年1月29日未明に発生した。幅3メートル、高さ10メートルにわたって崩れ、高速道路の路面にも土砂が流出した。同日午前4時25分に通報があり、その後、谷田部インターチェンジからつくばジャンクション間が4時間半にわたって通行止めになった。NEXCO東日本は計約9440万円かけ斜面をさらに強固に復旧した。そのうち事故前の状態に復旧する工事にかかった費用など約1450万円を市に支払うよう求め、市と協議、しかし双方かみ合わず、2023年5月、NEXCO東日本は国家賠償法に基づきつくば市を相手取って東京地裁に損害賠償請求を起こした。

一審でNEXCO東日本は、高速道路脇の市道の側溝(幅72センチ、深さ80センチ)に土砂が堆積し、側溝の排水機能が十分に機能していなかったことから、前日の1月28日夜から29日未明にかけての降雨で市道が冠水し、市道から高速道路の斜面に雨水が流入して斜面の表土が徐々に削り取られ、特に削り取られやすい砂層部が短時間にえぐられたことが原因で斜面が崩落したと主張。高速道路脇の市道は通常あるべき安全性を備えておらず、つくば市の管理に瑕疵(かし)があったなどとした。

これに対し市は、崩落した高速道路の斜面は夏季は草が覆い茂っているが、事故が発生した冬季は草が枯れ、雨水が表土を侵食する機能が大幅に失われていた、冬季は大雨になることはまれで、予見することはできず、崩落事故は不可抗力で発生したものなので、市は国家賠償法上の責任を負わないなどと主張。さらに一級建築士が調査した責任の所在についての見解書を証拠として提出し、集中豪雨による自然災害だったなどと主張した。

一審判決は、市の主張を全面的に退け、事故はやや強い雨が1時間程度継続し、市道の路面から雨水があふれて斜面に流れ込み、土砂を含む雨水が斜面の表面を削り取ったことによって生じたとした。やや強い雨という程度だったにもかかわらず流れ込んだのは、市道の側溝に隣接の農地から流出した土砂が堆積し、排水機能が十分機能しない状態にあったためで、側溝が有すべき安全性を欠いており市の管理に瑕疵があったとした。さらに2018年に同一箇所で小規模な斜面崩落事故があり、その際NEXCO東日本はつくば市に対し側溝の土砂を撤去するよう依頼しており、NEXCO東日本に責任はない、などとした。

2年前、現場確認のみ

13日開かれた市議会都市建設委員会では、2020年の事故の2年前の2018年に市が、NEXCO東日本から側溝にたまった土砂を撤去するよう依頼を受けていたことについて質問が相次いで出された。市道路管理課は、当時、担当職員が現場確認を実施したが、どうするか検討し、2年後に事故が起こるまで側溝の土砂撤去を実施していなかったなどが明らかにされた。同課によると、事故直後の2020年1月29日から約400メートル区間の側溝の土砂を撤去し、撤去後、側溝の排水機能は回復したという。(鈴木宏子)

もっと⾃由に「まぜこぜ」社会を 東ちづるさん つくばで映画上映

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「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり」の一場面。左から3番目が東ちづるさん=Get in touch提供

21日から

全盲の落語家、ダウン症のダンサー、小人(こびと)症の手品師、ドラッグクイーン−。 

自身の特性を生かして国内外で活躍する「マイノリティ・パフォーマー」たちが出演する映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり~」が21日から、つくば市下原、つくばユーワールド内の シネプレックスつくばで始まる。作品を企画・構成・キャスティング・プロデュースしたのは、俳優の東ちづるさん。制作は、東日本大震災をきっかけに東さんが立ち上げ、代表を務める一般社団法人「Get in touch(ゲットインタッチ)」が担った。表現活動を通じて、すべての人が違いを超えて自由に暮らせる「まぜこぜ」の社会をめざす同団体にとって、初めての映画作品となる。

映画は、東さんが座長を務めるパフォーマンス集団「まぜこぜ一座」が2023年に上演した舞台作品「歌雪姫と七人のこびとーず」の打ち上げ会場を舞台に進むドラマ作品。控え室から響く悲鳴に座員たちが駆けつけると、息絶えた座長の東さんの姿が。そこから、容疑者となった座員たちの本音があふれ出す。マイノリティとして今の日本に生きる彼らが抱く疑問や怒りを、ユーモアとともに笑いに変える。見る人に「まぜこぜの社会」とは何かを問いかける「社会派コメディサスペンス」だ。

映画のチラシ=Get in touch提供

東日本大震災、避難所で起きたこと

映画を制作した「Get in touch」の始まりは2011年。東日本大震災がきっかけだった。東さんは、被災地で起きたことが忘れられないと言う。

「避難所で、マイノリティーの人たちが追い詰められている現状を聞いた。車いすの人が『ここはバリアフリーじゃないから、他の避難所に行かれたらいかがですか?』とやんわり言われたり、パニックを起こした障害のある子どもを怒る人がいたり、障害のある子を持つ家族が避難所に入るのを遠慮して車で過ごしたり。そういうことがたくさんあった。でも、全くニュースにならなかった」

震災後、復興に向けた前向きな物語がメディアで伝えられる中で、置き去りにされる人たちがいた。「ニュースにして欲しい」とメディア関係者に訴えても、「デリケートなことだから」と受け入れられなかったという。

「『デリケート』ってなんだろうと思った。マイノリティーの人たちをデリケートな存在にすることで、この社会にいないものにしているんじゃないか。避難所での出来事は、今の日本社会を最もよく表していると感じた」

震災直後、東さんは、被災地への支援を訴えるアート活動をする障害者に協力し、被災地の福祉施設を支援するなどの活動を展開した。さらに、アートや音楽、映像、舞台などのエンターテインメント活動を通じて、違いを超えて多くの人がつながっていこうと団体を立ち上げ、「つながり」を意味する「Get in touch」と名付けた。法人化したのは2012年だ。

「私たちの活動は、見る人をワクワクさせ、楽しい気持ちにさせるエンタメにしたい。エンタメにして、人を集めて、楽しむ。でも、帰り際はモヤモヤさせる。結果的に、みんなが知ってしまう。笑いをとりながら、見る人に考えてもらうものを作ろうと思った」

映画の一場面=Get in touch提供

共生社会の実現目指し

今の社会の問題点を東さんは「マジョリティーが作ってきた社会」にあるとし、「建物や道路、どれ一つとっても、見えない人、聞こえない人、歩けない人を想定していない」と指摘する。それは自身が病を患った時にも感じたことだと話す。2020年、東さんは出血性胃潰瘍を発症し、治療を受けている。

「私が自分の病気を公表すると、取材に来る人の中に、私を泣かせようとする人がいた。可哀想な人をつくろうとしたのだと思う。マジョリティーが無自覚に、都合のいいようにつくってきた社会だから、マイノリティーは可哀想、気の毒、守らなければいけない人たちにしてしまう。気持ちが悪いと思った。そんなことを吹き飛ばしたいという思いがどんどんふくらんできた。そんな思いもあって、マイノリティ・パフォーマーの彼らと一緒に面白いものを作ろうと、みんなでいろいろな話をしてきました」

Get in touchが企画するイベントで必ず行っているのが、手話通訳者をつけるなど障害への配慮をすることだ。「私たちの活動には、いつも手話通訳をがっつりつけている。これが、みんなが楽しめるということ。スタンダードにならなければいけないですよね」と東さんは言う。今回の映画でも、目や耳が不自由でも映画を楽しめるよう、バリアフリー字幕や音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。

「是非、気軽に来てください。お得で、楽しく、面白く、見る人の常識や普通を覆す作品です。笑いや感動、気づきだけでなく、見終わった後に残る『モヤモヤ』を、是非、持ち帰って欲しい」と話す。(柴田大輔)

◆映画「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり〜」はつくば市下原370-1 つくばユーワールド内 シネプレックスつくばで21日(金)~27日(木)まで、上映時間は午後6時から。初日は上映後に、出演者で声優の三ツ矢雄二さんと監督の齊藤雄基さんによるアフタートークイベントが開かれる。料金は一律1500円(税込)で映画パンフレット付き。バリアフリー字幕、音声ガイド、デジタルパンフレットを用意する。アフタートークには手話通訳者がつく。詳細は「まぜこぜ一座殺人事件~まつりのあとのあとのまつり」公式サイトへ。

文豪風入院日記②《遊民通信》106

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【コラム・田口哲郎】

前略

腸炎の症状も収まり、体調が良くなってくると、腹が減る。しかし、数日は絶食を命じられているから、水か茶を飲むことができるだけである。常にリンゲルを点滴されているから、渇きを覚えることはないが、病室は暖房が効いていて乾燥しがちなので、喉がいがらっぽくなることがあり、また口さびしくもあるので自販機で天然水を買ってきては、ちびちびと飲んでいた。

病院の食事は時間どおりである。朝8時、昼12時、夕方6時と決まっている。私は絶食だが、同室の患者は食事が出る。膳が運ばれてくると良い匂いが漂ってくる。仕切りのカーテンで見えないが、入院以来ありついていない食べ物の匂いと咀嚼(そしゃく)音が食欲を刺激する。

私は意識を逸(そ)らすために、家人に持ってきてもらった『宮澤賢治全集』を読むことに集中した。「ポラーノの広場」の最初に主人公のレオーノ・キューストがヤギの乳にパンを浸して食べる描写があり、余計に腹が減る。それでも読み進めると、イーハトーヴォの寒々とした美しい景色の中、ポラーノの広場で宴会が催されていると書かれている。

悪漢のデストゥパーゴが酒をたらふく呑(の)んでいる。ビール、日本酒、ワインを飲みたいと雑念が湧くが、頭を振って読み進める。

バイタル・モニタが警報を

すると看護師が飛んで来た。まさか私も実は食事を摂(と)れるのに、手違いかなにかで配膳されていなかったのかと一瞬思ったが、看護師は真剣に「大丈夫ですか?」と訊(き)いた。私はよく分からずに「はい」と言ったが、看護師はまた「胸が苦しくないですか?」と言うので、「いいえ」と答える。

「ちょっと見せて下さいね」と私の上着をまくりあげると、「ああ、これだ」とため息をついた。私の胸に貼られていた、心電図を測るためのセントラルモニタのセンサーの吸盤が腹の方に落ちていた。どうやら空腹に耐えかねて胸の辺りを掻(か)いた時に外れてしまったらしい。

「心電図が異常だから警報が鳴ったんですよ」と、看護師は新しい吸盤シールで貼りなおしてくれた。慣れない器具がついていると何気ない動作でこんなことが起こってしまうらしい。忙しい看護師を図らずも呼び出すことになってしまい、私は申し訳なくなり謝ったが、看護師は気にしないという風に笑顔を見せてステイションに帰っていった。

私は空腹を忘れて、申し訳なさとともに、看護師の優しさをありがたく思い、見守られている安心を感ずることを禁じ得なかったのである。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)

死の間際に起こる「走馬灯現象」《看取り医者は見た!》36

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写真は筆者

【コラム・平野国美】死を迎える瞬間に現れる「お見送り現象」について、前回(1月31日掲載)取り上げました。最期に現れる現象がもう一つあります。「走馬灯現象」と呼ばれているものです。人生最期の瞬間に、自分の過去の出来事などが次々と頭の中を駆け巡る現象で、日本の伝統的な灯籠「走馬灯」の中で影絵が回転して映し出される様子に似ていることから、こう名付けられました。

この現象は多くの人が報告しており、過去の回想、幼少期から現在までの出来事や経験が連続的にフラッシュバックするようです。特に強く残っている瞬間や印象的なシーンが浮かんでくると言われています。ただ通常時間の感覚とは異なり、数秒や数分の間に多くの記憶が高速で映し出されると言われています。

事故で意識を失った方、海で溺れた方が生還したとき、この走馬灯現象を話すことがあります。この現象の科学的な解釈は確立されていませんが、いくつかの仮説があります。

一つは、脳が酸素不足や他の生理的ストレス―例えば強い痛みや刺激を受けた際に起きるストレス―に反応して起こり、脳の海馬(かいば)や扁桃体(へんとうたい)といった感情や記憶を司る部分が関与していると考えられます。人生の総決算として、自分自身と向き合う瞬間とも言えるでしょう。

どのような記憶が浮かんでくるのかは人それぞれであり、その人の生きてきた証しが映し出される瞬間と考えられないでしょうか?

Near-Death Experience

海外では、走馬灯現象を「Life Review Experience」や「Near-Death Experience」の一部として報告されています。特に「Near-Death Experience」(NDE)で語られることが多く、死に近い状況に置かれた人々が「過去の出来事を非常に迅速かつ詳細に思い出す」ことです。NDEには、離脱体験(肉体から魂が離れる感覚)、過去の回想(走馬灯現象)などが含まれることがあります。文化や個人の信念によって異なる表現がされますが、基本的な体験内容は共通しています。

この文化や個人の信念と言われる表現は、欧米では「光に包まれた世界」と表現され、日本の「三途(ず)の川を渡る」といった表現は同じ現象と思われます。走馬灯現象でも「お見送り現象」同様、エンドルフィン、セロトニン、アドレナリン、ドーパミンといった脳内ホルモンが複雑に作用して引き起こされると考えられます。

海辺の病院で働いていたとき、海で溺れた方がこう話していました。「少し苦しいと思ったが、しばらくすると楽になり、頭の中を子供の頃の思い出が回り始めた。気が付いたら助けられていた。長い時間、夢を見ていたようだったが、溺れていた時間は数分だったと聞いて驚いた」。このような話は臨床の場で時々聞きます。(訪問診療医師)

自宅の車庫で夫にぶつけられた!《ハチドリ暮らし》46

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写真は筆者

【コラム・山口京子】日常の暮らしのなかで、不意になにがしかの事故が起きることがあります。わが家の場合、車の事故を経験しました。夫が自宅の車庫に車を入れる際、なかなかバックでの切り返しがうまくできません。私が道路のわきに立ち、声掛けしていたところ、ハンドル操作を誤り、私にぶつかり、カーポートにぶつかって車が停止しました。

車にぶつけられた瞬間は衝撃だけで、痛みはありませんでした。車はカーポートと接触していて、右側の前後両方のドアがへこんでいます。運転できる状況ではないため、自動車保険についているサポートセンターに連絡し、レッカー車を手配してもらいました。次に保険会社に報告するように指示を受け、連絡すると事故の状況を聞かれます。ここで何回かのやりとりがありました。

2時間もしないうちにレッカー車が到着し、車を買った販売店に運んでもらいました。そのころには、自分の足の痛みがひどくなっています。近所の友人が整形外科クリニックに連れて行ってくれ、治療を受けレントゲンを撮りました。診断は左足の骨折。自宅療養で6週間が目安のようです。左足を固定し、鎮痛剤や抗生物質の薬をもらい帰宅しました。

友人のサポートに感謝

起きてしまったことは、取り返しがつきません。夫が車を運転するのは不安でしたし、自分は運転できないため、代車は断りました。翌日、保険会社から電話がありました。今回は自賠責保険の対象にはならないので、同保険からの補償はないとのこと。任意自動車保険から、ケガについては一定の補償があること。車両保険に入っていたので車の修理はされるが、等級が下がるとの説明を受けました。

しばらく車が使えない生活と足の治療が続きます。このとき助けられたことの一番は友人のサポートでした。友人は病院への送迎や買い出しを申し出てくれました。役に立ったのは、レトルトやフリーズドライの食品、缶詰、切り餅など、災害用に備蓄していた食品です。台所に立てないので、そのまま食べられるものや電子レンジで温めるだけの備蓄品があったことはラッキーでした。

家から歩いて行ける距離に食料品店があります。この際なので、夫に夕食を作ってほしいとお願いすると、この個人商店に通って買い物をするようになりました。痛いのと不便さを体験して、痛みなく歩けることのありがたさに気づかされています。(消費生活アドバイザー)