木曜日, 1月 1, 2026
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県内初、会社案内版るるぶ発行 関彰商事

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「るるぶ特別編集セキショウグループ」を手にする社員のヴィさん 

つくばなど地域情報も豊富

関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長)は創業115周年を記念し、JTBパブリッシング(本社東京都新宿区、盛崎宏行代表)とコラボ会社案内「るるぶ特別編集セキショウグループ」を発行した。るるぶの会社案内版が制作されるのは県内の企業で初めて、全国でも2例目という。

「るるぶ」はJTBパブリッシングが1973年から発刊する旅行情報誌。2010年12月には発行点数が世界最多の旅行ガイドシリーズとしてギネス世界記録に認定された。ビジュアル性を重視した分かりやすく親しみやすい誌面づくりが特色で、今回の「セキショウグループ」にもそのノウハウが生かされている。

誌面の表紙

内容は1908年(明治41)の創業から今に至る発展の歴史をつづった「関彰商事ヒストリー」をはじめ、グループの事業内容や支店・営業所網、アスリート社員の活動や文化支援の取り組み、未来へ向けた新規事業や社会貢献など幅広い。各部門から選ばれた社員4人の一日の業務の流れを追った「スタッフのお仕事密着レポート」もあり、「それぞれエリアや職種は違っても、地域への感謝と奉仕を心に、業務に励む姿をお見せできたと思う」と、広報部の田中利明部長。

見開き10ページにわたる大型特集「スタッフおすすめスポット」は、県内および周辺4都県の社員19人が、ランチや手土産に適した各地の名店や観光名所などを紹介。「各営業所の若手社員を多く抜擢した。地域情報を伝えるとともに人を知ってもらう意味もある。取引先や職場内のコミュニケーションツールに役立ってくれるといい」と田中部長。

つくばエリアでは、エネルギーパートナー課の川上兼一さんが天久保のラーメン店「七福軒」を紹介。「初めは取引先に教えていただき、行ってみたらおいしくて、家族とも食べに行くようになった。これを見て利用する人が増えてくれたらうれしい」との感想。松野木にある「蔵出し焼き芋かいつか」を紹介したのは事業開発課のダンティ・トゥイ・ヴィさん。「ベトナムではサツマイモはゆでて食べることが多く、かいつかの焼き芋はすごく甘くてねっとりしていて驚いた」とのこと。自分が載った冊子は「帰ったらさっそく、故郷のおばあちゃんにビデオ通話で見せてあげたい」と語った。

スタッフのおすすめスポットを紹介する誌面の一部

るるぶ特別編集シリーズは、これまで自治体版や地域イベント版などが中心だった。JTBパブリッシングでは、るるぶ発刊50周年を機に、今後は会社案内版にも注力したい考えで、今回はその良い見本となる一冊が作れたと話しているそうだ。

るるぶ特別編集「セキショウグループ」は1万部を制作。書店販売や施設等での配布はせず、従来の会社案内と併用し、営業やリクルートなどのツールとして活用していくという。(池田充雄)

洞峰公園の用心棒《映画探偵団》61

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「用心棒」の三船敏郎。イラストは筆者

【コラム・冠木新市】洞峰公園の野球場の青いベンチに座っていると、黒澤明監督作品『用心棒』(1961)が思い浮かぶ。絹市が立つ宿場町でやくざの跡目争いが起き、組が二つに分裂し対立し合っている。その荒廃した町にふらりとやって来た浪人の桑畑三十郎(三船敏郎)が、2人の親分を競い合わせ全滅させ宿場町を整理するお話だ。

三十郎は町の真ん中にある居酒屋に陣取りあれこれ思案し、飲み屋の親爺(おやじ)と状況を分析する場面が面白おかしく描かれる。

いま洞峰公園は、県から市への「無償移管」でグズグズと煮えてきている。昨年末、大井川知事が「無償移管」をつくば市に持ちかけ、公園を引き取らなければ改修計画を進めると言ってきた。私は始め、これは嫌がらせかなと思ったが、いやいやグランピング計画に反対の声が多いので、撤退するための提案かもと好意的に解釈した。

しかし、つくば市はなかなか返事をしない。そんな中、1月27日、近隣の2つのマンション組合が、県案に賛同する要望書を知事に提出した(つくば市にも提出)。受け取ったのは知事ではなく、都市整備課長だった。

そして、1月30日、つくば市の担当課は電話で県の担当部署に、31日夕方には五十嵐市長がツイッターで、受け入れに前向きな姿勢を示した。いくらスマートシティだからといっても、簡単な文書を送るべきではなったかと思う。2月3日の市長会見でも、この方向を確認した。今後、県と市とのやり取り、市議会と市民への説明会が続くことになる。

反対活動した人たちはどう出る?

2006年、『複眼の映像一私と黒澤明』(橋本忍著)が出版された。脚本家・橋本忍が黒澤明とのシナリオ作りの内幕を描いた本である。そこに貴重なエピソードが紹介されている。

「『用心棒』がスタートした時、東宝の製作の総師である、森岩雄氏が脚本を読み、既に撮影が始まっているのに中止を命じた。『この脚本はよくない、黒澤君の撮るべきものじゃない。今、やめると会社の損失は大きい。しかし、黒澤君の名誉には代えられない。即刻中止すべきである』…」

しかし撮影は続行され、大ヒットし、世界的な評価を獲得した。森岩雄はシナリオライター出身のプロデューサ一であり、脚本の良し悪しは分かる人だ。だが、こういうことがたまに起きる。特に演出力がずば抜けている場合、単調な場面を面白く見せてしまうことがある。『用心棒』では、居酒屋の状況説明の場面がそれにあたる。

これから、市議、県議、市民が意見を表明することになるだろう。そうそう、昨年、盛んに反対署名活動した人たちが何を思っているかも気になる。果たして、つくば市に『用心棒』に匹敵する物語が生まれるかどうか、「乞うご期待」といったところだ。サイコドン ハ トコヤン サノセ。(脚本家)

大きなマップケース 《続・平熱日記》127

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筆者の作品

【コラム・斉藤裕之】その日は朝から冷えていた。さて何をしようかとアトリエを見渡していたら、大きなマップケースの中が気になってごそごそと引っ張り出し始めた。これは20数年前、東京のある出版社が引っ越すので不要になったものがあるからと友人からの知らせがあって、のこのこ取りに行ったものだ。

大判の用紙からメモのようなものまで、とりあえずこの中にぶん投げとけばホコリもたからないので、無造作に5段の引き出しに入っている。あれだけ探したけど見つからなかったパンフレット、幼い日の子供たちが描いた絵、描きかけのデッサン…。その中に、フランス留学中に描いたドローイングやエスキースがあった。

少し厚手の紙に色を塗って、それらを切って何枚も貼り合わせたもの。その頃は抽象的な作品を描こうとしていて、セーヌ川の見えるアトリエの壁に貼って描いては切って貼りを繰り返していたことを鮮明に思い出す。その中から、青く塗られた1枚を手に取って眺める。

と、なんだ! 今描いている絵と変わらないじゃないか。紙を切って貼ることが金網と漆喰(しっくい)に代わっただけで、笑ってしまうほど変わらない自分の絵。フランスから帰国して何年が経過したかは、帰国直後に生まれた二女の年齢で分かる。ざっと30年。

例えば引っ越しのたびに捨てられずになぜか手元に残っているもののように、このマップケースの中にも、とりあえずしまい込んだものや捨てられなかったものが入っていて、この色の塗ってある紙切れたちも捨てきれずにフランスから持ち帰って、ここに入れた理由があったはずだ。

それが何なのかを言葉で説明する必要はない。というか、そこに残っている言葉こそが大事なのだと思った。

931211日に描いた絵

それから、マップケースの中にノートほどの大きさの紙に描いた絵を見つけた。黒い空に三つの白い雲が描かれた絵。93年12月11日の日付がある。

なぜ空が黒い空を描いたのかも記憶にない。確かに、冬のパリは鉛色の空が美しいが…。あれだけうろついたパリの街だが、風景を描くことはほとんどなかった。またお腹の大きくなった妻を描いた絵も何枚かあった。当時、絵を描く私の横で無心で紙を切り刻んでいた長女。今そのお腹には2人目の子供がいる。

当時のパリでは寒波という言葉が使われていて、寒波に覆われると街の噴水が凍り、冷蔵庫の中にいるように冷えた。日本では以前は寒波という用語は使われずに、寒気団が云々と言ったような気がするが…。マップケースから取り出した何枚かの紙のドローイングを壁に画びょうでとめた。これに何か描き足してみたいと思ったからだ。

果たして、30年の時と場所を超えて何か描き足せるものだろうか。10年に一度の寒波がやって来た。大陸からの空気を運んで。(画家)

つくば駅“真上”に来秋移転 大和ハウス工業茨城支社

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大和ハウス茨城支社の移転先(左) 現在は駐車場として使用=つくば市吾妻

大和ハウス工業(本社・大阪市)の茨城支社(つくば市東新井、八友明彦支社長)が来年秋、TXつくば駅の社有地(同市吾妻)に移る。地下駅舎の真上に位置し、現在は駐車場として使っている場所。移転に合わせ、隣に店舗やオフィスが入る商業ビルも建てる。駅周辺はマンション、オフィス、商業施設の再開発が進んでいるが、同支社の移転で駅前の景色が少し変わりそうだ。

茨城支社、商業ビル、両施設とセットになる立体駐車場が建設されるのは、駅前の中央通りと市立吾妻小学校に挟まれた場所。用地は7590平方メートル(2300坪)と広い。隣接地には、つくば都市交通センターの北1立体駐車場(625台収容)がある。4月に着工し、来年9月に完成予定という。

隣接地に5階の商業ビルを建設

市の中央公園向かいに建設される新支社は4階建て。茨城支社のほか、大和ハウス工業グループの会社が入る。中央通り沿い、トナリエ・キュートの向かいに建設する商業ビルは5階建て。1~2階に物販・飲食店や診療所などが入り、3~5階をオフィス用として賃貸する。吾妻小寄りに建設する駐車場は5層6階になり、350台を収容できる。

用地の角には、つくば地下駅のA1出入口があり、駅までゼロ分の便利な場所。地下駅と商業ビル1階を2基のエレベーターでつなぎ、A1を使わないでも商業ビルに出入りできるようにする。現在駐車場になっている区画とトナリエ区画を結ぶ陸橋を商業ビルまで延ばし、同ビル2階にテラス風の回廊を巡らす。これにより、商業ビルとトナリエの往来がスムーズにできる。

新支社の建坪は現支社の2倍に

大和ハウス工業は、戸建てやマンションなどの住宅、ショッピングセンターやビジネスホテルなどの商業施設、工場や物流倉庫などの事業施設を手掛けている。つくば市では、大型ショッピングモール「イーアスつくば」を運営するなど存在感が大きい。昨年4月には、県内の業務を統括する茨城支社を水戸市からつくば市に移し、県南エリアの体制を強化した。

八友支社長によると、現支社が入る建物(南大通りが西大通りにぶつかる角)は2000年9月から使ってきた。新支社の建築規模は現支社(約1650平方メートル=約500坪)の2倍になるという。(岩田大志)

骨の量 《くずかごの唄》123

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イラストは筆者

【コラム・奥井登美子】
「93歳ですか。骨の量、多すぎです。すごいなあ」
夫が亡くなったが、コロナのクラスターを恐れて、葬儀など行事一切、私と3人の子供の家族だけで行うことにした。葬儀場の焼き場の職員に言われて、私もその量のすごさに驚いた。

「つぼに入り切れない。崩して入れていいですか」

「おいしそう。なめてみたいわ?」

私は指の先で骨を触って匂いをかいでみた。香ばしくて、炭酸カルシュウム独特のざらつきがあって、とても、いい香りだ。誰も見ていない。しめしめ、安心して指先ですくって、ちょっとなめてみた。香ばしくておいしい。

骨を維持するカルシウムを夫に食べてもらうのに、私がどれだけ苦労したか、誰もわかってくれない。しかし、そのお礼に、彼が私に最後にプレゼントしてくれた味だと思う。

昭和一桁は「もったいない」に弱い

76歳で大動脈解離。「いつ何があってもおかしくない体です」と、医者に言われてから、十数年たつ。「今日は何を食べてくれるかな」と、毎日毎日の食事が、私にとっては闘いの場であった。

牛乳とヨーグルトは、気にいった銘柄を、瓶で家に配達してもう。「ほら、瓶の牛乳がこんなに残ってしまったわ。もったいないから飲んでちょうだい」

昭和一桁生まれは、「もったいない」という言葉に、敏感に反応するのだ。病院の栄養指導で塩分は1日6.5g。コンビニなどで調理済みの食品を買って食べたら、1日15~12gになってしまう。「食べる子魚」「煮干し」「白魚」。魚の加工品は、塩分の少ないものを探すのが難しい。

塩分の多い魚は、家の庭石の上が猫の食事場。市役所の通報で野良猫に食べ物をあげてはいけないことになっているが、野良か、飼い猫かわからない奴がうようよ跋扈(ばっこ)している。

その猫にあだ名をつけて、「今日は珍しくチャツピイが来てくれたわよ」などと、彼の関心を猫に向けて、ごまかして、食べてもらっていた。(随筆家、薬剤師)

国産トリュフ「人工的な発生」に成功 茨城でも最初の8個

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今回植栽地で発生したホンセイヨウショウロ(左円内)とコナラを植えた茨城県内(市町村名は秘匿)の植栽試験地=森林総合研究所提供

森林総合研究所(つくば市松の里)は9日、国産のトリュフであるホンセイヨウショウロの人工的な発生に成功したと発表した。国内では初の成功事例で、トリュフの人工栽培に向け、最初の一歩を踏み出した形という。

トリュフはマツタケなどと同じく、木の根元に生える菌根菌の仲間。一般に「キノコ」として見える塊状の部分は、菌類が胞子をつくる箇所で「子実体(しじつたい)」と呼ぶ。森林総研は今回、菌を人工的に共生させた樹木を試験地に植え、観察を続けたところ、昨年11月に初めて、茨城県内と京都府内の試験地で、合計22個の「子実体」の発生を確認した。

トリュフは、キャビア、フォアグラと並ぶ世界三大珍味の一つとして知られ、貿易統計上はマツタケを上回る高価格で取り引きされている。高級食材として大きな市場性を持つ期待もあり、森林総研は2015年度から国産トリュフの栽培化を目指した研究に取り組んできた。日本には20種以上のトリュフが自生しているが、野生のトリュフは希少で流通はしておらず、人工栽培技術の取り組みもなかった。

ヨーロッパでは樹木の根にトリュフ菌を共生させた苗木を植栽し、トリュフが栽培されている。森林総研の研究グループでは、国内のトリュフの自然発生地で調査を進めて、トリュフの生育に適した樹種や土壌環境を解明し、それらの条件を再現して国産種のトリュフを発生させることを目指した。

今回菌が使われたホンセイヨウショウロは、日本国内で採取された白トリュフで、森林総研などにより2016年に新種と確認された。ショウロ(松露)とは別の品種。ホンセイヨウショウロはヨーロッパ産の白トリュフと同様に独特の風味を有しており、芳じゅんな香りが特徴という。これをコナラ苗木に人工的に共させ、国内の4つの試験地に植えて栽培管理を行った。

ホンセイヨウショウロの菌根の形態=森林総合研究所提供

その結果、茨城県内の試験地(17年10月植栽)と京都府内の試験地(19年4月植栽)で、22年11月に、それぞれ8個、14個の子実体発生を確認した。最大のもので9センチ60グラムのものが得られた。これら子実体の形態や遺伝情報に基づいてホンセイヨウショウロであることを確認したという。県内の試験地の場所を特定する情報は明かされなかった。

研究担当の山中高史森林総研東北支所長によれば「サイズ的にも不揃いで、流通に乗せるには程遠い。人工栽培に成功したとは言い難く、人工的な発生という表現にとどめた」そう。4つの試験地のうち、発生が確認できたのは2カ所であったことから、今後の経過を観察するとともに、土壌などの環境条件と発生の関係などを見定めるなどして、トリュフの人工栽培の技術開発に道すじをつけたいとしている。(相澤冬樹)

やさしい国家が人をしあわせにする 《遊民通信》58

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【コラム・田口哲郎】
前略

1789年のフランス革命のあとに、「人間と市民の権利の宣言」、いわゆるフランス人権宣言が採択されました。この宣言は世界各国に影響を与え、それは当然、日本の民主主義の根幹にかかわるものでもあります。

フランス共和国の人権宣言をごく簡単にまとめるとこうなります。人間は生まれながらにして自由と平等を保証されている。共和国が基本的権利を保証するのであって、ほかの団体などがその権利を侵害してはならない。つまり国家だけが、福沢諭吉が言ったところの「天は人の上に人をつくらず、人の下にも人をつくらずと言へり」を約束できるということです。国民と国家の信頼関係によってすべては成り立っているわけです。

規則と改革

そんなのあたりまえじゃないかと思ってきました。でも、よく考えると、わたしたちは基本的人権によって自由と平等をあるていど享受しているけれども、その自由と平等は完全ではありません。完全な自由と平等の実現はかなり困難でしょう。でも、それでも人権宣言の理念を目指していかなければならない。そのためには、規則よりも人間の真情に寄り添う姿勢が大切です。

そうなると対立するのは、規則と改革です。ある人が困っている。でも規則はその人の望みを解決することはできない。だからその規則を変えるしかない。いや、規則を変えることは国家の根幹を揺るがすので簡単にはできない。しかし、このままでは国家が保証すると約束したその人の自由がないがしろにされてしまう。

こうしたせめぎ合いはとてもむずかしいもので、簡単に答えは見つからないでしょう。でも、基本的人権の理想を実現してゆくためには、変えるべきところを変え、変えるべきではないところを見極めて、「新しく」なってゆくしかない気がします。国家は国民にやさしくする義務があり、それは国家が国家として存続できる条件です。たとえば国民の安全を守ることであり、困っている国民がいたらその声を聞いて社会を変えることです。

近代国家は国民に対して、実はものすごい権力を持っています。その権力を行使して幸福を生み出すのは、基本的人権の理念を理解したうえで、ひとりも取り残さないという難しい課題に積極的に取り組むやさしさです。このやさしさがなければ、国家は暴走して多くの国民を傷つけるだけになります。

天下国家を語るとき、頭でっかちになってもよいと思います。頭でっかちで、同時に手足も大きければ、多くの人をしあわせにできるからです。ごきげんよう。

草々
(散歩好きの文明批評家)

知的障害者に一人暮らしの選択肢を 18日、つくばで映画上映会

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「茨城に障害のある人の権利条例をつくる会」共同代表の生井祐介さん

市民団体「茨城に障害のある人の権利条例をつくる会」(=いばけんつ、事務局・水戸市)が18日、筑波大学春日エリア(つくば市春日)で映画『道草』(宍戸大裕監督作品、2018年)の上映会を開催する。重度知的障害者が介助者の支援を受けて、地域のアパートで一人暮らしをする様子を映したドキュメンタリー映画だ。同会共同代表の一人、生井祐介さん(45)は「知的障害者が生活する場は、入所施設やグループホームだけでなく、支援を受けながらの一人暮らしという選択肢もあることを、多くの人に知ってほしい」と話す。

知的障害者の一人暮らし

「重度訪問介護」は、重度障害者が長時間、人によっては24時間の介助を自宅で受けられる福祉サービス。従来、対象は重度の肢体不自由者に限定されていたが、2013年の障害者総合支援法施行で、重度の知的障害者や精神障害者にも広がった。映画には、重度訪問介護を利用し、一人暮らしをする重度知的障害者が登場する。

内閣府の2022年度版障害者白書によると、身体障害者における施設入所者は1.7%なのに対し、知的障害者においては12.1%と、施設入所の割合が高くなっている。昨年9月、日本政府は国連から「障害者の施設収容が継続され、地域で生活する権利が奪われている」と懸念され、「施設収容をなくすために、障害者の入所施設から、地域社会で自立して生活するための支援に予算を振り分けること」が勧告された。

全国各地の障害者団体などが国連の勧告を周知するために講演会を開催し、生井さんも何度か参加した。しかし、「一般参加者には内容が難しいのでは」と感じ、「幅広い人に、もっとわかりやすく伝える方法はないか」と考え、今回の上映会を企画した。「知的障害者も公的な介助サービスを利用し、一人暮らしができることはほとんど知られていない。その様子を映像として実際に見てもらうのが一番わかりやすいだろう」

反応に寄り添って本人らしい生活に

いばけんつ共同代表で、障害者団体、自立生活センターいろは(水戸市赤塚)事務局長の八木郷太さん(26)は、4年前から重度訪問介護を利用し、一人暮らしをする知的障害者を支援している。「当初は、何に対しても反応が薄く、表情からも、本人がどうしたいのか読み取れなかった。しかし、介助者との一対一の関わりで、ひとつひとつの反応に寄り添い続けた結果、今は好き嫌いなども表現してくれるようになり、本人らしい生活ができている」

生井さんは「重度知的障害者が地域で生活するためには、地域住民の理解も大切。今回の上映会を通して、当事者やその家族はもちろん、障害と直接関わりのない人にも、一人暮らしという選択肢が知的障害者にもあることを知ってもらう機会になれば」と話す。

上映後は、映画に登場する重度知的障害者の父親で、早稲田大学の岡部耕典教授(67)が知的障害者の地域生活の現状について講演する。23日には、上映会の参加者を対象に、映画の感想共有会が開催される。(川端舞)

◆映画『道草』上映会&ミニ講演会 18日(土)午後1時~3時30分、筑波大学春日エリア情報メディアユニオン1階講義室。参加費無料。上映会には字幕、講演会には手話通訳がつく。申し込みは13日までにこちらから。

◆映画『道草』感想シェア会 23日(木・祝)午前10時~11時30分、オンライン開催。参加費無料。申し込みは22日までにこちらから。

装着型サイボーグのサイバーダイン 《日本一の湖のほとりにある街の話》8

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装着型サイボーグ「HAL」

【コラム・若田部哲】多くの研究所が立地する科学のまち、つくば。今回はその中でも最先端企業のひとつ、CYBERDYNE社(サイバーダイン)についてのご紹介です。同社が開発した世界初の革新的技術・製品について、広報の片見さんにお話を伺いました。

サイバーダインは筑波大学の山海嘉之教授により2004年に設立され、世界初の装着型サイボーグ「HAL」をはじめとする機器により、医療をはじめとして様々な社会課題の解決に取り組んでいます。

HALは、装着するだけで「サイボーグ化」する身体装着型の機器。その仕組みは、体を動かそうとするときに脳から発生するごく微弱な信号をセンサーで検出し、認識した動作に合わせてパワーユニットが作動、装着した人の意思に沿った動きをサポートするというものです。

ここまでは、すごいなあと思いつつ、なんとなくイメージしやすいところですが、さらにここからが驚きです! HALが脳からの信号を読み取りアシストした後、その「動いた」感覚は脳にフィードバックされ、それを繰り返すことにより、身体機能の改善・機能再生が図られるそうです。

つまり、弱って動かなくなってしまった身体機能が、HALのサポートで繰り返し動かすことにより回復し、再度動けるようになるとのこと。日本では、神経筋難病という従来は治療が困難とされていた疾患に対し、機能を維持・改善する効果が認められ、病院で治療できるようになっているそうです。

また海外では、脊髄損傷や脳卒中などの治療にも使われているとのこと。介護などの作業支援用や医療用など、様々なタイプのHALが製品化され、世界20カ国で約2500台が稼働中だそうです。

介助や運搬などに恩恵は多大

さて今回は、イーアスつくば内のつくばロボケアセンターで、高齢者向けのフィットネスプログラムとして、腰に装着するHALを体験させていただきました。ここからはそのリポートとなります。

腰部3カ所に電極を貼り付け、器具を腰と太ももに取り付けると準備完了。腰の装着部がしっかりしているため、それだけでウエートトレーニング時につける保護ベルトのようなサポート感があります。

おもむろにスクワットの動作を開始すると…。かがんで、足を伸ばして立ち上がろうとするや、その動きに合わせてHALが作動し、動きをサポートしてくれます。サポートは自分の動きより早くも遅くもなく、まさに意思と同時になされ、スムーズに立ち座り動作をサポートしてくれます。

その感覚に最初は戸惑いを覚えましたが、何度か繰り返すと、すぐに自然にアシストを受けられるようになりました。なるほど、介助や運搬など、常に腰に負担のかかる分野にあって、この恩恵は多大なるものであることが容易に感じられます。

お話を伺い、また体験する中で、このような技術が地元で生まれたことに誇らしい気持ちが湧いてきました。高齢化社会の進展にあたり、今後さらに人々の暮らしを支えるであろう、同社製品の活躍が楽しみです。(土浦市職員)

①サイクリストの宿(2022年7月8日付
②予科練平和記念館(8月11日付
③石岡のおまつり(9月8日付
④おみたまヨーグルト(10月6日付
⑤冷たくてもおいしい焼き芋(11月12日付
⑥阿見町のツムラ漢方記念館(12月9日付
⑦行方市でコイを養殖(2023年1月11日付

<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えます。

筑波懐古から始まるおカイコライブ 18日に農研機構冬の一般公開

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養蚕をまつる蚕影神社= つくば市神郡(資料写真)

農研機構(本部・つくば市観音台)の「冬の一般公開2023」は18日、昨秋に続きオンライン開催で行われる。「​光るシルクを生み出す家畜!? おカイコ」がテーマだが、最先端の研究現場をのぞく前に、ちょっと道草して古い縁起からひもとく趣向がある。ウィズコロナ時代のオンラインコミュニケーションに、少しだけ懐古趣味、地元回帰の要素を盛り込んだ。

今回の一般公開を担当するのは、生物機能利用研究部門の絹糸昆虫高度利用研究領域カイコ基盤技術開発グループ。笠嶋めぐみ上級研究員ら4人が進行役を務め、プログラムの冒頭は茨城県に伝わる養蚕伝承「金色姫」の話から始めるという。

同研究部門は、つくばに移転してきた1980年時点では蚕糸(さんし)試験場といい、88年の改組で蚕糸・昆虫機能研究所となり、2001年の独立行政法人化で農業生物資源研究所に改編されるまで「蚕糸研」と呼ばれた。絹を生み出すカイコの交配や生態解明を遺伝子レベルから研究してきた。

この経緯から、筑波山麓の同市神郡にある、養蚕をまつる蚕影(こかげ)神社を訪れる研究者が少なくなかった。所長を務めた木村滋さん(2022年死去)らだ。神社に伝わるのが「金色姫」の縁起で、天竺(インド)での受難劇、UFOを思わせるうつろ舟での漂着などの物語が作家や民俗学者らを引き寄せてきた。同様の伝承は県内の神栖市、日立市の神社にもある。

蚕影神社じたいは無住で荒廃久しいが、筑波山神社が春・秋に例祭を催しており、地域の女性たちが繭や真綿の手工芸品を作って奉納に訪れるなど、根強い信奉が見られる。

農研機構によれば、「養蚕の歴史が奈良時代からある茨城県で、新しいカイコ研究を行っている研究所というイントロダクションを用意した」そうで、御物法隆寺錦(正倉院御物)で聖徳太子の妃である膳妃(かしわでのきさき)の帯と伝わる蜀江錦の織物なども紹介するという。

カイコの成虫(左)と蛍光タンパク質で光る幼虫=農研機構提供

オンライン公開は「ニコニコ生放送」とのコラボで18日午後1時から生中継。番組では普段見る機会のない実験室の様子、デモンストレーション実験などが公開される。クラゲやサンゴなどの蛍光タンパク質の遺伝子を利用して「光る糸を作るカイコ」をはじめ、新たな産業として期待されている研究が紹介される。

また、午前11時からは「ニコニコサイエンス」で「飼育観察ライブ」を配信する。午後5時までかけて、カイコの幼虫が繭を作る様子や繭から羽化する様子の観察する配信が行われるそうだ。(相澤冬樹)

◆農研機構「冬の一般公開 2023」特設ウェブページはこちら

知事との対話の芽―高校が足りない 《竹林亭日乗》1

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【コラム・片岡英明】毎日、竹林と筑波山を見ながら散歩している。天声人語を読むと、コラムとは少し離れた視点で書くようだ。世相と少し離れたところから日記を書いた永井荷風を参考に、コラムの名前をつけた。

片岡英明さん

私は「出会ったところで考える」「対話で耕し合意形成」を心掛けている。その構えの方が疲れず、楽しいからである。では、どんなことに出会っているか。

1月27日のNHK首都圏ニュースのTX沿線特集で、つくば市は高校が足りないことを扱った6分ほどの放送があった。私たちは、2021年5月に「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」を立ち上げ、学習・懇談・署名などの活動を行ってきたが、当事者の受験生がマスコミに登場したのは初めてである。

取材された学生の「つくば市は結構人口も増えたので、もう少し高校を建ててもいいと思います」との発言に、「大人がこれに応えなければ」と感じた。

人口・子ども増「第3の波」

つくば市には「第3の波」が到来している。4町村が合併した1987年ごろ、第2次ベビーブーム世代の中学生増が「第1の波」。1989年をピークにして減少に転じた引き波が「第2の波」。多くの都市では、出生率低下により減少が続くが、つくば市は違った。TXが開通した2005年を底にして、中学生は増加に転じた。

TX沿線開発に伴い、2015年以降、つくば市では人口・子どもが増加し、「第3の波」が到来した。この事態への理解が問題解決の最初の鍵だ。

総務省人口移動報告(1月30日発表)によると、茨城県の人口は2年連続して転入超過になった。東京圏からTX沿線に移る人が増えたからだ。県としては、「第3の波」が続いていることへの対応が求められている。

私たちは、子ども増への対応について、県知事や教育長と対話を始めた。森作教育長は県民の声を受けとめ、つくばエリアの県立高校定員について、昨年11月の県議会で「進路選択に影響が出ないように検討し、その計画を示す」と答弁した。

大井川知事も、12月8日の茨城県総合教育会議で「通学圏のなかで学級数が足りないというのであれば、クラスを増やすなど、対応できるように県として努力します」と答えた。これは県との対話の芽である。

既存高の学級増か高校新設か

既存高の学級増か高校新設か? 新設高校は県立か市立か? 二者択一を迫る声もあるが、昨年の教育長と知事の答弁を基点に、まず、学級増の検討を始めてほしい。

教育長が言う「中学生の進路選択に影響がない学級増」とは、つくばエリアの全日制県立高の入学枠を広げ、県の平均収容率に合わせる努力をする「宣言」と考える。県平均に合わせるには、まず現時点で何学級不足か、さらに今後何学級不足するか―明らかにする必要がある。

県と市が生徒数や目標のすり合わせ作業をし、まず必要学級数を検討する。次に、その学級をどう増やすかがテーマになる。そのとき、学級増か高校新設か、県立か市立か―の問いは解消するように思う。(元高校教師、つくば市の小中学生の高校進学を考える会・代表)

【かたおか・ひであき】福島高校卒。茨城大学農学部卒業後、太陽コンサルタンツ勤務。茨城大大学院修了。39年間、霞ケ浦高校勤務。主な著書は、英語Ⅰ教科書「WORLDⅠ」(三友社、1990年)、「たのしくわかる英語Ⅰ 100時間」(あゆみ出版、同)、「若い教師のための授業・HRづくり」(三友社、2016年)。現在、「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」世話人。1950年福島市生まれ、つくば市在住。

ウェルビーイング社会を担う 創業115周年の関彰商事 つくばで記念式典

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対談する関社長と田中学長=つくば国際会議場(つくば市竹園)

関彰商事(本社・筑西市、つくば市、関正樹社長)の創業115周年を祝う記念式典が6日、つくば市竹園のつくば国際会議場で開かれた。先端教育機構・事業構想大学院大学の田中里沙学長が「不確実な社会を生き抜くための学びとキャリアデザイン」と題して記念講演し、壇上で関正樹社長と対談した。

田中学長は講演で、SDGs(持続可能な開発目標)など安全・安心の希求や、デジタル化・リモート化の加速によるライフスタイルの変化、働き方の多様化などが進んでおり、その中で、一人ひとりの多様な幸せが実現できるウェルビーイング社会に向かっているとした。変化のスピードが速い時代には、過去の成功体験は通用しなくなり、未来を見据え、新たな価値を創出することが必要になる。社内の埋もれていた経営資源を掘り起こし、新規事業開発につなげる人材が求められており、それを可能にするのが、学び直しにより仕事に必要な能力を磨き続け、自己実現を図る「リカレント」や「リスキリング」だという。

話に聞き入る参加者

対談でも、関彰商事は5~7年前からウェルビーイングやリカレントに取り組んでいることを評価した。これに対し関社長は「リカレントは人への投資。学ぶ機会を提供することは直接業績につながるわけではないが、会社の土台が強くなることは間違いない。ぜひ背中を押していただきたい」と応じた。

サッカー部と菅谷さんを特別表彰

式典には同社の執行部、各部門責任者、永年勤続受賞者ら計249人が参加。10年、20年、35年の永年勤続者計82人を表彰、昨年度の退職者17人に記念品が贈呈されるなどした。

特別表彰には、関彰商事サッカー部とビジネストランスフォーメーション部第2統括鹿行支店の菅谷萌衣さんが選ばれた。サッカー部は全国クラブチームサッカー選手権大会でベスト8の成績を挙げたほか、県社会人サッカーリーグ2部で優勝し、来季の1部昇格を決めた。菅谷さんは神栖市が高齢者の情報格差対策として行う「シニア向けスマホ講習会」の企画運営に携わり、地域の社会的課題解決に貢献した。

模範となる優良社員として、大木薫さん(アドバンスカーライフサービス)、佐藤智美さん(シュテルンつくば・メルセデスベンツつくば)、荒川淳子さん(セキショウライフサポート事業推進課)の3人が表彰された。

関彰商事は1908(明治41)年2月6日、燃料販売店「関彰商店」として創業。エネルギー事業を中心に生活環境設備、自動車、IT機器・システム開発など幅広い商品・サービスを手掛ける総合商社へと展開してきた。新たな取り組みとして、CO2排出削減を目指すカーボンニュートラルプロジェクト、AIを使った動作分析をスポーツや医療・福祉へ応用するスポーツアナリティクスプロジェクト、eスポーツを高齢者の機能向上に活用するウェルビーイングプロジェクトなどを、大学との共同研究により進めている。(池田充雄)

つくば市の2大懸案 県が提示した解決策《吾妻カガミ》150

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茨城県庁(左)とつくば市役所

【コラム・坂本栄】つくば市の2つの問題に茨城県が解決案を示しています。市内の公立高不足問題では「県立高に頼らずに市立高をつくったら」と。県営洞峰公園問題では「県の改修案に反対なら公園を無償で譲る。市の考え方で維持管理したら」と。いずれも本コラムが提案したアイデアです。施策立案の参考になったのでしょうか?

市立高をつくるなら県も手伝う

公立高不足問題では、118「つくば学園都市は公立高過疎地」(2021年10月18日掲載)で、「…『市設・県営』はどうでしょう。ハード(校舎)は市が造り、ソフト(授業)は県が動かすという折衷案です。おカネの面では県立or市立よりも両者の負担が軽く、教育効果は県立と同じになります」と提案しました。

6町村が合併して生まれ、中央をTXが通る研究学園都市には、新興市特有の凸凹がいくつか生じています。県立高配置はその一つです。場所が周辺地域に偏り、TX沿線には、高レベルの県立高はあるものの、平均的な学生が通える県立高がありません。そこで、親たちは沿線地域に新しい県立高がほしいと県に求め、市も県に働きかけています。

ところが、県は少子化・人口減という全体の傾向を踏まえ、高校新設には消極的です。つくば市=人口増加市の学生は、▽周辺の人口減少市の高校に通ってもらう(広域圏での過不足調整)▽既存高の学級増で対応する(現施設内でのやりくり)―この2つが県の基本対処方針の柱です。

県に見えている景色(歴史ある旧市の人口減)とつくば市に現出している景色(新興市の人口増)が違う。これが県と市の対立の原因です。しかし、「県立高をつくるのは県の仕事」という市の主張に、上の2本柱だけでは説得力がないと思ったのか、県は「こちらも手伝うから市立高をつくったら」と言い出しました。本コラム案と考え方は同じです。

県と市の公立高論争については、記事「…押し付け合い? 知事『市立を』、つくば市長『県の仕事』」(1月6日掲載)をご覧ください。

市営公園にして維持管理したら

県営洞峰公園問題では、134「…洞峰公園、つくば市が買い取ったら?」(22年6月6日掲載)で、「公園管理費を減らしたい県の立場を考え(魅力度アップの方は勘弁してもらい)、同時に市民の疑問や反対に応えるためにも、洞峰公園を買い取って市営にするのも一案です」と提案しました。

「県の立場」とは、①洞峰公園の運営を民間に任せ(グランピング施設はその目玉)、その収益で維持管理費を捻出したい、②キャンプやBBQ施設を園内に設け、アウトドア活動を振興し、県の魅力度をアップさせたい―ということです。一方、「市民の疑問や反対」とは、③自然公園なのに、キャンプ者の騒音や酒、BBQの煙や臭いは迷惑―ということです。

コラム134の提案は、①と③をセットで解決するには、公園を市に譲ってもらい、公園の現状を維持することで、「市民の疑問や反対」に応えたら、という趣旨でした。この時点では、譲渡額=簿価+アルファと思っていましたから、「買い取ったら?」になりました。ところが、県は市との協議が面倒くさくなったのか、無償で譲ると言い出しました。こちらも本コラムが示したアイデアの対市超配慮案です。

県の提案に対する市の対応は、記事「…市管理も選択肢…市長」(22年12月8日掲載)、同「『無償譲渡を前向きに調整』…市長」(2月1日掲載)をご覧ください。つくば市は県が示した洞峰公園市営化案を受け入れざるを得ないでしょう。(経済ジャーナリスト)

合言葉は「限界突破」 茨城アストロプラネッツ2023新体制

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伊藤監督らを中心に、新入団選手17人が記念撮影=笠間市福田、球団事務所体育館

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは5日、笠間市福田の球団事務所体育館で、2023シーズンの新体制発表イベントを行った。伊藤悠一新監督や新入団選手らが抱負などを語った。

「個性を高めてチーム力つける」

アストロプラネッツの今季スローガンは「限界突破」。伊藤監督は「個人個人が爆発的レベルアップを目指す。全員が次のステージを目指して個性を高めていけば、結果としてチームも強くなっていく」と話し、「他のチームとは目標設定が真逆。個人の育成が第一で、そのプロセスの中でチームを勝利に導く。これが決して矛盾ではないことを、地方から社会へ示していきたい」と解説した。

球団方針説明では、今季就任の河西智之副社長が登壇。独立リーグの「革命児」として、①グランドチャンピオンシップ優勝②NPBドラフト最多指名数③最多入場者数ーの3つの日本一を目標に掲げた。さらに、海外との連携強化としてタイプロジェクトの推進や台湾プロ野球との交流戦などを構想。2024年度からチーム数が拡大する見通しの日本プロ野球(NPB)2軍リーグ戦にも、参入を目指す意向を明かした。

目標は「甲斐キャノン」超え 日渡騰輝選手

今季の新入団選手は21人。会場にはそのうち17人が集まり、鏡開きイベントやファンとの交流などを楽しんだ。

活躍を誓う日渡選手

日渡騰輝(ひわたり・とうき)選手は霞ケ浦高出身。強肩強打が持ち味で、高校時代の通算ホームラン数は30本。昨夏は主将兼4番打者として県大会ベスト4のチームを率いた。卒業後は大学進学という選択肢もあったが、最短でNPBを目指すため、地元の独立リーグであるアストロプラネッツを選んだ。

「高校では戦う姿勢や、社会で生きるためのルールやマナーなどを学んだが、NPBに行くには守備や打撃などトータル的に全て足りなかった。今年は自分の弱点や課題を見付けてコーチ陣に聞き、しっかり直していきたい」

昨秋のプロ野球ドラフト会議でソフトバンクに育成1位指名された赤羽蓮投手とは高校時代にバッテリーを組んだ仲。最近もキャンプ中の様子など話を聞いているそうだ。次はどちらが早く支配下に入れるかを競うことになる。「もし一緒のチームになれたら、またバッテリーを組みたい」

今年の目標はアストロプラネッツで4番を打ち、10本以上のホームランを放つこと、捕手として全ての盗塁を阻止すること。現在の二塁送球タイムは1.9秒だが、ソフトバンクの甲斐拓也選手を上回る1.7秒台まで高めたいという。(池田充雄)

国も地方も政治劣化が止まらない 《地方創生を考える》27

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ダイヤモンド筑波(筑西市)

【コラム・中尾隆友】日銀の異次元緩和が始まってもうすぐ10年になる。異次元緩和の最大の問題は、いくら政府が借金を増やしても日銀が国債を引き受けてくれるので、放漫財政が常態化してしまうということだ。

政府債務は恐ろしく膨らんだ

実際に、一般会計の総額は10年連続で過去最高を更新し、近年は補正予算の規模が数十兆円に膨らむ事態となっている。

その結果、過去10年間で政府債務は恐ろしく膨張した。税収で返す必要がある普通国債の発行残高は、2023年度末に1068兆円になる見通しだ。政府債務はGDPの2.5倍超にまで拡大し、持続的な金利上昇に脆弱(ぜいじゃく)な財政になってしまったといえるだろう。

日本の成長率は大幅に低下した

それに加えて、異次元緩和は経済効率を高める金利本来の機能を損ない続けてきた。その典型的な事例は、金融機関の融資に占める不採算企業の割合が一貫して増加基調で推移してきたということだ。その帰結として、2022年末までの10年で実質GDPは4%程度しか増えず、その前の10年とほぼ変わらない低成長から抜け出せなかったのだ。

この間の日本の潜在成長率は0.8%から0.2%まで大幅に低下した。この点においても、日本は金利上昇への耐久力が著しく弱まったといえる。金利が上がっても成長率が高まっていれば、債務が膨らんでも何とかやりくりもできるだろう。しかし、逆に低くなってしまったのでは、金利が上がると利払い費に窮する局面が訪れるかもしれない。

問題は日銀よりも政治の劣化

この重大な責任は、日銀だけが負うものではない。選挙向けの安易なばらまきに終始し、構造改革を実行してこなかった政府にも大きな問題があるからだ。日銀が大規模緩和をする間、政府は構造改革を進めて経済成長率を高めていくという約束をしたはずだ。その約束を果たさなかった政府の怠慢には、非常に残念でならない。

特に2010年代以降の日本を見ていて不安に思うのは、政治の劣化が深刻だということだ。「政府がいくら赤字国債を出しても、日銀が無制限に引き受ければ問題ない」というジョークを本気で信じる政治家が意外に多いことを、皆さんはご存知だろうか。

これは国政に限らず、地方でもよく見られる現象だ。構造改革を伴わない財政拡大では、その甚大なツケを支払うのは市井の人々だということを忘れないでほしい。(経営アドバイザー)

筑波大学開学50周年イヤー 室伏広治さん開幕告げる

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芸術に触れながら体育の哲学を語る室伏さん=つくば国際会議場

筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)の開学50周年イヤーが4日、金メダリストの講演で幕を開けた。記念事業シンポジウム「芸術×体育で未来を拓く」が同日、つくば国際会議場(同市竹園)で開催され、これを皮きりに10月1日の記念式典まで各種イベントが展開される。

講演する室伏さん=同

シンポジウムで講演したのは、2004年アテネオリンピックのハンマー投げで金メダルの室伏広治さん(48)。日本記録保持者で日本選手権20連覇を遂げ、16年に引退、2年前からスポーツ庁長官に就任した。4日は「スポーツで未来を創る」のテーマで基調講演を行った。

室伏長官指揮下の同庁が昨年まとめた第3期スポーツ基本計画(2022-26年度)では、少子高齢化や地域間格差の広がりの中で、学校教育を中心にしたスポーツ振興からの脱却を意図した。性別や年齢、障害、経済事情などの違いによって、取り組みに差が生じない社会を実現し、機運を醸成するとしている。「健康増進の意味からも自治体や企業へ横展開していく地域の取り組みが重要になり、つくばでぜひ率先してほしい」とアピールした。

父親(重信さん)にはハンマー投げに進むこと、練習に励むことを一度も強制されたことがないと言い、それが充実した競技生活につながった。アスリートには幅広いスポーツ体験を積むこと、指導者には勝利至上主義からの転換を求めるなどした。

筑波大学は、国内初の官立高等教育機関として1872(明治5)年、創立された師範学校を礎としており、今年、創基151年となり開学50周年と合わせて記念事業を展開する。1872年は学制公布の年であることに触れた室伏さんは「当時、夏目漱石は日本の哲学は周囲にあるもの全て動かすべからず、心の修養を積んだ挙げ句の消極の極みに達する哲理と書いている。動的な西洋のスポーツ観とは違った見方があった」と紹介、未来を創るヒントがこの辺にありそうだと説いた。

講演を熱心に聴いていた体育学群4年、岸本洋汰さん(23)は英国プレミアリーグで今季大活躍の三苫薫さんの後輩にあたるサッカー部員。「競技生活を送る上での体づくりについて体験的に話してくれて、特に心の問題に触れてくれたことに感慨を覚えた。2年生のとき心理的問題を抱えた経験があるだけに聞き入ってしまった」と感激を語る。

筑波大には開学した73年に体育専門学群が、翌74年に芸術専門学群が設置され、教室のある学群棟は向かい合って配置されているが、「これまで積極的な交流はあまりなかった」と今回のシンポジウムを企画した水野裕史芸術系助教。「学際、国際化が言われる中で、いろんな組み合わせが試されるべきで、50周年記念のスタートにふさわしい内容になったと思う」という。

記念事業は4月から、つくばセンター周辺で「筑波芸術アート&デザイン・ストリート」の開催などが計画されている。(相澤冬樹)

土浦のひなまつり開幕 3年ぶり華やかに

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江戸末期から明治の名工、3代目仲秀英作のひな人形=まちかど蔵大徳

立春の4日、第18回土浦の雛まつり(市観光協会主催)が、土浦駅前通りの観光拠点の一つ、土浦まちかど蔵(同市中央)などで始まった。新型コロナの影響で3年ぶりの開催となる。3月3日まで。

江戸時代や明治初期の蔵などが並ぶ旧水戸街道の中城通りを中心に、周辺の商店などが代々商家に伝わる江⼾から平成のひな人形やつるしびなを店頭に飾っている。市内108カ所の店や公共施設が参加している。

会場の一つ、土浦まちかど蔵大徳では、江戸末期から明治の名工、3代目仲秀英(なか・しゅうえい)が作ったひな人形を展示している。店蔵2階では浦島太郎や干支のうさぎをモチーフにしたひな人形などが飾り付けられた。中城通りの街並みと調和した和の雰囲気と、人形たちの個性豊かな表情を楽しむことができる。手作りのつるしびなは花や⿃や⼈形などちりめんの縁起物をひもにくくりつけて作る立体的な飾り付けで、空間を華やかに彩っている。

大正時代の「八女(やめ)の箱雛」(左)と明治末期から昭和初期の「見栄っ張り雛」(右)=福祉の店ポプラ中央店

福祉の店ポプラ中央店(同市中央)は1階に、市内の収集家が集めたという大正時代の「八女(やめ)の箱雛」や明治末期から昭和初期の「見栄っ張り雛」など貴重なひな人形を飾った。2階には市内外の社会福祉施設などで障害者が手作りしたひな人形を展示した。

前野呉服店(同市中央)ではショーウィンドウに23年前に購入したという三段飾りのひな人形と色鮮やかな着物を飾った。店の前を通る人は歩みを止め、あでやかな飾りつけに見入っていた。

前野呉服店のひな人形

同市観光協会主任の浅川善信さんは「去年もひなまつりをやらないんですかという問い合わせがあった。親子3代で来てくれる方もいる。小さいお子さんからご年配の方までご家族でぜひ見に来て、ひな人形で元気を出してほしい」と呼び掛けた。

「和」マークの付いている店に和服で来店するとサービスやプレゼントなどの特典を受けることができる。指定されている店を回り、スタンプを4つ集めて「土浦まちかど蔵大徳」の応募箱に入れると抽選で賞品をもらえるスタンプラリーも開催する。(田中めぐみ)

◆見学は無料。期間中の土日には臨時駐車場4カ所を無料開放する。問い合わせは土浦市観光協会(電話029-824-2810)

運と感謝 《続・気軽にSOS》126

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【コラム・浅井和幸】気分が落ち込んでくると感謝することなどなくなってきます。感謝するどころか、すべてが悪循環で、良いことが起こらないし、今までも良いことなんてなかったと感じるようになります。こんなに頑張っているのに、どうして自分ばっかり運が悪いのだろうかと考えるようになるものです。

過去に嫌なことばかり起こっているのだから、これからも悪いことばかり起こるだろうと予測をしてしまうのは仕方のないことでしょう。0か100かの考えを持つと、過去に嫌なことが一つでもあれば、今まですべての経験・人間関係は嫌なことばかりだったと自分に言い聞かせるように愚痴をこぼし、良いことなど一つもなかったと思い込むことでしょう。

物事は卵が先か、鳥が先かの判断が難しいことがあります。楽しいから笑うのか、笑うから楽しいのか。実際に笑顔をつくると気持ちが軽くなったり、けげんな表情をつくると集中力が上がったりということもあるようです。

さて、運が良いから感謝するのか、感謝するから運が良いのかも難しい問題ですね。運というものはよく分からないものなので、人力で変化させることは出来るものではないのでしょう。ですが、感謝するのは自分自身の考え方とか捉え方なので、繰り返し練習をすれば自然と感謝できるようになっていきます。

感謝とはありがたいと思うことやそう思ったことを相手に伝えたりすることです。うれしい、美しい、楽しい、おいしい、良い香り、良い手触り、好きな音楽―などを感じて喜ぶことです。そのものに感謝してもよいし、それをもたらしてくれたものや人に感謝を伝えてもよいでしょう。

歯が痛いと歯医者の看板が見つかりやすいように、運が良いと思っていると、ポジティブな物事を見つけやすくなるものです。運が悪いと思っていると悪いことに敏感になり、運が良いと思っていると良いことに敏感になります。

そして、感謝の気持ちを表してくれる人に、人はもっと協力をして喜んでもらえるようなことをしたくなるものです。ネガティブな気持ちをぶつけてくる人には、ネガティブな気持ちを返したくなります。

感謝の気持ちを伝えよう

人を傷つけたり攻撃したりすると、攻撃が返ってきやすい状況をつくり出します。感謝や優しさを伝えることで、自分にも感謝や優しさが返されやすくなります。攻撃も感謝も、巡り巡って忘れたときに、返ってくることもあるでしょう。それが良い運、悪い運の正体なのかもしれません。

自分が好きな人に、尊敬できる人に、出来るだけ感謝の気持ちを伝えるようにしてください。自分を楽しませてくれるものに、感謝の気持ちを向けるようにしてみてください。きっと良い運が巡ってくるようになります。そして、その運に気づきやすくなり、その運を生かせる人間になれるでしょう。(精神保健福祉士)

5年連続で過去最大を更新 つくば市23年度当初予算案

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定例記者会見で2023年度予算案について話す五十嵐立青市長=3日、市役所

中根・金田台で小学校建設に着手

五十嵐立青つくば市長は3日、新年度予算案を発表した。一般会計は前年度当初比6.9%増の約1085億1000万円、特別会計などを含めた総額は同比5.1%増の約1705億1000万円で、5年連続で過去最大を更新する。14日開会予定の3月議会に提案され審議される。

児童生徒数の増加に伴い学校施設の建設が続いているのが増加の主な要因。▽新たに、住宅開発が進む中根・金田台地区で小学校建設に着手し2026年4月開校を目指して用地取得と設計などを実施する(約14億8000万円)。前年度からの継続事業としては、▽TXみどりの地区に24年4月開校予定のみどりの南小中学校建設費に約51億2000万円▽主にTX沿線の小中学校などが利用する24年度オープン予定のみどりの学校プール建設費に約17億円▽25年4月稼働開始予定の新桜学校給食センター(供給能力7000食)建設に約19億円を計上する。

高齢者に電動自転車や芸術鑑賞チケットを補助

高齢者を対象にした新規事業として、▽免許返納などによる代替移動手段の確保や介護予防、社会参加の促進のため、70歳以上の高齢者が電動アシスト自転車を購入する場合、2輪自転車は最大5万円、3輪や4輪自転車は最大12万円を新たに補助したり(予算総額約3700万円)、▽70歳以上の高齢者が市と市文化振興財団が共同主催する演劇や音楽などの文化芸術公演を鑑賞する場合、1回当たり1000円を助成したり(約200万円)、▽高齢者や障害者を自家用車で移送する福祉有償運送サービスを実施しているボランティア団体を支援するため、運転者に必要な講習会を市が新規に実施(66万円)などする。

交流センターを地域コミュニティ拠点に

市民に最も身近な施設である地域交流センターの機能拡充として、17館ある交流センターを地域コミュニティの拠点とすることを目指し、全交流センターに無料Wi-Fiを整備するほか、ソファやテーブルを置いて用事がなくても居場所としてだれでも利用できるようにしたり、全館で相談業務を行えるようにする(約2750円)。

ほかに、つくばセンタービル南側を改修し、市民活動拠点(約9760万円)や国際交流拠点(約5100万円)を整備したり、つくば駅前の商業施設BiViつくば2階のつくば総合インフォメーションセンター交流サロンを改修し今年12月の開設を目指して、住民票などの交付を受けることができる市民窓口を新たに開設などする(約2700万円)。

五十嵐市長は「新型コロナの影響でこれまで内向きになっていたが、新年度は市民の活動や地域の交流を後押しし、静から動への転換を図りたい」などと話した。

市税収入6.8%増

一方、歳入は、全体のほぼ半分を占める市税収入が、前年度当初と比べ6.8%増えると見込む。内訳は人口増により納税者がさらに増え、個人市民税が同比7.9%増、立地企業の収益の伸びが続き法人市民税が同28.2%増、新築の戸建て住宅や分譲マンションの建設が続き固定資産税が同2.9%増えると見込む。

当初予算により、市の借金である市債残高は総額で22年度末と比べ約71億円増え、23年度末は約1176億3000万円になるとみられている。市の貯金である基金残高は、全体で約4億6000万円積み立てる一方、約41億6000万円取り崩し、22年度末の約224億4000万円から23年度末は約187億4000万円に減る見込み。(鈴木宏子)

父が施設で亡くなった 《ハチドリ暮らし》22

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四十九日までは仏壇や神棚は閉じるように言われました

【コラム・山口京子】1月15日の明け方、電話がありました。父の入所している施設の職員さんからです。「お父さんの意識がありません。救急搬送しますか? このままこちらで様子を見ますか?」と聞かれました。「救急搬送は希望しないので、そちらでお願いします」と答えると、「それでは施設の担当医に来てもらいます。また連絡します」。しばらくして再び電話が鳴り、「息を引き取りました」と言われました。

父がいる施設にデイサービスで通っている母からは「父ちゃんは食欲もあって、内臓はどこも悪くないから長生きするよ。この数日少し熱があるけれど、心配するほどではないよ」と聞いていました。亡くなる前日の夕食も普段通りに食べて就寝したそうです。

突然のことでした。私と妹たちは、両親は百歳まで生きるだろうと話していましたし、それをふまえた心積もりをしていました。こんなに突然、あっけなく、亡くなりましたという連絡が来るなんて…。年齢的には十分だと思います。ましてや苦しまずに逝ったのだから、幸せなことだ、と。89歳10カ月でした。

父は「死にたい、死にたい」とよく言っていましたが、自分の死に際して、子どもに伝えておきたいことはなかったのか? エンディングノートも、思いを記したメモもありませんでした。家計のことはすべて母にまかせて、好きにしてきた父らしいのかもしれません。

生きるという意味と価値と秩序

父の死の前に、私はだれの死の姿を見たかと記憶をたどると、母方の祖父と父方の祖父母の死でした。40年以上前のことです。「死ぬこと」が暮らしから見えなくなって久しい時代です。「死ぬこと」がめったにないことだから、かえって怖がったり恐れたりするのでしょうか。

父の遺体と向かい合い、父が自分を見ることはないんだ、自分の死はだれか他者の目によって見つめられるものだ、死は怖いことではなく、だれにでもやってくるものなのだ―と、教えられた気持ちでした。

人間が生きることにはそもそも意味も価値もないのかもしれません。ですが、社会をつくって人間が生きるとは、否応なく意味と価値と秩序がいることです。そう思います。だとしたら、どんな意味と価値と秩序で構成された社会を望むのか。

「どんな文化が、社会を存続可能にするのかに注目する」ことが求められていると指摘する社会学者がいます。私たちの時代は、どんな文化をつくってきてしまったのでしょうか。私たちを取り巻く文化は、果たして社会を存続させられるものでしょうか。(消費生活アドバイザー)