【コラム・山口絹記】時折ふるーいフィルムカメラを頂くことがある。「亡くなったお父さんが使ってたんだけど、私は使い方がわからないから」とか「押し入れから出てきたんだけど、撮れるのかしら」といった具合だ。
そうやって受け取ったカメラは、試しにフィルムを入れて撮った写真を見せてあげることにしている。受け取ったカメラもなんとなく廃棄しにくいので、たまっていくのがまことに難儀である。
先日「こういうカメラ欲しいって言ってたよね?」と言ってヨドバシカメラの袋を差し出された。少し遅い誕生日プレゼントと言うことらしい。
ちなみに私が常日頃から欲しいと言っているカメラというのは、いわゆるレンジファインダーカメラだ。しかし、ヨドバシカメラで買える現行のレンジファインダーなんて高級カメラしかない。へたすると100万オーバーである。
妙に軽い袋を開けて出てきたのは、なんとプラスチック製のハーフサイズフィルムカメラと、ISO感度100のリバーサルフィルムだった(わかる方にはわかるすごい組み合わせ)。なるほど、そうきたか。
実のところ、このカメラはレンジファインダーではないのだが(見た目は似ている)、発売された時からずっと欲しいと思っていたカメラなので、素直にとてもうれしいプレゼントだった。
人間とは厄介な生き物
それにしても、この時代に新品のフィルムカメラをプレゼントされることになるとは思わなかった。なにせフィルムがとても高価になってしまった。私がまだ17歳の頃、フィルムカメラを使っていた20年近く前は500円ほどで買えたネガフィルムも、今では2000円くらいになってしまった。当時5本5000円くらいで買っていたリバーサルフィルムも、今では1本4000円近くするものが多い。
ハーフサイズカメラというのは、フィルムを本来の半分(ハーフ)ずつ使うことで、ざっくり2倍の枚数を撮影できるカメラのことだ。フィルム代を節約できるのが利点で、まさに今の時代に再び真価を発揮できるカメラと言っていいだろう。
画質は落ちるが最近ではそういう写りも流行(はや)っているらしい。仕事の機材として高画素のデジタル一眼を使用している私でも、その解像度に疲れてしまうことがあるくらいだから、なんとなくわかる気がする。
片や写真はスマホで十分、という世界があり、さらなる高画素化を進める最新カメラの世界があり、一方できれいに写りすぎないカメラが好まれる世界もあるのだから、人間とはどうにも厄介な生き物である。(言語研究者)