【コラム・若田部哲】霊峰筑波山のふもと、なだらかな斜面に広がるブドウ畑のパノラマ。爽やかな風が吹き抜ける、どこか日本でないような風景の中に、新進気鋭のワイン醸造所「つくばワイナリー」はあります。「日本ワイナリーアワード 2023」三つ星受賞、「日本ワインコンクール 2024」銅賞受賞など、着実に評価を固める同社。今月23日に新酒発表会を迎えるにあたり、食品事業部部長の大塚さんと、醸造責任者の大浦さんにお話を伺いました。
ワイナリーがスタートしたのは2012年。小美玉市のみつお万寿や不動産事業を手がける、㈱カドヤカンパニーが土地を取得しますが、当初はワインをつくる予定はなかったそう。ところがワイン好きの社長がその素晴らしい景観にほれ込み、ブドウ栽培を行うことになったと言います。栽培にあたっては、山梨の志村葡萄研究所の指導のもと、研究所により開発された黒ブドウ「富士の夢」と、白ブドウ「北天の雫(しずく)」が主軸に据えられました。
「富士の夢」は、ふくよかでフルーティーな味わいが魅力のメルローと山ぶどうの交配種。「北天の雫」は、甘みと酸味のバランスが素晴らしいリースリングと山ぶどうの交配種で、いずれも日本の気候風土に合うよう作られた品種です。水はけがよい花崗岩質の土壌と、筑波山から吹き降ろす「つくばおろし」により熱気がこもらない地形はブドウ作りに最適で、現在は8種類7000本のブドウがその豊かな葉を茂らせています。
畑のブドウは鮮烈な酸味
さて、そんなワイン用のブドウ。10月の取材時にはまだ枝に少し残っており、生で食べさせていただきました。おいしいワインのもとになるブドウ、さぞやおいしかろうとワクワクしながら口にすると…甘みとともに、鮮烈な酸味。ふだん生食するものとはずいぶん味が違うことに驚きです。しかしこの酸味が発酵には重要で、甘いだけではおいしいワインにはならないそうです。おお、なにやら人生を感じるお話。
そしてワインの出来は、広大な畑にどれだけ手を入れられるかで大きく変わる、と大浦さん。春先には7000本ある樹を全て、良い枝2本だけを残し、その他の枝を切るそうで、想像するだに大変です。その後、お盆過ぎから収穫作業が始まり、平行して仕込み作業も行って行きますが、収穫は果実の状態と、天気の両方をにらみながらのスピード勝負! 圃場(ほじょう)に醸造所が併設されていることを生かし、ちょうどよく熟した房のみ摘み取り、順にワインにしていきます。
また、そのすばやい収穫を支えているのが、総勢60名にもなる「栽培サポーター」。老若男女・近隣から遠方まで、様々な人がぶどう畑の魅力に引かれ手伝いに来ており、すでに地域の中に溶け込んでいることを感じさせます。そうした地域とのつながりを深めつつ、地場に根付いたワインを生産していきたい、とお二人は語ります。筑波の風土に育まれた今年の新酒は、どんな表情を見せてくれるのでしょうか? 若いワイナリーが醸し出す味わいを、これからも楽しみにしたいと思います。(土浦市職員)
<注>本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。
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