火曜日, 10月 7, 2025
ホームコラム加藤彌進彦翁逝く 内原の地で完治の志を継いで《邑から日本を見る》159

加藤彌進彦翁逝く 内原の地で完治の志を継いで《邑から日本を見る》159

【コラム・先﨑千尋】茨城県水戸市内原町にある日本農業実践学園名誉学園長の加藤彌進彦(やすひこ)翁が、3月末に亡くなった。享年102。翁は、満蒙開拓に深く関わり、生涯を農村青少年教育に捧(ささ)げた加藤完治の3男として、1921(大正10)年、山形県に生まれた。

加藤彌進彦翁

北海道大学農学部を卒業後、妻の実家の栃木県山前村(現真岡市)で農業に従事し、同村農協監事として農協再建に奔走した。52年、父完治が戦後に入植した福島県西郷村(現白河市)の白河報徳開拓地に移り、開拓農協の組合長に就任した。組合長として、道路網の整備、飲料水の確保、電気の導入など農業以前の諸問題の解決に努力し、農業面では酪農経営を柱とした。

58年に、ヨーロッパで農業実習をしたいという夢がかない、国際農友会から派欧農業実習生としてスイスに派遣された。配属された農家は首都ベルン市近郊にあり、酪農と畑作の混合経営。1年半、厳しい自然条件の中で、牧草刈りなど汗まみれになって働いた。

スイスは、2度の世界大戦に翻弄され、その苦い経験から、国民が必要とする食糧は国内で作るという方針を国是としてきた。「農産物価格は農家の生産費を補償する」ことになっており、山岳地帯の農業に対しては手厚い配慮がなされた。アルプスの景観は、国からの農家への直接補償がもたらしたものだ。

翁の長男で現日本農業実践学園理事長の達人さんは「スイスでの体験は父彌進彦の人生の土台になっている。農業に打ち込む生き方はこの時期に定まった」と語る。翁は「スイスは第2の故郷」と書き残している。

帰国後も翁は乳価の引き上げや東京への送乳など酪農組合の諸問題の解決に奔走し、白河の地に骨を埋める気持ちでいた。県議への出馬を要請されるなど、政治の世界への関心も持っていた。

戦後の農協運営や農村青年教育に貢献

しかし、64年春に、日本国民高等学校協会の那須皓理事長から呼ばれ、日本高等国民学校長就任を要請された。現在の実践学園は、当時は日本高等国民学校という名称だった。その後、日本実践大学校になり、91年に現在の校名になった。協会はその運営母体だ。翁は「校長だった80歳の父・完治にこれ以上の苦労はかけられない」という思いもあって、同年9月に校長に就任し、93年まで務めた。校長退任後も、95歳になるまで学生の指導に当たった。

就任に際して、校長自ら学生とともに農業の実践に取り組むこと、学校の経営基盤を確立すること、職員の待遇改善を図ることの3つを自らの任務とした。達人さんによれば、初代完治は立派な農民を育てる教育者であり、農業はカネもうけのためにあるのではないと考えていた。学校経営のことは考えずに、ひたすら教育のみ。学校経営の支援は、元農林大臣の石黒忠篤、財界の渋沢栄一らが担っていた。しかし、それらの人々が世を去り、支援は期待できなくなっていた。

翁が校長に就任して取り組んだのは、学校施設の農場中央への移転、酪農部の新設、栄養士養成課程の創設、外国人研修生の受け入れ、水田の改良と職員住宅の改善など多岐にわたる。初代の時には国からの補助金は入れてこなかったが、翁は積極的に農林省に働きかけ、施設の建設費や人件費に補助金を得ることができた。民間の支援が得られなくなったからでもある。同校の卒業生は累計で約6000人。全国の農村で活躍している。

戦後の農協運営や農村青年教育に深く関わってきた翁の逝去は、一つの時代が終わったことを私に知らせてくれた。今後は、バトンを受け継いだ次の世代が新しい農の未来を開いていってくれることを願うばかりだ。(元瓜連町長)

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