1人の健康寿命を1年延ばすためには、追加でいくら必要になるかを、慢性腎臓病(CKD)重症化予防から明らかにした研究が24日、筑波大学(つくば市天王台)から発表された。慢性腎臓病が進行すると必要になる透析療法には1人当たり年間約500万円の医療費がかかり、社会的な負担も大きい。そこで、かかりつけ医と専門医が連携し、患者への生活食事指導を普及させることで、社会全体で支払う追加の費用は1人当たり年間14万5593円に抑えられることが分かった。
発表は筑波大学と新潟大学の連名。研究代表者は筑波大学医学医療系の大久保麗子助教、近藤正英教授が務めた。同医学医療系の山縣邦弘教授らによって2006年から行われてきた慢性腎臓病重症化予防のための戦略研究(FROM-J研究)を引き継ぐ研究という。
1人年間500万円が15万円弱に
慢性腎臓病は、たんぱく尿の存在や腎臓の機能低下などが3カ月以上続く状態を指す。慢性腎臓病が進行すると末期腎不全や心血管疾患の危険因子となるとされる。透析療法が始まると、一生続ける必要があり、これに要する医療費(1人当たり約500万円)は、社会的にも負担となっている。このためFROM-J研究では、かかりつけ医、腎臓専門医、コメディカル(看護師、栄養士など医師以外の医療従事者)の協力による医療システムの有効性、有用性を検証してきた。
今回、研究グループは生活食事指導を取り入れた経済モデルを構築した。かかりつけ医と腎臓専門医の診療連携を強化する「介入」を行った場合の費用と効果を分析した。ここでの「介入」は、慢性腎臓病患者に対する生活指導、服薬指導、食事指導、受診促進の全てを含めた生活食事指導のことを指す。
その結果、生活食事指導による介入の増分費用は年間1万6164円、その費用効果比は質調整生存年(QALY※メモ参照)当たり14万5593円と評価された。これが国民1人の健康寿命を1年延ばすために追加的に社会全体で支払う費用と見積もられる。日本の評価基準の閾値(しきいち)となっている500万円(1人当たりの透析医療費と同じ額)と比較すると、極めて小さい値が算出された形だ。
国内に約1300万人と推計される慢性腎臓病患者を腎専門医だけで管理、加療することは不可能。社会負担の軽減には、腎臓を専門としないかかりつけ医、看護師、栄養士からなるチーム医療で、対応していく必要があるとした。研究グループは、この介入を普及させるためには、受診勧奨を含めた生活食事指導に関する診療報酬の改定や、CKD診療ガイドラインへの追加などが重要と考えている。
【※メモ質調整生存年】(QALY:Quality-Adjusted Life-Year) 生存年数を生活の質(クオリティーオブライフ)の値で重み付けしたもの。完全な健康状態は「1」、死亡状態は「0」、病気や障害がある状態のときには「0と1の間の値」で表現する。完全な健康状態で生存する1年間の寿命の価値が1QALY となる。