【コラム・三橋俊雄】前回(9月16日掲載)は、タケノコ掘りを取り上げ、経済的には重要ではないものの、自然との関わりを通じて楽しまれ、受け継がれてきた活動を「遊び仕事」として紹介しました。今回は、京都府北部の丹後半島を舞台に、日本海(若狭湾)に面した宮津市養老地区における「タコ釣り」「イカ釣り」という遊び仕事についてお話しします。
「食いたい」と思ったら堤防へ
「食いたいな」と思ったら、すぐに堤防へ向かいます。 海を眺めながら、穴にじっと潜んでいるマダコを探します。竹や糸の先に「バカシ(疑似餌)」(図1)と呼ばれるルアーをつけ、タコの居場所を探ります。タコは穴の中にいても吸盤を外に出しているため、道具を使わなくても見つけやすいそうです。
穴に潜むタコをおびき出すには、バカシを見せるためのスペースが必要です。もともとタコが穴から出ているときは、頭がゆらゆらと揺れているので、すぐに見分けがつきます。
うまく釣るには、海が鏡のように穏やかで、海底まで見えることが条件です。 雨上がりは海が静まり、タコ釣りには絶好のチャンス。急いで堤防へ向かい、タコを探します。 マダコは移動して止まるたびに、なぜか体の色が真っ白に変わるため、海底でひときわ目立ち、すぐに見分けがつきます。
タコ釣りの季節は、4~5月から10月まで。10月を過ぎると、マダコを食べるミズダコが沖から堤防付近までやってくるため、マダコは沖のほうへ移動し、堤防では捕れなくなるようです。
自然と向き合い夢中になって
アオリイカは9月中旬から11月まで。道具は竿(さお)とビシ(おもり)のついた糸とバカシです。昼間、船で釣るとイカの真上まで近づけるので見つけやすいとのこと。大きなタルイカ(成体で胴長100センチ、体重20キロを超す)(図2)なら10~12月が漁期です。
夜釣りに出かけることを「イカツケ」と呼びます。釣りの時間帯は、夕方から夜中の12時ごろまでです。満月の夜は海が明るく、透明度も高いため、バカシ(疑似餌)がよく光り、イカの食いつきもよくなります。そのため、一晩で胴長20センチほどのアオリイカを100杯近く釣る人もいるそうです。
捕ったイカは、刺身やスルメにして家族で味わったり、ご近所に分けたりします。肉厚のタルイカは、そのままでも刺身などにしますが、一度冷凍してから使うと食べやすく甘味も増します。
この地区では、食べること以上に、イカを釣ることそのものを楽しみにしている人が多いようです。
船に子どもを乗せてイカ釣りに出かけ、そこで櫓(ろ)のこぎ方も教えたし、自分もかつて、そうして教えてもらいながら覚えてきたそうです。
こうして、自然と向き合いながら夢中になってきた地域の大人たちの「遊び仕事」。 次回も、そんな暮らしの知恵と楽しみを紹介していきます。(ソーシャルデザイナー)