金曜日, 9月 19, 2025
ホーム土浦《霞月楼コレクション》4 永田春水 土浦に始まる戦後美術復興の先導者

《霞月楼コレクション》4 永田春水 土浦に始まる戦後美術復興の先導者

対を成す郷土美術界の双璧

【池田充雄】色紙2枚を貼り交ぜた額が霞月楼にある。左の小川芋銭作は堂々たる雄の軍鶏(しゃも)のようで、右の永田春水作はその幼鳥にも見える。それぞれ時期も作風も異なるが、戦前・戦後の茨城画壇を牽引した2人の作品が肩を並べるのは、奇遇というか象徴的だ。

小川芋銭・永田春水の色紙額装 霞月楼所蔵

父母への恩愛を雅号に刻む

永田春水は1889(明治22)年、北相馬郡相馬町(現取手市藤代)に生まれた。本名良亮。幼少から画才を現わし、取手市宮和田の三軒地稲荷神社には12歳時に奉納した絵馬が残る。

50歳当時の永田春水=書籍「時の人」(1939年、イハラキ時事社)掲載、国立国会図書館ウェブサイトより転載

1907(明治40)年、県立龍ケ崎中学校(現竜ケ崎一高)を卒業後、一家で上野池之端へ移る。永田家は大地主で父は町会議員も務めたが、息子が一人前の画家になるまで故郷の地は踏まぬと、田畑も売り払う決意の上京だった。同年荒木寛畝に入門。寛畝からは「筑畝」の号を授かったが、父・清太郎、母・春への恩義から後に「春水」と改めた。

1913(大正2)年、東京美術学校日本画科を卒業し、国華社に入社。雑誌編集や古画研究に従事する一方、1916(大正5)年の第10回文展に「露のひぬま」で初入選。1920(大正9)年には大英博物館で敦煌発掘仏画の模写に携わるほか、欧州各国を訪ねて見聞を深めた。

本邦を代表する日本画家に

帰国後は帝展で活躍し、1921(大正10)年の第3回展から6度の入選を重ねた。第10回の「薫苑麗日」と第11回の「雪晴れ」で2年連続の特選。以後無鑑査となり、1936(昭和11)年からは文展審査員を務めた。茨展では1923(大正12)年の第1回から入賞、第3回から無鑑査、第8回から審査員。

海外での評価も高い。1924(大正13)年の日華連合展では国賓として北京に招かれ、出品作は袁世凱中華民国大統領が買い上げた。第6回帝展出品作「花柘榴・立葵」はフィラデルフィア万博に出品され、同地美術館に収蔵。前出の「薫苑麗日」は日本政府がロンドン大使館へ寄贈。皇室にも多くの絵を献上している。

「春暉暁艶」1926年 絹本彩色軸装(対幅)各210×165cm 第7回帝展入選 茨城県近代美術館所蔵

後進の育成にも励み、1930年頃に「如春会」を設立。同郷の寺田弘仭や根本正らも東京・大塚の春水邸で学んだ。1939(昭和14)年には東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大)の日本画講師を拝命した。

県南美術協会副会長に就任

戦災で東京を離れた春水は1947(昭和22)年、藤代の生家に戻り制作に従事する傍ら、郷土の美術再興にもさまざまに尽力した。

当時、中央で活動していた作家らの帰郷により、各地で美術活動が活発化していた。急先鋒は土浦で、1947年に福田義之助や一色五郎らの呼び掛けで第1回土浦市展が開催され、それを核に茨城県南美術協会が発足。会長は土浦市長、副会長は春水ほか1人、会員は洋画が服部正一郎、鶴岡義雄ら52人、日本画が小林巣居人(当時巣居)、浦田正夫ら25人、彫塑・工芸が中島敦、古宇田正雄ら10人。1949(昭和24)年に第1回展を開いた。

1950(昭和25)年に県展が始まると春水は第1回から審査員を務め、1955(昭和30)年に東京・吉祥寺へ転居しても、1962(昭和37)年の第17回まで継続した。1970(昭和45)年に82歳で世を去った後、1973(昭和48)年の第8回県芸術祭で永田春水賞が創設され、小林恒岳が第1回受賞者となった。

丹念な写生を作品へと昇華

「青げら」1963年 絹本彩色額装 66×70cm 世界鳥類画展出品 茨城県近代美術館所蔵

春水の真骨頂は花鳥画で、特に鳥は数・種類とも多く描いた。1963(昭和38)年ロンドン開催の世界鳥類画展には日本代表として6点を出品し、「雉子」ほか2点は英国政府買い上げとなった。

作品はいずれも丹念な写生に基づくが、「ただ、あるがまま、観察したままを描いたのでは写真になる。それから更に昇華させるのだ」とも語っている。

取手市在住の日本画家で春水に詳しい大畑久子さんは「写生によって筋肉や骨格などの基本的な構造と、正しさや美しさを理解しており、それをデフォルメせず、科学的に嘘はつかず、でも一部は省略しながら、表現として描いている」と説明する。

実際に写実には厳しい人だったようで、寺田弘仭はスケッチを何十回と描き直させられたという。写生の中には、通常は絵にしない鳥の腹部や羽根の裏側までも詳細に写し取ったものもある。

春水の遺品は10年ほど前に市場へ流れ、つくば市の古書店がまとめて引き取った。巻紙の下図や和綴じの画帳、スケッチブック、少年時代の習作などが段ボール10箱分ほどあり、早急の保全と研究が願われる。

取材協力・参考資料 茨城県近代美術館▽取手市文化芸術課▽文化工房ふじしろ▽ブックセンターキャンパス▽「土浦文化活動史編集資料」(1980年、土浦文化活動史編集委員会)▽「藤代の歴史散歩」(2000年、藤代町)▽「藤代町史暮らし編」(2005年、藤代町史民俗調査員会▽図録「故郷を愛した作家たち」(2014年、とりでアートギャラリーきらり)

シリーズ協賛 土浦ロータリークラブ 土浦中央ロータリークラブ

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海外出張 市長はファーストクラス可 つくば市議会委員会が否決

旅費条例改正案「市民の理解得られない」 国内や海外出張をする際につくば市長や市職員らに支給される旅費について定めた市職員旅費条例改正案が開会中の同市議会9月会議に提案されている。17日開かれた市議会総務文教委員会(木村清隆委員長)で同条例改正案について審議が行われ、市長が海外出張の際に利用する航空機の運賃について、現在の旅費条例がビジネスクラスまでとなっているにもかかわらず、改正案はファーストクラスまで利用できるようになることに対し委員から「市民の理解が得られない」などの意見が相次ぎ、同改正案は賛成少数で否決された。議会最終日の10月3日、本会議で改めて審議される。 同改正案は、国家公務員旅費法が改正されたのに伴って、同法にもとづき市の旅費条例を全面的に改正する内容。円安の進行などにより宿泊費などの上限も大幅に引き上げられる。 海外出張の際の航空機の運賃について現在の市職員旅費条例は「最上位の直近下位の級の運賃」(27条)と市独自に定め、市長はビジネスクラスまでしか利用できない。一方、来年4月施行予定の条例改正案は、海外出張の場合、市長には「最上級の運賃の額」を支給できるようになり、ファーストクラスを利用できるようになる。 17日の委員会での市人事課の説明によると「国家公務員の旅費法をよりどころに旅費を3段階で設定した。特別職は出張に伴う負担が大きいため長時間の移動時間を活用して体調を維持する必要があるためより高い上限を設定した。茨城県知事や他市・区を参考にした」などとし、「必ずしもファーストクラスに乗らなくてはいけないものではなくて出張に応じて適宜判断する」とした。 これに対し委員から「ビジネスクラスでも十分体調を養うことができる。ビジネスクラスとファーストクラスは値段が違い過ぎる。現在の条例の規定をどうして緩めるのか。五十嵐市長は(ファーストクラスに)乗らないと思うが、だれが市長になっても市民感覚に合わせたものにすべき」(小森谷さやか市議=市民ネット)▽「(3段階の運賃設定のうち)ファーストクラスに乗れるというのは内閣総理大臣と一緒になる。実際に乗らないとしても乗れるように(条文改正)することが理解できない。今、政治に厳しい目が向けられている」(樋口裕大市議=Nextつくば)▽「ビジネスクラスでヨーロッパに行くのに現在100万円くらいかかるがファーストクラスは2倍の200万円かかる。他市町村長は年に1回か2回しか海外に行かないのに、つくば市長は年に何回か行っている。市民の税金で行くのに市民にどう説明できるのか。つくば市には東京都が定めているような海外出張の運用指針もない」(山中真弓市議=共産)▽「ファーストクラスにする必要はない。市民感覚からすればビジネスクラスで十分」(飯岡宏之市議=Nextつくば)など厳しい意見が相次いだ。 採決で賛成したのは塩田尚市議(つくばクラブ)と渡辺峰子市議(公明)2人だけで、同条例改正案は否決となった。議会最終日の10月3日は修正案が出される見通しという。 つくば市長の海外出張をめぐっては、今年2月と6月の市議会定例会議一般質問で山中真弓市議(共産)が取り上げ、五十嵐立青市長は直近3年間で計5回の海外出張を行い2365万円の市税を使ったこと、海外での宿泊費が市職員旅費規則に定められた金額を超過し、市の規定が骨抜きになっていることから、旅費規程の見直しが必要だ、などと指摘した経緯がある。(鈴木宏子)

民有林に防除対策費を補助 ナラ枯れ被害拡大防止へ つくば市

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