日曜日, 12月 28, 2025
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下肢まひ障害者の自立歩行探る つくばで生活支援ロボットコンテスト

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歩行器仕様のロボットを操作して課題「トイレ」に取り組むチームWPAL=つくば市中菅間

障害があり車いすで生活している人たちの「自立歩行」を実現する機器の開発・普及を目的に、生活支援ロボットコンテストが29、30日の両日、つくば市の廃校跡の特設会場で開かれた。グローバル・イノベーション・チャレンジ(GIC)実行委員会(東京都港区、上村龍文実行委員長)による、同市では2回目の開催で、国内外から2チームが参加して、「食事」や「トイレ」「洗濯」など5課題に挑んだ。

会場となるGICつくばイノベーションセンターは、旧菅間小(同市中菅間)体育館に設置された平屋建ての仮設住宅。キッチンとリビングルーム、たたみ敷のベッドルームに水回りなどの間取りで構成され、壁がガラス張りで透視できる形になっている。

今回は藤田医科大学(愛知県豊明市)を中心にしたチームWPAL(ウーパル)、台湾に拠点を置く企業の子会社の日・台の2拠点からの参加となるチーム FREE Bionics(フリーバイオニクス)が参加。それぞれ股継手やロボット支柱、モーターを両下肢内側に配置し、高い立位安定性を実現(WPAL)、股関節と膝関節にモーターがあり、立つ、座る、歩くことを可能にした(FREE Walk)ロボットを持ち込んだ。

チーム FREEのロボットを前に江郁軒さん(左)とパイロットの松原浩平さん

課題「トイレ」は、ベッドから起き上がり、ロボットを装着。トイレに移動し、ズボンを足首まで下ろして便座に座り、用をたした後、便座から立ち上がり、ズボンを上げ、水を流す。洗面所に移動して手を洗い、タオルで手を拭きベッドに戻るまでを制限時間8分でこなす内容だ。

下肢まひの障害を持つ当事者がパイロット役を務め、車いすからロボット装着に乗り換える形で住居内を移動する。住宅の天井から装身具が吊るされ、パイロットの転倒事故を防ぐ配慮が講じられるが、各チームの人力による補助は得られない。両チームとも事前に、同センターで練習を重ねながら、日常の生活動作をこなす一連の課題に取り組み、コンテストに臨んだ。

同コンテストは2021年からリモート競技により始まり、昨年から同会場での「リアル開催」になった。課題ごとに達成賞金が贈られ、7つの課題をすべてクリアした場合の賞金総額は100万ドル(約1億6000万円)、「トイレ」課題1つの達成でも5万ドル(約800万円)が授与される。今回は難易度の高い「掃除」(掃除機で住宅内を掃除しごみ袋を外に出す)、「入浴」(入浴して着替える)の2課題への挑戦は見送られたが、5課題に2チーム合わせ9回のチャレンジが行われた。

昨年は1課題のクリアにとどまったが、今回は各課題で制限時間内に作業を完了させるチームが続いた。ロボットとリハビリテーションの専門家による現地審査が行われ、オンライン審査と合わせた結果から課題クリアの認定が行われる。上村実行委員長によれば「審査には1週間程度かかるが昨年を上回る成績が出そうだ」との見通し。

特設会場の仮設住宅間に集合したコンテスト参加=つくば市菅間

FREE Bionicsチームリーダーの江郁軒(コウユウケン)さんは「時間制限がきつくパイロットに頑張ってもらうことになった。機能を付け足しながら安全性にも取り組んできたがまだ改良すべき点がある。機会を与えてもらえれば来年もチャレンジしたい」という。

上村実行委員長は「7課題については10年ぐらいかけてクリアできればと考えている。次のステップでは街に出たいと考えており、最後には自立歩行で筑波山に登りたい」構想でいる。(相澤冬樹)

夏に向けチーム状態上向き アストロプラネッツ、福島に勝利

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1回裏1死三塁、原が先制の適時二塁打を放つ(撮影/高橋浩一)

プロ野球独立リーグ・ルートインBCリーグの茨城アストロプラネッツは29日、つくば市流星台のさくら運動公園野球場で福島レッドホープスと対戦、4-1で勝利した。茨城の通算成績は10勝19敗で7チーム中5位。6月はここまで3勝3敗で中止が3試合だった。30日は古河市駒ケ崎のヨシダスタジアムで福島と再戦する。

【ルートインBCリーグ2024公式戦】
茨城アストロプラネッツ-福島レッドホープス
福島 010000000 1
茨城 20010010X 4
(6月29日、さくら運動公園野球場)

茨城は先発の福田拓也が6イニングを好投。2回に単打と二塁打で1点を失い、3回に1四球を与えた以外は、すべて三者凡退で退けた。「真っ直ぐのキレが良く、変化球ではフォークをコーナーに投げ分けられた」と本人の評。ポップ成分が多く伸びがあるストレートが武器で、ボールの下を叩かせて多くの打者をフライアウトに打ち取った。「相手打線は中軸に良い打者を揃えているので、甘い球を投げないことを意識し、腕を振って強い球を投げた」とも話した。

先発し6イニングを2安打1失点、4奪三振で勝利投手となった福田(同)

打線は初回に2点を先制。まず1死一塁から牽制悪送球で走者の北原翔が三塁へ進み、3番の原海聖が左翼線へ二塁打を放ち1点目。「相手投手はカーブにキレがあったが、直球に自信を持っている様子だったのでそれを待ち、高めの球を外野へ運ぶことを意識した。ちょっと詰まったかと思ったが、振り抜いて強いライナーを打つことができた」と原の振り返り。

これで相手投手はリズムを崩したか、3者連続四死球となり押し出しの1点を加えた。

4回には先頭の8番マーティンが四球を選び、9番ジョ・ミンヨンが中越えの二塁打。これを中堅手がファンブルする間にマーティンが本塁へ還り、ジョは三塁へ到達した。「2ストライクまではバントを狙っていたが、最後にストレートが来て良い打球が打てた。自分は打球の飛距離と打球速度が売り。最近はタイミングが合ってきているので、このままあせらずやっていけば、ずっと良い打球が打てると思う」と活躍をもくろむ。

7回裏1死三塁、大友の犠牲フライで1点を追加(同)

7回には代打の眞城敬朋が右翼線へ二塁打、原の内野ゴロで1死三塁となり、4番・大友宗が右翼への犠牲フライで1点を追加した。「打ったのはカーブ。芯に当たらず詰まったが外野まで飛んでくれた」と大友。帝京大学から日本通運を経て今季茨城へ。ホームランは現在8本でリーグ首位へあと1本と迫る。「開幕直後に肉離れで3週間休んだが、徐々に調子を戻してきた。打席で自分のスイングができれば、パワーはあるので飛ばすことができる。引っ張りすぎないようセンターを意識し、右方向へのホームランも増やしていきたい」との考えだ。

リリーフ陣は富樫晃毅、浅野森羅、根岸涼が1イニングずつ務め、根岸にセーブポイントが付いた。「試合間隔が空いて3人とも万全の状態で、危なげなく力を発揮してくれた。いい雰囲気が続いているのでそれを崩さないよう、勝つための投手リレーをした」と巽真吾監督。

8回のマウンドに立ち、3者凡退に抑えた浅野(同)

上向きのチーム状態に加え、開幕前からのトレーニングが実を結び、暑さに強いチームづくりができている。このまま夏バテせずに伸びていけば、7・8月でさらに勝ち星を重ねられると巽監督は見ている。「そのためには若い選手たちの突き上げも必要。長いシーズンに慣れていないと、その日の結果で一喜一憂してしまいがちだが、明日にはまた次のチャンスが来る。試合に出てたくさんバットを振り、時には辛抱して塁に出るのも仕事の一つ。そして甘い球が来たときには1球で仕留めてほしい」と期待をかける。(池田充雄)

あの痛みは突然やってくる…尿路結石症《メディカル知恵袋》5

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イタタタタ…(イラストは筑波メディカルセンター提供)

【コラム・小峯学】尿路結石症、中でも尿管結石症は七転八倒して嘔吐(おうと)・発汗などの自律神経症状も伴い、救急車で来院される方も珍しくありません。「あんな思いはもうしたくない」「死ぬかと思った」と多くの方がおっしゃいます。今回は上部尿路結石症(腎および尿管)の診断と治療、原因と予防法について説明します。

尿路結石症の症状と診断

腎結石・尿管結石の症状としては、突然に片側のわき腹や背中が痛くなることが多く、時に血尿を伴います。このときの激痛は『疝痛発作(せんつうほっさ)』と呼ばれ、嘔吐・発汗などを伴い、胃腸の病気と間違われることもあります。結石が膀胱(ぼうこう)近くまで、あるいは膀胱内に移動すると、トイレが近いあるいは残尿感といった膀胱炎症状が出現することもあります。

一方、無症状で、他の疾患の検査や人間ドックなどで偶然発見されることもあります。症状がない場合でも、結石が尿の流れを止めてしまって、腎臓が腫れる『水腎症』とよばれる状態になると、腎臓機能低下を引き起こすため治療が必要となります。

医療機関での検査は、主に尿検査や超音波検査・レントゲン検査が行われます。CTスキャンが必要になることもあります。

上部尿路結石症の治療

結石が薬物治療によって溶解することは特殊な場合に限られ、非現実的です。おおむね8ミリ程度までは尿と一緒に自然に体外に排出されることが期待できるため、水分摂取を心掛け、痛みを伴う場合には鎮痛剤を服用することになります。自然排石しない場合や10ミリ超の結石の場合には手術的治療が推奨されます。

38度以上の発熱を伴う場合には、重篤な細菌感染症(閉塞性腎盂じんう腎炎→敗血症)を併発している危険性があり、この場合には緊急処置や集中治療が必要になります。手術的治療としては、開腹手術・腹腔(ふくくう)鏡下手術はほとんど適応とならず、以下にご紹介するESWL・TUL・PNL(併用含む)が診療ガイドライン上、推奨されています。

ESWL(体外衝撃波結石破砕術)

体外から衝撃波を結石に当て結石を破砕する治療です。鎮痛剤投与による治療が可能で1~2日の短期入院治療で行えるメリットがあります。1センチ程度の腎および上部尿管の結石が適応となりますが、2~3回の治療を要することもあります。当院にはESWL機器はなく、ご希望される方には対応可能な施設へご紹介しております。

TUL(経尿道的腎尿管砕石術)

細径の内視鏡を尿管内に入れ、結石に直接ホルミウムレーザーなどを当て細かく砕石、可能な限り砕石片も回収する治療です。麻酔および数日の入院が必要となりますが、確実性の高い治療となります。治療後には尿管ステントという細いカテーテルを留置して、1~2週後に外来で抜去となります。治療機器および高度の技術が必要で、数年前までは他の施設へ紹介しておりましたが、現在では当院でもTULが可能となり、多くの施設よりご紹介いただいております。

画像提供:ボストン・サイエンティフィックジャパン

PNL(経皮的腎砕石術)

背中から腎臓に内視鏡のルートを作成して、直接腎臓の結石を砕石して回収する方法です。他の治療法では時間および期間を要する大きな結石も短時間で治療可能ですが、出血などのリスクがあります。腎臓へ直達できる特殊な内視鏡機器が必要であり、整備され次第、速やかに導入したいと考えております(時期は未定)。

上部尿路結石症の疫学と予防

誰しも結石の痛みは経験したくないものですが、上部尿路結石症の患者さんは急増しています。いわゆる生活習慣病の増加と比例しています。肥満の方に多い傾向であることもわかっています。40年前の3倍となっており、男性は7人に1人、女性は15人に1人の割合で、生涯に一度は尿路結石症に罹患するといわれています。

また、再発率の高い疾患でもあります。尿のミネラル濃度が濃くなると結石ができやすくなるので、水分摂取を心掛けて十分な尿量を確保するとよいでしょう。しかし、ビールなどのアルコール類、糖分入りのソフトドリンクは結石のもとになる成分が多めに含まれており、逆効果になってしまいます。

最も多い尿路結石はシュウ酸カルシウム結石であり、尿中のシュウ酸排せつを少なくすることが結石予防において重要です。シュウ酸はカルシウムと結合しやすいため、不足しがちなカルシウムを意識して摂取し、腸管からのシュウ酸吸収を抑制すること、また脂肪摂取を少なくすることもシュウ酸吸収の抑制につながり、結石の予防となります。

次に多い結石が尿酸結石であり、尿酸値が高い「痛風(高尿酸血症)」の方にできやすい結石です。プリン体を多く含む食品を過剰に摂取すると尿酸値が高くなり、尿中の尿酸濃度も濃くなるため結石ができやすくなります。これらの食品摂取を控えることが高尿酸血症の予防、ひいては尿酸結石の予防につながりますので心がけてみてください。(筑波メディカルセンター病院 泌尿器科 診療科長)

茨城県南に競馬場があれば…《遊民通信》91

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【コラム・田口哲郎】

前略

美浦トレーニングセンターは日本中央競馬会(JRA)の施設です。日本に2つしかないトレセンが茨城県の美浦村にあります。もうひとつは滋賀県の栗東です。

ウィキペディアには、トレセンとは「競馬において、競走馬の管理・調教を行うために各競馬施行体が建設した施設群のこと」とあります。要するに、競馬を開催するために必要な競走馬の育成、騎手の養成という大事なことを行っている、競馬に欠かせない施設ということになります。

美浦の馬は主に東側で開催される競馬―東京、中山、新潟、福島、函館、札幌―に競走馬と騎手を送り出しています。もちろん中京、京都や阪神、小倉でも関東馬が活躍することはあります。

そんな主要な施設が茨城県南にあるのは素晴らしいことですね。広大な平坦な土地があることがメリットでしょうか(平坦ばかりでは馬の調教には良くなかったようで、調教師さんたちは苦労されたようですが)。昔は成田にも皇室の御料牧場があって、軍馬を育成していたようですが、それは関東が古来馬の産地だったからだそうです。

新たな競馬場に最適な県南

さて、私はたまに東京競馬場や中山競馬場に行って、レースを鑑賞するのが好きです。少額掛けて、勝負を楽しむドキドキ感が非日常を与えてくれます。いまは競馬場にも、女性、子どもも増えて、男性だけの娯楽ではなくなりつつあります。競馬場に来ている人びとを見ていると、みんな楽しそうです。

賭け事ですから真剣ですが、みんな楽しんでいるのがよくわかります。馬群の重低音の足音、ゴール前、歓声の中を駆け抜けるジョッキーのかっこよさ。なんといっても頑張って走るサラブレッドたちの勇姿と愛らしさ。競馬場はとてもきれいで明るい娯楽施設になっていると思います。

東京や中山から帰ってくるたびに思うのは、茨城県南にも競馬場があればよいのに、ということです。美浦のトレセンも近くにあることだし、競馬場へ輸送される際の負担も減らせるでしょう。どこかの競馬場の代わりに、というのではありません。もうひとつ新しく競馬場を建てるのです。サラブレットが余っているとも聞きます。レースの機会が増えれば、今後の競馬の発展にもつながると思います。

たとえば、阿見の二所ノ関部屋の後ろには広大な田畑が広がっています。ひたち野うしく駅にも近いです。

田園のなかの競馬場。昔は府中の東京競馬場も中山競馬場もこうした風景のなかにあったのだと思います。治安の問題など解決しなければならないこともありますし、環境破壊の問題もあるでしょう。しかし、自然との共生を目指す娯楽は新たな可能性を街に与えてくれる気がします。緑豊かな街のなかの競馬場…都会の競馬場に行くたびに夢見てしまいます。ごきげんよう。

草々

(散歩好きの文明批評家)

パリ五輪へ 筑波大、選手や競技役員ら多数輩出

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表敬訪問した大岩監督=つくば市役所

大岩剛監督「決勝進出めざす」

7月26日から8月11日まで開催されるパリオリンピック2024に向け、選手ばかりでなく競技役員を含め多数を輩出する筑波大学(つくば市天王台、永田恭介学長)の陣容が整ってきた。27日には、筑波大出身で男子サッカー23歳以下日本代表を指揮する大岩剛監督(51)がつくば市を表敬訪問し、五十嵐立青市長らの激励を受けた。

表敬訪問は、大岩監督がスポーツアドバイザーを務める関彰商事の仲立ちで実現した。在学中の恩師である同市の萩原武久スポーツ担当理事らが同席した。

大岩監督は「パリが会場となる決勝に進むこと。金か銀かいずれかのメダルが確定し、メキシコ五輪の銅以上の成績となる」ことを目標に掲げた。萩原理事は「五輪出場を決めたアジアカップの戦いは感動的だった。ある意味、五輪はワールドカップよりも注目度が高いイベントで、子供たちに夢を与える舞台にしてほしい」と激励した。

右から2人目が表敬訪問した大岩監督=同

大岩監督は筑波大に1991年から94年に在籍し、卒業後Jリーグの名古屋や鹿島で活躍、日本代表にも選出された。2017年から鹿島の監督を務め18年にはアジアチャンピオンズリーグを制覇。22年に21歳以下の日本代表監督となり、今年のU23アジアカップで優勝してパリの切符をつかんだ。「いい準備ができている」という。

23歳以下日本代表は7月11日にフランスに旅立ち、マルセイユで事前キャンプの後、24日の初戦でパラグアイ、27日の第2戦でマリ、30日の第3戦でイスラエルと対戦する。24歳以上の特別枠オーバーエージ(OA)の有無などで注目される18人のメンバーは3日に発表の予定だ。

7月4日に壮行会

森秋彩選手の紹介をする高木英樹体育スポーツ局長=筑波大学

筑波大学は7月4日午後、大学会館に出場内定選手らを集め壮行会を開催する。今回の五輪選手団では団長、副団長を同大学出身者が務めるという陣容で、過去133個ものメダルを獲得した同大学の五輪への新たな挑戦が始まる。

これまでに内定した選手(敬称略)は、永瀬貴規(柔道、体育専門学群卒業)、柄本遼香(飛込、人間総合科学学術院人間総合科学研究群在籍)、森秋彩(クライミング、体育専門学群在籍)らで、有力なメダル候補を含む。内定者数は「7月上旬にかけさらに続々増えるだろう」と高木英樹体育スポーツ局長。

日本選手団は海外で行われる五輪では史上最多となる400人余りとなる見通し。選手団長を務める尾縣貢さんは陸上競技者で筑波大学大学院人間総合科学研究科教授。同大体育専門学群卒、同大学院修了、東京五輪2020では日本選手団の総監督を務めた。今回の選手団副団長は2004年アテネ五輪、08年北京五輪で金メダルの谷本歩実氏(柔道、体育専門学群卒業)が務める。

日本選手団団長を務める尾縣貢氏=筑波大学東京キャンパス

4日の壮行会には、これら内定選手に加え、パラリンピック競技の藤原大輔(パラバドミントン、体育専門学群卒業)、高橋利恵子(ゴールボール、人間総合科学学術院障害者科学学位プログラム修了)が出席する。同日午後3時からはフランス外務省と連携して、社会におけるスポーツの意味と可能性をテーマにした日仏討論会も予定されている。(相澤冬樹)

➡子供たちに向けた大岩監督のメッセージ

ヘラルボニー設計 福祉の店がつくば市役所にオープン

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展示を意識したコーナーが用意されている店舗中央

障害との出会いの場に

つくば市役所(つくば市研究学園)の正面玄関を入ってすぐのスペースに、福祉事業所の商品を扱う店舗「融点」が27日オープンした。店舗の設計・プロデュースは、障害のある作家の展示会開催や作品を取り入れた商品を開発するヘラルボニー(岩手県盛岡市、松田崇弥・松田文登社長)が担当した。運営するのは市内で活動する15事業所による任意団体「つくば市『福祉のお店』を運営する会」(高野智史会長)。

福祉の店はこれまで期間限定のイベントとして年に数回、市役所で開催していた。常設店舗を設置した理由は、継続的な売り上げをつくることで、店舗で働く障害者の賃金向上を目指すと共に、市役所を訪れる市民と障害がある人たちの接点をつくるためだとする。

オープン記念式典には、参加事業所で製品を作る障害の当事者たちも集まった

店舗には、運営する会に参加する各事業所でつくる農作物や卵、飲料、パン、バッグなどの雑貨、約100点が並ぶ。美術展示ギャラリーを意識した店内には、それぞれの商品に込められた作り手の思いがキャプションとして添えられている。

店舗運営にかかる経費は運営する会が負担する。店舗には各事業所の職員と、事業所を利用する障害当事者数名が立ち、販売された商品の代金から、人件費と手数料を引いた金額が各事業所に支払われる仕組みだ。場所は市が無償で貸し出す。

運営する会の代表で、市内で障害者の就労支援B型事業「ごきげんファーム」などを運営するNPOユアフィールドつくば副代表理事の高野智史さん(37)は「つくば市の自立支援協議会に参加する福祉事業者の中から『事業所で作る商品をもっと広げたい』と話が上がったことがきっかけになり、立ち上がった企画。それぞれの事業所が作る製品の魅力と質を向上させていくためにも、事業所同士で連携、切磋琢磨し、地域に愛されるお店にしていけるよう協力していきたい」と語った。

式典であいさつに立つヘラルボニーの松田崇弥さん

店舗を設計・プロデュースしたヘラルボニーの松田崇弥社長は「障害のある自身の兄の存在が事業のきっかけになった」と話す。つくば市との出会いのきっかけを、つくばで障害者のアート活動に取り組む自然生クラブとアート契約を結んだことだとし、「今回が行政との初めての仕事の機会になった。つくばは先進都市でいろいろなところにチャレンジしている街という印象。市長からは『縛られずに自由にやって欲しい』と言われ、ありがたい機会になった」と話す。また「これまでしてきたギャラリーなどでの仕事が生かされた店舗設計。それぞれの商品の作品性の高さを感じてもらいたい」とし、「店名の『融点』という言葉が示すように(作り手である障害のある人たちの)温度を感じてもらい、この場を訪れる人たちの気持ちが変化し、たくさんの市民に愛されるお店になってほしい」と語った。ヘラルボニーに対する委託費はホームページの作成を含め約1500万円という。

オープン式典であいさつに立った五十嵐立青市長は「『溶け合う』ことがコンセプト。買い物にくる人がここで働く(障害のある)人と対話をして、福祉に持っていた思い、考え方が解けていく場所になれば」と話した。

店舗に並ぶ卵を提供する「ごきげんファーム」養鶏担当の齋藤蓮さん(23)は「事業所のみんなと心を込めて作った卵。お店ができて自分もうれしい。みんなでおいしく食べてほしい」と思いを込めた。(柴田大輔)

3年連続の赤字 つくばまちなかデザイン23年度決算

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つくばまちなかデザインの決算報告があったつくば市議会調査特別委員会

つくば市議会つくば中心市街地まちづくり調査特別委員会(塩田尚委員長)が26日開かれ、市が出資するまちづくり会社「つくばまちなかデザイン」(同市吾妻、つくばセンタービル内、内山博文社長)が2023年度決算(23年4月-24年3月)と24年度の見通しなどについて報告した。通常事業の収支である23年度の経常損益は約188万円(税引前)の赤字で、設立以後3年連続の赤字となった。内山社長は、貸しオフィスのテナントが退去し空き区画が発生したほか、「黒字化させることを目指したが(ロボット配送の)受託事業が1月で中止となった」ためだとしている。

24年度は、つくばセンタービル4階の吾妻交流センター跡地にオフィスを整備する改修工事などのため経常損益は2450万円の赤字を見込む。

一方、つくばセンタービル1階を貸しオフィスなどに改修する際に調達した社債約3億1600万円の元本返済が24年度から始まり、24年度は500万円、25年度は2000万円の返済が新たに求められる。

売り上げ1.7倍

23年度の売上高は前年度の1.7倍の約1億4900万円となり、売上高から売上原価や販売費及び一般管理費などの経費を差し引いた、本業で稼いだ営業利益は約600万円になった。一方、利息などの返済に約862万円かかり、約188万円の赤字となった。これにより23年度末の負債残高は約3億4600万円、純資産合計は約6650万円となった。

各事業の内訳は、貸しオフィスやコワーキングスペース(共同オフィス)、カフェなどつくばセンタービル1階のco-en(コーエン)事業は、売上が約4630万円、粗利益は約52万円になった。コワーキングスペースは月額会員が23年度末で56人、ビジター会員利用者は1375人と増えているのに対し、貸しオフィスは急きょ退去したテナントがあった。

地下駐車場は、新型コロナが5類に移行しイベントなどが多数開催されたことから、売上は月100万円を超え計約1360万円となり、粗利益は630万円となった。

つくばエキスポセンターのカフェは、夏休みなど学校の長期休暇期間を除いて週末のみの営業となっていることから、施設としての売上は約2100万円、同社の粗利益は約53万円となった。

23年4月からつくばセンター広場の指定管理者となり、つくばセンタービルのペデストリアンデッキなどを活用したにぎわいづくり事業として、市民がイベントを開催しやすくするためのアドバイスや物品の貸し出しなど29件を支援したほか、イベントが少なくなる夏季にウォータースライダーやプールなど子供が水遊びを楽しめる自主事業を開催し6日間で1454人が利用した。

コンサルタントなどの受託事業は前年度に引き続き、新規建設のマンションに隣接する吾妻1丁目のろくまる公園についてマンション開発事業者から公園リニューアル案の作成業務を受託したほか、スーパーから各家庭などに商品をロボットで配送するサービスの運営を受託した。ほかにつくば駅周辺で実施の実証実験のアドバイザー、県外のまちづくりに関するアドバイザーを受託し、計約6400万円の売り上げがあり、71%の4600万円の粗利益があった。

ほかに、中心市街地のイベント情報を発信するSNSのリニューアル、駅周辺マンションの入居を共同でPRする移住サイトの立ち上げ、県内の飲食店の加工食品を販売する冷凍自動販売機の運営、地域通貨の運営などに取り組んだとしている。

オフィス増設、こども実験教室やカルチャースクール

24年度については、co-enの2期工事に着工し、4階の吾妻交流センター跡地約550平方メートルに20~80平方メートル程度の貸しオフィス7区画などを整備する。ほかに1階を一部改修し、コワーキングスペースを拡張するほか、新たに研究者や企業と連携し子供たちに科学を体験してもらう「こども実験教室」や、ヨガ、親子イベント、スポーツ教室、アート体験などの「カルチャースクール」を開催する計画という。

2期工事の事業費は5000万円弱で、9月に着工、4階のオフィスは12月にオープンし、1階の科学教室などは来年4月から開講する予定だ。(鈴木宏子)

おくすり手帳《くずかごのうた》140

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イラストは筆者

【コラム・奧井登美子】

「処方箋をいただきます。お薬手帳はお持ちですか?」

「内科の手帳なら家にあります。でも、今日は花粉症がひどくて、ひどくて、耳鼻科を受診しました」

「お薬手帳は、大事な健康データなので、医院が違っても、科が違っても、むしろ違った時こそ、普段どんな薬を飲んでいるか分かりますので、大切なのです。今日の薬は印刷した紙をお渡ししますので、その手帳にお貼りください」

お薬手帳はひとり一冊。医療データの記録が大事なので、薬の記録のほかにも医者に言われた大事なことは忘れないように手帳に書いておくこと―と、口をすっぱくして言っているのに、まだ、よく使い方が分かっていない人も多い。

薬というものは、有効性も、副作用も、個人差が大きい。医者、薬剤師、医療従事者―誰が見てもわかるように記録しておかないと、その人にふさわしい医療が成立しない。

和紙や和布で表装してみた

お薬手帳を大事にしすぎて、バッグから取り出すのに時間のかかる友達がいた。私が透明なプラスチックのカバーに、ものすごく派手な柄の和紙を両面テープで張り付けてプレゼントしたら、とても喜んでくれた。

高価な牛革の立派なケースを買ったけれど、持って歩くのに、バッグが重くなってしまって、どうしたらいいか困ってしまっていたという。

和紙や和布なら軽いし、バッグを開けた時にどこに入っているかが、すぐ色でわかる。私は自分のお薬手帳をコピーして、1冊は「緊急脱出用薬袋」の中に入れてある。持ち歩きのお薬手帳カバーに、亡くなったおばあちゃんが大好きだった紫色の羽織の端切れを張り付けてみた。

おばあちゃんは天国にいるけれど、いつも、いつも、働き過ぎだった私の健康を気遣ってくれていた。「登美ちゃん。飛び回っているけれど、けがしないように神様に祈っている。3人の子育て、薬局の仕事で忙しい。おじいさんの介護は私がするから大丈夫よ」(随筆家、薬剤師)

住民税変更通知書の摘要欄に誤記載 つくば市 電子送信の64社110人分

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つくば市役所

つくば市は26日、市が会社などに14日電子送信した従業員らの住民税変更通知書(市民税・県民税・森林環境税特別徴収税額の決定・変更通知書)について、64事業者の給与所得者ら110人の摘要欄に、誤った税額控除を記載してしまったと発表した。個人情報の流出はなく、徴収税額自体に誤りはないという。

市市民税課によると、今年度分の住民税決定通知書を5月14日に各事業者に送付した後、変更があった分について6月14日、67事業者に115人分の変更通知書を電子送信した。そのうち64事業者110人分の摘要欄に、「寄付金税額控除 〇〇円」「住宅借入金特別控除 〇〇円」など、別人の税額控除の項目と金額を記載してしまったという。

誤記載の原因は、市から変更通知書の作成を請け負った委託業者が、誤ったプログラムで処理をしたため。さらに市職員の確認が不十分だったとしている。

同課は、同日、誤記載があった事業者に電話で謝罪した上で、正しい住民税変更通知書を再度、電子送信した。

再発防止策として同課は、委託業者に対しプログラム内容の確認を強化するよう指示するほか、市職員による納品時のチェック体制を強化するとしている。

生産者紹介サイト立ち上げ つくばに移住し農業をプロデュース

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よろぎ野の吉田巧代表=つくば市万博公園西

野菜の卸を通じて農業をプロデュースする「よろぎ野.菜よろぎの」(つくば市万博公園西、吉田巧代表)は26日までに、農家自らが情報発信できるオンラインプラットフォーム「いばれる農産人のうさんじん生産者紹介サイト」を開設した。農業におけるモノ・ヒト・チイキをブランド化するプロジェクトの第1弾に位置付け、まずは掲載希望農家の募集を開始した。

つくば市に2011年3月に起業した同社は現在、茨城をはじめ全国各地の農家約100軒と契約し、生産野菜を飲食店や食品スーパーなど約30企業に納入する卸販売を行っている。取引先開拓を続ける中で、これ以上の販売促進には特に生産者のブランド化が不可欠と考えた。

「いばれる農産人 生産者紹介サイト」の掲載イメージ

生産者は気候変動の中で作物の安定的な収量確保に毎年のように苦戦しており、流通側はフードロスの抑止や運転手確保の2024年問題に苦慮している。この両者をダイレクトにつなぐのが同社の立ち位置。今回立ち上げたサイトは消費者向けではないが、スーパーや飲食店が、掲載されている生産者に直接コンタクトを取ることができるのが特徴。流通面についても必要に応じて、同社による橋渡しが可能としている。

同社では近年、ドローンによる栽培管理の効率化やIoT化に業容を拡大している。生産者はこれらに積極的に取り組んでいるものの、企業向けの販売促進には手が回らない。約100件の農家のうち自前のホームページを持っているのは5指に満たない。X(旧ツイッター)などのSNS素材では、販促材料として企業へのプレゼンに使えなかった。

オンラインプラットフォームでは、  同社が運営管理者となって写真撮影や記事作成のバックアップ、サイトの告知などを行う。吉田代表によれば生産者の「顔が見える」形で農産物が迅速に流通する仕組みという。

サイトでは生産者、生産地、生産物の3つのカテゴリー別に欲しい情報にアクセスできる。始まったばかりで掲載生産者は県内の2軒、農産物はトマト、トウモロコシ、コメの3種にとどまるが「茨城にとどまることなくネットワークを広げていきたい」と吉田代表。神奈川県出身、OA機器の営業職から脱サラして、茨城に2008年に移住。「産地も販売先もあるが加工部門がないのが茨城の不満」という46歳だ。(相澤冬樹)

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きみは影《短いおはなし》28

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イラストは筆者

【ノベル・伊東葎花】

学校の帰り道、友達が僕の足元を指さした。

「タケシくん、影がないよ」

見ると、こんなに陽が照っているのに、僕の影だけがなかった。

「こわい! タケシくん、妖怪なの?」

「タケシくん、妖怪だ、逃げろ、逃げろ」

僕は泣きながら家に帰った。
洗濯物を取り込んでいたお母さんが「どうしたの?」と言った。

「お母さん、僕の影がないんだ。僕、人間じゃないんだ」

お母さんは笑いながら、僕のあたまを優しくなでた。

「バカねえ。タケシは人間だよ」

「だって影が…」

「あのね、タケシ。影はね、ときどきいなくなるんだよ。ときどきどこかに遊びに行くんだ」

「そうなの?」

「そうよ。ほら、もう戻ってきたよ。足元を見てごらん」

下を見ると、僕の影はちゃんとあった。
お母さんの影と並んで、長く伸びていた。

それから僕は、歩く人の影を見るようになった。
お母さんが言う通りだ。ときどき、影のない人がいる。
影も遊びに行くんだ。影もたまには遊びたいんだ。
僕たちと同じだ。

夏休みになった。
僕は部屋で、ダラダラと宿題をやっていた。

『出かけないのかい?』

足もとから、声がした。

「だれ?」

『きみの影だよ。今日はちょっと遊びに行こうと思っているんだけど、きみが外へ出てくれないとボクも遊びに行けないんだ』

影の声だ。影が僕に話しかけている。ワクワクした。

「どこに遊びに行くの?」

『いろんな所さ』

「何をして遊ぶの?」

『木に登ったり、ジャングルジムの天辺に登ったりするんだ。何しろいつも地べたを這っているからね。高いところで遊ぶんだ』

「ふうん。楽しそうだね」

『代わるかい? ボクが宿題をやってあげるから、きみが遊びに行ってきなよ』

「いいの? でも、そんなことできるの?」

『うん、できるよ。簡単だよ。きみはちょっと遊んで、すぐに戻ってくればいいのさ』

「わかった」

外に出ると、影は僕の姿になった。そして僕は、まっ黒な影になった。
さあ遊びに行こうと思ったけれど、僕は動けなかった。
僕は、僕になった影の足元で、地べたを這っていた。
ニセモノの僕の動きに合わせて、ずるずると引きずられる影になった。
「話がちがうよ」と叫んでも、ニセモノの僕は知らんぷりで歩いている。
戻りたいと願っても、どうすることもできない。

「タケシ」

お母さんが、外に出て来た。

「一緒に買い物に行こうか」

「うん。行く行く」

僕になった影が、お母さんと並んで歩き出した。

僕は必死で訴えた。

『お母さん、そいつは影だよ。僕はこっちだよ』

お母さんではなく、お母さんの影が答えた。

『タケシ、あんたもだまされたんだね』

お母さんは地べたを這いながら、諦めたように言った。

『大丈夫。そのうち慣れるから』

影になったまま、夏休みが終わった。
学校の帰り道、僕になった影が、友達の足元を指さした。

「ゆかりちゃん、影がないよ」

ああ、ゆかりちゃん、きみももうすぐ影になるんだね。
大丈夫。そのうち慣れるよ。
(作家)

議会から懸念相次ぐ 8月につくば市全域で実証実験 オンデマンド移動期日前投票

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25日のつくば市議会総務文教委員会の様子=つくば市役所

最終判断は9月2日 市選管で

ワゴン車に投票箱を積んで自宅前まで出向くオンデマンド型移動期日前投票について、つくば市は10月の市長選・市議選での導入を目指し、8月に市全域で実証実験となる模擬投票を実施する方針を25日開かれた市議会総務文教委員会(木村修寿委員長)で明らかにした。オンデマンド移動期日前投票に対してはこれまで市選挙管理委員会が2度も「時期尚早」だとする見解を出している(5月30日付6月3日付)。25日の委員会では「(市は)どうやっても突き進むのか」など懸念の声が相次いだ。10月の選挙で実施するか否かの最終判断は、9月2日開催の市選挙管理委員会で出される。

五十嵐立青市長は2021年5月、内閣府の国家戦略特区ワーキンググループに「3年後(2024年)の市長、市議会議員選挙で、必ずネット投票を導入したい」とアピールし、市は22年4月、インターネット投票を看板事業に、国からスーパーシティ型国家戦略特区の認定を受けた(22年8月3日付)。一方、投票の秘密を守る環境の確保や、買収や強要の懸念などネット投票に対する課題が解決されず、今年10月の選挙では導入することができない。これに対し五十嵐市長は、ネット投票導入につながるステップだと位置づけ、オンデマンド移動期日前投票を10月の選挙で実施したい意向だ。今年1月には市北部の筑波と臼井地区で実証実験を実施した(1月26日付)。

7月1日から2000人超に案内を発送

市政策イノベーション部によると、8月の実証実験に向けて7月1日から、自力で歩くことが難しい市全域の要介護度3や4などの対象者2000人から2500人にダイレクトメールで、管理番号を記載した案内を送る。7月4日から18日に電話または市ホームページの電子申請により事前申請を受け付け、併せて市職員が申請者宅に行き、ワゴン車が自宅敷地内に入れるか、自宅からワゴン車までの介助の有無や動線、ニーズなどを確認する。

さらに7月22日~8月2日まで模擬投票の予約を受け付け、8月6~9日までの4日間、ワゴン車2台が北部と南部に分かれてそれぞれ申請者宅を巡回し模擬投票を実施する予定だ。ワゴン車はリフト付きで、申請者は車椅子のまま乗り込み、車内で投票する。

ワゴン車が自宅に駐車できない場合などは、近くの駐車スペースにワゴン車を駐車し、介護タクシーが自宅から送迎などする。申請者は100人程度を想定している。市全域での検証結果や対策を8月中にまとめ。市選管の判断を仰ぐ。

これに対し25日の委員会では委員から「選挙は、失敗は許されない。かなりタイトな日程で、9月2日の1回の選管で協議して判断できるか疑問というか大変」という意見や、「実証実験は周知期間がほとんど無いが、本番は全国に報道されると思うので申込者はもっと増えると思う。実証できても実装できるとは限らない。コストをどこまでかけるか考えた時、このやり方は無理がある。タクシー券を配るので、自力でタクシーに乗れない人は介護福祉タクシーに手伝ってもらって期日前投票所に行くのはどうか。通常の選挙でもミス無くやるのは難しいことは実証されている。選管本来の業務にほころびが出ないか」など、ほぼ全員の委員から懸念が出された。

1月の実証実験は9000万円

さらに実証実験の予算について、今年1月26日に市北部の筑波地区と臼井地区で実施されたオンデマンド型移動期日前投票の実証実験では、予約システムと運行ルートの最適化システムの構築や、影響評価などに計約9000万円の国の事業費をかけていたことが明らかとなった。

8月の実証実験の予算について市は、10月の選挙と一体のものとして、当初予算で計上されている市長選・市議選の予算の中で実施するとし、8月の実証実験に関する予算を別途計上し市議会に諮るべきだとする委員との間で議論になる場面もあった。8月の実証実験にいくらかかるかは委員会で明らかにされなかった。市は当初予算として市長・市議選オンデマンド型移動期日前投票事業に約1300万円を計上している。(鈴木宏子)

苦手克服へ子どもたちがチャレンジ 放課後体育館でNPOが運動教室

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とびばこの練習をサポートする代表の井上さん(左)=谷田部南小学校

放課後の体育館を使った運動教室で、子どもたちがとび箱やマット運動などの練習を行っている。教室を運営しているのはNPO法人ネクストワン(Next one. つくば市松代、井上真理子代表)だ。発足して12年、子どもたちが苦手を克服し自分で目標を設定しチャレンジする心を育てたいと、つくば市の学校体育施設開放事業を活用して小学校の体育館で活動を続けている。

6月下旬、谷田部南小学校に5歳から小学6年生までの子ども約20人が集まり、それぞれが目標とするとび箱や鉄棒など、学校の授業で習う種目を40分間練習した。教室は1回70分で全8回のプログラム。この日はプログラムの最終日で、練習した後にこれまでの成果を披露する発表会が行われる。諦めず、同じ技を何度も繰り返す子どもたちの様子を家族も見守った。「出来てるよ」「その調子」と声掛けをしながら、子どもたちを見守りサポートするのは、代表の井上さんと筑波大学の学生たちだ。

連続逆上がりを繰り返し練習する小田部翠葉さん

応援し合って成果を披露

練習の後はいよいよ発表会。一人一人が目標にしている技を全員の前で披露した。「仲間を応援しましょう」という井上さんの声掛けで、子どもたちから「頑張れー!頑張れー!」と声が上がる。小学4年の小田部翠葉さんは連続逆上がりを見事に成功させて笑顔。仲間たちから拍手喝さいが起こった。「プログラムに参加して楽しかった。今日は緊張感ゼロでやれた」。小学2年の芝山優衣さんも逆上がりに成功し、これで器械運動の技12種に合格したという。修了証書を手に「サッカーが好き。ワールドカップに出るのが目標」と夢を話した。

筑波大の学生が見守る

子どもたちをサポートしたスタッフの森洸輔さんは体育専門学群の4年生。「子どもたちは本当に素直。声の掛け方次第で子どもたちの力を引き出せるのが楽しく、勉強になる」と話す。教育分野で仕事をすることも夢の一つという。国際総合学類2年の加藤梓栞(しおり)さんは、小児看護を勉強する先輩がスタッフとして活動しており、その紹介で参加した。「子どもが好きで、運動やコミュニケーションも好き。発展途上国の教育制度の問題にも興味を持っている」と話す。

発表会後、互いに称え合う表彰式の様子

外遊びやアウトドアキャンプも

代表の井上さんも筑波大大学院で体育科学を修了した指導者だ。運動が苦手な子どもも楽しみながら練習できることを目指し、教室を運営している。市の学校体育施設開放事業を利用した「うんどう・たいいく教室」のほか、様々なスポーツ種目のプロ選手などに直接指導を受けられる「スポーツ探検隊」、外遊びで体を動かす「あそびクラブ」、アウトドアキャンプを体験する「ちゃれんじキャンプ」など、子どもたちの心身を養う教室を企画し、ホームページ制作からチラシ作りまで、全て自分で行う。今年度は4月から延べ270人が市内外から教室に参加している。

やった人にしか分からない学びがある

井上さんは大学で小中高の教員免許を取得し、大学院で体育科学の修士課程を修了した。卒業後、生涯スポーツを振興するNPO法人アクティブつくば(同市春日)で活動した。アクティブつくばの事業の一部を引き継いで、2012年にネクストワンを立ち上げ活動を続けている。

学生時代、学校と部活が大好きだったという井上さん。「勝てないソフトボールの部活動が楽しかった」と笑う。高校では理系に進み、一時は大好きな学校を建てる建築士になることを目指した。受験勉強をしながらスポーツと関わらない1年を送る中、自分にとって体を動かすことがとても大切だと気付き、スポーツを学びたいと進路を変更した。「あいさつや人との関わり方、目上の人への対応などスポーツや部活を通して大事なことを学んだ。その種目をやった人にしか分からない学びがある。学校やどこかで誰かにほめられるとうれしい。ネクストワンの活動で何かを得た人が、次に何かを発信できる人になってほしい」と話す。(田中めぐみ)

◆「スポーツ探検隊」では7月に県障害者パラカヌー協会代表の朝日省一さんを講師としたパラカヌー、サッカーやサーフィンの体験を企画している。詳細は同会ホームページへ。

入梅のころ カブトムシの話《続・平熱日記》160

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絵は筆者

【コラム・斉藤裕之】テレビのアナウンサーの言い回しが気になることが間々ある。あまり言うと年寄り扱いされるので言わないことにしているが…。それから、天気予報というか予報士のコメントや報道。一昔前に比べて精度も上がって詳しい情報はありがたいのだけれども、洗濯物がどうのこうの、日焼け止めを、折りたたみ傘にしろとか、ちょっと過剰な気もする。

さて、そろそろ梅雨。その前に毎年恒例のアルバイト。知り合いの打ちっぱなしゴルフ場の土手のり面草刈りに出掛ける。

枯れ草の下に幼虫がごろごろ

こういう作業の常だが、草を刈るよりも刈った草を熊手で集めて捨てるのが大変。しかし、世界最強のブロワー(ドイツ製のマシンはゴーストバスターズよろしくエンジンを背負って手に持ったノズルから風を発射するのだが、体重70キロの私でもその風力で体が持っていかれそうになる)がお目見えしたおかげで、その作業がすこぶる楽になった。

とはいえ、斜面を昇ったり降りたりするだけでも翌日の筋肉痛は免れない。体がギシギシきしむ朝を幾度か迎える。

作業の終わりが見えたころ、オーナーから小さなビニール袋を渡された。中にはクワガタムシが一匹。そういえば、林に囲まれたゴルフ場の夜の街灯にはカブトムシが飛んでくるというので、虫好きの孫のために捕獲をお願いしておいたのを思い出した。

「ありがとう。そういや、この間山口に帰ったときに、道の駅で孫のためにカブトムシの幼虫を買ったよ…」なんて話をしたら、「幼虫でよければ刈った草の捨て場にわんさかいるよ…」というので、スコップを軽トラに積んでオーナーと出動。ふかふかの枯草を軽くほんのひと堀すると、大きな幼虫がゴロゴロ現れた。

「こりゃ通販で売れるな! 草刈りのバイトしてる場合じゃない!」。もちろんその気はないが、冗談抜きで売るほどいるのだ。とはいえ、必要以上に持ち帰ってもしょうがない。ビニール袋に少し入れて持ち帰ることにした。

孫の誕生日には幼虫を贈ろう

しかし、なんで男の子は虫が好きなのだろう。大学ではカブトムシをモチーフに石を刻む友人がいたが、あの艶(つや)やかな外骨格には何か男心をくすぐるものがあるらしい。かく言う私も、小学校の夏休みは毎朝虫取りに裏の山を数キロ歩いてからラジオ体操というのがルーティーンだった。

さて草刈りの副産物というわけではないが、裏手の林で倒れた木を薪(まき)用にもらって行くことにしている。

しかし、この林でもメディアでも取り上げられるようになったナラ枯れが見られるようになった。目の高さ辺りに小さな穴の開いたナラ。見上げると葉はなく立ち枯れている。このままだとナラはやがて姿を消し、やがてカブトムシもいなくなる日がくるのか。枯れたナラを一本切り倒して薪にして持ち帰った。

迎える孫の誕生日。年の数だけ幼虫を贈ることにした。テレビでは「我慢しないでエアコンを…」と言っている。電気代また上がるらしいが。(画家)

「人はアルカリ性体質の動物」《邑から日本を見る》162

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腸内細菌などを学ぶ常陸農協の健康サロン

【コラム・先﨑千尋】牛久市にお住まいの長谷山俊郎さんから表題の本をいただいた。彼は私と同い年。農水省の研究機関で農村組織や地域活力などの研究を行ってきた。そのころからの知り合いだ。

長谷山さんは2003年に「日本地域活力研究所」を設立し、地域の活性化支援を行い、食と健康の解明に力を注ぎ、執筆や講演活動を続けている。本書は、健康や食に関する著書の6冊目で、「アルカリ性体質にすれば病気を生まない」など5部から成っている。なるほどそうだと思いながら通読した。

人間は誰でも達者で長生きしたいと願っている。私たちの平均寿命は戦後に随分延びたが、どこの病院も混んでいる。高齢者が集まると病気やけがの話になることが多い。薬漬けだと言う人もいる。医療費も年々増加し、健康保険料と合わせて私たちの家計を圧迫している。

長谷山さんは、この本で「食べ物でアルカリ性体質にすると、ほとんど病気にならない。がんもコロナもインフルエンザにもかからない。虫歯にもならない」ことを具体的に書いている。以下、この本から、大事だ、基本だと私が思ったことを抜き書きしてみよう。

がんやコロナは酸性環境を好む

現生人類は百数十万年前からほとんど生の植物を食べていた。植物はアルカリ性食材なので、それによって体を維持する機能が形成された。アルカリ性体質がいいというのは現在も変わらない。酸性の肉などを消化、分解、吸収する機能が備わっていない。

がんやコロナウイルスは、酸性環境を好み、アルカリ性の環境下では生きていけない。現代人は、肉や卵、魚、加工食品、チーズ、コーヒー、甘い菓子などを好んで食べるので、体質が酸性に傾き、がんなどにかかりやすくなる。

国立がん研究センターの調査によると、食事の酸性度が高いほど死亡リスクが上がる傾向にある。死亡リスクを高めないためには、肉、牛乳、加工食品などを減らし、野菜、果物、豆類、海藻類、キノコ、発酵食品を多めにとる。

虫歯、歯周病の予防と治療も、同じように、私たちの身体をアルカリ性体質にすることだ。長谷山さんは、坐骨神経痛、神経炎、リウマチ、痛風の原因は「肉食」だと言う。

腸内細菌を健全に保つことが大事

長谷山さんの腸内細菌の話も面白い。最近、テレビや新聞記事で腸内細菌のことが報道され、ああこのことかと思って見ている。腸内細菌とは、ヒトや動物の腸の内部に生息している細菌のことだ。種類は諸説あるが500~3万、概数は100~1000兆個。

食べ物は口で細かく刻まれ、食道、胃、十二指腸を経て小腸に運ばれる。その過程でアミノ酸やブドウ糖、脂肪酸などの栄養素に分解され、体内に吸収される。吸収されなかった食物繊維などは大腸に運ばれ、腸内細菌がこれを食べ、ミネラルと水分が身体に吸収され、残りが便として排出される。食物繊維が多ければ腸内細菌が元気になり、私たちの健康維持に寄与してくれるというのだ。

腸内細菌は、肥満や便秘の改善、発がん物質の抑制、脳機能の維持などの働きをしてくれている。腸内細菌を健全にしておくには、殺菌消毒は少なめに、抗生物質は多用せず、加工食品は控えめに。そのような私たちの日頃の注意によって、医者に行かないで健康でいられる暮らしができる。

そのヒントを、本書(B5判240ページ、素人=そじん=社発行、1400円+税)はたくさん用意している。(元瓜連町長)

筑波山麓に地ビール 「つくばブルワリー」オープン

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作り立ての地ビールを提供するつくばブルワリーの延時社長。奥は醸造所

筑波山麓のつくば市筑波、旧筑波鉄道筑波線(1986年に廃線)筑波駅隣りに23日、地ビールを製造、販売する「つくばブルワリー」(経営はペブルス社)がオープンした。醸造所は5月から稼働し、すでに同社飲食店の二の宮店や市内の酒店などで販売している。醸造所からビールを直売するスペースを設け、作り立てをその場で味わうことができる。

筑波山の地下水を使って醸造する。醸造所の能力はこれまでの5倍強だという。缶ビールも製造する。全国展開し、大手スーパーなどを通じて幅広く売り込むという。

23日オープンしたつくばブルワリー

新施設は敷地面積約1360平方メートル、建物の延べ床面積約195平方メートル。クラウドファンディングを利用し、賛同者から寄せられた約530万円を事業資金の一部に活用した。

同社の延時崇幸のぶときたかゆき社長(42)は山口県生まれ、水戸市で育った。2010年 につくば市に転居し映像制作会社を立ち上げた。17年つくば市が「つくばワイン・フルーツ酒特区」の指定を受け、当時、市内でワイン醸造を手伝う中、「ビールを醸造するブルワリーがない」と20年9月に起業した。

今回、筑波山の地下水を利用し、筑波山の入り口で醸造したいと、二の宮店内にあった醸造所部分を移転し筑波山麓に新設した。今後は北条米、小田米、福来みかん、ブドウなど筑波山地域の特産品を使ったビールにも挑戦していく予定だ。

販売中の缶ビール3種

旧筑波駅は現在、筑波山口と呼ばれ、つくば駅からコミュニティバス「つくば北部シャトル」、山麓を周回する「つくばね号」、桜川市から「ヤマザクラ号」などのバスが行き来する。自転車道「つくば霞ケ浦りんりんロード」の休憩所にもなっていて、地域の交通拠点の一つになっている。筑波鉄道が走っていた1970年代ごろは、筑波山中腹の神社や山頂に向かう観光客を迎える飲食店や土産物店が並び、にぎわっていた。

延時さんは「ブルワリーでは作り立てのクラフトビールが味わえる。これからいろいろなところで飲めるようになるので、楽しみにしてほしい。もっとたくさんの人に知ってもらえればうれしい。何より筑波山麓の活性化が一番」と話す。筑波山麓には造り酒屋のほかワイナリーが2件があり、今後、連携していくことも検討していくという。(榎田智司)

◆つくばブロワリーの場所は、つくば市筑波2980-1。開店は土日曜の正午~午後6時。問い合わせは    電話029-879-9882へ。

変わりゆく公務員宿舎映す2つの作品展 つくば美術館

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つくば在住の美術作家、河津晃平さん

解体が進むつくば市内の公務員宿舎に焦点を当てた映像と写真などによる二つの作品展が同市吾妻、県つくば美術館で、同時開催されている。市内在住の美術作家、河津晃平さん(27)と、つくば出身の作家、松﨑綱士さんによるもの。変化する研究学園都市の姿を異なる視点で捉えた作品が並ぶ。

建物が持つ「気配」を表現

第1展示室で開かれているのが、河津さんによる「あなたの灰の中の骨へ 骨の中の灰へ」。役目を終えて解体を待つ公務員宿舎が持つ「気配」を、写真や動画、オブジェなど約30点を通して表現する。

福岡県出身の河津さんは2015年、筑波大進学を機につくばに来た。卒業後は東京芸大大学院に進学し、修了後はつくば市を拠点に作家として活動を続けている。

今回の展示作品のモチーフとなった公務員宿舎への関心は、筑波大在学中、教員に連れられ解体現場を見たのがきっかけになった。住む人がいなくなった無数の空き部屋から人が暮らした痕跡を取り除いた時に何が残るのか。その先で感じる気配を感じたかった。

大学時代は自転車で国内外を旅していた河津さん。作品制作のスタートは、学部時代に制作した1本の映像作品だった。7分28秒の作品には、大学内の教室や廊下、集合スペースなどから人が消えた無人空間が映し出される。主に、コロナ禍で学生がいなくなった大学内で撮影した。非日常の中で河津さんは、静寂に包まれたかに見える場所から聞こえてくる音に気がついた。自動販売機や空調、屋外で揺れる木々の音。それまで気づかずにいた空間にある多様な「気配」に美しさを感じた。その感動が、河津さんの、その後の制作活動の原点になった。

制作活動の原点となった映像作品「Room for」も上映されている

今回展示されている作品制作は、許可を得て、200軒あまりの公務員宿舎の空き部屋を訪ね、その中で約100軒の部屋で人の痕跡に向き合うように室内を清掃することから始まった。その様子は動画として記録し、解体される宿舎の映像とともにスクリーンで流される。また、掃除を経た室内の写真が大判プリントで壁面に展示される。

河津さんは「(作品の)モチーフである空間が解体を迎えるという現実にどう向き合えばよいか考えるようになった」という。そして「都市が新陳代謝しているのを前にして、この街に暮らす一人として、それをただ傍観するのではなく、どんな眼差しを向けられるのか。そこにどう参加しアプローチができるのかを作品を通じて一緒に考えていけたら」と話す。

解体される「故郷」を記録

第2展示室では、つくば市出身の作家、松﨑さんが記録した、解体される宿舎の写真と映像作品約50点が展示されている。6、7歳まで自身が暮らしていた「故郷」の記録でもある。「個人的に記録しておきたい」と考えたのがきっかけという撮影は、2018年から始まり、コロナ禍を経て23年末まで続いた。写真作品は、細部まで鮮明に記録することができるフィルムの中判カメラを使用した。

解体されて空き地となった公務員宿舎跡地を撮影した松崎さんの作品

「ロケットには宇宙人が住んでいるという噂があった」と話す。自宅があった宿舎からもよく見えたという、つくばエキスポセンターに現在も立つ高さ約50メートルの実物大のH2ロケット。90年代に過ごした街の記憶が、解体途中の建物の背景に写される。

来場者からは「何気なく横を通っているだけでも、公務員宿舎があるだけで良かった」「まだ住めた。もったいなかった」という声もあったという。松崎さんは「人が暮らすことがなくなっても、地域にはそこを拠り所にする人がいるのだと知った。意味がある場所だった」と感じたと話す。近所に暮らしていた人との思わぬ再会があったのも、つくばで展示をしたからこそだった。

写真には、自身のノスタルジックな感情はあえて入れずに客観性を大切にしたという。「何かメッセージがあって撮ったわけではないが、記録として見て、何かを感じてもらえたら」と松崎さんは呼び掛ける。(柴田大輔)

◆河津さんによる作品展「あなたの灰の中の骨へ 骨の中の灰へ骨」は、県つくば美術館第1展示室で6月30日(日)まで。松崎さんによる作品展「アーキテクチュラル・パリンプセスト」は、同第2展示室で23日(日)まで。それぞれ、開場は午前9時半から午後5時まで。最終日のみ午後3時まで。月曜休館。入場無料。

初めてのシンガポールで感じたこと 繁栄の下支え《文京町便り》29

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土浦藩校・郁文館の門=同市文京町

【コラム・原田博夫】5月末、シンガポールを初めて訪れた。ロータリークラブの国際会議(2024年、シンガポール)に参加するためである。

参加者総数は約1万4000人、日本との移動時間や時差の少なさの関係か、日本からの参加者が約2400人で最大、次いで(次期会長=2人目の女性=の出身国である)米国の約2300人、台湾の約2100人と続く。市内中心部のコンベンションセンターでの開催で、会場の収容力などには目を見張るものがあった。

シンガポール地域は1963年9月、マラヤ連邦、サバ、サラワクと合併してマレーシア連邦としてスタートするも、主として中国人とマレー人の間での人種間・政治的な軋轢(あつれき)が高まり、1965年8月、マレーシアから追放される形で独立し、シンガポール共和国となった。

シンガポールの特色は、こうした人種・宗教の多様性に加えて、植民地時代の遺産も巧みに文化的魅力に仕上げている点だろう。

英国人トーマス・ラッフルズが1819年に上陸し、ジョホール王国から許可を受けて建設された商館跡地には彼自身の像が立って、最大の観光スポットになっている。中華系入植者がマレー系女性と結婚した家庭をプラナカンと呼ぶそうだが、近くには、その富商を再現した博物館や、国立博物館が立地している。

後者の展示には、20世紀初頭にはアヘン中毒の住民がいた歴史だけでなく、日本占領(1942~45年)を決定づけた山下奉文将軍と敵将パーシバルの会談の写真・説明も掲示されていて、その前のベンチには英国人とおぼしき中高齢者数名がビデオ説明に聞き入っていた。

近代以降のシンガポールは、その時々のリーダーの知恵と決断力で、さまざまな難局を突破してきた。外務省の情報(2024年6月4日現在)によれば、面積720平方キロ(東京23区よりやや大きい)、人口564万人(うち、シンガポール人・永住者は407万人)、民族は中華系74%、マレー系14%、インド系9%。

言語は、国語はマレー語だが、公用語は英語、中国語、マレー語、タミール語である。宗教は、仏教、キリスト教、イスラム教、道教、ヒンズー教である。

人種・宗教・文化の多様性を維持

数日間の滞在では、その裏側まで見ることはできなかったが、日曜日の昼下がりに市内中心街を移動していると、公園の木陰の芝生に20代~40代の女性が、数十人単位で座り込んで、食事をしている様子を目にした。特に騒音を出すわけでもないが、実に楽しげで、中には踊りや歌声も混じっていた。

聞くところによると、彼女たちはカンボジアからの期間限定の労働移民で、多くはここで家政婦として就労しているとのこと。彼女たちにとって、日曜日は週1度の休息日なのだ。

また、道路際には、大きなコンクリートブロックが相当数並べられていて、それを作業車で、並べ替えている様子も見受けられた。これは8月の建国記念行事のための、市内中心部での会場設営の準備作業のようだった。その作業に従事しているのは、多くはパキスタン人男性労働者だそうだ。

要するにシンガポールは、人種、宗教、文化の多様性を維持しながらも、政治的独立性と経済的魅力を日々高めてきたわけである。グローバル化・高齢化・少子化に歯止めのかからない日本の今後にとって、参考になる点も多いように感じた。(専修大学名誉教授)

農業で国際ビジネスマッチング JICA筑波

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企業などから農業機器の説明を受ける研修生たち

国際協力機構筑波センター(JICA筑波、つくば市高野台)で21日、アフリカやアジアからの研修生に向けて、民間企業が自社製品や事業を紹介するビジネスマッチング企画「農業共創ハブ」が開かれた。研修生は主に母国の政府機関から派遣され、同センターで活動したり各地の大学で学んだりしている。帰国後の両者の関係発展を期待し、途上国が抱える農業分野の社会課題の解決に繋げる試みだ。企画は2020年から始まり、今回で6回目。

この日集まったのは、農業分野で国際的に活動する県内外の12社。日本電気(NEC)は、同社による農業生産に関するデータを1カ所に集約するプラットフォーム「クロップスコープ」を紹介し、衛星画像や各種センサーのデータを基に農地の環境を可視化するサービスを説明した。集まった研修生からは自国で同技術が生かせるか質問が飛び交った。

つくば市梅園に本社を置く、人工衛星からのデータを活用した情報サービスを提供するビジョンテック(山本義春社長)は、同社による農業情報サービス「アグリルック」を国内での導入例をもとに紹介した。人工衛星技術を用いた営農支援システムで、衛星から届くデータをもとに、ほ場ごとの生育状況を把握し、適切な肥育や収穫の管理、病害虫や気象災害対策に役立たせることを目指している。同社海外製品担当の八木浩さんは「気候変動が起きる中で、慣行で作物を管理するのが難しいことがある。衛星情報を基に、ほ場ごとに生育を管理することで、適切なタイミングで追肥や収穫をすることができる。安定して高品質な農作物の生産につなげたい」とし、今回の企画について「アフリカなど実際に自分では行けない国の方と直接やりとりできる機会でとても貴重」だと話した。

精米機や石抜き機などの農業機械を開発・製造するカンリウ工業(長野県塩尻市)の藤森秀一社長は「現地では、販売するコメに、除去されない小石などが混ざっていることが多いと聞く。きちんと異物を取り除き、精米することで品質が上がり良い値段がつけられる。収入の向上と生活改善につながるはず」とし、「企画に参加するのは4回目。ここでの出会いが縁で、現地の方とオンラインでやりとりするなど関係が進んでいる。10年前から海外への展開に力を入れている。各国の政府職員とつながる貴重な機会。長い付き合いになれば」と話した。

ボツワナからの研修生ソロフェロさん(右)とナミビアからの研修生シシリアさん

各社のブースを回ったボツワナ農業担当省庁の農業普及員を務めるJICA研修生のソロフェロさんは、最も印象に残ったのは中古農機具の輸出を手掛けるマーケットエンタープライズ(東京都中央区、小林泰士社長)だとし、「機会化が進んでいないボツワナで新品は高い。中古は魅力的。メンテナンスもしっかりしているので安心感があった。小規模な農地が多いので小型のハンドトラクターがあると生産力が上がると感じた」と話した。ナミビアで農業普及員を務める研修生のシシリアさんは「企業から直接話を聞ける機会は初めて。農家の役に立つ情報ばかりだった。帰国後、情報を共有して国の役に立てたい」と語った。

中古の農機具の展示も行われた

農業県の特色を生かした取り組み

企画を担当したJICA筑波の西岡美紀さんは「農業県に拠点を置いていて、途上国からの研修員は年間700人ほどが来る。民間や大学にも研修以外でもJICA筑波を利用いただき、つくばをハブにして農業分野で途上国と民間企業がつながれたらと思い、立ち上がった企画。研修員にとっても企業から話を聞くことは非常に有益なこと。企業も研修員から意見を聞いて、製品開発に活かしてもらっている。企業同士、政府機関で働く研修生同士のネットワークづくりの場にもなっている。来年も開催する予定。多くの方に関心を持ってもらいたい」と語った。(柴田大輔)

古民家ゲストハウス「江口屋」《日本一の湖のほとりにある街の話》24

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イラストは筆者

【コラム・若田部哲】もうじき夏の行楽シーズン、霞ケ浦周辺観光をお考えの方も多いかと思います。今回はそんな方にピッタリ、2020年オープンの古民家ゲストハウス「江口屋」さんのご紹介です。施設を運営する「株式会社かすみがうら未来づくりカンパニー」代表の今野さんに、その魅力と今後についてお話を伺いました。

2016年、今野さんたちは江口屋道向かいの歩崎公園内に「かすみマルシェ」と「かすみキッチン」を整備。この土地ならではの様々な食や物産、水辺や自転車のアクティビティ、そして果樹やレンコンなどの収穫体験プログラムなどを通し、地域の魅力を発信していました。そのコンセプトを引き継ぎつつ強化するため、宿泊体験を組み込んだのが江口屋だそうです。

明治後期に建てられた建物に一歩足を踏み入れると、土間と重厚な柱・梁(はり)が印象的な空間が広がっています。既存の年を経た部材と、新しい素材をバランスよく組み合わせた施設内は、リノベーションのお手本のような仕上がり。

ソフト面も充実しており、まき割り体験や、裏庭でのBBQ、囲炉裏(いろり)端で楽しむ地場の素材を生かした夕食、備え付けの自転車での湖畔のサイクリングと、様々な楽しみ方が可能です。また「最高の朝に出会える宿」のキャッチコピーが示す通り、霞ケ浦からのぼる朝日は最高!

1棟貸しの「水郷園」もオープン

そして、2023年より加わった新たな楽しみが、同じ敷地内にオープンした「江口屋醸造所」のクラフトビール。かつて造り酒屋だった江口屋の歴史を継承する商品とするべく、2020年から準備を始めたのだそうです。

看板商品のペールエール「澤乃不二」には、かつての江口屋で販売していた商品ラベルを復刻して使用。ビタリングホップとしてアイダホ7を用いた爽やかな味わいと、この土地のストーリーが楽しめる、味も見た目も素敵な逸品です。そのほかにも、かすみがうら市産のユズやブルーベリーを素材として用いたフルーツビールなど、地域を楽しめるラインナップを展開しています。

今後も、地域に観光で何ができるかということを念頭に、人を呼び込み、地域が潤う仕組みづくりを続けていきたい、と語る今野さん。なんとこの夏には、江口屋から続く高台の上に、かつての別荘をリノベーションした、完全1棟貸しの新たな宿「水郷園」がオープンとのこと。ちらと中を拝見しましたが、霞ケ浦にこんな素敵な眺望があったのかと驚く仕上がりで、こちらも実に期待大!

その土地ならではの景色や雰囲気をブランディングし、地域に潤いを生み出す今野さんの挑戦は、まだまだ続きそうです。(土浦市職員)

<注> 本コラムは「周長」日本一の湖、霞ケ浦と筑波山周辺の様々な魅力を伝えるものです。

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