水曜日, 4月 21, 2021
ホーム 土浦 《霞月楼コレクション》4 永田春水 土浦に始まる戦後美術復興の先導者

《霞月楼コレクション》4 永田春水 土浦に始まる戦後美術復興の先導者

対を成す郷土美術界の双璧

【池田充雄】色紙2枚を貼り交ぜた額が霞月楼にある。左の小川芋銭作は堂々たる雄の軍鶏(しゃも)のようで、右の永田春水作はその幼鳥にも見える。それぞれ時期も作風も異なるが、戦前・戦後の茨城画壇を牽引した2人の作品が肩を並べるのは、奇遇というか象徴的だ。

小川芋銭・永田春水の色紙額装 霞月楼所蔵

父母への恩愛を雅号に刻む

永田春水は1889(明治22)年、北相馬郡相馬町(現取手市藤代)に生まれた。本名良亮。幼少から画才を現わし、取手市宮和田の三軒地稲荷神社には12歳時に奉納した絵馬が残る。

50歳当時の永田春水=書籍「時の人」(1939年、イハラキ時事社)掲載、国立国会図書館ウェブサイトより転載

1907(明治40)年、県立龍ケ崎中学校(現竜ケ崎一高)を卒業後、一家で上野池之端へ移る。永田家は大地主で父は町会議員も務めたが、息子が一人前の画家になるまで故郷の地は踏まぬと、田畑も売り払う決意の上京だった。同年荒木寛畝に入門。寛畝からは「筑畝」の号を授かったが、父・清太郎、母・春への恩義から後に「春水」と改めた。

1913(大正2)年、東京美術学校日本画科を卒業し、国華社に入社。雑誌編集や古画研究に従事する一方、1916(大正5)年の第10回文展に「露のひぬま」で初入選。1920(大正9)年には大英博物館で敦煌発掘仏画の模写に携わるほか、欧州各国を訪ねて見聞を深めた。

本邦を代表する日本画家に

帰国後は帝展で活躍し、1921(大正10)年の第3回展から6度の入選を重ねた。第10回の「薫苑麗日」と第11回の「雪晴れ」で2年連続の特選。以後無鑑査となり、1936(昭和11)年からは文展審査員を務めた。茨展では1923(大正12)年の第1回から入賞、第3回から無鑑査、第8回から審査員。

海外での評価も高い。1924(大正13)年の日華連合展では国賓として北京に招かれ、出品作は袁世凱中華民国大統領が買い上げた。第6回帝展出品作「花柘榴・立葵」はフィラデルフィア万博に出品され、同地美術館に収蔵。前出の「薫苑麗日」は日本政府がロンドン大使館へ寄贈。皇室にも多くの絵を献上している。

「春暉暁艶」1926年 絹本彩色軸装(対幅)各210×165cm 第7回帝展入選 茨城県近代美術館所蔵

後進の育成にも励み、1930年頃に「如春会」を設立。同郷の寺田弘仭や根本正らも東京・大塚の春水邸で学んだ。1939(昭和14)年には東京女子高等師範学校(現お茶の水女子大)の日本画講師を拝命した。

県南美術協会副会長に就任

戦災で東京を離れた春水は1947(昭和22)年、藤代の生家に戻り制作に従事する傍ら、郷土の美術再興にもさまざまに尽力した。

当時、中央で活動していた作家らの帰郷により、各地で美術活動が活発化していた。急先鋒は土浦で、1947年に福田義之助や一色五郎らの呼び掛けで第1回土浦市展が開催され、それを核に茨城県南美術協会が発足。会長は土浦市長、副会長は春水ほか1人、会員は洋画が服部正一郎、鶴岡義雄ら52人、日本画が小林巣居人(当時巣居)、浦田正夫ら25人、彫塑・工芸が中島敦、古宇田正雄ら10人。1949(昭和24)年に第1回展を開いた。

1950(昭和25)年に県展が始まると春水は第1回から審査員を務め、1955(昭和30)年に東京・吉祥寺へ転居しても、1962(昭和37)年の第17回まで継続した。1970(昭和45)年に82歳で世を去った後、1973(昭和48)年の第8回県芸術祭で永田春水賞が創設され、小林恒岳が第1回受賞者となった。

丹念な写生を作品へと昇華

「青げら」1963年 絹本彩色額装 66×70cm 世界鳥類画展出品 茨城県近代美術館所蔵

春水の真骨頂は花鳥画で、特に鳥は数・種類とも多く描いた。1963(昭和38)年ロンドン開催の世界鳥類画展には日本代表として6点を出品し、「雉子」ほか2点は英国政府買い上げとなった。

作品はいずれも丹念な写生に基づくが、「ただ、あるがまま、観察したままを描いたのでは写真になる。それから更に昇華させるのだ」とも語っている。

取手市在住の日本画家で春水に詳しい大畑久子さんは「写生によって筋肉や骨格などの基本的な構造と、正しさや美しさを理解しており、それをデフォルメせず、科学的に嘘はつかず、でも一部は省略しながら、表現として描いている」と説明する。

実際に写実には厳しい人だったようで、寺田弘仭はスケッチを何十回と描き直させられたという。写生の中には、通常は絵にしない鳥の腹部や羽根の裏側までも詳細に写し取ったものもある。

春水の遺品は10年ほど前に市場へ流れ、つくば市の古書店がまとめて引き取った。巻紙の下図や和綴じの画帳、スケッチブック、少年時代の習作などが段ボール10箱分ほどあり、早急の保全と研究が願われる。

取材協力・参考資料 茨城県近代美術館▽取手市文化芸術課▽文化工房ふじしろ▽ブックセンターキャンパス▽「土浦文化活動史編集資料」(1980年、土浦文化活動史編集委員会)▽「藤代の歴史散歩」(2000年、藤代町)▽「藤代町史暮らし編」(2005年、藤代町史民俗調査員会▽図録「故郷を愛した作家たち」(2014年、とりでアートギャラリーきらり)

シリーズ協賛 土浦ロータリークラブ 土浦中央ロータリークラブ

会員募集中

NEWSつくばでは、私たちの理念に賛同し、一緒に活動していただける正会員、活動会員、ボランティア会員、および資金面で活動を支援していただける賛助会員(クレジットカード払い可)を募集しています。私たちと一緒に新しいメディアをつくりませんか。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー

注目の記事

最新記事

市立学校を22日まで臨時休校 つくば市の教員が新型コロナ

つくば市は20日、市立学校教員1人が同日、新型コロナウイルスに感染したことが判明したとして、教員が勤務する学校を21日から22日まで2日間、臨時休校にすると発表した。 市教育局学び推進課によると、休校はこの教員の濃厚接触者のPCR検査結果が判明するまでの措置。学校での濃厚接触者が何人いるかについて、保健所が調査しているとしている。 この教員の感染経路は不明、同課は、教員がいつまで出勤していたかや症状があったかなどは公表しないとしている。 一方、同市では14日、市立学校の非常勤職員1人が、新型コロナウイルスに感染していることが確認された。今回休校になった市立学校は、別の学校だという。

たゆたう歌物語① 都鳥 《遊民通信》15

【コラム・田口哲郎】前略 コロナ禍になる前は、本郷キャンパスに通うのに、JR上野駅から上野公園、不忍池の弁天堂を通って、池之端門から構内に入っていました。東大病院の裏手にその門はあり、坂を登ると安田講堂の裏に出ます。さらに坂を登ると法文1号館という建物があり、文学部の講義は主にそこで行われているのです。 さて、不忍池の鳥の話です。池にはハトやスズメ、カモが集まり、さながら鳥の集会所のようですが、その中でひと際目を引く鳥がいます。ユリカモメです。東京は臨海都市ですが、上野辺りに海沿い感はありません。 でも、カモメがいる。吉本ばななが銀座に行くと潮の香りがする、とどこかに書いていましたが、カモメを見ると淡水の不忍池にも潮の香りが漂ってくるようです。ユリカモメは東京都の鳥になっていますから、特段珍しい鳥ではないのでしょう。少し釣り上がった目が愛らしく、立ち止まって眺めていました。ふと、口をついて出たのは、 名にし負はば いざ言問はむ都鳥 わが思ふ人はありやなしやと という和歌です。これは『伊勢物語』第九段「東下り」と『古今和歌集』に収録されている在原業平の歌で、京都から下った業平が隅田川沿いで都に残してきた恋人に想いをはせて詠んだ歌です。

スタジオで配信体験、誰もがYoutuberに 土浦のインターネットテレビ局

2021年版「小中学生の将来就きたい仕事」に関する調査で男子の1位となるなど、がぜん注目のYoutuber(ユーチューバ―)を、手軽に試せる場所が土浦にお目見えした。インターネットテレビ局「Vチャンネルいばらき」(土浦市川口、菅谷博樹代表)が、Youtube(ユーチューブ)配信を始めてみたい個人や団体に、スタジオや機材の無料体験を呼び掛けている。 体験ができるのは原則的に土・日曜日、午後1時~6時のうちの1時間程度(スタッフがロケなどで不在の場合を除く)。業務用の本格的な機材やスタジオ設備を使い、オリジナルの動画コンテンツが作れる。撮影した動画は自分でユーチューブなどに投稿するほか、後日、Vチャンネルいばらきの番組の一つとして公開することもできる。 内容は、スタジオ内でできるものなら何でもOK。一例としてはトーク、セミナー、実況、音楽なら弾き語りや歌ってみた動画など。2階の貸しスペース「VBOX」(料金別途)を使えば、本格的なライティングやPAシステムで、バンドのライブやダンス・演劇などのステージも配信できる。 代表の菅谷さんは「未経験の人でもやりたいことができるよう、スタッフがお手伝いする。番組制作の雰囲気を知るだけでも刺激になるのでは」と呼び掛ける。 裏方は全部スタッフにお任せ 動画配信は最低限スマホ1台あればできるが、スタジオを使えるメリットは大きい。複数のカメラを切り替えたり、背景や別画面を合成したり、効果音やテロップを入れたりなど、さまざまな広がりが生まれる。機材のセッティングや操作はスタジオのスタッフがしてくれるほか、教えてもらって自分でやることもできる。

観光シーンにアウトドア向け新商品 筑波山・霞ケ浦エリア

茨城県が企画提案を募った「筑波山・霞ケ浦をもっと楽しむ!アウトドア層向け新商品企画開発」によるツアープログラムが、春からの観光シーズンに続々デビューする。登山やサイクリングなどアウトドアの観光シーンに、地域資源を活かすグッズや土産品などの提供をめざしたもので、昨年度入賞したプランが商品開発を終えた。今後、筑波山・霞ケ浦エリアでの定番商品を目指して、販売戦略を展開していく。 企画提案は新たな定番商品の開発と、アクティビティーツアープログラム企画の開発の2部門で募集された。昨年10月の最終審査には12事業者14プランが残り、公開プレゼンテーションで商品開発に4プラン、企画開発で2プランが選出された。 定番商品の入賞は、▽筑波山江戸屋(つくば市筑波)の「陣中油ハンドクリーム・リップクリーム」ガマの油のパッケージデザインをリニューアル(ハンド1800円、リップ900円)▽筑山亭かすみの里(土浦市おおつ野)の「霞ヶ浦名産を使用した帆引き御膳」帆引き船をイメージした船盛で霞ケ浦名産の白魚、川エビなどが味わえる(1980円)▽ケーズグラフィック(つくば市平沢)制作の「筑波山麓歴史めぐりイラスト手ぬぐい」TAMARIBAR(タマリバ、つくば市小田)、平沢官衙(かんが)遺跡案内所(同市平沢)、一期一会(桜川市羽田)で販売(1200円) ▽美影グルテンフリーベーカリー(つくば市小田)の「宝篋山パイスティック」筑波山麓の農産物(小田米、オーガニック卵、ブルーベリーなど)を使用しスティック状で食べやすく携帯性のある商品に開発。TAMARIBARで販売(1本250円、1缶5本入り1200円)の4商品。(価格はすべて税込み) アクティビティーツアープログラム企画の開発では、ラクスマリーナ(土浦市川口)の「カヌー遠足」と、こもれび森のイバライド(稲敷市上君山)の「満喫アウトドア!イナシキライド」が入賞した。 土浦市の新川で2020年11月実施されたカヌー遠足のモニターツアーの様子
0
コメントお待ちしてますx
()
x