月曜日, 6月 30, 2025
ホームコラム《続・平熱日記》75 画家の目「老眼思考」

《続・平熱日記》75 画家の目「老眼思考」

【コラム・斉藤裕之】自分の絵が掛かっている以外何もないギャラリーでじっとしているのは正直耐えられない。しかし有難いことに、このギャラリーはカフェに併設されている。いつものカウンター席でコーヒーを飲みながら客人を待つことができる。

平熱日記展も終盤にさしかかったころ、「若い女性がいらしてますよ」とオーナーに耳打ちされた。はて、若い女性に知り合いはいない。なにせ、日ごろ付き合う女性はおおむね16歳以下か50歳以上なのだから。それでも、もしかしたら知り合いかもしれないと声をかけてみた。

やはりはじめてお目にかかる。聞けば、ご自身は日本画をお描きになるそうで、私の絵はネットで知ったとか。ほぼ娘と同じ年ごろで、電車に乗ってやってきたとのこと。絵についてご質問を受けたが、「肩の力が抜けていてとてもいいですね」と褒められた。「はあ、なにせ平熱日記というぐらいですから…」。

時を同じくして、もうひとりの女性が入ってきた。知り合いの絵描きさんだ。私が小さな絵を描くからだろうか、最近目が悪くなったという話になった。

「私なんかほぼぼんやりした世界で暮らしていますが、それはそれでいいと思っているんですよ」。事実、老眼のせいで新聞以外の文字は読まなくなったし、視力も多分衰えているので、若いころのように鮮明な世界にはいない。だから、たまに老眼鏡でテレビの画面に目をやると、映っている人の歯茎さえも鮮明に見えてドキッとしてしまう。

だが、実は見える世界だけではなく色んなことがぼんやりしていて、世間が私から遠ざかっていくようだ。

例えばテレビの中の人の名前もわからない。新聞の広告チラシもわが身にほとんど関係ない。野球やサッカーの勝敗も気にならないし、はやりの歌も右から左へ流れていく。実はそれが妙に心地よい。「老荘思想」ではないが、私の「老眼思考」である。

あっけらかんとした絵

私の故郷の絵描きさんで松田正平という人がいる。山口県の瀬戸内海に住まわれて、周防灘をテーマに絵を描かれ、ずいぶんと長生きをされた。お目にかかったことはなかったが、それこそ、これ以上力の抜けた絵を描く人がいるだろうかと思うほど達観した絵を描かれる。

あるとき、大学の尊敬する先生が松田正平さんの絵を褒められたのを覚えていて、私もいつかこのぐらいあっけらかんとした絵を描きたいと思ったことがある。

絵はある意味で、画家の眼を通した世界であるともいえる。その世界観を共有できたとき、つまりそれがリアリティというものだ。

「また発表されることがありましたらご案内ください」。そう言って若い女性は出て行った。「もちろんです」。われながら弾んだ声で答えてしまった。マスクをしていたということもあって、すでに彼女の顔はぼんやりとしか覚えていないが…。(画家)

➡NEWSつくばが取材活動を継続するためには皆様のご支援が必要です。NEWSつくばの賛助会員になって活動を支援してください。詳しくはこちら

コメントをメールに通知
次のコメントを通知:
guest
最近NEWSつくばのコメント欄が荒れていると指摘を受けます。NEWSつくばはプライバシーポリシーで基準を明示した上で、誹謗中傷によって個人の名誉を侵害したり、営業を妨害したり、差別を助長する投稿を削除して参りました。
今回、削除機能をより強化するため、誹謗中傷等を繰り返した投稿者に対しては、NEWSつくばにコメントを投稿できないようにします。さらにコメント欄が荒れるのを防ぐため、1つの記事に投稿できる回数を1人3回までに制限します。ご協力をお願いします。

NEWSつくばは誹謗中傷等を防ぐためコメント投稿を1記事当たり3回までに制限して参りましたが、2月1日から新たに「認定コメンテーター」制度を創設し、登録者を募集します。認定コメンテーターには氏名と顔写真を表示してコメントしていただき、投稿の回数制限は設けません。希望者は氏名、住所を記載し、顔写真を添付の上、info@newstsukuba.jp宛て登録をお願いします。

0 Comments
フィードバック
すべてのコメントを見る
スポンサー
一誠商事
tlc
sekisho




spot_img

最近のコメント

最新記事

歯科口腔外科の仕事とは?《メディカル知恵袋》11

【コラム 寺田和浩】歯科口腔外科という名称はあまりなじみがないかもしれませんが、口腔、顎、顔面、これらの周囲の疾患に対する治療を行う診療科です。埋伏歯(親知らず)、過剰歯などの抜歯、顎の骨折や歯の脱臼などの外傷による口腔外科疾患に対する治療を中心に、全身疾患を有する方の歯科治療も行っています。 また近年では、がん治療中や周術期(手術前後)の口腔内トラブルの治療や予防を行い、安心・安全に治療が継続できるよう病院内での口腔ケアを担当しています。 私たちの対象疾患 より具体的には、以下のような治療を担当しています。 ・親知らずなどの抜歯・外傷(顎の骨折、歯の脱臼など)・炎症(顎骨炎、歯性感染症など)・口腔粘膜疾患(口内炎、白板症、扁平苔癬=へんぺいたいせん=など)・顎関節疾患(顎関節症、顎関節脱臼)・唾液(だえき)腺疾患(唾石症、顎下腺・舌下腺・小唾液腺にできる疾患)・のう胞(顎骨内や口腔内にできるのう胞)・口腔腫瘍(口腔領域に発生する良性・悪性腫瘍)・周術期口腔機能管理(周術期の口腔内トラブルの治療や予防) 周術期口腔機能管理 周術期における口腔の状況・環境により引き起こされる合併症やトラブルを予防し、がんなどの治療を滞りなく進めていくことを目的とし、かかりつけ歯科医院と連携しながら口腔機能管理を行います。 周術期の口腔機能管理の意義(図1)として、口腔内の細菌数減少による誤嚥性肺炎予防や薬剤性口腔粘膜炎の症状緩和、むし歯や歯周炎などの口腔内感染源除去による歯性感染および血行性感染の減少、自然脱落の可能性がある動揺歯を一時的に固定することによる誤飲の予防などがあります。 大事な口腔ケア 口の中には400~700種類の細菌が住んでいます。普段はあまり悪いことをしませんが、食後などは細菌がねばねばした物質を作り出し歯の表面にくっつきます。これを歯垢(プラーク)と言います。歯垢1ミリグラムの中に約10億個の細菌が住み着いていると言われていて、歯周病やむし歯の原因になると言われています。 また、口腔は「ごはんを食べる」だけではなく、喋るなど大切な役割を持っています。近年、誤嚥性肺炎(図2)の発症と口腔衛生状態との関連が示唆されるようになってから注目されるようになり、現在では肺炎の予防、ADL(日常生活動作)、QOL(生活の質)の向上に重要であると認識されています。 口腔ケアの具体例としては、検診、口腔清掃、義歯の手入れ、咀嚼・摂食・嚥下のリハビリ、歯肉や頬のマッサージ、口臭の改善、口腔乾燥症予防などがあり、セルフケアと専門的な口腔ケアで成り立っています。 口腔ケアは日常自分で行うセルフケアが非常に重要になります。しかし、セルフケアでは落ちきらない汚れもあるので、定期的に歯科医院で専門的な口腔ケアを行ってもらうのがお勧めです。 口の中に違和感があったら相談を 口の中を清潔に保つことは、いろいろなメリットがあります。かかりつけ歯科をつくって定期的に受診するようにしましょう。 筑波メディカルセンター病院の歯科口腔外科では、入院中や通院中の患者さんに対して周術期口腔機能管理、口腔ケア、応急的な歯科治療を実施しています。特に、当院は地域におけるがん診療の拠点病院であり、がん化学療法や放射線治療に伴う口内炎などの口腔トラブルに対応しています。口の中に不安や違和感がありましたらお気軽にご相談ください。(筑波メディカルセンター病院 歯科口腔外科)

200種のハス 開花始まる 土浦 霞ケ浦総合公園

霞ケ浦湖岸の土浦市大岩田、霞ケ浦総合公園の花蓮(はなはす)園で、白やピンク、淡い黄色などたくさんの品種のハスが開き始めた。約200品種のハスが栽培されている。見頃は7月中旬ごろという。 花蓮園の広さは約1000平方メートル。コンクリートで仕切られた池が80区画、たる容器が240個設置されている。 6月中旬から咲き始めた。花は早朝に開き、昼前には閉じてしまう。一つの花の開花期間も約4日と短い。開き始めたハスを見ようと、28日も朝早くからカメラを手にした人や家族連れが訪れていた。 花蓮園が開園したのは2001年。近くのオランダ風車で霞ケ浦の水をろ過し、花蓮の栽培に利用している。土浦市内で育種された品種など、花蓮園でしか見られないハスもある。 日立市から訪れた60代の女性は「ハスが咲いている時期に初めて来た。冬に来たときは何もなくて、本当にここに花が咲くのかなと思っていた。小さくてかわいいハスや立派なハスも咲いていて本当にきれい」と話していた。 隣接のネイチャーセンターのスタッフは「ハスの花が咲き始めている。満開になるのは7月中旬。お昼には花が閉じてしまうので、午前中にぜひ見にいらしてください」と来場を呼び掛けている。(伊藤悦子)

夏の汗には木綿の下着《くずかごの唄》150

【コラム・奥井登美子】急に暑くなる日が多い。汗をかくと、後で、背中が異常なほどかゆくなる。そのかゆさたるや、表現できない。我慢の限界を超えたかゆさなのだ。 若いころ、「顔はまずいけれどオッパイの形だけはいいね」と亭主に褒められて、好い気になり、ブラジャーの形、色、飾りに凝って、たくさんのブラと付き合ってきた。しかし、老人になったら、いつの間にか自慢の乳房が垂れ下がってきた。今度はひもの太いブラを探して、垂れ下がったオッパイを肩に食い込ませて引き揚げなければならない。 急に暑くなって汗をかくと、そのブラが身体に食い込んでかゆい。いろいろ試しにやってみたあげく、かゆくなるのはブラの飾りひもの合成繊維が原因だと、気が付いた。木綿だけで作ったブラジャーを探したが、見つけられなかった。東京に住んでいる次女に話をしたら、どこかで見つけて買ってきてくれた。しばらく、夏の間だけ娘のくれた木綿のブラを愛用していた。 しかし、ここ2~3年、天気予報で熱中症の注意などがある日、急に暑くなると、背中が異様にヒリヒリしてかゆくなる。もうブラどころではない。私は垂れ下がったオッパイの、3人の子供を育てた長い歴史をしのびながら、ブラジャーを卒業することにした。 生活の中の年齢改革 こういう時、皮膚科の医者を受診すると、飲み薬の抗アレルギー薬と、ステロイドの入った軟膏(なんこう)を処方箋に書いて出してくれるに違いない。私も薬剤師だから薬に頼ってみるのもいいかもしれないが、しかし、薬で一時的に治ったとしても、皮膚炎はまた起こる可能性が大きい。 若いころ、「ツラの皮の厚さ」を誇っていたのに、老人になってみたらツラノカワまでが薄くなってしまって、ファンデーションがうまく乗ってくれない。年齢になってみないとわからない、皮膚のトラブルとの付き合い方を生活の中で身につけるよりほかない。 私はブラをやめて、木綿のシャツを一番下に着てみた。汗をたちどころに吸ってくれるような気がする。半日着て、シャツの襟をなめてみたら、飛び上がるほどショッパイ。それだけ沢山の汗を吸い取ってくれていたのだ。シャツを取り替えるだけで、皮膚はかゆくならない、ヒリヒリ痛くもならない。 1日2回取り替える木綿のシャツ。汗取りだけが目的の下着なのだから、装飾のない白の半袖で充分だ。衣料品店を探してみると、男性用木綿シャツはたくさん売っているのに、女性用は少ししかない。仕方がない。私は男性用の白い木綿シャツを何枚も買ってきて使っている。 生活の中の年齢改革。なるべく薬に頼らないで、根気よく工夫していくしかない。(随筆家、薬剤師)

ジェンダーバランス改善目指す 女性限定、教員20人募集 筑波大

筑波大学(つくば市天王台)の永田恭介学長は26日の定例会見で、女性に限定し20人の教員を募集すると発表した。同大の女性教員の割合は現在20.7%。女性の割合が少ない状況の改善を目指し、男女雇用機会均等法に基づく「ポジティブ‧アクション」(積極的是正措置)として取り組む。 永田学長は「(女性教員が)まだ少ない。50対50にするには時間がかかるが、思い切って女性の雇用を増やそうと考えた。筑波大として女性に限らず、多様な人材が活躍することが大学のさらなる発展になる」と話した。 20人のうち14人は准教授と助教で、学内全ての研究分野を対象に一括で募集を行う。大学のホームページで11日に公表しており、7月31日まで募集を受け付ける。ほかの6人は生存ダイナミクス研究センター、生命環境系ですでに募集が始まっている。人文社会系、数理物質系、システム情報系、体育系はそれぞれ準備が整い次第、募集を始める。 これまでに出産や育児、介護、病気などを理由に研究活動が中断されたり、遅延した期間がある場合には、選考の際。考慮するとしている。 同大では女性教員の仕事との両立支援として、年間最大15万円の研究費助成、学内保育所「ゆりのき保育所」の利用、ベビーシッター利用料補助、学内の育児・休憩スペースの設置、家族の看護や介護などに対する特別休暇制度を用意している。同大の全教員数は現在1777人、そのうち女性教員は368人。(柴田大輔)