【コラム・小泉裕司】「ドンとなった花火だ きれいだな 空いっぱいに広がった」。童謡「花火」(作詞・井上赳、作曲・下総皖一、1941年発表)の歌い出し。打ち上げ花火の轟(ごう)音をオノマトペで、開いた大輪の豪快さや美しさを最短のフレーズで素直に伝えきっている。
この童謡から80年を経た今日、コロナ禍で花火大会の中止が相次ぐ中、煙火(花火の法律用語)業界は、事業そのものの継続性が危ぶまれる厳しい経営が続いている。
こうした状況を受け、土浦市は1月から2月の週末5日間、煙火業界の支援を目的とした日本花火史上初の花火イベント「土浦の花火 後世に伝える匠の技」を開催。全国18都道県から、煙火業者55社が市内の霞ヶ浦湖岸に集い、工夫を凝らした個性豊かな花火を披露した。
打ち上げ場所は非公開の中、会場に近いスーパーの駐車場で、わが子と見たという女性が後日、手振りを交えてそのときの感動を語ってくれた。中でも、周囲から「うおー」と歓声が上がる花火があったという。「最近の花火はすごい。ぐるぐる回るんですね」
「ははーん、あの花火のことか!」と合点した私は、したり顔で彼女に解説した。
「時差式発光花火のことですね。イルミネーションやスライド、ウエーブと名付ける花火師もいます。Time lag(タイムラグ)やGhost(ゴースト)の英語表記も見かけます。実のところ、花火が動いているわけではなく、あたかも回っているように錯覚しているだけなんです」
これを心理学では「仮現(かげん)運動」と呼び、たとえば夜瞬くネオンサインは、ランプが実際に動いているわけではなく、多くのランプを適当な時間間隔で点灯したり消したりの繰り返しによって、まるで動いているかのような印象を視覚的につくりだしているとのこと。
この現象を応用したのが「時差式発光花火」であり、花火玉に仕込まれた光を放つ「星」の燃焼時間や温度をわずかずつ変えることで生じる「ずれ」を応用して発光させるという。
花火の進化は温故知新
そのルーツとされるのは、昭和42年(1967)に登場した三遠煙火(静岡県)の「マジック牡丹(ぼたん)」。通常の火薬に火が見えなくなる特殊な火薬をまぶすことで一瞬消えて、再び夜空に浮かび上がるという花火で、当時、常識を破る革命的なアイデアであり技術であったとのこと。
半世紀も前に原型があったことが驚きだが、同時に、温故知新の精神と豊富な化学知識を融合させた現代の花火師の緻密(ちみつ)な技から編み出された逸品といえる。
理科系男子にもかかわらず、私は化学式が大の苦手。やはり花火は「見せる側」ではなく「見る側」で間違いなかったようだ。
実は、この花火はカメラマン泣かせ。花火を写真撮影しても音は写らないのと同様、肉眼で見た複雑な光の変化は静止画像では表現しきれないので、ご覧になっていない方は、一度、花火会場でサプライズを体感されてはいかが?
本日はこの辺で「打ち止めー」。「ドン ドーン!」。(花火鑑賞士、元土浦市副市長)
<花火の動画2つ>
▽土浦の花火:2022年1月22日 マルゴーのスターマイン4号玉(実行委員会提供)
▽常総きぬ川花火大会:2021年12月12日 マルゴーの10号玉(筆者撮影)
【こいずみ・ひろし】1954年、土浦市生まれ、県立土浦一高卒。工学院大学工学部卒。民間企業を経て土浦市役所に入庁。政策企画課長、市長公室長を歴任。2017年まで副市長1期。在職中、花火審査員係業務に13年従事。現在、日本花火鑑賞士会会員。ラジオやネットTVにも出演。茨城新聞に寄稿(19~22年)。花火セミナー開催や「花火通信」(Facebook)などで花火の魅力を発信中。「花火と土浦」(土浦市、2018年)も一部執筆。同市在住。