【コラム・斉藤裕之】廃材で作った巣箱を庭のカツラの木にかけたのは冬のこと。母屋からの距離わずか3メートルのところ。居間の掃き出しのガラス窓からは手の届きそうな位置だ。
4月初旬。春眠暁を覚えず、処々に啼鳥(ていちょう)を聞く。「ツピッ、ツピッ」という鳴き声はシジュウカラだ。巣箱をのぞいている。シジュウカラはたいてい夫婦でやってくる。「どう?」「うーん、いいかもしんない!」と会話をしているようにさえずっている。
まあ、よくご覧になってお決めください。もしかしてと思ってググると、ゴジュウカラというのもいるそうで、してみるとサンジュウカラやロクジュウカラはいるのかと思いきや、これがいないらしい。
しばらくしてまたやってきた。同じ夫婦なのかどうかはわからない。よく見ると、1羽が何か巣の材料になるようなものをくわえているのが見えた。どうやら本格的に巣作りを始めたようだ。本能とはいえ、とても甲斐甲斐(かいがい)しく巣に戻っては飛び立っていく姿はとてもかわいらしい。それにしても実に器用に5百円玉ほどの穴から出入りする。
四季豊かなこの国では…
ところで、茨城県の鳥はひばりだそうで、確かにこの家を建てたころは周りが野原で、ひばりがホバリングして鳴いているのを見ると、春が来たという実感があったのを思い出す。
だけど、住宅が隙間なく立ち並んだ今、気が付けばひばりの声はしない。それから、先日孫と井の頭公園に行ったらインコが電線にとまっていて、やっぱり違和感あったな。「電線にスズメが3羽とまって…」という歌もあったが、最近都会でスズメが減っているとか。
以前スペイン語を習っていた時に先生をしていたコスタリカの女性によると、彼の地では鳥は鳥であって、特にシジュウカラだのひばりだのという種類は気にしないらしい。ついでに、食卓の魚も魚であってアジとかサンマといったことも言わないという。
そこへいくと、四季豊かなこの国では「花鳥風月」といったいわゆる風流な感性が古(いにしえ)より受け継がれている。とはいえ、このところの調子っぱずれな気候や、バエるだのインバウンドだので、風情などといったものを感じることもままならない。
連休中に遊びに来た孫は…
さて、シジュウカラ家の巣箱のほぼ正面の軒下、いわばお向かいさんというところには山鳩が巣をかけている。こちらはドタバタ、クルクルと重量感があって騒がしい。その壁一枚隔てた家の中には、パクがすやすやと寝ている。
もうすぐ愛鳥週間なんだそうだ。ほかに愛〇週間なんて聞かないことを考えると、やはり鳥は人の暮らしに近い生き物なんだろう。連休中に遊びに来た孫も、飽きずに巣箱に出入りするシジュカラを眺めていた。(画家)