金曜日, 2月 6, 2026
ホームつくば「つながり」テーマに現代社会を可視化 若手写真家ら11人が作品展

「つながり」テーマに現代社会を可視化 若手写真家ら11人が作品展

県つくば美術館

「つながり」をテーマに、災いや病、故郷と家族、人間と土地の営みなど、現代社会が生み出す課題と向き合う若手作家ら11人による作品展「ヴィジュアル・コミュニケーション展2024 リレイト:ここではないどこかで」が、8日から県つくば美術館(つくば市吾妻)で始まった。今年で8回目の開催で、写真を中心とした映像作品や立体物など約50点が展示されている。

何気ない風景に対立の歴史

都内在住の写真家、吉野絢人さん(23)は、都内や周辺地域にある「境界未定地」をテーマにした写真作品「リフレーミング」を展示する。展示スペースの中央に並ぶ2点の写真は、水辺に茂る木々を池の両岸から写したものだ。一見、どこにでもある穏やかな景色に見えるが、この池は東京都と埼玉県の境にあり、境界線が決まらない「境界未確定地」なのだという。東京都側の都立水元公園(同都葛飾区)と、埼玉県側の県営みさと公園(同県三郷市)の間に挟まれた「小合溜井(こあいためい)」と呼ばれる池で、江戸時代、8代将軍の徳川吉宗が、農業用の水を貯めおくために造らせた。完成当時から両岸の住民の間で境界を巡り対立が続き、互いの主張が折り合わずに現在に至っている。近年は、葛飾区と三郷市の間で締結された管理協定により水面管理が行われているという。

争いごとを抱えていることなど知らずに、何気なく見てきた風景が、対立の歴史の中にあることへの驚きが、一連の作品の出発点になったと吉野さんは話す。その他、東京都大田区と江東区の間で境界が未確定の「中央防波堤埋立地」、東京都と千葉県の間で協議が続く旧江戸川の河口、現在も住所がない有楽町駅前にある商業施設「銀座インズ」の一帯などを写した作品が並ぶ。

吉野さんは「境界地を撮影し、複雑で曖昧な境界線のあり方を提示した。境界線や差異を乗り越え、両者の関係性を捉え直し、共に生きる方法を模索した」とし、「どの場所も、目に見える形で争いがないということがテーマに取り組むきっかけになった。今後は、日本各地、国と国の境界にも関心を持っていきたい」と話す。

「交換可能な風景」もふるさとに

高田憲嗣さんの作品「メモリーズ 僕たちの平成/令和の原風景」

デザイナーで兵庫県在住の高田憲嗣さん(30)が、埼玉県在住の勝見知周さんと制作したのが、写真と立体物による「メモリーズ 僕たちの平成/令和の原風景」だ。高田さんは、「交換可能な風景」と揶揄(やゆ)される、赤や黄、青など原色が彩るドラッグストアーやファミリーレストランの看板が並ぶ、郊外の国道沿いの風景を「唯一無二の心のふるさと」と感じる人たちがいると話す。自身も郊外出身だという高田さんは「田舎に行くと、どこに行っても同じ風景があると批判的に言われるが、ちょっと待てよと思った。その土地の人にとっては、そこでの出来事こそが故郷の思い出、原風景となり、自分の思い出とも重なる」と作品作りの動機を語る。被写体に選んだのは、チェーン店が増え始めた平成初期に青年期を過ごした30代から40代の人物が中心だ。それぞれが、部活帰りに友人と過ごしたファミリーレストランや、子どもの頃に胸をときめかせて通ったファストフード店での楽しかったり切なかったりする思い出話を、高田さんによる明るいポップなデザインで写真と共に作品に仕上げている。

東京都在住の写真家、横井るつさん(23)は、コンクリート壁や床、草が茂る地面にプロジェクターで投影した人肌や体の一部の写真を、カメラで再撮影した映像作品「フムス」を展示する。ラテン語で「地面」「大地」を意味するタイトルで、横井さん自身が都市での暮らしで感じることができずにいた自然とのつながりを再認識する試みだと話す。「本来、人間も動物も、人生が終わったら土に帰っていくもの。東京で生きてきて、地球で生きているのにこの循環を感じられなかった。人の体を映写し、都会に体を染み込ませることができないかと考えた。土葬のイメージもある」と語る。

ほかに、沖縄の与那国島に数年間通い、土地の死生観を表現した野口哲司さんの「ユノリ」や、自身の病に向き合う根岸雄大さんの「メイト」、認知症の祖母の過去と現在に向き合う都築真歩さんの「来し方行く末」、コロナ禍で突きつけられた日常と非日常の境界に独自の視点で向き合う熊万葉さんの「アウト オブ タッチ」などが展示されている。

分断をつなぎ直したい

主催団体「ビジュアルコミュニケーション研究会」の代表で、市内在住の写真家、田嵜裕季子さんは「現在の社会では、国や地域間での戦争だけでなく、SNS上など様々な場所で対立が起きている。問題を二元論で捉えて分断してしまう考え方をつなぎ直す必要がある。サブタイトルの『ここではないどこか』には、誰もがここではないどこかでつながっているという思いを込めた。一見、つながっていないように見えている人や問題も、根っこではつながっていることを感じてもらいたい」とし、「作品を通じて人と人、作品と鑑賞者などのつながりが生まれる展示になれば」と語った。(柴田大輔)

◆「ヴィジュアル・コミュニケーション展2024 リレイト:ここではないどこかで」は14日(月)まで、つくば市吾妻2-8、県つくば美術館で開催。開館時間は午前9時30分から午後5時(最終日は午後3時まで)。13日(日)午前10時30分からキュレーターの菊田樹子さんを招いてギャラリートークを開催。いずれも入場無料。イベントの詳細は、ビジュアルコミュニケーション研究会の公式サイトへ。

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

2 コメント

2 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

デフサッカー銀メダルの社員 伊東美和さんを特別表彰 関彰商事

創業118周年式典 関彰商事(本社筑西市・つくば市、関正樹社長)は6日、つくば国際会議場(つくば市竹園)のLeo Esakiメインホールで創業118周年記念式典を開催した。式典終了後には特別企画として座談会「セキショウの挑戦者たち」を実施、ラジオのトーク番組のスタイルで、各支社で活躍する社員による地域の魅力や取り組みなども紹介された。 式典では永年勤続社員および優良社員の表彰と、昨年退職した社員への記念品贈呈が行われた。特別表彰にはセキショウグループのアドバンス・カーライフサービスに勤務する伊東美和さんが選出された。これは昨年11月に開催された東京デフリンピック2025にて、デフサッカー女子日本代表チームのキャプテンを務め、チームとして初の銀メダル獲得に貢献したことなどが評価された。 社長式辞では、関社長が同社の目指す姿や組織のあり方について「私たちの使命はお客様の課題を解決し、その先にある理想の将来を実現し、よりよい明日を共に創ること」だと述べた。さらに「それはまず、お客様の悩みを把握するところから始まる。その悩みや課題も今は複雑化しており、一人の社員や一つの部門で解決しきれるものではない。オールセクションで解決していく。お客様の持つ理想の将来を共有し、その目指すところを築き上げていく、それをグループ全体、オールセキショウで進めていこう」などと話した。その上で「私たちの強みは仲間同士の信頼。全員の顔と名前が分かり、同じ地域で仕事をしてきた。これが118年間磨き上げてきた強み。この強みを生かせるよう、2000人以上の社員がそれぞれ、その人の持つ力を100%引き出せるような働きやすい環境を作っていくことが社長としての役割だ」とした。 ラジオ形式で座談会 座談会「セキショウの挑戦者たち」は、1月からLucky FM茨城放送で同社提供のラジオ番組「茨城の挑戦者たち」の放送が始まったことを記念して実施された。第1部では関社長のほか、同番組で司会を務める常陸太田市出身の作曲家マシコタツロウさんと元Lucky FM社長でフリーアナウンサーの阿部重典さんが登壇、「社員からの質問にお答えします」と題し、人生の転機になった出来事や仕事とプライベートのバランスなどについて忌憚(きたん)なく話し合った。 第2部では水戸、いわき、古河、須賀川、つくばで活躍する5人の社員が、それぞれの地域の魅力や人とのつながり、仕事上の挑戦などについて話した。「今後の可能性、将来性」というテーマでは、第3地域支店の郡司剛宏支店長が、水戸ホーリーホックや茨城ロボッツの躍進など、水戸がいまスポーツで盛り上がっていることを挙げ、「茨城を元気づけるとともに、関彰のブランド力と存在価値を高める契機としたい」と話した。いわき地域支店の古和口佳幸支店長は、昨年8月の小名浜道路開通について、常磐道を通じた物流やビジネスの活性化のほか、海岸エリアの復興などまちづくりにも寄与していることをPRした。(池田充雄)

香りたつ物語《ことばのおはなし》90

【コラム・山口絹記】休日の昼下がり、私が自室で本を読んでいると、娘が「これ作ってみたい」とレシピ本を持ってきた。レシピと言っても、昔から娘と一緒に読んでいたファンタジー小説の再現レシピで、作りたいのは物語の中に出てくる肉と山菜の鍋らしい。 なかなか渋い選択だと思う。娘はあまり肉が得意ではないし、材料に書かれているラム肉にいたっては食べたことがないはずだが、せっかくなのでそのことには触れないでおくことにした。何事も経験である。 今回の私はあくまでサポート役である。材料をそろえ、火加減を見るのが私の役目で、具材の切り方や鍋に入れる順番は娘に任せる。公式の再現レシピとはいえ鍋物だ。細かいところまで書いてある通りに進める必要もないだろう。娘はページと鍋を交互に見ながら、立ち止まっては、しばらく考えている。 ラム肉と山菜の匂い 面白いのは、娘と私の間で共有されているのが、実際の味の記憶ではなく、物語の中にあるイメージだけということだ。当然、2人ともこの鍋を食べたことはない。そもそもファンタジーなので物語と全く同じ材料が手に入るわけではないのだ。「こういう鍋だろう」という輪郭だけのイメージと、寒い土地の情景や、登場人物たちが鍋を囲む場面だけが、共通の前提としてある。 煮えていく鍋から湯気が立ち、少し土っぽい匂いが台所に広がった。ラム肉の香りは思っていたより控えめで、山菜の匂いに溶けていく。これが正解なのかどうかは分からないし、物語と同じ味である必要もない。ただ、文字で読んだことのある一場面が、現実の鍋として再現されていく。 妻と弟も加わって鍋を囲む。案の定、こどもたちにはラム肉はやや不評だった(妻と私はおいしいと思ったけど)。それでもきちんと完食できるのは自分の手で調理したからだろう。これは料理という行為の魔法だ。洗い物をしながら、物語と現実がほんの一瞬だけ同じ鍋を囲んでいたことを思い返していた。(言語研究者)

もん泊実現へ情報共有 14日「第2回長屋門サミット」 NPOつくば建築研究会

長屋門の維持と活用について各地の関係者と議論する「第2回長屋門サミット」が14日、つくば駅前の同市吾妻、つくばセンタービル内 コリドイオで催される。NPO法人つくば建築研究会(坊垣和明理事長)が「長屋門の情報共有と維持継承活用に向けて」をテーマに開催する。 同市には200を超える長屋門が現存する。同研究会はこれまで、市内と周辺地域に残されている江戸時代から明治、昭和初期に建てられた長屋門を、建築文化として維持活用する研究を重ね、市民シンポジウムで意見交換したり、実際に長屋門を訪ねる「みち歩き」イベントを開いてきた。 目標は、長屋門に民泊機能を加味した「もん泊」の実現。しかし家主の理解を得ることが前提である上、長屋門の風情を損なわず宿泊性能や水回り設備などをどのように追加させるか、それらに必要な費用のねん出をどうするかなどの課題があり、市内ではまだ実例がない。 同研究会事務局の若柳綾子理事によると「4年ほどの研究活動は地元を主体に進めてきた。さらに全国に視野を広げて他地域の事例を調べてみると、やはり同様の悩みを抱えるところが多い中で、我々以上にテーマを絞って研究している具体例があった。それらをネットワーク化したいと考え、昨年2月につくばで第1回サミットを開き、東北や近畿地方で行われている長屋門の保存、活用研究について情報交換を行った」。第1回は、宮城県栗原地域をはじめ、栃木県宇都宮市、愛知県渥美半島に点在する長屋門の特徴を生かし維持保存活動に取り組むグループを招き、近世以降、各地域で長屋門を整備してきた武家勢力、地域ごとの自然環境に対応した家屋としての機能などを紹介した。 一方、つくば地域の長屋門は、歴史的成り立ちや自然の豊かさなどから、全国の他地域の長屋門よりも残存数、状態が良好だ。若柳理事は「その反面、注目されることもなく長い年月が経ち、所有者には代を重ねるごとに維持負担が重くのしかかっている。事業としてのもん泊をそれらの課題解決に役立てたいと考えている」とした上で、「今回の第2回サミットで画期的な事例を紹介できることとなった」と話す。 第2回は新たに、和歌山県紀の川市で具体化した全国初の長屋門での宿泊事業者となる「門リトリートサロン/門泊」を営む有薗光代さんを招く。さらに昨年に引き続き宮城県栗原地域と、茨城県桜川市で進む歴史的伝統建築物に関連した街づくり事例紹介を行う。 「有薗さんは陸上自衛隊にいらした方で、災害派遣や国際協力などを通じてインフラ整備に従事した経験を持つ。2023年から紀の川市を拠点に歴史的建築物と地域資源の活用をテーマに発信しているが、このスピード感に驚かされる」と若柳理事。 「つくばでの活動は、長屋門に宿泊するという『もん泊』構想から始まったが、紀の川市でついに具体例が実現した。多くの課題をどのようにクリアしてきたのか助言をいただけるのが今回のエポックとなる」と説明する。 紀の川市の事例におけるつくばとの違いは、事業化を念頭に置いた活動の一手だと考えられる。つくばが何もしていないわけではないが、これまでの活動は長屋門の周知というテーマを掲げながらも、文化研究色の強い集まりであり、事業化=ビジネスとして扱う段階には至っていない。先進事例を積極的に取り入れられるかどうかが今後の成果を左右するだけに、第2回サミットに期待が寄せられている。 今回登壇するのは▽桜川市の「ディスカバーまかべ」吾妻周一会長が「真壁地区-30年に及ぶ街並み保存・活用等の紹介」について話すほか▽同研究会の坊垣和明理事長が「つくば地区-つくばの長屋門の紹介、みちあるき報告」▽和歌山県紀の川市、門リトリートサロンの有薗光代さんが「もん泊構想、関連イベントの紹介」▽宮城県栗原市、くりはらツーリズムネットワークの大場寿樹代表理事が「栗原地域における取組の現状、課題等の紹介」をテーマに話す。その後、会場参加者などを加えて意見交換などする。(鴨志田隆之) ◆第2回長屋門サミットは14日(土)午後1時から、つくば市吾妻1-10-1 つくばセンタービル内 市民活動拠点コリドイオ3F大会議室で開催。定員100人。参加費は無料。参加申し込みは11日まで、つくば建築研究会ホームページの申込フォームで受付中(先着順)。

ふるさとのない時代《くずかごの唄》154

【コラム・奥井登美子】お正月には誰も故郷に帰りたくなる。私が育ったのは荻窪のみどり幼稚園。緑の名の通り、生垣に囲まれた家と野原の、のんびりした緑色の住宅街だった。 しかし今の東京の町はどこも高いビルばかりで、緑がない。故郷という言葉とはかけ離れた風景になってしまっている。私の故郷と呼べるような所は、もうどこにもなくなってしまったのだ。 幼い時、父の故郷、新富町へもよく連れて行ってもらった。父は歌舞伎座が新富座であった頃の、鉄砲洲小学校出身。「菅原伝授手習鑑」などに寺子屋の子役として駆り出されて、よく出演させられたそうだ。台詞(せりふ)も筋もよく覚えていて、よく私に語って聞かせてくれた。 隅田川のほとりに町があって、父は「〇〇ちゃんの店でノリを買おう」などと、昔の友達の家に寄っておしゃべりするのを楽しみにしていた。父の故郷はいま、日本ではない、高いビルばかりのどこか架空の空間になってしまっている。 タケちゃんの文が朝日に載った 1月27日の朝日新聞「折々のことば 鷲田清一」に、加藤尚武の文が載っていた。「個人の間の平等は、ある程度まで…自然の平等に支えられているが…国力の差は、ネズミとゾウの違いよりも大きい」 加藤尚武は私の弟のタケちゃん。京都大学の哲学教授を務めた後、鳥取に環境大学を創り、環境問題を、哲学のまな板の上に載せた人。「環境問題のすすめ」という著書もある。生活者として、医療と環境を意識して生活している。 加藤家の男たちはみな食べるのが好きで、父も、兄も、タケちゃんも、好きなものを自分で作って食べるのが趣味だ。 私はせめてせめて、お正月くらいは、おしゃべりの好きな弟のタケちゃん、母の昔の味の料理を作ってくれる妹、姪たちに会って、亡くなった父、母、兄の個性を偲(しの)びながら、今の子供たちと比べて、大笑いするしかないのだろうか。(随筆家、薬剤師)