【コラム・瀬尾梨絵】今回ご紹介するのは、独特の筆致とハイセンスな世界観で、多くのファンを魅了し続けるオノ・ナツメ先生の「LA QUINTA CAMERA(ラ・クインタ・カーメラ)〜5番目の部屋~」(小学館、全1巻)。舞台はイタリアのとある街。そこにあるアパートの一室では、性格も職業もバラバラな4人の中年男性たちが共同生活を送っている。彼らの住まいには、いつも空いている「5番目の部屋」があり、短期留学生や旅人に貸し出している。そこから静かに物語は動き出す。
オノ・ナツメ先生といえば、「リストランテ・パラディーゾ」や「ACCA13区監察課」など、渋い「おじさま」を描かせたら右に出る者はいない。
本作でもその手腕は遺憾なく発揮されており、同居者は、少し気難しかったり、陽気であったり、家事が得意であったりと、それぞれに人生の年輪を感じさせる魅力的なおじさまたち。彼らが囲む食卓や、何気ない日常のやりとりを見ているだけで、読者はイタリアの石畳の上を歩いているような、心地よい異国情緒に包まれる。
この作品の最大の読みどころは、ゲストとして「5番目の部屋」にやってくる人々との交流にある。言葉も文化も違う異邦の若者たちが、一時的にこの部屋に滞在することで、住人である4人の男性たちの日常に小さくて温かい波紋が広がっていく。
この部屋を訪れる留学生たちは、それぞれに夢や悩みを抱えている。対する4人の住人たちは、彼らに過剰に干渉することなく、そっとおいしい料理を差し出したり、さりげない一言で背中を押したりと、年長者ならではの距離感で寄り添う。その交流は劇的なドラマではないが、誰かの人生がほんの一瞬だけ交差し、互いの心を少しだけ温め、また離れていく。そんな一期一会の美しさが、この作品には満ちあふれている。
心の余裕と他者への慈しみ
また、オノ先生の描くイタリアの描写も絶品。シンプルながらも洗練された線で描かれる街並みやインテリア、そして何よりおいしそうな料理の数々。読み進めるうちに、淹れたてのコーヒーの香りや、温かなパニーニの食感、窓から差し込む午後の柔らかな光まで感じられるような、五感に訴えかける表現力が本作の濃度を一層高めている。
派手なアクションや奇抜な設定はないが、ここには現代人が忘れがちな「心の余裕」と「他者への慈しみ」が描かれている。読み終えた後、まるで良質な短編映画を観た後のような、清々しくも少しだけセンチメンタルな余韻に浸れるはずだ。忙しい日常に少し疲れを感じたとき、あるいは静かな夜に一息つきたいとき、ぜひ『LA QUINTA CAMERA』の扉を叩いてみてほしい。
5番目の部屋に集う人々の優しさが、あなたの心も穏やかに解きほぐしてくれるだろう。(牛肉惣菜店経営)






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