【コラム・坂本栄】今年もいろいろなことを取り上げてきました。最終回はつくば市の総合運動公園用地跡処理問題を話題にします。五十嵐さんを市長に押し上げる強力なテコになった運動公園問題。今では五十嵐市政迷走のシンボルになっています。因果な話です。

用途限定・一括・民間売却

市長5年目の五十嵐さん、このほど用地跡処理の最終案(?)をまとめました、市民の反応を踏まえ、この案に沿った形で「GO !」を出したいようです。その概要と意見聴取の手続きについては、記事「…運動公園用地を一括民間売却へ … 防災拠点は大幅縮小」(11月11日掲載)、同「売却の目安は68億5000万円…」(12月1日掲載)をご覧ください。

ポイントは、事業提案による土地の利用を「工業団地」「物流倉庫」など4分野に絞り、民間にまとめて売却し、敷地内に防災倉庫と防災広場をつくってもらい、それを市が借り上げる―というものです。入札に際しては、用地取得額+借入金利息=68.5億円を念頭に置いてほしいと言っています。

この処理案については様々な声が聞こえてきます。市が保有し続けてスポーツ施設などに活用すべきだ、学園都市らしく研究機関用に残すべきだ―など民間売却に反対する意見。工業団地や物流倉庫は周囲の雰囲気になじまない―など利用形態への異議。市は売り払って財政難対策の足しにしたいと言っているが本当か―など売却の理屈に対する疑問。

反対、異議、疑問はありますが、この「用途限定・一括・民間売却+賃借防災倉庫」案は五十嵐さんの勝負玉と言えるでしょう。

「成功」に潜む「不調」のタネ

五十嵐さんは運動公園問題を上手に利用しました。前市長が立てた計画(UR都市再生機構から買った土地に陸上競技場+総合体育館+サッカー・ラグビー場を整備)に反対する市民運動を盛り上げ、住民投票で計画を葬ったこと。そして、「運動公園問題の完全解決」を目玉公約に掲げ、市長選挙で勝利したこと。大成功です。

ところが、市長就任後は問題解決に苦労しています。主公約の柱「用地返還交渉」は不調に。その後「民間売却」案を示したものの、価格面で市民に反対され頓挫(とんざ)。代わりにまとめた「3分の1・市有防災施設+3分の2・民間売却」も引っ込め、現案を公表。大不調・迷走です。どうしてこんなことになったのでしょうか?

成功の中に不調・迷走のタネが潜んでいたからです。前市長の運動公園計画を撤回に追い込んだことで、自前の計画に陸上競技場などを組み込むのが政治的に難しくなりました。結果、用地利用の選択肢が狭められ、民間売却案の周りをグルグル回っています。成功の高揚感からか、「用地返還」を主公約にしたものの、売買契約上無理とわかり、対UR交渉は失敗に終わりました。結果、公約の信頼性が失われました。(経済ジャーナリスト)

<参考> 総合運動公園用地問題・市民説明会(12月10日、同12日)全記録