
【橋立多美】NEWSつくばのコラムニストの一人、先崎千尋さんが1月に出版した書籍『邑(むら)から日本を見る』は、『筑波の友』で知られた「STEP」(つくば市松代)が発行所になっている。創業した竹島茂さんが他界し、2016年12月に会社を廃業したが、妻の由美子さんが装丁と発行を引き受けた。
出版業界から退いたことで書店へ出版物を流通することはできなくなった。同書は限定800部の自費出版で流通ルートに乗せる必要のないことから、校閲などを通して親交のあった先崎さんからの依頼に応えた。
同書は、暮らしに直結した事柄を題材に、40年間自らの考えや情報収集を交えて元常陽新聞に連載した記事やコラムをまとめてある。増え続ける遊休農地と農村の過疎化、後継者問題など、農政の在り方をしぶとく「おかしい」と表明し続けている。
由美子さんは「巻頭を飾った元美浦村長市川紀行さんの贈る歌、前東海村長村上達也さんの序文に、先崎さんとの共通点が読み取れて興味深い」と語る。
「STEP」は科学万博開催の1985年、東京生まれの速記者・竹島茂さんが創業した地域出版社。翌年には月刊誌『筑波の友』を発刊。研究学園都市として変貌する自然環境や人々の営み、まち、歴史を切り取り、多くの問題を提起した。一方、筑波山や霞ケ浦に関する書籍の出版やこの地に住む人々が著した本の刊行にも尽力した。地域のオピニオン誌を目指した『筑波の友』は03年6月発行の201号を最後に休刊となり、12年8月に竹島さんが他界した。廃業後は在庫のある同社出版物の注文に応じている。
「STEPが稼働したころは研究者や芸術家、営農者たちが集う異業種交流会が盛んで、生きざまに感銘を受ける人たちとの出会いがあった。新天地を求めてつくばに来た竹島にとって良い巡り合わせだったと思う。あれから30年余り経ち、住宅地とマンションの無味乾燥なまちになってしまった」と振り返る。そして「編集を介して知りあったり廃業を惜しんで下さる人たちとの縁は続いている。竹島は社会との繋がりという遺産を残してくれた」と由美子さんは語った。