金曜日, 12月 19, 2025
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酷暑日に核廃絶と核抑止について考えた《吾妻カガミ》165

【コラム・坂本栄】先のG7広島サミットで、首脳たちは平和記念資料館を訪れて核被爆の悲惨さを見聞きし、核廃絶の必要性を痛感したはずです。それなのに、採択された声明では核兵器が持つ戦争抑止力を正当化しました。8月前半の新聞には、首脳たちの矛盾を指摘する記事も見られ、資料館訪問をお膳立てしながら声明の案文を作成した岸田政権も批判されていました。

核廃絶か?核抑止か? 核保有国、非保有国を問わず、首脳たちとっては頭の痛い問題であり、国際政治学者たちにとっても議論が尽きないテーマです。8月6日、広島での平和記念式典のテレビ中継を見ながら、「1945年夏の時点で日本が原爆を保有し、米国に対する核抑止力が効いていたら、原爆の投下はなかっただろうか?」と思い巡らしました。

米の原爆開発と理研/京大の研究

当時日本でも、理化学研究所(陸軍の命令と予算、中心は仁科芳雄博士)と京都大学核物理学研究室(海軍の命令と予算、中心は荒勝文策博士)が原爆開発を進めていました。しかし、いずれも研究の域を出ず、豊富な予算と人材を投入した米国の原爆開発(マンハッタン計画)にはとても及びませんでした。

完成した原爆を実戦で使うかどうか、米首脳は悩んだようです。しかし、その破壊力を日本に実感させて降伏に持ち込み地上戦を避けたい(米軍兵士の損耗回避)、巨額の開発費を使った原爆の力を実戦で確認してみたい(開発兵器の実証誘惑)、大戦後に主要な敵となるソ連の諸活動を抑制できる(冷戦想定の政略戦略)―などを総合判断、使用を決断したと伝えられています。

もし日本の原爆開発が実用レベルに達し、その情報が米首脳に届いていたら、不使用論「日本による核報復の可能性」が使用論「米軍兵士の損耗回避」「開発兵器の実証誘惑」「冷戦想定の政略戦略」を抑え、原爆投下をためらっていたかもしれません。

ウクライナに核が残っていたら?

現在進行中のロシアのウクライナ侵略でも、ソ連崩壊後、ウクライナに配備されていた核兵器をウクライナが継承・管理していれば、ロシアは核報復を恐れて侵攻しなかっただろうとの指摘があります。対ロシア核抑止力が効いたはずとの見方です。

ロシア・ウクライナ戦の現実は、G7を中心とする通常兵器の支援もあり、志気が高いウクライナ軍がロシア軍を押し返し、慌てたロシアは隣国ベラルーシに戦場で使う戦術核を配備し、ウクライナをけん制するという妙な展開になっています。いずれやってくる停戦交渉をにらんだカードなのでしょう。

核廃絶と核抑止は厄介な問題です。日本の場合、抑止力として米国の核の傘が差し掛けられています。しかし、78年前のように冷徹な判断を下す米国のこと、この枠組みが不変と考えない方がよいでしょう。岸田さんは「核被爆の悲惨さ確認」と「核抑止力の正当化」をセットで演出しましたが、そのケタ外れの破壊力を再確認して帰った首脳もいたかもしれません。(経済ジャーナリスト、戦史研究者)

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