リーバー 伊藤俊一郎さん つくば市
医療相談アプリ「リーバー」を開発、資金調達にもメドを付け、法人向けサービスに打って出る体制を整えたのは2020年の新年だった。リーバー(つくば市高野、旧社名アグリー)社長、伊藤俊一郎さん(42)は講演で、筑波大学医学専門学群卒業後の医師、起業家としての波乱に満ちた経歴を語っていたが、直後、新型コロナ感染症がわが国を襲った。アプリの担う役割は大きく膨らみ、伊藤さんはさらなる激動の2年間を駆け抜けることになる。
リーバーは、スマホを操作して医師と相談するアプリで、18年1月にリリースされた。登録ユーザーはチャットスタイルの自動問診で、「痛い」「かゆい」などの症状を伝えると、医師が即刻回答に応じ、最寄りの医療機関や適切な市販薬などがアドバイスされる仕組みだ。24時間365日の相談体制を敷き、医師と患者家族の負担を軽減するヘルスケアのツールとなるはずだった。
ところが、感染症は一気に拡大の気配を見せ、伊藤さんは2月、アプリの無償提供を即決した。この時点で登録者数は8000人ほど、つくば市内では25人を数えるだけだった。茨城県からの要請を受ける形で、県内120万世帯を対象にした無償提供は9月まで続いた。
同年6月からはつくば、つくばみらい両市の児童・生徒向けに「リーバー・フォー・スクール」の提供を開始し、学校現場や学級管理の担当者へ家庭からデータを自動送信できる体制を整備した。「朝の忙しい時に面倒と反発されましたけど、学校現場は何もしないわけにはいかない。検温や体調管理の集計を紙ですることに比べたら場所や手間を取らない分、随分助かったと言われるようになったし、保護者からも継続の意向が示された」。現在は連絡事項を伝えられるメッセージ機能などが追加され、全国1000校以上の教育機関で利用されている。
職域接種は10万人に
医師としての伊藤さんは、1都5県15カ所に展開するアグリグループ(つくばみらい市、日馬祐貴代表)で訪問診療などを行うクリニックを運営してきた。2021年に入ると、同グループと連携し、新型コロナワクチンの「職域接種」実施企業の受付を開始した。地銀や商工会などの企業・団体を含め、6月以降57カ所で10万人への接種を手がけた。「医療従事者の手配にかかる費用が無料で驚いた」「医療従事者の手配や複数団体での予約の際の管理が大変だったので助かった」などの声を聞いているという。
アプリ自体は11月に、累計50万ダウンロードを突破した。相談に当たる登録医師数は350人を超えている。「昨年だと熱があるけど病院に行くべきかといった相談が多かったけれど、今年はワクチンに対する相談がぐんと増えた。多くが副反応を心配するものだった」
アプリに付加する形でデジタルワクチン手帳の提供も始めた。接種したワクチンのメーカーや日にち、接種済証の写真を保存しておくことができる。定期チェックを受けることもできるため、副反応が正常なものかを確かめることも可能となるという。
新型コロナは「第5波」以降、オミクロン株という不安要因を抱えながらも落ち着いた推移をみせている。感染力は強いものの重症化のリスクは低いとされるオミクロン株に警戒を怠ることはできないとする伊藤さんだが、「今後、新型コロナは一般的な病気になっていく」との見方を示している。
「ただ、インフルエンザなどと違って後遺症の懸念が大きかったりする。自宅療養患者が増えると急変に対する備えもいる。健康観察アプリの役割は増えていくはず」と来年以降を見据えている。(相澤冬樹)