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シルバー団地の挑戦 森の里 -検索結果
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【シルバー団地の挑戦】1 自治会スリム化へ模索 つくば市森の里 高齢化で地域力衰え
【橋立多美】高齢化が進み、役員のなり手不足や加入率の低下など自治会を取り巻くさまざまな課題が指摘される中、自治会の役割を根本から見直そうという動きが、つくば市内でも始まっている。
深刻な高齢化と人口減少に直面している同市茎崎地区にある森の里自治会は、3月25日に開かれた総会で、これからの自治会のあり方を検討する委員会を自治会内に設置することを決めた。これまでの活動を継続していくほどの体力が地域にはないということが背景にあるという。
総会で、新年度会長の倉本茂樹さん(75)は「高齢化が進む中で、自治会運営を検討する委員会を設置する」とあいさつした。演壇に立った倉本さんは「これからも高齢者支援は続けていくが、役員だけで運営していくには無理がある。検討委員会を含めて住民の力を貸してほしい」と呼び掛けた。
また「夏祭りを続けるか、アンケート調査をした上で決めたい」とも述べ、住民の意見を尊重しつつ、運営をスリム化する考えを示唆した。
空き家に転入も入会断られ
市南端の茎崎地区(旧茎崎町)は、筑波研究学園都市の建設に伴って九つの住宅団地が造成され、純農村地域は首都圏のベッドタウンとなった。
住宅団地の中で市内最大規模の森の里(約1300世帯)は1980年代に約5000人が住んでいたが、今では子どもたちが独立し人口は当時の6割の約3000人に減少した。さらに入居時、働き盛りだった世代が一斉に老いたことで、65歳以上の高齢者人口は4割を超える1388人(2017年4月時点)に上っている。このうち184人が一人暮らしという。
約1300世帯中、自治会に加入している世帯は1071世帯。昨年1年間で退会した世帯は27件、死亡による退会は18件あった。高齢化と人口減少が、自治会加入者の減少と空き家の増加を招いているという。
自治会退会の理由の多くが、会費の徴収や回覧板の配布に歩き回るのが辛いというもの。加入している世帯数に応じて市から補助金(事務委託料)が出るため、退会されると会費収入と委託料を同時に失うことになる。
16年10月から、市が市内全域を対象に実施した「空家等実態調査」では森の里の空き家は55件だった。が、連日団地内の空き家や空き地の見守りをしている自警団は99件あると報告している。最近はリフォームされた家を借りて住む人が出てきた。自治会役員が訪ねて入会を勧めても断られる上にごみ出しのルールを守らない人もいて、役員たちの頭痛の種になっている。
新たな負担次々
自治会活動を担う役員自らも高齢者で、行事運営が負担になってきていることも挙げられる。街路灯のチェックや維持管理、清掃美化、ごみ集積所の管理といった暮らしに関わる活動のほか、7年前から高齢者の見守りや粗大ごみ出し支援、閉じこもりを防ぐための行事や交流サロンなど、高齢者対策を実践している。会員間の親睦を図る夏まつりは恒例の一大イベントだが、後期高齢者が多い実行委メンバーたちは血圧や健康状態を確認して本番に臨むという。
運営をスリム化し、時代に合った役割に切り替えるか。森の里自治会の模索は始まったばかりだ。
◇NEWSつくばは、高齢社会の抱える課題が顕在する森の里自治会の動きに密着し、人口減少と超高齢社会へのアプローチを「シルバー団地の挑戦」とワッペンを付けて報道する。
子供会解散、老人会が招待し多世代交流【シルバー団地の挑戦@つくば 桜が丘】2
つくば市茎崎地区の住宅団地、桜が丘の公園で17日「秋の収穫祭&2024交流会」が催され、幼児から90代まで多世代の団地住民約50人がゲームや食事などを楽しみながら交流を深めた。
同団地の老人会「桜寿会」(佐藤恵美子会長)が3年前から、団地の子供会「育成会」を招待して開催してきた。今年3月、子供の数が少なくなり育成会が解散。前の育成会役員を通して改めて子どもたちを招待した。
参加者はゲームやマジックを楽しんだり、近くの畑で収穫したサツマイモで作った石焼き芋や手作りの菓子を味わったり、ホットドックや卵サンドを食べながらおしゃべりを楽しんだ。
首都圏のベッドタウンとして造成され約450世帯が暮らす同団地は、団塊世代が多く住む。子どもの数は、団地が造成され入居が始まった1970年代後半や80年代前半が最も多く、200人以上の子どもたちがいたという。同自治会の落合正水会長(78)は「育成会の倉庫があって、キャンプの飯盒(はんごう)がたくさん残っている。臼(うす)やきねもあって、餅つきもしていた」と振り返る。
団地造成から40年以上経った今年3月、団地の小学生は10数人となり、育成会は解散に至った。育成会元役員の母親(44)は「コロナ禍で育成会の行事が数年間中止となったこと、(共働きなどで)育成会の役員のなり手がなかなかいないこと、育成会は自治会の下部組織だが自治会に加入しない若い世帯が増えたことなどがあった」とし、収穫祭の招待について「地域の方となかなかお会いする機会がないので、お招きいただき本当にありがたい」と話す。
公園の清掃や花壇整備も
収穫祭を主催した桜寿会は会員約30人、平均年齢は82歳で、日ごろ、団地内の公民館で毎月1回、交流会「笑和(しょうわ)の集い」を開き、市内で活動するフラダンスやオカリナ、合唱などの愛好団体を招いて演奏を披露してもらったり、講師を招いて頭の体操などを実施している。ほかに役員や運営委員など10人ほどが団地内の公園を月2回清掃したり、花を種から育ててバスターミナルの花壇に植えるなどしている。
収穫祭に向けては、事前に収穫したサツマイモを役員らが洗って干すなどしたほか、当日は役員の一人が朝5時30分から石焼き芋を準備し、午前8時からは約10人が集まって調理をしたり、会場の準備をして子供たちにふるまった。
佐藤会長(71)は「普段、高齢者と子供たちが集まる機会はなかなか持つことができないので、年に1度でも出来る限り続けていきたい」と言い、「ただ私が一番若く、回覧板で入会を募っても(桜寿会に)新しい人が入らないので、あと何年できるか」とも言う。
➡【シルバー団地の挑戦@つくば 桜が丘】1はこちら
➡【シルバー団地の挑戦】つくば 森の里編はこちら
【シルバー団地の挑戦】16 「つながり結び直したい」 つくばのまぐろ自治会長インタビュー㊦
【橋立多美】シリーズ企画「シルバー団地の挑戦」の舞台、つくば市の森の里団地は、住民の2人に1人が高齢者で、運営を担っていた役員が高齢化し、役員のなり手不足にあえぐ。負担が大きい、活動がマンネリ化しているなどマイナス面を指摘する声もあるという。こうした中、自治会では、シニア世代が平穏な生活を送れるよう、高齢者の引きこもり防止や生活支援事業など高齢化対策事業を推進している。インタビュー2回目は、森の里自治会長の倉本茂樹さん(77)に今後の展望を聞いた。
―高齢化が進み、近年、自治会ではどのようなことが課題になっていますか。
3年前から急に1人暮らしと認知症者を抱える世帯が多くなり、その対策が喫緊の課題です。1人暮らしで雨戸を閉めて引きこもっているというご近所からの通報や、認知症による徘徊で行方不明になり、警察と民生委員が捜索して保護されるなどの事態は毎月起きています。
私は自治会長のほかに、防災・防犯自警団の団長と市社会福祉協議会のふれあい相談員を兼務しており、1日に3回の巡回パトロール時に、1人暮らしや、同居の家族が仕事で昼間1人になる人に異変がないかなど、見守りをしています。ふれあい相談員には守秘義務があり、約60人の自警団員に個人情報は伝えませんが、さりげない見守り要員として活動してもらっています。力及ばず、私が自治会に関与してから孤独死が2件ありました。この方々は、戸が開かないことを不審に思った訪問介護員と近所の人の通報で発見されました。
―さまざまな相談に応じて多忙な日々を送っておられますが、結局、だれかが奮闘しないと自治会は成り立たないというのが実情でしょうか。
私は自治会事務所のある森の里公会堂に毎日出向いています。私に付けられたあだ名が「まぐろ会長」。夜でも泳ぎ続ける回遊魚まぐろに例えたそうです。私が会長を7年続けているのは、故郷島根の恩師の教え「社会に貢献しなさい」が染みついているからでしょう。私で役に立つなら…と引き受けています。
高齢化が進む中で国は介護政策を施設から在宅へと転換しました。在宅介護が当たり前となり、高齢化率49.25(2018年の市行政区別人口統計)の森の里は要介護者が激増する可能性がある。家族に頼れない人が増える中、地域の助け合いが重要になります。その要になるのが自治会で、弱まりつつあるつながりを結び直すことが必要です。そのために、もう一肌脱ぐつもりです。
(シリーズ「シルバー団地の挑戦」終わり)
➡「シルバー団地の挑戦」の過去記事はこちら
【シルバー団地の挑戦】15 「マンネリで何が悪い」 つくばのまぐろ自治会長インタビュー㊤
【橋立多美】超高齢社会における自治会運営のあり方や存在意義とは何なのか。入居者が一斉に高齢化しているつくば市内最大の住宅団地「森の里」を舞台に2018年4月から1年間、自治会の動きを追ってきた。シリーズ企画「シルバー団地の挑戦」最終回にあたって、森の里自治会長の倉本茂樹さん(77)に2回にわたり、自治会運営の課題を聞いた。
―役員のなり手不足が深刻と言われます。
1980年の自治会設立以来、会長と副会長5人は立候補制です。定員に達しない副会長や部長、会計などの役員は、各街区から選ばれる新しい街区委員の中から決めることになっていました。
私が初めて自治会に関わったのは定年退職後です。女房に代わり、初めて街区委員として新街区委員会に出席しました。しかし夜になっても終わらない。役を押し付け合っていたからです。私はこの席で副会長を引き受け、選挙管理規則を改正して新街区委員から役員を推薦してもらうようになりました。もちろん当事者に承諾をとります。
その後3年の副会長時代を経て、会長職7年目の今年は、60代の女性4人が副会長と部長を引き受けてくれました。白髪頭の会長に同情してくれたのでしょうか。役員がシニア世代の男性に偏ると、女性のニーズや声が反映しにくくなるので喜ばしいことです。
―高齢を理由に自治会を退会する人が多いと聞きます。
99の街区が輪番制で街区委員を決め、広報紙の配布や回覧、会費徴収をしていますが、骨が折れるとか、病気がちであることを理由に自治会を辞めていく人がいます。徘徊など緊急時には自治会員の有無を問わず支援していますが、こうした人ほど地域とつながっていてほしいと思います。
今年度から街区委員の負担を減らすために、これまで3カ月分ごとの徴収だった会費を、半年または1年分まとめて納入できるようにしました。足腰が弱くなり子どもに数日に一度食料を運んでもらう世帯が増えています。一括で納めたら近所と顔を会わせることもなくなります。個人的には、1人暮らしの世帯には3カ月に一度は行って安否確認をしつつ世間話をしてほしいと思っています。
―外出が難しくなった高齢者が自治会を退会する一方で、若い人たちは自治会に関心がないと聞きます。
自治会に対し、子育て中の若い世代を呼び込む取り組みをしたらどうかという意見がありますが、約3000人の住民中20~30代はわずか412人(14%)。若い世代は夫婦で仕事を持っている人がほとんどで、自治会には参加していない。呼び込むためのアイデアを出してくれても誰が担うのか、という問題があります。
現実として、自治会役員だけでは開催できない夏祭りなどの行事を、高齢者が多い自治会サークルが支えています。文化部に属するスポーツや趣味のクラブ員たちです。気持ちを一つにしたグループの力を借りないと新たな事業の永続性は望めない。行事がマンネリ化していると言う声もあるが「マンネリで何が悪い」という思いがあります。(続く)
➡「シルバー団地の挑戦」の過去記事はこちら
【シルバー団地の挑戦】14 防災士が地域独自の防災計画作りに着手
【橋立多美】つくば市南部の住宅団地、森の里に、平常時は防災の啓発に励み、災害時は避難の要となる人がいる。防災士の松村健一さん(68)。同団地に住んで39年になる。
森の里は首都圏のベッドタウンとして谷田川沿いの平地に造成された。約1300世帯が暮らす市内最大の団地だ。1970年代後半に若年層の入居が始まり、一斉に高齢化が進む。
2015年9月10日、常総市を流れる鬼怒川の堤防が決壊し3000軒以上の家屋が浸水した。松村さんの妻の友人の家がこの時浸水被害に遭い、妻とともに泥の掃除に駆け付けた。この体験が防災への考えを一変させた。「自分の身や家族を守るため」と翌年、同市で行われたNPO法人日本防災士機構の研修講座を受講して防災士になった。
阪神・淡路大震災を教訓として創設された防災士制度は、災害初期段階で、自助と近隣住民同士による共助の活動をけん引する人材の育成を目的としている。研修で専門知識を体系的に学んだ松村さんは、災害に強い地域づくりの推進役になれたらと、昨年度、防災・防犯部を担当する森の里自治会副会長に就いた。
就任1カ月後から毎月発行される自治会報「森の里だより」に防災コラムを書いてきた。「一般論ではなく、森の里ではどんな災害が予想され、どう対処したらいいかという身近な問題を取り上げてきた」と話す。防災活動の重要性を説くコラムの影響か、昨年11月、同自治会が実施した自治会運営に関するアンケートに防災対策を望む住民の声が多く寄せられた。
在宅避難者への配付方法模索
今年度も同じ役に就いた松村さんは「森の里独自の防災計画を作り、災害時体制を確立したい」という。計画の柱は①地震と液状化②避難生活③水害対策だ。
地震と液状化については、東日本大震災の時に液状化で住宅2棟が傾いた経験を生かした計画を盛る。避難生活は「在宅避難」を見込む。同団地と地続きの市立茎崎第三小が避難所に指定されているが、近隣の住宅団地からも避難してくると総勢5000人に上る。自宅が倒壊するなど帰れない人を除いて在宅での生活を想定し、飲料水と食料の配付方法を模索している。水害対策については土のう用の砂約3トンを団地内の広場に備蓄している。
高齢者を始めとする災害弱者が自然災害により被災する事例が多い。これまでは個人情報保護法が妨げになって対象者を把握できなかったが、13年の法改正で自治体に要支援者名簿の作成が義務付けられ、個人情報を地域の民生委員や自主防災組織が共有できるようになってきた。同団地には1人暮らしの高齢者200人が住む。支援が必要な人への仕組みづくりを避難計画でカバーしたいと松村さんは考えている。
平成の30年余は多くの災害に襲われた。「災害の教訓を令和の時代に生かして、地域ぐるみで災害時に対応できる体制を整えたい」と松村さんは熱意を込めて話してくれた。
➡【シルバー団地の挑戦】の過去記事はこちら
【シルバー団地の挑戦】13 住民の願い届かず つくバス改編
【橋立多美】「つくバスの団地内乗り入れがみんなの一番の関心事。高齢者が荷物を下げて、団地入り口の停留所から家まで歩くのは辛い」―。つくば市のコミュニティバス「つくバス」の4月改編に伴い、2月25日、茎崎地区の森の里自治会公会堂で行われた市民説明会での住民の発言だ。
「団地入り口の停留所まで遠くて利用する人はわずか。団地内に乗り入れるのに2、3分しかかからない。利用者が増えれば運賃収入が増えて市の経費は抑えられる」などの発言が相次ぎ、発言のたび、集まった約120人の住民から拍手がわき起こった。
森の里自治会は、団地入り口にしか停留所がないつくバスを、団地内に乗り入れてほしいと市に申し入れてきたが思いは届かなかった。
森の里住民が利用できるつくバスの路線は、同地区の茎崎老人福祉センターから牛久学園通りを走行してつくばセンターに至る「南部シャトル」。ルート上に「森の里団地入口」のバス停(図参照)がある。同団地は市内で最大規模の住宅団地で面積は25ヘクタールに及ぶ。中心部からバス停まで約400メートル。成人男性でも歩いて5分ほどかかる距離だ。場所によっては1キロほど離れている住宅もある。高齢者には過大な労力がかかり、買い物や通院に不便を強いている。
同団地内には5カ所の停留所があり、牛久駅に至る民間の路線バスが運行されている。しかしつくばセンター方面へ向かうつくバスのバス停は団地内にない。自治会は、つくバス改編に向けた地区別懇談会や説明会などで団地内への乗り入れを要望してきた。
この日、改編について説明した市総合交通政策課の職員は「乗り入れはわずか数分と言われるが他にも『団地入口』の停留所があり、同じように求められたら便数を確保できない」と答えた。
「諦めるが、運賃補てんはありがたい」
茎崎地区の公共交通改編の柱は三つある。一つ目のつくバス「南部シャトル」は、ルート変更はないが、牛久市域の「田宮町」やララガーデン(小野崎)近くの「小池」など7カ所にバス停が増設される。さらに混雑時間帯を考慮してダイヤが見直され、現行では概ね30分毎の64便運行が30~40分に1本になって56便に減る。
高齢化が進む茎崎地区はもともと牛久に生活圏を持つ人が多い。主に日中時間帯に高齢者の牛久駅方面への交通需要に対応するため、既存の4つの路線バスの運賃を、料金が安いつくバスと同等にし減収分を市が補てんする「路線バス運賃補填実証実験事業」と、牛久方面へのバス路線のない地域に31人乗り小型バスを運行する「新規路線バス実証事業」の二つが新たに始まる。
いずれの事業も4月1日から3年間実施されることから、説明に時間が割かれた。「運賃補てん」は市の補てん額を正確に把握するためICカード乗車券を利用することが条件で、カードの入手やチャージ方法の説明に熱心に耳を傾ける人が多く見られた。
森の里自治会の倉本茂樹会長は「つくバス乗り入れは諦めるしかないが、路線バス運賃補てんは高齢者に限らず誰もが利用できる制度でありがたい。団地乗り入れへの関心が高く123人が説明会に来てくれたが自治会会員の1割に過ぎない。再編に関わる情報は今月号の自治会広報で周知したい」と話した。
茎崎地区の補てん事業の当初1年間の予算は772万8000円。新規路線バス事業も含めると新年度3389万4000円を計上する。
➡つくバス改編の関連記事は2018年5月11日付、同16日付、19年1月18日付
【シルバー団地の挑戦】12 若い世代の参加が鍵 自治会存続に向け住民アンケート
【橋立多美】超高齢化社会の今、高度成長期に建てられた住宅団地や大型の分譲マンションの住民が一斉に老い、自治会が岐路に立たされている。高齢化による活力の低下や加入者の減少、活動をけん引する役員の担い手と後継者不足などで継続が難しくなり、解散した自治会もある。また独り暮らし高齢者が増えたことで安否確認や空き家問題など、自治会は新たな課題に応じた活動に迫られている。
入居開始から40年、つくば市茎崎地区の森の里自治会は住民の2人に1人が高齢者という深刻な高齢化に直面している。昨年6月には「高齢化に伴う自治会運営等に関する検討委員会」を設置して打開策を探ることにした。委員は11人で構成され、佐藤文信さん(68)が委員長に就いた。
検討課題の解決には住民のニーズを知ることからと11月に会員全世帯(1067世帯)を対象にアンケート調査を実施した。調査は選択方式で回答する13の設問のほか、自由に意見を記載する欄を設けた。463世帯(43・4%)から回答を得て集計と分析を行い、年頭に「答申及び意見書」を自治会に提出。このほど同文書が住民に公表された。
文書は自治会運営の維持について、冒頭で街区委員(町内会では班長に相当)対策を揚げている。輪番制の街区委員が各部会に属する一方で、担当街区の会費や寄付金集めなどの役割まで担っているが、高齢で負担が増していることから軽減を提案。軽減されれば脱会の防止策にもなると記述する。同じように役員も役割の見直しと人員の削減を求めている。その他、体力を必要とする夏まつりの準備作業に外部組織を活用する案や、自治会活動を側面から支える自主的な住民組織「コミュニティー委員会」の検討などが盛り込まれた。
世代間を切れ目なくつなぐ活動を
委員たちの意見を集約した最終章の「課題の解決に向けて」では、高齢化対策の特効薬はないとしつつ、子育て中の若い世代を呼び込むことが自治会活性化の鍵を握ると述べる。時間はかかるが、空き家のリノベーションや空き地を利活用して子育て環境を整えることで、若い世代の入居を促そうとするものだ。
さらに「高齢者向けのイベントや事業が多い。子育て世代にも目を向けて」の意見が多く寄せられたこともあり、生活に密着した防災訓練など家族で参加できるイベントや活動の実行を提言。世代間を切れ目なくつなぐことで、住民間の交流と自治会本来の助け合いが生まれるとした上で、「高齢化対策はこの辺りからスタートしてはどうか」と結ばれている。
森の里自治会は3月24日に定期総会を開く。次年度自治会長に立候補して無投票当選が決まった現自治会長の倉本茂樹さん(76)は「2019年度の活動及び予算は、答申の中から実行に移せるものを(優先したい)と考えている。総会で会員の皆さんの理解を得たい」と話す。
調査をまとめた佐藤文信さんの話 意見書で触れたが、自治会の存続には若い世代との融合が欠かせないと思う。そのための仕掛けが重要で、ITを使いこなす若手に自治会の情報発信を任せるなど、時代に即した活動を展開することで人材の幅も広がる。また、多様化する住民の要望に応えるには女性たちの行動力がモノをいう。だが回答者が世帯主に偏り、潜在している女性たちの意見を拾い上げることができなかった。手だてを考えるべきだった。
➡【シルバー団地の挑戦】の過去記事はこちら
【シルバー団地の挑戦】11 小学校に地域交流室ができた!(下) 住民の奉仕活動が結実
【橋立多美】2013年4月、小池義寿校長が、つくば市立茎崎第三小学校に着任して間もなく、児童数の減少で活気を失い草木が生い茂っていたことにぼうぜんとした。30年前、39学級が各々の級の花壇を持っていたころの環境を取り戻したいと、小池校長の奮闘が始まった。
市教委に環境整備を申し出たが「順番があるので時間がかかる」と言われた。殺風景で季節感のない学校環境では児童に情緒は育たない。「これは俺の仕事」と草刈り鎌と耕運機で中庭の整地に取りかかった。
すると保護者の中にかつての教え子たちがいて「先生がやるなら俺たちも」と声を挙げ、孤軍奮闘を見た地域住民の助っ人も現れた。校舎裏手にはヤブカラシが繁茂した中に古い備品が放置されていた。助っ人たちが不要品を片付け、根気強く整地して駐車場に生まれ変わるなど、彼らの力で中庭を含めて学校はきれいになった。
同校の玄関に飾られていた「南極の石」が取り持つ縁もあった。地域に目を配ると、倉本茂樹さん(76)が12年に森の里自治会長に就き、団地横を流れる東谷田川の堤防に草花を植栽する「堤防美化プロジェクト」と、地域ぐるみの自警団「かわせみパトロール隊」を組織。同隊は同小に通学する児童の見守り活動を行っていることを知った。
「すぐに倉本会長は南極の石を寄贈した人だと分かって親近感を覚え、裏付けもないのにこの人となら協働できると思った」と小池校長は振り返る。学校周辺がきれいになり、次は花壇と思っていた小池校長は倉本さんと連絡を取り、自治会による学校の花壇づくりが始まった。
3年後、小池校長と入れ替わりに黒澤美智子校長が着任すると、今度は、毎年文化の日に開催される「三小まつり」への協力依頼が自治会に舞い込んだ。地域住民の知識と経験を児童に伝えてほしいというもの。昨年は輪投げや紙飛行機といった昔遊びの伝承や、プラネタリウムの解説、将棋指導など9種目を住民が受け持って児童たちと世代間交流を楽しんだ。
個別に同小を支援する団地住民もいる。長谷川郁夫さん(73)は職員室に困っている箇所がないかと尋ねて修理から片付けまでをこなす。「日曜大工の簡単な作業だけど、時間の許す限り続けていきたい」と話してくれた。
愛着色あせず
開校時のにぎわいはないが、我が子が巣立った学校への愛着は色あせず、住民らは今も、未来を担う子どもたちの成長を支えようと、学校と連携して登下校の見守りや花壇づくり、学校行事支援などの活動を続けている。こうした地域住民の奉仕活動が結実したのが同小の地域交流室だ。
自治会長の倉本さんは「住民たちの活動が実を結び、鮏川校長の英断で地域交流室ができた。茎崎地区のサークル活動の拠点は茎崎交流センターだが登録団体が多く、2カ月毎の予約日には2時間前からセンター入り口に行列ができる。それだけに地域交流室の開設は有り難い」。また「自治会発行の森の里だよりで周知するなど、地域として全面的に交流室の運営に協力していく」と語った。
地域交流室は小学校の開校時間(平日の午前9時~午後4時)に開放され、現在は琴のほかダンス、詩吟、カラークラフトの4団体が利用している。
【シルバー団地の挑戦】10 小学校に地域交流室ができた!(上) かつての活気取り戻したい
【橋立多美】つくば市立茎崎第三小学校(同市小茎)は、高齢化が課題のつくば市南部、森の里団地(1300世帯)に隣接する。昨年9月、同小の空き教室を活用して地域交流室が開設された。
冬休みが間近になった昨年12月13日、同交流室から早春譜を奏でる琴の音が聞こえた。同校は中庭を囲むように3階建ての校舎が建ち、1階にある同交流室には暖かな日が差し込む。
同交流室は隣接する森の里団地の住民に開放され、サークル活動に使われている。この日の琴は「琴伝流大正琴」の講師福本敬子さん(75)が開いた。福本さんは「静かで落ち着いてお稽古ができる」と話す。そして「音が授業の妨げになるのでは、と思ったが、学校は『児童たちに地域の人々の活動が聞こえるのはいいこと。窓を開けて練習してもいいですよ』と言ってくれた」。会員の海野和子さん(69)は「三小は我が子の母校。卒業して縁がなくなった学校に来ることができるのは懐かしさもあってうれしいし、子どもに今度はお母さんが通学すると話している」と交流室の開設を喜ぶ。
開設は、昨春同校に着任した鮏川誠校長が決断した。校長は「これまで県内の多くの小中学校に赴任してきたが、登下校の見守りや花壇の手入れ、学校行事などを快く引き受けてくれる地域住民の姿勢と学校への関心の高さに驚いた。「住民との良好な関係は教師にとって財産で、地域に開かれた学校にしようと地域交流室を思い立った」と話す。
取材を進めると、地域交流室の開設に先鞭(せんべん)をつけた人がいたことが分かった。鮏川校長の2代前の小池義寿校長(現・守谷市立黒内小校長)だ。
30年後の荒れた中庭にがく然
茎三小は、森の里団地の入居が始まった1979年の翌年春、開校した。学齢期の児童数が膨れ上がり、当時、児童数1500人を超える県内屈指のマンモス校となった。現在は当時の6分の1以下の227人だ。
約30年前、教員生活をスタートさせた小池校長が初めて赴任したのが開校したばかりの同小だった。当時25歳。マンモス校で教員数は約40人。同世代の教員と教育について議論を交わす熱血漢で、議論が深夜に及ぶと今では考えられないが畳の敷かれた玄関脇の用務員室で雑魚寝をすることもあった。
ある夜、校舎の玄関に置かれた「南極の石」に目が留まった。当時、海上保安庁に勤務していた保護者の倉本茂樹さん(76)=現在森の里自治会長=が、第22次南極観測隊員として南極に赴いた折りに持ち帰った石を寄贈したものだった。「地域には素晴らしい人がいるな」と思ったという。
歳月は流れ、30年経った2013年4月、校長として同小に再び着任した。同小の中庭に立ったとき、その目に飛び込んできたのは、生い茂った草木と、今にも倒れそうに壊れた時計台と百葉箱だった。新米教師だった自分を育ててくれたふるさとに、校長になって戻って来たという高揚感は消え、うれしさは打ち砕かれた。寂しさが込み上げた。
=続く
【シルバー団地の挑戦】9 老朽化課題も再生困難 スーパー・商店街撤退(下)
【橋立多美】住宅団地の中心からスーパー・商店街が撤退した後のつくば市茎崎地区、森の里では、空き家になった長屋式集合タイプの商店街の老朽化問題が浮上している。
1階を商店、2階を住居とする「げた履き住宅」の商店街がシャッター街となっておよそ15年。シャッターやひさしが壊れたり、軒先が腐食するなど老朽化が著しい。店を畳んだオーナーたちは空き家にしたまま新天地で開店したり、2階の住居部分を貸したりしている。
空き店舗のままなのには訳がある。壁一枚で隣り合う長屋式の店舗兼住宅の一部を売却するのが難しく、所有者全ての合意が必要になるからだという。また、高齢化で地域が衰退し新たな店舗が出店することは期待できず、居抜き譲渡されたケースは皆無だ。
森の里自治会の倉本茂樹会長は「以前、生協や市シルバー人材センターが注文品配送センターや弁当配送の拠点として利用できないかと検討され、私も相談に乗ったりしたが、2階部分に入居者が居ること等が障壁となって実現しなかった」と振り返る。
「腐食した建物の一部が強風で吹き飛ばされて災害になる可能性があり、市の空き家対策室に対応を要請しているが、所有者に連絡がつかないのか、ついても所有者が対応しないのか、未だに解決していない」とも。
今年7月に異例の進路をたどった台風12号接近に備え、危険防止のために朽ち果てて強風で吹き飛ばされそうなシャッターの一部を撤去したり、土のうを積んだりしたそうだ。「他人の所有物を破壊するのは違法行為で、責任をとる覚悟だった」と、その時の心情を語った。
店舗の所有者と粘り強く交渉して空き店舗の解消を図る必要に迫られているが、所有者も高齢化し所有権が他の人に渡るとさらに交渉が難しくなるのは必至だ。「所有者の行方が分からないと聞く元店舗もあるし、自治会としては現に2階に人が住み、その人達が会員であることを考えると対応は極めて難しいのが現実」と倉本さんは苦渋の表情を浮かべる。
シャッター通り商店街は閑散として猫1匹通らない。スーパーは取り壊され、100台を収容する駐車場に変わった。(おわり)
【シルバー団地の挑戦】8 運営は主婦から出店者に スーパー・商店街が撤退(中)
【橋立多美】つくば市茎崎地区の住宅団地、森の里では、スーパー・商店撤退後、主婦が始めた定期市がスタートから6年目に存続の危機を迎えた。
発起人の主婦3人のうち2人が引退。また魚屋の店主が高齢のために出店を取りやめた。発起人で1人残った田辺くるみさん(69)が踏ん張り、定期市を続けた。
引退した1人は夫婦で定期市運営に取り組み、夫君がフリーマーケットの商品を移動したり、コーヒーショップの中心的役割を担っていた。この夫君が病にかかって介護のために引退。もう1人は元々足が悪く、毎週の活動で足への負担が大きくなったことが原因で引退した。
田辺さんは「軌道に乗っていたしボランティアもいて続けることにしましたが、二本の柱を失い、フリマとコーヒーショップをやめるなど、規模を縮小せざるを得ませんでした」と淡々と話してくれた。
2013年3月には同市から委託を受けた食品スーパーカスミの移動販売が始まり、不便な生活解消という役目を終えたと解散することになった。
しかし、出店者側から「利用客から続けてほしいという要望があってやめられない」の声が挙がり、「里の市」オープンから12年経った14年春、出店者の希望で定期市は継続されることになった。
名称を「土曜朝市」と改め、運営は主婦たちから出店者に移った。開催日時は里の市と変わらず毎週土曜の午前10時から。里の市の発起人だった田辺くるみさんと松浦悦子さん(70)、松元栄子さん(同)がボランティアで世話係を務めている。
待ってくれている客がいる間は続ける
朝市に並ぶのは肉と和菓子、野菜の3品目。1320平方㍍の畑を借りて野菜と落花生を育てている団地住民の土屋達夫さん(66)は「にぎわいの一つになればと思って出店している。売上500円の日もあるが種と肥料代の足しになればいい」。
定期市のスタート時点から出店している土浦市の精肉店店主の村山勉さん(73)は「客は少なくなって今は多くて15人ほど。もうけを考えたらやっていけない。待っていている人とのつながりは切れないし、客が一人でもいるうちは続ける」と話す。暮れには和菓子店が正月用の餅を、精肉店がハムやすき焼き用牛肉などを販売するという。(つづく)
【シルバー団地の挑戦】7 シャッター通りで続く定期市 スーパー・商店街が撤退(上)
【橋立多美】つくば市茎崎地区の大型住宅団地、森の里(1300世帯)では、団地内のスーパーや商店街が近隣にできた商業施設に客を奪われて撤退・廃業した後も、主婦3人が始めた定期市が規模を縮小しながらも続けられ、「買い物難民」化に歯止めをかけている。
同団地は筑波学園都市建設に伴って建設された。1979年に入居が始まり、入居者がそろって高齢化している。入居当初、活気があった団地内のスーパーは駐車場になり、商店街は現在1店舗だけが営業している。
秋晴れの11月17日午前10時、元商店街で「土曜朝市」が始まった。60代の主婦が、ざるに並べられた一皿100円の朝採り野菜の中からジャガイモに目をとめた。「おいしそう。どれにしようかな」。店主の土屋達夫さんが「どの皿も同じ数だけど、こっちがいいかな」。
ジャガイモと葉物を入れたビニール袋を下げて、隣のテーブルの和菓子をのぞきながら肉販売のコーナーへ。ラッピングして値付けされた豚や鶏肉などが保冷車から下ろされると待ちかねたように次々に売れていく。一人で数パック買う人もいて、ボランティアの田辺くるみさんらが電卓で合計金額を出したり袋詰めをする。
両手にビニール袋を下げて帰っていく人もいれば、日なたにしつらえたテーブルと椅子で茶飲み話に花を咲かせる人もいる。70代の主婦は「買い物してからここでおしゃべりするのが楽しみ」と笑顔で話した。
3人の主婦が定期市を発足させた
かつて団地の中心には大型スーパーと電器、肉、薬局、玩具、美容室、飲食店など15の店舗があった。同地区の住民も訪れ、暮れには正月用品を買い求める人の車で商店街周辺の道路が渋滞した。ところが牛久駅前に商業施設が開業したころから陰りが見え始め、2002年春に商店街の核だったスーパーが撤退。店舗も次々にシャッターを下ろした。
こうした状況では、高齢者が食料品等の日常の買い物が困難な状況に置かれる「買い物難民」になりかねない。同年9月、不便な生活を解消し活気を取り戻そうと、3人の主婦が発起人となって毎土曜開催の「里の市」をスタートさせた。
場所は現在と同じ元商店街の一角。市には3人が奔走して出店をとりつけた乾物、魚、肉、パン、野菜の5業種がそろった。ボランティアがフリーマーケットやコーヒーショップを運営し、毎週数十人の団地住民でにぎわった。露店のため天候に振り回されつつも豪雨以外は休みなく続けられた。
しかし6年目の08年、3人の発起人のうち2人が健康上の理由で引退。開催規模の縮小を余儀なくされた。(つづく)
【シルバー団地の挑戦】6 自治会がごみ出し支援 利用広がらず 心理的抵抗感課題
【橋立多美】つくば市茎崎地区の森の里自治会(倉本茂樹会長)は、ごみ出しなどの生活支援をする「高齢者支援隊」を結成して弱者支援を行っている。相互扶助の先駆的な取り組みだが、思ったほど利用世帯が集まらない。加齢で支援隊員を辞退する例も後を絶たず、さらに高齢化が進んで利用世帯が増えたときの対応が懸念されている。
高齢などで自力でごみを出せなくなった「ごみ出し困難世帯」は、朝日新聞の調査によると全国で少なくとも5万世帯に上るといわれる。中でも独り住まいの高齢者はごみ屋敷になる可能性があり、内閣府はごみ屋敷の予備軍は1万人以上と予想する。
結成6年 利用世帯もボランティアも減少
40年前に開発された森の里団地は世帯主の多くが団塊世代で、1300世帯中2割が高齢の1人暮らし。このうちの3割超を75歳以上の後期高齢者が占める(2016年10月1日現在)。
同自治会は高齢化に伴う弱者対策として燃やせるごみと粗大ごみのごみ出し、電球など簡易な器具の交換をする「高齢者支援隊」を12年に結成した。隊員は住民からボランティアを募った。高齢者は利用券1枚100円でごみ出しを依頼できる。支援隊員には、森の里自治会有償ボランティア規則に基づいて謝金(時給700円)が支払われる。利用券収入との差額は自治会が補てんしている。
開始からの利用は6世帯と広がりに欠け、現在は歩行困難な80代の独り住まい1世帯のみだ。支援隊員の担当は斉藤一夫さん(74)。週1回、燃やせるごみを玄関から集積所まで運ぶ。毎回利用者に署名捺印してもらう決まりで「何か変わったことはないか、安否確認に役立っている」と斉藤さんは話す。
ごみ出し支援を受けている人がいる一方で、老々介護の90代の男性は重いごみ袋を持つことが大変で、台車に載せて集積所まで運んでいる。近隣住民が手伝いを申し出るが「おむつが入っているごみ袋を人に頼むのを妻が嫌がる」。ある女性は「半透明のごみ袋はスナック菓子の袋や封筒などが透けて見える。暮らし向きが分かるし遠慮もあって団地住民に頼みたくない」と打ち明けた。ごみを見られることへの抵抗感が相互扶助システムの広がりを阻んでいるようだ。
自治会長の倉本さんは児童の登下校を見守る防犯パトロール隊の団長を兼務し、児童の安全を見守りつつごみ集積所を丹念に見て回る。ごみ出しに台車を使うなど自力でのごみ出しが困難な高齢者に支援隊の利用を呼びかけてきたが、「動けるうちは自分で」と返されることが多いという。一方で、加齢による体調不良などで支援隊員4人が活動できなくなり、現在は前出の斉藤さん1人になった。
来年4月「プラ容器分別が心配」
倉本さんは「今は(ごみ出しを)頑張る人が多くて支援隊員1人で足りているが、もっと高齢化が進むとみんなが支援を受けたくなる。その時、支援する側とされる側のバランスはとれるか」と眉を曇らせる。
民生委員でごみ出し支援の窓口を担当する浅田紀子さん(64)の心配は、来年4月から同市で始まるプラスチック製容器包装の分別収集だ。「資源の有効活用という趣旨は分かるが、認知症でなくても高齢者には細かい分別収集は大変だと思う。できない人には緩やかな収集方法を考えてほしい」と話した。
国立環境研究所(つくば市小野川)資源循環・廃棄物研究センター循環型社会システム研究室の鈴木薫研究員は、超高齢化社会におけるごみ集積所管理のサポート手法を解明することを目的に、同市内全域の自治会(区会)にごみ集積所の課題についてヒアリング調査を行っている。「地縁血縁でごみ出しを助け合う旧集落と比較すると、組織ぐるみで支援する森の里は取り残される人が少ない。利用を左右する心理的要因を考慮する必要はあるが、『ごみ出し支援はこれから考える』という区会もあり、森の里の支援システムに学ぶことは多い」という。
【シルバー団地の挑戦】5 あうんの呼吸で夏祭り開催 高齢化配慮し独自の安全対策
【橋立多美】つくば市の森の里団地で4日、団地最大のイベント「夏まつり」が催され、住民800人が山車巡行や盆踊りなどを楽しんだ。自治会の負担が大きく高齢化のため4月時点では開催が未定だったが、役員から中止しようという声は出ず例年通り開催。高齢化を考慮し独自の安全管理計画を策定して準備にあたった。今年はとりわけ猛暑だったが、長年培った仲間意識やあうんの呼吸で乗り切った。
森の里団地は1979年に入居が開始された1300戸の住宅団地で、高齢化率は2017年5月現在で49%。つくば市全体の19%を大きく上回っている。
自治会は会員相互の親睦を目的に、引き継がれてきた夏まつりや餅つき大会、文化祭などの行事を毎年行ってきた。中でも役員の負担が大きいのが夏まつり。とりわけ今夏は命に関わるほどの猛暑の中で準備を行った。
75歳以上は高所に従事させない
6月初めに夏まつり実行委員会が始動した。総務、会計、広報、食品調達、イベント推進、模擬店管理など11の部門に分かれて準備が始まった。団地脇を流れる東谷田川の河川敷きで花火を打ち上げるため、県竜ケ崎工事事務所への申請や団地内に乗り入れているバス路線の路線変更要請、模擬店のための保健所申請、チラシやポスター作製などだ。
各種許可申請の手続きを終えた7月22日、自治会公会堂で実行委の全体会議が行われた。まつり会場の設営など、本格的な準備作業を確認し合うための最終会議で40人が集まった。会議の終盤、倉本茂樹会長(76)が高齢化を考慮した独自の「安全管理計画書」を示して、舞台や看板などの組立解体作業への注意を促した。
同書に「原則として75歳以上には高所作業は従事させない」とあるのに気づいた70代後半の男性が「俺は(作業)できないなぁ」とジョークを飛ばした。すかさず「これからは80歳以上だよ」の声が上がって笑いが広がった。
作業前に血圧測定など徹底
この会議を境に準備作業は本格化、まつり前日まで続いた。高温注意情報が出され、熱中症に対する備えが必要になったことから、作業参加者記名表を作成して作業前に血圧と緊急連絡先を記載することを徹底した。
修理が特技で音響機器の設置や電気の配線を一手に引き受けている遠藤邦明さん(84)は「子どもたちの夏の思い出作りの大義のもと、まつりの準備で顔を会わせる仲間との一体感がいい」。
みこしの組み立てや掲示物の設置を担当した副会長の渡部友吉さん(67)は「実行委には、これまでまつり運営に関わった住民が自主的に参加してくれ、あうんの呼吸で事が運ぶ。森の里独自の仲間意識がある」と話す。
会場設営は長年ゼネコンに勤めていた工藤哲也さん(72)に負うところが大きい。屋根付きで高さ1㍍だった舞台を、3年前に屋根を外して高さ70㌢にした。また今年から団地入り口に掲げていた照明付き看板の設置を止めた。「高齢化して作業は困難になる。年々改良を加えて縮小していくことになるだろう」と工藤さんは話してくれた。
今後の在り方検討へ
4月の総会で倉本会長は、住民の意向を考慮することを前提に「負担の大きい夏まつりは中止も考えている」と述べた。森の里団地と同時期に入居が始まり、高齢化が進む近隣団地が夏まつりを中止または縮小していること。また、経費が会費収入の約3割を使うことから中止を求める意見があるという。
今年の役員会で実施反対意見が出ることはなく、従来通りに最大イベントを盛り上げようと一致した。倉本さんは「高齢化が加速していく中で、6月に発足した当自治会の高齢化検討委員会の検討課題になるだろう」と話した。
《シルバー団地の挑戦》4 自治会と学校の新たな共助㊦ ウサギの餌やり
【橋立多美】高齢化が課題のつくば市の森の里団地は市立茎崎第三小学校と隣り合っている。同小で飼育されているウサギの日曜日の餌やりを、同団地自治会スポーツ部の部員たちが受け持っている。学校は地元住民の貢献に報いたいと、空き教室を地域で活用してもらう準備を進めている。
同校はプール脇の飼育舎でウサギ3匹を飼っている。週末の餌やりを教職員が交代でやってきたが、休日を授業の調べものや準備に充てる教職員にとって負担になっていた。
今春着任した鮏川誠校長は、学校運営に協力的な自治会長の倉本茂樹さん(75)に相談を持ちかけた。自治会は2代前の校長時代から、花壇やプランターの花植えや水やりをしてきた。
相談を受けた倉本さんは、日曜にバットの快音を響かせて同校校庭で練習をしている、自治会文化部所属のソフトボール部と軟式野球部の部長に打診した。両部とも「責任もってお世話します」と快く引き受けてくれた。
両部が1カ月交代で餌やりをし、市体育協会主催の大会出場と重なった場合はもう一方の部が担当するなど、協力し合って小さな命を守っている。練習できない雨の日は担当月の部員が順番で餌やりをし、晴れた日は花壇とプランターの水やりも忘れずに行っている。
6月の餌やり担当は軟式野球部だった。与えるのは市販のウサギ用餌だが、5、6年生による美化飼育委員会が全校生徒に呼びかけて集めたニンジンやキャベツが餌箱に添えられていることもある。部長の森山志郎さん(70)は「世話していると、かわいいよなぁ」と相好を崩す。
団地住民と同校との連携について倉本会長は、「学齢期の子どもがいる若年層が一斉に入居した翌年(1980年)春に第三小が開校した。住民には、自分の子どもを育ててくれた学校という共通の思いがある。私の意識の中では森の里団地立茎三小という気持ちがある」と語る。
一方、県内のさまざまな公立学校を赴任してきた鮏川校長は「団地住民の学校への関心の高さと代償を求めない姿勢に驚いた」と感慨深げに話した。学校も地域のために貢献できることをしようと、準備が進められているのが空き教室を開放し、住民が気軽に語らったり学習できる場の提供だ。校長は「世代間交流が生まれ、児童たちが思いやりの心を育むことにつながる」と話している。(終わり)
《シルバー団地の挑戦》3 自治会と学校の新たな共助㊤ 登下校の見守り
【橋立多美】つくば市南部の森の里団地(約1300戸)は高齢化が顕著だが、体力と気力、そして現役を引退したことで時間のあるシルバーたちが、安心して子育てできる環境を守り、学校を支援する活動を続けている。その活動ぶりを上下2回で紹介する。
団地に隣接する、市立茎崎第三小学校に通学する119人の児童を見守る森の里防災・防犯自警団「かわせみパトロール隊」。不審者情報に注意を払いながら、子どもたちを危険から遠ざけている。
「おはよう」「行ってらっしゃい」。午前7時半すぎ、同校正門に近いバス通りの横断歩道や住宅の角で、緑色の帽子とベスト姿の十数人が、登校する児童に笑顔で声をかける。同小2年の女児の母親は「いつも子どもたちを見守ってくれる心強い存在。ありがたい」と話す。
同自警団は、地域ぐるみの活動で団地内の安全力を高めようと2010年12月に発足した。団員はシルバー世代の男女66人。全員に「防犯パトロール」の文字が入ったベストが貸与、帽子は配布され、パトロールには必ず着用する。倉本茂樹団長(75)は「団地の中をパトロールの服装をした人がいつも歩いていることが、犯罪の抑止力になる」。
活動は定時パトロール(午前8時、午後2時30分、午後5時)と犬の散歩などを兼ねた任意時刻のパトロールに分かれる。同小児童の登下校の見守りに重点が置かれ、午前8時のパトロール前に登校する児童を見守り、低学年の下校時間に当たる午後2時半からのパトロールは、往来が少ない通学路に目を光らせる。
登校時の見守りを担当する副団長の藤田広次さん(71)は「子どもたちと顔見知りになって元気をもらう。眼鏡を忘れたら『おじさん、きょう眼鏡は?』って。見守りは社会への恩返しで、雨風が強い日でも通学路に立つよ」。山田秀子さんは「森の里は安心して子育てできると言われたい」。
愛犬の散歩を兼ねて日に3回パトロールする工藤哲也さん(72)は「住民と顔なじみになったから見慣れない人はすぐ分かる。空き家や雑草が生い茂る区画には注意を払うようにしている」と話す。
110番の家 3分の1に
倉本団長の気がかりは、子どもが不審者に遭遇した際に助けを求める「110番の家」だ。かつて団地内には個人商店など善意の家が20カ所あったが、閉店や転居などで6カ所になった。児童委員などの職を離れた家に今も看板が掲げられており「早急に整理したい」と話す。また18日朝、大阪府北部を襲った地震で見守りの80歳の男性が亡くなったことに「身につまされる。団員の安全も大切な事」と気を引き締める。
県内で見守り活動が強化されたのは、2005年に栃木県今市市(現日光市)で下校途中の小1女児が殺害された事件だった。つくば市の自警団は4月1日現在、中央警察署管内に104団体、北警察署管内には11団体ある。ただメンバーの高齢化が課題となっており、主力メンバーを失って継続が危ぶまれている自警団もあるという。
【シルバー団地の挑戦】2 文化部が医療講話
【橋立多美】つくば市茎崎地区の大規模住宅団地、森の里自治会公会堂で15日、文化部主催の講話「自分と家族を守るための地域医療の知識」が開催された。60代や70代の前期高齢者を中心に約70人の団地住民が梅雨寒の中を集まった。
同団地の世帯数は約1300戸で高齢化率は5月1日現在49%(市市民活動課調べ)。これまで自治会文化部は、住民の融和を目的にしたコンサートや文化祭などの行事を継続してきたが、今年度から超高齢社会に対応した行事を盛り込むことになった。講話はその一環で初の試み。
講師は同市倉掛で内科医院を開業し、長年高齢者への訪問医療を実践していた室生勝さん(82)。医院を閉じた後も、高齢者のための講演や相談などの活動を続けている。NEWSつくばのコラムニストでもある。
室生さんは自己健康管理法や病院の種類と役割、かかりつけ医の見つけ方などを分かりやすく説いた。また、疾患を持ち医療を受ける側も、病気の治療や生活の質を向上させるための知識を得ることが必要だと話した。患者の心得として勧めたのが「健康手帳」。血圧の数値と体調の変化を記載し、受診時に持参すれば診断に役立つと述べた。
講話を聞いた古谷とよ子さん(70)は「相性の良い医師をかかりつけ医にという話があったが、私よりパソコンの画面を見ている医者が多くて決められず、切実な問題。暮らしに直結した医療や介護の話をまた聞きたい」と話していた。
文化部部長の中村栄子さん(69)は「医療は聞きなれない専門用語が付きものですが、1人も退席することなく最後まで真剣に聞いてくれた。関心が高いことが分かったので医療や介護に関する行事を続けていきたい」と語った。