【コラム・齊藤久子】近年、集中治療室(ICU)において、重症患者さんに早い時期から積極的に離床を進め、体を動かしていくことが、集中治療後症候群(PICS)の予防、日常生活動作(ADL)の改善、長期的な生活の質(QOL)の向上に役立つとして、多職種で取り込む標準治療として普及してきました。今回は、早い時期から体を起こしていく早期離床、急性期のリハビリテーションについて紹介します。
安静臥床の問題
皆さんは、重症な病気やけが、大きな手術をした後は体を横たえてゆっくり休み、あまり動かないでいることが大事だというイメージをお持ちではないでしょうか? もちろん、病気やけがの状態によっては安静に臥床(がしょう)していることが必要ですが、安静臥床のデメリットもあります。
安静とは、無動・不動あるいは低活動の状態、臥床は身体の長軸方向に重力負荷がかからない状態を意味します。使わない、動かさないことで筋量減少、骨密度低下、関節拘縮(こうしゅく)が起こり、転倒のリスクが増えます。循環血液量の減少、血圧調整の低下が起こり、起立性低血圧や深部静脈血栓症を生じやすくなります。肺活量が低下し、下側肺に痰(たん)がたまり肺炎を起こしやすくなります(表1)。

ICUの重症患者に起こりやすい問題
ICUの重症患者さんは安静臥床以外に、重症な病態や、治療のための呼吸器装着、薬剤投与などが複雑に関与して筋力低下が起こることがあり、ICU獲得性筋力低下(ICU-AW)といいます。原疾患に関係しない左右対称性びまん性筋力低下でICU重症患者さんの30~80%に認められ、原因は多要因ですが、不動も一因なので予防に早期離床も有用です。
またICUの患者さんは身体の問題だけでなく、認知やメンタルヘルスの問題も生じやすいです。PICSは、ICU在室中あるいは退室後に生じる身体機能、認知機能、メンタルヘルス問題の総称で、患者さんの長期予後のみならず家族のメンタルヘルスにも影響を及ぼします(図1)。人工呼吸管理、鎮静、せん妄、筋力低下等が各々悪影響を及ぼし合い人工呼吸管理が遷延するとPICSを生じやすいので、予防には可能な範囲で自分の呼吸を促し、深く眠りすぎないよう、コミュニケーションをとるように努め、早期運動療法を行うなど多方面の介入が必要です。

早期離床・急性期リハビリ
運動療法は横になっていても行えるので、離床が困難な患者さんに対しても関節を動かして拘縮を予防したり、筋力を維持する訓練を行います。離床を進める時はベッドのヘッドアップから始めて端坐位、立位、歩行と進めていきます。
重症患者さんで、多くの医療機器を使っている場合や血圧や呼吸が安定しない場合はリハビリを行うことで危険が生じないよう、患者さん一人ひとりの病態の把握、安全に実施できるかの判断、心配なことが生じた時の中止基準などを慎重に確認しつつ十分な人数のスタッフが協力して行います。早期離床を進めていくためには、可能な範囲で鎮静を浅くして、患者さんとコミュニケーションをとり、適切な栄養管理を丁寧に行うことも重要です。
ADL、QOL向上へ
体を起こすことが最終目的ではないので、日常生活動作ができるよう、病態を評価し、動作練習を行います。嚥下の評価や認知機能評価も行い、経口摂取を進める判断や訓練、コミュニケーションをとる工夫も大切です。
家族が原疾患の病状理解とともに、リハビリテーションの現状や目標を理解し、可能な場合はリハビリに参加することも重要で、患者さんが安心してモチベーションを保つことにつながります。患者さんも家族も大きなストレスを抱えていることは当然ですし、家族は時に経済面や他の家族の問題を抱えていることもあるので家族のサポートも必要です。
このように重症患者さんの離床は、医師、看護師、リハビリテーション療法士にとどまらず、管理栄養士、臨床工学技士、薬剤師、医療事務、公認心理師、ソーシャルワーカーなど多職種が協力し、患者さん、家族と十分コミュニケーションをとってすすめていくことなのです。
重症患者さんが病気やけがを克服し、安静臥床やICU入院によるデメリットを最小限にし、長期的にADL、QOLを向上できるよう、多職種で連携しながら、サポートしてまいります(図2)。(筑波メディカルセンター病院リハビリテーション科専門部長)







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