【コラム・坂本栄】つくば市は6月、「生活保護業務等の不適切な事務処理に関する報告書」を公表しました(青字部をクリックすると全文が現れます)。あらましは記事「不適正額7件で4741万円に…」(6月23日付)をご覧ください。報告書は1市職員から総務部局に出された公益通報に対する回答とも言えるものですが、内部告発した職員による市議会への請願書はコラム「…つくば市政の実態」(24年9月30日付)内のリンク先で読めます。
生活保護業務の不適切な事案は大きく三つに分類できます。上の報告書は専門用語が多く使われており、この分野に疎い人には理解しにくいところがあります。かみ砕いて整理すると、つくば市役所では以下のようなことが起きていました。
口裏を合わせ県にウソの報告
一つめは、時間外勤務をしたのに手当てが払われていなかったり、生活保護受給者の自宅を訪れるといった特殊勤務の手当ても払われていなかったという事案です。担当職員のやる気を削ぐような慣行が市役所内に広がっていたのです。
調査を受けた職員の回答を読み、「管理職からの指示で(時間外を)一部しか申請できなかった」(職員)、「指示はなかったが申請できる雰囲気でなかった」(同)、「(特殊勤務手当ての)申請は本人の判断に委ねていた」(管理職)といった答えのオンパレードには驚きました。ただ働きは当たり前ということですから、役所の体を成していません。
二つめは、認定ミスで規定よりも多めの金額を生活保護者に払ってしまい、払い過ぎた分を返してもらおうと掛け合ったものの、返してもらえなかったというケースです。加えて、国がその分を穴埋めしてくれる場合もあるのに、市は国に申請していませんでした。こういったダブルミスは市の財政にマイナスの影響を与えます。納税者市民にとっては見過ごせない怠慢と言えるでしょう。
三つめは、生活保護費を現金で渡してはいけないというルールがあるのに、現金支給が横行していたという事例です。もっと問題なのは、生活保護業務を監査する県から「おかしなことやっていない?」とチェックを入れられたのに、「やっていません!」と虚偽(ウソ)の報告をしていたことです。
しかも、調査を受けた職員は「課長からは、現金支給していることは外で言わないように、記録にも記載しないようにと指示を受けた」「県監査での対応についても、課長から口外しないよう注意された」と答えています。組織として県にウソをつき通すという構図です。知事と市長の意思疎通の悪さは周知のことですが、これで県の信用も失いました。
市であることの重い行政責任
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条)を国民に保障する制度です。行政としては基本業務なのに、担当職員に必要な手当を払わない、過払いの穴を埋める事後処理もやらない、県のチェックには組織ぐるみでウソをつく。こういった粗雑な行政を放置してきた執行部のガバナンス(管理監督)不全は深刻です。また、議会は市職員の請願を採択せず、問題解明の仕事を放棄しました。こちらは機能不全です。
市制移行を進めている阿見町長に聞いたところ、町や村の場合、役場内に社会福祉課はあるものの、生活保護については窓口に過ぎず、実務は県の県南事務所がやってくれているそうです。2027年秋の市制実現に向け、実務の勉強と準備を怠らないよう職員に厳しく指示していると言っていました。
市になること(市であること)は行政責任が大きくなる(大きい)ということです。つくば市は不適切事案の責任を明確にし、生活保護に対する市民の信頼を取り戻す必要があるでしょう。(経済ジャーナリスト)