木曜日, 9月 19, 2024
ホーム文化本好きが作る、街と人をつなげるフリーペーパー「ほんとこ」 土浦

本好きが作る、街と人をつなげるフリーペーパー「ほんとこ」 土浦

土浦市内の喫茶店などの個人店を取材し、お店にまつわるひと物語をつづるフリーペーパー「本と珈琲と土浦」(通称『ほんとこ』、A5判 4ページ)の第3号が6月に発行された。作るのは、職業、年代もさまざまな、「本と珈琲と土浦が好き」だという思いでつながる市民たち。広がる人の輪で、土浦の隠れた魅力を軽やかに掘り起こす。

「『ほんとこ見たよ』というお客さんがお店に来てくれたと聞いて、私もつなげられたんだなと思って本当にうれしかった」と声を弾ませるのは、第2号に記事を書いた大学生の田畑千芙実さん(20)。土浦市桜町の喫茶店「カフェ デ ポロン」の店主・林盛健さんをインタビューした。学校以外で人に見せる文章を書くのは初めてだったと言い、「人と話すのはあまり得意じゃないがマスターの話を聞くのは楽しかった」と振り返る。

「ほんとこ」は、参加する人たちが手配りで広げている

参加者は学生、主婦、会社員にユーチューバー

「ほんとこ」は、同市中央の古民家を改築したカフェ、城藤茶店で毎月1回開かれる読書会に集まる本好きが作る。読書会の後、各々が気になる話題を持ちより編集会議が開かれる。参加するのは10代から50~60代までの男女15人ほど。学生、主婦、会社員、ユーチューバーなど背景や職業もさまざまだ。土浦出身者もいるし、近年土浦に越してきた人からは「土浦に関わってみたかった」「地元の方と知り合う機会になっている」などの声が聞こえてくる。

「読書会」では、最近読んだお薦めの本をそれぞれが持ち寄り、その本の魅力を一人一人語っていく。小説、漫画、ノンフィクション、ファッション雑誌など決まりはない。7月20日の読書会に参加した市内在住の増山創太さん(25)は5回目の参加になる。「僕は音楽が好きなので、本もいつも音楽関係だが、ここでは自分が普段読まない本に出合うことができる」と魅力を語る。

読書会には、参加者がさまざまなジャンルの本を持ち寄る

読書会の盛り上がりをそのまま引き継ぎ編集会議が始まる。先日は、市内で40年以上、子供文庫を続ける同市中央の「奥井薬局」をメンバー7人で取材した。今年3月には、会議での書物談義がきっかけになり亀城公園隣の商業施設・公園ビルで2日間の古本市開催につながった。

もともと本が好きで書店員をしていたという田中優衣さん(25)は、4カ月前に兵庫から土浦に越してきた。「ひょんなことで全然知らない土浦に越してきた。知り合いもいなくて寂しかったけれど、本でつながる『ほんとこ』のメンバーを通じて土浦を知ることができている。私にとって土浦が居場所になりつつある」と話す。

ちょっと土浦が好きになってきた

「ほんとこ」作りのきっかけは、2022年に城藤茶店で開かれた「まちづくりとデザイン」がテーマの市民向け講座。そこで意気投合した4人が立ち上げメンバーだ。その1人の葛西紘子さんは「土浦で話を聞きたい人に会い、好きな話が聞ければと思ったのが始まり。みんなで聞いた話を共有しようと思った」と言い、同じく立ち上げから参加する稲葉茂文さん(35)は「土浦は個人店が多い町。今聞かないとなくなってしまう」という危機感もあったと言い、「『ほんとこ』は作るのも楽しいが、月1回の読書会が何よりの楽しみ。本の話をするのって、なかなか会社ではできないですからね」と思いを語る。

読書会と編集会議が開かれている城藤茶店

1000部から始まった発行部数も回を重ねるたびに増え、第3号は1700部になった。配布先は、メンバーが足を使い、手渡しで広げている。当初はタイトルに沿って土浦市内の書店や喫茶店から始まったが、今ではつくば市やかすみがうら市など周辺地域にも広がり、土浦市内約40カ所、つくば市内約10カ所など県内計約60カ所に設置されている。「配るのをきっかけに店の人と仲良くなるのが楽しみ」という言葉を聞くようになり、その甲斐もあって「街で『ほんとこ』を見つけたのをきっかけに、夫を誘って読書会に参加するようになった」と言う女性や、「カフェに行くと『ほんとこ』がいろんなところにあって気になった」と話す人など、参加する人の輪がますます広がっている。

「土浦に戻って3年目」だと話す市内出身の稲葉さんは、もともと本が好きで、都内で古本屋を営み仲間やお客さんと同人誌を作ったり読書会を開いたりしていたという。その後、紆余曲折を経て戻った故郷での出会いをきっかけに「ほんとこ」に参加した。「以前は自分でこういう場をつくろうとしていました。こういう活動が好きなんです。色々な出会いがあって、生かされているなと思っている。ちょっと土浦が好きになってきたのかもしれません」と微笑む。

「ほんとこ」は、取材した記事のほかに、メンバーによるコラムなど4~5本の記事が掲載されている。デザインや編集作業などは、メンバーが得意な分野を生かしてボランティアで実施している。立ち上げメンバーの葛西さんは「『ほんとこ』は情報発信が目的ではなく、制作メンバーや設置したお店が、『ほんとこ』を介して人との交流をして欲しいという意図がある。読書会も含めて自分たちが楽しむための活動なので、やりたい人同士で、やれることだけでやっていこうと思っている。もちろん、興味がある方の参加はいつでも大歓迎」と話す。

タイトル名の由来は「本が好きな人はコーヒーも好きでしょう?という緩いものだった」という。「コーヒーを飲んでるときに、良い時間を過ごしながら土浦を知るきっかけになれば」と葛西さんは語る。

SNSでの情報発信が主流の世の中で、「縦書き」「紙媒体」にこだわるのは参加者たちの「本好き」としてのこだわりだ。現在は、半年に1回の発行だが、「いつか季刊にできれば」という思いも抱く。手紙を届けるように手渡しで広がる「ほんとこ」が、土浦の魅力を知らせてくれる。(柴田大輔)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img
spot_img

最近のコメント

最新記事

ワンちゃんがネコちゃんに負けた日《看取り医者は見た!》27

【コラム・平野国美】犬の訓練士の方から興味深い話を聞きました。今の時代風に言えば、犬の世界もジェンダーレスになってきたそうです。どういうことか?と聞くと「肉体的にはオスなのだが、しぐさがメスっぽいとか、同性に興味を示すオスが増えてきた」と言うのです。 食餌(しょくじ)や環境のせい?と尋ねると、「大昔、まだ野性だったころは、強くないと餌を獲れなかったのだろう。現代では、飼い主が安定して餌を与えるので、強くなくても生きていけるようになった。さらに、敵と戦う必要がなくなった」と話すのです。 さらに「今の時代、人懐っこくて、おとなしいワンちゃんが喜ばれる。獰猛(どうもう)にほえる犬は集合住宅で飼うには難しい。そういった『かわいい系』の犬が掛け合わされた結果、こういうワンちゃんが増えてきた。飼い主が高齢化して同居する若い家族がいないので、散歩に連れ出すのも厳しくなり、おとなし目の性格の子が好まれる」と。 こういった話を聞くと、独居高齢化時代のペットに望まれる形が見えてきます。22年前、私が訪問診療を始めたころ、ペットの世界は犬が優勢でした。ところが現在は、猫が圧倒的に多くなりました。統計を見ると、2016年ごろ、犬と猫の数は逆転しています。その後、犬は減り続け、猫は右肩上がりです。 高齢化時代の散歩や餌を考えると、猫の方が経済的です。それに散歩の必要がなく、飼うスペースも狭くて大丈夫。高齢者の体力にも優しいということが、この逆転劇の原因ではないでしょうか? 2016年に犬が猫に負けたのです。保健所などの尽力で野良犬、野良猫は見かけなくなりましたが、隠れ猫、迷い猫は、まだいそうな気がします。 仏壇の中のワンちゃん 犬派であったある患者さんの話。残念ながら飼い犬に先に逝かれ、ペットロスで傷心の日々、迷い猫がやって来て、ペットロスから離脱しました。猫とのスキンシップでも、あのオキシトシンは分泌されるそうです。時代が流れ、ペットの傾向も変わっていくのでしょう。 診察に行く夫婦のお宅の話。診察中、仕事に出かける前の娘が部屋にやって来て、私にあいさつした後、仏壇に線香を上げ、手を合わせてから出勤して行きました。「今時、仏壇にお祈りをするなんて感心ですね。お2人も御先祖様も安心ですね」と話すと、母親が「違います。亡くなったチャッピーちゃんに手を合わせたんです」 仏壇の中にワンちゃんの写真が飾られていました。今、ペットとの関係は家族以上なのです。(訪問診療医師)

選挙運動費用の上限額を誤って告示 4年前のつくば市長選・市議選

つくば市選挙管理委員会は18日、4年前の市長選・市議選で、各候補者の選挙運動費用の上限額(支出制限額)を誤って告示し、法で定められた金額を下回る額を、各候補者に通知していたと発表した。 市選管事務局によると、市長選については支出制限額を1829万2800円とすべきところを、誤って1550万円と告示していた。市議選については、555万6100円とすべきところを誤って440万円と告示していた。 一方、実際に選挙運動費用に使われたとして市選管に報告された費用は、3人が立候補した市長選は、最も少なかった候補者が105万200円、最も多かった候補者は288万6295円だった。41人が立候補した市議選は50万2832円から238万9465円で、いずれも選挙への影響は無かった。 昨年11月初旬、職員が誤りに気付き選管委員長と事務局長などに報告、当時は選挙への影響がなかったことから誤りを発表しなかった。その後今年9月2日、同じ職員から改めて話があり、内容を精査した結果、発表すべきものと認識を改め、18日、発表に至ったという。 選挙運動費用の支出制限額は、お金がかからない選挙をして、立候補の機会を均等化するために設けられた。選挙運動での自動車の使用、ビラの作成、ポスターの作成費用が公費で負担されることから、選挙公営制度ともいわれる。金額は、有権者数(選挙人登録者数)によって計算式に基づいて算出され、告示日に各候補者に通知される。 同選管事務局は金額を誤ってしまった原因について、計算方法及び選挙人登録者数のいずれにも誤りがあったにもかかわらず、事務局並びに選挙管理委員の確認が不足していたためとしている。 今後の対応として、4年前の市長選・市議選に立候補した人全員に謝罪するとし、再発防止策については、選挙管理委員及び事務局職員が計算方法を再確認し、それぞれ責任をもって計算を徹底するとしている。 同選管の南文男委員長は「民主主義の根幹である選挙執行において、このような不適正な事務処理と、報告が遅れたことにより、市民、有権者、立候補者の信頼を損ねることとなり深くお詫びし、今後このようなことが無いよう、深く反省し、さらに緊張感をもって取り組みます」などとするコメントを発表した。

川エビ捕り、漁協が料理教室【桜川と共に】12

季節ごとシリーズ化目指す つくば市内を流れる桜川で捕れた川エビを使った料理体験会が17日、つくば市栗原の栗原交流センター調理室で開かれた。桜川漁業協同組合(鈴木清次組合長)が主催した。桜川への関心を広げたいと、在来魚を用いた「親子料理教室」に向けたもので、来年度以降は川エビをはじめ、フナやコイ、ハゼ類のゴロなど、季節ごとに桜川で捕れる魚介類を材料にしてシリーズ化を目指す。この日は同漁協の鈴木清次組合長(82)が講師を務めた。 地域住民にとってかつて貴重なタンパク源だったが、漁獲量が減り今では作る家庭も少なくなった。出来上がった川エビのつくだ煮を口にすると参加者からは、「美味しい、絶品」「楽しくて普段の仕事を忘れられる」などの歓声が上がった。参加者は地元の女性5人。鈴木組合長が会長を務めるつくば市水質浄化対策推進協議会のメンバーで、日ごろ河川敷でごみ拾いや花壇の整備などに取り組んでいる。 この日のために用意したのは、鈴木組合長が桜川で採った1.5キロほどの大ぶりの川エビ。これから11月にかけて旬を迎えるという。鈴木組合長は、活動の幅を広げようと60歳で調理師免許を取得し、漁協などの活動の中で、川エビやコイなど、桜川の魚介類で作った手料理を参加者に振る舞っている。 この日作った川エビのつくだ煮も鈴木組合長の自信作。エビの量に見合った鍋を選び、砂糖、塩、みりん、醤油を適量混ぜ合わせ、沸騰したところにエビを入れていく。弱火で2時間煮込むと完成だ。ポイントはたっぷりの砂糖と、少量の塩。塩味が砂糖の甘さを引き立てる。 桜川への関心広げたい 今回の活動は、桜川が流れる地域住民に、川への関心を持ってもらうことだと鈴木組合長は話す。背景にあるのが、水質悪化や川辺の荒地化、増加する外来種と減少する在来種などだ。かつて桜川はきれいな水と豊かな漁業資源に恵まれていた。霞ケ浦を代表する在来魚のワカサギは、桜川など流入河川を産卵場にするが、桜川に遡上するワカサギも激減し、漁獲量はピーク時の1パーセント未満にまで減っている。 さらに漁協が抱える課題が組合員の高齢化だ。現在71人いる組合員の平均年齢は80歳を超えている。同漁協では、稚魚や卵の放流、川辺の整備・清掃等を通じた河川管理をしてきた。今後は多様な市民とのつながりの中で、地域住民の関心を得るとともに、次世代を担う若い世代の参加が必要だと考える。 桜川漁協では、子どもたちに伝統漁法の投網を教えたり、地域イベントにブースを出展したりするなど地域に向けた啓発活動を行ってきた。最近では、桜川で増えるアメリカナマズのほか、ブラックバス、ブルーギルなど特定外来魚の駆除をイベント化した「特定外来魚釣り大会」を開催すると、市内の中華料理店が霞ケ浦のアメリカナマズを料理した新メニューを開発するなど、桜川を通じて市民との新しいつながりが生まれつつある。今年5月からは、市民団体やNEWSつくばと漁協が協力し、伝統漁法など漁協の活動を参加者が学びながら、川の環境保全への関心を高めるための「桜川川守養成プログラム」が始まった。 鈴木組合長は「料理教室も、桜川への啓発につながれば」と期待を込める。(柴田大輔) ➡「桜川と共に」の過去記事はこちら

筑波山とエキスポセンターのロケット《ご近所スケッチ》12

【コラム・川浪せつ子】この絵は10年くらい前に描きました。今では見ることのできない風景です。 理由は3つ。この風景を見た場所は吾妻の公務員宿舎。かつては誰でも敷地内に簡単に入れました。階段の踊り場から描いた風景です。私は高所恐怖症にもかかわらず、高い場所から地域を眺めるのが大好き。いま人は住まず、敷地に入ることもできません。 2つ目は、樹木が大きくなり、筑波山などが臨めなくなったということ。3つ目は、手前に見える小学校と駐車場だった場所にはビルが建ちました。数年前、その横の立体駐車場の屋上から同じ方向を見たのですが、木が大きくなり、期待した風景は見えませんでした。 「X」でつながる新々住民 私は42年前、今はつくば市になった旧谷田部町に移ってきました。1985年に科学万博があり、引っ越してきたころ閑散としていた所は大きく変わりました。街はどうやって変貌するか興味があり、建設中の西武百貨店(今のトナリエ)をスケッチしたりしました。 都内で建築パース(未完成建物などの完成予想図)の仕事をしていたとき、磯崎新さんが設計した「つくばセンタービル」の下描きをしたこともあります。そのときは、まさかつくば市に引っ越して来るとは思いもしませんでした。 最近、つくば周辺のことをもっと知りたくて「X」を始めました。そうしたら、東京から移って来た方々に出会い、ビックリ。コロナ禍の数年間、若い方、働き盛りの方、リモートでお仕事の方、たくさん移って来たようです。こういった新々住民の方々が街に活力を与えていくように思います。 いろいろな意味で、私も背中を押され、頑張りたいと思います。(イラストレーター) <ご案内>9月23日(月)~29日(日)、つくば市桜が丘15-4のギャラリー「アート・スペース・コリーヌ」で「つくば水彩画会」4人展を開催します。絵やレプリカ、ハガキ、カレンダーの販売もします。