つくば市在住の画家、上渕翔さんの個展「紡がれる物語」が16日から、つくば市千現、二の宮公園前にあるギャラリーネオ/センシュウで始まる。日本書紀や万葉集、グリム童話、マザーグースなど、世界各地の物語から着想を得た新作を含む絵画作品約30点を展示する。会場には移動式のスロープが用意され、必要に応じて設置される。「つくばで開いている絵画教室の生徒や知人に、日常的に車いすを利用している人たちがいる。つくばでの個展開催は4年ぶり。ぜひ、多くの方に足を運んでいただき、私が受け継いだ物語を、作品を通じて見た方に伝えられたら」と、来場を呼びかける。
展示のタイトルにもなる作品「紡がれる物語」は、濃紺のマントを羽織ったうつむく女性を木製の板に描いた作品だ。開いたマントの内側には、雲から落ちる雨、雲間に浮かぶ満月、その上空に舞う3羽のツバメが描かれている。この作品は、江戸時代に活躍した石の収集家で鉱物学者・木内石亭による、日本で最初の石の専門書「雲根志(うんこんし)」からヒントを得た。木内が同書に記した石の一つに、羽を開いたツバメに似た「石燕(いしつばめ)」という二枚貝の化石がある。当時の人々はこの石を、ツバメが石になったものと考えた。雷風雨に打たれるとツバメとなって空を飛び、雨が乾くと再び石に戻ると信じたという。石燕は、安産のお守りとしても利用されていたことから、女性を表す満月と共に、雨とツバメを描き込んだ。

「三匹のこねこ、てぶくろなくして」は、イギリスに古くから伝わる童謡「マザーグース」の一つをもとにした作品だ。手袋をなくして怒られた三匹の猫が、見つけたごほうびにパイを食べる話で、回転する木製の歯車に描くことで、リズミカルに展開する物語を表現した。
中央に金箔の帯をあしらった「終わりから生まれる」は、古事記や日本書紀に記される、食物の起源に関する神話をモチーフに描いた。神話では、命を落とした女神の亡きがらから、稲やヒエ、蚕、小豆、牛馬など、人の暮らしに不可欠な食べ物が生まれる話が記されている。その他に、土砂崩れの原因を、地中に潜んだ法螺貝(ほらがい)によるものだとする伝説「法螺抜け」をもとにした「貝が夜空の夢をみる」、かつてあった信仰の場所を木々が覆う「眠る島」などが展示される。
スロープ設置、気軽に声をかけて
「作物の起源を記した神話は、アジアやアメリカ大陸などにもあることが知られている。さまざまな物語を読んで感じるのが、東も西も人は同じ感覚を持っているということ。当時の人が、なぜそう考え、信じたのか興味がある」と上渕さん。「昔の人の想像力を、絵という形でアウトプットした。私が受け継いだものを、見た方にも受け継いでもらえたらいいと思っている。いろいろな物語を絵に込めている。毎日在廊する予定。是非、説明させていただきたい」と述べ、「会場には、移動式のスロープがある。車いすの方だけでなく、ベビーカーの方や足の弱い方にも必要なもの。すぐに取り付けられるので、気軽に声をかけてほしい」と話す。
熊本県出身の上渕さんは、2007年に筑波大学芸術専門学群洋画コースを卒業。現在は、つくばを拠点に個展の開催や、全国各地で開かれる合同作品展への参加を通じて作品を発表している。2021年には水戸市備前町の常陽史料館で、木製の板や丸太などに描いた58作品を展示する個展を開いた。(柴田大輔)
◆上渕翔個展「紡がれる物語」は16日(金)~6月1日(日)、つくば市千現1-23-4-101、ギャリーネオ/センシュウで開催。開館は金・土・日曜のみ(月~木は休館)。開館時間は正午から午後7時まで。入場無料。問い合わせはギャラリーネオ/センシュウのメール(sen.jotarotomoda@gmail.com)へ。