火曜日, 10月 7, 2025
ホームコラム吉井・元水俣市長が死去 水俣病患者に謝罪《邑から日本を見る》161

吉井・元水俣市長が死去 水俣病患者に謝罪《邑から日本を見る》161

【コラム・先﨑千尋】古くからの友人・知人が相次いで亡くなっている。今度の訃報は水俣市長だった吉井正澄さん。5月31日に92歳で亡くなった。5月1日、水俣病犠牲者慰霊式の後の伊藤信太郎環境大臣と水俣病患者らの懇談で、被害者側の発言時間が予定時間を超えたとして環境省の担当者がマイクの音を切り、SNSで大炎上しているときに重なった。

吉井さんは、水俣市では山間部に住み、自民党の政治家として市議会議長などを歴任した後の1994年に市長に就任した。

そして、同年5月の水俣病慰霊式で「いわれなき中傷、偏見、差別を受けた犠牲者に対し、市当局が十分な対策を取り得なかったことを申し訳なく思う」と述べ、水俣市長として初めて患者と被害者に公式に謝罪した。その後も水俣病問題に真正面から取り組み、村山富市首相らと会談を重ね、政治解決に奔走した。

元気だったころの吉井さん(左)

吉井さんからは、水俣病を発生させたチッソや被害者たちと離れた所に住み、直接関わりがなかったのでできた仕事だった、と後で聞いた。

また、経済と環境の調和のとれたまちづくりを目指す「環境モデル都市づくり」、「新しい水俣づくり」に全力を傾注し、水俣病のために疲弊、分断された市民の融和を図り、絆を取り戻す「もやい直し」運動を始めた。

2000年5月には同市で環境自治体会議の「水俣会議」が開かれ、全国から集まった自治体関係者や市民、研究者、学生などが、同市の「ごみ高度化分別収集」、市役所、学校、家庭の「環境ISO」、エコショップや環境マイスター制度、環境水俣賞などの取り組みを学んだ。茨城県からも村上達也東海村長(当時)などが参加した。

私はこの会議の分科会の一つ「環境自治体づくりの先進事例に学ぶ」で司会を務めたが、報告者の一人である柳川義郎・岐阜県御嵩町長が町内の産廃処理場を巡って暴力団に襲われ、瀕死の重傷を負った後だったので、岐阜・熊本県警のものものしい警備の中で分科会が開かれたことが今も記憶に鮮明に残っている。

行政のトップが代われば街も変わる

私は、この会議以前から水俣病患者が生産した甘夏などを購入していたので水俣には度々訪れているが、吉井さんが市長になってからは、行くたびに、同市は変化している、進化しているという印象を受けた。行政のトップが代われば、その地域の住民も街も変わるのだ。

吉井さんが2017年に出された『じゃなかしゃば 新しい水俣』(藤原書店)の出版記念会には村上達也さんと一緒に参加したが、この会には多くの水俣病患者たちも出席していて、吉井さんとの絆の強さを知った。

一昨年5月、私は家族旅行の際に吉井さんの自宅に寄り、思い出話に花を咲かせることができたが、その時も、まだトラクターに乗り、田畑を耕していると聞いて驚いた。

吉井さんは文を書くのも達者。『離礁:水俣病対策に取り組んで』、『奈落の舞台回し』、『気がついたらトップランナー』などの著作がある。米寿を過ぎてからも『小さな蛮勇』と題するエッセイを書きつづり、私たちに送ってきてくれていた。最後は今年の正月。その軽妙洒脱(しゃだつ)な文を読みながら、吉井さんとの出逢いを振り返っている。

ありがとう、そしてさようなら吉井さん。(元瓜連町長)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

乳幼児も楽しめる舞台芸術 つくばでイタリア劇団が公演

19日 カピオ 乳幼児も楽しめる舞台作品をつくり続けるイタリアの劇団「ラ・バラッカ」の公演が19日、つくばカピオホール(同市竹園)で開かれる。演目は、多様な家族の姿をユーモアを交えて観客に問いかける「ファミリエ」(上演時間40分)。午前は0歳から2歳、午後は3歳以上を対象とした2部制で上演される。 主催するのは、桜の植樹や芸術活動を通じてイタリアとの文化交流を進める「日伊桜の会」(沢辺満智子代表)。同劇団によるつくばでの公演は昨年に続き2回目となる。 魔法のような時間 「以前は、小さな子どもが本当に演劇を楽しめるのか疑問もあった」と、主催団体理事の多田亮彦さん(46)は言う。 多田さんが初めてラ・バラッカの舞台を見たのは2019年。会の代表である妻の沢辺さんと、劇団の拠点であるイタリア・ボローニャ市を訪問した時だった。 ラ・バラッカは1976年、ボローニャで創設された劇団で、子どもを対象とした作品を50年近くつくり続けている。特に乳幼児向けの演劇分野で世界的に高い評価を得る。現在は地元自治体と協力し、教育現場に演劇を取り入れ、まちの中に劇場を整備するなど、日常的に子どもが演劇に触れる環境づくりを進めている。 多田さんらが劇場を訪ねて目にしたのが、演劇に夢中になる子どもたちと、子どもが手で触れられそうな距離で、全身を使って物語を表現する俳優たちだった。 「俳優の表情や仕草だけで十分伝わっていて、子どもたちの反応を引き出す魔法のような、幸せな時間だった。これを日本の子どもたちにも見せてあげたい」と感じた。 ボローニャは、世界最大の児童書の見本市が開かれることでも知られている。沢辺さんは現在、つくばで子ども向け書籍の出版会社を経営する。多田さんらの当初の訪問目的は、児童書の見本市を訪ねることだった。同時に、同市で活動するラ・バラッカを知り、「日伊桜の会」が進める文化交流・創造事業への関心から劇団を訪ねたのが、劇団との出会いのきっかけとなった。 昨年つくばで上演されたのは、突然いなくなった仲良くしていた野良猫を、マンションの上下階の住民が一緒に探す物語。セリフはなく、体の動きや表情の変化で思いを伝える。 2歳以下の子どもたちは保護者と一緒に舞台上に座り、手が届きそうな距離で役者の動きを目の当たりにする。俳優は、子どもたちとアイコンタクトを取り表情を見ながら、ときに手を差し伸べつつ、物語を表現する。観客も物語の中に引きずり込まれるような感覚を味わえる。年齢を超えて誰もが演劇を楽しめる仕掛けがあるという。 「あれは何だろう、これは何だろうと、子どもたちの好奇心が喚起され、本当に芸術を楽しんでいるのが伝わってきた」と多田さん。来場した保護者からも「自分の子どもがこんなに集中して見るなんて思わなかった」「小さな子どもでも演劇が分かると気づいた」などの感想が寄せられた。 「人を生き返らせる力がある」 ラ・バラッカの演劇は、決して鑑賞者を子ども扱いしないのが特徴だと多田さんは言う。「大人が思い描く子ども像に合わせてつくられていない。作品を通じて作り手が『私はこう思うけど、あなたはどう思う?』と問いかけるような、平等な関係がそこにある。だから、大人も見て感じることがあるのだと思う」「演劇には、人を生き返らせる力がある。芸術は子どもだけでなく、大人たちにとっても生活に必要なものだと思う」と語る。 今後について「つくばで舞台芸術を子どもたちに提供していきたい。みんながそういう機会に触れられるように頑張っていきたいし、つくば市で一緒に取り組みを進めていけたら」と思いを述べる。(柴田大輔) 二つのワークショップ開催 ◆「つくば世界こどもシアター2025 劇団ラ・バラッカ『ファミリエ』」は、10月19日(日)、つくば市竹園1-10-1 つくばカピオホールで開催。公演時間は、0歳から2歳までは午前10時30分から、上演時間は各40分。3歳以上は午後2時30分から。入場料は大人3000円、17歳以下1500円。 ◆16~18日に二つのワークショップを開催する。①18歳以上を対象にしたワークショップを16日(木)と17日(金)いずれも午後4時から、つくば市吾妻1-10-1 つくばセンタービル・コリドイオ3階大会議室で開催する。参加費は2日間通しで5000円(学生2500円)②親子を対象とした演劇ワークショップを18日(土)午後2時30分から、つくばカピオ2階リハーサル室で開催する。参加費は3500円(親子2人分)。いずれも事前申し込み制。詳細はイベント公式サイトへ。劇団が訪日する10月中に市内の小学校や保育園での上演も企画している。

戦後80年 あるババアの繰り言《ハチドリ暮らし》54

【コラム・山口京子】 腹が減る 家は焼かれる 傷を負う 臭い汚い 痛い苦しい餓死という戦死があった帰って来ない兄さんの遺骨はどこでどうしているのか 原子爆弾が投下された生きものがそんな殺されかたをしていいはずがない人がそんな死にかたをしていいはずがない 1945年 日本敗戦戦勝国によって裁かれ アメリカの思惑で戦犯が返り咲く政治の中枢は連綿と 命の重さは今も赤紙一枚のほどか 1956年 もはや戦後でない アメリカンライフに憧れる楽になること きれいに暮らすこと 物が増えること忍び寄っていたコインの裏側は何だったのか もっと もっと もっと もっと もっと もっと無制限に 無責任に作り 無責任に使い 無責任に捨てる正気の沙汰でないことが どんどん積み上がる マネーとパワーで化粧された言葉や数字たち化粧を落としたら 一体どんな言葉や数字が現れるのか肝心なことが表に出なく わけが分からなくなる 自分よりも自分を知っているデータが集められるそして 人であることがなぎ倒されるこれが普通になった罪深さ (消費生活アドバイザー)

豪華!土浦花火弁当 7店が13種 販売開始 地元食材ふんだんに

11月1日開催の第94回土浦全国花火競技大会で販売される「土浦花火弁当」が6日、同市役所でお披露目された。土浦名産のレンコン、霞ケ浦のシラウオ、県産の常陸牛など地元の食材をふんだんに使い、趣向を凝らした各店オリジナルの弁当だ。今年は土浦とかすみがうら市の飲食店6店と土浦飲食店組合など7事業者が13種類を販売する。 弁当は、花火を打ち上げる筒をイメージした3段重ねの容器に入れられ、花火がデザインされた外箱を広げると、三つの容器を並べて食べられるようになっている。価格は2000円から7940円(消費税込)。今年も昨年と同じ1200個の注文を目指す。 中止の昨年「たくさんの応援いただいた」 昨年は前日に大会中止が発表され、各店は対応に追われた。市内の飲食店などでつくる土浦名物弁当事業者部会の嶋田玲子部会長は「昨年は残念ながら中止となったが、予約された方がキャンセルせずに購入してくれたり、市民が『大変だ』と心配してお店に直接電話してくれたりして、だいたい完売し、何とかなった。SNSを見て予約以上に購入があった店もあり、たくさんの応援の気持ちをいただいた」と振り返り、今年の花火弁当について「土浦のレンコン、霞ケ浦のつくだ煮など地元食材を生かした花火弁当を通して土浦をPRしたい」と話した。 土浦市食のまちづくり検討委員会の堀越雄二委員長は、今年100周年を迎える大会の歴史に触れ「気合を入れて、力を入れて、おいしい、見栄えのあるお弁当を作った。(各店は)大会に何らかの価値を付け、土浦の観光に協力したいという気持ちで参加している」などと話した。 安藤真理子市長らも花火弁当をPRした。安藤市長は「土浦の花火に行くと、こんな素晴らしいお弁当を食べられることを知っていただきたい」とし、土浦商工会議所の中川喜久治会頭は「料理をつくる人たちの腕で地域の素晴らしさを発信していただき、今年の大会を成功させて、次の百年に向けて地域のPRを頑張りたい」などと語った。 今年販売されるのは▽土浦の老舗料亭「霞月楼」(同市中央)による会席料理のエッセンスを凝縮した花火弁当や、8分ほどで炊き立ての温度になる具だくさん釜めし弁当。 ▽弁当・ケータリング・会食の「さくらガーデン」(同市宍塚)による常陸牛のローストやレンコンの天ぷら、うなぎのひつまぶしなど地元の名物を取り入れた花火弁当と、ステーキ重。 ▽「鮨の旦兵衛」(大和町)による季節の食材や茨城の食材をふんだんに使ったちらし寿司など和食中心の花火弁当と、常陸牛をぜいたくに使い自家製の野菜の香りだれで香ばしく焼き上げた常陸牛香味焼き重。 ▽無農薬野菜や無添加食材のオーガニック料理「ダイニングムーン№385(ミヤコ)」(同市川口)によるタコライス、ハイローラーがメーンの地元野菜をふんだんに使った花火弁当と、タコライス弁当。 ▽創業109年の小松屋(土浦市大和町)による霞ケ浦のつくだ煮とうなぎを使用した国産うなぎ牛肉弁当と花火弁当うな丼、土浦名物づくし弁当。土浦名物づくり弁当はすでに予約完売という。 ほかに、▽天然うなぎ専門うなぎ村(かすみがうら市安食)が、霞ケ浦の天然うなぎやシラウオ、土浦のレンコンや新栗を使用した三段花火筒弁当を販売。▽土浦飲食店組合の福来軒(土浦市中央)が中華花火弁当を販売する。 ◆土浦花火弁当は予約受付中。詳細は土浦市観光協会のホームページへ。注文は同ホームページから各店へ。当日の弁当引き渡し場所が変更になり、今年は土浦市田中3-4-5になる。詳しくは電話029-824-2810(同市観光協会)へ。

つくばアルボラーダ 世界大会出場へ 3人制バスケ

11日から中国 杭州 つくば市を拠点に活動する3人制バスケットボール、3X3(スリー・エックス・スリー)男子の「つくばアルボラーダ」が11〜12日に中国・杭州で開催される国際大会「FIBA 3x3 ワールドツアー」(国際バスケットボール連盟主催)に出場する。世界大会の出場権を賭けた「3x3グランプリつくば2025」が9月6日つくばカピオで開催され、つくばアルボラーダが優勝し出場権を得た。 つくばアルボラーダは、アウトサイドからの攻撃を得意とし、戦術の遂行力が高いことが特徴。選手はU-18日本代表候補になった藤原叶夢(とむ)選手、中学生時代からチームに所属する増崎雄大選手、筑波大医学部出身で医療関係の仕事をしながらプレーする八幡原礼音選手、筑波大出身で教員の資格を持つ喜入大地選手などがいる。中国での戦いについて「格上のチームが相手なので苦戦が続くと思うが、自分たちの戦術がどれだけ続くか挑戦していきたい」と意気込みを語る。 筑波大出身者が設立 チームを運営する一般社団法人アルボラーダ(中祖嘉人代表)は、筑波大学体育専門学群出身でプロバスケットボールチームのアシスタントコーチを務めていた中祖さん(44)と、筑波大バスケットボール部選手だった吉村拓さん(39)が、選手の育成や普及を目指し2012年に設立した。 チームは男子トップチームの「つくばアルボラーダ」のほか、女子トップの「モーリスラクロア」、U-18男子、U-15男子と女子、U-12男子と女子があり、小中学生を対象としたスクールを開くなどの活動を続けている。現在、小学生から社会人まで約150人が所属する。 これまで男女とも日本代表選手を輩出している。谷田部地区出身の小澤峻選手はU-15時代からアルボラーダに所属し、アジアの男子得点王になった。現在はプロバスケットボールB3リーグの「しながわシティ」に所属する。女子の鶴見彩選手は埼玉県出身、5人制バスケの社会人チーム日立ハイテクで活躍し、現在女子トップチームのモーリスラクロアに所属する。 「筑波山麓秋祭り」に協力 理事の吉村拓さん(39)は「今まで育成に力をいれてきたが、バスケットに夢中で、地域のことをあまり知らなかった。地域あってこそのチームなので、これからは地域を応援しながら認知度を上げていきたい」と話す。 手始めに10月下旬から始まる「筑波山麓秋祭り」に協力する。きっかけは、女子チーム「モーリスラクロア」が出場する女子の国内プロリーグが11月1日、同市北条の筑波総合体育館で開催することが決定したこと。同時期に山麓秋祭りが開催されることを知り、コラボ出来ないか検討した。秋祭りは、山麓のさまざまな場所で広範囲に開催されることから、アルボラーダが地区ごとに動画を撮影して秋祭りのPRに協力することになった。吉村さんはさらに月1回開催される秋祭りの打ち合わせ会議にも出席、地元と協力関係が芽生えている。(榎田智司)