土曜日, 12月 27, 2025
ホームつくば申請わずか2件 つくば市の民間フリースクール補助事業

申請わずか2件 つくば市の民間フリースクール補助事業

つくば市内の民間フリースクールを対象に、市が7月に申請受け付けを開始した補助事業について(7月7日付)、申請があったのは2件だけだったことがわかった。運営経費の2分の1などを補助する事業で、市は市内8カ所程度からの申請を想定して制度設計していた。申請件数が少なかったのはなぜなのか、背景を探った。

制度設計を担当した市教育局学び推進課課長補佐の東泉学さんは、あまりに申請の少ないことに「正直驚いた」と胸の内を明かした。東泉さんによると「昨年、市内にある民間施設10カ所中、市内在住の児童生徒が通所している8カ所の状況調査を行い、その内容を事業者補助制度に生かした」という。利用人数や利用料など、施設の規模に応じて交付額を300万~900万円台までの4段階に分け、8カ所の施設への交付を想定して算出した補助金4850万円を23年度当初予算として計上した。

申請受け付けにあたっては、既存の民間施設10カ所と、同課に相談のあった5カ所に補助金の情報提供をした。しかしふたを開けてみると申請件数は2件。審査を経て、2カ所には交付決定が通知された。そのうちの一つは、認定NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所(小野村哲理事長)が運営する「むすびつくばライズ学園」(4月に改称)だ。

なぜ人気がなかったのか。月20人程度が通所するフリースクール「TSUKUBA学びの杜学園」を運営する中谷稔さん(57)と、月平均7、8人が通所する小規模施設を運営する鈴木恵子さん(仮名、46)に話を聞いた。2カ所とも補助金申請はしなかった。

つくば市内には10カ所の施設があり、このうち半分程度の施設が収容能力10人前後の小規模施設だという。フリースクールは法や制度で定められていないため、規模や運営形態、月謝などの費用は施設によって異なる。小中学生は元の学校に在籍したまま通所することになる。

中谷さんは「多くの事業者が様子見になったのではないか」と推測する。「利益を目的とせず、不登校で困っている親子のために尽くそうというボランティア感覚で運営している小規模施設の事業者にとって、いきなり助成金を受給するのにはハードルが高かった。また、施設規模を問わず、なんとか月謝や寄付などでやり繰りできているし、事業計画を立てて申請しても受給できる保証はないし、受給できても制度が打ち切られたら立ち行かなくなるという思いがあったと思う」。

鈴木さんは「煩雑な事務処理で手を出しづらかった」と話した。事業者と、利用者が在籍する学校との連携が重視され、毎月、利用者の出席状況報告書を学校長に、また施設利用状況報告書を市学び推進課に提出することが義務付けられている。鈴木さんは小中学生2人の子どもを育てながら週4日を施設運営、平日の残り1日を子どもの塾通いの送迎に充てる多忙な毎日を送る。土日に施設のホームページの更新やSNSでの情報発信、保護者への対応、会計処理などをこなしている。「ボランティの手を借りながら、ほぼ1人で運営している。これ以上の事務処理をする手間も時間もない」とした。

中谷さんは「補助対象経費を定めた条項の『(つくば市在住の)利用者が5人未満の月の事業に要する経費は、補助対象経費としない』の規定も申請をためらわせる要因になった」と指摘した。利用者に近隣自治体居住の児童生徒が含まれるのは珍しくない上に、体調が悪くなったり気分が落ち込んで通所しなくなるのはフリースクールにありがちなことだという。「キャパが大きく利用者の多い施設には問題ないだろうが、利用者10人程度の小規模施設にとって5人枠はきつい」とし「5人の根拠が示されないまま申請受け付けがスタートした」と、口惜しそうに話した。

続けて中谷さんは「自分1人が思っていることかもしれないが」と前置きした上で「(2021年12月の事業者選定をめぐり迷走した不登校学習支援施設の)むすびつくばへの市のやり方に不安を覚えた。22年度の不登校の学習支援施設の委託業者の選定で1位はトライだった。市の委託を受けて同施設を運営していたむすびつくばは2位になった。継続を求める陳情があると事業費を追加して1年延ばし、昨年度は市内2カ所で委託事業が実施された。その一方で昨年5月から不登校支援の検討会が開かれ、わずか1年というスピードで補助制度がスタートした。これは何か切迫した事情があったのか、と不信を招きかねない」と語った。そして「4850万もの補助金を継続できるのか、首長が変わったらどうなるかという思いも拭いきれない」とも。

鈴木さんは「複雑な事務処理などないシンプルな制度にしてほしい」と強調した。中谷さんは「施設の状況調査はあったが制度について意見を述べる機会はなかった。地元事業者の現状に合うものではなかった」と締めくくった。

申請を断念したフリースクール運営者の声について市学び推進課の東泉さんは「補助経費に関する規定には、児童生徒5人以上での施設利用が制度活用に必要であるという意味を込めた」とし、数カ所から「3人ではどうか」などの問い合わせがあったと明かした。そして「100点満点の制度はないが、5人枠を含めて見直しを行い、使い勝手の良い制度にしていく。事業者さんたちの話を聞く機会は必要だと思っている」と語った。

一方、申請し交付を受けることが決まったリヴォルヴの小野村理事長は「改善を求めたい点もあるが、公的資金を原資としているから要件が厳しくなるのは仕方がない」とした上で、「補助対象外とされることが多い人件費を経費として認めるなど、比較的使いやすい制度設計だと思う。補助金は、カウンセラーによるサポートやスタッフの研修機会を充実させるなど、子どもたちにとってより良い環境づくりに生かせる」と話す。

利用者補助は74人が申請

同市は民間フリースクールへの補助金と併せて、不登校児童生徒の保護者がフリースクールに支払った利用料を補助する事業をスタートさせた。利用料補助は期限までに74人が申請した。

利用者への交付事業は8月4日に補助金交付要綱を公表した。1年を4カ月ごとに区切って年3回交付が行なわれる形で、9月30日まで申請を受け付けた。特例として4月から7月までの利用料はさかのぼって交付した。

昨年実施した民間施設への調査で小中学生100人弱が施設を利用していることが分かり、100人程度への支援を想定して、23年度当初予算に利用者への交付金2400万円を計上した。所得制限を設けず、1人当たり月額上限2万円を交付する。

申請には施設を利用した際の領収書の写しなど5枚の書類を市学び推進課に郵送又は直接提出することになっているが、初めての申請で不備を心配してか、申請者の9割が同課に持参したという。(橋立多美)

➡つくば市の不登校児童生徒支援施策の迷走問題に関する過去記事はこちら

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

9 コメント

9 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

里山収穫祭 大人も子供もダンス《宍塚の里山》131

【コラム・古川結子】11月23日、土浦市の宍塚の里山で行われた「秋の収穫祭」で、ダンス企画が行われました。私は、法政大学公認の環境系ボランティアサークル「キャンパス・エコロジー・フォーラム」(略称 キャンエコ)の活動として、収穫祭の運営補助をする中で、サークルのオリジナル曲に合わせて踊る機会をいただきました。 「宍塚の里山」はキャンエコのメーン活動の一つであり、普段は毎月第4日曜日に宍塚を訪れ、環境保全活動を行っています。 このダンス企画が始まったのは、昨年4月に行われた「春の収穫祭」からです。バレエやダンスに親しんできた私に対し、里山でキャンエコの活動をサポートしている「宍塚の自然と歴史の会」の齋藤桂子さんが提案してくださったことがきっかけでした。そこから、収穫祭では、はやりの曲に合わせて地域の子供も大人も一緒になって踊ってきました。 そして今回、秋の収穫祭に向けた準備の中で、齋藤さんから「ぜひキャンエコでオリジナルのダンスを作ってほしい」と言っていただきました。卒業を控えた自分にとって、この言葉はとても大きく、思い切ってオリジナル曲の制作と振り付けに挑戦することにしました。 歌詞は、サークルの仲間と協力して書き上げ、AIを使って曲を完成させました。振り付けは子供から大人まで踊れるように意識しました。 里山で生まれた一体感 「踊る」という行為は、慣れない人には少し恥ずかしく感じるかもしれません。それでも、音楽に合わせて身体を動かす楽しさを、少しでも感じてもらえたらという思いがありました。 当日、最初は遠慮がちに周りで見ていた大人の皆さんも、学生や子どもたちにつられるように輪に入り、楽しそうに踊っている様子を見て、とてもうれしかったです。踊り終わったころには、初めて会う人同士でも距離が縮まっているのが、ダンスのすごいところであると感じました。 宍塚の里山は、多くの人の手によって守られています。今回の収穫祭でのダンスが、里山の存在やキャンエコの活動を知るきっかけになっていたら幸いです。みんなで踊った様子は動画として記録し、YouTubeにも公開しています。これをご覧になり、里山で生まれた一体感を、多くの方に感じていただけたらと思います。(法政大学キャンパス・エコロジー・フォーラム 4年) https://youtu.be/lr5EXHD-NLc?si=29c9cISMDT8rN0Tq

個人情報記載の住宅地図を誤配布 つくば市

つくば市は26日、同市谷田部、陣場ふれあい公園周辺の352世帯に、公園近隣の86世帯の名字など個人情報が入った住宅地図を誤って配布してしまったと発表した。うち2世帯は名字と名前が入っていた。 市公園・施設課によると、同公園でのボール遊びについて注意喚起する文書を、公園の位置を示す拡大した住宅地図を付けて周辺世帯に配布した際、本来、地図の個人情報を削除すべきところ、削除せず配布した。 23日午前10時~正午ごろ、市職員が公園周辺の352世帯に配布、2日後の25日、通知文書を受け取った市民から市に、住宅地図に個人情報が記載されている旨の電話があった。 市は26日、地図に個人情報が掲載された公園近隣の86世帯に対し謝罪の文書を配布。さらに周辺の352世帯に対し、23日配布した住宅地図の破棄を依頼する文書を配布したほか、個人情報を削除した住宅地図を改めて配布した。 再発防止策として同課は、個人情報の取り扱いや外部への情報提供の方法について見直しを行い、再発防止に努めますとしている。

大の里の姿を精巧に表現 雲竜型土俵入りなど人形2体を贈呈

横綱昇進祝し 関彰商事 第75代横綱に昇進した大の里を祝し、記念人形の贈呈式が25日、阿見町荒川本郷の二所ノ関部屋で行われ、関彰商事(本社 筑西市・つくば市)の関正樹社長が特別に制作された記念人形2体を大の里に贈った。 人形は、雲竜型の土俵入りをする戦う表情の大の里と、横綱に昇進し着物姿で喜ぶ表情の2体。土俵入りの人形は、高さ36センチ、幅40センチ、奥行き20センチ、着物姿は高さと幅が46センチ、奥行き32センチの大きさで、いずれも大の里の力強く気品あふれる姿を精巧に表現している。 桐の粉で作った胴体に溝を彫り、布の端をきめ込む「江戸木目込人形」の技法を用いて、さいたま市岩槻区の老舗人形店「東玉」の人形師で伝統工芸士の石川佳正さんが製作した。石川さんは「大変名誉な仕事を預かり光栄。制作には、他の仕事をキャンセルして1カ月かかった。陰影を出すように、肌の色などはつるっとしないように工夫した。はかまは京都の西陣織を採用した」などと説明した。 大の里は「素晴らしい作品が出来上がった。大変光栄なことで、感謝とともに、これを励みにさらに精進していきたい」と語った。 関彰商事は、牛久市出身の二所ノ関親方(当時は稀勢の里)が十両だった2004年から、関正夫会長が「稀勢の里郷土後援会」の会長を務めたなど、長年にわたり二所ノ関親方を支援。親方になってからも二所ノ関部屋を支援している。今回の贈呈も、これまでの継続的な後援活動の一環として行われた。 関社長は人形師の石川さんに感謝し、大の里には今後の活躍にエールを送った。(榎田智司)

30年度1学級増、33年度2学級減 つくばエリアの県立高 県高校審議会答申資料で推計値

2027年度以降の県立高校教育改革の方向性を検討する県高校審議会(委員長・笹島律夫常陽銀行会長)が25日、県庁で開かれ、答申をまとめた。 人口が増加している「つくばエリア」(つくば市など4市)の今後の募集学級数と募集定員について、答申の参考資料の中で推計値が示された。同エリアの全日制県立高の2025年度の入学者数は2203人なのに対し、30年度は31人増え2234人となる一方、33年度の入学者数は63人減り(25年度比は32人減)2171人になるとして、25年度の同エリアの学級数が58学級(募集定員2320人)なのに対し、30年度は1学級(40人)増えて59学級(2360人)、33年度は2学級減り(25年度比は1学級減)57学級(2280人)になるとする見通しが示された。 推計値について県高校教育改革推進室は「入学者数や募集学級数はあくまで現時点の推計値であり、(実際には)県教育委員会が志願の状況や欠員の状況などを踏まえて策定する」としている。 市民団体「実態に合わない」 一方、つくば市やTX沿線に県立高校の学級増や新設を要望してきた市民団体「つくば市の小中学生の高校進学を考える会」の片岡英明代表は「つくばエリアの子供たちが増えていることが反映されていない。県の推計値は入学率をもとに入学者数を推計している。もともと県立高校が少ないつくば市は、市内の県立高校に入学する生徒が少なく実態に合わない」と話している。 片岡代表は2033年度のつくばエリアの中学卒業見込者数が25年度の4393人より226人増えて4619人になり、日立エリア(日立市など3市)と水戸エリア(水戸市など4市)を合わせた4425人を上回ると推計され、さらに38年度にはつくば市1市だけで中学卒業見込者が3392人と見込まれ、日立エリアと水戸エリアを合わせた3429人に匹敵する推計値が出されていることから、「つくばエリアは県立高校の緊急な定員拡大と本格的な対応が必要」だなどと指摘している(12月21日付)。 人口増 答申で具体的言及なし つくばエリアで子供の数が増えている問題については、答申に具体的言及は無く、県全体の県立高校の適正規模について「今後、地域ごとの中学卒業者数の差はますます鮮明になっていくと予想されるため、引き続き、県内全ての地域に一律で適用する適正規模の基準は設けないことが望ましい」などとするにとどまった。 ただし同審議会の専門部会(部会長・中村麻子茨城大副学長)では、つくばエリアについて「教育を目当てに移住する人もいるので、学級数の増を考えてもいいのではないか」とする意見が出た一方、「今、人口が増えているつくば市もいずれ減っていくので、新校設置はあまり現実的ではない」「最終的に生徒が減っていく中、学級数の増をすると、近隣の学校に様々な影響が出る。学級数増については慎重に検討していく必要がある」などの意見が出たことが紹介された。 答申もとに基本プラン策定へ 25日まとまった答申は、来年1月下旬に県教育委員会の柳橋常喜委員長に手渡される。答申を踏まえ来年度の早い時期に、県の全体計画である「県立高校改革プラン基本プラン」が策定され、パブリックコメントなどが実施される予定。 答申の主な内容は、県内の中学卒業者数は1989年の4万9441人をピークに年々減少し、2025年には2万5192人となり、35年には約1万9500人まで減少すると予測されているなどから、中学校卒業者数の変動に対する対応として、生徒数が減少傾向にあるエリアでは、高校規模の縮小が一層進むと予想されるためICTを活用した同時双方型の遠隔授業を推進していくことが求められる。規模が縮小した学校の活力向上を図るため学校連携型キャンパス制のような高校同士が連携する学びの仕組みを一層推進することが重要―などとしている。 学級編成については、小中学校の1学級40人学級から35人学級への引き下げを受けて、特に生徒数の減少が大きいエリアでは、高校の特色の一つとして少人数学級編成を行うことも考えられる。農業、工業、商業学科など学科の在り方については、各エリアの生徒数によっては、複数の学科を総合学科に改編することも考えられるーなど、県全体の生徒数減少に対する対応について方向性を示している。 ほかに、今回の答申では新たに「選ばれる県立高校であるための魅力訴求」についての項目が設けられ、情報化社会の広報について、学校説明会への参加意欲を促すため、学校・学科の魅力や生徒の日常の様子、様々な取り組みなどをウェブサイトを活用して日頃から情報発信することが望ましい。AIなど先端技術については、さまざまなリスクが含まれることも想定され、これまで以上に倫理観や情報リテラシーの育成が求められるーなどが盛り込まれた。 参考資料で示された県全体の今後の募集学級数と定員の推計値は、25年度の全日制県立高の入学者数が1万6098人なのに対し、30年度は1111人減って1万4987人となり、33年度はさらに1438人減って(25年度比は2549減)1万3549人になることが推計されることから、募集学級数は25年度が442学級(募集定員は1万7630人)なのに対し、30年度は30学級減り412学級(1万6430人)、33年度はさらに40学級減り(25年比70学級減)、372学級(1万4830人)となる推計値が示された。(鈴木宏子)