日曜日, 5月 5, 2024
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異星人と犬 《短いおはなし》15

【ノベル・伊東葎花】
若い女が、ベンチで水を飲んでいる。
傍らには、やや大きめの犬がいる。
「犬の散歩」という行為の途中で、のどを潤しているのだ。
なかなかの美人だ。身なりもいい。服もシューズも高級品だ。
彼女に決めるか。いやしかし、犬が気になる。
動物は敏感だ。余計なことを感じ取ってしまうかもしれない。

私は、遠い星から来た。今はまだ体を持たない。水のような流体だ。
ターゲットを探している。性別はどちらでもいいが、女の方に興味がある。
すっと入り込み脳を支配して、地球人に成りすますのだ。
そして我々の星にとって有益なデータを持ち帰ることが目的だ。
誰でもいいわけではない。容姿は重要。生活水準も高い方がいい。
あの女は、大企業に勤めている。申し分ない。
犬さえいなければ。

私には時間がない。地球時間で5時間以内に入り込まないと、気体になって宇宙に戻ってしまうのだ。
意を決して、女に近づいた。耳の穴から入り込む。一瞬で終わる。
一気に飛び込もうとジャンプした私の前に、犬が突然現れて大きくほえた。

しまった。犬の中に入ってしまった。

「ジョン、急にほえてどうしたの?」
女が、私の頭をなでている。どうしたものか。
地球人については学習してきたが、犬についてはまったくの無知だ。
逃げようと思ったが、首からひも状のものでつながれている。
とりあえず、犬になりきって様子を見よう。そしてチャンスを狙って女の方に移るのだ。
立ち上がって歩き出した私を見て、女が目を丸くした。
「ジョン、2足歩行が出来るの? すごいわ。ちょっと待って、動画撮るから」
しまった。犬は4本足だった。

それから私は「人間みたいな犬」として、ユーチューバー犬になった。
ソファーでテレビを見たり、フォークを使って食事をするところをネットでさらされた。
想定外だが、女と同じベッドで寝られることだけは、まあよかった。
女は優しくて、いつも私をなでてくれた。
「いい子ね」と褒めてくれた。
女が眠っている間に、犬の体から女の体に移動することは易しい。
しかし女の無防備な寝顔を見ると、なぜか躊躇(ちゅうちょ)してしまうのだ。

ある日、散歩中に女子高生と目が合った。
彼女は「かわいい」と言いながら近づいて、私の耳元でささやいた。
「地球時間0:25に集合よ。帰還命令がきたわ」
仲間だった。

女が眠るのを待って、犬の体からそっと抜け出した。
最後に女の顔を見る。美しい。天使のようだ。
ありがとう。有益なデータは手に入らなかったが、地球の女の美しさを十分に伝えよう。

そのとき、急に犬がほえた。
女がぱちりと目を開けて、私を見た。しまった。正体を見られたか。

「ジョン、こんなところでオシッコしないでよ。バカ犬!」

あっ、私、液体だった…。(作家)

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