【コラム・瀬尾梨絵】女子校の教師、星の日常を描いた和山やま先生の「女の園の星」(祥伝社、初版2020年、現在4巻)。本作が多くの読者を引きつけてやまない理由は、従来の学園モノにありがちな「少女マンガ的な展開」を、驚くほど軽やかに、そして意図的に回避している点にある。
一般的に、教師と生徒が登場する学園モノといえば、悩み相談を通じた絆の物語や、淡い恋心が生まれるようなドラマチックな展開が期待されがちだが、この作品にはそうした熱いイベントは存在しない。描かれるのは、女子高生たちが繰り広げる突拍子もない悪ふざけや、教師たちの淡々とした日常、そしてそれらを冷静に受け流す星先生の乾いた反応。それはまるで、遠くから静かな水面を眺めているような不思議な心地よさに満ちている。
この作品の特徴は、教師と生徒という二つの世界が、適度な距離を保ちながら住み分けられていること。彼らの関係は決して崩れることはなく、かといって冷え切っているわけでもない。お互いの領域を侵すことなく、しかし同じ校舎という空間で程よい温度で交差する。この絶妙な均衡状態こそが、本作が持つ最大の魅力であり、読者が感じる癒やしの源泉ではないだろうか。
生徒たちのユニークな言動に対しても、星先生は決して熱くなることはない。淡々と、時には静かにツッコミを入れ、時にはただ見守る。その一挙手一投足に、過剰なドラマは入り込む隙はなく、読者は、何かが起きそうで何も起きないこの心地よい凪(なぎ)のような時間を共有することで、日々の忙しさをふっと忘れることができるのかもしれない。
和山先生の描く、少し力が抜けたキャラクターたちの表情や、シュールな会話劇は、一度ハマると抜け出せなくなる中毒性があり、物語としての大きな起伏を追いかける必要がない分、一コマ一コマにちりばめられた細かなボケや、星先生の隠しきれない脱力感が、読むたびに違った角度から笑いを誘う。
騒がしい日常に清涼な凪
「今日は何も考えずに、ただリラックスしたい」。そんな夜に、これほど最適な一冊はないだろう。何か劇的なことが起こるわけではないけれど、そこに確かに存在する「笑い」と「穏やかな時間」。女子校という閉ざされた園の中で、今日も粛々と流れる星先生の日常は、読者の心の窓に心地よい風を吹き込ませてくれる。
過剰なドラマを排除し、淡々とした日常の滑稽(こっけい)さをすくい上げる。騒がしい日常に、清涼な凪を。そのスタンスこそが、本作を唯一無二の作品に押し上げているのだ。読み終わった後には、きっと星先生と一緒に小さくため息をつきながら、明日もまた穏やかに過ごせそうな、そんな優しい気持ちになれるはず。(牛肉惣菜店経営)






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