水曜日, 4月 8, 2026

木村「二刀流」で圧倒 土浦三、霞ケ浦に苦杯【高校野球茨城’23】

第105回全国高校野球選手権茨城大会は13日、2回戦に入り、J:COMスタジアム土浦では土浦三が霞ケ浦とのご近所対決。初回からの連打攻勢の霞ケ浦が土浦三の繰り出す7投手を打ち込んで、5回コールド勝ちした。プロ注目の右腕、木村優人は140キロ台の速球を投げ込み、打では右翼ポール直撃の本塁打と大暴れだった。 霞ケ浦は初回、打者一巡の猛攻。5安打で5得点を挙げ、難しいとされる初戦の立ち上がりを万全の形で入った。 土浦三の先発、中村太陽は「自分のピッチングができず3年生に申し訳ない。打たせて取るつもりだったが、甘く入った球を全部持っていかれ、詰めの甘さを実感した。一瞬の隙も見逃してくれず、1番から9番まで気が抜けなかった」と相手打線を評する。 「ロースコアに持ち込んで勝機をうかがいたかったが、自分たちの攻撃の前に大量失点してしまった。逆に相手は大量リードで気持ちに余裕ができた」と土浦三の竹内達郎監督。軟投で霞ケ浦打線のタイミングを外すプランは早々に崩れ、2回以降は手持ちの投手を次々と投入。だが2回には木村のソロホームランを浴び、3回と5回にも失点を重ねた。 霞ケ浦はその木村が先発のマウンドに立ち、3回までノーヒットのピッチング。土浦三は木村を想定した対策を積んできたが、打席に立ってみるとボールのキレがけた違いだったという。「木村のボールは手元でグッとくる。芯でとらえても押し込まれて、みんなボールに押し負けていた」と増田築主将の証言。 4回、伊藤達矢が木村から初安打を奪う。初回の第1打席は外角ストレートを空振り三振だったが、この打席は同じ球を左前へはじき返した。「木村はまっすぐが伸びるが、かといって変化球は即座に対応が難しい。この打席もまっすぐに狙いを絞り、初球から積極的に振っていった」との振り返り。 ご近所同士の両校は、市内大会や練習試合などで顔を合わせる機会も多く、また土浦三の1・2年生には霞ケ浦高付属中出身の選手もおり、打撃や守備のレベルの高さなどは耳に入っていたという。中村は「自分たちもああいうチームになりたいと思う一方、対抗意識も持っていた。特に今回は地元での試合なので、負けたくないという思いが強かった」と語る。 今年の土浦三は、登録メンバー20人中15人が1・2年生という若いチーム。「この大会の経験をチーム内で共有し、来季も高い目標を持って戦えるよう、自分たちでチームを盛り上げていきたい」と伊藤と中村は口をそろえた。(池田充雄)

中林、5回参考も完全試合 常総学院コールド発進【高校野球茨城’23】

第105回全国高校野球選手権茨城大会は13日、2回戦に入り、ひたちなか市民球場では第一シード常総学院が登場。先発した中林永遠投手(3年)が、5回参考記録ながら完全試合を達成し、打線は2回の打者一巡の猛攻など毎回得点を重ねて、麻生に5回コールド勝ちした。 常総学院先発の中林は初回3者連続三振を奪う立ち上がりから、5回を60球9三振を奪い、走者をひとりも出さずに参考記録ながら完全試合を達成した。 打線は1回山崎、川上の連打で1死後一、三塁のチャンスに武田のセンターへの犠牲フライで先制。2回には相手エラーと四球で2点を追加し、さらに一、三塁から近藤がライトへタイムリー、秋山がレフト線への2塁打で続き、この回打者10人で6点を上げた。3回にも近藤が2本目のタイムリーを放ち1点、4回にも2点を追加し10ー0としてコールド勝ちを決めた。 中林は背番号18。先発を言われたのは3日前で、ずっと準備してきた。「応援団、ブラスバンドが入って最後の大会でいろいろ掛ける思いがあった」そう。「初戦は大事になってくると思うのでチームが勢いに乗れるようなテンポいいリズムで投げた。四球もなかったので自分のイメージした通り投げた。少し甘くなって相手が打ち損じてくれてよかった完全試合は意識しないで自分のピッチングが出来た」 島田直也監督は「初戦と言うことで2年ぶりに勝ててほっとしている。選手より自分のほうが緊張しついた。長丁場なので4番手、5番手の投手をどれだけ使えるか試した。中林は期待以上にやってくれた」と手応えを語る。「選手には大会前からコールドで勝とうが1点差で勝とうが勝ちは勝ちなので最後に勝っているほうが勝ちだと言ってきた。打線に関してはまだまだ繋がりが足りないので上げていかなければならない」と手綱を締めた。 常総学院は3回戦で17日に下妻二ー日本ウェルネス茨城の勝者と対戦する。(高橋浩一) ■このほかのつくば・土浦勢の結果 詳報はこちら

常磐線も4車線でまたぐ 25日に354号土浦バイパス全線開通

土浦市若松町~手野町の間で県による4車線化整備が進められていた国道354号土浦バイパスのうち、最後まで残っていた常磐線をまたぐ木田余跨線橋(きだまりこせんきょう)など0.9キロ区間の工事が完了し、25日午後2時から全線開通する。今回開通するのは、常磐線をまたぐ跨線橋が東西で立ち上がる木田余跨線橋東交差点~木田余バイパス西入口交差点の区間。既存の木田余跨線橋の南側に新たに2車線を増設する形で橋梁を拡幅整備し、両交差点について改良工事を行った。事業費は約30億円。線路に架かる橋梁工事の一部をJR東日本水戸支社(水戸市)に委託している。 国道354号は、茨城県西から県南、鹿行地域にかけて横断する広域幹線道路で、災害時の緊急輸送道路にも指定されている。そのうち土浦バイパスは鹿行地域方面から常磐自動車道土浦北ICへのアクセス機能の強化と土浦市内の渋滞緩和を図るため、1991年度から延長5.3キロ、幅員25メートルの4車線で着手された。バイパスは2011年2月に暫定2車線で供用し、これまでに、おおつ野団地入口交差点~木田余東交差点まで約2.9キロと、若松町の市道をまたぐ跨道橋~木田余西入口交差点まで約1.5キロの4車線化が完了している。 25日は開通に先立ち、午前10時半から地元の公民館で県土浦土木事務所主催による安全祈願を行う。 土浦駅東のボトルネック解消には道遠し 県は「土浦市内の渋滞緩和や常磐道の土浦北ICへのアクセス強化が図られる」としているが、交通量の増大により木田余跨線橋東交差点からJR土浦駅東方向に向かう荒川沖木田余線(荒木田線)の交通混雑がさらに悪化する懸念もふくらむ。同バイパスの24時間交通量(国交省道路交通センサス)は2021年で2万5000台を超え、2010年の約2倍、特に大型車は3倍近くに達している。荒木田線は常磐線の東側を並走する形で、阿見町荒川沖本郷から土浦市木田余に至る延長11.5キロの都市計画道路。1957年に都市計画決定され、全区間の整備が一応は完了している。しかし土浦駅東の港橋から南側区間(荒川沖方面)の都市計画決定が幅員25メートルなのに対し、北側区間(木田余方面)は幅員18メートルだった。土浦駅方向への通勤や送迎のためラッシュが朝夕に恒常化し、ボトルネックとなった北側区間は同市きっての渋滞路線になっている。 354号土浦バイパスとの交差点周辺は、同市特産のレンコンの生産地帯で、渋滞を嫌った一般車両が農道に入り込んでは、生産者とトラブルになるケースも少なくない。2016年に新築移転した土浦協同病院(同市おおつ野)への緊急車両がひんぱんに混雑に巻き込まれたりもしている。 荒木田線は2013年、幅員18メートルの約2.3キロ区間について幅員25メートルに都市計画変更され、車線数も4車線に設定し直された。これ以降、県と土浦市が事業区分を分担して整備を進めてきた。このうち土浦市が施行者となる木田余跨線橋東交差点~流域下水道事務所(同市湖北)まで1.3キロ区間は、4車線への拡幅工事が年内にも完了し、年度内に供用できる見通しとなっている。しかし、土浦駅東寄りの約1キロ区間の整備は手つかずで、ボトルネックの解消にはなお遠い道のり。事業区分上、県が約370メートル、市が約630メートルを残しており、共に用地取得の交渉中で着工の見通しはついていないという。(相澤冬樹)

タロットカードで街を眺める ひたち野うしく《遊民通信》68

【コラム・田口哲郎】前略 オカルトが似合う街は新興住宅地だと前回書きました。新興住宅地は伝統的な宗教色がありません。そしてオカルトは伝統宗教とはちがった意味をもとめます。ですから、新しくできた、科学技術があちこちに感じられる新興住宅地を歩いていると、そこはかとなくオカルトの匂いを感じるのです。 現在のオカルトの源流は19世紀フランスに求められます。そのオカルティスムの祖はエリファス・レヴィとされています。レヴィはタロットカードをユダヤ神秘主義思想にもとづいて整備しました。この思想は歴史があり、ある意味伝統的です。それではオカルトは宗教的伝統がないわけではないではないか、と言われそうです。たしかに源流ではそうです。 でも、現在までさまざまな社会の変化を経たオカルトには、宗教的伝統の影はほとんどないと言えるでしょう。宗教の伝統で育ったオカルトが世の中に広まる途中で、旧来の宗教の養分を消化吸収して、新しい「宗教のようなもの」をつくろうとしています。 「Ⅵ 恋人たち」のカード 前置きが長くなりましたが、ここでタロットを使って、オカルトが似合う街を眺めてみたいと思います。私は散歩していて、オカルトと街をつなげてみたらどうかと思いつきました。今回は、ひたち野うしくを、タロットの大アルカナ(22枚)のなかの1枚をひいて、オカルト的に見てみます。よくカードを切って、1枚を選びました。出たカードは「Ⅵ 恋人たち」のカードです。 このカードの絵柄は、太陽の光のもとで、雲のなかに大天使がいます。地上にはアダムとイブを思わせる裸の男女が向かい合って立っています。大地の奥には高い山が遠くに見える。男女それぞれの背後には1本ずつ気があり、男の後ろの木は炎の花が咲いている。女の後ろの木にはリンゴがなっていて、幹にヘビがからんでいます。このカードは全体的にとても明るく美しいイメージです。 ひたち野うしくは超高齢社会にあってとても若い街です。子育て世代も多く、小・中・高生が多く歩いています。若い家族が子どもを育てて、活気がある街。これがこの「恋人たち」のタロットカードによく表れていると思います。1回1枚ひいただけではただの偶然じゃないかと言われそうですが、この偶然を信じることが、オカルトには大切だと思います。ごきげんよう。 草々(散歩好きの文明批評家)

南北のアクセス向上 県道取手つくば線バイパス全線開通

県道19号取手つくば線バイパスが12日、つくばみらい市板橋から南太田までの約1.6キロ区間で供用を開始し、延長約4.1キロのバイパス全線がつながった。 バイパスは同市谷井田から狸穴(まみあな)までの路線で、つくば市街と取手・守谷方面を結ぶ南北の軸線となる生活道路。1992年に都市計画され93年に事業着手、完成までに約30年かかった。今回の開通区間の事業費は約20億円。全体の総事業費は約80億円だった。 開通に先立ち、12日午前には交通安全祈願式が行われ、県土浦土木事務所の大森満所長や渡邉千明つくばみらい市副市長らが参列した。渡邉副市長は「交通量が多いにもかかわらず歩道の整備が十分でなかったり朝夕の渋滞が厳しかったりで心から整備を望んでいた」などと挨拶した。 つくばみらい市板橋から南太田までは幅員18メートルの2車線道路。両側車道と区分された歩道が整備された。板橋地区や谷井田地区は、幅が狭く歩道がない道路に交通が集中していたが、バイパスの開通で朝夕の渋滞が解消され、通学路などの安全も確保できるという。開通区間には小中学校も近接する。 県道取手つくば線は、北上して常磐道谷田部ICを経て、サイエンス大通りから圏央道つくば中央ICに接続、学園都市を縦断しつくば市北条に至る路線。南は取手市で国道6号につながる。常磐道と6号の間でつくば市街地から県南部へのアクセス向上を担う道路に位置づけられる。 バイパスは2005年に北側の約2.0キロメートル区間を暫定2車線で供用開始した。19年には南側の約0.5キロメートル区間が完成し、2車線で供用開始した。今年4月に北側の約2.0キロメートルの4車線化が完了している。(田中めぐみ)

自分らしく生きるということ 《ハチドリ暮らし》27

【コラム・山口京子】「自分らしく生きる」というフレーズをよく見かけます。そんなとき、「自分とはなんだろう?」とわからなくなります。「自分らしく生きる」とは、他人の評価を気にしないで、自分の価値観を大事にして、自分の気持ちに正直に生きることを意味するようです。 では、自分が持つ価値観はどんなものなのか、自分の気持ちに向き合ってどんな気持ちが表れるのか…。自分が持つ価値観はどういう価値観か。それはどうやって形成されたものか。時代や社会、家族の影響が少なくないでしょう。今の自分の気持ちに向き合うとき、思うのはケンカはしたくないということです。 ケンカって、しようと思ってするのではなく、相手がいて、相手と合意がつかなくなって、聞き苦しい言葉があったりすると、手や足が出てしまう。物心ついたころから、父親が母親を殴ったり蹴ったりする光景を見てきました。酒が入ると一方的に殴りつける父親。しらふのときは借りてきた猫のような父に、殴ったことをまくしたて非難する母。その繰り返しが何十年も続きました。 子どものころ、妹とケンカして、泣かせてしまった記憶があります。結婚してからは夫とケンカになったり、子どもとケンカしたり大人気ない自分です。自分の至らなさと配慮のなさを自覚しないまま、自分が言っていることは正しいと一方的に主張していました。 自分も相手のこともきちんと知る 自分が正しいと思っていても、それは自分のご都合主義でしかなかったかもしれません。また、正しいと思っていたとして、それを相手に伝わる言葉で相手が納得できる裏付けをもって説明できたのか。相手の言い分をどれだけきちんと聞き取れたのか、感情的に反応しなかったか。…出来ていなかった。 それが出来るには時間がかかります。とても難しいと感じています。でも、穏やかに暮らしたいので、穏やかな人間関係を持ちたいのです。 自分のことも相手のこともきちんと知ろうとすること。自分の主張と相手の主張を踏まえて、時間軸も意識しながら合意を見つけること。時には、距離を置いてみること。事柄によっては、ほどほどで落ち着くようにすること。 「自分らしく生きる」というけれど、自分に執着しないほうが幸せに暮らせる気がします。最近は対面でのセミナーに呼ばれることが増えました。テーマについての自分の思いを相手に伝わる言葉で話すことの大切さを痛感しています。さまざまなテーマをいただいて、レジュメを作ることが楽しく、あっという間に時間が過ぎてしまいます。(消費生活アドバイザー)

ウクライナの民族弦楽器バンドゥーラで平和を祈る 16日にチャリティーコンサート

ウクライナ出身で東京都在住の民族楽器奏者、カテリーナさん(37)のコンサートが16日、ノバホール(つくば市吾妻)で開かれる。弦楽器の一種バンドゥーラを奏でるチャリティーコンサートで、収益と募金はウクライナ大使館や同国からの避難学生が学ぶ筑波大学、国境なき医師団に寄付する予定だという。 コンサートを主催するのは、つくば市上郷在住の尾崎秀子さん(75)。「ウクライナへの軍事侵攻がはじまり、これは他人事と思わずに、なぜこのような戦争が起こったのか、当たり前の普通の暮らしがいかに貴重であり、もろく崩れ去るのか、平和な状態をどのようにして維持できるかなどを考えてもらいたいと思った。それで、カテリーナさんの音楽の力をお借りしようと思い至った」と話す。 カテリーナさんは、日本各地でバンドゥーラの公演を行っている。ウクライナのブリビャチ生まれ。チェルノービリ原発から2.5キロの地点で生まれ、生後1カ月で原発事故により被災。自宅から強制退去となり、家族で首都キーウに避難した。被災した子供たちで構成された音楽団「チェルボナカリーナ」に所属し、世界各地に演奏旅行に赴く中、日本にも公演に訪れ、19歳の時に日本に活動の拠点を移した。 今年5月には生い立ちや音楽、戦争についてつづる「カテリーナの伝えたい5つのこと」(ナイデル)を出版した。福島の原発事故にも心を痛め、演奏活動を通じて支援を行っているという。つくばでのチャリティーコンサートは昨年7月にも市民ホールとよさと(つくば市高野)で行い、2回目の開催となる。前回は425人が来場し、チケットの売り上げは経費を除いてウクライナ大使館に寄付した。尾崎さんがカテリーナさんのCDを初めて聞いたのは2010年頃のことで、友人からCDをもらったのがきっかけだった。2013年に兄と姉を3カ月の間に亡くし、その悲しみを慰めてくれたのがバンドゥーラの音色だったという。 「若い方々、学生さんたちには、自分の人生、何を大切にして生きて行くのか、考えてもらいたい。カテリーナさんの歌声とバンドゥ-ラの演奏から何かを感じ取って頂ければうれしい。きっと心に響くものを感じ取っていただけると思う」と来場を呼びかける。(田中めぐみ) ◆カテリーナ〝平和を祈る〟コンサート 16日(日)午後1時30分開場、午後2時開演。 会場はノバホール(同市吾妻) 入場料は大人2000円、18歳以下・学生・障害者1000円。チケット販売はノバホール。 定員800人。問い合わせは事務局(電話080-1118-0289)

杏の里と杏仁豆腐《続・平熱日記》137

【コラム・斉藤裕之】「杏(あんず)の実がなったから!」というギャラリー「art cocoon(アートコクーン)みらい」の上沢さんからの知らせを受けて、またもや信州は千曲市にやって来た。梅雨の晴れ間、杏農家の柳町さんの車で畑に向かう。その光景は…梅に似た何千本? もある杏の樹には、黄色や赤みがかった大きな実がたわわになっていて、花の時期、桃源郷と見まがうばかりの杏畑は、私にとってはより興奮する「花より団子」状態となっていた。 もっと驚いたことに、この街にはいたるところに杏が植えられていて(中には直径50~60センチを超える木も)、街路樹や河川敷、民家の庭にも大きな杏がうそみたいになっているのだ。 こんな街、こんな風景、見たことない! とにかく一つ食べてみた。初めて食べる生杏は思ったより硬い、シャキシャキとした食感で、ただ甘いだけでないワイルドな味。値段も手頃で、生食用とジャム用を買い求めた。夏のような日差しの中だったけれど、信州の空気は気持ちよかった。 さて午後は、個展の案内状をデザインしてくれた西澤さんが松本に連れて行ってくれるという。およそ30年ぶりの松本。まずは日本書紀にも出てくるという浅間温泉のギャラリー「ゆこもり」を訪ねる。先祖から受け継いだという湯治場は、まさに文豪が滞在でもしていそうなたたずまい。高低差のある敷地を廊下で結んだ建物をリノベーションして展示スペースにしたというオーナーは、現在も滞在型のアートギャラリーを目指して改装中とのこと。 続いて、すぐ近くの「松本本箱」という温泉旅館と書店を合体させた、とてもおしゃれな施設も訪ねる。湯船や洗い場までもが本とくつろぎの空間となっていて驚いた。それから市内に移動して、友人が関わっている陶器店を訪ねたが、街は古いものと新しいものがうまく調和して多くの人でにぎわい、活気があった。 北アルプスや上高地などの自然や観光地にも恵まれ、音楽、演劇、クラフトなどでよく耳にする「松本」。市内を流れる女鳥羽(めとば)川の流れも清く、とても魅力的な街に思えた。 松・竹・梅 → 桃・李・杏 ところで、杏の種から杏仁豆腐(あんにんどうふ)を作りたいという上沢さん。実は杏仁豆腐は妻の大好物だったのだが、私は杏仁豆腐がそもそも杏の種の中身「杏仁」からできるなんてなんて思いもしなかった。調べてみると、食べられている杏仁豆腐のほとんどは杏の種とは別の似たものでできているとのこと。また、わりと簡単に種を割ることもできて、杏仁豆腐を作るのもそれほど難しくなさそうだ。 しかし、杏畑はご多分に漏れずの後継者不足で、今はNPO法人がそんな畑の面倒を見ているそうだ。農業体験としての収穫作業ツアーとか…。 世代を経て、「松」「竹」「梅」に代わって、今は「桃」「李」「杏」などの文字が名前によく使われる。名前に杏の字を持つアンズちゃん達を招待しての収穫祭とか。本物の杏を見ると、自分の名前にもより愛着が沸くと思う。6月下旬には、パーコットという桃のような大きさの品種が旬を迎えるそうだ。来年は、いや将来は、季節労働者として訪れるのも悪くない。(画家)

去年の悔しさ背負い基本練習やり続けた 常総 島田監督【高校野球展望’23】

高校野球県南3強チーム監督インタビューの最終回は常総学院高校の島田直也監督。常総学院は昨夏、創部史上初の初戦敗退を喫し、「常総の時代はもう終わった」とささやかれた。しかし、昨秋の県大会では準決勝に進出し、優勝した土浦日大に1対7で敗退した。春の県大会ではその土浦日大との延長10回タイブレークを制し優勝。続く関東大会でも並み居る強豪を撃破して4強入りを果たし、まさにV字回復の途上である。7年ぶりの頂点をかけてこの夏を迎える常総学院の島田監督に意気込みを語ってもらった。 絶対に茨城の1位を獲る ーまずは春の県大会の振り返りをお願いします。準決勝の常磐大高戦の5点差から逆転勝利が印象的ですが、どのような所感がありますか。 島田 春はあの試合に限らず粘り強く戦えたと思いますね。準決勝は選手が最後まで諦めることなく戦った結果、7回と8回で逆転できたのだと思います。 ー常磐大高戦では中林永遠投手が相手打線に捉えられていた中で、だいぶ引っ張ったなという印象があります。そこは何か意図があったのでしょうか。 島田 意図はないです。ただ僕の継投のタイミングが遅れたというだけです。あそこまで連打を浴びないだろうと、どこかで切ってくれるだろうと思っていたのですが続いてしまった。プロのペナントレースとは違う、負けたら終わりの高校野球における継投のタイミングの難しさをあの試合では痛感しました。選手交代のタイミングはまだまだ僕に足りないところです。それでも準決勝は僕の失敗もあったのに5点差を逆転してくれた。選手に助けられたという思いはありますね。 ー決勝戦はもつれた試合になり最後は延長10回タイブレークで勝利しました。 島田 絶対に茨城の1位を獲るという選手の思いと、諦めず戦った結果がこのようになったのではないかと思います。 ー続いて関東大会初戦の関東一高戦はどうでしょうか。 島田 秋に関東に出場できなくて悔しい思いをしましたし、関東で常総学院という名を知らしめる良いチャンスですから当然優勝を目指していました。関東一高戦の入りは良かったんじゃないかと思いますね。先制して追い上げられても突き放した。自分達がやってきた野球が出来ていたんじゃないかなと思います。 ー準決勝は木更津総合に0ー3で敗退でした。 島田 春の大会前の練習試合では大差で勝利したのですが、そこまで力の差はなかったのでロースコアの展開になるかなと思っていました。結果的にはうちはチャンスに1本が出なかった。相手はチャンスをしっかりとものにできた試合でした。 ー準決勝を前に島田監督が「関東大会準決勝の会場が現役時代を過ごした横浜スタジアムで、僕が一番うれしい」とコメントされていました。実際に久しぶりに横浜スタジアムに立ってみていかがでしたか。 島田 新しくウイング席が出来てから初めてグラウンドに立ちました。ここでやってたんだなあと思いながら、マウンドに立たせてもらいました。感慨深かったですね。 次ページに続く 選手の覚悟は相当なもの ー今年のチームはどういう経緯をたどって仕上げてきたのでしょうか。 島田 先輩のあの悔しい思い(昨夏初戦敗退)があったので、選手達の覚悟は相当なものでしたね。新チームはもう一回基本から立ち返ろうということで、基本練習を多めにやってきました。やりたい練習を多くやるのもいいんですけど、毎日基本練習を行って、それが普通に当たり前に出来るようになるまで続けることが大事なんじゃないかと思います。とにかく基本練習をやり続けた結果がこのチームの春の県1位というところにつながったのではないかなと思います。 ー基本練習というワードが多く出てきましたが、新チームになってから基本練習を多めにするに当たってどのような点を変えたのですか。 島田 去年のチームは2020年2月から始まったコロナの関係で4月の入学当初から活動に制限がかかっていまして、下級生の頃から実戦経験が圧倒的に少なかったので、最上級生になってからは実戦を多く積ませました。しかし、それがなかなか結果に結びつきませんでした。練習が足りない分を補うには実戦を経験させるしかないと思っていたのですが、練習不足はやはり練習でしか埋まらないですね。そういう経緯があって、新チームは実戦を減らして基本練習を大事にやっていこうということで実行しています。 意識を共有し合うチーム ーチームカラーを一言で表すとどうですか。 島田 特徴はないですよ。特徴がないところが特徴なのかな。とにかく意識を共有し合うチームを目指して取り組んでいます。僕からしたらまだまだ足りないですが、ダメなプレーはダメだと言い合って共有し合い、良いことは良いと言ってみんなで褒め合う。そういうことが少しずつできているのかなと思います。それが結果につながっているのかなと思います。 ー2年前のチーム(センバツ甲子園出場、夏準優勝)のお話を伺ったときに、島田監督が求めているレベルに達していないとおっしゃっていたんですが、今年はどうでしょうか。 島田 2年前のチームに比べたら力は劣りますが、意識の共有の面では勝(まさ)っている部分はあるかもしれません。 次ページに続く サウスポー同士競争してやっている ー常総学院がベンチキャプテンを選ぶのは珍しいと思うのですが、澤田一徹選手はどんなキャプテンですか。 島田 キャプテンは最上学年の話し合いで決めています。キャプテンは怒られ役ですので例年どおり澤田にも厳しく言っていますね。その代わりよく話し合ってコミュニケーションを取るようにしています。僕の要求を澤田は的確に選手に伝えてくれるし、周りを見て行動で引っ張れる。しっかりとしたキャプテンで頼もしいです。 ー続いて各選手について伺います。エースの諸星蒼空投手はどんな選手で、1年間どんなことを頑張って成長してきたでしょうか。 島田 春の大会の活躍でかなり評価していただいたと思いますが、彼は集中し過ぎて視野が狭くなる部分があります。今回彼を背番号1にしたのには、背番号1の重みを与えて自分のことだけではなく、周りのことを見て責任感を感じてもらいという意図がありました。そういう部分が良い方向に作用したのではないかと思います。彼自身が成長を感じているのではないでしょうか。 1年生の頃は活きの良いボールをただ力任せに投げていて、どうしてもコントロールが定まりませんでした。そこは僕としてもこうすれば良いよとアドバイスをして、取り組み続けてくれてここまで成長してくれたのかなと思いますね。 ープロ注目としても名前が挙がるようですが。 島田 将来的にはあるかもしれませんが、技術とかその辺はまだまだですよ。でもそうやって1番を背負って抑えてきたというのは自信にもつながったと思いますし、周りからも評価されて、本人もよりしっかりしなきゃという良い方向に向かっていくのではないでしょうか。 ー飯塚遥己投手はどのような投手ですか。 島田 飯塚はボールのスピードはないですが、コントロールが良いのでね。相手も球速的には打てると思って打席に入ってきていますが、意外と打てないのはやはりキレが良いのだと思います。これこそピッチャーの球質を持っていると言えるのではないかなと。淡々と投げていますが芯が強く、内に秘めた闘志を持っている子です。諸星と飯塚でサウスポー同士競争してやっているのが良い方向に働いているのかなと思います。 ーこの2人は軟式野球出身だと思うのですが、中学軟式野球のスカウティングは島田監督ご自身でされたのですか。 島田 いや、良い選手がいるという情報をもらって、そこで僕ではなくて松林部長が連絡を取ってくれて、実技を見て是非うちに欲しいという流れですね。 ー続いて小林芯汰投手ですが、1年生から出場していて、球速的には148キロを出して注目されるピッチャーになってきました。今後は大黒柱になっていくと思うのですが、今はどのような状態でしょうか。 島田 148キロという球速で注目されていること自体は決して悪いことではありませんが、コントロールがまだ僕が求めているレベルに達してはいません。持っているものは良いので、一球の大切さとか、コントロールをもっともっと追求してもらいたいなという思いはありますね。この勢いのボールをビシビシ投げ分けられるようになれば鬼に金棒になると思いますが、どうしても大事なところでコントロールミスがあります。甘く入ったら打たれるということは自分で経験して覚えていかないといけないことなので、試合で経験を積ませているところです。どうして試合の大事なところで使われているか考えて投げてもらわないと、ただ力一杯投げているだけでは本人の成長にはつながらない。いくら140キロ後半を投げても今の高校生の技術であれば真ん中に投げれば簡単に打たれてしまいますから。厳しいかもしれませんが、今後の常総を背負うピッチャーになってもらわないと困る訳ですから。その上でも注目されるようなピッチャーになる可能性も秘めていますし、僕自身がピッチャーで大事なのはコントロールだと思っているので、下級生のうちからその辺はシビアに要求していますね。それがものにできれば全国でも勝てるピッチャーになれると思いますので、期待を込めて、要求する基準を高く厳しく指導しています。時と場合によってはかなりきつい口調で言うこともありますね。 次ページに続く 4番武田がポイントゲッター ー続いて野手陣について伺います。クリーンアップは今年かなりの重量打線になっていると思います。 島田 うちは4番の武田勇哉がポイントゲッターとして重要な立ち位置を占めていまして、武田が打たないと勝てないです。2年生で重圧はかかると思いますけど、武田ならやってくれる。上位打線は武田の前になんとかチャンスメイクしようと必死になっていますし、武田が打てなくても後ろを打つ上級生の秋山翔と石井恭悟がなんとか還してくれるというつながりが生まれています。打順は武田を起点にして上手く配置できていますね。個人個人に与えられている役割は分かっていると思うので、春はそれがかみ合ったのかなと思います。 ー武田選手を中心に打線が組まれているのですね。彼は春の県大会決勝戦で、J:COMスタジアム土浦で強い逆風の中、レフト場外にとんでもない当たりのホームランを放ちましたよね。あの当たりには度肝を抜かれました。今はどれくらいホームランが出ていますか。 島田 10本くらいではないですか。たまたま春の練習試合でたくさん出た。好不調の波が激しいのですが、春は好調がキープできていましたね。武田に回せば何とか還してくれるとみんな思っていて期待値がものすごく高い。4番としての仕事ができればチームも本人も乗りますし、本当に中心選手として夏は期待しています。あいつにかかっているといっても過言ではないです。 ー武田選手のパワーはもともと持っているものなのでしょうか。 島田 もともと上体が強いんですね。今はまだ上体だけで打っているから、これが下半身も使えるようになるとバッターとしてさらに成長できますよ。 ーこれだけ監督が言うほどの打線の柱がまだ2年生だということで、この先も楽しみですね。守備の要といったら誰の名前が挙がりますか。 島田 ショートの若林佑真が守備の要として頭角を現して固定していますね。そのおかげで山崎玲恩をセカンドに回して盤石になったところがこのチームの強みです。去年に比べたら今年はポジションやメンバーの移動がなくやれているので、チームとしては良いのかなと思いますね。 ー地道な基本練習の繰り返しが実を結んだと言えそうですね。 島田 冬場はバッティング練習をせずにずっとキャッチボールと守備練習しかしませんでしたからね。守備練習で守備を強化することができますが、下半身強化という副次的な効果もある。だからこそ守備練習を多く取り入れたんです。野球は点取りゲームですが、0点に抑えたら負けることはありません。少ないチャンスで点を取って後は守り勝てば良い。打ち勝つことも野球の醍醐味ではありますが、守り勝つ野球を目指しています。 ー去年の代は内野のエラーが結構出ているなという印象がありましたが、今年は守備が堅く仕上がっているなという印象があります。 島田 僕はそうは思わないんですが、周りの人からは「今年の常総の内野の守り良いよね」って言われます。それはやはり冬場に取り組んだ練習が実になっているのかなと思いますね。バッティング練習をしなくてもあそこまで打ってくれているのですから、やはり土台となる下半身が守備練習で鍛えられたのだと思います。ランメニューに時間を割かずに守備練習を多くしているので下半身もアジリティ(機敏性)も鍛えられてバッティングにも好影響が出ています。守備とバッティングには相関関係が少なからずあると思いますね。 ーキャッチャーについて、秋は土屋海陽選手がスタメンマスクでしたが、春は下級生の片岡陸斗選手になっていました。片岡選手が伸びてきたのですか。 島田 キャッチャーはもともと夏から片岡を使おうと思っていたんですが、片岡がけがをしていて新チームにも間に合わなかったんです。 ーキャッチャー片岡選手の評価はどうでしょうか。 島田 やっぱりキャッチャーらしいキャッチャーですよね。ピッチャーへの声がけもできるし、バッターを見て配球ができている。キャッチャーはグラウンド内での監督なので、片岡がしっかりといてくれることで、チームもまとまってきたなと感じます。 次ページに続く 応援の力ってものすごい ー今年から制限がなくなり、応援団やブラスバンド、チアリーダーも来ることになります。常総学院の迫力の応援が4年ぶりに返ってきます。 島田 生のブラバン演奏での応援は、僕としても監督になって初めてのことなので非常に楽しみですね。やっぱり応援の力ってものすごいんですよ。個人名を大声で叫んで応援してくれるとやっぱり力になるので、どれだけ応援に助けられるのだろうかというワクワク感がありますね。応援からパワーをもらっていつも以上のパフォーマンスが出せると思うので、今年の夏は本当に楽しみです。選手もみんな、たくさんの人に応援されたいと思っていると思います。僕が現役の頃は甲子園を勝ち上がる度に応援してくれる人が増えて、それが快感でうれしくてものすごく力になりました。甲子園に行けばテレビで全国中継される。やっぱりたくさんの人に応援されるというのは力になりますよね。 選手は悪くない、自分がうぬぼれていた ー去年の夏の初戦(2回戦)敗退について振り返っていただきたいのですが、その後の心境の変化や教訓などはありますか。 島田 去年のチームは秋春の公式戦で1勝しかできなくて力はなかったですが、正直言うと僕自信が初戦は負けることはないだろうと思っていました。初戦の入りは難しいぞと周りの監督経験者から聞いてはいたのですが、負けるということは全く考えていませんでした。いくら実戦経験が少ないとか練習が不足していると言ったって、勝たせてあげられなかったというのは僕の力不足だったと痛感しています。選手は絶対に悪くないので、本当に申し訳ないと思っています。自分自身も高校野球の監督って難しいなってつくづく思いました。監督をされている方はみなさん大変な苦労をされているんだなって。最初の年に監督に就任していきなりセンバツ甲子園に出場して1勝できてしまったこともあって、多少うぬぼれていたじゃないですけど、自分がプロまで経験して培ってきたことを子どもたちに伝えたら、勝てるんだろうなという思いがもしかしたらあったのかもしれません。最初に上手くいったので、次の代でも僕が伝えたらできるでしょうと同じように指導していました。しかし、去年の代には去年の代に見合った指導をしないといけなかったなと思います。高校生だけど大人の感覚で見てしまったといいますか、言っても出来ないのなら別の選手を使うという考えになっていたかもしれません。一度伝えたら分かるでしょうではなくて、分かるまで根気強く言い続けるということが大事なんだなと感じた1年でした。そう考えたら僕も高校時代、できるまで厳しく言われ続けていましたね。去年の教訓を生かして今年のチームには分かるまで言い続け、出来るまでやらせるように根気強く指導しています。 正直、厳しいゾーン ー組合せについて所感を伺います。第1シードの常総学院ゾーンにノーシードの強豪校が集まりました。 島田 正直厳しいゾーンになりましたね。でも相手は関係なくどこが来ても勝たなくてはならないですから。春も厳しいなと思っていましたが、緊張感があるゾーンの方が目の前の敵に向かっていけて良いんじゃないですか。 ー最後にこの夏に向けた意気込みをお聞かせ願います。 島田 去年初戦で負けたということがあるので、初戦は選手よりも僕の方が緊張するかもしれませんね。そこは選手達が普段どおりにやってくれると思うので心配はしていません。とにかく去年の先輩の悔しい思いも背負って、今年は相当な覚悟を持って絶対に優勝すると意気込んで一致団結している状態なので、このチームは必ずやってくれると信じています。 ー緊張のお話が出ましたが、プロの試合と今の試合、どちらが緊張しますか。 島田 これはよく質問されるのですが、プレーヤーとしてやっていた方がはるかに楽です。監督の立場の方が緊張しますね。胃が痛くなりますよ。高校野球の監督を長らくやっていらっしゃる方々は、こういうことを毎年繰り返されていてすごいなと心の底からリスペクトします。まだまだ僕みたいな監督になって3年目の若造には想像できない修羅場がたくさんあるのでしょうね。でもこれほどやり甲斐のある仕事はないなと思っています。 ー7年ぶりの頂点に向けてどのような戦いになるのか楽しみにしています。本日はお忙しい中、お時間を取っていただきありがとうございました。 (聞き手・伊達康) 終わり

汚染水を海洋放出しないでください《邑から日本を見る》139

【コラム・先﨑千尋】国際原子力機関(IAEA)のラファイル・グロッシ事務局長は4日に首相官邸で岸田首相と会談し、東京電力福島第1原発の「処理水」を巡り、海洋放出の安全性に対する評価を含む包括報告書を渡した。また原子力規制委員会は7日に東電に海洋放出設備の検査適合の終了証を交付した。国際機関の「お墨付き」を得たので、岸田首相は「夏ごろ」とする放出時期を最終判断する、と伝えられている。 IAEAの報告書は、「処理水」の放出による人や環境への放射線への影響について、「放出計画は国際的な基準に準拠しており、影響は無視できるレベル」と評価。基準を超える濃度の処理水流出を避けるための放出設備の設計・安全管理や、原子力規制委員会の対応も適切、としている。しかし、報告書には「(政府の)方針を推奨するものでも、支持するものでもない」とも書いており、日本政府と一定の距離を置いている。 国と東電は2021年4月に海洋放出する方針を決定した。この決定により東電は放出設備工事を進めてきた。東電の計画では、「処理水」は大量の海水で100倍以上に薄め、トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1未満にする。その上で、沖合1キロ先の海底トンネルの先端から放出する。放出時期は30年程度に及ぶ見通しだ。 これらの動きに対して、直接被害を受ける立場の漁業者は反対の姿勢を崩してこなかった。2015年に福島県漁業協同組合連合会(福島県漁連)は国と「関係者の理解なしには(処理水の)いかなる処分もしない」という文書を取り交わし、全国漁業協同組合連合会(全漁連)も、毎年の総会で海洋放出に反対する決議を続けてきている。 先月、西村康稔経済産業相は福島、茨城、宮城の漁連を訪れ、海洋放出への理解を求めたが、いずれの漁連も反対を表明している。 「差止め請求裁判を起こせばよい」 岸田首相は、国の内外に対して丁寧に説明を行っていきたいと語っているが、漁業者は反対の姿勢を崩していない。反対が続けば「理解」を得たことにはならない。村井嘉浩宮城県知事も5月19日、西村大臣に「海洋放出は漁業への風評被害が心配されるので、それ以外の処分方法を検討するよう」要請している。東京新聞は「10年かけてようやくという今、なぜ流すのか。風評被害はもう起きている」と報道している(7月5日)。 事故を起こした原発への地下水の流入を防ぐために凍土壁を作ったが、依然として地下水は原発敷地に入っている。これを止められれば、地下水が原発敷地に流入しなければ今ある「処理水」も増えない。海洋放出を行わないため、さらに廃炉作業を円滑に進めるために、この作業を最優先に進める必要がある。 汚染水の処理方法はいくつかあるが、そのまま保管すればいいではないか。いくら薄めても総量は変わらない。海に流された汚染水がどう動くのか、どのような被害が出るのか、誰も予測できない。 では、海洋放出を止める方法はあるのか。「原発を止めた裁判長」樋口英明さんは、「汚染水の差止め請求の裁判を起こせばいい」と話している(「日々の新聞」6月30日)。(元瓜連町長)

Most Read