【コラム・高橋恵一】先の衆院選で国民民主党が「103万円の壁を撤去して手取りを増やす」という公約を掲げ、議席を4倍に伸ばした。さらに、所得税の基礎控除下限を103万円から178万円に引き上げ、地方税の基礎控除も同額以上に引き上げるよう主張している。
壁撤去の手段は、基礎控除を178万円まで引き上げるという所得税減税で、累進課税の裏返しだから、103万円の低所得者(210万円)の減税額に比して、高額所得者(2300万円)の減税額は約38万円ということになり、格差が拡大し、減税による経済効果も薄くて、期待できない。
ところで、103万円の壁見直しによって、年収103万円以内の給与で働いている人(約500万人?)の手取りは増えるのだろうか? 壁の撤去は、178万円まで給与を上げてもよいということで、給与を支払う側が、年額178万円に賃上げするということではない。
年末になって、年収の壁に達し、働き控えが起こると、職場が機能しないから、壁を越えて就労時間を増やせば給与が増えることになる。しかし、零細事業者にとって、人件費負担を増やすことは簡単ではない。最低賃金の引き上げや従業員の就労抑制の圧力で賃上げをせざるを得ないとしても、賃上げする原資の裏付けが無ければ、最低限の賃上げしかできないだろう。
国民民主党は手取り増加=賃上げをできる方策は示していない。一方の所得税減税の財源も明示していないから、受けを狙った「絵に描いた餅」と言わざるをえない。
手取り増は賃上げが大前提
低賃金を改善するには、最低賃金の引上げが必要だが、1500円への目標時期は5年後だ。それでも先行国のヨーロッパやカナダ、オーストラリアなどには遠く及ばない。
低賃金構造の根底は、中小零細事業者の置かれている日本の産業構造の偏りにある。大企業の下請け企業や原材料調達先への低コスト指向支配を変えなければなるまい。中小零細事業者やそこで働く労働者の交渉力も高めなくてはなるまい。
最近の報道では、来年の春闘の賃金要求額が、大企業労組は5%引き上げ、中小企業労組は6%引き上げ、合同労組・ユニオンは10%引き上げとなったという。全て要求通り実現したとすると、103万円以内の労働者は、113万円まで年収が増え、所得税と地方税が課税されても、3~5万円手取りが増え、壁の引上げがあれば、10万円手取りが増えることになる。国民民主党の最低賃金引き上げの主張は1150円で、年収113万円弱になる。同党の本音もそのあたりなのだろう。
いずれにしても、手取りが増えるかどうかは、雇用主が賃上げすることが大前提で、賃上げ能力を確保しなければ、実効性はないということだ。国民民主党や協議している自公与党も、壁の引上げを支持する経済評論家やメディアも、手取り増額の具体的手法を提示していない(できない?)。無責任な議論としか言えない。
最近の政党のプロパガンダは、フェイクまがいのものも多いのに、SNS効果で世論をミスリードする例が増えている。マスメディアは適切なファクトチェックをすべきだ。(地歴好きの土浦人)