【コラム・奥井登美子】急に暑くなる日が多い。汗をかくと、後で、背中が異常なほどかゆくなる。そのかゆさたるや、表現できない。我慢の限界を超えたかゆさなのだ。
若いころ、「顔はまずいけれどオッパイの形だけはいいね」と亭主に褒められて、好い気になり、ブラジャーの形、色、飾りに凝って、たくさんのブラと付き合ってきた。しかし、老人になったら、いつの間にか自慢の乳房が垂れ下がってきた。今度はひもの太いブラを探して、垂れ下がったオッパイを肩に食い込ませて引き揚げなければならない。
急に暑くなって汗をかくと、そのブラが身体に食い込んでかゆい。いろいろ試しにやってみたあげく、かゆくなるのはブラの飾りひもの合成繊維が原因だと、気が付いた。木綿だけで作ったブラジャーを探したが、見つけられなかった。東京に住んでいる次女に話をしたら、どこかで見つけて買ってきてくれた。しばらく、夏の間だけ娘のくれた木綿のブラを愛用していた。
しかし、ここ2~3年、天気予報で熱中症の注意などがある日、急に暑くなると、背中が異様にヒリヒリしてかゆくなる。もうブラどころではない。私は垂れ下がったオッパイの、3人の子供を育てた長い歴史をしのびながら、ブラジャーを卒業することにした。
生活の中の年齢改革
こういう時、皮膚科の医者を受診すると、飲み薬の抗アレルギー薬と、ステロイドの入った軟膏(なんこう)を処方箋に書いて出してくれるに違いない。私も薬剤師だから薬に頼ってみるのもいいかもしれないが、しかし、薬で一時的に治ったとしても、皮膚炎はまた起こる可能性が大きい。
若いころ、「ツラの皮の厚さ」を誇っていたのに、老人になってみたらツラノカワまでが薄くなってしまって、ファンデーションがうまく乗ってくれない。年齢になってみないとわからない、皮膚のトラブルとの付き合い方を生活の中で身につけるよりほかない。
私はブラをやめて、木綿のシャツを一番下に着てみた。汗をたちどころに吸ってくれるような気がする。半日着て、シャツの襟をなめてみたら、飛び上がるほどショッパイ。それだけ沢山の汗を吸い取ってくれていたのだ。シャツを取り替えるだけで、皮膚はかゆくならない、ヒリヒリ痛くもならない。
1日2回取り替える木綿のシャツ。汗取りだけが目的の下着なのだから、装飾のない白の半袖で充分だ。衣料品店を探してみると、男性用木綿シャツはたくさん売っているのに、女性用は少ししかない。仕方がない。私は男性用の白い木綿シャツを何枚も買ってきて使っている。
生活の中の年齢改革。なるべく薬に頼らないで、根気よく工夫していくしかない。(随筆家、薬剤師)