2カ所で巡回
戦後80年を迎え戦争の記憶が徐々に失われつつある中、アジア・太平洋戦争中につくば市にあった旧日本軍の二つの飛行場から、戦争とつくばの関わりを考える巡回企画展「戦争とつくば」が同市小田、小田城跡歴史ひろば案内所で開かれている。併せて原始・古代から近代までの戦争と地域の人々との関わりを発掘出土品や古文書などの資料から振り返る。写真や地図、出土品などの資料約100点が展示され、初公開の資料もある。
二つの飛行場は、市南部にあった谷田部海軍航空隊と、北部にあった西筑波陸軍飛行場。

隊員らのスナップ写真を初公開 谷田部海軍航空隊
谷田部海軍航空隊は、現在の同市上横場、観音台、高野台にまたがってあった。1938(昭和13)年12月、阿見町にあった霞ケ浦海軍航空隊の谷田部分遣隊が設置され、翌39(昭和14)年12月に谷田部海軍航空隊として独立し、「赤とんぼ」と呼ばれた練習機の訓練などが行われた。現在、筑波学園病院がある上横場には、木造2階建ての本部や宿舎などの建物があり、農研機構の各研究所がある観音台は、縦横1.8キロ×1.3キロの芝生の滑走路があった。滑走路の南東の高野台には、敵襲から飛行機を隠す掩体壕(えんたいごう)が多数設置されていた。市の調査で3基の掩体壕跡が残っていることが確認され、写真と地図で紹介されている。
戦局が悪化した1944(昭和19)年11月以降は、神之池海軍航空隊(現在の鹿嶋市)の実戦部隊が谷田部に移設され、谷田部にあった練習機部隊は神町基地(現在の山形県東根市)に移設。神之池から零戦などがやってきて、実用機で訓練する実用機教程が行われた。1945(昭和20)年2月、米軍が群馬県の軍用機生産工場、中島飛行機工場や、霞ケ浦海軍航空隊があった阿見・土浦方面を攻撃した際は、谷田部から迎撃に向かい計4人が死亡した。その後は実用機訓練から特攻隊訓練に切り替わり、神風特攻隊「昭和隊」が編成され、同年4月7日以降は隊員らが次々に鹿児島県の鹿屋海軍航空基地に向かった。昭和隊は第7次まで編成され、54人いた隊員のうち40人が死亡した。
企画展では、カメラが趣味だった当時の隊員(故人)が撮影した隊員らのスナップ写真や、昭和隊が鹿屋に向けて出撃する1945年4月7日、水杯を酌み交わす隊員らの様子など、当時の貴重な写真を展示している。写真を撮影したのは、企画展を主催する市文化財課職員、久保田昌子さん(33)の祖父が撮影したもので、初めて一般に公開された。ほかに2006年、地元のつくば工科高校(現在つくばサイエンス高)の生徒が、宮城県白石市を訪ね、当時の昭和隊隊員にインタビューした貴重な証言を記録したビデオを会場で上映している。

竹内浩三の「筑波日記」を紹介 西筑波陸軍飛行場
西筑波陸軍飛行場は当時の作岡村、吉沼村にまたがる約300ヘクタールの広大な敷地で、地元の勤労奉仕による工事で1940(昭和15)年7月、陸軍航空士官学校西筑波文教所として開設された。指令室などの建物のほか、鉄骨造の格納庫が3棟、木造の格納庫が6棟あり、谷田部と異なりコンクリートで舗装された滑走路があった。士官学校として利用されたのは2年程度で、その後は落下傘やグライダーを用いて敵地前方に進む挺身部隊の訓練地となった。1943(昭和18)年11月には滑空歩兵部隊と滑空機操縦部隊のグライダー部隊となった。
企画展では、当時西筑波の隊員だった三重県出身の詩人、竹内浩三(1921-45)が遺した「筑波日記」を紹介し、小田城跡で訓練をしたり、作岡で掩体壕を掘ったり、吉沼にたびたび出掛けて外食を楽しんだり、銭湯や書店に足しげく通ったりなどの一節をパネルで展示している。ほかに中菅間の個人宅で保管されていた西筑波飛行場で使われていたと伝わる灰皿などを展示している。
近代以前の展示では、つくば市内で確認できる最古の武器として、古墳時代前期の4世紀後半ごろ出土した鉄剣などが紹介。戦国時代、落城と奪還が繰り返された小田城の堀跡から発掘された、2カ所に刀傷とみられる鋭利な外傷がある中年女性の頭蓋骨が初公開されている。

市文化財課は「アジア・太平洋戦争で大きな空襲を受けなかったつくばが戦争について大きく取り上げられる機会は多くなかったが、戦争と無関係でいたわけではなく、戦争の痕跡は身近なところに残されており、戦争の悲惨さと平和の大切さについて考える機会になれば」としている。(鈴木宏子)
◆巡回企画展「戦争とつくば」は10月4日(土)~来年2月8日(日)まで市内2カ所で開催される。①10月4日(土)~12月7日(日)は同市小田2532-2、小田城跡歴史ひろば案内所で、②12月18日(木)~2025年2月8日(日)は同市谷田部4774-18、谷田部郷土資料館で開催。入場無料。開館時間はいずれも午前9時~午後4時30分、月曜など休館(祝日の場合は翌日)。
▽会期中、二つの旧日本軍飛行場跡をバスと徒歩でめぐり、地割や地形に残る痕跡を見学する体験講座「飛行場の痕跡をめぐる」を11月29日(土)午前10時~午後3時に開催する。定員20人。事前申込必要。申し込みはこちら。
▽ほかに、筑波大名誉教授の伊藤純郎さんによる講演会「谷田部海軍航空隊と民衆—本土防衛、特攻隊に対するまなざし」を12月6日(土)午後2~4時、市役所コミュニティ棟1階で開催する。定員約100人。当日受付。