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世界のつくばで子守唄の旅 《映画探偵団》63

【コラム・冠木新市】『木枯し紋次郎』は、マカロニウェスタンに刺激を受けた作家、笹沢左保が1971年に股旅(またたび)小説として発表。翌1972年、アメリカのニューシネマ調の股旅時代劇を構想中だった映画監督、市川崑によって映像化され、フジレビで放映が始まった。 

峠道を三度笠(さんどがさ)姿の旅人が、画面奥から黙々とこちらに向かって歩いてくる。フォ一ク調の主題歌「だれかが風の中で」が流れ、旅暮らしの日々が短く挿入されるタイトルバック。それまでの股旅時代劇を一変する演出に、多くの視聴者がくぎ付けになった。

つくばセンタービルは間もなく40周年を迎える。ラテン語で新星を意味するノバホ一ルと、水の広場との関係が新生児(赤ちゃん)を象徴していると考え、『世界のつくばで子守唄/海のシルクロード・ツアー 2023』というコンサートを企画した。

①インド②スリランカ③バングラディシュ④ミャンマー⑤タイ⑥マレーシア⑦シンガポール⑧ベトナム⑨中国⑩香港⑪台湾⑫日本(沖縄)⑬筑波(つくば筑波山麓)には、インドの金色姫が継母の迫害にあい、うつろ舟に乗り筑波に流れついて、養蚕を伝えた伝説が残されている。

金色姫の航海ルート、海のシルクロード地域の子守唄を現地の言葉で歌ったら、世界とつくばを結ぶのにふさわしい企画かと思えた。

外国人と一般市民との交流の場がない

140カ国、約1万人の外国人がつくばで暮らしている。多角的に活動している実行委員が集まれば、歌い手はすぐ見つかるだろうと思ったが、それが間違いだと気付かされた。世界のつくばだから、外国人と交流しているグループがあると思ったが、これもはずれだった。

結局、歌い手探しの旅が始まる。ツテをたどって実行委員と1人ずつ当たるしか方法はなかつた。

つくばの森にあるインターナショナルスクールの先生。下妻市の外国人支援組織の代表。日本に帰化したタイ人が経営するお店。筑波大学出身者を中心にしたスリランカ人が集うお正月まつり。野口雨情の歌を愛する中国人のカフェマスターなどなど。

そうした人たちとの出会いを重ねるうちに、つくば市には外国人と一般市民との交流の場がほとんどないことを知った。つくばに住んで30年。私はもっと交流があるものだと勝手に思いこんでいた。実行委員の1人は、外国人の「いっぱい知っているから紹介してあげるよ」との言葉から、何度もカレーを食べに行ったが、結果にはつながらなかった。

外国人に会いに出かけるときには、『木枯し紋次郎』の主題歌が思い起こされた。「どこかで だれかが きっと 待って いて くれる」「きっと おまえは 風の中で 待って いる」

初めは、紋次郎になった気分でいたが、今では、つくばに暮らす外国人が、金色姫であり、紋次郎だと思えるようになった。私は歌い手よりも、金色姫と紋次郎を探していたのかもしれない。歌い手はあと一地域残すのみとなった。サイコドン ハ トコヤンサノセ。(脚本家)

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